同位体標識トラッピング作用物および反応性代謝物の同定方法
本発明は、同位体標識されたトラッピング作用物(trapping agent)、反応性代謝物を検出する方法および薬物候補物を同定する方法に対向される。より具体的には、同位体標識トラッピング作用物および反応性代謝物の検出方法は、両、「ハード(hard)」および「ソフト(soft)」反応性代謝物を検出し、それによって擬陽性物(false positives)を除去するために使用されてもよい。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願に対するクロス・リファレンス
本出願は、2006年9月29日提出の米国暫定出願第60/827,526号からの優先権を請求するものであり、この内容は完全に引用によって本明細書に組み入れられている。
【0002】
本発明は、同位体標識されたトラッピング作用物(trapping agent)、反応性代謝物を検出する方法および薬物候補物を同定する方法に対向される。より具体的には、同位体標識トラッピング作用物および反応性代謝物の検出方法は、両、「ハード(hard)」および「ソフト(soft)」反応性代謝物を検出し、それによって擬陽性物(false positives)を除去するために使用されてもよい。
【背景技術】
【0003】
患者の罹病率と死亡率の1因、特異体質性薬物毒性は、臨床学的薬物開発および販売後の両方において重大な安全関心事のまま留まる。これらの特異体質性薬物反応は、使用の制限、そしてさらに市場からの撤退へと導くことがあり、これらは、結果的に製薬工業に対してより高い開発費用をもたらす。例えば、トログリタゾン(troglitazone)、ベノキサプロフェン(benoxaprofen)およびゾメピラク(zomepirac)は、許容しえない毒性プロフィルのためにそれらの発売後短期に市場から撤退された。
【0004】
特異体質性薬物反応は、通常、高度の個々の感受性において示す稀な事象である。さらに、通常、これらの反応は用量依存的ではない。現在、ヒトにおいて独占的に起きるそのような反応を評価するために使用できる動物モデルは存在しない。したがって、特異体質性薬物毒性は前臨床研究では効果的に評価することはできず、そしてしばしば臨床試験においては注目されない。
【0005】
現時点では、特異体質性薬物反応のメカニズムは十分に理解されていない。化学反応性の代謝物が特異体質性毒性、特に肝臓毒性に関与していることを示唆する相当量の証拠が存在する。特異体質性毒性に関連するすべての薬物は、チトクロームP450酵素(CYP)によって、ならびにペルオキシダーゼ、シクロオキシゲナーゼおよびミエロペルオキシダーゼのような他の酸化酵素によって顕著に媒介される種々の代謝経路を介して反応性代謝物を生成する。そのような毒性に関連する薬物は最初に代謝的活性化を受けて、細胞タンパク質に共有結合する毒性の反応性代謝的を生成するという仮説が立てられた。これらの共有的に修飾されたタンパク質は免疫原性であり、その結果、免疫応答を惹起して特異体質性薬物反応をもたらす。もう1つの仮説は、反応性代謝物による細胞タンパク質の共有的修飾は、信号伝達カスケードと細胞の生活機能を損なって、臨床上観察される重篤な結果をもたらすことを述べている。かくして、反応性代謝物の同定方法についてのニーズが残されている。
【0006】
化学反応性代謝物は、それらの化学的特性に基づいて2つのカテゴリー−「ソフト」および「ハード」反応性代謝物に分類することができる。「ソフト」反応性代謝物は、キノン、キノンイミン、イミノキノンメチド(methide)、エポキシド、アレーンオキシドおよびニトレニウム(nitrenium)イオンを含む多数の求電子代謝物を含み、そしてシステインにおけるスルフヒドリル基のような「ソフト」求電子基(electrophiles)と容易に反応する。これに対して、「ハード」反応性代謝物は、もっとも普通にはアルデヒドとして見られ、リジン、アルギニンおよび核酸のアミンのような
「ハード」求電子基と優先的に反応する。それらの不安定性のために、反応性代謝物の直接検出および特性決定は極端に困難であることが明らかになっている。通常利用されるアプローチは、捕捉分子により反応性代謝物をトラップして、安定な付加物の形成をもたらし、続いて、これが既知の検出方法、例えばタンデム質量分析によって特性決定されることである。
【0007】
近年、特許文献1においてAvery,Michael,J.は、反応性代謝物を生成する試験化合物を同定するための高処理スクリーニング法を開示した。この方法は、グルタチオンの存在下でミクロソームの薬物代謝酵素系とともに試験化合物をインキュベートし、そしてそれから形成されるグルタチオン付加物をタンデム質量分析を使用して検出することを含む。
【0008】
しかしながら、この方法は、質量分光法による検出における普通の応答結果として形成される反応性代謝物ならびに非反応性成分(反応混合液の両、無反応性代謝物および成分の両方を含む)を同定して、擬陽性物をもたらすであろう。
【0009】
Yanらは、特許文献2において、安定な同位体トラッピングおよび質量分光法を使用して反応性代謝物を同定する方法を開示している。しかしながら、Yanらにより開示された方法は、「ソフト」代謝物のみを検出するが、両、「ハード」および「ソフト」反応性代謝物を同時には検出しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】欧州特許第1,150,120号
【特許文献2】米国特許公開第2005 0287623 A1号
【発明の概要】
【0011】
本発明は、反応性代謝物を同定するための同位体標識トラッピング作用物、また6−アミノ−2−[2−(4−アミノ−4−カルボキシ−ブチリルアミノ)−3−メルカプト−プロピオニルアミノ]−ヘキサン酸として既知の、式(I)の化合物
【0012】
【化1】
【0013】
[式中、星印の基における炭素、窒素、酸素、硫黄および/または置換不可能な水素原子の1個以上が同位体標識されている]
に対向される。
【0014】
本発明は、さらに、
(a)式(I)の化合物
【0015】
【化2】
【0016】
および/または式(I)の同位体標識化合物
【0017】
【化3】
【0018】
[式中、星印の基における炭素、窒素、酸素、硫黄および/または置換不可能な水素原子の1個以上が同位体標識されている]を、
試験化合物および薬物代謝酵素とともにインキュベートして、1種以上の付加物を含む生成物混合物を生成し;そして
(b)既知の方法および/または本明細書に記述される方法にしたがって、例えばニュートラルロス(neutral loss)質量分光法によって該1種以上の付加物を検出する;
ことを含む、反応性代謝物を同定する方法に対向される。
【0019】
本発明は、さらに、
(a)式(I)の化合物
【0020】
【化4】
【0021】
式(I)の同位体標識化合物
【0022】
【化5】
【0023】
[式中、星印の基における炭素、窒素、酸素、硫黄または置換不可能な水素原子の1個以上が同位体標識されている]
および薬物代謝酵素を含む混合物とともに試験化合物をインキュベートして、1種以上の付加物を含む生成物混合物を生成し;
(b)段階(a)において生成された1種以上の付加物のニュートラルロス質量スペクトルにおいて1個以上の同位体二重線を検出し、ここで、二重線は、式(I)の化合物と式(I)の同位体標識化合物との間の質量における差異だけ質量において異なる;
ことを含む、試験化合物の反応性代謝物を検出する方法に対向される。
【0024】
本発明は、さらに、式(I)の化合物および式(I)の同位体標識化合物[式中、星印の基における炭素、窒素、酸素、硫黄または置換不可能な水素原子の1個以上が同位体標識されている]の混合物を使用して、反応性代謝物(両、「ソフト」および/または「ハード」反応性代謝物を含む)を同定する方法に対向される。
【0025】
本発明は、さらに、
(a)式(I)の非同位体標識化合物
【0026】
【化6】
【0027】
式(I)の同位体標識化合物
【0028】
【化7】
【0029】
[式中、星印の基における炭素、窒素、酸素、硫黄および/または置換不可能な水素原子の1個以上が同位体標識されている]
および薬物代謝酵素を含む混合物とともに試験化合物をインキュベートして、1種以上の付加物を含む生成物混合物を生成し;
(b)段階(a)において生成された1種以上の付加物のニュートラルロス質量スペクトルを測定し;そして
(c)段階(b)のニュートラルロス質量スペクトルにおける1種以上の同位体二重線を検出し、ここで、同位体二重線は、式(I)の非同位体標識化合物と式(I)の同位体標識化合物との間の質量における差異だけ質量において異なる;
ことを含む、試験化合物の反応性代謝物を検出する方法に対向される。
【0030】
本発明は、さらに、(a)反応性代謝物と式(I)の非同位体標識化合物の共有結合複合体、および(b)反応性代謝物と式(I)の同位体標識化合物の共有結合複合体を含む混合物に対向される。
【0031】
本発明は、さらに、
(a)式(I)の非同位体標識化合物
【0032】
【化8】
【0033】
式(I)の同位体標識化合物
【0034】
【化9】
【0035】
[式中、星印の基における炭素、窒素、酸素、硫黄および/または置換不可能な水素原子の1個以上が同位体標識されている]
および薬物代謝酵素とともに試験化合物をインキュベートして、生成物混合物を生成し;(b)段階(a)において生成された生成物混合物のニュートラルロス質量スペクトルを測定し;そして
(c)段階(b)のニュートラルロス質量スペクトルにおける同位体二重線(ここで、同位体二重線は、式(I)の非同位体標識化合物と式(I)の同位体標識化合物との間の質量における差異だけ質量において異なる)の不在を検出する;
ことを含む、薬物候補物を同定する方法に対向される。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1A】ジクロフェナク(diclofenac)についての129Daのニュートラルロス走査の総イオンクロマトグラムを図示している。
【図1B】ジクロフェナクから得られた付加物Iのニュートラルロスタンデム質量スペクトルを図示している。
【図1C】ジクロフェナクから得られた付加物IIのニュートラルロスタンデム質量スペクトルを図示している。
【図2A】クロザピン(clozapine)についての129Daのニュートラルロス走査の総イオンクロマトグラムを図示している。
【図2B】クロザピンから得られた付加物Iのニュートラルロスタンデム質量スペクトルを図示している。
【図3A】p−クレゾールについての129Daのニュートラルロス走査の総イオンクロマトグラムを図示している。
【図3B】p−クレゾールから得られた付加物Iのニュートラルロスタンデム質量スペクトルを図示している。
【図3C】p−クレゾールから得られた付加物IIのニュートラルロスタンデム質量スペクトルを図示している。
【図4A】オメプラゾール(omeprazole)についての129Daのニュートラルロス走査の総イオンクロマトグラムを図示している。
【図4B】オメプラゾールから得られた付加物Iのニュートラルロスタンデム質量スペクトルを図示している。
【図5A】フランについての129Daのニュートラルロス走査の総イオンクロマトグラムを図示している。
【図5B】フランから得られた付加物Iのニュートラルロスタンデム質量スペクトルを図示している。
【図6A】2−メチルフランについての129Daのニュートラルロス走査の総イオンクロマトグラムを図示している。
【図6B】2−メチルフランから得られた異性付加物のNLタンデム質量スペクトル。
【図7A】メントフランについての129Daのニュートラルロス走査の総イオンクロマトグラムを図示している。
【図7B】メントフランから得られた付加物Iのニュートラルロスタンデム質量スペクトルを図示している。
【図8A】2−[2−チエニル]−フランについての129Daのニュートラルロス走査の総イオンクロマトグラムを図示している。
【図8B】2−[2−チエニル]−フランから得られた付加物Iのニュートラルロスタンデム質量スペクトルを図示している。
【図8C】2−[2−チエニル]−フランから得られた付加物IIのニュートラルロスタンデム質量スペクトルを図示している。
【図8D】2−[2−チエニル]−フランから得られた付加物IIIのニュートラルロスタンデム質量スペクトルを図示している。
【発明を実施するための形態】
【0037】
発明の詳細な記述
本発明は、トラッピング作用物が反応性代謝物に結合することができる、同位体標識トラッピング作用物、また6−アミノ−2−[2−(4−アミノ−4−カルボキシ−ブチリルアミノ)−3−メルカプト−プロピオニルアミノ]−ヘキサン酸として既知の、式(I)の化合物
【0038】
【化10】
【0039】
[式中、星印の基における炭素、窒素、酸素、硫黄および/または置換不可能な水素原子の1個以上が、好ましくは1個以上の13C,15N,18O,2Hおよび/または34S同位体により同位体標識されている]
に対向される。
【0040】
本明細書で使用されるように、別に記されない限り、用語「置換不可能な水素」は、水溶液中で置換しないすべての水素原子を意味する。式(I)の化合物では、同位体標識されてもよい置換不可能な水素原子は、下記の構造において矢印によって指定される。
【0041】
【化11】
【0042】
式(I)の化合物は、2個の「トラッピングゾーン(trapping zone)」を有し、これらは、個々に「ハード」および「ソフト」反応性代謝物をトラップする。より具体的には、式(I)の化合物におけるスルフヒドリル(−SH)基は、いわゆる「ソフト」反応性代謝物と反応し、そしてトラップするが、式(I)の化合物における−(CH2)4−NH2基は、いわゆる「ハード」反応性代謝物と反応し、そしてトラップする。したがって、式(I)の化合物および式(I)の同位体標識化合物は、同時に両「ハー
ド」および「ソフト」反応性代謝物をトラップすることができる。これはまた、図によって以下に示される。
【0043】
【化12】
【0044】
本明細書で使用されるように、別に記されない限り、用語「反応性代謝物」は、「ソフト」および「ハード」反応性代謝物を含むであろう。
【0045】
本明細書で使用されるように、別に記されない限り、用語「ソフト代謝物」は、システインにおけるスルフヒドリルおよび式(I)の化合物における−SH基のような「ソフト」求電子基と容易に反応する少なくとも1種の置換基を含むすべての求電子代謝物を意味する。そのような置換基の適当な例は、限定されるものではないがキノン、キノンイミン、イミノキノン、メチド、エポキシド、アレーンオキシド、ニトレニウムイオンなどを含む。
【0046】
本明細書で使用されるように、別に記されない限り、用語「ハード代謝物」は、リジン、アルギニンまたは式(I)の化合物の−(CH2)4−NH2基のアミンのような「ハード」求電子基と容易に反応する少なくとも1種の置換基を含む求電子代謝物を意味する。そのような置換基の適当な例は、限定されるものではないがアルデヒドなどを含む。
【0047】
反応性代謝物は、試験化合物に関連する多くの有害事象、特に重大かつ/または毒性有害事象に関与しているので、試験化合物によって生成されるすべての反応性代謝物を検出できることが高く望まれる。さらに、試験化合物がヒトに対する試験化合物の投与前に、反応性代謝物を生成するか否かを決定することが高く望まれる。
【0048】
当業者は、必ずしもすべての試験化合物が反応性代謝物を生成するものではなく、そし
てさらにすべての試験化合物が両「ソフト」および「ハード」反応性代謝物を生成するものではないことを認識できる。若干の試験化合物は反応性代謝物を生成せず、若干の試験化合物はハード反応性代謝物のみを生成し、若干の試験化合物はソフト反応性代謝物を生成し、そして若干の試験化合物は、両ハードおよびソフト反応性代謝物を生成できる。したがって、本発明のトラッピング作用物および方法は、試験化合物によって生成されるいかなる種類の反応性代謝物をも検出できる。
【0049】
さらに当業者は、本発明の方法が反応性代謝物を同定することに対向されつつ、また、試験化合物が反応性代謝物を生成するか否かを決定する方法を含むことを認識できる。ある実施態様では、本発明は、薬物候補物(例えば、反応性代謝物を生成しない試験化合物)を同定する方法に対向される。かくして、本発明の方法は、インキュベーション(本明細書でより詳細に記述されるような)が反応性代謝物と、したがって付加物をもたらさず、そして質量スペクトルが二重線を示さず、それによって試験化合物がいかなる検出可能な反応性代謝物をも生成しないことを指示する方法を含む。
【0050】
「ソフト」代謝物については、グルタチオン、次の化学構造
【0051】
【化13】
【0052】
の化合物は、「ソフト」反応性代謝物を検出するためにミクロソームインキュベーションにおいて使用されるもっとも普通のトラッピング作用物である。しかしながら、「ハード」反応性代謝物では、グルタチオンは、その低いトラッピング効率のために適当なトラッピング作用物ではない。むしろ、「ハード」反応性代謝物を検出するためには、替わりのトラッピング作用物、例えばセミカルバジド、メトキシルアミンおよびα−アセチリシン(α−acetyllisine)が使用される。このことは、両「ハード」および「ソフト」反応性代謝物の検出のために、異なるトラッピング作用物による2つの別個の実験を必要とする。これに対して、式(I)の化合物、式(I)の同位体標識化合物および/または式(I)の非同位体標識化合物と式(I)の同位体標識化合物の混合物は、単一の実験において両「ソフト」および「ハード」反応性代謝物を検出するために使用することができる。
【0053】
本明細書で使用されるように、別に記されない限り、用語「式(I)の同位体標識化合物」は、少なくとも1個の同位体、例えば、13C,15N,18O,2H,3H,34Sなどにより標識されている式(I)の化合物を意味する。好ましくは、同位体は、13C,15N,18Oまたは2Hである。式(I)の同位体標識化合物の適当な例は、限定されるものではないが、そのシステインにおいて13Cおよび/または15Nにより標識された式(I)の化合物;その両システインおよびリジン基において同位体標識された式(I)の化合物;範囲1〜28における単一または多数の位置において、好ましくは1〜10位、より好ましくは3〜8位、もっとも好ましくは8位において標識された式(I)の化合物;などを含む。好ましくは、式(I)の同位体標識化合物は、13C,15N,18Oおよび2Hからなる群から選ばれる少なくとも1個の同位体によって標識される。より好ましくは、式(I)の同位体標識化合物は2個の15Nおよび6個の13C同位体によって標識される。
【0054】
ある実施態様では、式(I)の同位体標識化合物は、以下に示される化学構造(I−IS)において指示されるように同位体標識されている。
【0055】
【化14】
【0056】
本明細書で使用されるように、別に記されない限り、用語「薬物代謝酵素」は、試験化合物を代謝することができるヒトまたは動物組織由来の、好ましくはヒト組織由来の、より好ましくはヒト肝臓組織由来のすべての酵素またはその混合物を意味する。(参照、例えば、Drug Metabolizing Enzymes,Edited by Jae S.Lee,R.Scott Obach and Michael B.Fisher,Marcel Dekker,Inc.(2003)).適当な例は、限定されるものではないが、肝臓ミクロソーム、チトクロームP450酵素またはチトクロームP450酵素の異なるイソ型の混合物、ペルオキシダーゼ、シクロオキシゲナーゼ、ミエロペルオキシダーゼなどを含む。好ましくは、薬物代謝酵素はヒト肝臓ミクロソーム、より好ましくは、チトクロームP450酵素である。当業者は、試験化合物をチトクロームP450酵素またはチトクロームP450酵素の異なるイソ型の混合物とともにインキュベートする場合、試験化合物をチトクロームP450酵素またはチトクロームP450酵素の異なるイソ型の混合物が、NADPH補因子またはNADPH再生系と組み合わされてインキュベートされることを認識できる。
【0057】
本明細書で使用されるように、別に記されない限り、用語「試験化合物」は、反応性代謝物の形成について試験されるすべての化学物質を意味する。好ましくは、試験化合物は製薬学的作用物、またはその塩、エステルまたはプロドラッグである。
【0058】
本明細書で使用されるように、別に記されない限り、用語「薬物候補物」は、反応性代謝物を生成しないすべての化学物質または試験化合物を意味する。好ましくは、薬物候補物は製薬学的作用物、またはその塩、エステルまたはプロドラッグである。
【0059】
本明細書で使用されるように、別に記されない限り、用語「付加物」は、反応性代謝物と式(I)の同位体標識化合物または式(I)の非同位体標識化合物とのすべての共有結
合複合体を意味する。
【0060】
本明細書、特にスキームおよび実施例で使用される略語は次のとおりである:
APCI−MS/MS = 大気圧化学イオン化タンデム質量分析
CYP = チトクロームP450酵素
Da = ダルトン
ESI−MS/MS = エレクトロスプレーイオン化タンデム質量分析
HPLC = 高速液体クロマトグラフィー
MS = 質量分光(分析)法
NADPH = β−ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸
(還元型)
SPE = 固相抽出
【0061】
ある実施態様では、本発明は、星印の基の炭素、窒素、酸素、硫黄および/または置換不可能な水素原子の1個以上が、好ましくは1個以上の13C,15N,18O,2H,3Hおよび/または34S同位体により同位体標識されている式(I)の同位体標識化合物に対向される。式(I)の同位体標識化合物は、既知の方法にしたがって、例えば、同位体置換によるか、または同位体標識された試薬/出発物質を使用するペプチドカップリング合成によって製造されてもよい。(参照、例えば、Ott,Donald G.,Syntheses with Stable Isotopes of Carbon,Nitrogen,and Oxygen,(1981),Wiley,New York,N.Y;Keliher,Edmund J.;Burrel,Richard C.;Chobanian,Harry R.;Conkrite,Karina L.;Shukla,Rajesh;Baldwin,John E.;Efficient syntheses of four stable−isotope labeled(1R)−menthyl(1S,2S)−(+)−2−phenylcyclopropanecarboxylates,Organic & Biomolecular Chemistry,(2006),4(14),pp2777−2784;Schippers,Nicole;Schwack,Wolfgang,Synthesis of the 15N−labelled insecticide imidacloprid,Journal of Labelled Compounds and Radiopharceuticals,(2006),49(3),pp305−310;and Bretz,Michael;Beyer,Marita;Cramer Benedikt;Humpf,Hans−Urich,Synthesis of stable isotope labeled 3−acetyldeoxynivalenol,Molecular Nutrition & Food Research,(2005),49(12),pp1151−1153.)
ある実施態様では、本発明は式(I−IS)の同位体標識化合物に対向される。式(I−IS)の化合物は以下のスキーム1に略記されるように製造されてもよい。
【0062】
【化15】
【0063】
したがって、2−アミノ−4−(1−カルボキシ−2−メルカプト−エチルカルバモイル)−酪酸が、既知の化学(例えば、Wade,L.G.,Organic Chemistry,Forth Editions,Prentice Hall,1999,pp.136−137)にしたがって同位体標識リジンと反応されて、式(I−IS)の化合物を生成する。
【0064】
本発明は、反応性代謝物を検出するための、式(I)の化合物
【0065】
【化16】
【0066】
または式(I)の同位体標識化合物
【0067】
【化17】
【0068】
[式中、星印の基における炭素、窒素、酸素、硫黄または置換不可能な水素原子の1個以上は同位体標識されている];
または式(I)の化合物および式(I)の同位体標識化合物の混合物;
の使用に対向される。
【0069】
本発明は、さらに、同位体トラッピングおよび質量分光法を使用して反応性代謝物を検出する方法に対向され、ここで、本方法は擬陽性物を除去する。本発明は、さらに、低レベルにおける反応性代謝物を検出する高感度の方法を提供する。その上、本発明は、MSパターン認識を使用して、手動様式または完全自動様式における反応性代謝物の検出に適用されてもよい。
【0070】
本発明は、さらに、
(a)式(I)の化合物または式(I)の同位体標識化合物[式中、星印の基における炭素、窒素、酸素、硫黄および/または置換不可能な水素原子の1個以上が同位体標識されている]を、試験化合物および薬物代謝酵素とともにインキュベートして、1種以上の付加物を含む生成物混合物を生成し;そして
(b)該付加物を検出する(既知の方法にしたがって);
ことを含む、反応性代謝物を検出する方法に対向される。
【0071】
例えば、安定な同位体トラッピングなしに(例えば、式(I)の同位体標識化合物のような同位体標識トラッピング作用物の使用なしに)反応性代謝物を検出する方法は、調査走査としてニュートラルロスを使用することによってMS/MS全走査を開始できる3連の四重極質量分析計を用いる。このシステムを使用すれば、付加物のタンデムMSスペクトルが1回の実行において得ることができ、そして構造同定は、特徴的な生成物イオンを検査することによって達成できる。しかしながら、ニュートラルロスMS走査に較べて典型的にMS全走査により達成されるノイズに対するより小さいシグナル比率のために、MS全走査システムを使用して少い反応性代謝物を検出することは困難であろう。さらに、MS全走査は比較的時間と労力を集中する。
【0072】
本発明は、さらに、
(a)式(I)の非同位体標識化合物、式(I)の同位体標識化合物[式中、星印の基に
おける炭素、窒素、酸素、硫黄および/または置換不可能な水素原子の1個以上が同位体標識されている]および薬物代謝酵素を含む混合物とともに試験化合物をインキュベートして、1種以上の付加物を含む生成物混合物を生成し;そして
(b)段階(a)の付加物のニュートラルロス質量スペクトルにおいて1種以上の同位体二重線を検出し、ここで、二重線は、式(I)の非同位体標識化合物と式(I)の同位体標識化合物との間の質量における差異だけ質量において異なる;
ことを含む、試験化合物の反応性代謝物を検出する方法に対向される。
【0073】
ある実施態様では、本発明は、
(a)式(I)の化合物
【0074】
【化18】
【0075】
式(I−IS)の同位体標識化合物
【0076】
【化19】
【0077】
および薬物代謝酵素を含む混合物とともに試験化合物をインキュベートして、1種以上の付加物を含む生成物混合物を生成し;
(b)段階(a)において生成された1種以上の付加物のニュートラルロス質量スペクトルを測定し;そして
(c)段階(b)のニュートラルロス質量スペクトルにおける1種以上の同位体二重線を
検出し、ここで、同位体二重線は、質量において8Daだけ異なる;
ことを含む、試験化合物の反応性代謝物を検出する方法に対向される。
【0078】
ある実施態様では、本発明は、
(a)式(I)の非同位体標識化合物、式(I)の同位体標識化合物[式中、星印の基における炭素、窒素、酸素、硫黄および/または置換不可能な水素原子の1個以上が同位体標識されている]、および薬物代謝酵素を含む混合物とともに試験化合物をインキュベートして、1種以上の付加物を含む生成物混合物を生成し;
(b)段階(a)の1種以上の付加物を分離し(既知の方法にしたがって、好ましくは遠心分離によって);
(c)該分離された付加物のニュートラルロス質量スペクトルを測定し;
(d)該分離付加物のニュートラルロス質量スペクトルにおける1種以上の同位体二重線を検出し、ここで、二重線は、式(I)の非同位体標識化合物と式(I)の同位体標識化合物との間の質量における差異だけ質量において異なる;
ことを含む、試験化合物反応性代謝物を検出する方法に対向される。
【0079】
ある実施態様では、本発明は、
段階A:
(a)試験化合物;
(b)式(I)の化合物
【0080】
【化20】
【0081】
(c)式(I−IS)の同位体標識化合物
【0082】
【化21】
【0083】
(ここで、式(I)の化合物対式(I−IS)の化合物のモル比は約1:1である);および
(d)ヒト肝臓ミクロソーム、NADPH補因子と組み合わされたチトクロームP450酵素およびNADPH再生系と組み合わされたチトクロームP450酵素からなる群から選ばれる薬物代謝酵素;
を含む混合物をインキュベートして、
(a)非反応性代謝物;
(b)式(I)の化合物と反応性代謝物との間で形成される付加物;および
(c)式(I−IS)の同位体標識化合物と反応性代謝物との間で形成される付加物;
からなる群から選ばれる1種以上のインキュベーション生成物を含む生成物混合物を生成し;
段階B:段階(A)において生成された生成物混合物のニュートラルロス質量スペクトルを測定し;そして
段階C:段階(B)のニュートラルロス質量スペクトルにおける1種以上の同位体二重線を検出し、ここで、同位体二重線は、質量において8Daだけ異なる;
ことを含む、試験化合物の反応性代謝物を検出する方法に対向される。
【0084】
本発明のある実施態様では、式(I)の同位体標識化合物は、13C,15N,18Oおよび2Hからなる群から選ばれる少なくとも1個の同位体により標識される。本発明のその他の実施態様では、式(I)の同位体標識化合物は、1〜28個の同位体、好ましくは1〜10個の同位体により標識される。本発明のその他の実施態様では、式(I)の同位体標識化合物は、6個の13Cおよび2個の15N原子により標識される。本発明のその他の実施態様では、式(I)の同位体標識化合物は、式(I−IS)の化合物である。
【0085】
【化22】
【0086】
本発明のある実施態様では、ニュートラルロス質量スペクトルは129Daのロス(式(I)の非同位体標識または同位体標識化合物の−C(O)−CH2−CH2−CH(NH2)−CO2H部分のロスに対応する)を検出するために使用される。
【0087】
本発明のある実施態様では、同位体二重線は、APCI−MS/MS、ESI−MS/MSなど;好ましくは、ESI−MS/MSにより検出される。本発明のその他の実施態様では、ニュートラルロス質量スペクトルにおける同位体二重線は、1〜28の質量ユニット、好ましくは2〜10質量ユニット、より好ましくは8質量ユニットの質量だけ異なる。
【0088】
本発明のある実施態様では、薬物代謝酵素は、ヒト肝臓ミクロソーム、チトクロームP450酵素、ペルオキシダーゼ、シクロオキシゲナーゼおよびミエロペルオキシダーゼからなる群から選ばれる。好ましくは、薬物代謝酵素はチトクロームP450酵素である。
【0089】
ある実施態様では、本発明は、薬物代謝酵素、例えば、S9、組み換え酵素またはミクロソーム酵素を含有する細胞のすべての画分とともに試験化合物をインキュベートすることによって形成される反応性代謝物を検出するために適用される。ある実施態様では、本発明の方法は、試験化合物がヒト被験者において反応性代謝物を形成するか否か(ヒトに対する試験化合物の投与後に)を予測するために適用される。
【0090】
当業者は、略語「S9」が、ミクロソームとサイトゾルの混合物であるS9画分(ミトコンドリア後上澄液画分)を指すことを理解できる。したがって、それは、P450酵素、フラビン−モノオキシゲナーゼ、カルボキシエステラーゼ、エポキシドヒドロラーゼ、UDP−グルクロノシルトランスフェラーゼ、スルホトランスフェラーゼ、メチルトランスフェラーゼ、アセチルトランスフェラーゼ、グルタチオンS−トランスフェラーゼおよび他の薬物代謝酵素を含む広範なフェースIおよびフェースII酵素を含有する。
【0091】
本発明は、さらに、(a)反応性代謝物と式(I)の非同位体標識化合物の共有結合複合体、および(b)反応性代謝物と式(I)の同位体標識化合物[式中、星印の基における炭素、窒素、酸素、硫黄および/または置換不可能な水素原子の1個以上が同位体標識されている]の共有結合複合体を含む、混合物に対向される。
【0092】
本発明のある実施態様では、式(I)の非同位体標識化合物および式(I)の同位体標
識化合物のモル比は、約1:1〜約1:2の範囲、好ましくは約1:1〜約1:1.5の範囲、より好ましくは約1:1である。
【0093】
本発明のある実施態様では、反応性代謝物と式(I)の非同位体標識化合物の共有結合複合体、および反応性代謝物と式(I)の同位体標識化合物の共有結合複合体のモル比は、約1:1〜約1:2の範囲、好ましくは約1:1〜約1:1.5の範囲、より好ましくは約1:1である。
【0094】
本発明はさらに、反応性代謝物を検出する方法に対向される。より具体的には、本発明の方法では、試験化合物は、
(a)式(I)の非同位体標識化合物;
(b)式(I)の同位体標識化合物[式中、式(I)の同位体標識化合物は、6個の13Cおよび2個の15N原子を含有する]、ここで、式(I)の非同位体標識化合物対式(I)の同位体標識化合物のモル比は約1:1(約同じ強度を有する質量スペクトルにおける二重線を生じるために)である;および
(c)薬物代謝酵素、例えば、ヒト肝臓ミクロソーム、NADPH補因子と組み合わされたチトクロームP450酵素(CYP)(ミクロソームの、肝細胞などの、精製、組み換え体)、NADPH再生系、ペルオキシダーゼ、シクロオキシゲナーゼ、ミエロペルオキシダーゼなどと組み合わされたチトクロームP450酵素(CYP)(ミクロソームの、肝細胞などの、精製、組み換え体);好ましくはヒト肝臓ミクロソーム;
を含む混合物とともに、既知の方法にしたがってインキュベートされて、
(a)非反応性代謝物;
(b)式(I)の非同位体標識化合物と反応性代謝物との間で形成される付加物;および(c)式(I)の同位体標識化合物と反応性代謝物との間で形成される付加物;
からなる群から選ばれる1種以上のインキュベーション生成物を含む生成物混合物を生成する。
【0095】
当業者は、上記インキュベーションの結果として生成される非反応性(安定な)代謝物が、式(I)の非同位体標識化合物かまたは式(I)の同位体標識化合物のいずれかと反応せず、むしろ無変化のまま生成物混合物中に残ることを認識できる。
【0096】
好ましくは、式(I)の同位体標識化合物は、安定であるよう選ばれた1個以上の同位体により標識される。適当な同位体は、限定されるものではないが、13C,15N,2H,3H,18O,34Sなどを含む。好ましくは、同位体は、13C,15N,18Oおよび2H、より好ましくは13Cおよび15Nからなる群から選ばれる。好ましくは、式(I)の同位体標識化合物は、式(I)の非同位体標識化合物とは、1〜28質量ユニット、より好ましくは2〜10質量ユニット、もっとも好ましくは8質量ユニットだけ質量において異なる。
【0097】
インキュベーション生成物(非反応性代謝物、反応性代謝物と式(I)の非同位体標識化合物との間で形成される付加物および/または反応性代謝物と式(I)の同位体標識化合物との間で形成される付加物)の1種以上を含有する生成物混合物は、好ましくは、既知の方法により、例えば、遠心分離、SPEまたは液・液抽出によって精製および濃縮されて、生成物濃縮物を生成する。次いで、生成物濃縮物は、質量分光分析法における使用のために適当な(すなわち、質量分析計への注入のために適当な)溶媒、例えば、水中5%アセトニトリル、水中5%メタノールなどに溶解される。
【0098】
好ましくは、生成物混合物は、既知の方法により、例えば、液体クロマトグラフィー、HPLC、毛管電気泳動、または他の分離技術によって個々の付加物成分に分離される。次いで、ニュートラルロス質量スペクトルが、各付加物または付加物成分について測定さ
れる。ニュートラルロス質量スペクトルは、すべてのイオン化源を使用する、既知の方法にしたがって、例えば、APCI−MS/MS、ESI−MS/MSなど;好ましくは、ESI−MS/MSによって測定されてもよい。あるいはまた、分離および質量スペクトル測定は、LC/MSのようなループシステムなどを使用して1段階で完結されてもよい。
【0099】
反応性代謝物が試験化合物から生成され、そして存在する(式(I)の非同位体標識化合物および式(I)の同位体標識化合物との付加物として)場合、対応する質量スペクトルは、式(I)の非同位体標識化合物および式(I)の同位体標識化合物の間の質量における差異だけ、間を空けた1種以上の二重線を表すであろう。当業者は、二重線が、肉眼認識によるか、またはMSパターンを評価するコンピューターソフトウエアプログラムを使用して同定されてもよいことを認識できる。
【0100】
例として、式(I)の同位体標識化合物が、式(I−IS)の化合物におけるように、6個の13Cおよび2個の15N原子により標識され、そして式(I)の非同位体標識化合物および式(I)の同位体標識化合物が、好ましくは約1:1のモル比で存在する場合、衝突誘起解離において、両、非同位体標識および同位体標識付加物は、ピログルタメートのニュートラルロス(129Da)を受けるであろう。結果として、反応性代謝物と式(I)の非同位体標識化合物および式(I)の同位体標識化合物との間で形成された付加物の質量スペクトルは、質量において8Daだけ異なる2種の同位体分子イオンを表し、そして同位体二重線はほぼ等しい強度を示すであろう。該二重線ピークの一貫した8Daの質量差異およびほぼ等しい強度は、それによって、反応性代謝物付加物を同定できる独特なMS表示を提供するであろう。
【0101】
本発明の方法では、擬陽性物は、測定されたニュートラルロス質量スペクトルにおいて特徴的な二重線を表さないので、それらは容易に除去される。
【0102】
本発明の方法の自動化は、例えば、コンピューター補助のMSパターン認識を使用することによって達成されてもよい。例として、論理図式が、コンピューターをプログラムして反応性代謝物の自動検出を遂行するように工夫された。より具体的には、パターン認識プロセスは、次の段階:
1.m/z値についての誤差許容限度を定義し;
2.可能性のある同位体二重線についてのピーク強度比率の誤差範囲を定義し;
3.選択されたノイズ対シグナル設定により総イオンクロマトグラムにおけるクロマトグラフィーピークを決定し;
4.個々のクロマトグラフィーピークの主要な分子イオンのm/z値を検出し;
5.定義された誤差許容限度を用いて適当なダルトン数だけ質量において異なる(選択された同位体種およびナンバーに基づいて)二重線を探索し;
6.同定された二重線の強度比率を決定し;
7.付加物を同定する;
ことからなる。
【0103】
このアプローチの使用では、二重線の強度比率および質量差異はパターン認識においてもっとも決定的なパラメーターである。強度比率の誤差範囲は、式(I)の非同位体標識化合物および式(I)の同位体標識化合物の純度によって決定されるが、一方、m/z値の誤差許容限度は質量分析計の性能に依存する。
【0104】
本発明の方法は、試験化合物が、1回の実験において「ハード」および/または「ソフト」反応性代謝物を生成できるか否かを決定するために意図される。当業者は、本発明の方法が、同時に両「ハード」および「ソフト」反応性代謝物を検出できるけれども、「ハ
ード」または「ソフト」いずれかの反応性代謝物が特定の試験化合物から形成されない場合でも、本方法がいずれのタイプの反応性代謝物が形成されたかを検出できることを認識できる。その上、反応性代謝物が形成されない場合には、本方法は特徴的な二重線のない質量スペクトルを作製するので、試験化合物を薬物候補物として同定することができる。
【0105】
本発明は、さらに、
(a)式(I)の非同位体標識化合物、式(I)の同位体標識化合物[式中、星印の基における炭素、窒素、酸素、硫黄および/または置換不可能な水素原子の1個以上が同位体標識されている]、および薬物代謝酵素を含む混合物とともに試験化合物をインキュベートして、生成物混合物を生成し;
(b)段階(a)において生成された生成物混合物のニュートラルロス質量スペクトルを測定し;そして
(c)段階(b)のニュートラルロス質量スペクトルにおける同位体二重線の不在を検出する(ここで、同位体二重線は、式(I)の非同位体標識化合物と式(I)の同位体標識化合物との間の質量における差異だけ質量において異なる);
ことを含む、薬物候補物(すなわち、反応性代謝物を生成しない試験化合物)を同定する方法に対向される。
【0106】
ある実施態様では、本発明は、
(a)式(I)の非同位体標識化合物
【0107】
【化23】
【0108】
式(I−IS)の同位体標識化合物
【0109】
【化24】
【0110】
[式中、星印の基における炭素、窒素、酸素、硫黄または置換不可能な水素原子の1個以上が同位体標識されている]、
および薬物代謝酵素を含む混合物とともに試験化合物をインキュベートして、生成物混合物を生成し;
(b)段階(a)において生成された生成物混合物のニュートラルロス質量スペクトルを測定し;そして
(c)段階(b)のニュートラルロス質量スペクトルにおける同位体二重線の不在を検出する(ここで、同位体二重線は、8Daの質量における差異だけ質量において異なる);ことを含む、薬物候補物を同定する方法に対向される。
【0111】
次の実施例は、本発明の理解を補助するために記述され、そしてその後に続く請求項に記述される本発明をいかなる点においても制約することを意図せず、かつ制約するものと考えてはならない。
【実施例】
【0112】
例1−標準操作
A.インキュベーション&安定な同位体トラッピング;
本明細書に記述されるすべてのミクロソームインキュベーションは水浴中37℃において実施された。試験化合物は、1:1の等モル比で予め混合された式(I)の非同位体標識化合物と式(I−S)の同位体標識化合物を補足された50mMリン酸カリウムバッファー(pH7.4)中でヒト肝臓ミクロソーム調製物(チトクロームP450酵素調製物)と混合された。得られる混合液は37℃で5分間予め加温された。次いで、反応混合液に対して補因子−NADPH再生系−(反応を開始するために)が添加されて、1000μlの最終容量を得た。
【0113】
得られる反応混合液は、10μM試験化合物、1mg/mlのミクロソームタンパク質、式(I)の非同位体標識化合物と式(I−IS)の同位体標識化合物の1mM混合液、1.3mM NADP+、3.3mMグルコース−6−リン酸、0.4U/mlのグルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ、3.3mM塩化マグネシウムを含有した。
【0114】
60分のインキュベーション後、反応はトリクロロ酢酸(10%)の150μlの添加によって終結された。得られる混合液は10,000g 15分間、4℃において遠心されて沈降タンパク質を沈殿させ、そして上澄液が固相抽出にかけられた。あるいはまた、反応混合液は液・液抽出にかけられて上澄液から代謝物を回収した。
【0115】
B.質量分析;
MS分析は、Micromass(Manchester,UK)Quattro Micro3連四重極質量分析計において実施された。ESIイオン源は正イオン方式で作動され、そして実験パラメーターは次のように設定された:毛管電位3.2kV、イオン源温度120℃、脱溶媒和(desolvation)温度300℃、サンプルコーン(cone)電位26V。ニュートラルロス走査方式で収集される質量スペクトルは、2.0sにおいて範囲m/z400−800にわたって走査することによって得られた。
【0116】
C.LC−MS/MS分析;
反応性代謝物の完全なプロファイリングのために、サンプルは最初に、自動サンプラーを備えたAgilent 1100 HPLCシステム(Agilent Technologies,Palo Alto,CA)によるクロマトグラフィー分離にかけられ、そして溶出液は、ニュートラルロス走査方式で作動されるQuattro Micro3連四重極質量分析計に導入された。Agilent Zorbax SB C18カラム(2.1x50mm)がクロマトグラフィー分離のために使用された。初発移動相は95%水(0.5%酢酸)からなり、そして代謝物は95%水〜95%アセトニトリルの単一勾配を使用して流速0.3ml/分において7分かけて溶出された。7分時点で、カラムは、95%アセトニトリルにより2分間フラッシュされ、その後、初期条件において再平衡化された。LC−MS/MS分析は純化されたサンプルの10μl分量において実施された。データはMicromass製のMasslynxバージョン4.0ソフトウエアを使用して処理された。ポジティブピークが検出された後、続いて、MS/MSスペクトルが得られて、付加物の構造がさらに確認された。CID(Collision Induced Dissociation)スペクトルを得るために、質量分析計は多反応モニタリング(MRM)方式で操作された。
【0117】
例2−9:ソフトおよび/またはハード反応性代謝物の検出
上記の例1に略記されたような操作に続いて、本発明の方法は、既知の試験化合物、より具体的には、「ソフト」および/または「ハード」代謝物を生成することが知られている試験化合物についての反応性代謝物の検出、129Daのロスにおけるニュートラルロス質量スペクトルの走査、および対応する式(I)の非同位体標識化合物とは8Daユニットだけ異なる式(I−IS)の同位体標識化合物の使用に応用された。
【0118】
例2:ジクロフェナク
ジクロフェナクは、ソフト反応性代謝物の検出に対する本発明の方法の応用を例証するために試験化合物として選ばれた。
【0119】
ジクロフェナクの2種の反応性代謝物および対応する付加物の形成は、下記スキームE1に略記されているとおりである。以下に略記される反応において、ジクロフェナクの反応性代謝物は、−SH部分を介して式(I)の非同位体標識化合物および式(I−IS)の同位体標識化合物との付加物を形成する。明らかにするために、式(I)の非同位体標識化合物との付加物のみが以下に示される。当業者は、式(I−IS)の同位体標識化合物との付加物が、同位体標識においてのみ異なる同じ構造を有することを認識できる。
【0120】
【化25】
【0121】
図1Aは、反応混合物について得られた129Daのニュートラルロス走査の総イオンクロマトグラム(MS)を示している。数種の成分がニュートラル走査に対する正の応答を示し、そしてその成分の2種が期待される同位体二重線(8Daの質量差をもつ)を示した。付加物Iは5.9分の保持時間において溶出し、そして図1Bに示されるように、m/z688および696における特徴的な同位体二重線を表し、一方、付加物IIは5.8分の保持時間において現れ、そして図1Cに示されるように、m/z654および662Daにおける特徴的な同位体二重線を表した。
【0122】
例3:クロザピン
クロザピンは、ソフト反応性代謝物の検出に対する本発明の方法の応用を例証するために試験化合物として選ばれた。
【0123】
クロザピンの単一の反応性代謝物および対応する付加物の形成は、下記スキームE2に
略記されているとおりである。以下に略記される反応において、クロザピンの反応性代謝物は、−SH部分を介して式(I)の非同位体標識化合物および式(I−IS)の同位体標識化合物との付加物を形成する。明らかにするために、式(I)の非同位体標識化合物との付加物のみが以下に示される。当業者は、式(I−IS)の同位体標識化合物との付加物が、同位体標識においてのみ異なる同じ構造を有することを認識できる。
【0124】
【化26】
【0125】
図2Aは、反応混合物について得られた129Daのニュートラルロス走査の総イオンクロマトグラム(MS)を示している。数種の成分がニュートラル走査に対する正の応答を示すが、5.4分の保持時間における1成分のみが、図2Bに示されるように、m/z703および711Daにおける特徴的な同位体二重線を表した。
【0126】
例4:p−クレゾール
p−クレゾールは、ソフト反応性代謝物の検出に対する本発明の方法の応用を例証するために試験化合物として選ばれた。
【0127】
p−クレゾールの2種の反応性代謝物および対応する付加物の形成は、下記スキームE3に略記されているとおりである。以下に略記される反応において、p−クレゾールの反応性代謝物は、−SH部分を介して式(I)の非同位体標識化合物および式(I−IS)の同位体標識化合物との付加物を形成する。明らかにするために、式(I)の非同位体標識化合物との付加物のみが以下に示される。当業者は、式(I−IS)の同位体標識化合物との付加物が、同位体標識においてのみ異なる同じ構造を有することを認識できる。
【0128】
【化27】
【0129】
図3Aは、反応混合物について得られた129Daのニュートラルロス走査の総イオンクロマトグラム(MS)を示している。2種の成分が特徴的な同位体二重線を示した。付加物Iは0.64分の保持時間をもち、図3Bに示されるように、m/z485および493Daにおける同位体二重線を示した。付加物IIは0.71分の保持時間をもち、図3Cに示されるように、m/z501および509Daにおける同位体二重線を示した。
【0130】
例5:オメプラゾール
オメプラゾールは、ソフト反応性代謝物の検出に対する本発明の方法の応用を例証するために試験化合物として選ばれた。
【0131】
オメプラゾールの単一の反応性代謝物および対応する付加物の形成は、下記スキームE
4に略記されているとおりである。以下に略記される反応において、オメプラゾールの反応性代謝物は、−SH部分を介して式(I)の非同位体標識化合物および式(I−IS)の同位体標識化合物との付加物を形成する。明らかにするために、式(I)の非同位体標識化合物との付加物のみが以下に示される。当業者は、式(I−IS)の同位体標識化合物との付加物が、同位体標識においてのみ異なる同じ構造を有することを認識できる。
【0132】
【化28】
【0133】
図4Aは、反応混合物について得られた129Daのニュートラルロス走査の総イオンクロマトグラム(MS)を示している。5.3分の保持時間における1成分のみが、図4Bに示されるように、m/z723および731Daにおいて特徴的な同位体二重線を表した。
【0134】
例6:フラン
フランは、ハード反応性代謝物の検出に対する本発明の方法の応用を例証するために試験化合物として選ばれた。
【0135】
フランの単一の反応性代謝物および対応する付加物の形成は、下記スキームE5に略記されているとおりである。以下に略記される反応において、フランの反応性代謝物は、−SH部分と末端−NH2部分の両部分を介して式(I)の非同位体標識化合物および式(I−IS)の同位体標識化合物との付加物を形成する。明らかにするために、式(I)の非同位体標識化合物との付加物のみが以下に示される。当業者は、式(I−IS)の同位体標識化合物との付加物が、同位体標識においてのみ異なる同じ構造を有することを認識できる。
【0136】
【化29】
【0137】
図5Aは、反応混合物について得られた129Daのニュートラルロス走査の総イオンクロマトグラム(MS)を示している。8.9分の保持時間において溶出される成分が、図5Bに示されるように、m/z427および435Daにおける特徴的な同位体二重線を示した。
【0138】
例7:2−メチルフラン
2−メチルフランは、ハード反応性代謝物の検出に対する本発明の方法の応用を例証するために試験化合物として選ばれた。
【0139】
2−メチルフランの単一の反応性代謝物および対応する2種の構造異性体付加物の形成は、下記スキームE6に略記されているとおりである。以下に略記される反応において、2種メチルフランの反応性代謝物は、−SH部分と末端−NH2部分の両部分を介して式
(I)の非同位体標識化合物および式(I−IS)の同位体標識化合物との2種の構造異性体付加物を形成する。明らかにするために、式(I)の非同位体標識化合物との付加物のみが以下に示される。当業者は、式(I−IS)の同位体標識化合物との付加物が、同位体標識においてのみ異なる同じ構造を有することを認識できる。さらに、当業者は、この実験において形成された2種の構造異性体付加物がほぼ同一の質量スペクトルを生成することを認識できる。
【0140】
【化30】
【0141】
図6Aは、反応混合物について得られた129Daのニュートラルロス走査の総イオンクロマトグラム(MS)を示している。5.6および5.9分の保持時間をもつ2種の異
性体付加物は、各々図6Bに示されるように、m/z441および449Daにおける特徴的な同位体二重線を示した。
【0142】
例8:2−メントフラン
メントフランは、ハード反応性代謝物の検出に対する本発明の方法の応用を例証するために試験化合物として選ばれた。
【0143】
メントフランの単一反応性代謝物および対応する付加物の形成は、下記スキームE7に略記されているとおりである。以下に略記される反応において、メントフランの反応性代謝物は、末端−NH2部分を介して式(I)の非同位体標識化合物および式(I−IS)の同位体標識化合物との付加物を形成する。明らかにするために、式(I)の非同位体標識化合物との付加物のみが以下に示される。当業者は、式(I−IS)の同位体標識化合物との付加物が、同位体標識においてのみ異なる同じ構造を有することを認識できる。
【0144】
【化31】
【0145】
図7Aは、反応混合物について得られた129Daのニュートラルロス走査の総イオンクロマトグラム(MS)を示している。5.9分の保持時間における1成分は、図7Bに示されるように、m/z527および535Daにおける特徴的な同位体二重線を示した
。
【0146】
例9:2−(2−チエニル)−フラン
2−(2−チエニル)−フランは、両、ハードおよびソフト反応性代謝物の検出に対する本発明の方法の応用を例証するために試験化合物として選ばれた。
【0147】
2−(2−チエニル)−フランの反応性代謝物および続く式(I)の化合物および式(I−IS)の同位体標識化合物(これ以降「トラッピング作用物GSK」と呼ばれる)との付加物の形成は、下記スキームE8およびE9に略記されているとおりである。より具体的には、スキーム8は、ハード反応性代謝物(H1)を生成するフラン環の開環、ソフト反応性代謝物(S1)を生成するチオフェン環のエポキシ化、および対応する付加物の形成を示す。さらに、スキーム9は、反応性代謝物(S1)の異性化による第2のハード反応性代謝物(H2)の形成、およびその対応する付加物の形成を示す。(H1)反応性代謝物は、−SH部分と末端−NH2部分の両方を介して式(I)の非同位体標識化合物および式(I−IS)の同位体標識化合物との付加物を形成し;(S1)反応性代謝物は、両−SH部分を介して式(I)の非同位体標識化合物および式(I−IS)の同位体標識化合物との付加物を形成し;そして(H3)反応性代謝物は、末端−NH2部分を介して式(I)の非同位体標識化合物および式(I−IS)の同位体標識化合物との付加物を形成する。明らかにするために、式(I)の非同位体標識化合物との付加物のみが以下に示される。当業者は、式(I−IS)の同位体標識化合物との付加物が、同位体標識においてのみ異なる同じ構造を有することを認識できる。
【0148】
【化32】
【0149】
【化33】
【0150】
図8Aは、反応混合物について得られた129Daのニュートラルロス走査の総イオンクロマトグラム(MS)を示している。6.5分の保持時間をもつ付加物Iは、図8Bに示されるように、m/z509および517Daにおける特徴的な同位体二重線を示し;付加物IIは、図8Cに示されるように、m/z527および535Daにおける特徴的な同位体二重線を示し;そして付加物IIIは、図8Dに示されるように、m/z495および503Daにおける特徴的な同位体二重線を示した。
【0151】
前記明細書は、具体的な説明を目的として提供された実施例により、本発明の原理を教示しているが、本発明の実行が、次に示す請求項およびそれらの等価物の範囲内に入るような通常の変更、適合および/または修飾のすべてを包含することは理解できる。
【技術分野】
【0001】
関連出願に対するクロス・リファレンス
本出願は、2006年9月29日提出の米国暫定出願第60/827,526号からの優先権を請求するものであり、この内容は完全に引用によって本明細書に組み入れられている。
【0002】
本発明は、同位体標識されたトラッピング作用物(trapping agent)、反応性代謝物を検出する方法および薬物候補物を同定する方法に対向される。より具体的には、同位体標識トラッピング作用物および反応性代謝物の検出方法は、両、「ハード(hard)」および「ソフト(soft)」反応性代謝物を検出し、それによって擬陽性物(false positives)を除去するために使用されてもよい。
【背景技術】
【0003】
患者の罹病率と死亡率の1因、特異体質性薬物毒性は、臨床学的薬物開発および販売後の両方において重大な安全関心事のまま留まる。これらの特異体質性薬物反応は、使用の制限、そしてさらに市場からの撤退へと導くことがあり、これらは、結果的に製薬工業に対してより高い開発費用をもたらす。例えば、トログリタゾン(troglitazone)、ベノキサプロフェン(benoxaprofen)およびゾメピラク(zomepirac)は、許容しえない毒性プロフィルのためにそれらの発売後短期に市場から撤退された。
【0004】
特異体質性薬物反応は、通常、高度の個々の感受性において示す稀な事象である。さらに、通常、これらの反応は用量依存的ではない。現在、ヒトにおいて独占的に起きるそのような反応を評価するために使用できる動物モデルは存在しない。したがって、特異体質性薬物毒性は前臨床研究では効果的に評価することはできず、そしてしばしば臨床試験においては注目されない。
【0005】
現時点では、特異体質性薬物反応のメカニズムは十分に理解されていない。化学反応性の代謝物が特異体質性毒性、特に肝臓毒性に関与していることを示唆する相当量の証拠が存在する。特異体質性毒性に関連するすべての薬物は、チトクロームP450酵素(CYP)によって、ならびにペルオキシダーゼ、シクロオキシゲナーゼおよびミエロペルオキシダーゼのような他の酸化酵素によって顕著に媒介される種々の代謝経路を介して反応性代謝物を生成する。そのような毒性に関連する薬物は最初に代謝的活性化を受けて、細胞タンパク質に共有結合する毒性の反応性代謝的を生成するという仮説が立てられた。これらの共有的に修飾されたタンパク質は免疫原性であり、その結果、免疫応答を惹起して特異体質性薬物反応をもたらす。もう1つの仮説は、反応性代謝物による細胞タンパク質の共有的修飾は、信号伝達カスケードと細胞の生活機能を損なって、臨床上観察される重篤な結果をもたらすことを述べている。かくして、反応性代謝物の同定方法についてのニーズが残されている。
【0006】
化学反応性代謝物は、それらの化学的特性に基づいて2つのカテゴリー−「ソフト」および「ハード」反応性代謝物に分類することができる。「ソフト」反応性代謝物は、キノン、キノンイミン、イミノキノンメチド(methide)、エポキシド、アレーンオキシドおよびニトレニウム(nitrenium)イオンを含む多数の求電子代謝物を含み、そしてシステインにおけるスルフヒドリル基のような「ソフト」求電子基(electrophiles)と容易に反応する。これに対して、「ハード」反応性代謝物は、もっとも普通にはアルデヒドとして見られ、リジン、アルギニンおよび核酸のアミンのような
「ハード」求電子基と優先的に反応する。それらの不安定性のために、反応性代謝物の直接検出および特性決定は極端に困難であることが明らかになっている。通常利用されるアプローチは、捕捉分子により反応性代謝物をトラップして、安定な付加物の形成をもたらし、続いて、これが既知の検出方法、例えばタンデム質量分析によって特性決定されることである。
【0007】
近年、特許文献1においてAvery,Michael,J.は、反応性代謝物を生成する試験化合物を同定するための高処理スクリーニング法を開示した。この方法は、グルタチオンの存在下でミクロソームの薬物代謝酵素系とともに試験化合物をインキュベートし、そしてそれから形成されるグルタチオン付加物をタンデム質量分析を使用して検出することを含む。
【0008】
しかしながら、この方法は、質量分光法による検出における普通の応答結果として形成される反応性代謝物ならびに非反応性成分(反応混合液の両、無反応性代謝物および成分の両方を含む)を同定して、擬陽性物をもたらすであろう。
【0009】
Yanらは、特許文献2において、安定な同位体トラッピングおよび質量分光法を使用して反応性代謝物を同定する方法を開示している。しかしながら、Yanらにより開示された方法は、「ソフト」代謝物のみを検出するが、両、「ハード」および「ソフト」反応性代謝物を同時には検出しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】欧州特許第1,150,120号
【特許文献2】米国特許公開第2005 0287623 A1号
【発明の概要】
【0011】
本発明は、反応性代謝物を同定するための同位体標識トラッピング作用物、また6−アミノ−2−[2−(4−アミノ−4−カルボキシ−ブチリルアミノ)−3−メルカプト−プロピオニルアミノ]−ヘキサン酸として既知の、式(I)の化合物
【0012】
【化1】
【0013】
[式中、星印の基における炭素、窒素、酸素、硫黄および/または置換不可能な水素原子の1個以上が同位体標識されている]
に対向される。
【0014】
本発明は、さらに、
(a)式(I)の化合物
【0015】
【化2】
【0016】
および/または式(I)の同位体標識化合物
【0017】
【化3】
【0018】
[式中、星印の基における炭素、窒素、酸素、硫黄および/または置換不可能な水素原子の1個以上が同位体標識されている]を、
試験化合物および薬物代謝酵素とともにインキュベートして、1種以上の付加物を含む生成物混合物を生成し;そして
(b)既知の方法および/または本明細書に記述される方法にしたがって、例えばニュートラルロス(neutral loss)質量分光法によって該1種以上の付加物を検出する;
ことを含む、反応性代謝物を同定する方法に対向される。
【0019】
本発明は、さらに、
(a)式(I)の化合物
【0020】
【化4】
【0021】
式(I)の同位体標識化合物
【0022】
【化5】
【0023】
[式中、星印の基における炭素、窒素、酸素、硫黄または置換不可能な水素原子の1個以上が同位体標識されている]
および薬物代謝酵素を含む混合物とともに試験化合物をインキュベートして、1種以上の付加物を含む生成物混合物を生成し;
(b)段階(a)において生成された1種以上の付加物のニュートラルロス質量スペクトルにおいて1個以上の同位体二重線を検出し、ここで、二重線は、式(I)の化合物と式(I)の同位体標識化合物との間の質量における差異だけ質量において異なる;
ことを含む、試験化合物の反応性代謝物を検出する方法に対向される。
【0024】
本発明は、さらに、式(I)の化合物および式(I)の同位体標識化合物[式中、星印の基における炭素、窒素、酸素、硫黄または置換不可能な水素原子の1個以上が同位体標識されている]の混合物を使用して、反応性代謝物(両、「ソフト」および/または「ハード」反応性代謝物を含む)を同定する方法に対向される。
【0025】
本発明は、さらに、
(a)式(I)の非同位体標識化合物
【0026】
【化6】
【0027】
式(I)の同位体標識化合物
【0028】
【化7】
【0029】
[式中、星印の基における炭素、窒素、酸素、硫黄および/または置換不可能な水素原子の1個以上が同位体標識されている]
および薬物代謝酵素を含む混合物とともに試験化合物をインキュベートして、1種以上の付加物を含む生成物混合物を生成し;
(b)段階(a)において生成された1種以上の付加物のニュートラルロス質量スペクトルを測定し;そして
(c)段階(b)のニュートラルロス質量スペクトルにおける1種以上の同位体二重線を検出し、ここで、同位体二重線は、式(I)の非同位体標識化合物と式(I)の同位体標識化合物との間の質量における差異だけ質量において異なる;
ことを含む、試験化合物の反応性代謝物を検出する方法に対向される。
【0030】
本発明は、さらに、(a)反応性代謝物と式(I)の非同位体標識化合物の共有結合複合体、および(b)反応性代謝物と式(I)の同位体標識化合物の共有結合複合体を含む混合物に対向される。
【0031】
本発明は、さらに、
(a)式(I)の非同位体標識化合物
【0032】
【化8】
【0033】
式(I)の同位体標識化合物
【0034】
【化9】
【0035】
[式中、星印の基における炭素、窒素、酸素、硫黄および/または置換不可能な水素原子の1個以上が同位体標識されている]
および薬物代謝酵素とともに試験化合物をインキュベートして、生成物混合物を生成し;(b)段階(a)において生成された生成物混合物のニュートラルロス質量スペクトルを測定し;そして
(c)段階(b)のニュートラルロス質量スペクトルにおける同位体二重線(ここで、同位体二重線は、式(I)の非同位体標識化合物と式(I)の同位体標識化合物との間の質量における差異だけ質量において異なる)の不在を検出する;
ことを含む、薬物候補物を同定する方法に対向される。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1A】ジクロフェナク(diclofenac)についての129Daのニュートラルロス走査の総イオンクロマトグラムを図示している。
【図1B】ジクロフェナクから得られた付加物Iのニュートラルロスタンデム質量スペクトルを図示している。
【図1C】ジクロフェナクから得られた付加物IIのニュートラルロスタンデム質量スペクトルを図示している。
【図2A】クロザピン(clozapine)についての129Daのニュートラルロス走査の総イオンクロマトグラムを図示している。
【図2B】クロザピンから得られた付加物Iのニュートラルロスタンデム質量スペクトルを図示している。
【図3A】p−クレゾールについての129Daのニュートラルロス走査の総イオンクロマトグラムを図示している。
【図3B】p−クレゾールから得られた付加物Iのニュートラルロスタンデム質量スペクトルを図示している。
【図3C】p−クレゾールから得られた付加物IIのニュートラルロスタンデム質量スペクトルを図示している。
【図4A】オメプラゾール(omeprazole)についての129Daのニュートラルロス走査の総イオンクロマトグラムを図示している。
【図4B】オメプラゾールから得られた付加物Iのニュートラルロスタンデム質量スペクトルを図示している。
【図5A】フランについての129Daのニュートラルロス走査の総イオンクロマトグラムを図示している。
【図5B】フランから得られた付加物Iのニュートラルロスタンデム質量スペクトルを図示している。
【図6A】2−メチルフランについての129Daのニュートラルロス走査の総イオンクロマトグラムを図示している。
【図6B】2−メチルフランから得られた異性付加物のNLタンデム質量スペクトル。
【図7A】メントフランについての129Daのニュートラルロス走査の総イオンクロマトグラムを図示している。
【図7B】メントフランから得られた付加物Iのニュートラルロスタンデム質量スペクトルを図示している。
【図8A】2−[2−チエニル]−フランについての129Daのニュートラルロス走査の総イオンクロマトグラムを図示している。
【図8B】2−[2−チエニル]−フランから得られた付加物Iのニュートラルロスタンデム質量スペクトルを図示している。
【図8C】2−[2−チエニル]−フランから得られた付加物IIのニュートラルロスタンデム質量スペクトルを図示している。
【図8D】2−[2−チエニル]−フランから得られた付加物IIIのニュートラルロスタンデム質量スペクトルを図示している。
【発明を実施するための形態】
【0037】
発明の詳細な記述
本発明は、トラッピング作用物が反応性代謝物に結合することができる、同位体標識トラッピング作用物、また6−アミノ−2−[2−(4−アミノ−4−カルボキシ−ブチリルアミノ)−3−メルカプト−プロピオニルアミノ]−ヘキサン酸として既知の、式(I)の化合物
【0038】
【化10】
【0039】
[式中、星印の基における炭素、窒素、酸素、硫黄および/または置換不可能な水素原子の1個以上が、好ましくは1個以上の13C,15N,18O,2Hおよび/または34S同位体により同位体標識されている]
に対向される。
【0040】
本明細書で使用されるように、別に記されない限り、用語「置換不可能な水素」は、水溶液中で置換しないすべての水素原子を意味する。式(I)の化合物では、同位体標識されてもよい置換不可能な水素原子は、下記の構造において矢印によって指定される。
【0041】
【化11】
【0042】
式(I)の化合物は、2個の「トラッピングゾーン(trapping zone)」を有し、これらは、個々に「ハード」および「ソフト」反応性代謝物をトラップする。より具体的には、式(I)の化合物におけるスルフヒドリル(−SH)基は、いわゆる「ソフト」反応性代謝物と反応し、そしてトラップするが、式(I)の化合物における−(CH2)4−NH2基は、いわゆる「ハード」反応性代謝物と反応し、そしてトラップする。したがって、式(I)の化合物および式(I)の同位体標識化合物は、同時に両「ハー
ド」および「ソフト」反応性代謝物をトラップすることができる。これはまた、図によって以下に示される。
【0043】
【化12】
【0044】
本明細書で使用されるように、別に記されない限り、用語「反応性代謝物」は、「ソフト」および「ハード」反応性代謝物を含むであろう。
【0045】
本明細書で使用されるように、別に記されない限り、用語「ソフト代謝物」は、システインにおけるスルフヒドリルおよび式(I)の化合物における−SH基のような「ソフト」求電子基と容易に反応する少なくとも1種の置換基を含むすべての求電子代謝物を意味する。そのような置換基の適当な例は、限定されるものではないがキノン、キノンイミン、イミノキノン、メチド、エポキシド、アレーンオキシド、ニトレニウムイオンなどを含む。
【0046】
本明細書で使用されるように、別に記されない限り、用語「ハード代謝物」は、リジン、アルギニンまたは式(I)の化合物の−(CH2)4−NH2基のアミンのような「ハード」求電子基と容易に反応する少なくとも1種の置換基を含む求電子代謝物を意味する。そのような置換基の適当な例は、限定されるものではないがアルデヒドなどを含む。
【0047】
反応性代謝物は、試験化合物に関連する多くの有害事象、特に重大かつ/または毒性有害事象に関与しているので、試験化合物によって生成されるすべての反応性代謝物を検出できることが高く望まれる。さらに、試験化合物がヒトに対する試験化合物の投与前に、反応性代謝物を生成するか否かを決定することが高く望まれる。
【0048】
当業者は、必ずしもすべての試験化合物が反応性代謝物を生成するものではなく、そし
てさらにすべての試験化合物が両「ソフト」および「ハード」反応性代謝物を生成するものではないことを認識できる。若干の試験化合物は反応性代謝物を生成せず、若干の試験化合物はハード反応性代謝物のみを生成し、若干の試験化合物はソフト反応性代謝物を生成し、そして若干の試験化合物は、両ハードおよびソフト反応性代謝物を生成できる。したがって、本発明のトラッピング作用物および方法は、試験化合物によって生成されるいかなる種類の反応性代謝物をも検出できる。
【0049】
さらに当業者は、本発明の方法が反応性代謝物を同定することに対向されつつ、また、試験化合物が反応性代謝物を生成するか否かを決定する方法を含むことを認識できる。ある実施態様では、本発明は、薬物候補物(例えば、反応性代謝物を生成しない試験化合物)を同定する方法に対向される。かくして、本発明の方法は、インキュベーション(本明細書でより詳細に記述されるような)が反応性代謝物と、したがって付加物をもたらさず、そして質量スペクトルが二重線を示さず、それによって試験化合物がいかなる検出可能な反応性代謝物をも生成しないことを指示する方法を含む。
【0050】
「ソフト」代謝物については、グルタチオン、次の化学構造
【0051】
【化13】
【0052】
の化合物は、「ソフト」反応性代謝物を検出するためにミクロソームインキュベーションにおいて使用されるもっとも普通のトラッピング作用物である。しかしながら、「ハード」反応性代謝物では、グルタチオンは、その低いトラッピング効率のために適当なトラッピング作用物ではない。むしろ、「ハード」反応性代謝物を検出するためには、替わりのトラッピング作用物、例えばセミカルバジド、メトキシルアミンおよびα−アセチリシン(α−acetyllisine)が使用される。このことは、両「ハード」および「ソフト」反応性代謝物の検出のために、異なるトラッピング作用物による2つの別個の実験を必要とする。これに対して、式(I)の化合物、式(I)の同位体標識化合物および/または式(I)の非同位体標識化合物と式(I)の同位体標識化合物の混合物は、単一の実験において両「ソフト」および「ハード」反応性代謝物を検出するために使用することができる。
【0053】
本明細書で使用されるように、別に記されない限り、用語「式(I)の同位体標識化合物」は、少なくとも1個の同位体、例えば、13C,15N,18O,2H,3H,34Sなどにより標識されている式(I)の化合物を意味する。好ましくは、同位体は、13C,15N,18Oまたは2Hである。式(I)の同位体標識化合物の適当な例は、限定されるものではないが、そのシステインにおいて13Cおよび/または15Nにより標識された式(I)の化合物;その両システインおよびリジン基において同位体標識された式(I)の化合物;範囲1〜28における単一または多数の位置において、好ましくは1〜10位、より好ましくは3〜8位、もっとも好ましくは8位において標識された式(I)の化合物;などを含む。好ましくは、式(I)の同位体標識化合物は、13C,15N,18Oおよび2Hからなる群から選ばれる少なくとも1個の同位体によって標識される。より好ましくは、式(I)の同位体標識化合物は2個の15Nおよび6個の13C同位体によって標識される。
【0054】
ある実施態様では、式(I)の同位体標識化合物は、以下に示される化学構造(I−IS)において指示されるように同位体標識されている。
【0055】
【化14】
【0056】
本明細書で使用されるように、別に記されない限り、用語「薬物代謝酵素」は、試験化合物を代謝することができるヒトまたは動物組織由来の、好ましくはヒト組織由来の、より好ましくはヒト肝臓組織由来のすべての酵素またはその混合物を意味する。(参照、例えば、Drug Metabolizing Enzymes,Edited by Jae S.Lee,R.Scott Obach and Michael B.Fisher,Marcel Dekker,Inc.(2003)).適当な例は、限定されるものではないが、肝臓ミクロソーム、チトクロームP450酵素またはチトクロームP450酵素の異なるイソ型の混合物、ペルオキシダーゼ、シクロオキシゲナーゼ、ミエロペルオキシダーゼなどを含む。好ましくは、薬物代謝酵素はヒト肝臓ミクロソーム、より好ましくは、チトクロームP450酵素である。当業者は、試験化合物をチトクロームP450酵素またはチトクロームP450酵素の異なるイソ型の混合物とともにインキュベートする場合、試験化合物をチトクロームP450酵素またはチトクロームP450酵素の異なるイソ型の混合物が、NADPH補因子またはNADPH再生系と組み合わされてインキュベートされることを認識できる。
【0057】
本明細書で使用されるように、別に記されない限り、用語「試験化合物」は、反応性代謝物の形成について試験されるすべての化学物質を意味する。好ましくは、試験化合物は製薬学的作用物、またはその塩、エステルまたはプロドラッグである。
【0058】
本明細書で使用されるように、別に記されない限り、用語「薬物候補物」は、反応性代謝物を生成しないすべての化学物質または試験化合物を意味する。好ましくは、薬物候補物は製薬学的作用物、またはその塩、エステルまたはプロドラッグである。
【0059】
本明細書で使用されるように、別に記されない限り、用語「付加物」は、反応性代謝物と式(I)の同位体標識化合物または式(I)の非同位体標識化合物とのすべての共有結
合複合体を意味する。
【0060】
本明細書、特にスキームおよび実施例で使用される略語は次のとおりである:
APCI−MS/MS = 大気圧化学イオン化タンデム質量分析
CYP = チトクロームP450酵素
Da = ダルトン
ESI−MS/MS = エレクトロスプレーイオン化タンデム質量分析
HPLC = 高速液体クロマトグラフィー
MS = 質量分光(分析)法
NADPH = β−ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸
(還元型)
SPE = 固相抽出
【0061】
ある実施態様では、本発明は、星印の基の炭素、窒素、酸素、硫黄および/または置換不可能な水素原子の1個以上が、好ましくは1個以上の13C,15N,18O,2H,3Hおよび/または34S同位体により同位体標識されている式(I)の同位体標識化合物に対向される。式(I)の同位体標識化合物は、既知の方法にしたがって、例えば、同位体置換によるか、または同位体標識された試薬/出発物質を使用するペプチドカップリング合成によって製造されてもよい。(参照、例えば、Ott,Donald G.,Syntheses with Stable Isotopes of Carbon,Nitrogen,and Oxygen,(1981),Wiley,New York,N.Y;Keliher,Edmund J.;Burrel,Richard C.;Chobanian,Harry R.;Conkrite,Karina L.;Shukla,Rajesh;Baldwin,John E.;Efficient syntheses of four stable−isotope labeled(1R)−menthyl(1S,2S)−(+)−2−phenylcyclopropanecarboxylates,Organic & Biomolecular Chemistry,(2006),4(14),pp2777−2784;Schippers,Nicole;Schwack,Wolfgang,Synthesis of the 15N−labelled insecticide imidacloprid,Journal of Labelled Compounds and Radiopharceuticals,(2006),49(3),pp305−310;and Bretz,Michael;Beyer,Marita;Cramer Benedikt;Humpf,Hans−Urich,Synthesis of stable isotope labeled 3−acetyldeoxynivalenol,Molecular Nutrition & Food Research,(2005),49(12),pp1151−1153.)
ある実施態様では、本発明は式(I−IS)の同位体標識化合物に対向される。式(I−IS)の化合物は以下のスキーム1に略記されるように製造されてもよい。
【0062】
【化15】
【0063】
したがって、2−アミノ−4−(1−カルボキシ−2−メルカプト−エチルカルバモイル)−酪酸が、既知の化学(例えば、Wade,L.G.,Organic Chemistry,Forth Editions,Prentice Hall,1999,pp.136−137)にしたがって同位体標識リジンと反応されて、式(I−IS)の化合物を生成する。
【0064】
本発明は、反応性代謝物を検出するための、式(I)の化合物
【0065】
【化16】
【0066】
または式(I)の同位体標識化合物
【0067】
【化17】
【0068】
[式中、星印の基における炭素、窒素、酸素、硫黄または置換不可能な水素原子の1個以上は同位体標識されている];
または式(I)の化合物および式(I)の同位体標識化合物の混合物;
の使用に対向される。
【0069】
本発明は、さらに、同位体トラッピングおよび質量分光法を使用して反応性代謝物を検出する方法に対向され、ここで、本方法は擬陽性物を除去する。本発明は、さらに、低レベルにおける反応性代謝物を検出する高感度の方法を提供する。その上、本発明は、MSパターン認識を使用して、手動様式または完全自動様式における反応性代謝物の検出に適用されてもよい。
【0070】
本発明は、さらに、
(a)式(I)の化合物または式(I)の同位体標識化合物[式中、星印の基における炭素、窒素、酸素、硫黄および/または置換不可能な水素原子の1個以上が同位体標識されている]を、試験化合物および薬物代謝酵素とともにインキュベートして、1種以上の付加物を含む生成物混合物を生成し;そして
(b)該付加物を検出する(既知の方法にしたがって);
ことを含む、反応性代謝物を検出する方法に対向される。
【0071】
例えば、安定な同位体トラッピングなしに(例えば、式(I)の同位体標識化合物のような同位体標識トラッピング作用物の使用なしに)反応性代謝物を検出する方法は、調査走査としてニュートラルロスを使用することによってMS/MS全走査を開始できる3連の四重極質量分析計を用いる。このシステムを使用すれば、付加物のタンデムMSスペクトルが1回の実行において得ることができ、そして構造同定は、特徴的な生成物イオンを検査することによって達成できる。しかしながら、ニュートラルロスMS走査に較べて典型的にMS全走査により達成されるノイズに対するより小さいシグナル比率のために、MS全走査システムを使用して少い反応性代謝物を検出することは困難であろう。さらに、MS全走査は比較的時間と労力を集中する。
【0072】
本発明は、さらに、
(a)式(I)の非同位体標識化合物、式(I)の同位体標識化合物[式中、星印の基に
おける炭素、窒素、酸素、硫黄および/または置換不可能な水素原子の1個以上が同位体標識されている]および薬物代謝酵素を含む混合物とともに試験化合物をインキュベートして、1種以上の付加物を含む生成物混合物を生成し;そして
(b)段階(a)の付加物のニュートラルロス質量スペクトルにおいて1種以上の同位体二重線を検出し、ここで、二重線は、式(I)の非同位体標識化合物と式(I)の同位体標識化合物との間の質量における差異だけ質量において異なる;
ことを含む、試験化合物の反応性代謝物を検出する方法に対向される。
【0073】
ある実施態様では、本発明は、
(a)式(I)の化合物
【0074】
【化18】
【0075】
式(I−IS)の同位体標識化合物
【0076】
【化19】
【0077】
および薬物代謝酵素を含む混合物とともに試験化合物をインキュベートして、1種以上の付加物を含む生成物混合物を生成し;
(b)段階(a)において生成された1種以上の付加物のニュートラルロス質量スペクトルを測定し;そして
(c)段階(b)のニュートラルロス質量スペクトルにおける1種以上の同位体二重線を
検出し、ここで、同位体二重線は、質量において8Daだけ異なる;
ことを含む、試験化合物の反応性代謝物を検出する方法に対向される。
【0078】
ある実施態様では、本発明は、
(a)式(I)の非同位体標識化合物、式(I)の同位体標識化合物[式中、星印の基における炭素、窒素、酸素、硫黄および/または置換不可能な水素原子の1個以上が同位体標識されている]、および薬物代謝酵素を含む混合物とともに試験化合物をインキュベートして、1種以上の付加物を含む生成物混合物を生成し;
(b)段階(a)の1種以上の付加物を分離し(既知の方法にしたがって、好ましくは遠心分離によって);
(c)該分離された付加物のニュートラルロス質量スペクトルを測定し;
(d)該分離付加物のニュートラルロス質量スペクトルにおける1種以上の同位体二重線を検出し、ここで、二重線は、式(I)の非同位体標識化合物と式(I)の同位体標識化合物との間の質量における差異だけ質量において異なる;
ことを含む、試験化合物反応性代謝物を検出する方法に対向される。
【0079】
ある実施態様では、本発明は、
段階A:
(a)試験化合物;
(b)式(I)の化合物
【0080】
【化20】
【0081】
(c)式(I−IS)の同位体標識化合物
【0082】
【化21】
【0083】
(ここで、式(I)の化合物対式(I−IS)の化合物のモル比は約1:1である);および
(d)ヒト肝臓ミクロソーム、NADPH補因子と組み合わされたチトクロームP450酵素およびNADPH再生系と組み合わされたチトクロームP450酵素からなる群から選ばれる薬物代謝酵素;
を含む混合物をインキュベートして、
(a)非反応性代謝物;
(b)式(I)の化合物と反応性代謝物との間で形成される付加物;および
(c)式(I−IS)の同位体標識化合物と反応性代謝物との間で形成される付加物;
からなる群から選ばれる1種以上のインキュベーション生成物を含む生成物混合物を生成し;
段階B:段階(A)において生成された生成物混合物のニュートラルロス質量スペクトルを測定し;そして
段階C:段階(B)のニュートラルロス質量スペクトルにおける1種以上の同位体二重線を検出し、ここで、同位体二重線は、質量において8Daだけ異なる;
ことを含む、試験化合物の反応性代謝物を検出する方法に対向される。
【0084】
本発明のある実施態様では、式(I)の同位体標識化合物は、13C,15N,18Oおよび2Hからなる群から選ばれる少なくとも1個の同位体により標識される。本発明のその他の実施態様では、式(I)の同位体標識化合物は、1〜28個の同位体、好ましくは1〜10個の同位体により標識される。本発明のその他の実施態様では、式(I)の同位体標識化合物は、6個の13Cおよび2個の15N原子により標識される。本発明のその他の実施態様では、式(I)の同位体標識化合物は、式(I−IS)の化合物である。
【0085】
【化22】
【0086】
本発明のある実施態様では、ニュートラルロス質量スペクトルは129Daのロス(式(I)の非同位体標識または同位体標識化合物の−C(O)−CH2−CH2−CH(NH2)−CO2H部分のロスに対応する)を検出するために使用される。
【0087】
本発明のある実施態様では、同位体二重線は、APCI−MS/MS、ESI−MS/MSなど;好ましくは、ESI−MS/MSにより検出される。本発明のその他の実施態様では、ニュートラルロス質量スペクトルにおける同位体二重線は、1〜28の質量ユニット、好ましくは2〜10質量ユニット、より好ましくは8質量ユニットの質量だけ異なる。
【0088】
本発明のある実施態様では、薬物代謝酵素は、ヒト肝臓ミクロソーム、チトクロームP450酵素、ペルオキシダーゼ、シクロオキシゲナーゼおよびミエロペルオキシダーゼからなる群から選ばれる。好ましくは、薬物代謝酵素はチトクロームP450酵素である。
【0089】
ある実施態様では、本発明は、薬物代謝酵素、例えば、S9、組み換え酵素またはミクロソーム酵素を含有する細胞のすべての画分とともに試験化合物をインキュベートすることによって形成される反応性代謝物を検出するために適用される。ある実施態様では、本発明の方法は、試験化合物がヒト被験者において反応性代謝物を形成するか否か(ヒトに対する試験化合物の投与後に)を予測するために適用される。
【0090】
当業者は、略語「S9」が、ミクロソームとサイトゾルの混合物であるS9画分(ミトコンドリア後上澄液画分)を指すことを理解できる。したがって、それは、P450酵素、フラビン−モノオキシゲナーゼ、カルボキシエステラーゼ、エポキシドヒドロラーゼ、UDP−グルクロノシルトランスフェラーゼ、スルホトランスフェラーゼ、メチルトランスフェラーゼ、アセチルトランスフェラーゼ、グルタチオンS−トランスフェラーゼおよび他の薬物代謝酵素を含む広範なフェースIおよびフェースII酵素を含有する。
【0091】
本発明は、さらに、(a)反応性代謝物と式(I)の非同位体標識化合物の共有結合複合体、および(b)反応性代謝物と式(I)の同位体標識化合物[式中、星印の基における炭素、窒素、酸素、硫黄および/または置換不可能な水素原子の1個以上が同位体標識されている]の共有結合複合体を含む、混合物に対向される。
【0092】
本発明のある実施態様では、式(I)の非同位体標識化合物および式(I)の同位体標
識化合物のモル比は、約1:1〜約1:2の範囲、好ましくは約1:1〜約1:1.5の範囲、より好ましくは約1:1である。
【0093】
本発明のある実施態様では、反応性代謝物と式(I)の非同位体標識化合物の共有結合複合体、および反応性代謝物と式(I)の同位体標識化合物の共有結合複合体のモル比は、約1:1〜約1:2の範囲、好ましくは約1:1〜約1:1.5の範囲、より好ましくは約1:1である。
【0094】
本発明はさらに、反応性代謝物を検出する方法に対向される。より具体的には、本発明の方法では、試験化合物は、
(a)式(I)の非同位体標識化合物;
(b)式(I)の同位体標識化合物[式中、式(I)の同位体標識化合物は、6個の13Cおよび2個の15N原子を含有する]、ここで、式(I)の非同位体標識化合物対式(I)の同位体標識化合物のモル比は約1:1(約同じ強度を有する質量スペクトルにおける二重線を生じるために)である;および
(c)薬物代謝酵素、例えば、ヒト肝臓ミクロソーム、NADPH補因子と組み合わされたチトクロームP450酵素(CYP)(ミクロソームの、肝細胞などの、精製、組み換え体)、NADPH再生系、ペルオキシダーゼ、シクロオキシゲナーゼ、ミエロペルオキシダーゼなどと組み合わされたチトクロームP450酵素(CYP)(ミクロソームの、肝細胞などの、精製、組み換え体);好ましくはヒト肝臓ミクロソーム;
を含む混合物とともに、既知の方法にしたがってインキュベートされて、
(a)非反応性代謝物;
(b)式(I)の非同位体標識化合物と反応性代謝物との間で形成される付加物;および(c)式(I)の同位体標識化合物と反応性代謝物との間で形成される付加物;
からなる群から選ばれる1種以上のインキュベーション生成物を含む生成物混合物を生成する。
【0095】
当業者は、上記インキュベーションの結果として生成される非反応性(安定な)代謝物が、式(I)の非同位体標識化合物かまたは式(I)の同位体標識化合物のいずれかと反応せず、むしろ無変化のまま生成物混合物中に残ることを認識できる。
【0096】
好ましくは、式(I)の同位体標識化合物は、安定であるよう選ばれた1個以上の同位体により標識される。適当な同位体は、限定されるものではないが、13C,15N,2H,3H,18O,34Sなどを含む。好ましくは、同位体は、13C,15N,18Oおよび2H、より好ましくは13Cおよび15Nからなる群から選ばれる。好ましくは、式(I)の同位体標識化合物は、式(I)の非同位体標識化合物とは、1〜28質量ユニット、より好ましくは2〜10質量ユニット、もっとも好ましくは8質量ユニットだけ質量において異なる。
【0097】
インキュベーション生成物(非反応性代謝物、反応性代謝物と式(I)の非同位体標識化合物との間で形成される付加物および/または反応性代謝物と式(I)の同位体標識化合物との間で形成される付加物)の1種以上を含有する生成物混合物は、好ましくは、既知の方法により、例えば、遠心分離、SPEまたは液・液抽出によって精製および濃縮されて、生成物濃縮物を生成する。次いで、生成物濃縮物は、質量分光分析法における使用のために適当な(すなわち、質量分析計への注入のために適当な)溶媒、例えば、水中5%アセトニトリル、水中5%メタノールなどに溶解される。
【0098】
好ましくは、生成物混合物は、既知の方法により、例えば、液体クロマトグラフィー、HPLC、毛管電気泳動、または他の分離技術によって個々の付加物成分に分離される。次いで、ニュートラルロス質量スペクトルが、各付加物または付加物成分について測定さ
れる。ニュートラルロス質量スペクトルは、すべてのイオン化源を使用する、既知の方法にしたがって、例えば、APCI−MS/MS、ESI−MS/MSなど;好ましくは、ESI−MS/MSによって測定されてもよい。あるいはまた、分離および質量スペクトル測定は、LC/MSのようなループシステムなどを使用して1段階で完結されてもよい。
【0099】
反応性代謝物が試験化合物から生成され、そして存在する(式(I)の非同位体標識化合物および式(I)の同位体標識化合物との付加物として)場合、対応する質量スペクトルは、式(I)の非同位体標識化合物および式(I)の同位体標識化合物の間の質量における差異だけ、間を空けた1種以上の二重線を表すであろう。当業者は、二重線が、肉眼認識によるか、またはMSパターンを評価するコンピューターソフトウエアプログラムを使用して同定されてもよいことを認識できる。
【0100】
例として、式(I)の同位体標識化合物が、式(I−IS)の化合物におけるように、6個の13Cおよび2個の15N原子により標識され、そして式(I)の非同位体標識化合物および式(I)の同位体標識化合物が、好ましくは約1:1のモル比で存在する場合、衝突誘起解離において、両、非同位体標識および同位体標識付加物は、ピログルタメートのニュートラルロス(129Da)を受けるであろう。結果として、反応性代謝物と式(I)の非同位体標識化合物および式(I)の同位体標識化合物との間で形成された付加物の質量スペクトルは、質量において8Daだけ異なる2種の同位体分子イオンを表し、そして同位体二重線はほぼ等しい強度を示すであろう。該二重線ピークの一貫した8Daの質量差異およびほぼ等しい強度は、それによって、反応性代謝物付加物を同定できる独特なMS表示を提供するであろう。
【0101】
本発明の方法では、擬陽性物は、測定されたニュートラルロス質量スペクトルにおいて特徴的な二重線を表さないので、それらは容易に除去される。
【0102】
本発明の方法の自動化は、例えば、コンピューター補助のMSパターン認識を使用することによって達成されてもよい。例として、論理図式が、コンピューターをプログラムして反応性代謝物の自動検出を遂行するように工夫された。より具体的には、パターン認識プロセスは、次の段階:
1.m/z値についての誤差許容限度を定義し;
2.可能性のある同位体二重線についてのピーク強度比率の誤差範囲を定義し;
3.選択されたノイズ対シグナル設定により総イオンクロマトグラムにおけるクロマトグラフィーピークを決定し;
4.個々のクロマトグラフィーピークの主要な分子イオンのm/z値を検出し;
5.定義された誤差許容限度を用いて適当なダルトン数だけ質量において異なる(選択された同位体種およびナンバーに基づいて)二重線を探索し;
6.同定された二重線の強度比率を決定し;
7.付加物を同定する;
ことからなる。
【0103】
このアプローチの使用では、二重線の強度比率および質量差異はパターン認識においてもっとも決定的なパラメーターである。強度比率の誤差範囲は、式(I)の非同位体標識化合物および式(I)の同位体標識化合物の純度によって決定されるが、一方、m/z値の誤差許容限度は質量分析計の性能に依存する。
【0104】
本発明の方法は、試験化合物が、1回の実験において「ハード」および/または「ソフト」反応性代謝物を生成できるか否かを決定するために意図される。当業者は、本発明の方法が、同時に両「ハード」および「ソフト」反応性代謝物を検出できるけれども、「ハ
ード」または「ソフト」いずれかの反応性代謝物が特定の試験化合物から形成されない場合でも、本方法がいずれのタイプの反応性代謝物が形成されたかを検出できることを認識できる。その上、反応性代謝物が形成されない場合には、本方法は特徴的な二重線のない質量スペクトルを作製するので、試験化合物を薬物候補物として同定することができる。
【0105】
本発明は、さらに、
(a)式(I)の非同位体標識化合物、式(I)の同位体標識化合物[式中、星印の基における炭素、窒素、酸素、硫黄および/または置換不可能な水素原子の1個以上が同位体標識されている]、および薬物代謝酵素を含む混合物とともに試験化合物をインキュベートして、生成物混合物を生成し;
(b)段階(a)において生成された生成物混合物のニュートラルロス質量スペクトルを測定し;そして
(c)段階(b)のニュートラルロス質量スペクトルにおける同位体二重線の不在を検出する(ここで、同位体二重線は、式(I)の非同位体標識化合物と式(I)の同位体標識化合物との間の質量における差異だけ質量において異なる);
ことを含む、薬物候補物(すなわち、反応性代謝物を生成しない試験化合物)を同定する方法に対向される。
【0106】
ある実施態様では、本発明は、
(a)式(I)の非同位体標識化合物
【0107】
【化23】
【0108】
式(I−IS)の同位体標識化合物
【0109】
【化24】
【0110】
[式中、星印の基における炭素、窒素、酸素、硫黄または置換不可能な水素原子の1個以上が同位体標識されている]、
および薬物代謝酵素を含む混合物とともに試験化合物をインキュベートして、生成物混合物を生成し;
(b)段階(a)において生成された生成物混合物のニュートラルロス質量スペクトルを測定し;そして
(c)段階(b)のニュートラルロス質量スペクトルにおける同位体二重線の不在を検出する(ここで、同位体二重線は、8Daの質量における差異だけ質量において異なる);ことを含む、薬物候補物を同定する方法に対向される。
【0111】
次の実施例は、本発明の理解を補助するために記述され、そしてその後に続く請求項に記述される本発明をいかなる点においても制約することを意図せず、かつ制約するものと考えてはならない。
【実施例】
【0112】
例1−標準操作
A.インキュベーション&安定な同位体トラッピング;
本明細書に記述されるすべてのミクロソームインキュベーションは水浴中37℃において実施された。試験化合物は、1:1の等モル比で予め混合された式(I)の非同位体標識化合物と式(I−S)の同位体標識化合物を補足された50mMリン酸カリウムバッファー(pH7.4)中でヒト肝臓ミクロソーム調製物(チトクロームP450酵素調製物)と混合された。得られる混合液は37℃で5分間予め加温された。次いで、反応混合液に対して補因子−NADPH再生系−(反応を開始するために)が添加されて、1000μlの最終容量を得た。
【0113】
得られる反応混合液は、10μM試験化合物、1mg/mlのミクロソームタンパク質、式(I)の非同位体標識化合物と式(I−IS)の同位体標識化合物の1mM混合液、1.3mM NADP+、3.3mMグルコース−6−リン酸、0.4U/mlのグルコース−6−リン酸デヒドロゲナーゼ、3.3mM塩化マグネシウムを含有した。
【0114】
60分のインキュベーション後、反応はトリクロロ酢酸(10%)の150μlの添加によって終結された。得られる混合液は10,000g 15分間、4℃において遠心されて沈降タンパク質を沈殿させ、そして上澄液が固相抽出にかけられた。あるいはまた、反応混合液は液・液抽出にかけられて上澄液から代謝物を回収した。
【0115】
B.質量分析;
MS分析は、Micromass(Manchester,UK)Quattro Micro3連四重極質量分析計において実施された。ESIイオン源は正イオン方式で作動され、そして実験パラメーターは次のように設定された:毛管電位3.2kV、イオン源温度120℃、脱溶媒和(desolvation)温度300℃、サンプルコーン(cone)電位26V。ニュートラルロス走査方式で収集される質量スペクトルは、2.0sにおいて範囲m/z400−800にわたって走査することによって得られた。
【0116】
C.LC−MS/MS分析;
反応性代謝物の完全なプロファイリングのために、サンプルは最初に、自動サンプラーを備えたAgilent 1100 HPLCシステム(Agilent Technologies,Palo Alto,CA)によるクロマトグラフィー分離にかけられ、そして溶出液は、ニュートラルロス走査方式で作動されるQuattro Micro3連四重極質量分析計に導入された。Agilent Zorbax SB C18カラム(2.1x50mm)がクロマトグラフィー分離のために使用された。初発移動相は95%水(0.5%酢酸)からなり、そして代謝物は95%水〜95%アセトニトリルの単一勾配を使用して流速0.3ml/分において7分かけて溶出された。7分時点で、カラムは、95%アセトニトリルにより2分間フラッシュされ、その後、初期条件において再平衡化された。LC−MS/MS分析は純化されたサンプルの10μl分量において実施された。データはMicromass製のMasslynxバージョン4.0ソフトウエアを使用して処理された。ポジティブピークが検出された後、続いて、MS/MSスペクトルが得られて、付加物の構造がさらに確認された。CID(Collision Induced Dissociation)スペクトルを得るために、質量分析計は多反応モニタリング(MRM)方式で操作された。
【0117】
例2−9:ソフトおよび/またはハード反応性代謝物の検出
上記の例1に略記されたような操作に続いて、本発明の方法は、既知の試験化合物、より具体的には、「ソフト」および/または「ハード」代謝物を生成することが知られている試験化合物についての反応性代謝物の検出、129Daのロスにおけるニュートラルロス質量スペクトルの走査、および対応する式(I)の非同位体標識化合物とは8Daユニットだけ異なる式(I−IS)の同位体標識化合物の使用に応用された。
【0118】
例2:ジクロフェナク
ジクロフェナクは、ソフト反応性代謝物の検出に対する本発明の方法の応用を例証するために試験化合物として選ばれた。
【0119】
ジクロフェナクの2種の反応性代謝物および対応する付加物の形成は、下記スキームE1に略記されているとおりである。以下に略記される反応において、ジクロフェナクの反応性代謝物は、−SH部分を介して式(I)の非同位体標識化合物および式(I−IS)の同位体標識化合物との付加物を形成する。明らかにするために、式(I)の非同位体標識化合物との付加物のみが以下に示される。当業者は、式(I−IS)の同位体標識化合物との付加物が、同位体標識においてのみ異なる同じ構造を有することを認識できる。
【0120】
【化25】
【0121】
図1Aは、反応混合物について得られた129Daのニュートラルロス走査の総イオンクロマトグラム(MS)を示している。数種の成分がニュートラル走査に対する正の応答を示し、そしてその成分の2種が期待される同位体二重線(8Daの質量差をもつ)を示した。付加物Iは5.9分の保持時間において溶出し、そして図1Bに示されるように、m/z688および696における特徴的な同位体二重線を表し、一方、付加物IIは5.8分の保持時間において現れ、そして図1Cに示されるように、m/z654および662Daにおける特徴的な同位体二重線を表した。
【0122】
例3:クロザピン
クロザピンは、ソフト反応性代謝物の検出に対する本発明の方法の応用を例証するために試験化合物として選ばれた。
【0123】
クロザピンの単一の反応性代謝物および対応する付加物の形成は、下記スキームE2に
略記されているとおりである。以下に略記される反応において、クロザピンの反応性代謝物は、−SH部分を介して式(I)の非同位体標識化合物および式(I−IS)の同位体標識化合物との付加物を形成する。明らかにするために、式(I)の非同位体標識化合物との付加物のみが以下に示される。当業者は、式(I−IS)の同位体標識化合物との付加物が、同位体標識においてのみ異なる同じ構造を有することを認識できる。
【0124】
【化26】
【0125】
図2Aは、反応混合物について得られた129Daのニュートラルロス走査の総イオンクロマトグラム(MS)を示している。数種の成分がニュートラル走査に対する正の応答を示すが、5.4分の保持時間における1成分のみが、図2Bに示されるように、m/z703および711Daにおける特徴的な同位体二重線を表した。
【0126】
例4:p−クレゾール
p−クレゾールは、ソフト反応性代謝物の検出に対する本発明の方法の応用を例証するために試験化合物として選ばれた。
【0127】
p−クレゾールの2種の反応性代謝物および対応する付加物の形成は、下記スキームE3に略記されているとおりである。以下に略記される反応において、p−クレゾールの反応性代謝物は、−SH部分を介して式(I)の非同位体標識化合物および式(I−IS)の同位体標識化合物との付加物を形成する。明らかにするために、式(I)の非同位体標識化合物との付加物のみが以下に示される。当業者は、式(I−IS)の同位体標識化合物との付加物が、同位体標識においてのみ異なる同じ構造を有することを認識できる。
【0128】
【化27】
【0129】
図3Aは、反応混合物について得られた129Daのニュートラルロス走査の総イオンクロマトグラム(MS)を示している。2種の成分が特徴的な同位体二重線を示した。付加物Iは0.64分の保持時間をもち、図3Bに示されるように、m/z485および493Daにおける同位体二重線を示した。付加物IIは0.71分の保持時間をもち、図3Cに示されるように、m/z501および509Daにおける同位体二重線を示した。
【0130】
例5:オメプラゾール
オメプラゾールは、ソフト反応性代謝物の検出に対する本発明の方法の応用を例証するために試験化合物として選ばれた。
【0131】
オメプラゾールの単一の反応性代謝物および対応する付加物の形成は、下記スキームE
4に略記されているとおりである。以下に略記される反応において、オメプラゾールの反応性代謝物は、−SH部分を介して式(I)の非同位体標識化合物および式(I−IS)の同位体標識化合物との付加物を形成する。明らかにするために、式(I)の非同位体標識化合物との付加物のみが以下に示される。当業者は、式(I−IS)の同位体標識化合物との付加物が、同位体標識においてのみ異なる同じ構造を有することを認識できる。
【0132】
【化28】
【0133】
図4Aは、反応混合物について得られた129Daのニュートラルロス走査の総イオンクロマトグラム(MS)を示している。5.3分の保持時間における1成分のみが、図4Bに示されるように、m/z723および731Daにおいて特徴的な同位体二重線を表した。
【0134】
例6:フラン
フランは、ハード反応性代謝物の検出に対する本発明の方法の応用を例証するために試験化合物として選ばれた。
【0135】
フランの単一の反応性代謝物および対応する付加物の形成は、下記スキームE5に略記されているとおりである。以下に略記される反応において、フランの反応性代謝物は、−SH部分と末端−NH2部分の両部分を介して式(I)の非同位体標識化合物および式(I−IS)の同位体標識化合物との付加物を形成する。明らかにするために、式(I)の非同位体標識化合物との付加物のみが以下に示される。当業者は、式(I−IS)の同位体標識化合物との付加物が、同位体標識においてのみ異なる同じ構造を有することを認識できる。
【0136】
【化29】
【0137】
図5Aは、反応混合物について得られた129Daのニュートラルロス走査の総イオンクロマトグラム(MS)を示している。8.9分の保持時間において溶出される成分が、図5Bに示されるように、m/z427および435Daにおける特徴的な同位体二重線を示した。
【0138】
例7:2−メチルフラン
2−メチルフランは、ハード反応性代謝物の検出に対する本発明の方法の応用を例証するために試験化合物として選ばれた。
【0139】
2−メチルフランの単一の反応性代謝物および対応する2種の構造異性体付加物の形成は、下記スキームE6に略記されているとおりである。以下に略記される反応において、2種メチルフランの反応性代謝物は、−SH部分と末端−NH2部分の両部分を介して式
(I)の非同位体標識化合物および式(I−IS)の同位体標識化合物との2種の構造異性体付加物を形成する。明らかにするために、式(I)の非同位体標識化合物との付加物のみが以下に示される。当業者は、式(I−IS)の同位体標識化合物との付加物が、同位体標識においてのみ異なる同じ構造を有することを認識できる。さらに、当業者は、この実験において形成された2種の構造異性体付加物がほぼ同一の質量スペクトルを生成することを認識できる。
【0140】
【化30】
【0141】
図6Aは、反応混合物について得られた129Daのニュートラルロス走査の総イオンクロマトグラム(MS)を示している。5.6および5.9分の保持時間をもつ2種の異
性体付加物は、各々図6Bに示されるように、m/z441および449Daにおける特徴的な同位体二重線を示した。
【0142】
例8:2−メントフラン
メントフランは、ハード反応性代謝物の検出に対する本発明の方法の応用を例証するために試験化合物として選ばれた。
【0143】
メントフランの単一反応性代謝物および対応する付加物の形成は、下記スキームE7に略記されているとおりである。以下に略記される反応において、メントフランの反応性代謝物は、末端−NH2部分を介して式(I)の非同位体標識化合物および式(I−IS)の同位体標識化合物との付加物を形成する。明らかにするために、式(I)の非同位体標識化合物との付加物のみが以下に示される。当業者は、式(I−IS)の同位体標識化合物との付加物が、同位体標識においてのみ異なる同じ構造を有することを認識できる。
【0144】
【化31】
【0145】
図7Aは、反応混合物について得られた129Daのニュートラルロス走査の総イオンクロマトグラム(MS)を示している。5.9分の保持時間における1成分は、図7Bに示されるように、m/z527および535Daにおける特徴的な同位体二重線を示した
。
【0146】
例9:2−(2−チエニル)−フラン
2−(2−チエニル)−フランは、両、ハードおよびソフト反応性代謝物の検出に対する本発明の方法の応用を例証するために試験化合物として選ばれた。
【0147】
2−(2−チエニル)−フランの反応性代謝物および続く式(I)の化合物および式(I−IS)の同位体標識化合物(これ以降「トラッピング作用物GSK」と呼ばれる)との付加物の形成は、下記スキームE8およびE9に略記されているとおりである。より具体的には、スキーム8は、ハード反応性代謝物(H1)を生成するフラン環の開環、ソフト反応性代謝物(S1)を生成するチオフェン環のエポキシ化、および対応する付加物の形成を示す。さらに、スキーム9は、反応性代謝物(S1)の異性化による第2のハード反応性代謝物(H2)の形成、およびその対応する付加物の形成を示す。(H1)反応性代謝物は、−SH部分と末端−NH2部分の両方を介して式(I)の非同位体標識化合物および式(I−IS)の同位体標識化合物との付加物を形成し;(S1)反応性代謝物は、両−SH部分を介して式(I)の非同位体標識化合物および式(I−IS)の同位体標識化合物との付加物を形成し;そして(H3)反応性代謝物は、末端−NH2部分を介して式(I)の非同位体標識化合物および式(I−IS)の同位体標識化合物との付加物を形成する。明らかにするために、式(I)の非同位体標識化合物との付加物のみが以下に示される。当業者は、式(I−IS)の同位体標識化合物との付加物が、同位体標識においてのみ異なる同じ構造を有することを認識できる。
【0148】
【化32】
【0149】
【化33】
【0150】
図8Aは、反応混合物について得られた129Daのニュートラルロス走査の総イオンクロマトグラム(MS)を示している。6.5分の保持時間をもつ付加物Iは、図8Bに示されるように、m/z509および517Daにおける特徴的な同位体二重線を示し;付加物IIは、図8Cに示されるように、m/z527および535Daにおける特徴的な同位体二重線を示し;そして付加物IIIは、図8Dに示されるように、m/z495および503Daにおける特徴的な同位体二重線を示した。
【0151】
前記明細書は、具体的な説明を目的として提供された実施例により、本発明の原理を教示しているが、本発明の実行が、次に示す請求項およびそれらの等価物の範囲内に入るような通常の変更、適合および/または修飾のすべてを包含することは理解できる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)の同位体標識化合物
【化1】
[式中、星印の基における炭素、窒素、酸素、硫黄または置換不可能な水素原子の1個以上が同位体標識されている]。
【請求項2】
式(I)の同位体標識化合物は、13C,15N,18Oおよび2Hからなる群から選ばれる少なくとも1個の同位体により標識されている、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
式(I)の同位体標識化合物は、13Cおよび15Nからなる群から選ばれる1〜10個の同位体により標識されている、請求項2に記載の化合物。
【請求項4】
6個の炭素原子が13C同位体により同位体標識され、そして2個の窒素原子が15N同位体により標識されている、請求項3に記載の化合物。
【請求項5】
式(I−IS)の同位体標識化合物
【化2】
【請求項6】
(a)式(I)の化合物
【化3】
および薬物代謝酵素とともに試験化合物をインキュベートして、1種以上の付加物を含む生成物混合物を生成し;そして
(b)段階(a)の付加物を検出する;
ことを含む、試験化合物の反応性代謝物を検出する方法。
【請求項7】
(a)式(I)の同位体標識化合物
【化4】
[式中、星印の基における炭素、窒素、酸素、硫黄または置換不可能な水素原子の1個以上が同位体標識されている]および薬物代謝酵素とともに試験化合物をインキュベートして、1種以上の付加物を含む生成物混合物を生成し;そして
(b)段階(a)の1種以上の付加物を検出する;
ことを含む、試験化合物の反応性代謝物を検出する方法。
【請求項8】
(a)式(I)の化合物
【化5】
式(I)の同位体標識化合物
【化6】
[式中、星印の基における炭素、窒素、酸素、硫黄または置換不可能な水素原子の1個以上が同位体標識されている]
および薬物代謝酵素を含む混合物とともに試験化合物をインキュベートして、1種以上の付加物を含む生成物混合物を生成し;
(b)段階(a)の1種以上の付加物を検出する;
ことを含む、試験化合物の反応性代謝物を検出する方法。
【請求項9】
(a)式(I)の化合物
【化7】
式(I)の同位体標識化合物
【化8】
[式中、星印の基における炭素、窒素、酸素、硫黄または置換不可能な水素原子の1個以上が同位体標識されている]
および薬物代謝酵素を含む混合物とともに試験化合物をインキュベートして、1種以上の付加物を含む生成物混合物を生成し;
(b)段階(a)において生成された1種以上の付加物のニュートラルロス質量スペクトルにおいて1種以上の同位体二重線を検出し、ここで、二重線は、式(I)の化合物と式(I)の同位体標識化合物との間の質量における差異だけ質量において異なる;
ことを含む、試験化合物の反応性代謝物を検出する方法。
【請求項10】
式(I)の同位体標識化合物は、13C,15N,18Oおよび2Hからなる群から選ばれる少なくとも1個の同位体により標識されている、請求項9の方法。
【請求項11】
式(I)の同位体標識化合物は、13Cおよび15Nからなる群から選ばれる1〜10個の同位体により標識されている、請求項10の方法。
【請求項12】
式(I)の同位体標識化合物は、6個の13C原子および2個の15N原子により標識されている、請求項9の方法。
【請求項13】
式(I)の同位体標識化合物に対する 式(I)の化合物のモル比は約1:1である、請求項9の方法。
【請求項14】
同位体二重線が8質量ユニットの質量だけ異なる、請求項13の方法。
【請求項15】
薬物代謝酵素がヒト肝臓ミクロソームである、請求項9の方法。
【請求項16】
薬物代謝酵素が、NADPH補因子と組み合わされたチトクロームP450酵素またはNADPH再生系と組み合わされたチトクロームP450酵素である、請求項9の方法。
【請求項17】
ニュートラルロス質量スペクトルがESI−MS/MSまたはLS/MSを使用して測定される、請求項9の方法。
【請求項18】
式(I)の同位体標識化合物が、式(I−IS)の化合物
【化9】
である、請求項9の方法。
【請求項19】
式(I−IS)の同位体標識化合物に対する式(I)の化合物のモル比は約1:1である、請求項18の方法。
【請求項20】
薬物代謝酵素が、ヒト肝臓ミクロソーム、NADPH補因子と組み合わされたチトクロームP450酵素およびNADPH再生系と組み合わされたチトクロームP450酵素からなる群から選ばれる、請求項19の方法。
【請求項21】
ニュートラルロス質量スペクトルがESI−MS/MSまたはLS/MSを使用して測定される、請求項20の方法。
【請求項22】
式(I)の化合物
【化10】
および式(I)の同位体標識化合物
【化11】
[式中、星印の基における炭素、窒素、酸素、硫黄または置換不可能な水素原子の1個以上が同位体標識されている]
を含む混合物。
【請求項23】
式(I)の同位体標識化合物に対する式(I)の化合物のモル比は約1:1である、請求項22の混合物。
【請求項24】
式(I)の同位体標識化合物は、6個の13C原子および2個の15N原子により標識されている、請求項23の化合物。
【請求項25】
(a)反応性代謝物および式(I)の化合物
【化12】
の共有結合複合体、
および(b)反応性代謝物および式(I)の同位体標識化合物
【化13】
[式中、星印の基における炭素、窒素、酸素、硫黄または置換不可能な水素原子の1個以上が同位体標識されている]
の共有結合複合体を含む混合物。
【請求項26】
式(I)の同位体標識化合物が、式(I−IS)の化合物
【化14】
である、請求項25の混合物。
【請求項27】
反応性代謝物および式(I)の非同位体標識化合物の共有結合複合体、および反応性代謝物および式(I)の同位体標識化合物の共有結合複合体のモル比は約1:1である、請求項25の混合物。
【請求項28】
(a)式(I)の化合物
【化15】
式(I−IS)の同位体標識化合物
【化16】
および薬物代謝酵素を含む混合物とともに試験化合物をインキュベートして、1種以上の付加物を含む生成物混合物を生成し;
(b)段階(a)において生成された1種以上の付加物のニュートラルロス質量スペクトルを測定し;そして
(c)段階(b)のニュートラルロス質量スペクトルにおける1種以上の同位体二重線を検出し、ここで、同位体二重線は、質量において8Daだけ異なる;
ことを含む、試験化合物の反応性代謝物を検出する方法。
【請求項29】
段階A:
(a)試験化合物;
(b)式(I)の化合物
【化17】
(c)式(I−IS)の同位体標識化合物
【化18】
(ここで、式(I−IS)の同位体標識化合物に対する式(I)の化合物のモル比は約1:1である);および
(d)ヒト肝臓ミクロソーム、NADPH補因子と組み合わされたチトクロームP450酵素およびNADPH再生系と組み合わされたチトクロームP450酵素からなる群から選ばれる薬物代謝酵素;
を含む混合物をインキュベートして、
(a)非反応性代謝物;
(b)式(I)の化合物と反応性代謝物との間で形成される付加物;および
(c)式(I−IS)の同位体標識化合物と反応性代謝物との間で形成される付加物;
からなる群から選ばれる1種以上のインキュベーション生成物を含む生成物混合物を生成し;
段階B:段階(A)において生成された生成物混合物のニュートラルロス質量スペクトルを測定し;そして
段階C:段階(B)のニュートラルロス質量スペクトルにおける1種以上の同位体二重線を検出し、ここで、同位体二重線は、質量において8Daだけ異なる;
ことを含む、試験化合物の反応性代謝物を検出する方法。
【請求項30】
(a)式(I)の非同位体標識化合物
【化19】
式(I)の同位体標識化合物
【化20】
[式中、星印の基における炭素、窒素、酸素、硫黄および/または置換不可能な水素原子の1個以上が同位体標識されている]、
および薬物代謝酵素を含む混合物とともに試験化合物をインキュベートして、1種以上の付加物を含む生成物混合物を生成し;
(b)段階(a)の1種以上の付加物を分離し;
(c)該分離された付加物のニュートラルロス質量スペクトルを測定し;
(d)該分離付加物のニュートラルロス質量スペクトルにおける1種以上の同位体二重線を検出し、ここで、二重線は、式(I)の非同位体標識化合物と式(I)の同位体標識化合物との間の質量における差異だけ質量において異なる;
ことを含む、試験化合物の反応性代謝物を検出する方法。
【請求項31】
(a)式(I)の非同位体標識化合物
【化21】
式(I−IS)の同位体標識化合物
【化22】
(ここで、式(I−IS)の同位体標識化合物に対する式(I)の化合物のモル比は約1:1である);
および薬物代謝酵素を含む混合物とともに試験化合物をインキュベートして、1種以上の付加物を含む生成物混合物を生成し;
(b)段階(a)の1種以上の付加物を分離し;
(c)該分離された付加物のニュートラルロス質量スペクトルを測定し;
(d)該分離付加物のニュートラルロス質量スペクトルにおける1種以上の同位体二重線を検出し、ここで、二重線は8Daだけ質量において異なる;
ことを含む、試験化合物の反応性代謝物を検出する方法。
【請求項32】
(a)式(I)の非同位体標識化合物
【化23】
式(I)の同位体標識化合物
【化24】
[式中、星印の基における炭素、窒素、酸素、硫黄または置換不可能な水素原子の1個以上が同位体標識されている]、
および薬物代謝酵素を含む混合物とともに試験化合物をインキュベートして、生成物混合物を生成し;
(b)段階(a)において生成された生成物混合物のニュートラルロス質量スペクトルを測定し;そして
(c)段階(b)のニュートラルロス質量スペクトルにおける同位体二重線の不在を検出する;
ことを含む、薬物候補物を同定する方法。
【請求項33】
式(I)の同位体標識化合物は、6個の13C原子および2個の15N原子により標識されている、請求項32の方法。
【請求項34】
式(I)の同位体標識化合物に対する式(I)の化合物のモル比は約1:1である、請求項33の方法。
【請求項35】
薬物代謝酵素が、NADPH補因子と組み合わされたチトクロームP450酵素またはNADPH再生系と組み合わされたチトクロームP450酵素である、請求項34の方法。
【請求項36】
ニュートラルロス質量スペクトルがESI−MS/MSまたはLS/MSを使用して測定される、請求項35の方法。
【請求項37】
(a)式(I)の非同位体標識化合物
【化25】
式(I−IS)の同位体標識化合物
【化26】
および薬物代謝酵素を含む混合物とともに試験化合物をインキュベートして、生成物混合物を生成し;
(b)段階(a)において生成された生成物混合物のニュートラルロス質量スペクトルを測定し;そして
(c)段階(b)のニュートラルロス質量スペクトルにおける同位体二重線の不在を検出する;
ことを含む、薬物候補物を同定する方法。
【請求項38】
式(I)の同位体標識化合物に対する式(I)の化合物のモル比は約1:1である、請求項37の方法。
【請求項39】
薬物代謝酵素が、NADPH補因子と組み合わされたチトクロームP450酵素またはNADPH再生系と組み合わされたチトクロームP450酵素である、請求項38の方法。
【請求項40】
ニュートラルロス質量スペクトルがESI−MS/MSまたはLS/MSを使用して測定される、請求項39の方法。
【請求項1】
式(I)の同位体標識化合物
【化1】
[式中、星印の基における炭素、窒素、酸素、硫黄または置換不可能な水素原子の1個以上が同位体標識されている]。
【請求項2】
式(I)の同位体標識化合物は、13C,15N,18Oおよび2Hからなる群から選ばれる少なくとも1個の同位体により標識されている、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
式(I)の同位体標識化合物は、13Cおよび15Nからなる群から選ばれる1〜10個の同位体により標識されている、請求項2に記載の化合物。
【請求項4】
6個の炭素原子が13C同位体により同位体標識され、そして2個の窒素原子が15N同位体により標識されている、請求項3に記載の化合物。
【請求項5】
式(I−IS)の同位体標識化合物
【化2】
【請求項6】
(a)式(I)の化合物
【化3】
および薬物代謝酵素とともに試験化合物をインキュベートして、1種以上の付加物を含む生成物混合物を生成し;そして
(b)段階(a)の付加物を検出する;
ことを含む、試験化合物の反応性代謝物を検出する方法。
【請求項7】
(a)式(I)の同位体標識化合物
【化4】
[式中、星印の基における炭素、窒素、酸素、硫黄または置換不可能な水素原子の1個以上が同位体標識されている]および薬物代謝酵素とともに試験化合物をインキュベートして、1種以上の付加物を含む生成物混合物を生成し;そして
(b)段階(a)の1種以上の付加物を検出する;
ことを含む、試験化合物の反応性代謝物を検出する方法。
【請求項8】
(a)式(I)の化合物
【化5】
式(I)の同位体標識化合物
【化6】
[式中、星印の基における炭素、窒素、酸素、硫黄または置換不可能な水素原子の1個以上が同位体標識されている]
および薬物代謝酵素を含む混合物とともに試験化合物をインキュベートして、1種以上の付加物を含む生成物混合物を生成し;
(b)段階(a)の1種以上の付加物を検出する;
ことを含む、試験化合物の反応性代謝物を検出する方法。
【請求項9】
(a)式(I)の化合物
【化7】
式(I)の同位体標識化合物
【化8】
[式中、星印の基における炭素、窒素、酸素、硫黄または置換不可能な水素原子の1個以上が同位体標識されている]
および薬物代謝酵素を含む混合物とともに試験化合物をインキュベートして、1種以上の付加物を含む生成物混合物を生成し;
(b)段階(a)において生成された1種以上の付加物のニュートラルロス質量スペクトルにおいて1種以上の同位体二重線を検出し、ここで、二重線は、式(I)の化合物と式(I)の同位体標識化合物との間の質量における差異だけ質量において異なる;
ことを含む、試験化合物の反応性代謝物を検出する方法。
【請求項10】
式(I)の同位体標識化合物は、13C,15N,18Oおよび2Hからなる群から選ばれる少なくとも1個の同位体により標識されている、請求項9の方法。
【請求項11】
式(I)の同位体標識化合物は、13Cおよび15Nからなる群から選ばれる1〜10個の同位体により標識されている、請求項10の方法。
【請求項12】
式(I)の同位体標識化合物は、6個の13C原子および2個の15N原子により標識されている、請求項9の方法。
【請求項13】
式(I)の同位体標識化合物に対する 式(I)の化合物のモル比は約1:1である、請求項9の方法。
【請求項14】
同位体二重線が8質量ユニットの質量だけ異なる、請求項13の方法。
【請求項15】
薬物代謝酵素がヒト肝臓ミクロソームである、請求項9の方法。
【請求項16】
薬物代謝酵素が、NADPH補因子と組み合わされたチトクロームP450酵素またはNADPH再生系と組み合わされたチトクロームP450酵素である、請求項9の方法。
【請求項17】
ニュートラルロス質量スペクトルがESI−MS/MSまたはLS/MSを使用して測定される、請求項9の方法。
【請求項18】
式(I)の同位体標識化合物が、式(I−IS)の化合物
【化9】
である、請求項9の方法。
【請求項19】
式(I−IS)の同位体標識化合物に対する式(I)の化合物のモル比は約1:1である、請求項18の方法。
【請求項20】
薬物代謝酵素が、ヒト肝臓ミクロソーム、NADPH補因子と組み合わされたチトクロームP450酵素およびNADPH再生系と組み合わされたチトクロームP450酵素からなる群から選ばれる、請求項19の方法。
【請求項21】
ニュートラルロス質量スペクトルがESI−MS/MSまたはLS/MSを使用して測定される、請求項20の方法。
【請求項22】
式(I)の化合物
【化10】
および式(I)の同位体標識化合物
【化11】
[式中、星印の基における炭素、窒素、酸素、硫黄または置換不可能な水素原子の1個以上が同位体標識されている]
を含む混合物。
【請求項23】
式(I)の同位体標識化合物に対する式(I)の化合物のモル比は約1:1である、請求項22の混合物。
【請求項24】
式(I)の同位体標識化合物は、6個の13C原子および2個の15N原子により標識されている、請求項23の化合物。
【請求項25】
(a)反応性代謝物および式(I)の化合物
【化12】
の共有結合複合体、
および(b)反応性代謝物および式(I)の同位体標識化合物
【化13】
[式中、星印の基における炭素、窒素、酸素、硫黄または置換不可能な水素原子の1個以上が同位体標識されている]
の共有結合複合体を含む混合物。
【請求項26】
式(I)の同位体標識化合物が、式(I−IS)の化合物
【化14】
である、請求項25の混合物。
【請求項27】
反応性代謝物および式(I)の非同位体標識化合物の共有結合複合体、および反応性代謝物および式(I)の同位体標識化合物の共有結合複合体のモル比は約1:1である、請求項25の混合物。
【請求項28】
(a)式(I)の化合物
【化15】
式(I−IS)の同位体標識化合物
【化16】
および薬物代謝酵素を含む混合物とともに試験化合物をインキュベートして、1種以上の付加物を含む生成物混合物を生成し;
(b)段階(a)において生成された1種以上の付加物のニュートラルロス質量スペクトルを測定し;そして
(c)段階(b)のニュートラルロス質量スペクトルにおける1種以上の同位体二重線を検出し、ここで、同位体二重線は、質量において8Daだけ異なる;
ことを含む、試験化合物の反応性代謝物を検出する方法。
【請求項29】
段階A:
(a)試験化合物;
(b)式(I)の化合物
【化17】
(c)式(I−IS)の同位体標識化合物
【化18】
(ここで、式(I−IS)の同位体標識化合物に対する式(I)の化合物のモル比は約1:1である);および
(d)ヒト肝臓ミクロソーム、NADPH補因子と組み合わされたチトクロームP450酵素およびNADPH再生系と組み合わされたチトクロームP450酵素からなる群から選ばれる薬物代謝酵素;
を含む混合物をインキュベートして、
(a)非反応性代謝物;
(b)式(I)の化合物と反応性代謝物との間で形成される付加物;および
(c)式(I−IS)の同位体標識化合物と反応性代謝物との間で形成される付加物;
からなる群から選ばれる1種以上のインキュベーション生成物を含む生成物混合物を生成し;
段階B:段階(A)において生成された生成物混合物のニュートラルロス質量スペクトルを測定し;そして
段階C:段階(B)のニュートラルロス質量スペクトルにおける1種以上の同位体二重線を検出し、ここで、同位体二重線は、質量において8Daだけ異なる;
ことを含む、試験化合物の反応性代謝物を検出する方法。
【請求項30】
(a)式(I)の非同位体標識化合物
【化19】
式(I)の同位体標識化合物
【化20】
[式中、星印の基における炭素、窒素、酸素、硫黄および/または置換不可能な水素原子の1個以上が同位体標識されている]、
および薬物代謝酵素を含む混合物とともに試験化合物をインキュベートして、1種以上の付加物を含む生成物混合物を生成し;
(b)段階(a)の1種以上の付加物を分離し;
(c)該分離された付加物のニュートラルロス質量スペクトルを測定し;
(d)該分離付加物のニュートラルロス質量スペクトルにおける1種以上の同位体二重線を検出し、ここで、二重線は、式(I)の非同位体標識化合物と式(I)の同位体標識化合物との間の質量における差異だけ質量において異なる;
ことを含む、試験化合物の反応性代謝物を検出する方法。
【請求項31】
(a)式(I)の非同位体標識化合物
【化21】
式(I−IS)の同位体標識化合物
【化22】
(ここで、式(I−IS)の同位体標識化合物に対する式(I)の化合物のモル比は約1:1である);
および薬物代謝酵素を含む混合物とともに試験化合物をインキュベートして、1種以上の付加物を含む生成物混合物を生成し;
(b)段階(a)の1種以上の付加物を分離し;
(c)該分離された付加物のニュートラルロス質量スペクトルを測定し;
(d)該分離付加物のニュートラルロス質量スペクトルにおける1種以上の同位体二重線を検出し、ここで、二重線は8Daだけ質量において異なる;
ことを含む、試験化合物の反応性代謝物を検出する方法。
【請求項32】
(a)式(I)の非同位体標識化合物
【化23】
式(I)の同位体標識化合物
【化24】
[式中、星印の基における炭素、窒素、酸素、硫黄または置換不可能な水素原子の1個以上が同位体標識されている]、
および薬物代謝酵素を含む混合物とともに試験化合物をインキュベートして、生成物混合物を生成し;
(b)段階(a)において生成された生成物混合物のニュートラルロス質量スペクトルを測定し;そして
(c)段階(b)のニュートラルロス質量スペクトルにおける同位体二重線の不在を検出する;
ことを含む、薬物候補物を同定する方法。
【請求項33】
式(I)の同位体標識化合物は、6個の13C原子および2個の15N原子により標識されている、請求項32の方法。
【請求項34】
式(I)の同位体標識化合物に対する式(I)の化合物のモル比は約1:1である、請求項33の方法。
【請求項35】
薬物代謝酵素が、NADPH補因子と組み合わされたチトクロームP450酵素またはNADPH再生系と組み合わされたチトクロームP450酵素である、請求項34の方法。
【請求項36】
ニュートラルロス質量スペクトルがESI−MS/MSまたはLS/MSを使用して測定される、請求項35の方法。
【請求項37】
(a)式(I)の非同位体標識化合物
【化25】
式(I−IS)の同位体標識化合物
【化26】
および薬物代謝酵素を含む混合物とともに試験化合物をインキュベートして、生成物混合物を生成し;
(b)段階(a)において生成された生成物混合物のニュートラルロス質量スペクトルを測定し;そして
(c)段階(b)のニュートラルロス質量スペクトルにおける同位体二重線の不在を検出する;
ことを含む、薬物候補物を同定する方法。
【請求項38】
式(I)の同位体標識化合物に対する式(I)の化合物のモル比は約1:1である、請求項37の方法。
【請求項39】
薬物代謝酵素が、NADPH補因子と組み合わされたチトクロームP450酵素またはNADPH再生系と組み合わされたチトクロームP450酵素である、請求項38の方法。
【請求項40】
ニュートラルロス質量スペクトルがESI−MS/MSまたはLS/MSを使用して測定される、請求項39の方法。
【図1A】
【図1B】
【図1C】
【図2A】
【図2B】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図4A】
【図4B】
【図5A】
【図5B】
【図6A】
【図6B】
【図7A】
【図7B】
【図8A】
【図8B】
【図8C】
【図8D】
【図1B】
【図1C】
【図2A】
【図2B】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図4A】
【図4B】
【図5A】
【図5B】
【図6A】
【図6B】
【図7A】
【図7B】
【図8A】
【図8B】
【図8C】
【図8D】
【公表番号】特表2010−504991(P2010−504991A)
【公表日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−530542(P2009−530542)
【出願日】平成19年9月24日(2007.9.24)
【国際出願番号】PCT/US2007/079298
【国際公開番号】WO2008/042634
【国際公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【出願人】(390033008)ジヤンセン・フアーマシユーチカ・ナームローゼ・フエンノートシヤツプ (616)
【氏名又は名称原語表記】JANSSEN PHARMACEUTICA NAAMLOZE VENNOOTSCHAP
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年2月18日(2010.2.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年9月24日(2007.9.24)
【国際出願番号】PCT/US2007/079298
【国際公開番号】WO2008/042634
【国際公開日】平成20年4月10日(2008.4.10)
【出願人】(390033008)ジヤンセン・フアーマシユーチカ・ナームローゼ・フエンノートシヤツプ (616)
【氏名又は名称原語表記】JANSSEN PHARMACEUTICA NAAMLOZE VENNOOTSCHAP
【Fターム(参考)】
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