説明

含ふっ素エラストマ被覆電線

【課題】難燃性をより向上し、かつ環境に配慮した含ふっ素エラストマ被覆電線を提供する。
【解決手段】テトラフルオロエチレン−プロピレン系共重合体100重量部に対して、三酸化アンチモンを0.5〜20重量部添加してなり、ハロゲン化合物からなる難燃剤を含まない組成物を、導体の外周に被覆層として形成したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含ふっ素エラストマ被覆電線に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、高耐熱性および可とう性が要求される電線の被覆材料として、テトラフルオロエチレン−プロピレン系共重合体が用いられている。テトラフルオロエチレン−プロピレン系共重合体は、可とう性、熱安定性、電気絶縁性、耐熱性、耐油性、耐薬品性、および難燃性に優れ、かつ架橋可能な含ふっ素エラストマ共重合体である。
【0003】
従来、この共重合体を導体上または電線外周に被覆し、パーオキサイドを用いて加熱架橋したり、電離性放射線などを照射して架橋したりすることによって、含ふっ素エラストマ被覆電線を得ていた。
【0004】
なお、この出願の発明に関連する先行技術文献情報としては、次のものがある。
【0005】
【特許文献1】特開昭63−284713号公報
【特許文献2】特開平10−116521号公報
【特許文献3】特開平6−181008号公報
【特許文献4】特開平8−315646号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来、機器用電線のように小サイズの電線、例えば22AWG(American Wire gauge)以下の電線では、UL(Underwriters Laboratories Inc.)規格のVW−1のような難燃性の厳しい試験において、芯線径と絶縁体厚さの組み合わせによっては合格しないケースがある。このような特殊サイズに対して、塩素系や臭素系の難燃剤を加えて高難燃化する手法があるが、最近の環境保護の趨勢から、これらの難燃剤を規制する傾向がある。
【0007】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決するため難燃性をより向上し、かつ環境に配慮した含ふっ素エラストマ被覆電線を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は上記目的を達成するために創案されたものであり、請求項1の発明は、テトラフルオロエチレン−プロピレン系共重合体100重量部に対して、三酸化アンチモンを0.5〜20重量部添加してなり、ハロゲン化合物からなる難燃剤を含まない組成物を、導体の外周に被覆層として形成した含ふっ素エラストマ被覆電線である。
【0009】
請求項2の発明は、上記被覆層を架橋剤を用いて、または電子線や紫外線を照射して架橋処理してなる請求項1記載の含ふっ素エラストマ被覆電線である。
【0010】
請求項3の発明は、上記含ふっ素エラストマ被覆電線が、UL VW−1の垂直難燃試験に合格する請求項1または2記載の含ふっ素エラストマ被覆電線である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、難燃性に優れた含ふっ素エラストマ被覆電線を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。
【0013】
テトラフルオロエチレン−プロピレン系共重合体は、それ自身高い難燃性を有する。しかし、芯線サイズが22AWG以下で、かつ絶縁体(被覆層)肉厚が0.4mm以上の小サイズ厚肉電線構造(例えば、エアコンやレンジなどの熱器具用配線用途)においては、UL VW−1のような垂直難燃性を満足しない場合が生じる。
【0014】
そこで、本発明者は上述した垂直難燃性を満足させるため、まず、テトラフルオロエチレン−プロピレン系共重合体100重量部に対して、配合剤(添加剤)の一部を構成する難燃助剤としての三酸化アンチモンを0.5〜20重量部、好ましくは5〜15重量部添加することで、本実施形態に係る樹脂組成物が得られることを見出した。
【0015】
さらに、本発明者は、この樹脂組成物を導体の外周に被覆層として形成することで、機械的な特性や、耐熱性を損なうことなく難燃性を向上すること、および発煙量を低減する本実施形態に係る含ふっ素エラストマ被覆電線が得られることを見出した。
【0016】
一般に難燃剤の添加は耐熱老化特性(耐熱性)の低下や、発煙量の増加を招くが、本実施形態では、難燃剤としてのハロゲン化合物が不要となる難燃助剤として、三酸化アンチモンを選択することによって、良好な難燃性と少ない発煙量の両方の特性が得られる。
【0017】
三酸化アンチモンの添加量を0.5〜20重量部に制限したのは、0.5重量部未満では、難燃性向上および発煙性低減に対する効果がなく、また、20重量部を超えてもそれ以上の難燃効果はなく、むしろ耐熱性を低下させるからである。
【0018】
三酸化アンチモンは、平均粒径によって難燃性向上、発煙性低減効果が若干変化するので、平均粒径が1〜2μmのものを用いるとよい。
【0019】
テトラフルオロエチレン−プロピレン系共重合体は、主成分であるテトラフルオロエチレンおよびプロピレンと、これらと共重合可能な成分とで構成される。
【0020】
テトラフルオロエチレンおよびプロピレン系と共重合可能な成分として、例えば、エチレン、ブテン−1、イソブテン、アクリル酸およびそのアルキルエステル、メタクリル酸およびそのアルキルエステル、ふっ化ビニル、ふっ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロペン、クロロエチルビニルエーテル、グリシジルビニルエーテル、クロロトリフルオロエチレン、パーフルオロアルキルビニルエーテルなどが挙げられる。
【0021】
テトラフルオロエチレン−プロピレン系共重合体は、耐熱性、成形性などの面から、テトラフルオロエチレンとプロピレンとのモル比が90/10〜45/55の範囲であることが好ましい。主成分以外の成分の含有量は、主成分に対して30モル%以下の範囲であることが望ましい。
【0022】
上記で得られた本実施形態に係る含ふっ素エラストマ被覆電線の被覆層に、電子線や紫外線等を照射したり、有機過酸化物などの架橋剤を用いたりするなど、被覆層を周知の方法で架橋処理して用いることが望ましい。
【0023】
本実施形態においては、上述した成分に加えて、さらに架橋助剤、上記以外の難燃助剤、酸化防止剤、滑剤、安定剤、充填剤、着色剤、シリコーンなどを添加してもよい。上記以外の難燃剤としては、例えば、すず酸亜鉛、ほう酸亜鉛、ほう酸カルシウム、メラミンシアヌレートから選ばれた1種以上の難燃助剤が挙げられる。これら難燃助剤は、一般の難燃剤が耐熱老化特性の低下を招くのに対し、難燃性と耐熱老化特性の両特性が得られるという利点がある。
【0024】
以上の本実施形態に係る構成によれば、小サイズ厚肉電線に対しても優れた難燃性を有する含ふっ素エラストマ被覆電線が得られる。
【0025】
本実施形態に係る樹脂組成物は、上述した電線被覆材の他に、耐熱性が要求されるゴムパッキンやシール材としても応用することが可能である。
【0026】
また、本実施形態に係る含ふっ素エラストマ被覆電線は、小サイズ厚肉電線として、芯線サイズ22〜30AWGまで応用できる。
【0027】
上記実施形態では、本実施形態に係る樹脂組成物を電線に使用した例で説明したが、上述した電線を用いてケーブルを作製してもよい。また、ケーブルの場合には、最外層のシースに本実施形態に係る樹脂組成物を使用してもよい。
【実施例】
【0028】
(実施例1〜5)
表1に示す配合剤を50〜60度に加熱したロールで15分間均一に混練してコンパウンドを形成する。表1において、テトラフルオロエチレン−プロピレン系共重合体である旭硝子社製のアフラス150E、150C、150CSは、それぞれふっ素含有量57%である。
【0029】
【表1】

【0030】
その後、このコンパウンドを、ヘッドが120℃、第1シリンダーが80℃、第2シリンダーが120℃に設定された40mm押出機(L/D=24)内にそれぞれ圧入する。その後、26AWG(導体径0.78mm)の銅撚線の外周に厚さ0.55mmに押し出して被覆層を形成すると共に、この被覆層に12気圧の蒸気を当てることによって架橋を行い、実施例1〜5の含ふっ素エラストマ被覆電線を作製した。
【0031】
(比較例1〜3)
比較例1〜3の含ふっ素エラストマ被覆電線も、実施例1〜5と同様の方法にて作製した。
【0032】
次に、実施例1〜5および比較例1〜3で作製したそれぞれの含ふっ素エラストマ被覆電線における機械特性、難燃性、耐熱老化性について評価した。それぞれの特性の評価は、以下に示す方法で行った。
(1)引張特性
それぞれの含ふっ素エラストマ被覆電線から導体を抜脱した被覆層について、JIS−K−6301に準じた引張試験を行い、引張強さ(MPa)、伸び(%)を測定した。この引張試験におけるそれぞれの引張強さ、伸びの値を初期値とする。
(2)難燃性
UL Subject758に準拠した垂直燃焼試験(VW−1)を行い、1分以内に自己消火したものを合格、1分を超えるものを不合格とした。
(3)耐熱老化性(耐熱性)
それぞれの含ふっ素エラストマ被覆電線から導体を抜脱した被覆層について、空気置換量200回/hrのギヤーオーブン(232℃)中で7日間保持した後、JIS−K−6301に準じた引張試験を行い、初期値に対する引張強さ残率(%)、伸び残率(%)を測定した。
(4)発煙量
NBSスモーク試験機を用い、JIS C0080に準拠して燻焼(ノンフレーミング)試験を実施し、発煙量が150以下を合格(○)、150を超えるものを不合格(×)とした。
【0033】
実施例1〜5および比較例1〜3の含ふっ素エラストマ被覆電線における各試験結果も表1に示した。
【0034】
表1に示すように、実施例1〜5の含ふっ素エラストマ被覆電線は、いずれも引張強さが13.6MPa以上、伸びが200%以上、難燃性が合格、熱老化後の引張強さ残率が90%以上、発煙量が150以下であり、機械特性、難燃性、耐熱性、発煙性の全てにおいて優れている。
【0035】
これに対して、比較例1および3は、三酸化アンチモンが本発明の限定量未満であり、難燃性と発煙量が不合格となった。比較例2は、難燃助剤が本発明の限定量を超えたものであり、難燃性は合格するが、耐熱老化性が著しく低下し、目標を下回った。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
テトラフルオロエチレン−プロピレン系共重合体100重量部に対して、三酸化アンチモンを0.5〜20重量部添加してなり、ハロゲン化合物からなる難燃剤を含まない組成物を、導体の外周に被覆層として形成したことを特徴とする含ふっ素エラストマ被覆電線。
【請求項2】
上記被覆層を架橋剤を用いて、または電子線や紫外線を照射して架橋処理してなる請求項1記載の含ふっ素エラストマ被覆電線。
【請求項3】
上記含ふっ素エラストマ被覆電線が、UL VW−1の垂直難燃試験に合格する請求項1または2記載の含ふっ素エラストマ被覆電線。

【公開番号】特開2013−62259(P2013−62259A)
【公開日】平成25年4月4日(2013.4.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−278834(P2012−278834)
【出願日】平成24年12月21日(2012.12.21)
【分割の表示】特願2007−314353(P2007−314353)の分割
【原出願日】平成19年12月5日(2007.12.5)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】