説明

含フッ素樹脂積層体

【課題】 フッ素樹脂の優れた耐熱性、低吸湿性、高誘電特性を維持し、織布又は不織布によって高い機械的強度、低線膨張係数及び低熱収縮率を示し、フッ素樹脂の寸法安定性を改善した高周波回路基板に適した含熱溶融フッ素樹脂積層体、及びその含フッ素樹脂銅張積層体を提供すること。
【解決手段】 織布または不織布に、熱圧着によって熱溶融性フッ素樹脂を含浸させた含フッ素樹脂積層体、及びその含フッ素樹脂銅張積層体。織布または不織布の少なくとも片面に、熱溶融性フッ素樹脂層を形成させた後、熱圧着して熱溶融性フッ素樹脂溶融体を含浸させた含フッ素樹脂積層体は好ましい態様である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱圧着により熱溶融性フッ素樹脂溶融体を、織布若しくは不織布である芯材に含浸させた含フッ素樹脂積層体に関する。更に詳しくは、熱圧着により熱溶融性フッ素樹脂溶融体を、織布若しくは不織布である芯材に含浸させることにより、線膨張係数が小さく、銅箔との剥離強度が高く、高周波数での誘電率が低く、したがって高周波用回路基板用途に好適な含フッ素樹脂積層体に関する。
【背景技術】
【0002】
電気、電子部品分野において、機器の小型化、高性能化、高密度化に伴って、耐熱性、寸法安定性、低吸湿性、銅箔との接着性、高周波数特性に優れた材料が望まれている。特に回路基板は、情報化が進むに従い、高周波特性が強く要求されている。
【0003】
高周波回路基板の基材として、フッ素樹脂は誘電率が低い材料であり、高周波の用途に適しているため、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)粉末を分散させた液をガラス基材などの織布若しくは不織布に含浸させてプリプレグを形成し、このプリプレグを積層して銅箔を張り合わせた基材(例えば、特開平8−148780号公報)、PTFEを主成分とする繊維状物にPPSフィルムを熱圧着した積層体(例えば、特許第3139515号公報)、芳香族ポリイミドフィルムの表面に、表面をコロナ放電処理などによって放電処理したフッ素樹脂フィルムを加熱下に積層した積層体(例えば、特開平8−276547号公報)、熱溶融フッ素樹脂中に液晶ポリマーが繊維状に配向したフッ素樹脂シートをお互いに異なる方向に重ね合わせて熱圧着して線膨張係数を制御した積層体(例えば、特開2003−200534号公報)、全芳香族アラミド繊維などの有機質の不織布或いは織布の芯材にエポキシ樹脂を含浸させた銅張積層板などがある(例えば、特開昭62−261190号公報)。
【0004】
しかし、上記のフィルムや積層体はそれぞれ次のような問題点を有している。すなわちポリテトラフルオロエチレン(PTFE)粉末を分散させた液をガラス基材などの織布若しくは不織布に含浸させた銅張積層板は、PTFEと銅箔の線膨張係数の差が大きいため、高温加熱接着工程でPTFE含浸プリプレグと銅箔には大きな残留応力が残存し、反りが発生する問題がある。また、フッ素系フィルム基材は接着性に乏しい問題もある。PTFE繊維状物とPPSフィルムとの積層体は、熱収縮率は小さくなるが、フッ素樹脂より誘電率が高いPPSフィルムを使用するために高周波数特性に劣る。
【0005】
また、熱溶融フッ素樹脂中に液晶ポリマーが繊維状に配向したフッ素樹脂シートをお互いに異なる方向に重ね合わせて熱圧着して線膨張係数を制御した積層体は、2枚以上の液晶ポリマーが繊維状に配向したフッ素樹脂シートを連続的にお互いに異なる方向に重ね合わせて熱圧着するのは難しい。そのため、連続的ではなく、長尺のシート熱溶融フッ素樹脂中に液晶ポリマーが繊維状に配向したフッ素樹脂シートを短く裁断してホットプレスで熱圧着する方法となり生産性が低いという問題がある。
【0006】
また、全芳香族アラミド不織布の芯材にエポキシ樹脂を含浸させた銅張積層板は、低線膨張係数、軽量である利点はあるが、含浸されたエポキシ樹脂の誘電率が高いため高周波用には使えない問題がある。
【0007】
一方本発明者らは、熱溶融性フッ素樹脂に液晶ポリマーをブレンドし、更に熱溶融性フッ素樹脂の一部に特定の官能基を持つ熱溶融性フッ素樹脂(以下、相溶化剤ということがある)を使用して熱溶融フッ素樹脂マトリックス中に液晶ポリマーを繊維状に形成させたフッ素樹脂シートは、液晶ポリマーと相溶化剤の相乗効果によって銅箔との剥離強度を向上させる効果があり、接着層がなくても銅箔との十分な接着強度が期待できることを提案した(特開2003−200534号公報)。
【0008】
本発明者らは、この技術をさらに展開させることによって、従来技術におけるような欠点を有しない回路基板材料を見出すべく検討を行った結果、後記するような高周波用回路基板材料として優れた特性を有している含フッ素樹脂積層体を見出すに至った。
【特許文献1】特開2003−200534号公報
【特許文献2】特開平8−148780号公報
【特許文献3】特開2003−200534号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、フッ素樹脂の優れた耐熱性、耐吸湿性、誘電特性を持ちながら織布若しくは不織布である芯材によって高い機械的強度、低線膨張係数及び低熱収縮率を示し、フッ素樹脂の寸法安定性問題が解消されて高周波回路基板などに適した含熱溶融フッ素樹脂積層体を提供することにある。
本発明の他の目的は、相溶化剤及び液晶ポリマーによって接着層なしで金属箔との積層を可能にした高周波回路基板に適した含フッ素樹脂積層体を提供することにある。
本発明はまた、前記含フッ素樹脂積層体に銅箔を積層した含フッ素樹脂銅張積層体の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、織布または不織布に、官能基含有熱溶融性フッ素樹脂、及び液晶ポリマーを含む熱溶融性フッ素樹脂を、熱圧着によって含浸させた含フッ素樹脂積層体を提供する。
【0011】
織布または不織布が、全芳香族ポリアミド繊維または全芳香族ポリエステル繊維からなる織布または不織布である、前記含フッ素樹脂積層体の好ましい態様である。
【0012】
前記織布または不織布が、ポリ-p-フェニレンジフェニルエーテルテレフタルアミド繊維またはポリ-p-フェニレンテレフタルアミド繊維からなる織布または不織布である前記含フッ素樹脂積層体の好ましい態様である。
【0013】
前記織布または不織布が、ポリ(アルキレンアリレート)繊維からなる織布または不織布である前記含フッ素樹脂積層体の好ましい態様である。
【0014】
全芳香族ポリアミド繊維または全芳香族ポリエステル繊維からなる織布または不織布の少なくとも片面に、熱溶融性フッ素樹脂のシートを載置するか、熱溶融性フッ素樹脂を該織布または不織布上に溶融押出しで塗布することによって熱溶融性フッ素樹脂層を形成させた後、熱圧着して熱溶融性フッ素樹脂溶融体を含浸させることにより得られる含フッ素樹脂積層体は、前記含フッ素樹脂積層体の好ましい態様である。
【0015】
熱溶融性フッ素樹脂シートが、熱溶融性フッ素樹脂中に繊維状に配向されている液晶ポリマーを含むシートである前記含フッ素樹脂積層体の好ましい態様である。
【0016】
本発明はまた、前記した含フッ素樹脂積層体に金属箔が積層された含フッ素樹脂金属張積層体を提供する。
【0017】
本発明はさらに、前記した前記含フッ素樹脂積層体であって、周波数10GHzにおける誘電率が3.0以下で、銅箔との剥離強度が0.8kg/cm以上で、線膨張係数が25×10−6/℃以下である含フッ素樹脂積層体を提供する
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、熱溶融性フッ素樹脂本来の高周波での低誘電特性を持ちながら、寸法安定性に優れ(低線膨張係数)、金属箔や熱溶融性フッ素樹脂基材との接着力も良好な含フッ素樹脂積層体或いは含フッ素樹脂銅張積層体を提供することができる。
本発明によれば、不織布芯材によって高い機械的強度、低線膨張係数及び低熱収縮率を示しながら、含浸されているフッ素樹脂の優れた耐熱性、低吸湿性、高誘電特性を有し、更に相溶化剤及び液晶ポリマーの相乗効果によって銅箔と接着力も良好な含フッ素樹脂銅張積層体或いは含フッ素樹脂積層体を提供することができる。
【0019】
本発明により、線膨張係数が小さく、銅箔との剥離強度が高く、高周波数での誘電率が低いので、高周波用回路基板材料として好適な含フッ素樹脂積層体が提供される。
また、本発明によりプリント回路基板以外にも、トランスやモータなどの絶縁シート材、耐熱性シート、プリプレグ基材、包装材料分野などにも利用できる含フッ素樹脂積層体或いは含フッ素樹脂銅張積層体が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明は、織布または不織布に、官能基含有熱溶融性フッ素樹脂、及び液晶ポリマーを含む熱溶融性フッ素樹脂を、熱圧着によって含浸させた含フッ素樹脂積層体を提供する。
【0021】
織布または不織布が、全芳香族ポリアミド繊維または全芳香族ポリエステル繊維からなる織布または不織布である含フッ素樹脂積層体は、本発明の含フッ素樹脂積層体の好ましい態様である。
【0022】
本発明の含フッ素樹脂積層体の好適な態様として、全芳香族ポリアミド繊維または全芳香族ポリエステル繊維からなる織布または不織布の少なくとも片面に、熱溶融性フッ素樹脂のシートを配置するか、熱溶融性フッ素樹脂を該織布または不織布上に溶融押出しで塗布することによって熱溶融性フッ素樹脂層を形成させた後、熱圧着して熱溶融性フッ素樹脂溶融体を含浸させることにより得られる含フッ素樹脂積層体を挙げることができる。
【0023】
本発明における全芳香族ポリアミド繊維の主たる成分である全芳香族ポリアミドは、特に制限されるものではなく、通常全芳香族ポリアミドとして知られるポリアミドを用いることができる。全芳香族ポリアミドは、アミド結合が芳香環に直結した全芳香族ポリアミドであって、例えば、(1)芳香族多価アミンと芳香族多価カルボン酸ハラミド、(2)芳香族多価アミンと芳香族多価カルボン酸エステル、(3)芳香族多価アミンと芳香族多価カルボン酸、(4)芳香族多価イソシアネートと芳香族多価カルボン酸などのモノマーの組み合わせを重縮合することによって得られるポリマーなどを挙げることができる。全芳香族ポリアミド繊維は、アラミド繊維と呼ばれることがあるので、以下全芳香族ポリアミド繊維をアラミド繊維と呼ぶことがある。
【0024】
織布若しくは不織布の主成分であるアラミド繊維としては、芳香環がメタ−メタ、メタ−パラもしくはパラーパラで結合しているポリマーからなるアラミド繊維があるが、パラ−パラで結合しているパラ型アラミド繊維は本発明の全芳香族ポリアミド繊維の好ましい例である。パラ型アラミド繊維の具体例としては、コポリ-p-フェニレン・3,4オキシジフェニレン・テレフタルアミド繊維やポリ-p-フェニレンテレフタルアミド繊維を挙げることができる。これら繊維は一方を用いるでもいいし、両者を併用してもよい。
【0025】
織布または不織布である芯材として全芳香族ポリアミド繊維を主成分とする不織布を使用する場合は、例えばパラ型アラミド繊維チョップを主成分として一般的な抄造装置によって連続的に抄造し、繊維同士をバインダで結着することにより製造することができる。繊維同士を結着するバインダとしては、熱硬化性樹脂バインダや軟化温度220℃以上の熱可塑性樹脂などを選択でき、これらを併用してもよい。上記方法により得られた芯材の不織布は、熱溶融性フッ素樹脂シートとの熱圧着工程での芯材の裂けを防止するための機械的強度向上と、フッ素樹脂積層体の熱安定性向上を目的として一対の高温熱ロールの間を通過させることが好ましい。
【0026】
本発明の織布若しくは不織布の主たる原料ととなる全芳香族ポリエステルは、特に限定されるものではなく、全芳香族ポリエステルとして知られるものから適宜選択することができる。通常全芳香族ポリエステルは、芳香族ジヒドロキシ化合物と芳香族ジカルボン酸を主な成分とするものからなるようなポリエステルをいうが、これに限定されるものではない。
本発明のポリエステルとしてポリアリレートと呼ばれるものを使用することができるが、好ましいポリエステルの具体例は以下の説明から明らかとなる。
【0027】
本発明で使用できる全芳香族ポリエステルの例として、芳香族又は脂肪族ジヒドロキシ化合物、芳香族又は脂肪族ジカルボン酸、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ジアミン、芳香族ヒドロキシアミンまたはアミンカルボン酸に分類される化合物及びその誘導体から導かれる公知のサーモトロピック液晶ポリエステル及びサーモトロピック液晶ポリエステルアミドを挙げることができる。但し、異方性の溶融相を形成し得るポリマーを得るためには、各々の原料化合物の組み合わせには適当な範囲があることはいうまでもない。
【0028】
また、本発明の全芳香族ポリエステルとして、ポリ(アルキレンアリレート)を用いてもよい。ポリ(アルキレンアリレート)としては、脂肪族ジオール単位と芳香族ジカルボン酸単位とから主としてなるポリ(アルキレンアリレート)が用いられる。そのうちでもポリ(アルキレンアリレート)としては、エチレングリコール単位及び/または1,4−ブタンジオール単位からなるアルキレングリコール単位と、テレフタル酸単位からなるジカルボン酸単位より主としてなるポリ(アルキレンアリレート)が好ましく用いられる。
【0029】
ポリ(アルキレンアリレート)からなる繊維では、一般に繊維の配向結晶化が生じており、そのようなポリ(アルキレンアリレート)繊維は、一般に、ポリ(アルキレンアリレート)を溶融紡糸した後にまたは溶融紡糸と同時に、繊維に所定の延伸処理を施すことによって得ることができる。また、ポリ(アルキレンアリレート)繊維は、その単繊維繊度が0.2〜4デニール程度であるのが、分散性、不織布性能の点から好ましく、0.4〜2デニール程度であるのがより好ましい。さらに、ポリ(アルキレンアリレート)繊維の繊維長は、湿式抄造用の紙料を調整する際の水分散性、得られる不繊布・合成紙の強度などの点から、1〜30mmであるのが好ましく、3〜15mmであるのがより好ましい。
【0030】
本発明で用いるポリ(アルキレンアリレート)を原料として不織布を作製するもう1つの方法として、ポリ(アルキレンアリレート)ならなる原料をメッシュに吹き付け直接シート化する所謂メルトブロー式で不織布に加工することもできる。
【0031】
本発明においては、全芳香族ポリアミド繊維、或いは全芳香族ポリエステル繊維を主成分とする織布若しくは不織布である芯材の単位重量(坪量)は、熱圧着する熱溶融性フッ素樹脂シートの厚み、熱圧着工程の圧力にもよるが、10g/m以上、好ましくは12g/m以上、さらに好ましくは15g/m以上が良い。目付けが低すぎると、熱溶融性フッ素樹脂シートとの熱圧着工程で、特に全芳香族ポリアミド繊維を主成分とする不織布の場合、芯材不織布の一部が破れる恐れがある。また、目付けが200g/mを超えるような場合、熱溶融性フッ素樹脂シートとの熱圧着工程において、熱溶融性フッ素樹脂溶融体を全芳香族ポリアミド繊維を主成分とする織布若しくは不織布の芯材内部に充分に含浸させることができない場合がある。
【0032】
本発明の熱溶融性フッ素樹脂としては、一般成形に用いられている従来公知の熱溶融性フッ素樹脂から適宜選択して使用することもできる。官能基を含有する熱溶融性フッ素樹脂またはこれと一般成形に用いられている熱溶融性フッ素樹脂との混合物を使用するのは好ましい態様の一例である。
【0033】
熱溶融性フッ素樹脂の例として、不飽和フッ素化炭化水素、不飽和フッ素化塩素化炭化水素、エーテル基含有不飽和炭化水素などの重合体又は共重合体、またはこれら不飽和フッ素化炭化水素類とエチレンの共重合体などを挙げることができる。具体的な例としては、テトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)、ビニリデンフルオライド及びビニルフルオライドから選ばれるモノマーの重合体又は共重合体、あるいはこれらモノマーとエチレンの共重合体などを挙げることができる。
【0034】
熱溶融性フッ素樹脂のより具体的な例として、テトラフルオロエチレン・パ−フルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体(以下、PFAという)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン・パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体(EPE)、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)、ポリビニリデンフルオライド(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、クロロトリフルオロエテレン・エチレン共重合体(ECTFE)などを挙げることができる。
【0035】
官能基を有する熱溶融性フッ素樹脂としては、カルボン酸基又はその誘導基、水酸基、ニトリル基、シアナト基、カルバモイルオキシ基、ホスホノオキシ基、ハロホスホノオキシ基、スルホン酸基又はその誘導基及びスルホハライド基から選ばれる官能基を含有する熱溶融性フッ素樹脂(以下、官能基含有フッ素樹脂または相溶化剤ということがある)を挙げることができる。このよう官能基含有フッ素樹脂は、相溶化剤としての機能を有するものであるが、通常、前記一般成形に用いられる熱溶融性フッ素樹脂に、その性質を大きく損なわない範囲で前記官能基を含有させたものが使用される。このような官能基含有フッ素樹脂を得るには、例えば一般成形に用いられる前記例で示すような熱溶融性フッ素樹脂を合成しておき、後からこれら官能基を付加あるいは置換することにより導入するか、あるいは前記例示の熱溶融性フッ素樹脂の合成時にこれら官能基を持ったモノマーを共重合させることによって得ることができる。
【0036】
前記官能基の具体例として、―COOH、−CHCOOH、−COOCH、−CONH、−OH、−CHOH、−CN、−CHO(CO)NH、−CHOCN、−CHOP(O)(OH)、−CHOP(O)Cl、−SOFなどの基を例示することができる。これらの官能基は、官能基を有するフッ素含有モノマーをフッ素樹脂製造時に共重合することによりフッ素樹脂中に導入するのが好ましい。
【0037】
共重合に適した官能基を有するフッ素含有モノマーの例としては、例えば、下記式(1)で示される官能基含有フッ素化ビニルエ−テル化合物を挙げることができる。
CF=CF[OCFCF(CF)]−O−(CF−X (1)
[式(1)中、mは、0〜3、nは、0〜4、Xは、―COOH、−CHCOOH、−COOCH、−CHOH、−CN、−CHO(CO)NH、−CHOCN、−CHOP(O)(OH)、−CHOP(O)Cl、−SOFなどを表す。]
【0038】
式(1)で表される官能基含有フッ素化ビニルエ−テル化合物の好ましい例として、以下のような化合物を例示することができる。
CF=CF−O−CFCF−SOF、
CF=CF[OCFCF(CF)]O(CF−Yの式で表される化合物
(式中、Yは、−SOF、−CN、―COOH、−COOCHなどを表す。)
または
CF=CF[OCFCF(CF)]O(CF−CH−Zの式で表わされる化合物
(式中、Zは、−COOH、−OH、−OCN、OP(O)(OH)、―OP(O)Cl、−O(CO)NHなどを表す。)
【0039】
これら官能基を含有するモノマーは、官能基含有フッ素樹脂中、例えば0.5〜10重量%、より好ましくは1〜5重量%程度の量で共重合されていることが好ましい。官能基を含有するモノマーの、官能基含有フッ素樹脂中の分布は、均一でも不均一でも良い。官能基含有フッ素樹脂中における官能基含有モノマーの含有割合が少なすぎると相溶化剤としての効果が少なく、一方その含有割合が多くなると官能基含有フッ素樹脂同士の強い相互作用で架橋反応に類似した反応が起こる可能性があり、粘度が急に増加し溶融成形が困難になる場合がある。また、官能基含有モノマーの含有割合が多くなると官能基含有フッ素樹脂の耐熱性が悪くなる傾向がある。
【0040】
官能基含有フッ素樹脂の粘度あるいは分子量にはとくに制限がないが、これら官能基含有フッ素樹脂を配合する一般成形用の熱溶融性フッ素樹脂の粘度あるいは分子量を越えない範囲であって、好ましくは同じレベルのものがよい。
【0041】
本発明において熱溶融性フッ素樹脂が、液晶ポリマーとの混合物である態様は好ましい実施態様である。熱溶融性フッ素樹脂とのブレンドに使用される液晶ポリマーは、サーモトロピック液晶を形成する熱可塑性樹脂であり、溶融成形温度での耐熱性に問題がない限り液晶ポリマーの融点にはとくに制限はない。しかし成形性や熱安定性の点から、成形用熱溶融性フッ素樹脂の融点より15℃以上高い融点を有するものを用いるのが好ましい。
【0042】
このような液晶ポリマーとしては、ポリエステル、ポリエステルアミド、ポリエステルイミド、ポリエステルウレタンなどを挙げることができ、とくにポリエステルがもっとも好ましい。液晶ポリエステルの代表的なものは、全芳香族ポリエステルであり、すでに非常に多くのものが知られている。例えば、芳香族ジカルボン酸と芳香族ジヒドロキシ化合物及び又は芳香族ヒドロキシカルボン酸などから誘導されるものであって、その一部が脂肪族ジカルボン酸、脂肪族ジヒドロキシ化合物、脂肪族ヒドロキシカルボン酸などから誘導される重合単位で置換されたものであってもよい。より具体的にはテレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタリンジカルボン酸などの芳香族ジカルボン酸、ハイドロキノン、レゾルシン、2,6―ジヒドロキシナフタリン、ビスフェノールA、ジヒドロキシジフェニルのような芳香族ジヒドロキシ化合物、パラヒドロキシ安息香酸のような芳香族ヒドロキシカルボン酸などから誘導される重合単位を有するものを例示することができる。
【0043】
本発明において、熱溶融性フッ素樹脂中に液晶ポリマーが分散されているフッ素樹脂シート、好ましくは熱溶融性フッ素樹脂中に繊維状に配向した液晶ポリマーを含むフッ素樹脂シートを製造する1つの方法は、前記一般成形用熱溶融性フッ素樹脂及び液晶ポリマー、好ましくはさらに前記官能基含有溶融性フッ素樹脂を溶融混合し、適切な条件下での押出成形により、シート状に成形する方法である。このフッ素樹脂シート形成に際し、後者の官能基含有フッ素樹脂(相溶化剤)の配合割合は、官能基の種類や官能基モノマー含量によっても若干異なるが、前記熱溶融性フッ素樹脂の0.5〜30重量%、より好ましくは1〜15重量%程度とするのが好ましい。すなわち相溶化剤の配合割合が多くなるほどフッ素樹脂/液晶ポリマー間の表面張力は低くなり、界面接着力は強くなるが、あまり多量に配合すると相溶化剤同士の強い相互作用で架橋反応に類似した反応が起こる可能性があり、原料組成物の粘度が急に増加するため、溶融成形が困難になる場合がある。また、官能基含有フッ素樹脂の含有割合が多くなりすぎるとフッ素樹脂シートの耐熱性が低下するおそれがある。
【0044】
また前記フッ素樹脂シートの中における液晶ポリマーの配合割合は、液晶ポリマーが0.5〜30重量%、とくに、3〜25重量%となるように調節することが好ましい。すなわち液晶ポリマーの配合量が少なすぎると液晶ポリマーとの充分な相乗効果や銅箔との高い接着力が期待できない。また逆にその配合割合が多くなりすぎると大量の連続した繊維状の液晶ポリマーがフッ素樹脂マトリックス中に存在し、シート押出し過程で局所的に粘度が急に低くなって均一な厚みのシートができないことがある。
【0045】
上記相溶化剤と液晶ポリマーは、各々に銅箔等の金属に対する接着強度を向上させる効果があり、各々の添加量を調節して併用することにより電気、電子部品用途での積層体として適したものとすることができる。
【0046】
熱溶融性フッ素樹脂中に液晶ポリマーが繊維状に配向されているフッ素樹脂シートを全芳香族ポリアミド、或いは全芳香族ポリエステル繊維からなる不織布と一緒に熱圧着して熱溶融性フッ素樹脂溶融体を芯材に含浸させることで、全芳香族ポリアミド、或いは全芳香族ポリエステル繊維からなる不織布である芯材によって含フッ素樹脂積層体が高い機械的強度、低線膨張係数及び低熱収縮率を持ちながら、フッ素樹脂の優れた耐熱性、低吸湿性、高誘電特性を有し、更に相溶化剤及び液晶ポリマーの相乗効果によって銅箔と接着力も良好な含フッ素樹脂積層体になる。
【0047】
本発明の前記フッ素樹脂シートの原料となる熱溶融性フッ素樹脂及び官能基含有フッ素樹脂と熱可塑性液晶ポリマーの混合は、通常の溶融混合法で可能であるが、押出機を用いるのが好ましい。その際、高速せん断速度である方が液晶分散相の大きさがより小さくなるため好ましく、単軸押出機より二軸押出機を用いることが好ましい。また、溶融混合した後のTダイや環状ダイなどによるシート押出し工程で、フッ素樹脂マトリックス中により均一な大きさの繊維状液晶ポリマーにするためには、シート押し出し前の溶融混合した状態で、液晶ポリマーの粒子径を30μm以下、好ましくは1〜10μm程度にすることが望ましい。
【0048】
前記一般成形用熱溶融性フッ素樹脂と熱可塑性液晶ポリマー、好ましくはさらに官能基含有フッ素樹脂からなる混合物(これからフッ素樹脂混合物ということがある)から、熱可塑性液晶ポリマーが繊維状に配向した熱溶融性フッ素樹脂シートを得るためには、フッ素樹脂混合物を、Tダイや環状ダイなどを利用してシート状に押出成形することによって得ることができる。この押出し過程でフッ素樹脂マトリックス中に分散されている液晶ポリマーの粒子が繊維状に変形される。
【0049】
Tダイなどで押し出した熱溶融性フッ素樹脂シートのフッ素樹脂マトリックス中に繊維状で存在する液晶ポリマーの直径は、シート押し出し前の溶融混合物中に分散されている液晶相の大きさと溶融押出過程でドラフト比(ダイ リップクリアランス/引き取り後のフィルムの厚み)で制御することができる。シート押し出し前における溶融混合物中の液晶分散相の大きさが小さいほど、あるいは引取速度が速いほど繊維状の液晶ポリマーの直径が小さくなる。ドラフト比は5以上、特に10〜50の範囲が好ましい。押し出したフッ素樹脂中に液晶ポリマーが繊維状に存在するシートの厚さは、3〜500μm、好ましくは5〜100μm、更に好ましくは10〜70μmである。
【0050】
熱溶融性フッ素樹シートの厚さが薄すぎると、全芳香族ポリアミド繊維或いは全芳香族ポリエステル繊維を主成分とする織布若しくは不織布である芯材との熱圧着工程において熱溶融性フッ素樹脂溶融体が全芳香族ポリアミド繊維或いは全芳香族ポリエステル繊維を主成分とする織布若しくは不織布である芯材内部に充分に含浸された含フッ素樹脂積層体が得られないことがある。
【0051】
本発明の含フッ素樹脂積層体を得る好ましい方法の一つは、全芳香族ポリアミド繊維または全芳香族ポリエステル繊維からなる織布または不織布の少なくとも片面に、熱溶融性フッ素樹脂のシートを配置することによって熱溶融性フッ素樹脂層を形成させた後、熱圧着して熱溶融性フッ素樹脂溶融体を含浸させる方法は、本発明の含フッ素樹脂積層体を得る好ましい方法の一つである。
【0052】
このような熱溶融性フッ素樹脂押出シートを全芳香族ポリアミド繊維或いは全芳香族ポリエステル繊維からなる織布若しくは不織布である芯材と一緒に熱及び圧力により熱圧着して熱溶融性フッ素樹脂溶融体を芯材に含浸させた含フッ素樹脂積層体を得ることができる。
【0053】
前記フッ素樹脂押出シートとして熱溶融性フッ素樹脂中に繊維状に配向した液晶ポリマーを含むフッ素樹脂シートを用いても、全芳香族ポリアミド繊維或いは全芳香族ポリエステル繊維からなる不織布である芯材のため、熱圧着した含フッ素樹脂積層体の異方性を解消される。プリント基板に加工される銅箔を、この熱圧着時に一体化することによって含フッ素樹脂銅張積層板を得ることができる。
【0054】
含フッ素樹脂積層体を製造する熱圧着装置には制限がなく、プリント基板用基材と銅箔を接着させる際に用いられる装置を使用することができる。熱圧着は以下のような条件で行うことが好ましい。すなわち、全芳香族ポリアミド繊維からなる不織布である芯材と前記フッ素樹脂押出押出シートを複数重ね合わせて、加熱ロール、減圧雰囲気の熱板プレスなどを用いて室温から熱溶融性フッ素樹脂の融点よりやや高い温度まで昇温させ、この熱圧着温度で所定時間保持する。熱圧着温度は使用する熱溶融性フッ素樹脂及び液晶ポリマーの種類によるが、フッ素樹脂の融点より10〜40℃高く、また液晶ポリマーの融点より5〜40℃低い温度範囲で行うのが好ましい。熱圧着後の降温は、第1及び第2降温工程の2段階で行うことが好ましい。第1降温工程は、熱圧着温度から熱溶融性フッ素樹脂のガラス転移温度よりやや高い温度まで約10℃/分で降温する工程であり、第2降温工程は、熱溶融性フッ素樹脂のガラス転移温度付近から室温まで約2℃/分で徐冷する工程である。
【0055】
熱圧着する際、前記熱溶融性フッ素樹脂押出シート(A)と全芳香族ポリアミド繊維或いは全芳香族ポリエステル繊維からなる織布若しくは不織布である芯材(B)を重ね合わせる方法は、目的とする含フッ素樹脂積層体の厚みにもよるが、A/B、A/B/A、B/A/Bの積層構成となるように重ね合わせることが出来、また、複数の前期フッ素樹脂押出シート(A)と全芳香族ポリアミド繊維或いは全芳香族ポリエステル繊維からなる織布若しくは不織布である芯材(B)の順番を任意に変えて熱圧着してもよい。更に、A/B、A/B/A、B/A/Bの積層構成で熱圧着した含フッ素樹脂積層体同士の組み合わせによる多層含フッ素樹脂積層体にすることも可能である。また、フッ素樹脂押出シート(A)には液晶ポリマーと官能基含有フッ素樹脂が含まれているので、接着層無しでも他の金属箔や樹脂基材との接着力に優れているため、これら含フッ素樹脂積層体と金属箔や樹脂基材(例えば、高耐熱性ポリイミドフィルム、液晶高分子フィルム、2軸延伸液晶高分子フィルム)との組み合わせによって更に積層化して多層含フッ素樹脂積層体にすることも可能である。
【0056】
上記熱溶融性フッ素樹脂押出シートは熱圧着温度がフッ素樹脂の融点以上の温度になると急に粘度が低くなり、A/B、A/B/Aのように前期熱溶融性フッ素樹脂押出シート(A)と全芳香族ポリアミド繊維或いは全芳香族ポリエステル繊維からな不織布である芯材(B)とを重ね合わせて減圧雰囲気の熱板プレスで熱圧着を行うと、金属箔又は熱板プレスと接した熱溶融性フッ素樹脂押出シート(A)の溶融体の一部が熱板プレスの外側に流れてしまうため、熱圧着後の含フッ素樹脂積層体の全芳香族ポリアミド繊維或いは全芳香族ポリエステル不織布の内部に含浸されているフッ素樹脂にムラができることがある。従って、熱圧着温度、圧力及び使用する上記フッ素樹脂押出シート(A)と全芳香族ポリアミド繊維または全芳香族ポリエステル繊維不織布(B)の厚みにもよるが、フッ素樹脂押出シート(A)が直接金属箔又は熱板プレスと接触しない様にB/A/Bの重ね合わせ或いは金属箔又は熱板プレスと接する面には全芳香族ポリアミド繊維或いは全芳香族ポリエステル繊維不織布になるようにした方がよい。
【0057】
熱溶融性フッ素樹脂を、全芳香族ポリアミド繊維或いは全芳香族ポリエステル繊維からなる織布若しくは不織布である芯材とともに、熱及び圧力により熱圧着して熱溶融性フッ素樹脂溶融体を芯材に含浸させた含フッ素樹脂積層体を得る他の方法として、全芳香族ポリアミド繊維或いは全芳香族ポリエステル繊維からなる織布もしくは不織布である芯材の少なくとも片面に、熱溶融性フッ素樹脂溶融体を直接Tダイなどで押し出して熱溶融性フッ素樹脂塗布層を形成させた後、熱圧着して熱溶融性フッ素樹脂溶融体を芯材に含浸させる方法がある。
【0058】
全芳香族ポリアミド繊維或いは全芳香族ポリエステル繊維からなる織布もしくは不織布である芯材の両面または片面に熱溶融性フッ素樹脂塗布層を形成させる方法は、Tダイなどを用いる従来公知の押出成形方法によって行うことができる。また、熱圧着は上記したような条件を採用することによって実施できる。
【0059】
本発明の含フッ素樹脂積層体の好な具体的態様の一つは、全芳香族ポリアミド繊維チョップ、或いは全芳香族ポリエステル繊維を主成分とする不織布と熱溶融性フッ素樹脂中に液晶ポリマーが分散されているフッ素樹脂シート層或いは押し出しによる溶融体塗布層を熱溶融性フッ素樹脂の融点以上の温度で熱及び圧力により熱圧着して熱溶融性フッ素樹脂溶融体を不織布である芯材に含浸させた含フッ素樹脂積層体であって、好ましくはその熱溶融性フッ素樹脂の一部に官能基を持つ熱溶融性フッ素樹脂を用いて、これら熱溶融性フッ素樹脂中に液晶ポリマーが繊維状に配向されているフッ素樹脂シート層を全芳香族ポリアミド繊維チョップを主成分とする不織布と熱圧着して熱溶融性フッ素樹脂溶融体を芯材に含浸させた含フッ素樹脂積層体である。
【0060】
本発明の熱圧着した含フッ素樹脂積層体の厚みとしては、用途によっても異なるが、例えば20〜2000μm、好ましくは30〜1000μm、更に好ましくは40〜500μm程度のものとすることができる。
【0061】
本発明の含フッ素樹脂積層体を構成する任意の層には、必要に応じて添加剤が配合されていてもよい。このような添加剤の例として、酸化防止剤、光安定剤、帯電防止剤、蛍光増白剤、着色剤、更にシリカ、アルミナ、酸化チタンなどの金属酸化物;炭酸カルシウム、炭酸バリウムなどの金属炭酸塩;硫酸カルシウム、硫酸バリウムなどの金属硫酸塩;タルク、クレー、マイカ、ガラス等のケイ酸塩の他、チタン酸カリウム、チタン酸カルシウム、カラス繊維などが挙げられる。有機充填材としては、カーボンブラック、カーボンナノチューブ、カーボンナノファイバー、グラファイト、カーボン繊維等の有機充填材などが挙げられる。
【0062】
上記したような本発明の含フッ素樹脂積層体としては、銅箔との剥離強度が0.8kg/cm以上、好ましくは1.0kg/cm以上に、また周波数10GHzでの誘電率を3.0以下、好ましくは2.1〜2.7の範囲に、線膨張係数が25×10−6/℃以下、好ましくは20×10−6/℃以下であることが好ましく、本発明によってこの範囲に調整することが可能である。
【0063】
本発明の含フッ素樹脂積層体は、銅箔などの金属箔との接着性が良好であるので、接着剤を用いない場合でも金属箔が積層された含フッ素樹脂金属張積層体を得ることができる。本発明によって得られる含フッ素樹脂銅張積層体は、高周波用回路基板材料として好適な材料であって本発明の好ましい態様である。
【0064】
本発明の含フッ素樹脂積層体およびそれに銅箔を積層した含フッ素樹脂銅張積層体は、熱溶融性フッ素樹脂本来の高周波での低誘電特性を持ちながら、寸法安定性に優れ(低線膨張係数)、金属箔や熱溶融性フッ素樹脂基材との接着力も良好である。
本発明の含フッ素樹脂積層体および含フッ素樹脂銅張積層体は、線膨張係数が小さく、銅箔との剥離強度が高く、高周波数での誘電率が低いので、高周波用回路基板材料として好適であり、プリント回路基板以外にも、トランスやモータなどの絶縁シート材、耐熱性シート、プリプレグ基材、包装材料分野などにも利用することができる。
【実施例】
【0065】
以下に本発明を、実施例および比較例を挙げてさらに具体的に説明するが、この説明が本発明を限定するものではない。
本発明において各物性の測定は、下記の方法によって行った。
【0066】
(1)融点(融解ピーク温度)
示差走査熱量計(Pyris1型DSC、パーキンエルマー社製)を用いた。試料粉末10mgを秤量して専用のアルミパンに入れ、専用のクリンパーによってクリンプした後、DSC本体に収納し、150℃から360℃まで10℃/分で昇温をする。この時得られる融解曲線から融解ピーク温度(Tm)を求めた。
【0067】
(2)メルトフローレート(MFR)
ASTM D−1238−95に準拠した耐食性のシリンダー、ダイ、ピストンを備えたメルトインデクサー(東洋精機製)を用いて、5gの試料粉末を372±1℃に保持されたシリンダーに充填して5分間保持した後、5kgの荷重(ピストン及び重り)下でダイオリフィスを通して押出し、この時の押出速度(g/10分)をMFRとして求めた。
【0068】
(3)剥離強度
含フッ素樹脂銅張積層体から1cm幅の試験片を作製し、JIS 5016に準じ180°法により、試験片から銅箔を50mm/分の速度で剥離したときの接着強度(Kg/cm)を測定した。
【0069】
(4)線膨張係数
含フッ素樹脂銅張積層体の表面をエッチング処理して銅箔を取り除き、試験片とした。
TMA/SS120C(セイコ電子工業製)を用い、試験荷重50mNの条件で、5℃/minの昇温速度で25℃から250℃まで昇温して、試験片の寸法変化を測定した。X,Y方向の平均値を求めて線膨張係数とした。
【0070】
(5)誘電率
含フッ素樹脂銅張積層体の表面をエッチング処理して銅箔を取り除き、試験片とした。JIS−C−6481に準じ、10GHzの周波数で、含フッ素樹脂積層体の誘電率を測定した。
【0071】
(原料)
本発明の実施例、及び比較例で用いた原料は下記の通りである。
(1)PFA
三井・デユポンフロロケミカル製、融点309℃、メルトフローレート30g/10分(372℃、5000g荷重)
(2)官能基含有PFAテトラフルオロエチレン/PPVE/CF=CF[OCFCF(CF)]OCFCFCHOHの3元共重合体、PPVE3.7重量%、上記水酸基含有モノマー含量1.1重量%、メルトフローレート15g/10分
(3)液晶ポリマー
デユポン製、ZeniteTM 7000、融点352℃
(4)ポリ-p-フェニレンテレフタルアミド繊維
全芳香族ポリアミド繊維チョップ、デユポン製ケブラーTM、繊維径1.5デニール、
繊維長3mm
(5)コポリ−p−フェニレン・3,4オキシジフェニレン・テレフタルアミド繊維
全芳香族ポリアミド繊維チョップ、帝人テクノプロダクツ製テクノーラTM、繊維径0.75デニール、繊維長3mm
(6)メタ型全芳香族ハイブリッドポリアミドハイブリッド
デュポン製、ノーメックスTM
(7)銅箔
(厚み18μm)
【0072】
(含フッ素樹脂シートの作成)
PFA、及び液晶ポリマーを充分に乾燥した後、PFA、液晶ポリマー、及び官能基含有PFAを表1に示す組成にて2軸押出機で溶融混合(樹脂温度365℃)し、ペレットを作成した。得られたペレットから、Tダイ(リップ長さ200mm、リップクリアランス1mm、ダイ温度360℃)を有する30mm単軸押出機を用いて、液晶ポリマーが繊維状に配向されている、下記の厚みを有する含フッ素樹脂シートを得た。
【0073】
【表1】

【0074】
(全芳香族ポリアミド繊維不織布の作成)
全芳香族ポリアミド繊維チョップとして表2に示すパラ型アラミド繊維チョップと、バイダーとしてメタ型アラミドハイブリッドとを、表2に示す組成にて水中に分散させて抄造し、加熱乾燥して不織布を製造した。得られた不織布を、線圧力200kgf/cm、温度350℃に設定した一対の熱ロールの間に通して加熱圧縮し、厚み約60μmの全芳香族ポリアミド繊維不織布を得た。得られた全芳香族ポリアミド繊維不織布の単位重量を表2に示す。
【0075】
【表2】

【0076】
(実施例1−5、比較例1−2)
含フッ素樹脂シート及び全芳香族ポリアミド繊維不織布を、表3に示す積層構成となる様に重ね合わせ、2枚の銅箔の間に挟んだ後、真空熱板プレスを用いて100kgf/cmの圧力で、室温から340℃まで8℃/分で昇温し、340℃で20分間保持した後340℃から100℃まで10℃/分で降温し、100℃から室温まで2℃/分で徐冷し、含フッ素樹脂銅張積層体を得た。得られた含フッ素樹脂銅張積層体の剥離強度を測定した。また、誘電率、線膨張係数を測定した。
【0077】
【表3】

【0078】
実施例1では、含フッ素樹脂が全芳香族ポリアミド繊維不織布からなる芯材に含浸されているため、含フッ素樹脂の高誘電特性を維持しながら、線膨張係数が含フッ素樹脂単体(比較例1)の約1/10まで低くなった。
【0079】
実施例2では、熱圧着の際に含フッ素樹脂シートの溶融体が、含フッ素樹脂シート両面の全芳香族ポリアミド繊維不織布からなる芯材に均一含浸され、銅箔との接触面でも含フッ素樹脂のムラが生じないため、高い剥離強度を示した。
【0080】
実施例3では、実施例2に比べ、同じ積層構成であっても剥離強度が低くなった。
また、官能基含有PFAと液晶ポリマーの相乗効果により銅箔との高い接着力が得られると考えられるため、官能基含有PFAと液晶ポリマーのいずれか一方のみ(比較例2)では、剥離強度が実施例に比べ低くなることが分かる。
【0081】
実施例4では、熱圧着の際に2枚の含フッ素樹脂シートの溶融体が全芳香族ポリアミド繊維不織布からなる芯材に充分に含浸されるため、含フッ素樹脂シートが1枚である実施例3より剥離強度と線膨張係数の改善が見られた。
【0082】
実施例5では、全芳香族ポリアミド繊維不織布の単位重量(坪量)を、実施例4の36g/mから12g/mに減らしたため、全芳香族ポリアミド繊維不織布からなる芯材の強度が弱くなり、熱圧着の際に全芳香族ポリアミド不織布芯材が部分的に破れ、剥離強度と線膨張係数が、実施例4より低くなった。
また、使用する全芳香族ポリアミド繊維不織布の全ての芯材内部空間が、熱溶融性フッ素樹脂シートの溶融体で埋められる様、熱溶融性フッ素樹脂シートの厚み、或いは使用枚数を決める必要がある。
【0083】
本発明において、全芳香族ポリアミド繊維または全芳香族ポリエステル繊維不織布を、熱溶融性フッ素樹脂シートと熱圧着することによって、熱溶融性フッ素樹脂が不織布に含浸される様子を、実施例4に基づいて図2及び3を用いて説明する。図2及び3では、実施例4に記載された全芳香族ポリアミド繊維と熱溶融性フッ素樹脂シートが用いられている。
【0084】
図2は熱圧着前の状態であるが、熱圧着装置に熱溶融性フッ素樹脂シートが2枚の熱溶融性フッ素樹脂シート3と、その両外側に全芳香族ポリアミド繊維不織布4が積層され、さらにその両外側に銅箔5が積層されている状態を示している。図3は、熱圧着後の状態を示すが、熱溶融性フッ素樹脂は、完全に全芳香族ポリアミド繊維不織布に含浸されて含フッ素樹脂積層体1を形成しており、銅箔とで含フッ素樹脂銅張積層体2が形成されている。
【0085】
図4は、図3に示した含フッ素樹脂銅張積層体をエッチング処理して、含フッ素樹脂銅張積層体から銅箔を取り除いた状態を示している。この含フッ素樹脂積層体1から下記の電子顕微鏡による試験片断面観察の試験片を切り出した。
【0086】
実施例4で得られた含フッ素樹脂銅張積層体を、エッチング処理して銅箔を取り除いた試験片断面の電子顕微鏡写真を図1に示す。電子顕微鏡による試験片断面観察からは、全芳香族ポリアミド繊維不織布からなる芯材の全ての内部空間が熱溶融性フッ素樹脂シートの溶融体で完全に含浸されていた。
【0087】
図1の一部の全芳香族ポリアミド繊維の周りにできた隙間は、試験片断面を作成する際にできた隙間である。試験片は液体窒素に入れ鋭い剃刀で切って断面を作るが、含フッ素樹脂は相対的に全芳香族ポリアミド繊維より柔らかいため、柔らかい含フッ素樹脂が変形され、一部の含フッ素樹脂と全芳香族ポリアミド繊維との界面が破壊されて、界面に空間ができることがあるからである。
【産業上の利用可能性】
【0088】
本発明によって、全芳香族ポリアミド繊維または全芳香族ポリエステル繊維からなる織布若しくは不織布である芯材に、熱圧着によって熱溶融性フッ素樹脂溶融体を含浸させた含フッ素樹脂積層体が提供される。
本発明により提供される含フッ素樹脂積層体は、線膨張係数が小さく、銅箔との剥離強度が高く、高周波数での誘電率が低いので、高周波用回路基板用途に好適である。
また、本発明により提供される含フッ素樹脂積層体或いは含フッ素樹脂銅張積層体は、プリント回路基板以外にも、トランスやモータなどの絶縁シート材、耐熱性シート、プリプレグ基材、包装材料分野などへの利用が期待できるものである。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】:実施例4で得られた含フッ素樹脂銅張積層体を、エッチング処理して銅箔を取り除いた試験片断面の電子顕微鏡写真。
【図2】:実施例4における熱圧着前の含フッ素樹脂銅張積層体の断面概念図。
【図3】:実施例4における含フッ素樹脂銅張積層体の断面概念図。
【図4】:実施例4における含フッ素樹脂銅張積層体から、エッチング処理して銅箔を取り除いた状態の断面概念図。
【符号の説明】
【0090】
1:含フッ素樹脂積層体(3+4)
2:含フッ素樹脂銅張積層体
3:含フッ素樹脂シート層
4:全芳香族ポリアミド繊維からなる不織布
5:銅箔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
織布または不織布に、官能基含有熱溶融性フッ素樹脂、及び液晶ポリマーを含む熱溶融性フッ素樹脂を、熱圧着によって含浸させた含フッ素樹脂積層体。
【請求項2】
織布または不織布が、全芳香族ポリアミド繊維または全芳香族ポリエステル繊維からなる織布または不織布である、請求項1記載の含フッ素樹脂積層体。
【請求項3】
前記織布または不織布が、ポリ-p-フェニレンジフェニルエーテルテレフタルアミド繊維またはポリ-p-フェニレンテレフタルアミド繊維からなる織布または不織布である請求項1または2に記載の含フッ素樹脂積層体。
【請求項4】
前記織布または不織布が、ポリ(アルキレンアリレート)繊維からなる織布または不織布である請求項1または2に記載の含フッ素樹脂積層体。
【請求項5】
織布または不織布の少なくとも片面に、熱溶融性フッ素樹脂のシートを配置するか、熱溶融性フッ素樹脂を該織布または不織布上に溶融押出しで塗布することによって熱溶融性フッ素樹脂層を形成させた後、熱圧着して熱溶融性フッ素樹脂溶融体を含浸させることにより得られる請求項1〜4のいずれかに記載の含フッ素樹脂積層体。
【請求項6】
熱溶融性フッ素樹脂シートが、熱溶融性フッ素樹脂中に、繊維状に配向された液晶ポリマーを含んでいるシートである請求項5に記載の含フッ素樹脂積層体。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の含フッ素樹脂積層体に金属箔が積層された含フッ素樹脂金属張積層体。
【請求項8】
金属箔が銅箔である請求項7記載の含フッ素樹脂金属張積層体。
【請求項9】
周波数10GHzにおける誘電率が3.0以下で、銅箔との剥離強度が0.8kg/cm以上で、線膨張係数が25×10−6/℃以下である請求項1〜8のいずれかに記載の含フッ素樹脂積層体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−182886(P2006−182886A)
【公開日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−377011(P2004−377011)
【出願日】平成16年12月27日(2004.12.27)
【出願人】(000174851)三井・デュポンフロロケミカル株式会社 (59)
【出願人】(596001379)デュポン帝人アドバンスドペーパー株式会社 (26)
【Fターム(参考)】