説明

吸引回復方法およびインクジェット記録装置

【課題】インク流路の吸引回復性能を維持しつつ、回復処理に発生する廃インク量を低減することができる吸引回復方法およびインクジェット記録装置を提供する。
【解決手段】ノズル列からインク滴を吐出する記録ヘッドと、前記ノズル列に当接させるキャップ部材と、前記記録ヘッドのインク液室にインクを供給するインクタンクと、前記インクタンクから前記インク液室にインクを送るためのインク流路と、を有するインクジェット記録装置の前記ノズル列を、前記キャップ部材を介して前記記録ヘッドに負圧を発生させる負圧発生工程により前記記録ヘッドの吸引回復を行なう吸引回復方法であって、前記負圧発生工程は、前記インク液室と前記インク流路の間に具備される可撓性の弁と、前記負圧発生手段の気体および液体の流れを制御するための制御弁とを開閉動作させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸引回復方法およびインクジェット記録装置に関し、特にキャップ部材を介して記録ヘッドに負圧を発生させることにより吸引回復を行なう吸引回復方法およびインクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット方式による記録装置では、記録ヘッドが搭載されたキャリッジ上には主たるインクタンクを搭載しないオフキャリッジタンク方式の記録装置がある。このような記録装置では、チューブ等の配管を介して記録ヘッドに接続される主インクタンクを、キャリッジ以外の場所に配している。オフキャリッジタンク方式では、キャリッジ上に大きなスペースを必要とせず、キャリッジに大きな負荷をかけることなく、記録ヘッドに供給すべきインク量を大量に保持することができる。したがってオフキャリッジタンク方式は、大容量インクタンクを有するインクジェット記録装置に適している。この構成では、記録ヘッドとインクタンクの位置関係を比較的自由に設定できるため、水頭差を利用して負圧や背圧を発生させる場合が多い。一方、高速にインクを供給することが難しいため、インクタンクを加圧してインクを記録ヘッドに供給する方法も用いられている。また、記録ヘッドのインクの充填や回復処理は、記録ヘッドと当接するキャップ内を減圧する方法により実施するものが多い。
【0003】
オフキャリッジタンク式では、チューブを介してインクの充填等が行なわれるため、吸引工程によるメンテナンスが必要となる体積が大きくなる。また、チューブのガスバリア性は、インク流路を形成する部材の中で比較的低いため、チューブ内の水分蒸発とチューブ内への気泡侵入が生じることがある。さらに、長期にチューブ流路内に残存したインク液は蒸発が進み、インク液の増粘及び気泡によるインク流路内のインク送液の不連続を起こし、正しく記録ヘッドにインクが送液されないことがある。特に、顔料樹脂を分散した顔料インクではインクが増粘しやすい。また、チューブ流路内に混入した気泡が記録ヘッドのノズル内に移ると、インクを吐出するための発泡エネルギが、インクに十分に伝わらなくなり不吐出などの不具合が生じることがある。
【0004】
ガスバリア性が低いことによる弊害を是正するために、ガスバリア性を向上させたチューブが知られている。しかしながら、チューブのガスバリア性を向上させても、チューブ内への空気の侵入をゼロにすることは構成上難しい。
【0005】
また、顔料インクを用いた場合、チューブ内に長期に残存したインク液は、顔料樹脂が沈降するという現象が生じる。沈降した顔料インクを用いると、インク中の色剤濃度の勾配が生じ、最初に消費されるインクは濃く、後に消費されるインクは薄くなり記録結果に弊害が生じることがある。
【0006】
これに対し、インク流路内のインクを一括して吸引して廃棄する方法が知られている。また、インク液室とインク流路との間に可撓性のフィルム状の弁を持ち、ノズル吸引手段と合わせて、インク液室内の負圧を蓄積し開放する技術が知られている(例えば、特許文献1参照。)。このような技術により、インク流路内のインクを効率よく記録ヘッドに導出し、記録ヘッド内に気泡が侵入することを抑制することができる。
【0007】
【特許文献1】特開2006−007493号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上述した技術では、記録ヘッドに導出されたインクは、吸引して廃棄されるため、廃インクの量が多くなる。その結果、インクを多量に消費し、ランニングコスト低減を図ることができない。
【0009】
本発明は以上の点に鑑みてなされたものであり、インク流路の吸引回復性能を維持しつつ、回復処理に発生する廃インク量を低減することができる吸引回復方法およびインクジェット記録装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために本発明は、ノズル列からインク滴を吐出する記録ヘッドと、前記ノズル列に当接させるキャップ部材と、前記記録ヘッドのインク液室にインクを供給するインクタンクと、前記インクタンクから前記インク液室にインクを送るためのインク流路と、を有するインクジェット記録装置の前記ノズル列を、前記キャップ部材を介して前記記録ヘッドに負圧を発生させる負圧発生工程により前記記録ヘッドの吸引回復を行なう吸引回復方法であって、前記負圧発生工程は、前記インク液室と前記インク流路の間に具備される可撓性の弁と、前記負圧発生手段の気体および液体の流れを制御するための制御弁とを開閉動作させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
以上の構成によれば、インクチューブ、サブタンク、インクジェット記録ヘッド内の増粘インク、気泡を除去するための吸引量を単位時間当たりに最大にすることが可能となる。その結果、回復性能を維持したまま、回復により発生する廃インク量を低減する事が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下に図面を参照して本発明における実施形態を詳細に説明する。
【0013】
(第1実施形態)
図1に本実施形態で用いるインクジェット記録装置を示す模式図である。インク滴を吐出する記録ヘッド5はキャリッジ6に搭載されている。記録ヘッド5は、インクを液滴として吐出させるための記録素子を複数備えた記録ヘッド部を有している。また、記録ヘッド5は、メインタンク3C、3M、3Yおよび3Kから送液されたインクを保持し、各記録素子にインクを補充するためのインクタンク部(サブタンク)を有している。
【0014】
さらに、記録ヘッド5には、記録ヘッド部を駆動する信号などを授受するコネクタが設けられており、キャリッジ6には、コネクタを介して記録ヘッド5に駆動信号等を伝達するためのコネクタホルダが設けられている。
【0015】
キャリッジ6はガイドシャフト9により案内支持されており、ガイドシャフト9が延在する方向に沿って、主走査方向に往復移動が可能となっている。キャリッジ6の移動は、モータプーリ12、従動プーリ18およびタイミングベルト10等の駆動機構を介することにより主走査モータ11により行われ、キャリッジ6の位置および移動量が制御されている。
【0016】
記録開始前、記録媒体14はオートシートフィーダ15の上に積載されている。記録が開始されると、給紙モータ13が駆動され、この駆動力がギアを介してピックアップローラ16に伝達される。これによりピックアップローラ16が回転し、記録媒体14はオートシートフィーダ15から一枚ずつ分離されて記録装置内に給紙される。給紙された記録媒体14は、搬送ローラ8の回転力により搬送される。搬送ローラ8は搬送モータ24により発生する回転力がギアで伝達されることで回転している。また、ベルト部材22により搬送ローラ8と従動ローラ7はつながれており、搬送ローラ8が回転することで従動ローラ7も回転する。搬送ローラの回転量と回転速度は、搬送ローラにとりつけられたコードホイール23に刻まれたスリットが不図示の回転角センサにより位置を確認されることで検知され、それらの情報が搬送モータ24の制御用ドライバにフィードバックされることで制御される。記録媒体14が搬送ローラ8と従動ローラ7の間を搬送される時、吐出口面において平坦な記録面を形成するように、記録媒体14はプラテン19により平滑に支持される。記録媒体14が吐主口面の下部を通過する際、記録ヘッド5は、記録媒体14に対し所定の画像信号に従ってインクを吐出する。ピンチローラ17と拍車ローラ21は記録媒体14の保持力を高めるための補助ローラである。搬送ローラ8と従動ローラ7の間にはインク吸収体20が備えられている。縁無し記録時に溢れたインクはこのインク吸収体20に吸収されるため、プラテンの汚れを防止することができる。
【0017】
ノズルをキャップするための吸引キャップ26は、非記録時にノズルの乾燥を防ぐためにノズルに当接される。吸引ポンプ25は、吸引キャップ26を経てノズル内のインクを吸引するためのポンプである。
【0018】
メインタンク3C、3M、3Yおよび3Kと記録ヘッド5の間は、それぞれの色毎にチューブ流路4C、4M、4Yおよび4Kにより接続されている。この流路4C、4M、4Yおよび4Kにより、メインタンク3C、3M、3Yおよび3Kから記録ヘッド5にインクを供給することができる。インク供給時はメインタンク3C、3M、3Yおよび3Kを加圧ポンプ1によって加圧し、チューブ流路4C、4M、4Yおよび4Kを通じて記録ヘッド5にインクが送液される。メインタンク3にはそれぞれのタンク毎に大気連通弁2C、2M、2Yおよび2Kを有し、加圧の有無を制御することができる。
【0019】
図2は、メインタンクを詳細に示す詳細図である。加圧ポンプ1は、シアンインクタンク3C、マゼンタインクタンク3M、イエローインクタンク3Yおよびブラックインクタンク3K共通で用いられている。インクタンク3C、3M、3Yおよび3Kは、インク袋31C、31M、31Yおよび31Kを有している。また、それぞれのインクタンクには、大気連通弁2C、2M、2Yおよび2Kが設けられている。さらに、インク袋31C、31M、31Yおよび31Kとタンク壁の間には、隙間32C、32M、32Yおよび32Kが設けられている。この隙間32C、32M、32Yおよび32Kに加圧ポンプ1がつながっている。インク袋31C、31M、31Yおよび31Kにはチューブ4C、4M、4Yおよび4Kが接続されており、記録ヘッド5へとつながっている。
【0020】
ここで、各色のインクタンクの働きは同様であるので、シアンインクタンク3Cについて説明をする。
【0021】
まず、大気連通弁2Cを閉めた状態で加圧ポンプ1を加圧する。すると、インク袋31Cとインクタンク3Cとの間の隙間32C内の空気は加圧され、インク袋31Cを圧迫する。インク袋31Cが押されることで、中のインクがチューブ4Cを通じて記録ヘッド5へと送液される。ここで、大気連通弁2Cを開放すると、インク袋31Cとインクタンク3Cとの間の隙間32C内の空気は大気圧になるため、インク袋31Cは加圧されなくなる。
【0022】
本実施形態の記録装置は、インクタンク毎に大気連通弁が開閉制御可能であるため、それぞれのインクタンク毎の加圧の有無を制御することができる。なお、各インクタンク、もしくは供給路毎に、圧力検知手段35C、35M、35Yおよび35Kを設けてもよい。圧力検知手段35C、35M、35Yおよび35Kの出力結果に基づき、供給加圧力の調整、またはクリーニング時のタイミングトリガーとして使用する事が可能となる。
【0023】
図3は、キャリッジ6を詳細に示す詳細図である。キャリッジ6は、それぞれのインク色毎に、インクを保持して記録ヘッド5にインクを供給する、インク液室の役割を果たすサブタンク6C、6M、6Yおよび6Kを有している。サブタンク6C、6M、6Yおよび6Kは、記録ヘッド内の負圧を保ち、適正なインク供給をするために必要なものである。サブタンク6C、6M、6Yおよび6Kには、メインタンク3C、3M、3Yおよび3Kからインクが送液されるチューブ流路4C、4M、4Yおよび4Kが設けられている。
【0024】
次に、サブタンク(インク液室)の内部について詳細に説明をする。
【0025】
図4は、シアンサブタンク6Cの詳細を示す詳細図である。サブタンク6Cには、記録ノズル51が設けられている。サブタンク6Cの内部は、バネ袋52とバネ袋を広げる方向へ付勢されたバネ53により、負圧を保つ構成になっている。メインタンク3Cのインク袋32Cに接続されたチューブ4Cは、ジョイント56によりサブタンク6Cに接続されている。インクが供給される口には可撓性の弁(チョーク弁)54が設けられチューブ4C側から加圧されると弁が開く構造となっている。また、サブタンク内のインク量を適正にするために、供給制限弁57がついており、インクが消費されてバネ53が縮むと図中の矢印方向へレバーが押され供給制限弁57が開く。そして、インクがサブタンク内へ導入される、サブタンク内がインクで満たされていると、供給制限弁57が閉じる構成となっている。
【0026】
図5は、本実施形態のノズル側から見た記録ヘッド5の概略を示す図である。C、M、YおよびKのそれぞれのノズルは、1つのチップ101上に配置されている。各ノズル列のノズル孔間隔は600dpiである。なお、当接するキャップ26はこのチップ101を覆う大きさである。
【0027】
本実施形態の記録ヘッド5は、熱エネルギを利用してインクを吐出するインクジェット方式の記録ヘッドであり、熱エネルギを発生するための電気熱変換体を複数備えたものである。詳しくは、電気熱変換体に印加されるパルス信号によって熱エネルギを発生し、この熱エネルギによってインク液内部に膜沸騰を起こさせ、更に膜沸騰の発泡圧力を利用して、吐出口よりインクを吐出して記録を行うものである。
【0028】
次に、本実施形態の吸引ポンプについて説明をする。
【0029】
図6は、吸引ポンプの詳細を示す詳細図である。吸引ポンプ25は、コロ60が配置された軸61が矢印方向へ回転することにより、コロ60とガイド66によって保持される部分の吸引チューブ62が順次つぶされ、コロ60が回転することでチューブ内に減圧度を生じる。その結果、記録ヘッド5はキャップ26を通じて減圧され、負圧発生を行なうことによりインク吐出ノズルからインクを吸引する。この吸引量は予め規定されたコロ60の回転数、回転速度によって制御される。所定の回転数を実施後、ポンプ駆動は停止する。次にキャップオープン、または大気開放弁64を開放し大気圧へとキャップ内を開放する。
【0030】
また、チャージ弁63が吸引チューブ62中に設けられている。このチャージ弁63は、チューブ62内の気体および液体の流れを制御するための制御弁である。コロ60が配置された軸61が矢印方向へ回転する際にチャージ弁63を閉状態とするとチューブ62のチャージ弁よりコロ側の減圧度は増す。次に所定の回転数、または減圧度となった時点でチャージ弁63を開放する事によりキャップを介し記録ヘッド5をチャージ弁を用いない場合に対し減圧度の高い吸引工程を実施できる。チャージ弁の方式としては、機械的にチューブを押圧し密閉しても良く、電磁弁などを設けても良い、コストやサイズの観点からは機械的にチューブを押圧する方式が好適である。
【0031】
次に、本実施形態で用いられる回復シーケンスについて説明をする。
【0032】
図7は、本実施形態で用いる回復シーケンスを示すフローチャートである。クリーニングが開始されると(S701)、予め設定されたクリーニング強度から適切なクリーニング強度が選択される(S702)。クリーニング強度の選択は、記録装置の非記録時間、休止時間、または、メインタンク交換後やインクジェット記録ヘッドの交換後などのシチュエーション、吐出ドット数などに応じて、選択される。
【0033】
図8は、S702で選択される予め設定されたクリーニングモードの一例を示す表である。図8の表では、本実施形態の回復シーケンスの中で行なわれる吸引ポンプ駆動(1)、吸引ポンプ駆動(2)、吸引制御の繰り返し回数、予備吐出(1)および予備吐出(2)について、クリーニング強度に応じて予め定められている。すなわち、クリーニング強度に応じて、吸引ポンプ駆動(1)および吸引ポンプ駆動(2)で行なわれる吸引の吸引量、スリット数、吸引時間、内部の圧力、ポンプの回転数などを、吸引A、吸引Bまたは吸引Cとして予め定めている。また、クリーニング強度に応じて、予備吐出(1)および予備吐出(2)で行なわれる1ノズルあたりの吐出回数または吐出パターン等が予備吐出S4、S5およびS6として予め設定されている。本実施形態では、吸引ポンプ駆動(1)で行なわれる吸引を吸引Aまたは吸引Bと定め、吸引ポンプ駆動(2)で行なわれる吸引を吸引Cと定めている。これらの吸引A、吸引Bおよび吸引Cは、吸引量またはポンプの回転量を予め定められていてもよく、回復シーケンスを行なう前に、その都度決定されてもよい。
【0034】
ステップS702において、クリーニング1が選択され、クリーニング1のフラグが設定されると、キャップ26をクローズする(S703)。次に、吸引ポンプの駆動を開始する(S704)。クリーニング1が選択された場合には、吸引ポンプ駆動(1)は吸引Aとして定められた吸引量等である。そして、このときの吸引ポンプ駆動(1)では、ポンプが具備するチャージ弁63は開状態とし、吸引キャップからインクが吸引される。またメインタンク側の加圧ポンプ1を非駆動状態とするか、もしくはバルブ2C、2M、2Yおよび2Kを開状態とし、記録ヘッドへインクが供給されない状態とする。すなわち、吸引によりサブタンク内からのインクの流出は開始するが、メインタンクからインクが供給されないため、サブタンクが具備する可撓性の弁(チョーク弁)54は閉状態となる。所定の時間この状態を維持しチョーク弁よりノズル側の減圧度を既定の圧に高める。
【0035】
次に、チャージ弁63を閉状態とする(S705)。所定の時間この状態を維持しチャージ弁63からポンプ側の減圧度を既定の圧に高める。
【0036】
次に、チョーク弁54を開状態とする(S706)。チョーク弁54を開状態とするためには、インタンク側の加圧ポンプ1を駆動状態とするか、もしくはバルブ2C、2M、2Yおよび2Kを閉状態としインク供給を開始する。なおこの場合、回復工程における回復性の向上を主目的としていることから、加圧ポンプ1は予め駆動させた状態からバルブ2C、2M、2Yおよび2Kを閉状態としたほうが供給圧を急激に高める事が可能であり好適といえる。インク供給が開始され可撓性の弁(チョーク弁)54は開状態となるため、インク流路中の増粘インク、気泡などはサブタンク内53へ流入を開始する。
【0037】
次に、チャージ弁63を開状態とする(S707)。これによりサブタンク内6から吸引キャップを介し増粘インク、気泡の排出が開始される。
【0038】
次に、所定の時間経過後に大気開放される(S708)。大気開放は、キャップを解放することにより可能であるが、開放の確実性、時間管理を考慮するとキャップが具備する大気開放弁を用いる方が好適である。
【0039】
その後、キャップ内の廃インクを排出するための空吸引とノズル内の混色インクを排出するための予備吐出が行われる(S709)。この予備吐出は、1.5秒待機後の予備吐出を予備吐出S4および0.5秒待機後の予備吐出を予備吐出S4が行われる。そして、インクジェット記録ヘッドのノズルが構成されるフェイス面を当接清掃するワイピングが行なわれ(S710)、ワイピング後に、1秒待機後の予備吐出を予備吐出S5が行なわれる(S711)。また予備吐出S5が行なわれ(S712)、キャップ内の空吸引を行い(S713)、終了する(S714)。
【0040】
ステップS702において、クリーニング1より強いクリーニングが必要であると判断された場合であって、クリーニング2が選択された場合、クリーニング1が選択されたときの吸引制御を複数回繰り返す。
【0041】
クリーニング2が選択されると(S702)、クリーニング2のフラグが設定され、キャップ26をクローズする(S715)。次に、吸引ポンプの駆動を開始する(S716)。クリーニング2が選択された場合には、クリーニング1と同様に吸引ポンプ駆動(1)は吸引Aである。そして、このときの吸引ポンプ駆動(1)では、ポンプが具備するチャージ弁63は開状態とし、チョーク弁54を閉状態とする(S716)。次に、チャージ弁63を閉状態として、吸引ポンプの駆動を続ける(S717)。そして、チョーク弁54を開状態にして、チョーククリーニングを開始する(S718)。次に、チャージ弁63を開状態として、チャージクリーニングを開始する(S719)。その後、所定の時間経過後に大気開放する(S720)。
【0042】
クリーニング2が選択されると、これらのステップS716からステップS720の工程が複数回(N回)繰り返される。この繰り返す回数Nは、本実施形態では2回である。
【0043】
ステップS716からステップS720の工程が複数回(N回)繰り返された後、ステップS709の工程を行なう。
【0044】
ステップS702において、クリーニング1より強いクリーニングは必要であると判断された場合であって、クリーニング3または4が選択された場合、ステップS722に進む。クリーニング3または4が選択されると(S702)、クリーニング3または4のフラグが設定され、キャップ26をクローズする(S722)。
【0045】
次に、吸引ポンプの駆動を開始する(S723)。クリーニング3または4が選択された場合には、吸引ポンプ駆動(1)は吸引Cである。そして、このときの吸引ポンプ駆動(1)では、ポンプが具備するチャージ弁63を開状態とし、チョーク弁54も開状態とする(S723)。即ちメインタンクからインクが供給される。これを既定の時間継続する。この状態は最も単純なチューブポンプを用いた吸引回復状態である。
【0046】
次にチョーク弁54のみ閉状態とする(S724)。即ちメインタンクからのインクの供給を停止する。これにより先述のチョーク弁よりノズル側の減圧度は増大する。ステップS723およびS724の工程が複数回(N回)繰り返される(S725)。この繰り返す回数Nは、本実施形態においてクリーニング3が選択された場合は1回であり、クリーニング4が選択された場合は2回である。この繰り返しを行なうことで、チョーク弁54の開閉動作により間欠的な吸引波形をチューブ、サブタンク、インクノズルに与えることが可能となる。
【0047】
次に、クリーニングモードの識別を行なう(S726)。そして、本実施形態では、クリーニングモード3の場合には、ステップS708の工程に進む。なお、クリーニング3が選択された場合の予備吐出(1)および(2)は、ともに予備吐出S5である。一方、クリーニングモード4の場合には、ステップS727に進む。
【0048】
クリーニング4が選択されていた場合には、再度クリーニングを開始する。まず、吸引ポンプの駆動を開始する(S727)。クリーニング4が選択された場合には、吸引ポンプ駆動(2)は吸引Cである。そして、このときの吸引ポンプ駆動(2)では、ポンプが具備するチャージ弁63は開状態とし、チョーク弁54を閉状態とする(S727)。次に、チャージ弁63を閉状態として、吸引ポンプの駆動を続ける(S728)。そして、チョーク弁54を開状態にして、チョーククリーニングを開始する(S729)。次に、チャージ弁63を開状態として、チャージクリーニングを開始する(S730)。
【0049】
クリーニング4が選択されると、これらのステップS727からステップS730の工程がM回繰り返される。この繰り返す回数Mは、本実施形態では1回である。
【0050】
ステップS727からステップS730の工程がM回繰り返された後、ステップS709の工程を行なう。
【0051】
なお、クリーニング4が選択された場合の予備吐出(1)および(2)は、予備吐出S5および予備吐出S6である。
【0052】
以上により、可撓性の弁と制御弁との開閉動作を、複数回組み合わせることにより、吸引回復を行なう。その結果、インクチューブ、サブタンク、インクジェット記録ヘッド内の増粘インク、気泡を除去するための吸引量を単位時間当たりに最大にすることが可能となる。よって、回復性能を維持したまま、回復により発生する廃インク量を低減する事が可能となる。
【0053】
なお、本実施形態では、吸引ポンプ25をステップS704、S716、S723、S727で駆動させてから、チャージクリーニングが終了するまで、予め定められた吸引量のまま吸引を行なっている。しかしながら、本発明はこのようなものに限定されるものではない。すなわち、吸引ポンプ26の駆動を開始した後に、弁の開閉後等のタイミングで、吸引量を変更してもよく、また、内部の圧力を測定することにより、吸引量を変更するものであってもよい。また、各吸引工程の吸引圧、吸引量、各チャージ圧、各チョーク圧は個別に設定可能である。
【0054】
(第2実施形態)
第1実施形態では、ノズルが1チップでありノズルをキャップするためのキャップが1つのインクジェット記録装置について説明をしたが、本発明はこのようなものに限定するものではない。すなわち、ノズルのチップおよびキャップが複数設けられたインクジェット記録装置であっても適用をすることができる。
【0055】
本実施形態では、ノズルが2チップでありノズルをキャップするためのキャップが2つのインクジェット記録装置を例にして説明をする。
【0056】
図9は、本実施形態のインクジェット記録装置の全体の示す構成図である。ノズルをキャップするためのキャップがキャップ27と28と2つあるところが第1実施形態と異なり、他は第1実施形態の記録装置と同様である。
【0057】
図10は、本実施形態のノズル側から見た記録ヘッド5の概略を示す図である。C、Mのノズルは1つのチップ201上に配置され、YおよびKのノズルは、1つのチップ202上に配置されている。各ノズル列のノズル孔間隔は600dpiである。当接するキャップ27はチップ201を覆い、キャップ28はチップ202を覆う。
【0058】
図11は、本実施形態で用いる回復シーケンスを示すフローチャートである。クリーニングが開始されると(S1101)、予め設定されたクリーニング強度から適切なクリーニング強度が、吸引キャップごとに選択される(S1102)。クリーニング強度の選択は、記録装置の非記録時間、休止時間、または、メインタンク交換後やインクジェット記録ヘッドの交換後などのシチュエーション、吐出ドット数などに応じて、クリーニングキャップごとに選択される。
【0059】
例えば、吸引キャップ27に対応するノズルチップが、図8に示すクリーニング1を選択された場合、図11に示すステップS1103からS1114の工程が実施される。そして、吸引キャップ28に対応するノズルチップが、図8に示すクリーニング3を選択された場合、図11に示すステップS1122からS1126の工程を経て、ステップS1108からS1114の工程が実施される。このときステップS1103からのS1107までの工程と、ステップS1122からステップS1126までの工程は、並行して実施するほうが時間的な観点からは望ましい。
【0060】
以上の構成により、更に最適化されたクリーニングが可能となり回復性能を維持したまま、回復により発生する廃インク量を低減する事が可能となる。
【0061】
なお、本実施形態のステップS1103からS1114の工程は、第1実施形態のステップS703からS714の工程に対応するものである。また、本実施形態のステップS1115からS1121の工程は、第1実施形態のステップS715からS721の工程に対応するものである。さらに、本実施形態のステップS1122からS1131の工程は、第1実施形態のステップS722からS731の工程に対応するものである。
【0062】
本実施形態では、吸引キャップが2つであるものについて説明したが、本発明はこのようなものに限定されるものではない。すなわち、各色のノズル列ごとに1つの吸引キャップを備えたものであってもよい。また、カラーインクのノズル列と、ブラックインクのノズル列とに対して、吸引キャップが設けられたものであってもよい。
【0063】
すなわち、複数の吸引キャップに対して、それぞれのノズル列による吸引強度を決定して、回復シーケンスを行なうことにより、クリーニングの最適化を図ることができる。
【0064】
(第3実施形態)
本発明では、第1および第2の実施形態に加え、通常クリーニング工程、すなわち、チョーク弁を用いない通常の吸引工程であるチョーク無し吸引工程を行なうものであってもよい。
【0065】
図12は、本実施形態で用いる回復シーケンスを示すフローチャートである。クリーニングが開始されると(S1201)、予め設定されたクリーニング強度から適切なクリーニング強度が選択される(S1202)。そして、選択されたクリーニング強度に基づくクリーニング工程に進む前に、チョーク無しクリーニングが実行される(S1232、S1233、S1234)。また、選択されたクリーニング強度に基づくクリーニング工程が終了した後に、チョーク無しクリーニングが実行される(S1235)。
【0066】
図13は、チョーク無し吸引工程を示すフローチャートである。チョーク無し吸引をスタートする(S1301)。次に、チョーク弁54を開状態、即ちインクの供給が継続している状態で、吸引側のポンプを駆動させる(S1302)。その際、チャージ弁63は動作させても、させなくても良い。また、チャージ動作の有無を組み合わせても良い。そして、小空吸引を行い(S1303)、ワイピングを行い(S1304)、1秒待機予備吐出を行い(S1305)、予備吐出を行い(S1306)、空吸引を行い(S1307)、チョーク無し吸引を終了する(S1308)。なお、吸引動作(S1302)および小空吸引(S1303)は複数回(n回)繰り返して行なってもよい。また、1秒待機予備吐出(S1305)および予備吐出(S1306)も複数回(m回)繰り返して行なってもよい。
【0067】
なお、本実施形態では、選択されたクリーニング強度に基づくクリーニング工程の前後に、チョーク無しクリーニングが実行される(S1232、S1233、S1234、S1235)ものであるが、本発明はこのようなものに限定されない。選択されたクリーニング強度に基づくクリーニング工程の前後の一方でチョーク無しクリーニングが実行されるものであってもよい。すなわち、可撓性の弁が開状態を維持した状態で、制御弁の開閉動作を複数回実施して記録ヘッドに負圧を発生させる動作を、クリーニング工程の前後の少なくとも一方に行えばよい。
【0068】
(その他)
上述した実施形態では、各吸引工程のポンプ駆動は予め定められた時間行なわれるが、本発明は予め定められた時間、ポンプを駆動させるものに限定されるものではない。すなわち、ポンプの駆動時間は、各経路内の圧力を検知した上で所定圧力によってポンプ駆動を制御し、次のステップへ移行してもよい。また、チョーク弁54は、サブタンク近傍に配置されているが、本発明では、インクジェット記録ヘッドのサブタンクからメインタンクの間のインク流路のどの位置に弁を配置してもよい。また、インク流路中の弁は流路内圧力によって動作する可撓性の弁(チョーク弁)54であったが、駆動源と連結し圧力に関係なく動作する弁であってもよい。
【0069】
また、上記の実施形態では、インクジェット記録装置について説明をしたが、本発明はインクジェット記録装置のほか、インクジェット記録装置を応用したファクシミリ、複写機、ワードプロセッサ、また複合機等に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】本発明の第1実施形態で用いるインクジェット記録装置を示す模式図である。
【図2】本発明の第1実施形態のメインタンクを詳細に示す詳細図である。
【図3】本発明の第1実施形態のキャリッジを詳細に示す詳細図である。
【図4】本発明の第1実施形態のシアンサブタンクの詳細を示す詳細図である。
【図5】本発明の第1実施形態のノズル側から見た記録ヘッドの概略を示す図である。
【図6】本発明の第1実施形態の吸引ポンプの詳細を示す詳細図である。
【図7】本発明の第1実施形態の回復シーケンスを示すフローチャートである。
【図8】本発明の第1実施形態で選択される予め設定されたクリーニングモードの一例を示す表である。
【図9】本発明の第2実施形態のインクジェット記録装置の全体の示す構成図である。
【図10】本発明の第2実施形態のノズル側から見た記録ヘッドの概略を示す図である。
【図11】本発明の第2実施形態の回復シーケンスを示すフローチャートである。
【図12】本発明の第3実施形態の回復シーケンスを示すフローチャートである。
【図13】本発明の第3実施形態のチョーク無し吸引工程を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0071】
1 ポンプ
5 記録ヘッド
6 キャリッジ
3C、3M、3Y、3K メインタンク
4C、4M、4Y、4K チューブ流路
6C、6M、6Y、6K サブタンク
25 吸引ポンプ
26 吸引キャップ
54 チョーク弁
63 チャージ弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ノズル列からインク滴を吐出する記録ヘッドと、前記ノズル列に当接させるキャップ部材と、前記記録ヘッドのインク液室にインクを供給するインクタンクと、前記インクタンクから前記インク液室にインクを送るためのインク流路と、を有するインクジェット記録装置の前記ノズル列を、前記キャップ部材を介して前記記録ヘッドに負圧を発生させる負圧発生工程により前記記録ヘッドの吸引回復を行なう吸引回復方法であって、
前記負圧発生工程は、前記インク液室と前記インク流路の間に具備される可撓性の弁と、前記負圧発生手段の気体および液体の流れを制御するための制御弁とを開閉動作させることを特徴とする吸引回復方法。
【請求項2】
前記負圧発生工程は、前記可撓性の弁と前記制御弁との開閉動作を、複数回組み合わせることを特徴とする請求項1に記載の吸引回復方法。
【請求項3】
前記負圧発生工程は、前記可撓性の弁を閉状態とし、前記制御弁を開状態とする第1工程と、前記可撓性の弁を閉状態としたまま前記制御弁を閉状態とする第2工程と、前記可撓性の弁を閉状態から開状態とした後に、前記制御弁を閉状態から開状態とする第3工程と、を有することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の吸引回復方法。
【請求項4】
前記第1工程と前記第2工程と前記第3工程を複数回繰り返すことを特徴とする請求項3に記載の吸引回復方法。
【請求項5】
前記負圧発生工程の前に、前記可撓性の弁が開状態を維持した状態で、前記制御弁の開閉動作を複数回実施して前記記録ヘッドに負圧を発生させることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の吸引回復方法。
【請求項6】
前記負圧発生工程の後に、前記可撓性の弁が開状態を維持した状態で、前記制御弁の開閉動作を複数回実施して前記記録ヘッドに負圧を発生させることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれかに記載の吸引回復方法。
【請求項7】
前記負圧発生工程の前に、前記可撓性の弁を開状態に維持し、前記制御弁を開状態に維持し、前記記録ヘッドに負圧を発生させることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれかに記載の吸引回復方法。
【請求項8】
前記負圧発生工程の後に、前記可撓性の弁を開状態に維持し、前記制御弁を開状態に維持し、前記記録ヘッドに負圧を発生させることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれかに記載の吸引回復方法。
【請求項9】
前記インクジェット記録装置は、ノズル列に当接させるキャップ部材が複数備えられ、前記負圧発生工程は、それぞれのキャップ部材ごとに行なわれることを特徴とする請求項1から請求項8のいずれかに記載の吸引回復方法。
【請求項10】
ノズル列からインク滴を吐出する記録ヘッドと、前記ノズル列に当接させるキャップ部材と、前記記録ヘッドのインク液室にインクを供給するインクタンクと、前記インクタンクから前記インク液室にインクを送るためのインク流路と、前記キャップ部材を介して前記記録ヘッドに負圧を発生させる負圧発生手段により前記記録ヘッドの吸引回復を行なう吸引回復手段と、を備えたインクジェット記録装置であって、
前記吸引回復手段は、前記インク液室と前記インク流路の間に具備される可撓性の弁と、前記インクタンクのインク液を加圧することにより前記インク液室にインクを供給するためのインク供給手段と、前記負圧発生手段の気体および液体の流れを制御するための制御弁とを有し、前記可撓性の弁と前記制御弁とを開閉動作させることにより制御されることを特徴とするインクジェット記録装置。
【請求項11】
前記吸引回復手段は、前記可撓性の弁と前記制御弁との開閉動作を、複数回組み合わせることを特徴とする請求項10に記載のインクジェット記録装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2010−17875(P2010−17875A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−177939(P2008−177939)
【出願日】平成20年7月8日(2008.7.8)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】