説明

呼吸波形解析装置

【課題】呼吸波形におけるノイズ成分を正確に把握することができる呼吸波形解析装置の提供。
【解決手段】被測定者の呼吸ガス中における特定成分の濃度の経時変化に基づく呼吸波形を解析する呼吸波形解析装置であって、被測定者の呼吸ガスが流れるとともに、呼吸ガスにおける特定成分の濃度を検出してその検出値に応じた信号を出力するセンサが配置された呼吸気道アダプタと、センサからの信号に基づいて濃度の大きさを示す濃度信号を生成する呼吸ガス濃度算出部210と、濃度信号に基づいて、呼吸気道アダプタ内に水が貯留していることを検知する貯留水検知部を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、呼吸波形解析装置に関し、特に、被測定者の呼吸ガス中の特定成分の濃度を検出することにより呼吸波形を解析する呼吸波形解析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
医療現場等において呼吸管理を要する患者の呼吸をモニタするための様々な機器および方法が提案されている。例えば、カプノメトリ(capnometry) と呼ばれる方法は、患者の呼気に含まれる二酸化炭素の分圧、すなわち呼気中の二酸化炭素濃度(CO2濃度)の経時的な変化を測定することにより、患者の呼吸状態を把握する方法として知られている(例えば特許文献1を参照)。
【0003】
また、患者の呼気中のCO2濃度の測定方法としては、光音響分光法、質量分析法、ラマン散乱測定法、あるいは赤外吸収分光法(IR分光法)などが知られている。このうち、IR分光法は、患者の呼気ガスに対して赤外光などの二酸化炭素に吸収特性を有する光を照射してその透過光又は反射光を検出することにより、呼気ガスによる赤外光の吸収の割合から呼気中のCO2濃度を測定する方法として知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2003−532442号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、従来のカプノメトリでは、呼気中のCO2濃度の時間波形のうち、患者の1呼吸に相当する波形の最大値をその呼吸における有効濃度とし、呼気終末炭酸ガス濃度(ETCO2)として検出していたが、特に上記のIR分光法を用いて呼気中のCO2濃度を測定する場合においてETCO2の検出精度の向上が課題であった。
【0006】
例えば、呼吸回路中に接続してCO2濃度を測定するメインストリーム方式の呼気ガスセンサを用いて呼気中のCO2濃度を測定する際に患者の吸気に対して加湿しているような場合において、呼吸回路内に結露水などの水が貯留することがある。このような水が呼吸回路内における呼気ガスセンサの光の照射部位若しくは検出部位に付着すると、CO2濃度を正確に検出することができず、結果として測定される時間波形にノイズ成分となって表れる。そして、このようなノイズ成分のピークをETCO2として誤検出してしまうことがあった。
【0007】
また、人工呼吸器による患者へのエアの供給に対する患者からの呼気のみを呼吸数としてカウントしたい場合に、測定される時間波形から患者の自発的な呼吸の成分を正確に除去することが難しかった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記課題を解決する呼吸波形解析装置であって、被測定者の呼吸ガス中における特定成分の濃度の経時変化に基づく呼吸波形を解析する呼吸波形解析装置であって、前記特定成分の前記濃度を検出するべく配置されたセンサからの出力信号に基づいて濃度信号を生成する呼吸ガス濃度生成部と、前記濃度信号の経時変化に基づいて前記呼吸波形の平坦の程度を示す平坦度を算出する平坦度算出部と、前記平坦度および前記濃度信号に基づいて前記呼吸波形の信頼度を算出する信頼度算出部と、を備える呼吸波形解析装置を提供する。
【0009】
ここで、前記平坦度は、前記濃度信号に基づいて、特定の時間間隔における差分の大きさを複数の前記時間間隔にわたって積算した積算値の関数であることが好ましい。
また、本発明の呼吸波形解析装置において、前記差分の大きさは、絶対値であることが好ましい。
また、本発明の呼吸波形解析装置において、前記差分の大きさは、前記差分を偶数乗し得られることが好ましい。
【0010】
また、本発明の呼吸波形解析装置において、前記信頼度算出部は、所定のタイミングにおいて前記平坦度算出部が算出した前記平坦度と当該タイミングにおける前記濃度信号とに基づいて前記信頼度を算出することが好ましい。
【0011】
また、本発明の呼吸波形解析装置は、予め定められた濃度検出時間内において算出される前記信頼度が最大となるときの前記濃度信号を、当該濃度検出時間内における有効濃度として検出する有効濃度検出部を更に備えてもよい。
【0012】
また、本発明の呼吸波形解析装置において、前記有効濃度検出部は、前記濃度検出時間内における前記信頼度を積算し、その積算値が予め定められた信頼度を上回った場合にのみ、前記有効濃度を検出することが好ましい。
【0013】
また、前記濃度検出時間は、呼吸波形の1周期に対応する時間であることが好ましい。
【0014】
また、本発明の呼吸波形解析装置は、複数の前記有効濃度が検出された場合に、それぞれの前記有効濃度を、対応する前記信頼度の積算値の大きさに応じて重み付けして平均化した重み付け平均値を算出する重み付け平均化処理部を更に備えてもよい。
【0015】
また、本発明の呼吸波形解析装置は、前記有効濃度検出部が所定時間内において前記有効濃度を検出した回数、および、前記重み付け平均化処理部が算出した前記重み付け平均値の少なくとも一方を表示する表示部を更に備えてもよい。
【0016】
また、本発明の呼吸波形解析装置において、前記呼吸ガス濃度生成部は、前記センサからのアナログの前記出力信号をディジタルの呼吸ガス信号に変換する呼吸ガス濃度検出部と、当該呼吸ガス濃度検出部からの前記呼吸ガス信号に基づいて呼吸波形信号を生成する呼吸ガス濃度算出部と、を備え、前記濃度信号は呼吸波形信号であり、前記有効濃度検出部は、前記特定成分の濃度が高いことを示す、前記呼吸ガス信号が所定値以上のとき前記濃度検出時間内において前記有効濃度を検出することが好ましい。
【0017】
また、本発明の呼吸波形解析装置は、予め定められた基準値に対する前記呼吸ガス信号の割合に応じて、当該呼吸ガス信号に対応する前記呼吸波形信号を補正する濃度検出値補正部を更に備えてもよい。
また、本発明の呼吸波形解析装置は、被測定者の呼吸ガスが流れる呼吸気道アダプタと、前記呼吸気道アダプタ内に水が貯留していることを検知する貯留水検知部を更に備えることが好ましい。
【0018】
本発明は、上記課題を解決することのできる他の形態として、被測定者の呼吸ガス中における特定成分の濃度の経時変化に基づく呼吸波形を解析する呼吸波形解析装置であって、前記特定成分の前記濃度を検出するべく配置されたセンサからのアナログの出力信号をディジタルの呼吸ガス信号に変換する呼吸ガス濃度検出部と、当該呼吸ガス濃度検出部からの前記呼吸ガス信号に基づいて呼吸波形信号を生成する呼吸ガス濃度算出部と、予め定められた基準値に対する前記呼吸ガス信号の割合に応じて、当該呼吸ガス信号を補正する濃度検出値補正部と、を備える呼吸波形解析装置を提供する。
また、本発明は、上記課題を解決することのできるさらに他の形態として、被測定者の呼吸ガス中における特定成分の濃度の経時変化に基づく呼吸波形を解析する呼吸波形解析装置であって、被測定者の呼吸ガスが流れるとともに、前記呼吸ガスにおける前記特定成分の前記濃度を検出してその検出値に応じた信号を出力するセンサが配置された呼吸気道アダプタと、前記センサからの前記信号に基づいて前記濃度の大きさを示す濃度信号を生成する呼吸ガス濃度生成部と、前記濃度信号に基づいて、前記呼吸気道アダプタ内に水が貯留していることを検知する貯留水検知部を備えることを特徴とする呼吸波形解析装置を提供する。
また、本発明の呼吸波形解析装置において、前記貯留水検知部は、前記濃度信号の値と、予め設定した少なくとも一つの比較値との比較結果に基づいて、前記呼吸気道アダプタ内に水が貯留していることを検知することを特徴とすることが好ましい。
また、前記貯留水検知部は、前記濃度信号の値が前記比較値との差分、前記濃度信号の値が前記比較値を上回った回数若しくは積算時間、または、前記濃度信号の値が前記比較値を下回った回数若しくは積算時間、のいずれかに基づいて、前記呼吸気道アダプタ内に水が貯留していることを検知することが好ましい。
また、本発明の呼吸波形解析装置において、前記センサは、前記特定成分による吸収特性の異なるレファレンシャル光およびシグナル光を受光可能であり、前記貯留水検知部は、前記センサにおける受光強度に基づいて、前記レファレンシャル光および前記シグナル光の減衰度を算出し、前記減衰度に基づいて前記呼吸気道アダプタ内に貯留する水の量を検知することが好ましい。
また、前記貯留水検知部は、前記比較結果が注意喚起レベルに達した場合は前記被測定者に対して注意を促すための注意喚起信号を出力し、前記比較結果が警告レベルに達した場合は前記被測定者に対して警告するための警告信号を出力することが好ましい。
また、前記貯留水検知部は、前記濃度信号の値と前記比較値との差分、前記濃度信号の値が前記比較値を上回った回数若しくは積算時間、または、前記濃度信号の値が前記比較値を下回った回数若しくは積算時間、のいずれかに基づいて、前記注意喚起レベルまたは前記警告レベルに達したことを検知することが好ましい。
【0019】
なお、上記の発明の概要は、本発明の必要な特徴の全てを列挙したものではなく、これらの特徴群のサブコンビネーションもまた、発明となりうる。
【発明の効果】
【0020】
本発明は、かかる特徴を備えることにより、被測定者の呼吸ガス中における特定成分の濃度を検出してその経時変化に基づく呼吸波形を解析する際に、当該呼吸波形の信頼度を参照することで、当該呼吸波形におけるノイズ成分を正確に把握することができる。
【0021】
また、呼吸波形から各呼吸周期における上記特定成分の有効濃度を検出する際に、上記信頼度を利用することにより、各呼吸周期に対応する波形に含まれるノイズ部分のピークを有効濃度として誤検出することがない。
【0022】
また、各呼吸周期に対応する波形の有効濃度について平均化した値(平均値)を算出する際に、各波形における信頼度の積算値の大きさに応じて有効濃度を重み付けしてから平均化することにより、算出された平均値(重み付け平均値)に対する各波形に含まれるノイズ成分の影響をより小さくすることができる。
【0023】
また、有効濃度検出部が、特定成分の濃度を示す呼吸ガス信号が所定値以上のとき濃度検出時間内において有効濃度を検出することにより、以下の効果が奏される。すなわち、IR分光法を用いて呼気ガス中における特定成分の濃度を測定する際に、呼気に対する光の照射若しくは検出部位に水滴等が付着して当該検出部位からの出力信号が低下した場合でも、そのような誤差要因による出力信号の低下の影響を受けることなく、より正確に有効濃度を検出することができる。
【0024】
また、予め定められた基準値に対する上記呼吸ガス信号の割合に応じて、当該呼吸ガス信号に対応する前記呼吸波形信号を補正する濃度検出値補正部を備えることにより、上記誤差要因により測定される場合でも、出力信号の低下による影響をより小さくすることができる。したがって、1回の呼吸周期中において上記誤差要因より上記濃度信号が大きく変動した場合でも、当該濃度信号による波形(呼吸波形信号)から複数回の呼吸がなされていると判別されるのを防ぐことができる。
また、貯留水検知部を備えることにより、被測定者の呼吸ガスが流れる呼吸気道アダプタの内部に水が貯留していることを検出して装置の利用者に対して注意喚起および警告をすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本実施形態に係る呼吸波形解析装置10の構成を示す分解斜視図である。
【図2】呼吸波形解析装置10の呼吸気道アダプタ20近傍を拡大して示す拡大側面図である。
【図3】図2におけるA−A断面を図2に矢印で示す方向から見た断面図である。
【図4】測定器60の構成を示す機能ブロック図である。
【図5】呼吸波形および当該呼吸波形の平坦度の一例を示す。
【図6】呼吸波形および当該呼吸波形の信頼度の一例を示す。
【図7】呼吸波形、当該呼吸波形の信頼度、および濃度検出時間毎の信頼度の積算値を示す。
【図8】呼吸ガス濃度検出部100が出力する電圧の時間波形および当該電圧の時間波形に基づいて生成される呼吸波形の一例を示す。
【図9】本実施形態の他の例に係る測定器65の構成を示す機能ブロック図である。
【図10】測定器65において、呼吸ガス濃度検出部100が出力する電圧の時間波形、当該電圧の時間波形に基づいて生成される呼吸波形、および補正後の呼吸波形の一例を示す。
【図11】本実施形態の更に他の例に係る測定器66の構成を示す機能ブロック図である。
【図12】測定器66において、呼吸ガス濃度検出部100が出力する電圧(Vsig)の時間波形および当該電圧の時間波形に基づいて生成される呼吸波形の例を示す。
【図13】測定器66において、呼吸ガス濃度検出部100が出力する電圧(Vsig)の時間波形および当該電圧の時間波形に基づいて生成される呼吸波形の例を示す。
【図14】測定器66において、呼吸ガス濃度検出部100が出力する電圧(Vsig)の時間波形および当該電圧の時間波形に基づいて生成される呼吸波形の例を示す。
【図15】測定器66において、呼吸ガス濃度検出部100が出力する電圧(Vsig)の時間波形および当該電圧の時間波形に基づいて生成される呼吸波形の例を示す。
【図16】呼吸気中のCO2濃度の変化に伴うVrefとVsig/Vrefとの関係を示す。
【図17】呼吸気道アダプタ20の内部におけるシグナル光およびレファレンシャル光の光路上に水が貯留していない状態における、Vsig、Vref、およびVsigに基づいて生成されるCO2濃度の各時間波形の例を示す。
【図18】呼吸気道アダプタ20の内部におけるシグナル光およびレファレンシャル光の光路上に水が貯留していない状態における、VsigおよびVrefの各時間波形と、呼吸気道アダプタ20の内部に貯留する水による減衰度との関係を示す。
【図19】呼吸気道アダプタ20の内部におけるシグナル光およびレファレンシャル光の光路上に水が貯留している状態における、Vsig、Vref、およびVsigに基づいて生成されるCO2濃度の各時間波形の例を示す。
【図20】呼吸気道アダプタ20の内部におけるシグナル光およびレファレンシャル光の光路上に水が貯留している状態における、VsigおよびVrefの各時間波形の例と、呼吸気道アダプタ20の内部に貯留する水による減衰度との関係を示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではなく、また実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0027】
図1は、本実施形態に係る呼吸波形解析装置10の構成を示す分解斜視図である。また、図2は、呼吸波形解析装置10の呼吸気道アダプタ20近傍を拡大して示す拡大側面図である。また、図3は、図2におけるA−A断面を図2に矢印で示す方向から見た断面図である。
【0028】
呼吸波形解析装置10は、呼吸管理を要する患者などの被測定者の呼気中のCO2濃度の経時的な変化を測定することにより当該被測定者の呼吸状態をモニタするための装置であり、呼吸気道アダプタ20と、Y字アダプタ30と、挿入部40と、センサ部50と、測定器60とを備える。
【0029】
呼吸気道アダプタ20は、内部に被測定者の呼吸ガスが通過する呼吸気道26が設けられており、当該呼吸気道26の両端には、Y字アダプタ30の接続ポート31に接続される接続ポート21、および、挿入部40の接続アダプタ42に接続される接続ポート22が設けられている。
【0030】
また、呼吸気道アダプタ20における呼吸気道26の中間位置には、1組の互いに平行なセンサ取付面24が形成されている。このセンサ取付面24は、センサ部50が呼吸気道アダプタ20に取り付けられたときにセンサ部50における凹部54の内面と当接する。また、それぞれのセンサ取付面24には、円形の空孔に透明部材が嵌め込まれた透明窓25が設けられている。この透明窓25は、センサ部50が取り付けられたときに凹部54の内面における開口56に対応する位置に設けられている。
【0031】
Y字アダプタ30は、呼吸気道アダプタ20の接続ポート21に接続される接続ポート31と、人工呼吸器のエア供給源側に接続される吸気用通気管32と、当該人工呼吸器の呼気排出弁側に接続される呼気用通気管33とを有する。このY字アダプタ30は、例えば人工呼吸器から被測定者に対して供給されるエアを通気し、また、被測定者からの呼気を人工呼吸器の呼気排出弁側へと通気するための部材である。
【0032】
挿入部40は、被測定者の気管に挿入されるチューブ41と、当該チューブ41の一端と呼吸気道アダプタ20の接続ポート22との接続を媒介する接続アダプタ42とを有する。
【0033】
センサ部50は、内部に赤外光を発光する発光部52、および発光部52からの赤外光を受光し、その強度に応じた大きさの電圧を出力する受光部53が配される略コの字型のセンサ収納部51と、センサ収納部51と測定器60の機器本体61との間を接続する接続ケーブル55とを有する。発光部52および受光部53は、図1および図3に示すように、センサ収納部51に形成された凹部54を挟んで対向して配されている。
【0034】
また、凹部54の内面には、図2および図3に示すように、発光部52および受光部53が配される位置に円形の開口56が設けられている。また、図3に示すように、発光部52は配線52a、52bを介して、また、受光部53は配線53a、52bを介して、それぞれ測定器60の機器本体61と電気的に接続されている。
【0035】
本実施形態において、発光部52は、機器本体61からの電力に応じて赤外光を発光する。ここで、発光部52は、発光波長が、その長波長側および短波長側と比べてCO2ガスによる吸収の割合が高いものを使用する。したがって、受光部53は、発光部52からの光を受光すると、CO2濃度に略比例する大きさの電圧を出力する。
【0036】
測定器60は、センサ部50のセンサ収納部51と接続ケーブル55を介して接続される機器本体61と、機器本体61の前面に設けられる表示部62および操作部63とを有する。
【0037】
呼吸波形解析装置10は、呼吸気道アダプタ20、Y字アダプタ30、および挿入部40が組み立てられ、更にセンサ部50が呼吸気道アダプタ20に取り付けられた状態で、被測定者の呼気または吸気(以下において、これらをまとめて「呼吸気」と略称する)中の二酸化炭素濃度(CO2濃度)の測定に用いられる。
【0038】
呼吸波形解析装置10による上記測定時には、呼吸気道アダプタ20の呼吸気道26を通過する被測定者の呼吸気に対して、測定器60から供給される電力により発光部52から赤外光が照射され、その透過光が受光部53により受光される。そして、受光部53は、受光した光の強度に応じた大きさの電圧を測定器60へと出力する。
【0039】
そして、測定器60は、受光部53からの電圧に基づいて、呼吸気道26を通過する呼吸気の気圧に占める二酸化炭素の分圧を検出する。なお、上記二酸化炭素の分圧は、呼吸気道26を通過する呼吸気に含まれるCO2濃度に対応した値をとることから、以下の説明では、測定器60において検出される二酸化炭素の分圧をCO2濃度と称する。
【0040】
測定器60は、検出したCO2濃度の経時変化に基づく時間波形を生成し、表示部62に表示させる。以下の説明では、この時間波形を呼吸波形と称する。ここで、上記測定に際しての様々な測定条件の設定や、表示部62に表示させる呼吸波形の表示方法の変更などは、測定器60の操作部63を操作することにより所定に設定することができる。
【0041】
以下において、測定器60による上記CO2濃度の検出、並びに、呼吸波形の生成および解析についてより詳細に説明する。
【0042】
図4は、測定器60の構成を示す機能ブロック図である。なお、発光部52への電力供給に関する構成については図示を省略している(他の機能ブロック図についても同様)。図4に示すように、測定器60は、機器本体61内部に、呼吸ガス濃度検出部100および演算処理部200を有する。また、演算処理部200は、呼吸ガス濃度算出部210、平坦度算出部220、信頼度算出部230、呼吸数検出部240、有効濃度検出部250、および重み付け平均化処理部260を含む。
【0043】
呼吸ガス濃度検出部100は、センサ部50から例えば時間連続的に与えられるアナログの出力信号を受け取ると、その大きさに応じたディジタルの呼吸ガス信号に変換し、呼吸ガス濃度算出部210および有効濃度検出部250へと出力する。呼吸ガス濃度検出部100は、A/D変換器などで構成される。呼吸ガス濃度検出部100および呼吸ガス濃度算出部210は、本発明の呼吸ガス濃度生成部に対応する。
【0044】
呼吸ガス濃度算出部210は、呼吸ガス濃度検出部100からのCO2濃度の大きさに応じた値の電圧(呼吸ガス信号)を受け取り、呼吸波形を生成する。そして、呼吸ガス濃度算出部210は、生成した呼吸波形を、表示部62、平坦度算出部220、信頼度算出部230、呼吸数検出部240、および有効濃度検出部250へと出力する。
【0045】
平坦度算出部220は、呼吸ガス濃度算出部210からの呼吸波形の平坦の程度を示す平坦度を算出する。より具体的には、平坦度算出部220は、特定の時間間隔でその前後におけるCO2濃度の検出値の差分を算出し、当該差分の値から以下の算出式(数1)に基づいて平坦度を算出する。平坦度算出部220は、算出した平坦度を時系列に順次、信頼度算出部230へと出力する。
【0046】
【数1】

【0047】
上記数1において、時間間隔Δtは、例えば0.05秒であってよい。また、Σ(DΔtCO2)2は、例えば平坦度の算出時から直前の0.1秒間について算出した上記差分の自乗の積算値であってよい。上記数1に示すように、平坦度算出部220が算出する平坦度は、上記差分の自乗の積算値の関数であり、当該積算値が最小となるときに最大の値をとる。
【0048】
図5は、呼吸波形および当該呼吸波形の平坦度の一例を示す。図5に示す呼吸波形において、呼吸気道アダプタ20の透明窓25への水滴の付着等に起因してCO2濃度の時間変動が激しくなっている部分(図5における5秒および15秒付近)や、被測定者による自発呼吸等に起因してCO2濃度が変動している部分(図5における9秒および20秒付近)においては、その平坦度は小さくなる。
【0049】
信頼度算出部230は、平坦度算出部220からの平坦度の大きさ、および呼吸ガス濃度算出部210からの呼吸波形に基づいて当該呼吸波形の信頼度を算出する。より具体的には、信頼度算出部230は、平坦度算出部220が算出した平坦度と、当該平坦度の算出タイミングに対応する呼吸波形の値(CO2濃度の大きさ)とを乗じた値を信頼度として算出する。そして、信頼度算出部230は、算出した信頼度を時系列に順次、呼吸数検出部240、有効濃度検出部250、および重み付け平均化処理部260へと出力する。
【0050】
図6は、呼吸波形および当該呼吸波形の信頼度の一例を示す。図6に示すように、呼吸波形の信頼度は、当該呼吸波形に対応する平坦度が小さくなるタイミングでは、CO2濃度の大きさに依らず小さくなる傾向を示す。すなわち、例えば呼吸気道アダプタ20の透明窓25へ水滴が付着したり、被測定者が自発的に呼吸することにより呼吸波形が短時間で大きく変動すると、信頼度は小さくなる傾向を示す。
【0051】
有効濃度検出部250は、呼吸ガス濃度算出部210からの呼吸波形から1周期に対応する時間を検出する。本実施形態では、有効濃度検出部250は、呼吸波形においてCO2濃度が所定の閾値(Cth)を上回ってから再び下回るまでの部分を当該呼吸波形の1周期における呼気波形として検出する。例えば図6に示す呼吸波形において、有効濃度検出部250は、8つの呼気波形(W1〜W8)を検出する。
【0052】
有効濃度検出部250は、それぞれの呼気波形に対応する時間をその呼気波形における濃度検出時間(T1〜T8)として検出する。例えば、図6に示すように、有効濃度検出部250は、8つの呼気波形(W1〜W8)のそれぞれについて濃度検出時間(T1〜T8)を検出する。
【0053】
有効濃度検出部250は、それぞれの濃度検出時間内における信頼度を抽出し、その値が最大となるタイミングを検出する。例えば、図6に示すように、有効濃度検出部250は、それぞれの濃度検出時間(T1〜T8)内における信頼度(R1〜R8)を抽出し、それぞれの濃度検出時間内において信頼度が最大値をとるタイミング(P1〜P8)を検出する。
【0054】
有効濃度検出部250は、それぞれの濃度検出時間内において信頼度が最大となるタイミングでの呼気波形の値(CO2濃度)を、当該呼気波形における有効濃度として検出する。例えば、図6に示すように、有効濃度検出部250は、それぞれの濃度検出時間(T1〜T8)内において検出した上記タイミング(P1〜P8)でのCO2濃度を、対応するそれぞれの呼気波形(W1〜W8)における有効濃度として検出する。
【0055】
ここで、呼吸波形が大きく変動するタイミングでは、上記のように信頼度が小さくなることから、有効濃度検出部250は、当該タイミングにおけるCO2濃度を有効濃度として検出しない。
【0056】
このように、本実施形態の呼吸波形解析装置10によれば、信頼度算出部230が算出する信頼度に基づいて呼吸波形におけるノイズ成分を正確に把握することができる。さらに、呼吸気道アダプタ20の透明窓25への水滴の付着等に起因して呼吸波形が大きく変動した場合でも、上記信頼度を利用することにより、かかる変動部分のピークが有効濃度として検出されることがなく、呼吸波形の各周期におけるCO2の有効濃度をより高い精度で検出することができる。
【0057】
図7は、呼吸波形、当該呼吸波形の信頼度、および濃度検出時間毎の信頼度の積算値を示す。ここで、図7に示す呼吸波形および当該呼吸波形の信頼度は図6に示すものと同じである。したがって、呼気波形(W1〜W8)、濃度検出時間(T1〜T8)など、図6と同じ符号を付したものについては図6と同様であるのでその説明を省略する。
【0058】
本実施形態において、有効濃度検出部250は、それぞれの上記濃度検出時間内における信頼度を積算し、その積算値を予め定められた下限信頼度と比較する。そして、有効濃度検出部250は、上記積算値が上記下限信頼度を上回った濃度検出時間内についてのみ、上記有効濃度の検出を行う。
【0059】
図7に示す呼吸波形を参照してより具体的に説明すると、有効濃度検出部250は、それぞれの濃度検出時間(T1〜T8)内における信頼度を積算することにより、それぞれの濃度検出時間に対応する積算値(S1〜S8)を算出する。また、有効濃度検出部250には、下限信頼度として、例えば被測定者の自発的な呼吸により生じる呼気波形(W3、W6)に対応する信頼度の積算値(S3、S6)の何れよりも大きく、人工呼吸器からのエア供給に対しての正常な呼気波形(W1、W2、W4、W5、W7、W8)に対応する信頼度の積算値(S1、S2、S4、S5、S7、S8)の何れよりも小さい値が記憶されている。
【0060】
そして、有効濃度検出部250は、それぞれの濃度検出時間(T1〜T8)内における信頼度の積算値(S1〜S8)を算出し、当該積算値と上記下限信頼度と比較する。そして、有効濃度検出部250は、それぞれの積算値のうち、上記下限信頼度を上回った積算値(S1、S2、S4、S5、S7、S8)に対応する濃度検出時間(T1、T2、T4、T5、T7、T8)内についてのみ、有効濃度を検出する。有効濃度検出部250は、検出した有効濃度(以下において、C1、C2、C4、C5、C7、C8と称する)を重み付け平均化処理部260および表示部62へと出力し、表示部62は、当該有効濃度を表示する。
【0061】
このように、本実施形態の呼吸波形解析装置10において、有効濃度検出部250は、例えば被測定者の自発的な呼吸により生じる信頼度の低い呼気波形については、有効濃度を検出しないので、人工呼吸器からのエア供給に対する被測定者からの正常な呼気についてのみ、CO2の有効濃度を検出することができる。
【0062】
呼吸数検出部240は、呼吸ガス濃度算出部210からの呼吸波形、および信頼度算出部230からの信頼度に基づいて、被測定者の単位時間当たりの呼吸数を検出する。具体的には、呼吸数検出部240は、有効濃度検出部250と同様に、例えば、呼吸波形においてCO2濃度が所定の閾値を上回ってから再び下回るまでの部分を当該呼吸波形の1周期における呼気波形として検出する。
【0063】
そして、呼吸数検出部240は、信頼度算出部230からの信頼度の積算値を算出し、有効濃度検出部250と同様に上記下限信頼度と当該積算値とを比較する。そして、呼吸数検出部240は、それぞれの積算値のうち、上記下限信頼度を上回った積算値に対応する呼気波形についてのみ、被測定者の単位時間当たりの呼吸数としてその数値データを表示部62へと出力し、表示部62は、当該被測定者の単位時間当たりの呼吸数を表示する。
【0064】
このように、本実施形態において、例えば被測定者の自発的な呼吸により生じる信頼度の低い呼気波形については、呼吸数としてカウントしないので、人工呼吸器からのエア供給に対する被測定者の呼吸運動に基づく呼吸数をより正確に検出することができる。
【0065】
重み付け平均化処理部260は、有効濃度検出部250において呼吸波形から複数の上記有効濃度が検出された場合に、それぞれの有効濃度を、当該有効濃度に対応する信頼度の積算値の大きさに応じて重み付けして平均化した重み付け平均値を算出する。
【0066】
例えば図7に示す呼吸波形において、重み付け平均化処理部260は、有効濃度検出部250が呼気波形W1、W2、W4、W5、W7、およびW8からそれぞれ検出した有効濃度(C1、C2、C4、C5、C7、C8)と、当該有効濃度の各々に対応する信頼度の積算値(S1、S2、S4、S5、S7、S8)とにより、以下の算出式(数2)に基づいて重み付け平均値を算出する。そして、重み付け平均化処理部260は、算出した重み付け平均値を表示部62へと出力し、表示部62は、当該重み付け平均値を表示する。
【0067】
【数2】

【0068】
また、重み付け平均化処理部260は、有効濃度検出部250が呼吸波形に基づいて新たに有効濃度を検出したことに応じて、重み付け平均値を更新してもよい。例えば、重み付け平均化処理部260は、一定時間おきに、有効濃度検出部250が検出した新たな有効濃度と当該有効濃度に対応する信頼度の積算値の大きさに応じて重み付け平均値を更新してもよい。
【0069】
このように、本実施形態の呼吸波形解析装置10は、呼吸波形から検出される有効濃度を当該呼吸波形の信頼度の積算値に応じて重み付けして平均化した重み付け平均値を算出することにより、検出された有効濃度を表示部62へそのまま表示させるだけでなく、ノイズ成分の少ない呼気波形から算出された有効濃度がより反映された平均値として表示させることができる。
【0070】
図8は、呼吸ガス濃度検出部100が出力する電圧(Vsig)の時間波形および当該電圧の時間波形に基づいて生成される呼吸波形の一例を示す。図8に示す呼吸波形において、W11〜W13の波形は、図6に示す波形の場合と同様に、有効濃度検出部250が所定の閾値(Cth)との比較に基づいて検出した呼気波形である。また、T11〜T13は、それぞれの呼気波形(W11〜W13)における濃度検出時間を示す。
【0071】
呼吸波形解析装置10の使用時において、例えば、呼吸気道アダプタ20の透明窓25へ水滴が付着することによりセンサ部50の受光部53における受光強度が低下すると、それに伴って受光部53からの電圧値も低下する。このとき、呼吸ガス濃度算出部210において生成される呼吸波形は、呼吸気道26を通過する呼吸気に含まれる実際のCO2濃度の大きさに依らずに急激に変動することがある。
【0072】
一方、測定器60において、有効濃度検出部250は、呼吸ガス濃度検出部100が出力する電圧(Vsig)を受け取り、当該電圧と予め設定された下限電圧とを比較する。そして、有効濃度検出部250は、電圧(Vsig)の値が下限電圧(Vth)を下回った時間を呼吸波形における濃度検出時間から除く。例えば図8に示す呼吸波形において、有効濃度検出部250は、それぞれの呼気波形(W11〜W13)についての濃度検出時間(T11〜T13)から、電圧(Vsig)の値が下限電圧(Vth)を下回った時間(TD1〜TD3)を除いた時間において有効濃度を検出する。
【0073】
このように、本実施形態の呼吸波形解析装置10は、呼吸波形におけるノイズ部分を除去してから有効濃度を検出するので、被測定者の呼気に含まれるCO2の有効濃度をより正確に検出することができる。
【0074】
図9は、本実施形態の他の例に係る測定器65の構成を示す機能ブロック図である。測定器65において、図4を参照して説明した測定器60と同様の構成については同じ符号を付してその説明を省略する。
【0075】
測定器65は、機器本体61内部に、呼吸ガス濃度検出部100および演算処理部201を有する。そして、演算処理部201は、演算処理部200が含む上記構成に加えて濃度検出値補正部270を更に含む。
【0076】
濃度検出値補正部270は、呼吸ガス濃度検出部100が出力する上記電圧を受け取る。そして、その電圧値が予め定められた基準電圧値に対する割合に応じて、呼吸波形を補正する。より具体的には、濃度検出値補正部270は、例えば以下の算出式(数3)に基づいて呼吸波形における上記電圧値に対応するCO2濃度を補正した補正値を算出し、当該補正値の時系列を補正した呼吸波形として表示部62、および呼吸数検出部240へと出力し、表示部62は、当該補正した呼吸波形を表示する。
【0077】
【数3】

【0078】
上記数3において、基準電圧値(Vsig0)は、呼吸気道アダプタ20の呼吸気道・BR>Q6内部に気体が存在しない状態で呼吸波形解析装置10による測定を行ったときに呼吸ガス濃度検出部100から出力される電圧値である。
【0079】
また、重み付け調整係数(a、b)は、基準電圧値に対する現在の電圧値(補正対象とする電圧値)の変化の割合(Vsig/Vsig0)を、現在のCO2濃度(Cp)および1つ前のタイミングにおけるCO2濃度(F_CO2〔1〕)の何れに対してより強く反映させた補正値とするかを調整する係数である。なお、本実施形態において、aは0〜1の範囲の値であることが好ましく、bは0以上の値であることが好ましい。
【0080】
図10は、測定器65において、呼吸ガス濃度検出部100が出力する電圧(Vsig)の時間波形、当該電圧の時間波形に基づいて生成される呼吸波形、および補正後の呼吸波形の一例を示す。図10に「CO2濃度」として示す波形は、呼吸ガス濃度検出部100が出力する電圧(Vsig)に基づいて呼吸ガス濃度算出部210が生成する呼吸波形である。また、図10に「補正後のCO2濃度」として示す波形は、「CO2濃度」として示す呼吸波形を濃度検出値補正部270が上記数3の算出式に基づいて補正した呼吸波形である。
【0081】
なお、本例において、上記数3における重み付け調整係数(a、b)は、何れも1とした。したがって、本例では、濃度検出値補正部270は、基準電圧値(Vsig0)に対する呼吸ガス濃度検出部100から出力される電圧(Vsig)の割合が小さいほど、当該電圧(Vsig)に基づいて呼吸ガス濃度算出部210で生成されるCO2濃度(Cp)を、その割合に応じて小さくした補正値(F_CO2〔0〕)を算出する。
【0082】
したがって、濃度検出値補正部270は、例えば呼吸気道アダプタ20の透明窓25へ水滴が付着するなどの測定誤差要因により受光部53における受光強度が低下することにより電圧(Vsig)が呼吸気道26を通過する呼吸気のCO2濃度を反映しない低い値となった場合でも、当該測定誤差要因の影響によるCO2濃度(Cp)の急激な変動を緩和した呼吸波形を生成することができる。
【0083】
また、呼吸数検出部240においても、被測定者の単位時間当たりの呼吸数をより正確に検出することができる。また、表示部62において、上記測定誤差要因による影響が少なく、被測定者の呼吸気のCO2濃度により近い呼吸波形を表示させることができる。
【0084】
ところで、本実施形態の呼吸波形解析装置10の使用時において呼吸回路内で発生した水は、上記のようにCO2濃度の測定の誤差要因となるだけでなく、患者が誤って吸引すると肺炎の原因ともなり得ることから、その発生をより正確に検出することが必要とされる。以下において、このような課題を解決することのできる呼吸波形解析装置10を例示して説明する。
【0085】
図11は、本実施形態の更に他の例に係る測定器66の構成を示す機能ブロック図である。また、図12から図15は、測定器66において、呼吸ガス濃度検出部100が出力する電圧(Vsig)の時間波形および当該電圧の時間波形に基づいて生成される呼吸波形の例を示す。
【0086】
図11に示す測定器66において、図4を参照して説明した測定器60または図9を参照して説明した測定器65と同様の構成については同じ符号を付してその説明を省略する。また、図12から図15に「CO2濃度」として示す波形は、呼吸ガス濃度検出部100が出力する電圧(Vsig)に基づいて呼吸ガス濃度算出部210が生成する呼吸波形である。
【0087】
測定器66は、機器本体61内部に、呼吸ガス濃度検出部100および演算処理部202を有する。そして、演算処理部202は、演算処理部200が含む上記構成に加えて貯留水検知部280を更に含む。
【0088】
貯留水検知部280は、呼吸ガス濃度検出部100が出力する電圧(Vsig)を受け取り、当該電圧(Vsig)と予め設定された注意喚起電圧(VALM1)とを比較する。本例において、注意喚起電圧(VALM1)の大きさは、呼吸波形解析装置10の使用時において呼吸気道アダプタ20の透明窓25へ水が付着することなく測定が行われている場合には電圧(Vsig)の値が注意喚起電圧(VALM1)を上回る大きさに設定される。
【0089】
呼吸波形解析装置10の使用時において、呼吸気道アダプタ20の内部に貯留した水が呼吸気道アダプタ20の透明窓25へ付着すると、センサ部50の受光部53による受光強度が低下する。そして、貯留水検知部280は、図12に示すように、受光部53による受光強度の低下に伴って電圧(Vsig)が低下してその値が注意喚起電圧(VALM1)を下回ると、呼吸気道アダプタ20の内部に水が貯留している可能性を示す注意喚起信号を表示部62へと出力する。表示部62は、注意喚起信号を受け取ると、当該注意喚起信号に基づいて、例えば、呼吸気道アダプタ20の内部に水が貯留している可能性がある旨を示す注意喚起メッセージを一定時間(TALM1)表示する。
【0090】
また、貯留水検知部280は、電圧(Vsig)の値が低下して注意喚起電圧(VALM1)を下回ると、更に、当該電圧(Vsig)の値と予め設定された警告電圧(VALM2)とを比較する。本例において、警告電圧(VALM2)の大きさは、呼吸波形解析装置10の使用時において呼吸気道アダプタ20の透明窓25の略全面に水が付着した状態で測定が行われているときに電圧(Vsig)の値が当該警告電圧(VALM2)を下回る大きさに設定される。
【0091】
貯留水検知部280は、図13に示すように、電圧(Vsig)の値が更に低下して上記警告電圧(VALM2)を下回ると、呼吸気道アダプタ20の内部に水が貯留している旨を示す警告信号を表示部62へと出力する。表示部62は、警告信号を受け取ると、当該警告信号に基づいて、例えば、呼吸気道アダプタ20の内部に水が貯留している旨を示す警告メッセージを一定時間(TALM2)表示する。
【0092】
また、貯留水検知部280は、図14に示すように、電圧(Vsig)の値が予め設定された注意喚起電圧(VALM1)を下回った回数を呼吸波形毎に積算し、下回った回数が予め設定された回数(図14では3回)に達した段階で注意喚起信号を表示部62へと出力してもよい。そして、貯留水検知部280は、電圧(Vsig)の値が注意喚起電圧(VALM1)を下回った回数を更にカウントし、上記回数よりも大きな回数として予め設定された回数(図14では8回)に達した段階で警告信号を表示部62へと出力してもよい。
【0093】
また、貯留水検知部280は、図15に示すように、電圧(Vsig)の値が予め設定された注意喚起電圧(VALM1)を下回っている時間を積算し、その積算時間が予め設定された時間に達した段階で注意喚起信号を表示部62へと出力してもよい。また、貯留水検知部280は、図15に示すように、電圧(Vsig)の値が予め設定された警告電圧(VALM2)を下回っている時間を積算し、その積算時間が予め設定された時間に達した段階で警告信号を表示部62へと出力してもよい。
【0094】
このように、本実施形態の呼吸波形解析装置10は、貯留水検知部280を更に含むことにより、呼吸気道アダプタ20の内部に水が貯留していることを検出して装置の利用者に対して注意喚起および警告をすることができる。なお、本例では、呼吸気道アダプタ20の内部への水の貯留に関する注意喚起および警告を表示部62によるメッセージの表示により行うが、例えばブザーあるいは音声案内等によって当該注意喚起および警告を行ってもよい。
【0095】
以上において説明した呼吸波形解析装置10の形態例は、発光部52がCO2ガスによる吸収の割合が高い帯域の光(シグナル光)を発光し、呼吸気に含まれるCO2濃度に応じて吸収された当該光を受光部53で受光するものである。これに対し、以下では、発光部52がシグナル光に加えて、CO2ガスによる吸収の割合が低い帯域の光(レファレンシャル光)を発光する形態例について説明する。なお、以下において説明する呼吸波形解析装置10は、上記形態例に係る呼吸波形解析装置10と同様の構成を有する。
【0096】
本例では、発光部52は、シグナル光およびレファレンシャル光を交互に発光する。そして、呼吸ガス濃度検出部100は、シグナル光およびレファレンシャル光それぞれの受光強度に応じた値の電圧を出力する。すなわち、本例では、呼吸ガス濃度検出部100は、シグナル光の受光強度に応じた大きさの電圧(Vsig)とともに、レファレンシャル光の受光強度に応じた大きさの電圧(Vref)を出力する。ここで、レファレンシャル光がシグナル光と比べてCO2による吸収がほとんどない光であることから、呼吸気に含まれるCO2濃度の増減による電圧(Vref)の値の変化は、電圧(Vsig)と比べて小さくなる。
【0097】
ところで、レファレンシャル光の受光強度については、ランバートベールの法則から以下の式が成立する。
【数4】

上式(数4)において、refはレファレンシャル光の受光強度を、ref0は呼吸気道アダプタ20の内部に水が全く貯留していない状態でのレファレンシャル光(基準レファレンシャル光)の受光強度をそれぞれ示す。また、Eは吸光係数を、Cはレファレンシャル光の光路上に存在した水の濃度を、Dは当該水の当該光路方向における厚みをそれぞれ示す。また、上式(数4)は以下のように変形することができる。
【0098】
【数5】

ここで、呼吸気道アダプタ20内部に貯留する水の吸光係数(E)および当該水の濃度(C)は定数と見なすことができるので、上式(数5)は、呼吸気道アダプタ20の内部に貯留する水の量と、当該水に起因するレファレンシャル光の減衰の程度(水による減衰度)との関係を示す式となる。また、ref/ref0は、基準レファレンシャル光の受光強度に基づいて呼吸ガス濃度検出部100が出力する電圧をVref0とすると、Vref/Vref0で近似することができる。
【0099】
本例の呼吸波形解析装置10の貯留水検知部280は、上式(数5)を記憶しており、また、上式(数5)における吸光係数(E)、濃度(C)、および基準レファレンシャル光の受光強度に対応する電圧(Vref0)が予め設定される。本例において、基準レファレンシャル光の受光強度に応じた電圧(Vref0)は、測定により求めてもよいが、VrefおよびVsigとVrefとの比(Vsig/Vref)に基づいて、例えば以下のように求めることができる。
【0100】
図16は、呼吸気中のCO2濃度の変化に伴うVrefとVsig/Vrefとの関係を示す。図16に示す各プロットは、それぞれのプロット近傍に分圧値として示すCO2濃度におけるVrefとVsig/Vrefとの関係を示す。また、図16に示す直線は、各プロットの線形近似により得られる直線を示す。
【0101】
図16に示すように、呼吸気道アダプタ20の内部に水が全く貯留していない状態でのレファレンシャル光(基準レファレンシャル光)の受光強度に応じた電圧(Vref0)の値は、上記各プロットの線形近似により得られる直線上におけるVsig/Vrefが1.0となるときのVrefの値(図16に「×」で示したプロットにおけるVrefの値)として近似的に求めることができる。
【0102】
図17は、呼吸気道アダプタ20の内部におけるシグナル光およびレファレンシャル光の光路上に水が貯留していない状態における、Vsig、Vref、およびVsigに基づいて生成されるCO2濃度の各時間波形の例を示す。また、図18は、当該状態における、VsigおよびVrefの各時間波形と、呼吸気道アダプタ20の内部に貯留する水による減衰度との関係を示す。
【0103】
また、図19は、呼吸気道アダプタ20の内部におけるシグナル光およびレファレンシャル光の光路上に水が貯留している状態における、Vsig、Vref、およびVsigに基づいて生成されるCO2濃度の各時間波形の例を示す。また、図20は、当該状態における、VsigおよびVrefの各時間波形の例と、呼吸気道アダプタ20の内部に貯留する水による減衰度との関係を示す。
【0104】
図17および図18に示すように、呼吸気道アダプタ20の内部におけるシグナル光およびレファレンシャル光の光路上に水が貯留していない状態では、レファレンシャル光の受光強度に応じた電圧(Vref)、およびシグナル光の受光強度に応じた電圧(Vsig)が被測定者の呼吸気に含まれるCO2濃度の変化により変動した場合でも、上記減衰度(数5のECD)はほぼ0となる。
【0105】
これに対し、図19および図20に示すように、呼吸気道アダプタ20の内部に水が貯留してシグナル光およびレファレンシャル光の光路上の少なくとも一部を覆うと、レファレンシャル光およびシグナル光がともに減衰する。このとき、上記減衰度(数5のECD)は、上記レファレンシャル光およびシグナル光の減衰の程度に応じて大きくなる。したがって、上記減衰度(数5のECD)は、呼吸気道アダプタ20の内部に貯留する水の量が増えるのに伴って大きくなる。
【0106】
本例の呼吸波形解析装置10の貯留水検知部280は、かかる傾向を示す上記減衰度(数5のECD)を算出し、その値に基づいて呼吸気道アダプタ20の内部に貯留する水の量を検知することができる。
【0107】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることができることは当業者に明らかである。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0108】
例えば上記の呼吸波形解析装置10は、被測定者の呼気中のCO2濃度を測定する装置であるが、本発明はこのような被測定者の呼気中の特定成分を測定する装置に限られない。本発明の技術的範囲には、例えば被測定者の呼気あるいは吸気中の一又は複数の成分を測定する装置が含まれる。
【符号の説明】
【0109】
10…呼吸波形解析装置
20…呼吸気道アダプタ
21…接続ポート
22…接続ポート
23…アダプタ本体
24…センサ取付面
25…透明窓
26…呼吸気道
30…Y字アダプタ
31…接続ポート
32…吸気用通気管
33…呼気用通気管
40…挿入部
41…チューブ
42…接続アダプタ
50…センサ部
51…センサ収納部
52…発光部
52a、52b…配線
53…受光部
53a、53b…配線
54…凹部
55…接続ケーブル
56…開口
60、65、66…測定器
61…測定器本体
62…表示部
63…操作部
100…呼吸ガス濃度検出部
200、201、202…演算処理部
210…呼吸ガス濃度算出部
220…平坦度算出部
230…信頼度算出部
240…呼吸数検出部
250…有効濃度検出部
260…重み付け平均化処理部
270…濃度検出値補正部
280…貯留水検知部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被測定者の呼吸ガス中における特定成分の濃度の経時変化に基づく呼吸波形を解析する呼吸波形解析装置であって、
被測定者の呼吸ガスが流れるとともに、前記呼吸ガスにおける前記特定成分の前記濃度を検出してその検出値に応じた信号を出力するセンサが配置された呼吸気道アダプタと、
前記センサからの前記信号に基づいて前記濃度の大きさを示す濃度信号を生成する呼吸ガス濃度生成部と、
前記濃度信号に基づいて、前記呼吸気道アダプタ内に水が貯留していることを検知する貯留水検知部を備えることを特徴とする呼吸波形解析装置。
【請求項2】
前記貯留水検知部は、前記濃度信号の値と、予め設定した少なくとも一つの比較値との比較結果に基づいて、前記呼吸気道アダプタ内に水が貯留していることを検知することを特徴とする請求項1に記載の呼吸波形解析装置。
【請求項3】
前記センサは、前記特定成分による吸収特性の異なるレファレンシャル光およびシグナル光を受光可能であり、
前記貯留水検知部は、前記センサにおける受光強度に基づいて、前記レファレンシャル光および前記シグナル光の減衰度を算出し、前記減衰度に基づいて前記呼吸気道アダプタ内に貯留する水の量を検知することを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の呼吸波形解析装置。
【請求項4】
前記貯留水検知部は、前記比較結果が注意喚起レベルに達した場合は前記被測定者に対して注意を促すための注意喚起信号を出力し、前記比較結果が警告レベルに達した場合は前記被測定者に対して警告するための警告信号を出力することを特徴とする請求項2または3のいずれかに記載の呼吸波形解析装置。
【請求項5】
前記貯留水検知部は、前記濃度信号の値と前記比較値との差分、前記濃度信号の値が前記比較値を上回った回数若しくは積算時間、または、前記濃度信号の値が前記比較値を下回った回数若しくは積算時間、のいずれかに基づいて、前記注意喚起レベルまたは前記警告レベルに達したことを検知することを特徴とする請求項4に記載の呼吸波形解析装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【公開番号】特開2013−78605(P2013−78605A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−273438(P2012−273438)
【出願日】平成24年12月14日(2012.12.14)
【分割の表示】特願2009−82039(P2009−82039)の分割
【原出願日】平成21年3月30日(2009.3.30)
【出願人】(000230962)日本光電工業株式会社 (179)
【Fターム(参考)】