説明

回転精度測定方法

【課題】
3個の変位計間の相対角度が正確であるかどうかを評価することができ、回転軸の回転ムラを補正することができ、変位計の中心位置が回転軸上の同じ測定部位を指しているかどうかを評価することができ、ひいては3点法の特性を有効にかつ容易に活用して回転軸の回転精度を測定することができる回転精度測定方法を提供する
【解決手段】
それぞれの中心位置が回転する測定対象物の外周面上の同一回転軌跡上にあるように配置した3個の非接触型の変位計のプローブによって前記測定対象物の回転運動を測定し、前記測定対象物の回転精度成分と前記測定対象物の形状成分とを含む前記変位計の出力信号を処理して前記形状成分を分離して前記測定対象物の回転精度を測定する方法であって、前記処理の前に前記変位計の出力信号における前記回転の回転速度のムラを補正する

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は回転軸などの回転測定対象物の回転精度測定方法に関するものである。
この発明は、工作機械の主軸回転精度評価(含む、超精密工作機械用主軸)、ベアリングの性能評価、各種モータの回転精度評価、HDD、DVD装置などのスピンドルの回転精度評価、真円度測定機の回転軸の回転精度評価、高精度真円度測定、その他、各種回転軸系の回転精度および真円度評価に利用することができる。
【背景技術】
【0002】
従来の回転軸の回転精度測定法は、回転軸に高精度の球や円筒を取り付け、それを測定の基準として回転精度を測定するものである。また、3点法と呼ばれる3本の非接触変位計を使用し、測定基準の形状誤差と回転軸の回転誤差成分を分離して、より高精度な測定を表現するアルゴリズムが報告されている。
【0003】
【特許文献1】特開昭60−111913
【特許文献2】特開2001−50739
【特許文献3】特開2004−279130
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の回転精度測定技術では、回転軸の端面に測定基準である球や円筒を取り付け、その測定基準が絶対的に正しい(形状誤差がない)ものとして測定を行っている。実際には、どのように高精度な測定基準を用意したとしても誤差が零ということはあり得ないために、測定基準の形状誤差が回転誤差の測定結果に影響を及ぼすことになる。また、測定対象の回転軸に測定基準を取り付けることが回転精度の測定を行うために絶対に必要な要件となる。従って、例えばモータの回転精度を評価する際に、モータの軸を測定基準として使用することができれば、測定基準をモータ軸に取り付ける必要がないことから、作業者によるマニュアル測定に代わり自動測定が可能となるが、このような測定の自動化は現状では実現されていない。
【0005】
一方、3個の変位計を使用して回転軸の回転精度を測定する3点法が開発されている(特許文献1)。この3点法では回転軸を3個の変位計で測定して、変位計の出力信号を回転軸の形状成分と回転精度成分に分離して回転精度を導くものである。この3点法によれば上記のモータ軸を測定基準とし、モータ軸の形状誤差の補正を行い、回転精度を正しく評価することが可能である。
【0006】
しかしこの3点法では3個の変位計間の配置に相対角度が正確であること、回転軸の回転ムラがあると、測定精度が低下すること、各変位計の中心位置が回転軸上の同じ測定部位を指している状態を確保することが必要であるが、従来の技術ではこれらの対策が十分には行われていない。特許文献2の技術は検出器の相対角度を測定し、検出器の出力と比較して測定対象物の形状を測定する3点法形状測定技術であるが、上記の課題については解決されていない。特許文献3は連続した波形の最大値、最小値を使用して1回転内の位相ズレを補正する技術であるが、上記の課題については検討されていない。
【0007】
この発明は上記の如き事情に鑑みてなされたものであって、3個の変位計間の相対角度が正確であるかどうかを評価することができ、回転軸の回転ムラを補正することができ、変位計の中心位置が回転軸上の同じ測定部位を指しているかどうかを評価することができ、ひいては3点法の特性を有効にかつ容易に活用して回転軸の回転精度を測定することができる回転精度測定方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この目的に対応して、この発明の回転精度測定方法は、それぞれの中心位置が回転する測定対象物の外周面上の同一回転軌跡上にあるように配置した3個の非接触型の変位計のプローブによって前記測定対象物の回転運動を測定し、前記測定対象物の回転精度成分と前記測定対象物の形状成分とを含む前記変位計の出力信号を処理して前記形状成分を分離して前記測定対象の回転精度を測定する方法であって、前記処理の前に前記変位計の出力信号における前記回転の回転速度のムラを補正することを特徴としている。
【発明の効果】
【0009】
この発明は3個の変位計の出力から回転測定対象物の形状成分と回転精度成分を分離することができるので、真円度と回転精度を同時に測定することができる。
【0010】
また、変位計の出力を前後のデータから線計補間することにより1周期のサンプルスと一致させ、良好な測定をすることができる。
【0011】
また変位計の中心を同一の回転軌跡上に一致させることができて、良好な測定をすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、この発明の詳細を一実施の形態について説明する。
図1及び図2において、1は回転精度を測定しようとする軸受14に取り付けられた回転軸であり、2はこの発明の真円度測定装置である。回転軸は回転測定対象物の一例である。回転軸1の特定断面を含む平面内に3個の変位計A、B及びCを配置する。変位計A、B、及びCとしては静電容量型変位計、渦電流形変位計、その他任意の変位計を使用することができる。回転中の回転軸1の運動を変位計によって測定する。変位計A、B、及びCの出力には回転軸の回転精度成分だけでなく回転軸1の形状成分も含まれる。変位計A、B、Cの出力から形状成分を検出し、その分を変位計の出力について補正する。この実施態様では回転軸形状の検出に3点法真円度測定法を応用し、変位計A、B及びCからの信号を増幅器17を介してコンピュータ16に入力する。コンピュータ16では変位計A、B、Cからの出力をサンプリングし、3点法回転精度測定法により処理して回転精度を測定する。処理の手法については昭和55年特許出願公開第82008号公報に詳細に記載されている。
【0013】
この測定において、センサ角度φ、φ及びφが正確である必要がある。そこでセンサ角度誤差に対するロバスト性について検討する。
(センサ角度誤差に対するロバスト性)
各センサの出力は

重み付け加算すると

【0014】
各センサの測定誤差成分のノルムが等しく、位相がランダムである(=白色ノイズのようなもの)とすると、重み付け加算後の誤差成分は

倍で見積もられる。
【0015】
よって、S/N比の観点から以下ではこの値を基準としたゲインを考える。重み付け係数を

とすると、フィルタの伝達関数は

【0016】
また、逆フィルタの伝達関数は以下のようになり、expの引数が(^)になっていることに注意したい。

【0017】
1.形状誤差の影響

【0018】
2.回転誤差による影響
、Kにおいて測定値に対する真値の変化による影響を考えると(注意:^は測定値)

よって、φ=0°、φ=90°として角度誤差をそれぞれ+1°生じたときの回転誤差の残り量は図3のようになる。
【0019】
ここで、φ、φ、φの誤差分布が標準偏差σのガウス分布であったとすると、

よって、φ=0°、φ=90°として各センサの角度設定誤差がφ=1°のとき、以下の図4に示す結果を得る。
【0020】
また、φ=0°としてφ、φに対するロバスト性の変化を見ると、以下の図5に示すようになる。回転誤差x、yの位相関係が不明であるが、これらの2乗和の平方は角度φ、φに関係なく一定であるため、おおよそ、回転誤差はφ、φ、φに依存せず、それらの誤差分布の標準偏差に比例してキャンセルの残し量が発生すると考えられる。
以上の結果から角度φ、φ、φを修正する。
【0021】
(回転ムラの補正について)
次に回転ムラの補正について述べる。
この発明では回転軸の回転速度の変化(回転ムラ)に対して、補正する機能を持っている。図6(a)に示すように、A/D変換器のサンプリング周期は一定のため、回転速度が変化するとサンプリング点数が変化する。
この発明では、図6(b)に示すように回転ムラを検出するために回転同期信号が必要であり、その信号はA/D変換器の入力信号として集録される。
【0022】
通常、回転同期信号を単にA/D変換器のトリガー信号として変位計の信号を集録する。これでは、正確に1周期を分離することができない。
回転同期信号はエッジの鋭いロジック信号を規格としているが、インターフェース回路の周波数特性からエッジは傾斜を持った波形となる。又ノイズも混入する。集録した回転同期信号は1周期を精度良く分離するために、正(“1”)の安定電圧、負(“0”)の安定電圧から自動的にしきい値を補正する機能を持っている。従い、傾斜を持つエッジでも1周期の精度良く分離ができる。
【0023】
図7に示すように、回転ムラと測定データの関係は、A/D変換後の、1周のサンプル数の違いとなって現われる。本システムでは、同期信号から集録データを1周毎に区切っている。周回毎に1周のサンプル数が違う場合は、前後のデータからの線形補間により、サンプル数が一致するように補正している。
【0024】
(変位計の測定部位の補正について)
次にこの発明ではすべての変位計が回転軸1の同一の回転軌跡を測定している状態を確保することができる。この発明では3個の変位計の出力を用いるので、そのすべての変位計が回転軸の同一の回転軌跡上の同一測定部位を測定している状態でなければならない。そこでこの状態を確保するために回転軸の回転軌跡上にマーク11をつける(図8)。
【0025】
2.測定対象物のマーク
1)真円度と回転精度
回転軸の回転軌跡上に特別なマークがあっても、真円度の形状として数値化とグラフ化できる。(非接触変位計の校正用マークとしても利用できる。)
一例は、回転軸の回転軌跡上にマジックインクで黒線を引く、反射型光センサは回転信号として取り出すことができる。又、3点のプローブの中心位置が黒線を過ぎっても、回転精度に影響はない。
マークはシール(フィルム)、レーザマーク、フォトエッチングにより付する。こうして、周辺部とマークに濃淡差があれば、エッジを検出することができ、各プローブの中心位置は、測定対象物の同一線上にあることを確認できる。
マーク形状としては一例として図9に示すものがある。この例では合わせマークの端面を検出すると波形が跳ねるので、図示の様にカットした。
【0026】
(その他)
3点法の解析次数を指定して、真円度の解析をする。これによって、回転軸の表面の形状、うねり成分を分離することができる。次に変位計の出力をFFT処理をして3点法で得られた回転精度X、Y成分の周波数分析をする。
次に従来の2プローブを使用した真円度測定方法ではNRROの検出についてプローブの配置方向によって感度がよい方向と悪い方向とがあるが、この発明では、3点法で得られたX、Y方向成分のベクトルから、全方向に良好な感度を得ることができる。
【0027】
次に図10に示すように、単一スペクトラムの正弦波図10(a)に対し変位計の出力が高調波を含むひずみ波図10(b)である場合はFFT処理をして所望の任意周波数だけを抽出し単一スペクトラムの波形図10(c)に修正して測定する。この処理をする場合は図10(b)に示す高調波を含む信号をフーリエ展開するとPowerとPhaseに分解できる。このPowerから図11に示すように、任意の周波数を抽出して逆フーリエ処理をして波形を再現させる。出力波形は単一スペクトラムの正弦波となり、これを測定に利用すれば特定の周波数成分を遮断でき、測定環境を含む、システムノイズを低減することができる。また軸の回転数の成分とベアリング等の他運動成分のみ通過させることができ、低周波、高調波などの任意周波数、通過、減衰幅の指定ができる。
【0028】
以上説明した通り、この発明によれば
1)回転軸の真円度と回転精度を同時に測定することができる。
2)3点法の解析次数を指定することができる
3)測定基準(高精度な球や円筒、あるいは回転軸自体を測定基準とできる)の真円度と回転精度成分の周波数分析を行い、その結果をグラフィックス表示できる。
4)3点法演算結果をNRRO(Non Repeatable Run−out)表示できる。
5)ディジタルフィルタリング処理により、指定した周波数成分の通過や遮断が可能で、後の演算処理の精度を高めることができる。これは、NC工作機械の主軸回転精度測定においてしばしば問題となるNC装置からの雑音成分の除去等に有効である。
6)A/D変換のサンプリングに影響を及ぼす回転軸の回転変動の補正機能を有する。特に、3点法の特徴を活かし、回転軸に貼り付けたマーカーにより回転同期信号を取得、真円度に現れるマーカーの影響を3点法のアルゴリズムで補正することが可能である。測定基準の球の表面にごくわずかな凹凸をマーカーとして、フォトエッチングで形成することが有効と考えられる。
7)3本の非接触変位形間の最適な角度の評価、変位計間の角度を指定した場合における測定精度への影響についての指針を与えることが可能。
8)A/D変換のサンプリングに影響を及ぼす回転軸の回転変動の補正機能を実現した。特に、フォトエッチング等の技術により測定基準の球や円筒の表面に形成したごくわずかな凹凸をマーカーとして用いることにより、回転同期信号を容易に取得することができる。また、真円度に表れるマーカーの影響を3点法のアルゴリズムで補正することが可能であることから、回転精度測定に使用する非接触変位計を高精度な回転同期信号の取得にも利用することが可能となる。
9)3本の非接触変位計間の最適な角度の評価、変位計間の角度を指定した場合における測定精度への影響についての指針を考えることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】変位計の配置を示す説明図。
【図2】回転精度測定装置の構成を示す説明図。
【図3】回転誤差の残り量を示すグラフ(角度差1度を与えたとき)。
【図4】回転誤差の残り量を示すグラフ(ガウス分布のノイズを加えたとき)。
【図5】回転誤差の残り量を示すグラフ(φ2、φ3の残し量)。
【図6】集録信号を示すグラフ。
【図7】線形補間の原理を示す説明図。
【図8】回転軸上のマークを示す説明図。
【図9】マークの拡大説明図。
【図10】正弦波とひずみ波の波形とスペクトラムを示す説明図。
【図11】波形修正の処理手順を示す説明図。
【符号の説明】
【0030】
1 回転軸
2 回転精度測定装置
11 マーク
14 軸受
16 コンピュータ
17 増幅器
A 変位計
B 変位計
C 変位計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれの中心位置が回転する測定対象物の外周面上の同一回転軌跡上にあるように配置した3個の非接触型の変位計のプローブによって前記測定対象物の回転運動を測定し、前記測定対象物の回転精度成分と前記測定対象物の形状成分とを含む前記変位計の出力信号を処理して前記形状成分を分離して前記測定対象物の回転精度を測定する方法であって、前記処理の前に前記変位計の出力信号における前記回転の回転速度のムラを補正することを特徴とする回転精度測定方法
【請求項2】
前記回転速度のムラは、周回毎のサンプル数が違うときに、前後のデータからの線形補間により、サンプル数が一致するように補正するものであることを特徴とする請求項1記載の回転精度測定方法
【請求項3】
前記測定対象物の前記外周面上に前記プローブが検出可能なマークを設けることを特徴とする請求項1記載の回転精度測定方法
【請求項4】
前記測定対象物の真円度と回転精度を同時に測定することを特徴とする請求項1記載の回転精度測定方法
【請求項5】
前記測定対象物の真円度を解析次数別に解析することを特徴とする請求項1記載の回転精度測定方法
【請求項6】
前記回転精度をX、Y成分の周波数分析をすることを特徴とする請求項1記載の回転精度測定方法
【請求項7】
前記回転精度についてNRRO(非同期回転)の解析をすることを特徴とする請求項1記載の回転精度測定装置

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−86034(P2007−86034A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−278548(P2005−278548)
【出願日】平成17年9月26日(2005.9.26)
【出願人】(899000079)学校法人慶應義塾 (742)
【出願人】(397045987)日本エー・ディー・イー株式会社 (2)
【Fターム(参考)】