説明

固形医薬組成物およびその製造法

【課題】安定性に優れたカンデサルタンシレキセチルを含有する固形医薬組成物を提供すること。
【解決手段】本発明の固形医薬組成物は、カンデサルタンシレキセチルおよび低分子量の可塑剤を含有する粒子を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固形医薬組成物およびその製造法に関する。より詳細には、カンデサルタンシレキセチルを有効成分とする固形医薬組成物およびその製造法に関する。
【背景技術】
【0002】
高血圧症治療薬として用いられるカンデサルタンシレキセチル(一般名;化学名:(RS)-1-[(Cyclohexyloxy)carbonyloxy]ethyl 2-ethoxy-1-{[2'-(1H-tetrazol-5-yl)biphenyl-4-yl]methyl}-1H-benzimidazole-7-carboxylate;特許文献1)は、他成分と混合して錠剤化すると、温度、湿度、光に対して不安定になり、分解を受けて錠剤中の含量が低下することが知られている。
【0003】
特許文献2には、錠剤に高級アルコール、多価アルコールの脂肪酸エステルおよびアルキレンオキサイドの重合体または共重合体から選ばれた低融点油脂状物質を配合することにより、錠剤中のカンデサルタンシレキセチルを安定化することが記載されている。しかし、十分な安定性は得られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】欧州特許出願公開第0459136号明細書
【特許文献2】特許第2682353号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、安定性に優れたカンデサルタンシレキセチルを含有する固形医薬組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、カンデサルタンシレキセチルを含有する粒子に低分子量の可塑剤を含有させることにより、固形医薬組成物中のカンデサルタンシレキセチルの安定性を高めることができることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
本発明は固形医薬組成物を提供し、該組成物は、カンデサルタンシレキセチルおよび低分子量の可塑剤を含有する粒子を含む。
【0008】
1つの実施態様では、上記低分子量の可塑剤は、低級多価アルコールまたは有機酸エステル類である。
【0009】
1つの実施態様では、上記低級多価アルコールは、グリセリンまたはプロピレングリコールである。
【0010】
1つの実施態様では、上記有機酸エステル類は、クエン酸エステル類またはフタル酸エステル類である。
【0011】
1つの実施態様では、上記固形医薬組成物は、さらに流動化剤を含む。
【0012】
1つの実施態様では、上記流動化剤は、ケイ酸塩または無水ケイ酸である。
【0013】
1つの実施態様では、上記粒子は、湿式造粒法により造粒された粒子である。
【0014】
本発明はまた、固形医薬組成物の製造方法を提供し、該方法は、湿式造粒法によりカンデサルタンシレキセチルおよび低分子量の可塑剤を含有する粒子を造粒する工程を含む。
【0015】
1つの実施態様では、上記方法は、上記工程により得られた粒子に流動化剤を混合し、得られる混合物を打錠する工程をさらに含む。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、安定性に優れたカンデサルタンシレキセチルを含有する固形医薬組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の固形医薬組成物は、有効成分としてカンデサルタンシレキセチル(一般名;化学名:(RS)-1-[(Cyclohexyloxy)carbonyloxy]ethyl 2-ethoxy-1-{[2'-(1H-tetrazol-5-yl)biphenyl-4-yl]methyl}-1H-benzimidazole-7-carboxylate;特許文献1)を含有する粒子を含む。
【0018】
本発明の固形医薬組成物は、カンデサルタンシレキセチルを含有する粒子に賦形剤、崩壊剤、滑沢剤結合剤などの添加剤を混合したものを圧縮形成などの方法により一定の形に成型して得られる固形の組成物である。
【0019】
本発明の固形医薬組成物の形状は、特に限定されず、例えば、錠剤、カプセル剤、丸剤、トローチ剤、顆粒剤、散剤が挙げられる。好ましくは錠剤である。
【0020】
カンデサルタンシレキセチルを含有する粒子は、ほかに低分子量の可塑剤を含有する。低分子量の可塑剤としては、例えば、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコールなどの低級多価アルコール、クエン酸エステル、フタル酸エステルなどの有機酸エステル類が挙げられる。
【0021】
低分子量の可塑剤の配合量としては、カンデサルタンシレキセチル1gあたり、通常0.5〜8g、好ましくは1〜6g、より好ましくは2〜3gである。0.5gより少ないと、カンデサルタンシレキセチルの十分な安定性が得られない。8gより多いと、液状成分過多となり、固形医薬組成物が軟らかくなり、所定の硬度が得られない。
【0022】
カンデサルタンシレキセチルを含有する粒子は、ほかに、さらに賦形剤、崩壊剤、滑沢剤、結合剤、溶解補助剤、流動化剤、甘味料、香料、発泡剤、界面活性剤、防腐剤、pH調整剤などの添加剤を含有し得る。
【0023】
賦形剤としては、特に限定されず、例えば、澱粉、コーンスターチ、糖類(ブドウ糖、果糖、乳糖、白糖、還元麦芽糖、トレハロースなど)、糖アルコール(D−マンニトール、エリスリトール、ソルビトール、キシリトール、マルチトール、ラクチトールなど)が挙げられる。
【0024】
崩壊剤としては、特に限定されず、例えば、クロスポビドン、カルボキシスターチナトリウム、カルボキシメチルスターチナトリウム、澱粉、部分α化澱粉、コーンスターチ、乳糖、炭酸カルシウム、沈降炭酸カルシウム、クエン酸カルシウム、軽質無水ケイ酸、合成ケイ酸アルミニウム結晶セルロース、低置換度ヒドロキシピロピルセルロース、クロスカルメロースナトリウム、カルボキシメチルセルロースカルシウム、カルメロース、ヒドロキシプロピルスターチが挙げられる。
【0025】
滑沢剤としては、特に限定されず、例えば、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、タルク、ショ糖脂肪酸エステル、ポリエチレングリコール、ステアリン酸、軽質無水ケイ酸、硬化ナタネ油、硬化ヒマシ油、グリセリン脂肪酸エステル、フマル酸ステアリルナトリウム、安息香酸ナトリウム、L-ロイシン、L-バリンが挙げられる。
【0026】
結合剤としては、特に限定されず、例えば、ゼラチン、寒天、アルギン酸、アルギン酸ナトリウム、デキストリン、キタンサンガム、アラビアゴム末、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン、部分けん化ポリビニルアルコール、メチルセルロース、プルラン、部分α化澱粉、糖類が挙げられる。
【0027】
溶解補助剤としては、特に限定されず、例えば、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、クエン酸ナトリウム、塩化マグネシウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウムが挙げられる。
【0028】
流動化剤としては、例えば、ケイ酸カルシウムなどのケイ酸塩、軽質無水ケイ酸などの無水ケイ酸、水和二酸化ケイ素が挙げられる。
【0029】
甘味料としては、特に限定されず、例えば、アスパルテーム、サッカリンナトリウム、グリチルリチン二カリウム、ステビア、ソーマチンが挙げられる。
【0030】
香料としては、特に限定されず、例えば、ミント、レモン、オレンジが挙げられる。
【0031】
発泡剤としては、特に限定されず、例えば、酒石酸塩、クエン酸塩、重炭酸塩が挙げられる。
【0032】
界面活性剤としては、特に限定されず、例えば、アルキル硫酸ナトリウムなどのアニオン系界面活性剤、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステルおよびポリオキシエチレンヒマシ油誘導体などの非イオン系界面活性剤などが挙げられる。
【0033】
防腐剤としては、特に限定されず、例えば、安息香酸、パラオキシ安息香酸、これらの塩が挙げられる。
【0034】
pH調節剤としては、特に限定されず、例えば、クエン酸、酒石酸、酢酸、乳酸などの有機酸、塩酸、リン酸などの無機酸、炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウムなどの無機塩基が挙げられる。
【0035】
上記添加剤の配合方法および配合量は、配合目的に応じて適宜設定される。
【0036】
カンデサルタンシレキセチルを含有する粒子は、湿式造粒法により造粒される。造粒は、カンデサルタンシレキセチルに低分子量の可塑剤および上記添加剤を混合して行う。混合方法としては、特に限定されず、例えば、単純混合方法、水などの溶媒に溶解・分散した上で混合する方法が挙げられる。湿式造粒法としては、特に限定されず、例えば、流動層造粒乾燥機、攪拌造粒機、円筒押出造粒機、転動流動層造粒コーティング機、スプレードライヤーなどを用いる方法が挙げられる。
【0037】
本発明の固形医薬組成物は、カンデサルタンシレキセチルを含有する粒子のほかに、好ましくは流動化剤を含有する。
【0038】
流動化剤としては、例えば、上記流動化剤が挙げられるが、固形医薬組成物の形状をより安定化させる点から、好ましくはケイ酸塩、無水ケイ酸である。
【0039】
流動化剤の配合量としては、カンデサルタンシレキセチル1gあたり、通常0.1〜2g、好ましくは0.2〜1g、より好ましくは0.3〜0.5gである。流動化剤が多すぎると、低分子量の可塑剤の効果を減じ、粒子間の摩擦が強くなりすぎる。
【0040】
本発明の固形医薬組成物は、ほかに、さらに上記添加剤を含有し得る。上記添加剤の配合方法および配合量は、配合目的に応じて適宜設定される。
【0041】
本発明の固形医薬組成物は、造粒工程で得られた粒子を好ましくは打錠することにより得られる。打錠は、粒子に好ましくは流動化剤および上記添加剤を混合して行う。打錠方法としては、特に限定されず、例えば、打錠用臼、打錠用上杵および下杵を用いて、油圧式ハンドプレス機、単発式打錠機、ロータリー式打錠機などにより行う方法が挙げられる。打錠圧としては、特に限定されず、例えば、10〜40kN/cmの範囲である。
【実施例】
【0042】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0043】
(実施例1)
カンデサルタンシレキセチルを含有する錠剤を以下の表1に記載の処方により製造した。グリセリン(キシダ化学株式会社製)6mgおよびヒドロキシプロピルセルロース(日本曹達株式会社製L)4mgを水0.024mLに溶解し、この水溶液にカンデサルタンシレキセチル((RS)-1-[(Cyclohexyloxy)carbonyloxy]ethyl 2-ethoxy-1-{[2'-(1H-tetrazol-5-yl)biphenyl-4-yl]methyl}-1H-benzimidazole-7-carboxylate;特許文献1)2mgを分散させた。この分散液に、乳糖水和物(DMV社製)92mgおよびコーンスターチ(松谷化学工業株式会社製)20mgの混合物を添加・混合し、湿式造粒法により粒子を造粒した。
【0044】
得られた粒子にカルメロースカルシウム(ニチリン化学工業株式会社製)5.6mgおよびステアリン酸マグネシウム(太平化学産業株式会社製)0.4mgを混合し、この混合物を10kN/cmまたは35kN/cmの圧力で打錠し、錠剤を製造した。
【0045】
【表1】

【0046】
(実施例2)
乳糖水和物92mgに代えて乳糖水和物90mgを用い、さらにケイ酸カルシウム(株式会社トクヤマ製)2mgを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、錠剤を製造した。
【0047】
(実施例3)
ケイ酸カルシウム2mgに代えて軽質無水ケイ酸(日本アエロジル株式会社製)2mgを用いたこと以外は、実施例2と同様にして、錠剤を製造した。
【0048】
(実施例4)
グリセリン6mgに代えてプロピレングリコール(和光純薬工業株式会社製)6mgを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、錠剤を製造した。
【0049】
(実施例5)
乳糖水和物92mgに代えて乳糖水和物90mgを用い、さらに軽質無水ケイ酸2mgを用いたこと以外は、実施例4と同様にして、錠剤を製造した。
【0050】
(比較例)
グリセリン6mgに代えてポリエチレングリコール6000(日本油脂株式会社製)6mgを用いたこと以外は、実施例1と同様にして、錠剤を製造した。
【0051】
(カンデサルタンシレキセチルの安定性評価)
各実施例および比較例で製造した直後の錠剤について、カンデサルタンシレキセチルの分解産物であるカンデサルタンシレキセチル類縁物質をHPLCにて定量した。HPLCカラムには、内径3.9mm、長さ15cmのステンレス管に平均粒子径4μmのHPLC用オクタデシルシリル化シリカゲルを充填したカラムを用いた。溶出液には、アセトニトリル/水/酢酸(57/43/1→90/10/1:グラジエント)を用い、溶出したカンデサルタンシレキセチルおよびその類縁物質を254nmの紫外吸収により検出した。得られたクロマトグラムにおいて、カンデサルタンシレキセチルを示すピークとは異なる6つのピークを大きい順に類縁物質I〜VIとし、(類縁物質I〜VIを示すピークの面積の和/(カンデサルタンシレキセチルを示すピークの面積+類縁物質I〜VIを示すピークの面積の和))×100を類縁物質含量(質量%)とした。結果を以下の表2に示す。
【0052】
各実施例および比較例で製造した錠剤を褐色のガラス瓶に入れ、瓶を密封した。この密封したガラス瓶を温度60℃、湿度75%の環境下にて3日間保存した。保存後の錠剤について、カンデサルタンシレキセチル類縁物質を同様にHPLCにて定量した。結果を表2に示す。
【0053】
【表2】

【0054】
表2より明らかなように、カンデサルタンシレキセチルの分解産物であるカンデサルタンシレキセチル類縁物質の含量は、製剤直後においては、実施例1〜5で製造した錠剤、比較例で製造した錠剤とも同等であったが、3日間の保存後においては、実施例1〜5で製造した錠剤が比較例で製造した錠剤よりも少なかった。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明によれば、安定性に優れたカンデサルタンシレキセチルを含有する固形医薬組成物を提供することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カンデサルタンシレキセチルおよび低分子量の可塑剤を含有する粒子を含む、固形医薬組成物。
【請求項2】
前記低分子量の可塑剤が、低級多価アルコールまたは有機酸エステル類である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記低級多価アルコールが、グリセリンまたはプロピレングリコールである、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記有機酸エステル類が、クエン酸エステル類またはフタル酸エステル類である、請求項2に記載の組成物。
【請求項5】
さらに流動化剤を含む、請求項1から4のいずれかの項に記載の組成物。
【請求項6】
前記流動化剤が、ケイ酸塩または無水ケイ酸である、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
前記粒子が、湿式造粒法により造粒された粒子である、請求項1から6のいずれかの項に記載の組成物。
【請求項8】
湿式造粒法によりカンデサルタンシレキセチルおよび低分子量の可塑剤を含有する粒子を造粒する工程を含む、固形医薬組成物の製造方法。
【請求項9】
前記工程により得られた粒子に流動化剤を混合し、得られる混合物を打錠する工程をさらに含む、請求項8に記載の製造方法。

【公開番号】特開2013−14541(P2013−14541A)
【公開日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−148605(P2011−148605)
【出願日】平成23年7月4日(2011.7.4)
【出願人】(000135036)ニプロ株式会社 (583)
【出願人】(596166690)全星薬品工業株式会社 (9)
【Fターム(参考)】