説明

圧縮導体

【課題】バードゲージになり難く尚かつ撓みやすい圧縮導体を提供する。
【解決手段】複数の素線2を圧縮してなる圧縮導体1であって、中心導体3の外側に少なくとも二つの圧縮導体層を有する圧縮導体1にする。この圧縮導体1は、最外層となる第一圧縮導体層4、及び第一圧縮導体層4の直下の第二圧縮導体層5の撚り方向を共に同方向となるS撚りにし、尚かつ、第一圧縮導体層4を形成する際の外径減少率のねらい値を2%に設定して製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩化ビニル、ポリエチレン、架橋ポリエチレン等の樹脂組成物からなる絶縁体を有する絶縁電線、電力ケーブル等に使用される圧縮導体に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、圧縮導体の真円化を図るための技術が開示されている。この特許文献1の圧縮導体は、最外層となる第一圧縮導体層と、第一圧縮導体層の直下の第二圧縮導体層と、更に内側の第三圧縮導体層と、中心導体とを備えて構成されている。開示技術によれば、圧縮前の素線径は全て同じ2.7mmであり、中心から最外層に向かっての素線の数は1本→6本→12本→18本で構成されている。
【0003】
特許文献1の圧縮導体は、複数層を有する構成になっている。言い換えれば、直径方向に7つの素線が並ぶような状態に構成されている。このような構成において、圧縮後の圧縮導体の直径は16.9mmと特許文献1に開示されている。圧縮前の素線を7つ並べた状態においてこの全長は、2.7×7=18.9mmであることから、外径減少率を求める式、外径減少率=((圧縮前の外径−圧縮後の外径)/圧縮前の外径)×100にそれぞれ数値を代入すると、外径減少率は10.58%であることが算出される。この外径減少率は、圧縮導体における圧縮状態を把握するのに用いることができる。
【特許文献1】特開平4−289610号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
圧縮導体は、「バードゲージ」若しくは「わらい」と称される現象が生じることが知られている。このバードゲージに関して、本願発明者は次のようなことを突き止めている。すなわち、外径減少率が大きいと圧縮に対する反発力が大きくなり、これによって素線が元の状態に戻ろうとしてバードゲージが発生しまうということを突き止めている。具体的には、外径減少率が大きいと最外層となる第一圧縮導体層の素線がはねやすい状態になり、結果、バードゲージが発生してしまうと本願発明者は考えている。
【0005】
この他、圧縮導体に関して本願発明者は、外径減少率が大きいと圧縮導体の可撓性に影響を来してしまうということも突き止めている。外径減少率が大きいということは、強い圧縮を製造過程において施していることになることから、外側の層の素線が内側の層の素線に食い込むような現象が生じており、結果、圧縮導体を曲げようとする際に層間の滑りが生じ難くなってこれにより撓みに影響を来してしまうということを突き止めている。
【0006】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたもので、バードゲージになり難く尚かつ撓みやすい圧縮導体を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するためになされた請求項1記載の本発明の圧縮導体は、複数の素線を圧縮してなる圧縮導体であって、中心導体の外側に少なくとも二つの圧縮導体層を有する圧縮導体において、最外層となる第一圧縮導体層及び該第一圧縮導体層の直下の第二圧縮導体層の撚り方向を共に同方向となるS撚りにし、尚かつ、前記第一圧縮導体層を形成する際の外径減少率のねらい値を2%に設定したことを特徴としている。
【0008】
このような特徴を有する本発明によれば、外径減少率のねらい値を2%に設定して製造することにより、圧縮後の素線のはねが生じ難くなる。すなわち、バードゲージの発生が抑制される。また、本発明によれば、外径減少率を小さく設定することにより、外側の層の素線が内側の層の素線に食い込むような現象も起こり難くなる。すなわち、圧縮導体を曲げようとする際に層間の滑りが生じ易くなり、可撓性に寄与するようになる。さらに、本発明によれば、外側の層の素線が内側の層の素線に交差するような撚り方向でなく、共に同方向となるS撚りで製造することから、上記の食い込みのないことも相まって、圧縮導体を曲げようとする際に層間の滑りが生じ易くなり、より一層可撓性に寄与するようになる。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に記載された本発明によれば、バードゲージになり難く尚かつ撓みやすい圧縮導体を提供することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら説明する。図1は本発明の圧縮導体の一実施の形態を示す図であり、(a)は構成図、(b)は(a)のA−A線断面図である。
【0011】
図1において、引用符号1は本発明の圧縮導体を示している。圧縮導体1は、この外側に塩化ビニル、ポリエチレン、架橋ポリエチレン等の樹脂組成物からなる絶縁体を被覆してなる絶縁電線や、さらに外側にシースを被覆してなる電力ケーブル等に使用されるようになっている。
【0012】
圧縮導体1は、複数の素線2を圧縮してなるものであって、中心導体3の外側に少なくとも二つの圧縮導体層を有するように構成されている。本形態においては、中心導体3と、最外層となる第一圧縮導体層4と、この第一圧縮導体層4の直下の第二圧縮導体層5と、さらに下側の第三圧縮導体層6と、さらに下側の第四圧縮導体層7とを備えて構成されている(一例であるものとする。他の例は図2を参照しながら後述する。尚、第三圧縮導体層6、第四圧縮導体層7に関しても後述する)。
【0013】
圧縮導体1を構成する各素線2は、全て同じ直径のもので、中心導体3は1本、この外側の第四圧縮導体層7は6本、この外側の第三圧縮導体層6は12本、この外側の第二圧縮導体層5は18本、この外側の第一圧縮導体層4は24本の素線2で構成されている。
【0014】
製造方法としては、例えば、中心導体3の周囲に素線2を6本撚り合わせつつ圧縮を施して先ず第四圧縮導体層7を形成し、次に、第四圧縮導体層7の周囲に素線2を12本撚り合わせつつ圧縮を施して第三圧縮導体層6を形成し、続いて、第三圧縮導体層6の周囲に素線2を18本撚り合わせつつ圧縮を施して第二圧縮導体層5を形成し、最後に、第二圧縮導体層5の周囲に素線2を24本撚り合わせつつ圧縮を施して第一圧縮導体層4を形成することにより製造されている。
【0015】
また、製造方法に関しては、第一圧縮導体層4及び第二圧縮導体層5が共に同方向となるS撚りに製造され、この他は特に限定するものではないが、第三圧縮導体層6がZ撚り、第四圧縮導体層7がS撚りとなるように製造されている。第一圧縮導体層4及び第二圧縮導体層5が共に同方向の撚りに製造されることは、本発明の特徴の一つになっている。尚、S撚りにしているのは、JISの規定上、最外層はS撚りにする必要があり、これによって本願発明は第一圧縮導体層4及び第二圧縮導体層5が共にS撚りになっている。
【0016】
さらに、製造方法に関しては、圧縮導体1の外径減少率が、言い換えれば第一圧縮導体層4を形成する際の外径減少率が、ねらい値2%で設定されて、この設定により圧縮が施されて製造されている。外径減少率のねらい値を2%に設定して製造することは、本発明の特徴の一つになっている。2%が良い点については後述する。
【0017】
次に、上記二つの特徴を有する圧縮導体を製造してこれを評価した結果について説明する(外径減少率とバードゲージ、曲げ(可撓性)の関係についての評価及び結果を説明する)。
【0018】
評価用の圧縮導体は、外側から第一圧縮導体層、第二圧縮導体層、第三圧縮導体層、及び中心導体を有する構成で、第一圧縮導体層及び第二圧縮導体層が共にS撚り、第三圧縮導体層がZ撚りとなるように製造されている。素線は、この素線径が2.29mmのものが用いられている。圧縮導体は、外径減少率が0%、1%、2%、3%、5%のねらい値でそれぞれ製造されている(上記0%は圧縮を施してないことになる)。これら各々の外径減少率に対しては、バードゲージの評価及び可撓性の評価がそれぞれ行われ、表1に結果が示されている。尚、各外径減少率毎の評価数量はn=10である。
【0019】
バードゲージの評価は、バードゲージが発生したか否かを目視により判断する評価であり、バードゲージが発生しない場合には、効果ありとして「○」の判定をつけるものとする。また、バードゲージが発生したりしなかったりするような場合には、バラツキがあるとして「△」の判定をつけるものとする。さらに、バードゲージが発生するような場合には、効果無しとして「×」の判定をつけるものとする。
【0020】
可撓性の評価は、上記評価用の圧縮導体の外側に絶縁体及びシースを被覆してケーブルを製造し、このケーブルに対して可撓性試験を行い、可撓性試験の結果から判断する評価となっている。可撓性試験は、一定長のケーブルに一定荷重の錘を載せて行う試験であって、この試験により得られるケーブルの撓み量に、撓み量から錘を外した場合の跳ね返り量を引き算して得られる変位量を足し合わせ、この足し合わせの量を圧縮しない場合(0%の場合)の量からの低下率(可撓性低下率)で判断する評価になっている。
【0021】
可撓性低下率に関しては、表2に示す如くの結果となっている。表1の可撓性の評価の結果に関連させると、圧縮しない場合と比べて5%程度までの可撓性の低下は曲げ易さに問題ないと判断して「○」の判定をつけるものとする。また、8%程度までの可撓性の低下は、曲げ易さが良かったり悪かったりする、バラツキの大きい状態と判断して「△」の判定をつけるものとする。そして、これ以外の8%を超える低下を曲げ難いと判断して「×」の判定をつけるものとする。
【0022】
【表1】

【0023】
【表2】

【0024】
表1の結果において、バードゲージの評価で「○」の判定があるのは1%、2%のねらい値で製造された圧縮導体であることが分かる。0%の場合は、圧縮を施してないことから圧縮導体でなく、圧縮導体の定義から外れるのは言うまでもない。1%の場合は「○」の判定であるが、1%程度の外径減少率では、外見として圧縮導体に見なされない可能性あるため、除外した方が無難であると判断する。3%、4%の場合はバラツキがあり、5%の場合は効果無しである。従って、バードゲージ対策には、2%のねらい値となる外径減少率のものを採用することが良いと判断する。
【0025】
また、表1及び表2の結果において、可撓性の評価で「○」の判定があるのは1%、2%のねらい値で製造された圧縮導体であることが分かる。0%の場合は、圧縮を施してないことから圧縮導体でなく、圧縮導体の定義から外れるのは言うまでもない。1%の場合は「○」の判定であるが、1%程度の外径減少率では、外見として圧縮導体に見なされない可能性あるため、除外した方が無難であると判断する。3%、4%の場合はバラツキがあり、5%の場合は効果無しである。従って、バードゲージ対策ができてケーブルの曲がり易さにも配慮するためには、2%のねらい値となる外径減少率のものを採用することが良いと判断する。
【0026】
ここで、2%のねらい値となる外径減少率に関して補足説明をする。補足説明は、素線径のバラツキを考えた場合の外径減少率の振れについてであり、この説明は表3を参照するものとする。
【0027】
例えば、素線径2.29mmの素線で±0.01mmのバラツキがあるとすると、素線径は表3に示す如く、大きい方から2.30mm、2.29mm、2.28mmのものを用意して振れの範囲がどのくらいあるかを把握することにした。圧縮導体は、最外層となる第一圧縮導体層の外径を14.2mm、この第一圧縮導体層の直下の第二圧縮導体層の外径を9.92mmとして製造し、この時の外径減少率を求めた。
【0028】
【表3】

【0029】
表3の結果において、素線径の中央値2.29mmの場合、外径減少率は実際に2.07%であった。また、素線径の上限2.30mmの場合、外径減少率は2.20%であった。また、素線径の下限2.28mmの場合、外径減少率は1.93%であった。従って、素線径の中央値の場合の外径減少率2.07%に対して、+0.13%、−0.14%の振れがあり、このような結果から、2%のねらい値で実際出来上がった圧縮導体の外径減少率の振れの範囲は、約±0.15%程度、若しくは、1.85%〜2.25%程度あることが分かった。本発明ではこのような振れの範囲であれば、バードゲージ対策やケーブルの曲がり易さに問題ないと判断する。
【0030】
以上、本発明によれば、外径減少率のねらい値を2%に設定して製造することにより、圧縮後の素線2のはねが生じ難くなる。すなわち、バードゲージの発生が抑制される。
【0031】
また、本発明によれば、外径減少率を従来よりも格段に小さく設定することにより、第一圧縮導体層4の素線2が内側の第二圧縮導体層5の素線2に食い込むような現象も起こり難くなる。すなわち、圧縮導体1を曲げようとする際に層間の滑りが生じ易くなり、可撓性に寄与するようになる。
【0032】
さらに、本発明によれば、第一圧縮導体層4の素線2が内側の第二圧縮導体層5の素線2に交差するような撚り方向でなく、共に同方向となるS撚りで製造されることから、上記の食い込みのないことも相まって、圧縮導体1を曲げようとする際に層間の滑りが生じ易くなり、より一層可撓性に寄与するようになる。
【0033】
続いて、図2を参照しながら本発明の圧縮導体の他の一実施の形態を簡単に説明する。図2(a)は他の一実施の形態を示す構成図、(b)は(a)のB−B線断面図である。
【0034】
図2において、圧縮導体11は、複数の素線12を圧縮してなるものであって、中心導体13の外側に二つの圧縮導体層を有するように構成されている。すなわち、中心導体13と、最外層となる第一圧縮導体層14と、この第一圧縮導体層14の直下の第二圧縮導体層15とを備えて構成されている。
【0035】
第一圧縮導体層14及び第二圧縮導体層15は、共に同方向となるS撚りに製造されている。また、第一圧縮導体層14を形成する際の外径減少率が、ねらい値2%で設定されて、この設定により圧縮が施されて製造されている。
【0036】
その他、本発明は本発明の主旨を変えない範囲で種々変更実施可能なことは勿論である。例えば、図1の説明では、第三圧縮導体層6及び第四圧縮導体層7は圧縮を施してなるものであったが、これに限らず、圧縮を施さなくても良いものとする。すなわち、素線2を撚り合わせたままの状態で層を形成するようにしても良いものとする(図示省略)。この場合、第三圧縮導体層6及び第四圧縮導体層7ではなく、例えば第三導体層及び第四導体層と名称を変えても良いものとする。第三導体層及び第四導体層は、第一圧縮導体層4及び第二圧縮導体層5の形成の際に、若干圧縮されても良いものとする。本発明は、第一圧縮導体層4及び第二圧縮導体層5以外の層の圧縮有無は限定しないものとする。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の圧縮導体の一実施の形態を示す図であり、(a)は構成図、(b)は(a)のA−A線断面図である。
【図2】本発明の圧縮導体の他の一実施の形態を示す図であり、(a)は構成図、(b)は(a)のB−B線断面図である。
【符号の説明】
【0038】
1 圧縮導体
2 素線
3 中心導体
4 第一圧縮導体層
5 第二圧縮導体層
11 圧縮導体
12 素線
13 中心導体
14 第一圧縮導体層
15 第二圧縮導体層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の素線を圧縮してなる圧縮導体であって、中心導体の外側に少なくとも二つの圧縮導体層を有する圧縮導体において、
最外層となる第一圧縮導体層及び該第一圧縮導体層の直下の第二圧縮導体層の撚り方向を共に同方向となるS撚りにし、尚かつ、前記第一圧縮導体層を形成する際の外径減少率のねらい値を2%に設定した
ことを特徴とする圧縮導体。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−262812(P2008−262812A)
【公開日】平成20年10月30日(2008.10.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−104922(P2007−104922)
【出願日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】