説明

圧電素子の強励振回路及び強励振方法

【課題】複数の圧電素子を同時に強励振させることができる強励振回路及び強励振方法を提供する。
【解決手段】並列接続された複数の圧電素子を同時に強励振させる強励振回路において、複数の圧電素子の中心共振周波数付近の単一の周波数を第1の信号として出力する第1の信号発生器、複数の圧電素子間の共振周波数ばらつき量を含む周波数範囲のホワイトノイズを第2の信号として発生する第2の信号発生器、第1の信号と第2の信号を乗算する乗算器、及び乗算器の出力を増幅して複数の圧電素子に印加する増幅器を備える構成とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は圧電素子の強励振回路及び強励振方法に関する。
【背景技術】
【0002】
圧電素子(例えば、水晶振動子)の製造では、周波数調整工程の前後に、圧電素子の励振電極を、通常使用する励振レベルよりも大幅に強く励振させて励振電極に付着した異物を除去する工程が含まれる(例えば、特許文献1参照)。強励振を行うには、圧電素子の共振周波数に一致する周波数を出力するシンセサイザ(例えば、特許文献2参照)や専用の発振回路が用いられている(例えば、特許文献3参照)。圧電素子の発振周波数には(周波数調整工程後であっても)ばらつきがあるため、単一の周波数を出力するシンセサイザによって複数の圧電素子を一工程で強励振させる場合は、シンセサイザの出力周波数を掃引する必要がある。また、専用の発振回路を用いる場合は、専用発振回路を圧電素子に対して一対一で設ける必要がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2000−357935号公報
【特許文献2】特開昭54−129898号公報
【特許文献3】特開2010−249708号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年の圧電素子の小型化に伴い、一工程で強励振すべき圧電素子の数は増加する傾向にある。
ここで、シンセサイザの出力周波数を掃引する場合について、通常1つの圧電素子に対して数秒〜数十秒の強励振を行う必要があるが、複数の圧電素子のそれぞれの共振周波数(ばらつき)が異なるため、遅い掃引を行わなければ複数の圧電素子の全てを強励振することはできない。特に、一工程で強励振すべき圧電素子数が増えると、上記の掃引は全体として非常に時間がかかるものとなり、生産性が悪くなるという問題があった。
【0005】
また、専用発振回路を用いる場合について、一工程で強励振すべき圧電素子の数が増えると、それに応じた数の専用発振回路を設ける必要が生じ、製造装置が大規模となる問題があった。
【0006】
そこで、本発明は、複数の圧電素子を同時に強励振させることができ、また、圧電素子を順次接続して強励振させる場合についても、出力周波数の調整を接続毎に行うことなく強励振を行うことができる強励振回路及び強励振方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の側面は、並列接続された複数の圧電素子を同時に強励振させる強励振回路であって、複数の圧電素子の中心共振周波数付近の単一の周波数を第1の信号として出力する第1の信号発生器、複数の圧電素子間の共振周波数ばらつき量を含む周波数範囲のホワイトノイズを第2の信号として発生する第2の信号発生器、第1の信号と第2の信号を乗算する乗算器、及び乗算器の出力を増幅して複数の圧電素子に印加する増幅器を備えた強励振回路である。
【0008】
本発明の第2の側面は、並列接続された複数の圧電素子を同時に強励振させる方法であって、第1の信号発生器によって、複数の圧電素子の中心共振周波数付近の単一の周波数である第1の信号を発生するステップ、第2の信号発生器によって、複数の圧電素子間の共振周波数ばらつき量を含む周波数範囲のホワイトノイズを第2の信号として発生するステップ、乗算器によって第1の信号と第2の信号を乗算するステップ、及び増幅器によって乗算器の出力を増幅して複数の圧電素子に印加するステップを備える方法である。
【0009】
本発明の第3の側面は、圧電素子を強励振させる強励振回路であって、圧電素子の共振周波数付近の単一の周波数を第1の信号として出力する第1の信号発生器、圧電素子の共振周波数ばらつき量を含む周波数範囲のホワイトノイズを第2の信号として発生する第2の信号発生器、第1の信号と第2の信号を乗算する乗算器、及び乗算器の出力を増幅して圧電素子に印加する増幅器を備えた強励振回路である。
【0010】
本発明の第4の側面は、圧電素子を強励振させる方法であって、第1の信号発生器によって、圧電素子の共振周波数付近の単一の周波数である第1の信号を発生するステップ、第2の信号発生器によって、圧電素子の共振周波数ばらつき量を含む周波数範囲のホワイトノイズを第2の信号として発生するステップ、乗算器によって第1の信号と第2の信号を乗算するステップ、及び増幅器によって乗算器の出力を増幅して圧電素子に印加するステップを備える方法である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の実施例による強励振回路の構成を示す図である。
【図2】図1におけるシンセサイザの発振周波数スペクトルを示す図である。
【図3】図1におけるホワイトノイズ発生器の発振周波数スペクトルを示す図である。
【図4】図1における乗算器出力の周波数スペクトルを示す図である。
【図5】図1における増幅器出力の周波数スペクトルを示す図である。
【図6】図1における水晶振動子の特性を示す図である。
【図7】図1における水晶振動子の強励振状態を示す周波数スペクトルの図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1に本発明の実施例による強励振回路の構成を示す。本実施例では圧電素子として水晶振動子を用いるが、本発明は他の種類の圧電素子(圧電セラミック素子等)にも適用できる。強励振回路は、単一の周波数の信号F1を出力するシンセサイザ1(第1の信号発生器)、ホワイトノイズである信号F2を発生するホワイトノイズ発生器2(第2の信号発生器)、信号F1と信号F2を乗算する乗算器3、及び乗算器3の出力を増幅して水晶振動子5に印加する増幅器4を備える。図では単一の水晶振動子5が増幅器4に接続されているが、本実施例では、複数の水晶振動子5が並列接続されているものとする。
【0013】
例えば、複数の水晶振動子が行列状に配列された基板の場合、1列あたり数十個(例えば20個前後)の水晶振動子が数十列にわたって配列され、合計500〜700個程度の水晶振動子が1枚の基板に配列される。この場合、1列分の水晶振動子5が強励振回路(増幅器4)に並列接続されて同時に強励振され、それが列毎に順次接続されて強励振が行われる。
【0014】
シンセサイザ1は、水晶振動子5の共振周波数付近の単一の周波数f1で発振する第1の信号F1を発生する。この周波数f1は、複数の水晶振動子5の周波数調整工程前又は後の発振周波数のおおよその中心値又は平均値であればよく、例えば、共振周波数の設計目標値としてもよい。なお、本実施例では第1の信号発生器としてシンセサイザを用いているが、単一の周波数が精度良く出力できれば他の装置(ファンクションジェネレータや電圧制御発振器等)であってもよい。
図2に、本実施例におけるシンセサイザ1の発振周波数スペクトルを示す。同図に示すように、本実施例では、周波数f1を約13.39MHzとしている。
【0015】
ホワイトノイズ発生器2は、水晶振動子5の共振周波数ばらつき量を含む周波数範囲f2のホワイトノイズを第2の信号F2として発生する。ここで、共振周波数ばらつきとは、ある圧電素子(水晶振動子)の製造上想定される周波数ばらつきをいい、これは、並列接続される複数の水晶振動子5の間での(列方向の)個体間ばらつき、及び水晶振動子5が順次交換・接続される場合の(行方向の)個体間ばらつきを含むものとする。
図3に、本実施例におけるホワイトノイズ発生器の出力周波数スペクトルを示す。例えば、本実施例では、周波数範囲f2の幅は50kHzである。
【0016】
図4に、本実施例における乗算器3の出力周波数スペクトルを示す。同図に示すように、乗算器3からは混合された信号F1±F2が出力され、f1±f2の範囲の発振周波数が得られる。本実施例では、f1が13.39MHzであり、f2が50kHzであるから、13.34MHz〜13.44MHzの出力周波数が得られる。
【0017】
図5に、本実施例における増幅器4の出力周波数スペクトルを示す。本実施例では、乗算器3の約−40dBmの出力レベルが、増幅器4によって約0dBmまで増幅される。このように、増幅器4から、f1±f2(本実施例では、13.39MHz±50kHz)の周波数範囲の強励振用信号を水晶振動子5に印加することができる。
【0018】
図6に、周波数に対する水晶振動子5のクリスタルインピーダンス特性の一例を示す。図7に、図6の特性を持つ水晶振動子5におけるグランド側の出力信号レベルを示す。図6に示すように、13.3864MHz付近に水晶振動子5のクリスタルインピーダンスの極小値、即ち、共振周波数があり、この水晶振動子5に、図5の13.39MHz±50kHzの周波数スペクトルを持つ強励振用信号を印加すると、図7に示すように、上記共振周波数で強励振が行われることが分かる。
【0019】
このように、本発明によると、複数の圧電素子について、それぞれの共振周波数がばらついていても、各圧電素子の共振周波数が周波数範囲f1±f2に含まれるものであれば、それらの圧電素子を同時に強励振させることができる。また、水晶振動子5が複数個並列接続されるか否かにかかわらず、圧電素子が順次交換・接続される場合も、順次接続される各圧電素子の共振周波数がf1±f2に含まれるものであれば、接続毎にシンセサイザ1及びホワイトノイズ発生器2の出力周波数を調整することなく(即ち、同じ出力周波数設定で)連続的に強励振を行うことができる。
【0020】
以上より、本発明によると、複数の圧電素子を同時に強励振させることができ、また、信号発生器に圧電素子を順次接続して強励振させる場合についても、出力周波数の調整を接続毎に行うことなく強励振を行うことができる強励振回路及び強励振方法を提供することができる。これにより、強励振すべき圧電素子数が増加しても、製造装置を大型化することなく、高い生産性を達成することができる。
【符号の説明】
【0021】
1.シンセサイザ
2.ホワイトノイズ発生器
3.乗算器
4.増幅器
5.水晶振動子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
並列接続された複数の圧電素子を同時に強励振させる強励振回路であって、
前記複数の圧電素子の中心共振周波数付近の単一の周波数を第1の信号として出力する第1の信号発生器、
前記複数の圧電素子間の共振周波数ばらつき量を含む周波数範囲のホワイトノイズを第2の信号として発生する第2の信号発生器、
前記第1の信号と前記第2の信号を乗算する乗算器、及び
前記乗算器の出力を増幅して前記複数の圧電素子に印加する増幅器
を備えた強励振回路。
【請求項2】
並列接続された複数の圧電素子を同時に強励振させる方法であって、
第1の信号発生器によって、前記複数の圧電素子の中心共振周波数付近の単一の周波数である第1の信号を発生するステップ、
第2の信号発生器によって、前記複数の圧電素子間の共振周波数ばらつき量を含む周波数範囲のホワイトノイズを第2の信号として発生するステップ、
乗算器によって前記第1の信号と前記第2の信号を乗算するステップ、及び
増幅器によって前記乗算器の出力を増幅して前記複数の圧電素子に印加するステップ
を備える方法。
【請求項3】
圧電素子を強励振させる強励振回路であって、
前記圧電素子の共振周波数付近の単一の周波数を第1の信号として出力する第1の信号発生器、
前記圧電素子の共振周波数ばらつき量を含む周波数範囲のホワイトノイズを第2の信号として発生する第2の信号発生器、
前記第1の信号と前記第2の信号を乗算する乗算器、及び
前記乗算器の出力を増幅して前記圧電素子に印加する増幅器
を備えた強励振回路。
【請求項4】
圧電素子を強励振させる方法であって、
第1の信号発生器によって、前記圧電素子の共振周波数付近の単一の周波数である第1の信号を発生するステップ、
第2の信号発生器によって、前記圧電素子の共振周波数ばらつき量を含む周波数範囲のホワイトノイズを第2の信号として発生するステップ、
乗算器によって前記第1の信号と前記第2の信号を乗算するステップ、及び
増幅器によって前記乗算器の出力を増幅して前記圧電素子に印加するステップ
を備える方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−249063(P2012−249063A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−119026(P2011−119026)
【出願日】平成23年5月27日(2011.5.27)
【出願人】(000146009)株式会社昭和真空 (72)
【Fターム(参考)】