説明

地化学サンプラー

【課題】地中の所要位置の地中流体サンプルの採取を確実に採取できるようにした。
【解決手段】外筒体10で被覆された地化学サンプラーは鉱物流体反応ユニット11と流体採取ユニット12とバッファユニット13を主要装置として構成されている。高圧にしたヘリウムガスの充満したサンプラーを帯水層2に掘削されたボーリング孔9に挿入する。ボーリング孔の所定位置でヘリウムガスを減圧して逆止弁17を開放し地下水をサンプラー内に導入する。導入された地下水が各ユニットを充満させた後、ヘリウムガスを高圧にして地下水を押圧し逆止弁を閉じ、地下水を被圧状態で保持する。各ユニットは開閉弁21,22,25,26で地下水を保持し接続部24,28で分離可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地下流体の採取のための地化学サンプラーに関する。更に詳しくは、ボーリング孔に挿入された後に地下流体を空気に触れることなく採取し、又、地下の特性状態を維持し被圧状態を保持したまま、地下流体と鉱物供試体との反応を可能とする地化学サンプラーに関する。
【背景技術】
【0002】
地層や地下水の調査のため地下水等を採取し、その試験を行うことは広く行われている。特に地下水採取の位置が深度に達する場合には、ボーリング孔を掘削し、その掘削したボーリング孔内に採水装置を挿入し、地下水を採取し試験に供している。この採水試験の目的は、地下水中の溶在イオン等の地球化学的特性を調べることにあり、例えばCO2の地中貯留に関わるデータを得る等のことが行われている。最近は地球温暖化に伴う環境対策の一環でCO2を減じるための方策が種々行われている。
【0003】
CO2は、種々の形態から発生しており、特にエネルギー分野から多く発生している。特に日本の場合、CO2の30%は火力発電所から発生しているといわれている。このようなことから、これらCO2を地下深部の帯水層へ、即ちシール層やキャップロック層の下側に貯留させることにより、地上のCO2を減らすことができるので有効であるとの研究が世界的になされている。帯水層へCO2を貯留させるということは、地層の透水層の下に存在する帯水層にCO2を圧力注入し、CO2をガス状に又は水中に酸性のCO2飽和溶解溶液へとして溶解させ、圧入停止後も帯水層に長期間隔離できるということにある。
【0004】
通常、帯水層の温度は、比較的低いため、注入されたCO2は岩石と反応しないでその状態を維持し続けることができるとされている。CO2を地中貯留させるためには、前述のように地層条件が満たされていることが必要となる。又、CO2と岩石の反応は、高温ほど速いといわれ、炭酸塩鉱物は沈殿しやすい。このため、地熱地域など温度の高い地中に注入するとCO2は岩石中のCa等と反応し炭酸塩が生成され、CO2の固定化が促進されることになる。
【0005】
更に、地中に注入された排ガスを、地中からCO2の除去された排ガスとして回収し、そのまま大気に放出することができる構成のものが知られている。この関係の技術で深部帯水層の地下水を揚水井から地上に汲み上げて、その地下水にCO2を気泡にして加え、地中に注入する際脈動圧を加えて圧入し、注入される水にCO2を混合又は溶解させて浸透性や拡散性を向上させた気液混合流体を作る対策案も開発されている(例えば、特許文献3参照)。
【0006】
これによると、CO2を微細気泡又は超臨界流体として溶け込ませる場合、深部帯水層の圧力と温度のもとで、水1m3に対しCO2は50kg溶解し拡散させることができるとしている。CO2の気体換算で25m3である。試験の一部として、方解石結晶成長試験がなされ、CO2の炭酸塩鉱物としての固定化された状況を方解石結晶の成長速度、温度等の度合いをみて確認することも行われている。
【0007】
この例として、単独の収納容器の構成ではあるが、岩石の浸漬反応装置として、岩石をCO2飽和溶解溶液に浸漬して岩石の反応を検証し、CO2地中貯留における実環境への影響を評価する装置が開示されている(例えば、特許文献4参照)。このような背景から、地中の地下水の水質状態を調査する目的のため地下水を採取する装置等も種々開発がなされている。本出願人の提案であるが、ボーリング孔内に挿入し地下流体を採水する装置として、mineral sampleとfluid samplerを設けた構成のゾンデが開示されている。(非特許文献1参照)このゾンデには、ラプチャーディスクが使用され、このラプチャーディスクの破壊により地下流体をゾンデ内に導入するようになっている。
【0008】
例えば、ボーリング孔に挿入した採水パイプに気密保持可能な採水タンクを接続し、それら採水パイプ及び採水タンクの内部を不活性ガスに置換した後に、採水パイプの下端部に不活性ガスを加圧状態で吹き込み、採水パイプ内で不活性ガスの気泡を上昇させることで、地下水を地上側へ吹き飛ばし揚水し、採水タンクに導くようにした採水構成のものが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0009】
又、地上でバルブを開いて貯水部内に外気を導入してバルブを閉じ、貯水部を気室とした本体を昇降手段により地下孔の地下水中に吊り降ろし、所定深さ位置でバルブを開き空気を抜いて地下孔内の地下水のみを採水する構成のものも知られている(例えば、特許文献2参照)。又、地下水の採水技術として、ダブルパッカー方式にしてパッカー内に地下水を閉塞状態で保持し、これをポンプで汲み上げ採水する技術等も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【非特許文献1】"Science Direct" Energy Procedia 1 ( 2009)3683-3689 "A concept of CO2 Georeactor sequestration at the Ogachi HDR site, NE Japan"
【特許文献1】特開平8−199965号公報
【特許文献2】特開2007−255137号公報
【特許文献3】特開2008−307483号公報
【特許文献4】特開2009−56417号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
前述したように、地中の条件が満たされていないと地中へCO2の注入はできない。従って、地下水の採水を行っての水質検査、試験等のチェックは欠かせない。ゾンデと称されるこれらの装置を地中に挿入し確実に所定位置の地下水の状態を把握しなければならないが、従来の装置は採水したサンプルが空気に接触する場合が多く正確性を欠き、正確な水質調査を行う上では、難点があった。
【0012】
本発明に関わる採水装置の技術として限定すると、特許文献1の技術は不活性ガスとして窒素を使用しているものであるが、不活性ガスの気泡を上昇させることで地下水を採水するものであり、更に採水パイプと不活性ガス供給パイプと個別に設けられパイプ構成が二重になっている。採水は地上の採水タンクから行う構成で採水のみの装置である。
【0013】
特許文献2の技術は、バルブを有し開閉制御のできるものであり、フィルタ、逆流防止弁の設けられた構成ではあるが、電気配線、センサを内臓した装置であり、構成が複雑であり、その装置も採水のみの装置である。又採水されたサンプルは必ずしも深度の所定位置のものであると特定できない難点がある。
【0014】
特許文献4の技術は、CO2地中貯留における評価に用いられるものではあるが、ボーリング孔内の特定位置での採水反応をみるものではない。あくまで予測するための反応試験を目的としており、必ずしも特定位置の状況に合う正確なものとはいえない。又、ポンプを使用して採水する例も多いが、この場合は地中深度が深いと、揚程が不足し使用できない難点がある。
【0015】
いずれの場合もサンプラーとしては、地中で鉱物との反応をさせる装置を含むものではない。ゾンデとも称するサンプラー内に所要位置の流体を導入する際、ラプチャーディスクを使用し、このディスクの破壊により流体を導入する方法も開示されている。このラプチャーディスクは、種々のものが提案されているが、例えば火花放電装置等によって、火薬に着火して圧力波を発生させて破壊するものである。ゾンデに適用した例は、ゾンデを地中に挿入後に、地下水導入部に設けられたこのラプチャーディスクを、水圧による圧力差で破壊し、その位置の地下水をゾンデ内に導入する方式である。
【0016】
本発明の出願人も試みたが、地中深度により正確な圧力差の設定が難しく、破壊位置が必ずしも当初予定の所要位置であるとは限らない場合があった。このため安定的に所要の深度の地下水を採水できない難点があった。又、流体導入時に瞬間的な差圧が生じ、流体が気液分離する等の問題点も生じていた。従って、ラプチャーディスクの破壊上の不安定から、このラプチャーディスクを流体導入位置に設け、流体をゾンデ内に流入させる正確な深度を把握する上では、難しい課題があった。
【0017】
いずれにしても、CO2の地下貯留においては、確実で安定した状態が維持できる流体のデータが得られるものでなければならない。そのためにどうしても現場の所要位置で直接採取のできる正確な流体の採取装置が必要とされる。本発明はこのような技術背景のもとに創案されたもので、次の目的を達成するものである。
【0018】
本発明の目的は、地中の所要位置の地中流体サンプルの採取を不純物の侵入なく確実に採取できるようにした地化学サンプラーの提供にある。
本発明の他の目的は、地中の所要位置で地下水による鉱物流体反応を可能とする地化学サンプラーの提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、前記目的を達成するために次の手段をとる。
本発明1の地化学サンプラーは、外筒を有し内部に地下流体を採取するための装置を収納する地化学サンプラーであって、前記外筒内底部に位置して設けられ地層からの前記地下流体を内部方向にのみ流通させるための第1逆止弁と、前記第1逆止弁に連結され前記逆止弁を通過した前記地下流体を貯蔵する室を構成し、かつ内部に前記地下流体と反応させるための鉱物サンプルを収納する鉱物流体反応ユニットと、前記鉱物流体反応ユニットに第1開閉弁を介して連結され、前記地下流体を貯蔵する室を構成する流体採取ユニットと、前記流体採取ユニットに第2開閉弁を介して連結され、前記流体採取ユニットを通過した前記地下流体を貯蔵する室を構成するバッファユニットと、前記バッファユニットに接続され前記バッファユニットの前記地下流体を外部に流出させないための第2逆止弁と、前記第2逆止弁を介して、圧力制御可能な不活性ガス供給体から不活性ガスを供給するためのチューブとからなっている。
【0020】
本発明2の地化学サンプラーは、本発明1において、前記第1開閉弁は、前記鉱物流体反応ユニットと前記流体採取ユニットとの間に設けられ、前記各ユニットの端部に直列で2連の構成で配置されていることを特徴とする。
本発明3の地化学サンプラーは、本発明1において、前記第2開閉弁は、前記流体採取ユニットと前記バッファユニットとの間に設けられ、前記各ユニットの端部に直列で2連の構成で配置されていることを特徴とする。
【0021】
本発明4の地化学サンプラーは、本発明1において、前記第2逆止弁は、前記バッファユニット内に配置されていることを特徴とする。
本発明5の地化学サンプラーは、本発明1において、前記不活性ガスは、ヘリウムガスであることを特徴とする。
【0022】
本発明6の地化学サンプラーは、本発明1において、前記鉱物流体反応ユニットと流体採取ユニットとは、前記対向する2連の第1開閉弁間に着脱自在の第1接続部を設けて連結されていることを特徴とする。
本発明7の地化学サンプラーは、本発明1において、流体採取ユニットと前記バッファユニットとは、前記対向する2連の第2開閉弁間に着脱自在の第2接続部を設けて連結されていることを特徴とする。
【0023】
本発明8の地化学サンプラーは、本発明1において、前記第1逆止弁と前記採水口との間にフィルタを設けたことを特徴とする。
本発明9の地化学サンプラーは、本発明1において、前記チューブは、高圧と低圧の異なる圧力の不活性ガスを供給するチューブであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明の地化学サンプラーは、不活性ガスの圧力を利用し、地中所要位置の地下流体を採取し、採取と同時に鉱物流体反応を行わせる試験を可能とするサンプラーとした。この結果、本構成により気液分離の影響がなくなり、地下流体の試験を正確な地中位置でのデータで行うことができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】図1は、本発明に関わる地化学サンプラーの構成図である。
【図2】図2は、二酸化炭素の地中貯留状態を模式的に示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施の形態を、図面に基づいて詳細に説明する。図1は本発明の地化学サンプラー1(以下「サンプラー1」という。)を示した構成図である。図2は、本発明のサンプラー1を適用する二酸化炭素(以下「CO2」という)の地中貯留の形態を模式的に示した断面図である。先ず本発明の理解を容易にするため、図2によりCO2地中貯留の形態を説明する。
【0027】
CO2の貯留構成は、深部帯水層2から地上の施設を介して地下流体である地下水(一般に地下水は水のみを称しているが、本説明においては水以外の物質をも含む地下流体として定義する。)を汲み上げ(汲み上げのためのシステム、装置は図示せず。)、この汲み上げた地下水に、CO2発生源3からのCO2を気体圧入の形で気液混合させ、注入井4を介して矢印で示すように地中に注入し、CO2を地中に貯留させる形態のものである。CO2の地中貯留形態は種々あるので、これに限定されるものではない。CO2は、前述のように種々の形態で発生する。例えば、火力発電所、ごみ焼却施設、その他に石油、セメント分野等の精製施設等のCO2発生源3から発生する。特に、排出量が多いのは、火力発電所である。
【0028】
このため、火力発電所で発生する排ガスからCO2を回収する技術も開発されている。いずれにしても、発生するCO2の量を少なくしていくことは、地球環境問題を解決する主要テーマとなっている。このため、一般的にCO2の量を少なくする方法として化学吸収法の活用もなされているが、火力発電所のように大量に排ガスを発生させる場合のケースには適用が困難である。このため、CO2を地中に貯留することが世界的に注目され、そのための技術もそれなりに種々開発されている。
【0029】
図2に示すように、深度帯水層2は、キャップロックと呼ばれる不透水層5の下にあり、この層は細かい砂状の層からなっている。この帯水層は多数の層をなしているが、図は省略し一層で表示している。一般的には、塩水で飽和された地層で、その地下水は水資源としては利用されないものである。この層にCO2を注入することで、このCO2を帯水層2へ浸透、拡散させ、地下水と溶解し貯留させるのである。このCO2は、溶解により気体又は超臨界流体の固まり6として、地中に存在することになる。
【0030】
即ち、CO2をガス又は地層水中に溶解して長期間貯留させるというものである。CO2は、特に微細化したものは岩石の隙間に侵入したり、又岩石の表面に吸着されたり、又、地下水にも溶解していく。溶解したCO2は、イオン化し周囲の鉱物と反応し地下水中で炭酸塩化合物7となり、沈殿物として固定化されることになる。CO2と岩石の反応速度は、高温の方が速いといわれ、結果的に速く炭酸塩鉱物が生成され、このような形態のものは沈殿しやすいといわれている。
【0031】
このため、例えば火力発電所等からの排ガスを高温の地中に注入すると、岩石中のCa等との反応で炭酸塩鉱物が生成され、結果的にCO2の固定化となるのである。帯水層2から汲み上げた地下水を注入水として利用するのは、前述のようにイオンを多く含むことで有効である。図2に示したように、CO2は帯水層2に注入され拡散し固定化される。
【0032】
このCO2注入の状況をチェックするために設けられたのが観測井8である。この観測井8は、深度の深い場合には、ボーリング孔9の掘削されたものである。掘削後のボーリング孔9に採水装置であるサンプラー1を挿入し、地下水の採水等が行われる。採水した地下水等は、地上に回収した後にそれを試料として試験が行われる。端的にいうと、地中の炭酸塩鉱物がどの程度成長し固定化されているか等、CO2注入後の状態を検証するためのものである。又、圧入したCO2が不透水層5をすりぬけて地表に漏れ出ることの確認も必要となる。
【0033】
本発明はこのサンプラー1に関わるものである。次に、図1によりその構成を詳細に説明する。図1は、本発明の実施の形態を示すサンプラー1の構成を模式的に表した構成図である。このサンプラー1は、前述のように図2の観測井8のボーリング孔9にチューブで吊り降ろされて、地下水を採水するためのものである。図示はしていないが、この構成図のサンプラー1の地上側端部には取り付け部が設けられ、この取り付け部にチューブが取り付けられ、ボーリング孔9内にこのチューブを介して、このサンプラー1は地上に設置された昇降装置34により昇降自在に構成されている。
【0034】
サンプラー1の本体の外側は、内部空洞の円筒状の外筒体10である。外筒体10は、内部に各装置を内蔵し、この各装置の全体を覆っている。従って、このサンプラー1の主要装置は、すべて外筒体10内に組み込まれ収納されている。主要装置は、地中側から順に鉱物流体反応ユニット11と、流体採取ユニット12と、バッファユニット13とであり、これらは直列状に配列されている。各ユニット間は、導管で互いに連結されている。鉱物流体反応ユニット11の下端は、円錐形状体14をなし、ボーリング孔9へのサンプラー1の挿入を容易にする形状とし、又、この円錐形状体14はウェイトの機能をも有している。
【0035】
又、この円錐形状体14の上部には採水口15が設けられ、図1の矢印で示すように地中の地下水をこの位置で導入できるようになっている。この採水口15の上部には、フィルタ16と第1逆止弁17がセットの形で設けられている。フィルタ16は、流入する地下水中の所定以上の大きさの岩石等を濾過するためのものである。採水口15から採水された地下水は、このフィルタ16を介して導入され第1逆止弁17を通して、鉱物流体反応ユニット11の貯蔵室18に導かれる。
【0036】
この貯蔵室18にはサンプルとしての鉱物19が収納されていて、この鉱物19は導入する地下水と反応するようになっている。これは地下の岩石を直接的には採取はできないので、CO2の影響をサンプルの鉱物19により、実環境に近い状態を再現して試験を行い、地中状態を検証しようとするものである。この鉱物流体反応ユニット11と、第1逆止弁17とフィルタ16のセット部とは、接続部20を介して連結されている。第1逆止弁17は、地中側からのみサンプラー1内に地下水を導入するようにするための弁である。内部に取り込まれた地下水をサンプラー1外に逆流するのを防止する機能を有している。
【0037】
本実施の形態は、地下水導入部に第1逆止弁17を使用したが、他の方法として、内外の流体の圧力差を利用し破壊可能なラプチャーディスクの使用も考えられる。地下水導入時に、圧力差を利用して、即ち地下水の流体圧でラプチャーディスクを破壊させ、地下水をサンプラー1内に取り込む方法である(非特許文献1参照)。この方法は本出願人も試みたが、前述のように地中深度により正確な圧力差の設定が難しく、破壊位置が必ずしも当初予定の所要位置であるとは限らない場合があった。このため安定性を欠き、正確で安定して深度位置の地下水を採水できない難点があったので推奨できない。
【0038】
鉱物流体反応ユニット11は、前述したようにサンプルとしての鉱物19が収納され、導入される地下水と反応させるためのユニットである。CO2は帯水層2に圧送されると、CO2は超臨界状態となり地中に貯留される。貯留されたCO2は移動すると、周辺の地下水に溶け、地下水はCO2飽和溶解溶液となる。このCO2飽和溶解溶液が岩盤と反応すると、方解石(炭酸塩鉱物)の溶解等の溶解反応が生じ、岩石の隙間が大きくなり、地下水が貯留しやすくなる。
【0039】
鉱物流体反応ユニット11は、例えばCaを含む鉱物に、地下より採水したCO2飽和溶解溶液を浸すことにより、この鉱物19の化学反応の状況をみるためのものである。この鉱物流体反応ユニット11内に採水した地下水を直接浸すことで、鉱物19の試験前の物性との比較等を行い、帯水層2の地下水状況を評価するというものである。
【0040】
地中の岩石は、CO2飽和溶解溶液に浸されると溶解し、CaやMgが岩石から溶出する。CO2飽和溶解溶液中のCaやMg等が溶液に対し過飽和となると、温度、圧力変化等の条件を経て炭酸塩鉱物が晶出する。この晶出に伴い、岩石の隙間がこの晶出した炭酸塩で塞がれることになるので、この晶出の成長状態を試験すれば地中の様子が確認できることになる。鉱物流体反応ユニット11を介して導入された地下水は、次に第1開閉弁21,22を介して流体採取ユニット12の貯蔵室23に導かれる。
【0041】
第1開閉弁21,22は、鉱物流体反応ユニット11と流体採取ユニット12との端部間に対向し直列で2連の構成で配置されている。この対向する2連の第1開閉弁21,22の中間部に第1接続部24が設けられている。図示はしていないが、実際はこれら第1開閉弁21,22と第1接続部24は、鉱物流体反応ユニット11と前記流体採取ユニット12との間でパイプにより連結されている。第1接続部24を取り外して、鉱物流体反応ユニット11の貯蔵室18からサンプル9及び地下水を取り出すことができる。
【0042】
又、本実施の形態において図示していないが、第1接続部24は着脱自在のジョイントとしている。第1開閉弁21,22は、サンプラー1がボーリング孔9に挿入されるときは開放状態となっている。流体採取ユニット12は、深度所定位置の状態の地下水のみを採取するもので、地下水中のCO2の状況を単独で試験することができる。この流体採取ユニット12は、地下水自体の試験に必要とするもので、一般的にはこのユニットに相当する装置のみを具備して採水し試験を行うことが多い。次に流体採取ユニット12を介して導入された地下水は、前述の第1開閉弁21,22と同構成の第2開閉弁25,26を介して、バッファユニット13の貯蔵室27に導かれる。
【0043】
第2開閉弁25,26は、流体採取ユニット12とバッファユニット13との端部間に対向し直列で2連の構成で配置されている。この対向する2連の第2開閉弁25,26の中間部に、前述の第1接続部24と同様の第2接続部28が設けられている。第1接続部24及び第2接続部28を取り外すことにより、流体採取ユニット12を取り出し、この貯蔵室23内の地下水を取り出すことができる。これら第2開閉弁25,26と第2接続部28も、実際は流体採取ユニット12とバッファユニット13との間でパイプにより連結されている。
【0044】
又、第2接続部28も第1接続部24と同様に図示していないが、実際は着脱自在のジョイントとしている。第2開閉弁25,26も、サンプラー1がボーリング孔9に挿入されるときは開放状態となっている。バッファユニット13も地下水のみを貯蔵するユニットではあるが、流体採取ユニット12に貯蔵する地下水を完全な状態に維持させるために設けられているものである。このバッファユニット13内には第2逆止弁29が配置されていて、貯蔵された地下水が外部に流出するのを防止している。第2逆止弁29の形状は、先端が円形の平で、この平に続いて、断面形状が円錐で、この円錐に連続して円筒である。
【0045】
第2逆止弁29は、ゴム等の弾性材料で作られたものである。従って、地底からの地下水がバッファユニット13内を満たしてくると、第2逆止弁29を下から押し上げる方向に力がかかる。地上からの不活性ガス等の流体は、第2逆止弁29を通すことになる。なお、本実施の形態では、この第2逆止弁29をバッファユニット13の貯蔵室27内に設けた構成にしているが、バッファユニット13外に設けた構成であってもよい。バッファユニット13の端部には、導管30、第3接続部31を介してキャピラリーチューブ32が取り付けられている。
【0046】
このキャピラリーチューブ32は、地上の不活性ガス供給装置33に連結していて、不活性ガスを送り込むためのものである。地上の施設には、不活性ガス供給装置33以外に、サンプラー1を昇降させる装置34、又、図示していないが不活性ガスのガス圧を制御する圧力制御装置等が配置さている。このサンプラー1は、以上のような構成になっているが、次に地下水の採水方法について説明する。
【0047】
[運転方法]
先ず、このサンプラー1をボーリング孔9内に挿入する前に、第1開閉弁21,22と第2開閉弁25,26を開放状態にしておく。次にサンプラー1内に不活性ガス供給装置33からキャピラリーチューブ32を通して不活性ガスであるヘリウムガスを送り込む。このヘリウムガスは、地中深度にある地下水の流体圧より高い圧力になるよう制御されてサンプラー1内に送り込まれる。
【0048】
キャピラリーチューブ32を通して送り込まれたヘリウムガスは、バッファユニット13内の第2逆止弁29を押し開いてバッファユニット13内の貯蔵室27に導入される。ヘリウムガスは続いて流体採取ユニット12、鉱物流体反応ユニット11を介してサンプラー1の下端にある第1逆止弁17に到達し、この第1逆止弁17がガス圧で作動し押圧されて導入口を閉じ、サンプラー1内は閉塞状態となる。
【0049】
これにより、サンプラー1内は全てのユニットが高い圧力のヘリウムガスで充満し保持されることになる。次に、このサンプラー1を地上の昇降装置34でボーリング孔9の所定位置に降ろし挿入する。ボーリング孔9内の所定位置に達したとき、次にヘリウムガスの圧力を地下水の流体圧よりも低い圧力に減圧する。即ち、地上に設置している圧力制御装置で内圧を少しづつ低下させるようにしている。ヘリウムガスが地下水との圧力差で平衡圧力より低下すると、サンプラー1下端の第1逆止弁17が地下水に押圧されて開き、地下水がフィルタ16を介してサンプラー1内部に導かれる。
【0050】
導かれた地下水は鉱物流体反応ユニット11、流体採取ユニット12、バッファユニット13と各室を順に満たし、最終的には第2逆止弁29を閉じて地下水が外部に流出することなくサンプラー1内に充満し、充填状態を維持する。ヘリウムガスは地上部に戻される状態となる。このとき流体採取ユニット12に導かれる地下水は鉱物流体反応ユニット11を介して送り込まれた地下水となるが、この鉱物流体反応ユニット11を通過するのは一瞬であり、反応した地下水が流体採取ユニット12に送りこまれることにはならない。
【0051】
サンプラー1がこのような状態になったときに、今度はヘリウムガスを地下水の流体圧よりも高い圧力にして、キャピラリーチューブ32からサンプラー1内に送り込む。高い圧力のヘリウムガスは第2逆止弁29を押し開いて送り込まれるが、内部には地下水が充満しているので、この地下水を押圧する状態で第1逆止弁17を閉じる。従って、ヘリウムガスの圧力によりサンプラー1内の各ユニットの地下水は被圧状態で保持されることになる。
【0052】
バッファユニット13の地下水は直接試験に供することはなく、予備的機能を有するものである。次にこのような状態になったサンプラー1を一定時間経過した後に、地上の昇降装置34により地上へ回収する。サンプラー1はこのような採水方法で採水する一体的構造のものであるが、地上で試験あるいは確認する場合には、第1開閉弁21,22及び第2開閉弁25,26を閉じた状態にして、第1接続部24と第2接続部28を分離すると、鉱物流体反応ユニット11及び流体採取ユニット12は、被圧状態を保持したまま、即ち地下深度にあった状態のまま、個別に単独で扱うことができる。
【0053】
サンプラー1はこのように各装置が内臓された構成のものであるが、鉱物流体反応ユニットと流体採取ユニットとを入れ替えた形態であってもよい。以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明はこの形態に限定されることはなく、本発明の目的、趣旨を逸脱しない範囲内での変更が可能なことはいうまでもない。
【符号の説明】
【0054】
1…サンプラー
2…帯水層
3…CO2発生源
4…注入井
5…不透水層
6…超臨界流体の固まり
7…炭酸塩化合物
8…観測井
9…ボーリング孔
10…外筒体
11…鉱物流体反応ユニット
12…流体採取ユニット
13…バッファユニット
17…第1逆止弁
19…鉱物
21,22…第1開閉弁
24…第1接続部
25,26…第2開閉弁
28…第2接続部
29…第2逆止弁
32…キャピラリーチューブ
33…不活性ガス供給装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外筒(10)を有し内部に地下流体を採取するための装置を収納する地化学サンプラーであって、
前記外筒内底部に位置して設けられ地層(2)から採水口(15)を介して導入される前記地下流体を内部にのみ通過させるための第1逆止弁(17)と、
前記第1逆止弁に連結され前記逆止弁を通過した前記地下流体を貯蔵する室を構成し、かつ内部に前記地下流体と反応させるための鉱物サンプル(19)を収納する鉱物流体反応ユニット(11)と、
前記鉱物流体反応ユニットに第1開閉弁(21,22)を介して連結され、前記地下流体を貯蔵する室を構成する流体採取ユニット(12)と、
前記流体採取ユニットに第2開閉弁(25,26)を介して連結され、前記流体採取ユニットを通過した前記地下流体を貯蔵する室を構成するバッファユニット(13)と、
前記バッファユニットに接続され前記バッファユニットの前記地下流体を外部に流出させないための第2逆止弁(29)と、
前記第2逆止弁を介して、圧力制御可能な不活性ガス供給体(33)から不活性ガスを供給するためのチューブ(32)と
からなる地化学サンプラー。
【請求項2】
請求項1に記載された地化学サンプラーにおいて、
前記第1開閉弁(21,22)は、前記鉱物流体反応ユニットと前記流体採取ユニットとの間に設けられ、前記各ユニットの端部に直列で2連の構成で配置されていることを特徴とする地化学サンプラー。
【請求項3】
請求項1に記載された地化学サンプラーにおいて、
前記第2開閉弁(25,26)は、前記流体採取ユニットと前記バッファユニットとの間に設けられ、前記各ユニットの端部に直列で2連の構成で配置されていることを特徴とする地化学サンプラー。
【請求項4】
請求項1に記載された地化学サンプラーにおいて、
前記第2逆止弁(29)は、前記バッファユニット内に配置されていることを特徴とする地化学サンプラー。
【請求項5】
請求項1に記載された地化学サンプラーにおいて、
前記不活性ガスは、ヘリウムガスであることを特徴とする地化学サンプラー。
【請求項6】
請求項1に記載された地化学サンプラーにおいて、
前記鉱物流体反応ユニットと流体採取ユニットとは、前記対向する2連の第1開閉弁間に着脱自在の第1接続部(24)を設けて連結されていることを特徴とする地化学サンプラー。
【請求項7】
請求項1に記載された地化学サンプラーにおいて、
流体採取ユニットと前記バッファユニットとは、前記対向する2連の第2開閉弁間に着脱自在の第2接続部(28)を設けて連結されていることを特徴とする地化学サンプラー。
【請求項8】
請求項1に記載された地化学サンプラーにおいて、
前記第1逆止弁と前記採水口との間にフィルタ(16)を設けたことを特徴とする地化学サンプラー。
【請求項9】
請求項1に記載された地化学サンプラーにおいて、
前記チューブ(32)は、高圧と低圧の異なる圧力の不活性ガスを供給するチューブであることを特徴とする地化学サンプラー。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−31650(P2012−31650A)
【公開日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−172613(P2010−172613)
【出願日】平成22年7月30日(2010.7.30)
【出願人】(390004879)三菱マテリアルテクノ株式会社 (201)
【Fターム(参考)】