説明

地業工事による周辺地盤への影響を解析する方法

【課題】地盤改良工事等の地業工事による周辺地盤への影響を、地業工事の施工位置からの離隔距離の観点から解析する手法を提供する。
【解決手段】地盤改良工事による周辺地盤への影響を解析する方法であって、地盤に地盤改良体10A〜Dを構築し、地盤改良体10A〜Dとの離隔距離が異なる複数の条件下で地中変位量を計測する計測工程と、前記計測工程で得られた複数の計測結果に基づいて、地盤改良体10A〜Dからの離隔距離と地中変位量との関係を求める解析工程と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地業工事による周辺地盤への影響を解析する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地盤改良工事の施工時に、周辺地盤の地表面変位の管理を要する範囲で地表面変位を計測し、周辺地盤の地中変位の管理を要する範囲で地中変位を計測する地盤改良工法が知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載の地盤改良工法では、施工位置の周辺の既設構造物に対して有害な影響を及ぼすような地表面変位や地中変位が計測された場合に、これを解消する措置を適時に実施する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3348227号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の地盤改良工法では、施工位置の周辺のどの程度の範囲で地盤の変位を管理しなければならないのか、即ち、施工位置と周辺の既設構造物とがどの程度近接している場合に当該既設構造物に対して有害な影響が及ぶのかを、如何にして判断するのか不明である。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、地盤改良工事等の地業工事による周辺地盤への影響を、地業工事の施工位置からの離隔距離の観点から解析する手法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明に係る地業工事による周辺地盤への影響を解析する方法であって、地業工事による周辺地盤への影響を解析する方法であって、地盤に地業を構築し、前記地業との相対距離が異なる複数の条件下で地中変位量を計測する計測工程と、前記計測工程で得られた複数の計測結果に基づいて、前記地業からの離隔距離と前記地中変位量との関係を求める解析工程と、を備える。
【0007】
上記地業工事による周辺地盤への影響を解析する方法において、前記計測工程において計測する前記地中変位量は、前記地業を構築する前を基準とする前記地業を構築した後の地中変位量であってもよい。
【0008】
上記地業工事による周辺地盤への影響を解析する方法において、前記解析工程では、前記地業からの離隔距離の逆数と前記地中変位量との関係を示す式を求めてもよい。
【0009】
上記地業工事による周辺地盤への影響を解析する方法において、前記計測工程では、前記地中変位量として、地中水平変位量を計測してもよく、前記解析工程では、前記地業からの離隔距離と前記地中水平変位量との関係を求めてもよい。
【0010】
上記地業による周辺地盤への影響を解析する方法において、前記地業工事は、地盤改良工事であってもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、地業工事による周辺地盤への影響を、地業工事の施工位置からの離隔距離の観点から解析する手法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】一実施形態に係る地盤改良工事による周辺地盤への影響を解析する方法を実施する地盤改良工事の現場を示す立面断面図である。
【図2】地盤改良工事による周辺地盤への影響を解析する試験を説明するための平面図である。
【図3】地盤改良工事による周辺地盤への影響を解析する試験を説明するための立面図である。
【図4】高架橋の変位量の計測結果を示す表である。
【図5】地盤の変位量の計測結果を示す表である。
【図6】離隔距離La〜Ldと地中水平変位量との関係を示す表である。
【図7】離隔距離La〜Ldの逆数と地中水平変位量との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態を、図面を参照しながら説明する。図1は、一実施形態に係る地盤改良工事による周辺地盤への影響を解析する方法を実施する地盤改良工事の現場を示す立面断面図である。この図に示すように、本実施形態の地盤改良工事では高架橋1の基礎杭2の近傍で、機械式攪拌混合工法を用いて柱状の固結体である地盤改良体3A〜Dを造成する。この地盤改良体3A〜Dは、抑止杭であり、複数の地盤改良体3A〜Dが、高架橋1が延びる方向と直交する方向(同図における左右方向)に連なるように造成される。
【0014】
ここで、機械式攪拌混合工法で用いる装置4は、ロッド先端部分に攪拌翼と吐出口とを有する攪拌軸5を備えており、本工法では、吐出口からセメントや石灰系の固化材を吐出させながら攪拌軸5を回転させ、攪拌翼で固化材と土とを混合させて地盤改良体3を造成する。なお、本実施形態で造成する地盤改良体3A〜Dの直径は600mm程度、深さは10m程度である。また、詳細は後述するが、最も高架橋1寄りの地盤改良体3Aと高架橋1の基礎杭2との離隔距離は、6.75m程度である。
【0015】
ところで、地盤改良体3A〜Dの造成工事の施工時、地中に注入された固化材は、上方へ逃げるか周辺地盤を押し出すことになる。ここで、地中に注入された固化材は、深くなるに従って、土被り圧が増大したり改良体上部の硬化作用により粘性が増加したりする等の理由で、上方へ逃げ難くなり、周辺地盤を押し出す力を増大させる。このため、地盤改良体3A〜Dの造成工事を、高架橋1の基礎杭2の近傍で施工する場合には、固化材が周辺地盤を押し出す力による周辺地盤の変形が、高架橋1に対して有害な影響を及ぼすおそれがある。そこで、地盤改良体3A〜Dの施工による周辺地盤への影響を解析するための試験を実施する。
【0016】
図2は、地盤改良工事による周辺地盤への影響を解析するための試験を説明するための平面図であり、図3は、当該試験を説明するための立面図である。当該試験は、地盤改良体3A〜Dの造成工事の施工時に、高架橋1に対して有害な影響が及ばないような、地盤改良体3A〜Dと高架橋1の基礎杭2との離隔距離を確認するためのものであり、地盤改良体3A〜Dの造成工事の施工前に、試験的に地盤改良体3A〜Dと同形状、同寸法の地盤改良体10A〜Dを造成して、周辺地盤への影響を解析するために実施する。
【0017】
当該試験では、高架橋1の基礎杭2と地盤改良体3A〜Dの造成位置との間に、地中水平変位量を計測するための多段式傾斜計12と、地中鉛直変位量を計測するための層別沈下計14と、地表面変位量を計測するための複数の変位計16とを設置する。多段式傾斜計12は、最も高架橋1寄りの地盤改良体10Aから所定距離(本実施形態では1m)離隔した位置に設置する。この際、所定深さ(本実施形態では6.5m以上)のボーリング孔を掘削してガイド管18を挿入し、そのガイド管18内に、多段式傾斜計12を設置する。ここで、多段式傾斜計12の計測点を、所定深さおき(本実施形態では2mおき)に設定する。
【0018】
また、層別沈下計14は、最も高架橋1寄りの地盤改良体10Aから所定距離(本実施形態では1m)離隔した位置に設置する。この際、所定深さ(本実施形態では6.5m以上)の孔20を掘削してその孔20内に、層別沈下計14を設置する。ここで、層別沈下計14の計測点を所定深さおき(本実施形態では2mおき)に設定する。
【0019】
また、変位計16は、ダイヤルゲージであり、最も高架橋1寄りの地盤改良体10Aから所定距離(本実施形態では1.5m、2m)離隔した位置に設置する。この際、当該位置に杭22を打設してその上端位置に、変位計16を設置する。この変位計16により、杭22の上端の変位を計測する。
【0020】
そして、地盤改良体10A〜Dを、地盤改良体3A〜Dの造成予定地に試験的に造成し、造成前を基準とする造成後の地盤の変位を、多段式傾斜計12、層別沈下計14、及び変位計16で計測する。ここで、地盤改良体10A、10B、10C、10Dと多段式傾斜計12および層別沈下計14との離隔距離La、Lb、Lc、Ldは、この順序で拡大する。また、離隔距離La、Lb、Lcは、所定距離(本実施形態では0.5m)毎に拡大する。なお、離隔距離La〜Ldは、地盤改良体10A〜Dの中心と計測器との距離であり、本実施形態では、離隔距離La=1.0m、離隔距離Lb=1.5m、離隔距離Lc=2.0m、離隔距離Ld=3.0mである。また、地盤改良体10Aから変位計16までの距離は、1.5m、2mであり、高架橋1の基礎杭2から地盤改良体10Aまでの距離は6.25m、各地盤改良体10A〜Dの中心間距離は0.5mである。
【0021】
また、各地盤改良体10A〜Dを試験的に造成する際、及び、4本の地盤改良体10A〜Dを造成した後、その間の高架橋1の水平方向及び鉛直方向の変位を、多角測量やGPS測量や水準測量等により計測する。
【0022】
図4は、高架橋1の変位量の計測結果を示す表であり、図5は、地盤の変位量の計測結果を示す表である。また、図6は、離隔距離La〜Ldと地中水平変位量との関係を示す表である。さらに、図7は、離隔距離La〜Ldの逆数と地中水平変位量との関係を示すグラフである。
【0023】
図4の表には、各地盤改良体10A〜Dを造成する間に生じる高架橋1の鉛直変位および水平変位の最大値と、4本の地盤改良体10A〜Dを造成する間に生じる鉛直変位および水平変位の最大値とを示している。この表に示すように、高架橋1の変位量は、4本の地盤改良体10を造成した場合でも最大0.4mmであり、変位の限界値(例えば、14.8mm)と比して格段に小さく、また、日常的な日変動(例えば、0.7mm)の範囲内である。以上により、地盤改良体10A〜Dを造成する際に、高架橋1に対して有害な影響が及ぶことはないことが解った。
【0024】
図5の表には、各地盤改良体10A〜Dを造成する間に地盤改良体10Aから1.5m、2mの地点で生じる地表面鉛直変位と、各地盤改良体10A〜Dを造成する間に生じる地中鉛直変位の最大値とその発生深さと、各地盤改良体10A〜Dを造成する間に生じる地中水平変位の最大値とその発生深さとを示している。また、図5の表には、4本の地盤改良体10A〜Dを造成する間に地盤改良体10Aから1.5m、2mの地点で生じる地表面鉛直変位と、4本の地盤改良体10A〜Dを造成する間に生じる地中鉛直変位の最大値とその発生深さと、4本の地盤改良体10A〜Dを造成する間に生じる地中水平変位の最大値とその発生深さとを示している。
【0025】
この表に示すように、地表面鉛直変位量は、4本の地盤改良体10A〜Dを造成した場合でも最大0.4mmであり、地表面鉛直変位には有害な影響は及ばないことが解った。また、地中鉛直変位量は、4本の地盤改良体10A〜Dを造成した場合でも最大−0.7mmであり、地中鉛直変位には有害な影響は及ばないことが解った。
【0026】
また、地中水平変位量は、4本の中で離隔距離が最小である地盤改良体10Aを造成した場合で最大−4.1mm、4本の地盤改良体10A〜Dを造成した場合で最大−8.3mmと地中鉛直変位量と比して大きいことから、更なる検討が必要であると判断した。
【0027】
図6の表には、それぞれ、地盤改良体10A、10C、10Dの各測定深さでの地中水平変位量を示している。また、図7のグラフには、各測定深さでの地中水平変位量と離隔距離の逆数との関係を示している。これらの表やグラフに示すように、地盤改良体10A〜Dの造成による地中水平変位への影響は、離隔距離が大きくなるほど小さくなることが解った。また、深さがTP−4.50mの計測点において、地中水平変位量が最大になることが解った。
【0028】
ところで、図7のグラフに示すように、深さがTP−4.50mの計測点で得られた地中水平変位量の計測値yと離隔距離Lとは反比例の関係にあることが解った。そこで、当該深さの計測点で得られた地中水平変位量の計測値yと離隔距離Lの逆数x(=1/L)との関係を示す近似式を求めたところ、下記(1)式に示す一次関数になった。なお、地中水平変位量の計測値yと離隔距離Lの逆数xとの関係式は、地盤の質によって変化し、−4.73や+0.59等の定数が変化するのみならず、変数xの指数が変化することもある。
y=−4.73x+0.59 ・・・(1)
【0029】
ここで、地盤改良工事において最も高架橋1寄りの地盤改良体3Aの基礎杭2からの離隔距離は6.75mであるところ、その地盤改良体3Aを造成する際に基礎杭2の位置で生じる地中水平変位量yを、上記(1)式から導出すると、y=−0.1mmとなる。また、地中水平変位量yが0になる離隔距離を、上記(1)式から導出すると、L=8.0mとなる。
【0030】
以上により、地盤改良工事において最も高架橋1寄りの地盤改良体3Aを造成する際に、高架橋1の基礎杭2において生じる地中水平変位の最大値は−0.1mmであり、地中水平変位に有害な影響は及ばないことが解った。また、地盤改良体3A〜Dを高架橋1の基礎杭2から8m以上離隔して造成した場合には、高架橋1の基礎杭2において地中水平変位が生じないことが解った。
【0031】
以上、本実施形態に係る解析方法では、地盤改良工事による周辺地盤への影響を、地盤改良体3A〜Dの造成位置からの離隔距離La〜Ldの観点から解析した。これによって、地盤改良体3A〜Dの造成位置の周辺のどの程度の範囲で地盤の変位を管理しなければならないのか、即ち、地盤改良体3A〜Dの造成位置と周辺の既設の高架橋1とがどの程度近接している場合に当該既設の高架橋1に対して有害な影響が及ぶのかを判断できる。
【0032】
また、本実施形態に係る解析方法では、地盤改良体3A〜Dからの離隔距離La〜Ldの逆数xと地中水平変位量との関係を示す上記(1)式を求めたことにより、高架橋1の基礎杭2の位置における地中水平変位量を求めることができ、また、地中水平変位量が0となるような、地盤改良体3A〜Dからの離隔距離Lを求めることができる。
【0033】
また、本実施形態に係る解析方法では、地盤改良体3A〜Dの造成工事による周辺地盤での地中水平変位量が、地表面変位量や地中鉛直変位量よりも大きく、地表面変位や地中変位が高架橋1に対して有害な影響を及ぼすことはないことが解明された。また、地中水平変位量は、地盤改良体3A〜Dの造成位置からの離隔距離が拡大するにつれて減衰することが解明された。従って、高架橋1の基礎杭2の位置における地中水平変位量を許容範囲に抑えることができるような、地盤改良体3Aと基礎杭2との離隔距離を求めることにより、地盤改良体3A〜dの造成工事が、高架橋1に対して有害な影響が及ぼすことを防止できる。
【0034】
なお、上述の実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明はその趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得ると共に本発明にはその等価物が含まれることは勿論である。例えば、上述の実施形態では、多段式傾斜計12等の計測器の位置(測定点)を定点として、複数の地盤改良体10A〜Dの造成位置を変えることにより、地盤改良体10A〜Dと計測器との相対距離を異ならせた。しかし、1個の地盤改良体10Aを造成し、その造成位置から距離が異なる複数地点にそれぞれ計測器を設置することにより、地盤改良体10Aと計測器との相対距離を異ならせてもよい。
【0035】
また、上述の実施形態では、地盤改良工事による地表面変位量、地中鉛直変位量に及ぶ影響が小さかったため、地盤改良体10A〜Dからの離隔距離の逆数と地中水平変位量との関係を示す式のみを求めたが、離隔距離と地表面変位量との関係を示す式や、離隔距離と地中鉛直変位量との関係を示す式を求めてもよい。また、離隔距離の逆数と地盤の変位量との関係を示す式を求めることは必須ではなく、離隔距離と地盤の変位量との関係を示す式を求めてもよい。
【0036】
また、上述の実施形態では、試験的に地盤改良体10A〜Dを造成して多段式傾斜装置12等の計測器で地中変位や地表面変位を計測したが、本設の地盤改良体3A〜Dを造成する際に計測器で地中変位や地表面変位を計測してもよい。また、上述の実施形態では、機械式攪拌混合工法を採用した地盤改良工事による周辺地盤への影響を解析する試験を実施したが、機械式攪拌混合工法と高圧噴射工法とを併用した工事等の他の地盤改良工事による周辺地盤への影響を解析する試験にも、本発明を適用できる。
【0037】
さらに、上述の実施形態では、地盤改良工事による周辺地盤への影響を解析する試験を実施したが、杭の打設工事や土留めの打設工事等の他の地業工事による周辺地盤への影響を解析する試験にも、本発明を適用できる。
【符号の説明】
【0038】
1 高架橋、2 基礎杭、3A〜D 地盤改良体(地業)、4 装置、5 攪拌軸、10A〜D 地盤改良体(地業)、12 多段式傾斜計、14 層別沈下計、16 変位計、18 ガイド管、20 ボーリング孔、22 杭

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地業工事による周辺地盤への影響を解析する方法であって、
地盤に地業を構築し、前記地業との相対距離が異なる複数の条件下で地中変位量を計測する計測工程と、
前記計測工程で得られた複数の計測結果に基づいて、前記地業からの離隔距離と前記地中変位量との関係を求める解析工程と、
を備える地業工事による周辺地盤への影響を解析する方法。
【請求項2】
前記計測工程において計測する前記地中変位量は、前記地業を構築する前を基準とする前記地業を構築した後の地中変位量である請求項1に記載の地業工事による周辺地盤への影響を解析する方法。
【請求項3】
前記解析工程では、前記地業からの離隔距離の逆数と前記地中変位量との関係を示す式を求める請求項1又は請求項2に記載の地業工事による周辺地盤への影響を解析する方法。
【請求項4】
前記計測工程では、前記地中変位量として、地中水平変位量を計測し、
前記解析工程では、前記地業からの離隔距離と前記地中水平変位量との関係を求める請求項1から請求項3までの何れか1項に記載の地業工事による周辺地盤への影響を解析する方法。
【請求項5】
前記地業工事は、地盤改良工事である請求項1から請求項4までの何れか1項に記載の地業工事による周辺地盤への影響を解析する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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