説明

地熱蒸気井用自動成分分析装置

【課題】蒸気井から取り出された二相流体から得られる液中に含まれている、発電タービンに付着するシリカ及び/又は塩分の定量をすることのできる地熱発電用成分測定装置を提供すること。
【解決手段】蒸気井から取り出された二相流体から得られる液を試料水として、前記試料水の成分(シリカ含有量又は電気伝導率)を測定する地熱蒸気井用自動成分分析装置であって、前段に空気又は窒素ガスによるバブリング槽を有することを特徴とする地熱蒸気井用自動成分分析装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は地熱蒸気井用自動成分分析装置に関し、更に詳しくは、地熱発電のために蒸気井から取り出される液に含まれているところの、発電タービンに付着する成分、特に不溶性シリカ又は塩分を定量することのできる地熱蒸気井用自動成分分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、火力発電装置、水力発電装置、原子力発電装置のほかに、地熱発電装置があった。
【0003】
非特許文献1に記載されているように、地熱発電の仕組みは、次のようである。深さ数kmの比較的に浅いところに1000℃前後のマグマ溜まりがあり、この熱が地中に浸透した天水などを加熱して地熱貯留層が自然に形成されている。この地熱貯留槽に蒸気井が打ち込まれ、この蒸気井には二相流体輸送管が結合される。これら蒸気井及び二相流体輸送管を通じて二相流体が気水分離器に導入される。その気水分離器では、二相流体が蒸気と熱水とに分離される。分離された蒸気は蒸気管を通じて発電タービンに導入される。発電タービンに導入された蒸気により発電タービンが回転し、この発電タービンの回転力により発電機における回転子が回転することにより、発電機から電力が取り出される。一方、気水分離器における高温水は、還元熱水管を通じて還元井に送られ、還元井を通じて地中深くに高温水が戻される。なお、地熱発電技術の分野においては、前記蒸気の噴出により回転する発電タービンは、単にタービンと称されているが、この明細書においては、他の技術分野におけるタービンと区別するために発電タービンと称する。
【0004】
地熱発電所は地熱貯留槽の形成される地域が立地条件である。そのような地域は、国立公園や通常に温泉地域と称されるところであり、工場立地条件の満たされるところではない。つまり、山間僻地に地熱発電所が建設されることになる。
【0005】
地熱発電所は電気出力が数万KWと、火力発電所の数十万から百万KWの電気出力に比べると小規模である。このため経済効率上、地熱発電所は、限られた人員で運転されるのが常であった。
【0006】
このように少ない人員で運転される地熱発電所においては、蒸気の性状管理を十分に行うことができず、蒸気の性状に起因する発電タービンに関するトラブルが発生していた。発電タービンに関するトラブルは、発電タービンの羽根にしばしば固形物が付着することや塩素イオンによる発電タービン羽根の割れに由来することが、判明している。
【0007】
というのは、発電タービンにおける羽根が円滑に回転しなくなったり、場合によっては発電タービンが回転不能になったりした場合にその羽根をこの発明者らが観察したところ、羽根の表面に固形物が沈着していることが観察されたからである。また羽根の割れを観察したところ、塩素イオンに起因する応力腐食割れも観察されたからである。
【0008】
地熱発電のために地熱貯留槽から汲み上げられた二相流体から分離された水蒸気には様々な物質が含有されている。したがって、水蒸気が発電タービンの羽根に衝突すると固形物が沈着し、沈着するその固形物が益々増量することによって、上記した故障が発生するものと、考えられる。
【0009】
したがって、少数の運転員により運転され、制御される地熱発電装置において、蒸気の成分分析を自動で行うことができるような、地熱発電用蒸気の成分測定装置及びそのような成分測定装置を備えた地熱発電装置が要望されている。
【0010】
【非特許文献1】「九州電力の地熱発電所」九州電力、平成15年3月10日発行、第3〜4頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
この発明者らの検討によると、地熱発電用として地中から取り出された水蒸気により回転させられる発電タービンの羽根に付着する固形物(スケールとも称される。)はシリカと塩化ナトリウムと硫酸ナトリウムとから形成されていることを見出した。この発明は、この発明者らの知見に基づく。
【0012】
現在までに、スケールの原因物質をモニタリングする装置として、シリカ計、イオンクロマトグラフ装置などの分析装置が知られている。しかし、これらの分析装置を地熱発電所用としてそのまま使用することはできない。なぜなら、下記の障害があるためである。
【0013】
地熱発電用として地中から取り出された水蒸気には硫化水素が多量に含まれており、正確なシリカの測定ができない。また不溶解性シリカ含有量が多く、全シリカ濃度の正確な測定ができないからである。
【0014】
塩分を測定する場合は、小人数の運転員では保守管理が困難な分析装置を使用する必要がある。さらに前記水蒸気には炭酸ガスが多量に含まれており、カチオン除去後の電気伝導率を塩分濃度に正確に換算することができない。
【0015】
この発明の課題は、地熱発電用として地中から取り出された水蒸気に特有な前記種々の問題を解決するための前処理装置を有し、蒸気井から取り出された二相流体から得られる液中のシリカ濃度や塩分濃度を測定することのできる地熱蒸気井用自動成分分析装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前記課題を解決するための手段として、
前記請求項1は、
蒸気井から取り出された二相流体から得られる液を試料水として、前記試料水の成分(シリカ含有量又は電気伝導率)を測定する地熱蒸気井用自動成分分析装置であって、前段に空気又は窒素ガスによるバブリング槽を有することを特徴とする地熱蒸気井用自動成分分析装置であり、
請求項2は、
請求項1の地熱蒸気井用自動成分分析装置において、前記バブリング槽から得られた試料水をアルカリで処理し、シリカ含有量を測定するアルカリ処理装置とシリカ濃度測定装置とを有することを特徴とする地熱蒸気井用自動成分分析装置であり、
請求項3は、
前記アルカリ処理装置において苛性ソーダによってアルカリ処理を行うことを特徴とする請求項1又は請求項2の地熱蒸気井用自動成分分析装置であり、
請求項4は、
前記シリカ濃度測定装置においてモリブデン青吸光光度法によって、シリカ含有量測定を行うことを特徴とする請求項1、請求項2又は請求項3の地熱蒸気井用自動成分分析装置であり、
請求項5は、
請求項1の地熱蒸気井用自動成分分析装置において、前記バブリング槽から得られた試料水中のカチオン成分を除去するカチオン除去装置と、前記カチオン成分が除去された試料水の電気伝導率を測定する電気伝導率測定装置を有することを特徴とする地熱蒸気井用自動成分分析装置であり、
請求項6は、
前記カチオン除去装置においてイオン交換樹脂によってカチオン成分除去を行うことを特徴とする請求項1又は請求項5の地熱蒸気井用自動成分分析装置であり、
請求項7は、
請求項1、請求項5又は請求項6の地熱蒸気井用自動成分分析装置において、前記電気伝導率測定装置によって得られた電気伝導率を塩分濃度に換算する塩分濃度測定装置を有することを特徴とする請求項1、請求項5又は請求項6の地熱蒸気井用自動成分分析装置である。
【発明の効果】
【0017】
この発明によると、前段として前処理装置を有することにより、正確にシリカ濃度及び電気伝導率を測定することのできる地熱蒸気井用自動成分分析装置が提供される。
【0018】
この発明によると、蒸気井から取り出された二相流体から得られる液を空気又は窒素ガスでバブリングするので前記液中に存在する硫化水素を除去することができ、またアルカリ処理により不溶性シリカをイオン化でき、硫化水素が除去され、シリカをイオン化した液を試料水として比色法シリカ分析法で分析することにより正確にシリカ濃度を分析することのできる地熱蒸気井用自動成分分析装置が提供される。
【0019】
この発明によると、蒸気井から取り出された二相流体から得られる液中に存在する塩分濃度分析に際する妨害成分である炭酸ガスを窒素ガスでバブリングすることにより除去し、カチオンを除去するカチオン除去装置及び電気導電率計を有することにより正確に電気伝導率及び塩分濃度を測定することのできる地熱蒸気井用自動成分分析装置が提供される。
【0020】
この発明によると、前処理装置を有することにより硫化水素を除去し、カチオン除去装置及び電気導電率計を備えることにより正確にシリカ濃度及び電気伝導率を測定することのできる地熱蒸気井用自動成分分析装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
この発明の一実施例である地熱蒸気井用自動成分分析装置を組み込んでなる地熱発電装置の一例を図示しながら、この発明について詳述する。
【0022】
図1に示されるように、地熱発電装置1は発電機2と、この発電機2の回転子の軸と値直結された回転軸及びこの回転軸に装着される複数の羽根を備えた発電タービン3と、発電タービン3の羽根に噴射する蒸気を冷却する冷却器4と、この発明の一実施例である地熱蒸気井用自動成分分析装置5とを有する。
【0023】
発電タービン3には、その羽根に蒸気が噴出されるように、発電タービン3における羽根に臨む位置に蒸気供給ノズル(図示せず。)、が配置されている。この蒸気ノズルは、配管6を介して、気水分離器7に接続されている。この気水分離器7には、地熱貯留槽(図示せず。)から蒸気井(図示せず。)及び二相流体移送管8を通じて、二相流体が供給される。この気水分離器7は、供給された二相流体を熱水と蒸気とに分離する。気水分離器7で分離された蒸気は、蒸気として、前記蒸気ノズルに供給され、蒸気ノズルから発電タービン3の羽根に噴出する。
【0024】
発電タービン3の回転軸と発電機2の回転軸とは同軸であり、発電タービン3が回転すると発電機2の回転子もまた回転し、回転子の回転により固定子におけるコイルに電流が発生するようになっている。
【0025】
前記気水分離器7から前記蒸気ノズルに到る配管は、その途中において分岐管9を備える。この分岐管9の途中には、図示しない開閉弁が設けられている。この分岐管9は、冷却器4に結合される。
【0026】
冷却器4は、サンプルクーラとも称されており、冷却器4にまで分岐管9を通じて導出されて来た蒸気を冷却して試料水を生成する。なお、この試料水は、蒸気井から取り出された二相流体から分離された蒸気を冷却することにより得られるのであるから、この発明における、蒸気井から得られる液である。
【0027】
冷却器4には、排出管10が結合される。この排出管10を通じて不要な液が、ドレインとして廃棄される。前記排出管10の途中には、配管11が設けられ、この配管11を通じて、地熱蒸気井用自動成分分析装置5が結合される。
【0028】
この地熱発電装置1に装備される地熱蒸気井用自動成分分析装置5は、脱気アルカリ処理装置12と、シリカ濃度測定装置13と、脱気槽14と、カチオン除去装置15と、電気伝導率測定装置16とを備える。前記脱気アルカリ処理装置12によりシリカ濃度測定装置13における試料水中のシリカ濃度測定の妨害になる成分が除去され、シリカ濃度測定装置13により試料水中に含まれているシリカの含有量が測定され、前記脱気槽14により塩分濃度測定の妨害になる成分が除去され、カチオン除去装置15によりカチオン成分が除去され、電気伝導率測定装置16により試料水中に含まれる塩分濃度が測定される。
【0029】
図1に示される地熱蒸気井用自動成分分析装置5においては、前記排出管10の途中から分岐した配管11がその途中で二方向に分岐して第1支管17と第2支管18とになり、その第1支管17が脱気アルカリ処理槽12Aに接続される。この脱気アルカリ処理槽12Aには、空気送出管19が配置されていて、エアポンプ20により供給される空気が、脱気アルカリ処理槽12A中に収容されている試料水中に挿入されている空気送出管19の先端ノズルから試料水中に、泡状に送出されるようになっている。脱気アルカリ処理槽12A中に収容されている試料水中に空気がバブリングされることにより、試料水中に含まれている硫化水素及び二酸化炭素が試料水から追い出され、ベント管21から脱気アルカリ処理槽12A外に排出される。この脱気アルカリ処理槽12Aには、苛性ソーダ水溶液貯留タンク22から配管23を通じて苛性ソーダ水溶液が供給される。なお、配管23を通じて苛性ソーダ水溶液を送液するには、送液ポンプを用いてもよく、また、苛性ソーダ水溶液貯留タンク22内に圧力ガスを圧入することによっても良い。脱気アルカリ処理槽12A内に貯留されている試料水に苛性ソーダ水溶液が供給されると、試料水中に含まれているコロイド状の固形のシリカ、つまり不溶性シリカが溶解し、不溶性シリカが消失する。
【0030】
図1に示される脱気アルカリ処理装置12における脱気アルカリ処理槽12Aは、この脱気アルカリ処理槽12Aに貯留されている試料水に空気をバブリングして硫化水素及び二酸化炭素を試料水から除去するのであるからこの発明におけるバブリング槽である。また、この脱気アルカリ処理装置12は、脱気アルカリ処理槽12A内の資料水をバブリングした後の試料水にアルカリを添加することにより不溶性シリカを可溶化してしまうので、この発明におけるアルカリ処理装置である。また、この脱気アルカリ処理装置は、試料水中に存在するシリカの含有量をシリカ濃度測定装置で正確に測定するための前処理装置でもある。
【0031】
図1に示される脱気アルカリ処理装置12は、脱気アルカリ処理槽12A、空気送出管19、エアポンプ20、苛性ソーダ水溶液貯留タンク22を備えて成る。
【0032】
この脱気アルカリ処理槽12Aで脱気操作及びアルカリ処理操作が行われた試料水は、第1測定水として配管24を通じてシリカ濃度測定装置13に導出される。
【0033】
シリカ濃度測定装置は、第1測定水中に溶解しているシリカの濃度を測定することができる限り、特に制限がなく、例えば、モリブデン青吸光光度法でシリカ濃度を測定することのできるシリカ計を挙げることができる。シリカ計としては、例えば日機装(株)から市販されている7180型シリカ計を挙げることができる。日機装(株)市販のシリカ計はJIS K0101に基づくモリブデン青吸光光度法を採用した測定器である。しかもこのシリカ計は最短5分でシリカ濃度を測定することができる。
【0034】
図1に示される例においては、この前記脱気アルカリ処理槽は、この発明におけるアルカリ処理装置とこの発明におけるバブリング槽とを兼ね備えて両機能を実現する装置である。また、このシリカ濃度測定装置13と前処理装置である前記脱気アルカリ処理装置12とで地熱発電用シリカ計の一例が構成され、更に具体的には、脱気アルカリ処理槽12Aと、エアポンプ20により供給される空気を送出する空気送出管19を一例とする空気供給手段と、苛性ソーダ水溶液貯留タンク22及びその苛性ソーダ水溶液貯留タンク22から前記脱気アルカリ処理槽12Aに苛性ソーダ水溶液を供給する配管を一例とするアルカリ供給手段と、前記シリカ濃度測定装置とにより地熱発電用シリカ計の具体的一例が形成される。
【0035】
前記第2支管18は、脱気槽14に試料水を供給することができるように、脱気槽14に接続される。脱気槽14は、ガス導入管25を備え、このガス導入管25から脱気槽14内の試料水に空気又は窒素ガスが導入され、噴出される。脱気槽14中の試料水に空気又は窒素ガスがバブリングされると、試料水中に含まれている二酸化炭素が試料水から除去される。この例においては、脱気槽14にて試料水中の二酸化炭素を除去しておくと、後述する電気伝導率測定において、炭酸ガスに起因する電気伝導率の影響を受けないといった利点がある。前記脱気層14は、この発明におけるバブリング槽である。前記脱気槽14及び前記脱気槽14内の試料水に窒素ガスを送り込むガス導入管は、脱気装置の一例である。
【0036】
脱気槽14には排気管26が取り付けられ、脱気槽14内の余剰ガスが脱気槽14の外に放出されるようになっている。また、この脱気槽14には排出管27が装着されている。この排出管27はカチオン除去装置15に接続される。カチオン除去装置15を通過した液は、第2測定水として電気伝導率測定装置16に供給される。電気伝導率測定装置16は、第2測定水の電気伝導率を測定する装置であって、例えば日機装(株)により市販されている電気伝導率セル(型番:4973)を採用することができる。この電気導電率測定装置は電気導電率計とも称される。また、前記カチオン除去装置及び電気導電率測定装置により蒸気井から取り出された二相流体から得られる液中の塩分を正確に測定することのできる地熱発電用塩分計の一例が形成される。
【0037】
この地熱蒸気井用自動成分分析装置5においては、カチオン除去装置15により、脱気後の試料水中に存在するカチオンを除去することにより第2測定水を得ているので、第2測定水中には塩分濃度の正確な測定を妨害するカチオンが存在せず、また、不溶性シリカが懸濁していても、また鉄酸化物が存在していてもそれらはイオンとなっていないので第2測定水の導電率測定の妨害にはならない。したがって、電気伝導率測定装置16により測定された第2測定水の電気伝導率は、第2測定水中に含まれるイオン濃度を反映する。蒸気井から取り出された二相流体から得られる液中のイオン成分は塩素イオンおよび硫酸イオンであるから、測定された第2測定水の電気伝導率は、塩酸および硫酸塩分濃度と相関する。
【0038】
この発明に係る地熱蒸気井用自動成分分析装置5が、電気伝導率測定装置16から出力される電気伝導率測定データ、及びシリカ濃度測定装置13から出力されるシリカ濃度測定データを入力して、電気伝導率、この電気伝導率に対応する塩分濃度及びシリカ濃度を表示することのできる表示装置例えばモニター装置(図示せず。)を具備することもできる。なお、前記電気伝導率測定データを塩分濃度に換算するために塩分濃度測定装置を装備するのが好ましい。この塩分濃度測定装置は、この発明に係る地熱蒸気井用自動成分分析装置に組み込まれることができる。また、この地熱蒸気井用自動成分分析装置5が、電気伝導率測定装置16から出力される電気伝導率測定データ、及びシリカ濃度測定装置13から出力されるシリカ濃度測定データを、遠隔地にある管理センター等に伝送することができる電送装置を具備することもできる。また、前記塩分濃度測定装置は、前記管理センターに装備されていてもよい。
【0039】
この発明の作用を以下に説明する。
【0040】
気水分離器7で分離された蒸気は配管6を通じてノズル(図示せず。)から発電タービン3の羽根に噴出する。蒸気の噴出により発電タービン3が回転し、発電タービン3と同軸に形成された回転子軸も高速で回転する。これによって発電機2による発電が行われる。
【0041】
発電タービン3に供給される蒸気を流通させている配管6から蒸気を冷却器4に導出し、冷却器4にて蒸気を液にする。この液を試料水とする。
【0042】
配管11から冷却器4へ蒸気を送出する態様として、(1)連続的に蒸気を冷却器4に送り出す態様、(2)間欠的に、一定時間ごとに蒸気を冷却器4に送り出す態様、(3)必要に応じて蒸気を冷却器4に送り出す態様、等を挙げることができる。
【0043】
冷却器4で形成された試料水は、余分な量の試料水はドレインとしてそのまま排出管10を通じて排出される。試料水の一部が配管11を通じ、更に第1支管17を通じて脱気アルカリ処理槽12Aに送られ、また、第2支管18を通じて脱気槽14に送られる。
【0044】
脱気アルカリ処理槽12Aでは、脱気アルカリ処理槽12A内に貯留されている試料水に空気がバブリングされ、これによって試料水中の二酸化炭素及び硫化水素が除去される。バブリング中に、脱気アルカリ処理槽12A内の試料水を加熱又は加温するのが好ましい。脱気が迅速に行われるからである。バブリング中に、又は一定時間のバブリングが終了した後に、アルカリが試料水中に添加される。添加されるアルカリとしては、不溶性シリカを試料水に溶解することができる限り、種々の物質が採用され、例えば、苛性ソーダ、苛性カリ、アンモニア、炭酸水素ナトリウムなどが挙げられる。入手が容易で取り扱い性が良い、少量でもpH調整能力が高いという点ではアルカリとして苛性ソーダが好適である。
【0045】
脱気アルカリ処理槽12A中の試料水への苛性ソーダの添加は、苛性ソーダ水溶液を貯留する苛性ソーダ水溶液貯留槽22から、苛性ソーダ水溶液を試料水に注入する形で行われる。苛性ソーダ水溶液の濃度は適宜に決定される。
【0046】
脱気アルカリ処理槽12Aにて試料水の脱気及び不溶性シリカの溶解を行った後、処理後の試料水が第1測定水としてシリカ濃度測定装置13に移送される。なお、シリカ濃度測定装置13への第1測定水の移送は連続的かつ経時的に行ってもよく、また、一定時間ごとに間欠的に行っても良い。
【0047】
シリカ濃度測定装置13では、第1測定水中のシリカ濃度を測定し、例えば表示装置に出力して、表示装置にシリカ濃度が表示される。シリカ濃度の表示は、経時的なグラフ表示であっても、また、一定時間ごとにシリカ濃度の表示が切り替わるようにしても良い。
【0048】
一方、第2支管18を通じて脱気槽14に送られた試料水は、窒素ガスの吹き込みによりバブリングされる。窒素ガスで試料水をバブリングすると、空気でバブリングする場合に比べて空気中の炭酸ガスの影響を受けないので、分圧の法則から炭酸ガスを脱気できる程度が高いという利点がある。
【0049】
脱気槽14で脱気が行われた試料水はカチオン除去装置15に移送される。カチオン除去装置15はカチオンを除去することができる装置であればよく、一般的にはカチオンをトラップするイオン交換樹脂を充填したイオン交換樹脂装置が採用される。
【0050】
このカチオン除去装置15でカチオンが除去された試料水は第2測定水として電気伝導率測定装置16に移送される。電気伝導率測定装置16は、第2測定水の電気伝導率を測定する。電気伝導率測定装置16で測定された電気伝導率は測定データとして表示装置に出力され、表示画面に電気伝導率、又は電気伝導率をイオン濃度に換算することにより得られる塩分濃度が、表示される。電気伝導率又は塩分濃度の表示は、経時的なグラフ表示であっても、また、一定時間ごとに電気伝導率又は塩分濃度の表示が切り替わるようにしても良い。
【0051】
かくして表示装置にシリカ濃度と、電気伝導率又は塩分濃度とが表示されることにより、蒸気井から取り出された二相流体から得られる液中のシリカ濃度及び塩分濃度がモニターされることになる。
【0052】
シリカ濃度及び塩分濃度が所定の閾値を越えることがあれば、例えば発電タービンに高熱の水蒸気を噴射することにより、発電タービンの羽根に付着しているスケールを溶解除去するといった対策を採用することができる。あるいは複数の蒸気井を使用している場合は各々の流量を調整することで水質の改善を試みることができる。発電タービンの羽根に付着するスケールはシリカと塩化ナトリウム、硫酸ナトリウムなどの塩類との混合物である。そして、スケールが羽根に付着するのは、塩類が接着剤(バインダ)としての機能を発揮してシリカを羽根に固着させることに由来する。したがって、塩分濃度及びシリカ濃度をモニターしておくことにより、発電タービンに付着し始めるスケールを除去する時期などを予め知ることができ、発電タービンのメンテナンス時期などの判断材料となる。
【0053】
この発明に係る地熱蒸気井用自動成分分析装置を地熱発電装置に設置させると、地熱蒸気井用自動成分分析装置を装備しない地熱発電装置において定期的に例えば蒸気を冷却した試料水を採取し、その採取された試料水を都会にある分析センターに持ち込んで成分分析をするといった煩雑さを解消することができる。
【0054】
また、地熱発電装置が地熱蒸気井用自動成分分析装置を装備していると、蒸気井から取り出された二相流体から分離される液を、継続的かつ経時的に、自動分析することができるので、従来の地熱発電装置を備えた地熱発電所においては分析について専門的知識及び技能を有する専門職人員を配置しなければならず、一般に規模が小さい地熱発電所では通常そのような専門職人員の配置が困難であるところ、この発明に係る地熱発電装置を有する地熱発電所では少数の作業員にて二相流体から分離される液の成分分析を行うことができ、発電タービンのメンテナンスを的確に実行することができるようになる。
【0055】
以上、この発明の一態様について説明したが、この発明は上記態様に限定されることはない。
【0056】
この脱気アルカリ処理槽は、試料水の脱気操作とアルカリ処理操作とを一つの槽で行っている。もっとも、脱気槽とアルカリ処理操作を行うアルカリ処理槽とを別々に設けて、脱気処理とアルカリ処理とを別々に行うこともできる。この場合、脱気槽を有する脱気処理装置とアルカリ処理操作を行うアルカリ処理装置とで各処理が行われる
図2に、この発明に係る地熱蒸気井用自動成分分析装置の他の例を示す。図2に示される地熱蒸気井用自動成分分析装置1Aは、図1に示される地熱蒸気井用自動成分分析装置1における脱気槽14、ガス導入管25、排気管26及び第2支管18を備えないこと、図1に示される地熱蒸気井用自動成分分析装置1における脱気アルカリ処理槽12A内の試料水をカチオン除去装置15に導入することができるように、たとえば配管24から分岐する分岐管がカチオン除去装置15に接続されてなることを除き、図1に示される地熱蒸気井用自動成分分析装置1と同様の装置構成を有する。
【0057】
図2に示される地熱蒸気井用自動成分分析装置1Aにあっては脱気アルカリ処理槽12Aにより、試料水の脱気操作とアルカリ処理操作とを行い、その二つの処理が行われた試料水がシリカ濃度測定装置13によりシリカ濃度が測定され、また前記試料水はカチオン除去装置15に供給され、このカチオン除去装置15により試料水中のカチオン成分が除去され、その後に電気伝導率測定装置16により塩分濃度が測定される。
【0058】
更にいうと、この発明についての前記実施形態におけるよりいっそう具体的な目的は、蒸気井から取り出された二相流体から得られる液中に含まれているところの、発電タービンに付着する可能性のあるシリカ及び塩分の正確な定量をすることのできる地熱蒸気井用成分分析装置、蒸気井から取り出された二相流体から得られる液中に含まれるところの発電タービンに付着する可能性のあるシリカ及び塩分を定量することにより発電タービンの円滑な回転を実現して発電に支障を来たすことのない発電装置を提供することにある。
【0059】
前記実施形態により支持され、しかも前記具体的な目的を達成するためのより具体的な手段を要約すると、
(1) 蒸気井から取り出された二相流体から得られる液中のシリカ含有量を測定する自動成分分析装置であって、シリカ含有量の測定に供される液に空気又は窒素ガスを吹き込んでバブリング処理を行うバブリング槽を有することを特徴とする地熱蒸気井用自動成分分析装置、特に地熱発電用シリカ計であり、
(2) 蒸気井から取り出された二相流体から得られる液中の電気導電率を測定する自動成分分析装置であって、電気導電率の測定に供される液に空気又は窒素ガスを吹き込んでバブリング処理を行うバブリング槽を有することを特徴とする地熱蒸気井用自動成分分析装置、特に地熱発電用塩分計であり、
(3) 前記バブリング処理後の液をアルカリで処理するアルカリ処理槽と、前記アルカリで処理された液中のシリカ含有量を測定するシリカ濃度測定装置とを有することを特徴とする前記(1)に記載の地熱蒸気井用自動成分分析装置であり、
(4) 前記アルカリ処理槽は、アルカリ処理槽内に苛性ソーダを供給するアルカリ供給手段を備えて成る前記(3)に記載の地熱蒸気井用自動成分分析装置であり、
(5) 前記シリカ濃度測定装置は、モリブデン青吸光光度法によりシリカ含有量を測定する装置である前記(3)又は(4)に記載の地熱蒸気井用自動成分分析装置であり、
(6) 前記バブリング処理後の液中に存在するカチオン成分を除去するカチオン除去装置と、前記カチオン成分が除去された液の電気伝導率を測定する電気伝導率測定装置とを備えて成る前記(2)に記載の地熱蒸気井用自動成分分析装置であり、
(7) 前記カチオン除去装置は、カチオン成分を除去するイオン交換樹脂を備えて成る前記(6)に記載の地熱蒸気井用自動成分分析装置であり、
(8) 前記(1)に記載の地熱発電用シリカ計と前記(2)に記載の地熱発電用塩分計を備えてなる地熱蒸気井用自動成分分析装置であり、
(9) 前記(1)〜(8)のいずれか一項に記載の地熱蒸気井自動成分分析装置を備えて成る地熱発電装置である。
【0060】
前記実施形態により支持され、しかも前記具体的な目的を達成するための別の具体的な手段を要約すると、
(a) 蒸気井から取り出された二相流体から得られる液を試料水として空気又は窒素ガスで脱気する第1脱気装置と、脱気された試料水をアルカリで処理するアルカリ処理装置と、アルカリ処理装置で得られた第1測定水中のシリカ含有量を測定するシリカ濃度測定装置と、蒸気井から取り出された二相流体から得られる液を試料水として窒素ガスで脱気する第2脱気装置と、第2脱気装置で脱気された試料水のカチオン成分を除去するカチオン除去装置と、カチオン成分が除去された第2測定水の電気伝導率を測定する電気伝導率測定装置とを有することを特徴とする地熱蒸気井用成分分析装置であり、
(b) 前記第1脱気装置は、窒素ガスで試料水を脱気し、前記第2脱気装置を兼ねることを特徴とする前記(a)に記載の地熱蒸気井用成分分析装置であり、
(c) 前記アルカリが苛性ソーダである前記(a)又は(b)に記載の地熱蒸気井用成分分析装置であり、
(d) 前記シリカ濃度測定装置がモリブデン青吸光光度法によりシリカ濃度を測定する装置である前記(a)〜(c)のいずれか一つに記載の地熱蒸気井用自動成分分析装置であり、
(e) 蒸気井から取り出された二相流体から分離された蒸気で発電タービンを回転させる発電機と、前記蒸気を取り出して冷却する冷却装置と、前記冷却装置で得られる液を試料水として液中の成分を測定する前記(a)〜(d)のいずれか一つに記載の地熱蒸気井用自動成分分析装置とを備えた地熱発電装置である。
【0061】
そして、前記のより具体的な手段によると、脱気アルカリ処理装置で脱気されることにより試料液中の硫化水素が除去され、アルカリにより試料液中に存在する不溶性シリカが液中に溶解されるので、この脱気アルカリ処理装置で処理されることにより得られる第1測定水中のシリカの濃度が硫化水素による妨害を受けることなく、しかも、正確に測定することができる。また、蒸気井から取り出された二相流体から得られる液から脱気槽により炭酸ガスを除去し、カチオン除去装置でカチオン成分を除去し、次いでカチオン成分の除去された第2測定水の電気伝導率を測定すると、第2測定水中の塩分濃度と電気伝導率とが相関するので、蒸気井から取り出された二相流体から得られる液中に含まれる塩酸および硫酸塩分濃度が正確に測定されることができる。
【0062】
蒸気井から取り出された二相流体は、地中に存在していたことにより、シリカと塩分とを特有の成分として含んでいたこと、これらが発電タービンの羽根に付着するスケールの原因になるという地熱発電特有の問題があることから、前記二相流体から得られる液中のシリカと塩分濃度とを正確に把握することにより発電タービンの羽根にスケールが付着するのを予防することができる。
【0063】
しかも、前記具体的実施態様である地熱蒸気井用自動成分分析装置は、シリカ及び塩分濃度を自動分析することができる。したがって、この発明に係る地熱蒸気井用自動成分分析装置が、山間僻地に立地する地熱発電所に設置されると、この地熱蒸気井用自動成分分析装置を設置することにより特別に操作人員を増加させる必要がなく、しかも経時的にシリカ濃度及び塩分濃度を測定することができる。経時的にシリカ濃度及び塩分濃度を測定することができる結果、この地熱蒸気井用自動成分分析装置によって、発電タービンの定期点検時期等を予想することができる。
【0064】
前記具体的実施態様により、発電タービンに付着するシリカ及び塩分の定量をすることのできる地熱発電用成分測定装置、地熱発電用蒸気中に含まれるところの発電タービンに付着するシリカ及び塩分を定量することにより発電タービンの円滑な回転を実現し発電に支障を来たすことのない発電装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0065】
【図1】図1はこの発明の一実施例を示す説明図である。
【図2】図2はこの発明の一実施例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0066】
1 地熱発電装置
2 発電機
3 発電タービン
4 冷却器
5 地熱蒸気井用自動成分分析装置
6 配管
7 気水分離器
8 二相流体移送管
9 分岐管
10 排出管
11 配管
12 脱気アルカリ処理装置
12A 脱気アルカリ処理槽
13 シリカ濃度測定装置
14 脱気槽
15 カチオン除去装置
16 電気伝導率測定装置
17 第1支管
18 第2支管
19 空気送出管
20 エアポンプ
21 ベント管
22 苛性ソーダ水溶液貯留タンク(槽)
23 配管
24 配管
25 ガス導入管
26 排気管
27 排出管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸気井から取り出された二相流体から得られる液を試料水として、前記試料水の成分(シリカ含有量又は電気伝導率)を測定する地熱蒸気井用自動成分分析装置であって、前段に空気又は窒素ガスによるバブリング槽を有することを特徴とする地熱蒸気井用自動成分分析装置。
【請求項2】
請求項1の地熱蒸気井用自動成分分析装置において、前記バブリング槽から得られた試料水をアルカリで処理し、シリカ含有量を測定するアルカリ処理装置とシリカ濃度測定装置とを有することを特徴とする地熱蒸気井用自動成分分析装置。
【請求項3】
前記アルカリ処理装置において苛性ソーダによってアルカリ処理を行うことを特徴とする請求項1又は請求項2の地熱蒸気井用自動成分分析装置。
【請求項4】
前記シリカ濃度測定装置においてモリブデン青吸光光度法によって、シリカ含有量測定を行うことを特徴とする請求項1、請求項2又は請求項3の地熱蒸気井用自動成分分析装置。
【請求項5】
請求項1の地熱蒸気井用自動成分分析装置において、前記バブリング槽から得られた試料水中のカチオン成分を除去するカチオン除去装置と、前記カチオン成分が除去された試料水の電気伝導率を測定する電気伝導率測定装置を有することを特徴とする地熱蒸気井用自動成分分析装置。
【請求項6】
前記カチオン除去装置においてイオン交換樹脂によってカチオン成分除去を行うことを特徴とする請求項1又は請求項5の地熱蒸気井用自動成分分析装置。
【請求項7】
請求項1、請求項5又は請求項6の地熱蒸気井用自動成分分析装置において、前記電気伝導率測定装置によって得られた電気伝導率を塩分濃度に換算する塩分濃度測定装置を有することを特徴とする請求項1、請求項5又は請求項6の地熱蒸気井用自動成分分析装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−250760(P2009−250760A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−98328(P2008−98328)
【出願日】平成20年4月4日(2008.4.4)
【出願人】(000226242)日機装株式会社 (383)
【出願人】(000164438)九州電力株式会社 (245)
【Fターム(参考)】