説明

地物情報判読用画像生成方法

【課題】SAR画像等の単偏波レーダ画像と多偏波レーダ画像とを組み合わせて、より正確な地物情報の判読が可能な合成画像を生成する。
【解決手段】飛翔体に搭載したレーダ装置から得られる、偏波を利用して撮影されたレーダ画像データを基に地物情報判読用画像を生成する際、まずレーダ装置で撮影された地域の低解像度の多偏波レーダ画像データの各々に色情報を割り当てる。次に、その色情報が割り当てられた低解像度の多偏波のレーダ画像データと、レーダ装置で撮影された地域の高解像度の単偏波レーダ画像データを合成し、高解像度のカラーレーダ画像データを得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工衛星等の飛翔体に搭載され、撮影対象地域の地表面を広範囲にわたり撮影して地表の状況を取得するレーダ装置により得られるレーダ画像データを利用して地物情報判読用画像を生成する地物情報判読用画像生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、地表面に照射した電波(マイクロ波パルス)の反射波を測定する能動型センサとしてレーダ装置がある。レーダ装置の一例として、例えば合成開口レーダ(SAR:Synthetic Aperture Radar)がある。合成開口レーダは、マイクロ波の特性を利用して、昼夜、天候に関係なく、広域を面的に撮影することができる。最新の人工衛星搭載型の合成開口レーダには、地上解像度が1mのものが出てきている。一般に人工衛星や航空機などのプラットフォームから撮影した合成開口レーダ画像(以下、「SAR画像」という)は、複雑な散乱メカニズムやノイズの影響等により地物の判読が難しいとされている。
【0003】
現在打ち上げられている合成開口レーダ搭載の人工衛星において、多偏波(二重偏波〜四重偏波)のSAR画像を取得するときには、例えば解像度や撮影範囲に制約を受けるものが多く、一方、単偏波画像ではそのような制約を受けることは少ない。しかし、たとえ高解像度のSAR画像を取得できたとしても、SAR画像は、上記のとおり光学画像と比較して、複雑な散乱メカニズム等の影響により視認性が低く、補正なしには人間の目で見えるように画像化することが難しい。
【0004】
一方、光学画像は、可視域の波長を用いているために、人が肉眼で見るものと同じ情報が得られ、地物を判読しやすい長所を持っている。光学画像の多くはカラー画像である。
【0005】
そこで、上記単偏波のSAR画像と光学画像を組み合わせて、データフュージョンにより地物情報を的確に把握しようとする試みがなされている(例えば、非特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「合成開口レーダによるリモートセンシングの商用化に関する調査研究(要旨)」,システム技術開発調査研究 17−R−6,財団法人機械システム振興協会(委託先 財団法人資源探査用観測システム研究開発機構),平成18年3月,p.11−12
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、多偏波のSAR画像(マルチスペクトル画像に相当)は、地物の特徴や形状の情報をより多く含んでおり、画像判読の手助けとなるが、人工衛星に搭載した合成開口レーダ(衛星SAR)では、データ量、撮影範囲の関係から、一般に高い地上解像度を得ることが難しかった。また単偏波のSAR画像は空間分解能が高いものの、複雑な散乱メカニズム等の影響により視認性が低く、補正なしには人間の目で見えるように画像化することは難しかった。
【0008】
これまで単偏波のSAR画像と多偏波のSAR画像を組み合わせて地物情報判読用の画像として用いられることはほとんどなかった。その理由としては、単偏波(高解像度)のSAR画像と多偏波(低解像度)のSAR画像を組み合わせて合成画像を作成する場合、一般にHSI変換法や主成分分析、Brovey変換法などを利用し、多偏波のSAR画像の明度(IやDN値)を単偏波のSAR画像の明度に置き換えることになるが、これでは単偏波で使用している偏波における明度が支配的となり自然な画像とならなかったということが挙げられる。
【0009】
例えば送受信モードがHH偏波(水平偏波で送信・水平偏波で受信)での撮影画像では暗いが、VV偏波(垂直偏波で送信・垂直偏波で受信)での撮影画像では明るいピクセルは、明度については中間の明るさになるのが好ましいと考えられるが、単偏波のSAR画像の偏波モードがHH偏波の場合、多偏波のSAR画像の明度をこのHH偏波の情報だけで置き換えると暗いピクセルになってしまい、色味(偏波情報)も判読しづらくなってしまう。
【0010】
斯かる点に鑑み、この発明の目的は、高解像度の単偏波のレーダ画像と低解像度の多偏波のレーダ画像とを組み合わせて、より容易に地物情報の判読が可能な合成画像を生成することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明の第1の側面においては、飛翔体に搭載したレーダ装置から得られる、偏波を利用して撮影されたレーダ画像データを基に地物情報判読用画像を生成する際、まずレーダ装置で撮影された地域の低解像度の多偏波レーダ画像データの各々に色情報を割り当てる。次に、その色情報が割り当てられた低解像度の多偏波レーダ画像データと、レーダ装置で撮影された地域の高解像度の単偏波レーダ画像データを合成し、高解像度のカラーレーダ画像データを得る。
【0012】
上記第1の側面によれば、レーダ装置で撮影された地域の低解像度の多偏波レーダ画像データに色情報が割り当てられ、その色情報が割り当てられた低解像度の多偏波レーダ画像データと、レーダ装置で撮影された地域の高解像度の単偏波レーダ画像データが合成されることにより、色情報を持った判読し易い高解像度の合成レーダ画像データが生成される。
【0013】
また本発明の第2の側面においては、飛翔体に搭載したレーダ装置から得られる、偏波を利用して撮影されたレーダ画像データを基に地物情報判読用画像を生成する際、まずレーダ装置で撮影された地域の、送受信モードが異なる低解像度の2重偏波レーダ画像データを、レーダ装置で撮影された地域の、当該2重偏波とは異なる送受信モードである高解像度の単偏波レーダ画像データの解像度に合わせてサンプリングする。次に、そのサンプリングされた低解像度の2重偏波レーダ画像データ及び高解像度の単偏波レーダ画像データに色情報を割り当てる。そして、色情報が割り当てられた低解像度の多偏波レーダ画像データ及び高解像度の単偏波レーダ画像データを合成し、高解像度のカラーレーダ画像データを得る。
【0014】
上記第2の側面によれば、単偏波レーダ画像の解像度に合わせてサンプリングされた所定の低解像度の2重偏波レーダ画像データ及び当該高解像度の単偏波レーダ画像データに色情報が割り当てられ、その色情報が割り当てられた低解像度の多偏波レーダ画像データ及び高解像度の単偏波レーダ画像データが合成されることにより、色情報を持った判読し易い高解像度の合成レーダ画像データが生成される。
【0015】
また本発明の第3の側面においては、飛翔体に搭載したレーダ装置から得られる、偏波を利用して撮影されたレーダ画像データを基に地物情報判読用画像を生成する際、まずレーダ装置で撮影された地域の、送受信モードが異なる低解像度の3種類の偏波レーダ画像データを、レーダ装置で撮影された地域の、少なくとも当該3種類の偏波の1つと送受信モードが同一である高解像度の単偏波レーダ画像データの解像度に合わせてサンプリングする。次に、そのサンプリングされた3重偏波レーダ画像データを主成分分析し第1の第1主成分を抽出する。また、単偏波レーダ画像データと、これとは異なる2重偏波レーダ画像データを主成分分析し第2の第1主成分を抽出する。そして、第1の第1主成分を第2の第1主成分で置換したものを逆主成分分析し、高解像度のカラーレーダ画像データを生成する。
【0016】
上記第3の側面によれば、単偏波レーダ画像の解像度に合わせてサンプリングされた所定の3種類の偏波レーダ画像データが主成分分析され第1の第1主成分が抽出され、また、単偏波レーダ画像データと、これとは異なる2重偏波レーダ画像データが主成分分析され第2の第1主成分が抽出される。そして、第1の第1主成分を第2の第1主成分で置換したものを逆主成分分析し、高解像度のカラーレーダ画像データが生成される。
【0017】
また本発明の第4の側面においては、飛翔体に搭載したレーダ装置から得られる、偏波を利用して撮影されたレーダ画像データを基に地物情報判読用画像を生成する際、まずレーダ装置で撮影された地域の、送受信モードが異なる低解像度の3種類の偏波レーダ画像データを、レーダ装置で撮影された地域の、少なくとも当該3重偏波の1つと送受信モードが同一である高解像度の単偏波レーダ画像データの解像度に合わせてサンプリングする。次に、そのサンプリングされた3種類の偏波レーダ画像データをHSI変換し第1の明度成分を抽出する。また、単偏波レーダ画像データと、これとは異なる2重偏波レーダ画像データをHSI変換し第2の明度成分を抽出する。そして、第1の明度成分を第2の明度成分で置換したものが逆HSI変換され、高解像度のカラーレーダ画像データを生成する。
【0018】
上記第4の側面によれば、単偏波レーダ画像の解像度に合わせてサンプリングされた所定の3種類の偏波レーダ画像データがHSI変換され第1の明度成分が抽出され、また、単偏波レーダ画像データと、これとは異なる2重偏波レーダ画像データがHSI変換され第2の明度成分が抽出される。そして、第1の明度成分を第2の明度成分で置換したものが逆HSI変換され、高解像度のカラーレーダ画像データが生成される。
【発明の効果】
【0019】
少なくとも色情報が割り当てられた低解像度の多偏波レーダ画像データと高解像度の単偏波レーダ画像データとから、色情報を持つ高解像度のカラーレーダ画像データが得られるので、高解像度かつ色つきで地物の特徴や形状などを含む情報を取得でき、それゆえ地物情報の高精度な判読が実現可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の一実施形態に係るシステムの概要を示す構成図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るコンピュータの内部構成例を示すブロック図である。
【図3】地物情報判読用画像生成処理の概念を示す説明図である。
【図4】偏波画像によるカラーデータ合成例を示す説明図である。
【図5】本発明の一実施形態に係る地物情報判読用画像の画像重畳による生成処理例(四重偏波画像使用時)を示すフローチャートである。
【図6】本発明の一実施形態に係る地物情報判読用画像の主成分変換法による生成処理例を示すフローチャートである。
【図7】本発明の一実施形態に係る地物情報判読用画像のHSI変換法による生成処理例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を実施するための形態の例について、添付図面を参照しながら説明する。説明は下記項目の順に行う。
1.第1の実施の形態(画像重畳による画像合成処理の例)
2.第2の実施の形態(主成分変換法による画像合成処理の例)
3.第3の実施の形態(HSI変換法による画像合成処理の例)
【0022】
<1.第1の実施の形態>
以下、本発明の一実施の形態について、添付図面を参照しながら説明する。
【0023】
以下に述べる実施の形態は、本発明の好適な具体例であるから、技術的に好ましい種々の限定が付されているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの形態に限られるものではない。例えば、以下の説明で挙げる使用材料とその使用量、処理時間、処理順序および各パラメータの数値的条件等は好適例に過ぎず、説明に用いた各図における寸法、形状および配置関係も概略的なものである。
【0024】
図1は、本発明の一実施の形態に係るシステムの概要を示すものである。本システムでは、人工衛星にレーダ装置の一例として合成開口レーダ(SAR:Synthetic Aperture Radar)を搭載し、その合成開口レーダにより(データ解析センタ2からの指示に基づいて)地表面を撮影する例である。以下、人工衛星に搭載した合成開口レーダを「衛星SAR」と称す。
【0025】
図1において、衛星SAR1は、所定の軌道を周回しながら定期的に、もしくはデータ解析センタ2からの指示に従って随時地表面3を撮影し、撮影データ(SAR画像データ)をデータ解析センタ2へ送信する。
【0026】
データ解析センタ2は、撮影計画を行い、その撮影計画に基づいた撮影指示の無線信号を衛星SAR1に送信する。また、衛星SAR1が撮影したSAR画像データを、アンテナを介して受信する。これを後述する地物情報判読用画像生成装置10で合成開口処理することにより再生画像を生成する。そして、高解像度の単偏波SAR画像データと低解像度の多偏波SAR画像データとの合成処理を行う。このとき、低解像度の多偏波SAR画像データに、適宜赤(R),緑(G),青(B)の色情報を割り当てておく。この結果、合成処理後の画像データとして、高解像度のカラーSAR画像データが得られる。
【0027】
地物情報判読用画像生成装置10による一連の処理は、ハードウエアにより実行させることもできるし、ソフトウエアにより実行させることもできる。一連の処理をソフトウエアにより実行させる場合には、そのソフトウエアを構成するプログラムが、専用のハードウエアに組み込まれているコンピュータ、または、各種のプログラムをインストールすることで、各種の機能を実行することが可能な、例えば汎用のコンピュータなどに、プログラム記録媒体からインストールされる。
【0028】
図2は、上述した一連の処理をプログラムにより実行する地物情報判読用画像生成装置10の構成例を示すブロック図である。この地物情報判読用画像生成装置10は、例えば一連の処理を実行するために高性能化した専用コンピュータの他、一定の性能を備えるパーソナルコンピュータなどでもよい。
【0029】
地物情報判読用画像生成装置10のCPU(Central Processing Unit)11は、ROM(Read Only Memory)12、または記録部18に記録されているプログラムに従って、上記一連の処理の他、各種の処理を実行する。RAM(Random Access Memory)13には、CPU11が実行するプログラムやデータなどが適宜記憶される。これらのCPU11、ROM12、およびRAM13は、バス14により相互に接続されている。
【0030】
CPU11にはまた、バス14を介して入出力インタフェース15が接続されている。入出力インタフェース15には、キーボード、マウス、マイクロホンなどよりなる入力部16、ディスプレイ、スピーカなどよりなる出力部17が接続されている。CPU11は、入力部16から入力される指令に対応して各種の処理を実行する。そして、CPU11は、処理の結果を出力部17に出力する。
【0031】
入出力インタフェース15に接続されている記録部18は、例えばハードディスクからなり、CPU11が実行するプログラムや各種のデータを記録する。
【0032】
通信部19は、インターネットやローカルエリアネットワークなどのネットワークを介して外部の装置と通信する。この通信部19を介してプログラムを取得し、記録部18に記録してもよい。
【0033】
入出力インタフェース15に接続されているドライブ20は、磁気ディスク(フレキシブルディスクを含む)、光ディスク(CD−ROM(Compact Disc - Read Only Memory)、DVD(Digital Versatile Disc),光磁気ディスク等を含む)、あるいは半導体メモリなどのリムーバブルメディア31が装着されたとき、それらを駆動し、そこに記録されているプログラムやデータなどを取得する。取得されたプログラムやデータは、必要に応じて記録部18に転送され、記録される。
【0034】
コンピュータにインストールされ、コンピュータによって実行可能な状態とされるプログラムを格納するプログラム記録媒体は、図2に示すように、磁気ディスク、光ディスク、もしくは半導体メモリなどよりなるパッケージメディアであるリムーバブルメディア31、または、プログラムが一時的もしくは永続的に格納されるROM12や、記録部18を構成するハードディスクなどにより構成される。プログラム記録媒体へのプログラムの格納は、必要に応じてルータ、モデムなどのインタフェースである通信部19を介して、ローカルエリアネットワーク、インターネット、デジタル衛星放送といった、有線または無線の通信媒体を利用して行ってもよい。
【0035】
ここで、図3を参照して、地物情報判読用画像生成装置10のCPU11による地物情報判読用画像の生成処理例の基本概念である、高解像度カラーSAR画像合成処理について説明する。
【0036】
高解像度カラーSAR画像合成処理とは、モノクロ(白黒)であるが空間密度を細かく取得した(分解能が高い)画像データと、空間密度は粗い(分解能が低い)がカラー情報(例えば、R,G,B)として取得された画像データとを合成処理することによって、空間密度が高いカラー情報を有する画像データを得る処理である。本発明の地物情報判読用画像生成方法では、高解像度カラーSAR画像合成処理におけるカラー合成画像データを、偏波画像を用いたカラー画像合成により取得する。そして、このカラー合成画像データと高解像度の単偏波SAR画像データを合成する。
【0037】
上記偏波画像によるカラー画像合成処理について、図4を参照して説明する。送受信モードが異なる4種類の偏波、すなわちHH偏波、HV偏波、VH偏波、VV偏波の四重偏波画像を取得する。これらは本実施形態における衛星SAR1の偏波の撮影により、偏波画像として同時に撮影され、それぞれがモノクロ画像である。これらをレイヤ合成(レイヤスタック)し、各レイヤに色情報(RGBカラーガン)を割り当てることにより、地表面状況(地物状況)の特徴がカラーで表示されたカラー合成画像を得ることができる。
【0038】
なお、偏波モードの選択・組合せは自由に変えられる。例えば、VV偏波を単偏波画像(高分解能)、HH偏波(R)、VV偏波(G)およびVH偏波(B)をカラー合成画像(低分解能)としたり、あるいは同様にHH偏波を単偏波画像(高分解能)とし、HV偏波(R)、VH偏波(G)およびHH偏波(B)をカラー合成画像(低分解能)とするなどである。
【0039】
次に、地物情報判読用画像生成装置10のCPU11による地物情報判読用画像の生成処理例を、図5のフローチャートを参照して説明する。図5に示す地物情報判読用画像の生成処理例は、4重偏波画像(異なる4種類の偏波モードのSAR画像データ)を使用し、画像重畳により画像合成処理(パンシャープン処理)を行った場合の例である。
【0040】
まず、地物情報判読用画像生成装置10は、衛星SAR1により撮影された任意の地域の高解像度の単偏波SAR画像データを取得する。この例では、単偏波のモードは、HH偏波すなわち水平・水平偏波であるとする(ステップS1a)。
【0041】
また、上記衛星SAR1により撮影された任意の地域の一部または全部が含まれる低解像度の多偏波SAR画像データを取得する(ステップS1b)。この例では、4種類の偏波モード、HH偏波、HV偏波、VH偏波およびVV偏波のSAR画像を取得する。
【0042】
これらステップS1aとステップS1bの処理において、画像データは、衛星SAR1から撮影データを含む無線信号を受信してもよいし、撮影データが記録されたリムーバブルメディア31から取得するようにしてもよい。また、ステップS1aとステップS1bの処理順序は問わない。例えば、衛星SAR1が高解像度の単偏波SAR画像と、低解像度の多偏波SAR画像を同時に撮影できない場合、先に高解像度の単偏波のSAR画像を撮影し、その数日後に同一軌道あるいは略同一軌道上で低解像度の多偏波のSAR画像を撮影するようにする。勿論、その逆の撮影順でもよい。
【0043】
次に、ステップS1bの処理にて得られた低解像度の多偏波SAR画像を単偏波のSAR画像の分解能に合わせてリサンプリングする(ステップS2)。このとき、高解像度の単偏波SAR画像と同じ偏波モード(本例ではHH偏波)で撮影された低解像度のSAR画像は除外することが好ましい。
【0044】
そして、ステップS1aの処理による高解像度の単偏波SAR画像と、ステップS1bの処理による低解像度の多偏波SAR画像について、それぞれオルソ画像を作成(オルソ化)する(ステップS3a、S3b)。すなわち、複数(例えば2枚)のSAR画像を用いたレーダグラメトリ処理もしくはインタフェロメトリ処理から求めた、あるいは国土地理院などから入手したDEM(Digital Elevation Model)等の地表面および構造物の高さ情報を基に、SAR画像の正射投影画像(オルソ画像)を作成する。SAR画像からDEMを作成することにより、SAR画像の歪み補正を正確に行うこともできる。なお、高解像度の単偏波SAR画像と、低解像度の多偏波SAR画像が同一軌道上の同一位置から撮影したものであれば、撮影地域に対する入射角も同じになるので、必ずしもオルソ化しなくてもよい。
【0045】
続いて、各SAR画像についてフィルタリング処理を行い、ノイズを除去する(ステップS4a、S4b)。なお、上記ステップS3aとステップS4a、またはステップS3bとステップS4bの処理順序はこの例に限られるものではなく、逆でもよい。また、フィルタリング処理については公知技術であるので、ここでは説明を省略する。
【0046】
ノイズ除去処理が終了した後、低解像度の多偏波SAR画像をRGBのカラーガンに割当て、低解像度カラーSAR画像を生成する(ステップS5)。本実施形態では、始めに4重偏波のSAR画像を単偏波のSAR画像の分解能に合わせてリサンプリングし、高解像度化している。このとき、上述したように単偏波のSAR画像と同じレイヤ(本例ではHH偏波モードのSAR画像)は除外することが好ましい。あるいは主成分分析等により、3つの偏波モードを選択してもよい。得られた3つの偏波モード(例えば、HH偏波,VV偏波,HV偏波)をRGBのカラーガンに割当て、低解像度のカラーSAR画像を生成する。
【0047】
次に、ステップS4aの処理にて得られた高解像度の単偏波SAR画像とステップS5の処理にて得られた低解像度のカラーSAR画像の位置合わせを行う(ステップS6)。位置合わせは、例えば同じ地上基準点(GCP:Ground Control Point)にて幾何学情報(ジオメトリ)を補正することにより行うことができる。最後に、これらの画像をパンシャープン処理(合成処理)し(ステップS7)、高解像度のカラーSAR画像を得る(ステップS8)。
【0048】
なお、ここでは低解像度の多偏波SAR画像データとして4種類の偏波モード、HH偏波、HV偏波、VH偏波およびVV偏波のSAR画像を取得した場合について説明したが、高解像度の単偏波SAR画像データと、これとは異なる2つの偏波モード(例えばVH偏波、VV偏波)の画像データ(SAR画像)を各々RGBのカラーガンに割当て、パンシャープン処理を行うことも可能である。
【0049】
以上説明したように、高解像度の単偏波SAR画像と低解像度の二重偏波SAR画像を組み合わせた場合、四重偏波モードの撮影を行わなくても、四重偏波のSAR画像を用いたときと同様の偏波情報が得られる。つまり複数の偏波情報を持ちながら同時に高分解能のSAR画像が得られる。
【0050】
<2.第2の実施の形態>
以上、解像度の異なる2つのSAR画像の画像重畳によるパンシャープン処理について説明したが、主成分変換法によりパンシャープン処理を行うことも可能である。
以下、図6を用いて、主成分変換法によるパンシャープン処理について説明する。まず、地物情報判読用画像生成装置10は、衛星SAR1により撮影された任意の地域の高解像度の単偏波SAR画像データを取得する。この例では、単偏波の偏波モードは、HH偏波すなわち水平・水平偏波であるとする(ステップS11a)。
【0051】
また、上記衛星SAR1により撮影された任意の地域の一部または全部が含まれる低解像度の多偏波SAR画像データを取得する(ステップS11b)。この例では、4つの偏波モード、HH偏波、HV偏波、VH偏波およびVV偏波のSAR画像を取得する。
【0052】
これらステップS11aとステップS11bの処理において、画像データは、衛星SAR1から撮影データを含む無線信号を受信してもよいし、撮影データが記録されたリムーバブルメディア31から取得するようにしてもよい。また、ステップS11aとステップS11bの処理順序は問わない。例えば、衛星SAR1が高解像度の単偏波のSAR画像と、低解像度の多偏波のSAR画像を同時に撮影できない場合、先に高解像度の単偏波のSAR画像を撮影し、その数日後に同一軌道あるいは略同一軌道上で低解像度の多偏波のSAR画像を撮影するようにする。勿論、その逆の撮影順でもよい。
【0053】
次に、ステップS11bの処理にて得られた低解像度の多偏波SAR画像を単偏波のSAR画像の分解能に合わせてリサンプリングする(ステップS12)。このとき、高解像度の単偏波SAR画像と同じ偏波モード(本例ではHH偏波)で撮影されたSAR画像は除外することが好ましい。そして、ステップS11aにより得られた単偏波SAR画像データ及びステップS12の処理にて得られた低解像度の多偏波SAR画像について、それぞれオルソ化(ステップS13a、ステップS13b)及びノイズ除去(ステップS14a、ステップS14b)を行った後、両者の位置合わせを行い、画像を合成する(ステップS15)。
【0054】
次に、ステップS15の処理にて得られた合成画像を主成分分析し、第一成分(PC1)を抽出する(ステップS16)。この第一成分(PC1)とステップS14bの処理にて得られた低解像度SAR画像を主成分変換法によりパンシャープン処理する(ステップS17)。すなわち、色相の抽出処理として、低解像度SAR画像を主成分分析し、得られた第一成分(PC1’)を上記PC1で置き換える。この時、PC1’のヒストグラムにPC1のヒストグラムが整合するよう、ヒストグラム変換しておくことが好ましい。これを逆主成分分析することにより、高解像度のカラーSAR画像を得る(ステップS18)。
【0055】
<3.第3の実施の形態>
上記第2の実施の形態におけるステップS16及びステップS17の処理では、主成分分析及び逆主成分分析を実施したが、これらの代わりにHSI(Hue Saturation-Intensity)変換法を利用してもよい。HSI変換は、画像のカラーモニターを赤・緑・青(RGB:加色法の三原色)のRGB色空間から、色相(Hue:H)・彩度(Saturation:S)・明度(Intensity:I)のHSI空間へ変換するものである。また出力されたHSI空間の画像の色相・彩度・明度を調整した後、逆変換によりRGB空間に戻し、カラー合成画像を表示することができる。
【0056】
この場合、明度の抽出処理として、始めに4重偏波のSAR画像のうち、高分解能の単偏波(HH偏波モード)と異なる3つの偏波モード(VV偏波モード,HV偏波モード、VH偏波モード)を単偏波(HH偏波モード)の高い分解能に合わせてリサンプリングする。次に、リサンプリングして高解像度化したうちの2つの偏波モード(VV偏波モード,HV偏波モード)のSAR画像と高分解能の単偏波(HH偏波モード)SAR画像をHSI変換し、それぞれの明度を抽出する。次に、2つの偏波モードのSAR画像から得られた明度(I’)を高分解能の単偏波SAR画像の明度(I)で置き換え、これを逆HSI変換することにより、パンシャープン処理された高解像度のカラーSAR画像を得る。一方、逆HSI変換により得られた3つの偏波モード(HH偏波,VV偏波,HV偏波)をRGBのカラーガンに割当て、高解像度のカラーSAR画像を生成する。この時、I’のヒストグラムにIのヒストグラムが整合するよう、ヒストグラム変換しておくことが好ましい。
【0057】
以下図7を用いて、HSI変換法によるパンシャープン処理について説明する。図7は、地物情報判読用画像生成装置10のCPU11による地物情報判読用画像の生成処理例を示すフローチャートである。この図7において、図6と同様の処理ステップについては詳細な説明を省略する。
【0058】
まず、地物情報判読用画像生成装置10は、衛星SAR1により撮影された任意の地域の高解像度の単偏波SAR画像データを取得する。この例では、単偏波の偏波モードは、HH偏波すなわち水平・水平偏波であるとする(ステップS21a)。
【0059】
また、上記衛星SAR1により撮影された任意の地域の一部または全部が含まれる低解像度の多偏波SAR画像データを取得する(ステップS21b)。この例では、HH偏波、HV偏波、VH偏波およびVV偏波の4種類の偏波モードでSAR画像を取得するものとする。
【0060】
これらステップS21aとステップS21bの処理は、衛星SAR1から撮影データを含む無線信号を受信してもよいし、撮影データが記録されたリムーバブルメディア31から取得するようにしてもよい。また、ステップS21aとステップS21bの処理順序は問わない。
【0061】
次に、ステップS21bの処理にて得られた低解像度の4種類の偏波(HH偏波、HV偏波、VH偏波,VV偏波)SAR画像を、単偏波(HH偏波)のSAR画像と同様の解像度となるようリサンプリングし、高解像度の4種類の偏波SAR画像を生成する(ステップS22)。このとき、高解像度の単偏波SAR画像と同じ偏波モード(本例ではHH偏波)で撮影されたSAR画像は除外することが好ましい。
【0062】
次に、ステップS21aの処理による高解像度の単偏波SAR画像と、ステップS22の処理による低解像度の多偏波SAR画像について、それぞれオルソ画像を作成(オルソ化)する(ステップS23a、ステップS23b)。なお、上述した実施形態と同様に、高解像度の単偏波SAR画像と、低解像度の二重偏波SAR画像は同一軌道上の同一位置から撮影したものであれば、撮影地域に対する入射角も同じになるので、必ずしもオルソ化しなくてもよい。
【0063】
続いて、各SAR画像についてフィルタリング処理によりノイズ除去を実施する(ステップS24a、ステップS24b)。なお、上記ステップS23aとステップS24a、及びステップS23bとステップS24bの処理順序はこの例に限られるものではなく、逆でもよい。
【0064】
そして、ステップS24aにより得られた単偏波SAR画像及びステップS24bの処理により得られた低解像度の多偏波SAR画像の位置合わせを行い、画像を合成する(ステップS25)。次に、ステップS25の処理にて得られた合成画像をHSI変換し、明度(I)を抽出する(ステップS26)。これとステップS24bの処理にて得られた低解像度SAR画像を用いてパンシャープン処理する(ステップS27)。すなわち、ステップS24bの処理にて得られた低解像度SAR画像をHSI変換し、得られた明度(I’)を上記Iで置き換え、これを逆HSI変換することにより、高解像度のカラーSAR画像を得る(ステップS28)。
【0065】
以上説明した実施形態によれば、高解像度の単偏波のSAR画像と、解像度の少し劣る四重偏波のSAR画像を取得して、カラー合成画像を得るようにしたので、より容易に地物情報の判読が可能になる。さらに、高解像度の単偏波のSAR画像だけを使うのではなく、低解像度の多偏波(四重偏波)のSAR画像を併用して、高解像度の明度のレイヤを作成し、これを用いてパンシャープン処理を実施している。このようにすることにより、高解像度の単偏波SAR画像をベースとして、低解像度の多偏波(四重偏波)SAR画像から得られる偏波情報を融合したカラー合成画像を作成することができるので、高解像度でかつ地物の特徴や形状などを含む情報を含んだカラー画像を取得可能である。したがって、地物情報の判読をより精度良く行うことができる。
【0066】
応用例としては、例えば異なる軌道上で撮影した高解像度の単偏波SAR画像と、低解像度の多偏波SAR画像をオルソ化し、これらを用いて画像合成を行うことにより、建物のオクルージョンなどを減らすことができる。
【符号の説明】
【0067】
1…衛星SAR、2…データ解析処理センタ、3…地表面(撮影対象)、4,5…累積画素数、10…地物情報判読用画像生成装置、11…CPU、12…ROM、13…RAM、14…バス、15…入出力インタフェース、16…入力部、17…出力部、18…記録部、19…通信部、20…ドライブ、31…リムーバブルメディア

【特許請求の範囲】
【請求項1】
飛翔体に搭載したレーダ装置から得られる、偏波を利用して撮影されたレーダ画像データを基に地物情報判読用画像を生成する地物情報判読用画像生成方法において、
前記レーダ装置で撮影された地域の低解像度の多偏波レーダ画像データに色情報を割り当てるステップと、
前記色情報が割り当てられた低解像度の多偏波レーダ画像データと、前記レーダ装置で撮影された地域の高解像度の単偏波レーダ画像データを合成するステップと
を含む地物情報判読用画像生成方法。
【請求項2】
前記多偏波は送受信モードが異なる3種類の偏波であり、各低解像度のレーダ画像データに赤、緑、青の色情報を割り当てる
請求項1に記載の地物情報判読用画像生成方法。
【請求項3】
飛翔体に搭載したレーダ装置から得られる、偏波を利用して撮影されたレーダ画像データを基に地物情報判読用画像を生成する地物情報判読用画像生成方法において、
前記レーダ装置で撮影された地域の、送受信モードが異なる低解像度の2重偏波レーダ画像データを、前記レーダ装置で撮影された地域の、前記2重偏波とは異なる送受信モードである高解像度の単偏波レーダ画像データの解像度に合わせてサンプリングするステップと、
前記サンプリングされた低解像度の2重偏波レーダ画像データ及び前記高解像度の単偏波レーダ画像データに色情報を割り当てるステップと、
前記色情報が割り当てられた低解像度の多偏波レーダ画像データ及び高解像度の単偏波レーダ画像データを合成するステップと
を含む地物情報判読用画像生成方法。
【請求項4】
飛翔体に搭載したレーダ装置から得られる、偏波を利用して撮影されたレーダ画像データを基に地物情報判読用画像を生成する地物情報判読用画像生成方法において、
前記レーダ装置で撮影された地域の、送受信モードが異なる低解像度の3種類の偏波レーダ画像データを、前記レーダ装置で撮影された地域の、少なくとも前記3種類の偏波の1つと送受信モードが同一である高解像度の単偏波レーダ画像データの解像度に合わせてサンプリングするステップと、
前記サンプリングされた3種類の偏波レーダ画像データを主成分分析し第1の第1主成分を抽出するステップと、
前記単偏波レーダ画像データと、これとは異なる2重偏波レーダ画像データを主成分分析し第2の第1主成分を抽出するステップと、
前記第1の第1主成分を前記第2の第1主成分で置換したものを逆主成分分析し、画像データを生成するステップと
を含む地物情報判読用画像生成方法。
【請求項5】
飛翔体に搭載したレーダ装置から得られる、偏波を利用して撮影されたレーダ画像データを基に地物情報判読用画像を生成する地物情報判読用画像生成方法において、
前記レーダ装置で撮影された地域の、送受信モードが異なる低解像度の3種類の偏波レーダ画像データを、前記レーダ装置で撮影された地域の、少なくとも前記3種類の偏波の1つと送受信モードが同一である高解像度の単偏波レーダ画像データの解像度に合わせてサンプリングするステップと、
前記サンプリングされた3種類の偏波レーダ画像データをHSI変換し第1の明度成分を抽出するステップと、
前記単偏波レーダ画像データと、これとは異なる2重偏波レーダ画像データをHSI変換し第2の明度成分を抽出するステップと、
前記第1の明度成分を前記第2の明度成分で置換したものを逆HSI変換し、画像データを生成するステップと
を含む地物情報判読用画像生成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−96807(P2013−96807A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−239133(P2011−239133)
【出願日】平成23年10月31日(2011.10.31)
【出願人】(000135771)株式会社パスコ (102)
【Fターム(参考)】