説明

地盤の掘削方法

【課題】掘削地盤における杭体の支持性能を向上させる。
【解決手段】掘削ロッド1として、スクリュー2を構成する羽根2aと羽根2aとの間の空隙の一部または全部を遮る少なくとも一の閉塞部材3を備えたロッドを用い、該掘削ロッド1により地盤Gを所定深さまで掘削し、当該掘削孔20の孔底20bにおいて、掘削ロッド1を深さ一定で回転させ、スクリュー2の先端により当該孔底20bを周方向に均す。また、掘削ロッド1として、当該掘削ロッド1の先端部に配置され、スクリュー2による地盤Gの掘削径よりも大きい径を掘削する拡大掘削部材4を備えたロッドを用い、掘削孔20の孔底20bに拡径部21を形成することが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤の掘削方法に関する。さらに詳述すると、本発明は、地盤中に杭体を構築する際に掘削方法の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
地盤中に杭や柱列壁(地中壁)を構築する際の工法として提案されているものにCFA(Continuous Flight Auger)工法がある。この工法は、例えば、大口径のオーガー(杭削孔機)で所定深度まで削孔して土砂を排出し、このオーガーを引き上げながら先端からコンクリートやモルタルを注入して打設し、その後、芯材となる鉄筋や型鋼をコンクリートやモルタルの中に挿入して場所打ち杭や柱列壁を構築するというものであり、現場造成で比較的簡単に杭や柱列壁等の杭体を構築できるという利点がある。このCFA工法では、削孔時に孔壁にかかる土圧をオーガーで支持しながら、土砂を、コンクリートやモルタルによって削孔内で置換して杭や柱列壁を構築し、排出された土砂を廃棄する。
【0003】
このようなCFA工法において、従来、排土量を少なくするため掘削ロッドの径を漸増(漸減)させたもの(例えば特許文献1,2参照)、あるいは硬い地盤においても掘削できるようにするため螺旋状羽根のスパイラルピッチ(軸方向ピッチ)を変化させたもの(例えば特許文献3参照)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公平7−68838号公報
【特許文献2】特許第2631303号公報
【特許文献3】国際公開第95/12050号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のCFA工法においては、施工後における杭体の支持性能が十分でない場合がある。
【0006】
そこで、本発明は、掘削地盤における杭体の支持性能を向上させた地盤の掘削方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる課題を解決するべく本発明者は種々の検討を行った。まず、CFA工法においては、コンクリートやモルタルといった硬化材を掘削孔内に注入して打設する際、掘削ロッドの先端付近が閉塞した状態(地盤との隙間がほとんどない状態)となっているので当該掘削ロッドを引き上げて空間を形成しながら注入している。ところが、掘削ロッドの引き上げ時、該掘削ロッドと地盤との間の空間が負圧となることによって地盤に緩みが生じたり孔壁が崩れることで、結果的に支持性能が弱い状態となることがある。また、地盤中で掘削ロッドを例えば無回転で引き上げると、地盤の底面が十分に整形されないことにより、先端地盤の変形機構に変化が生じることで支持性能に影響を及ぼしうる。より具体的には、地盤中で掘削ロッドを無回転で引き上げると、杭先端形状が尖ったペンシル状となったり杭芯から外側に対して傾斜のある凹凸面ができたりしやすく、杭に軸力が作用した場合に、地盤中に貫入しやすい形状となるため、結果的に杭の支持性能が小さくなる。これらの点に着目してさらに検討を重ねた本発明者は、かかる課題の解決に結び付く新たな知見を得るに至った。
【0008】
本発明はかかる知見に基づくものであり、外周にスクリューを備えた掘削ロッドを用いて地盤を掘削する方法において、掘削ロッドとして、スクリューを構成する羽根と羽根との間の空隙の一部または全部を遮る少なくとも一の閉塞部材を備えたロッドを用い、該掘削ロッドにより地盤を所定深さまで掘削し、当該掘削孔の孔底において、掘削ロッドを深さ一定で回転させ、スクリューの先端により当該孔底を周方向に均すことを特徴とする。
【0009】
この掘削方法においては、掘削孔の孔底において掘削ロッドを深さ一定で回転(空転)させることにより、底面が周方向に平均化した状態となるように均すことができる(平滑化)。こうした場合、杭体の荷重を底面全体に対してより均一に作用させることにより、杭体の先端の地盤における部分的破壊を生じにくくさせ、掘削地盤における杭体の支持性能を向上させることができる。
【0010】
また、地盤掘削時の一般的な作用として、掘削ロッドを地盤中で回転させると、スクリューに案内されて土砂が上方に運ばれ排土されるというのがあり、排土量が多くなると周辺地盤に緩みが生じやすくなる。この点、本発明にかかる掘削方法によれば、スクリューを構成する羽根と羽根との間に形成された閉塞部材が、スクリューに沿って土砂が排土されるのを抑制する。排土が抑制された土砂は、掘削ロッドの回転時、外側(掘削孔の壁面)に押し付けられ(練り付けられ)、周辺地盤に緩みが生じるのを抑える。
【0011】
上述した地盤の掘削方法においては、掘削ロッド1の先端が所定深度にまで達したら、当該掘削ロッド1を深さ一定に維持しながら少なくとも1回転させることが好ましい。こうすること、つまりは掘削ロッドを深さ一定に維持しながら空転させることにより、掘削孔の底面が周方向に平均化した状態となるよう確実に均すことができる。
【0012】
また、掘削ロッドとして、当該掘削ロッドの先端部に配置され、スクリューによる地盤の掘削径よりも大きい径を掘削する拡大掘削部材を備えたロッドを用い、掘削孔の孔底に拡径部を形成することが好ましい。このような掘削ロッドによれば、掘削孔の孔底付近において掘削径を拡大させ、該拡径部を節部として機能させることができる。こうした場合、杭体と孔壁面との摩擦力(周面摩擦力)を増大させ、掘削地盤における杭体の支持性能を向上させることができる。
【0013】
また、掘削ロッドとして、外周側に位置する拡大掘削部材がスクリューの先端よりもさらに先端側に突出しているロッドを用い、掘削孔の孔底を径方向外周寄りの部分ほど深底に形成することも好ましい。このような掘削ロッドを用いて地盤を掘削した場合、孔底を逆椀形(ドーム形)に形成し、併せて杭体の底面を同様の形状とすることができる。こうした場合、杭体に底面に対して径方向への地盤の移動を抑制することで杭先端地盤の変形機構を変化させ、地盤における杭体の支持性能をさらに向上させることができる。
【0014】
地盤の掘削方法において、当該掘削孔の孔底から掘削ロッドを回転させながら引き抜くことができる。この場合、掘削ロッドの1回転あたりの引き上げ高さを、拡大掘削部材の鉛直方向高さよりも小さくすることが好ましい。こうした場合、掘削孔の孔底に、拡大掘削部材の鉛直方向高さよりも高さの大きい(太い)拡径部を形成することができる。
【0015】
また、地盤の掘削方法において、掘削ロッドを正回転させながら引き抜くことも好ましい。一般的に、CFA工法においては、掘削した地盤が掘削孔内に残存すると杭体の品質が著しく低下する。そのため、掘削ロッドを回転させずに、スクリュー間に掘削した土砂を載せてそのまま引き上げる必要がある。一方で、本発明におけるような閉塞部材を有しない掘削ロッドを回転しながら掘削孔から引き上げると、周辺地盤を引き込み崩壊を誘発し、その結果、掘削した体積を把握できない状態になることから、充填する硬化材の注入量とのバランスが崩れ、杭体の品質が低下するおそれがある。これを防ぐ手段としては、掘削時には開放する一方で引き抜き時に土砂の落下を防ぐような弁状の部材をスパイラル上に設置することが考えられるが、当該弁状の部材が施工時に正しく作用しているかどうか確認することが困難であるため、杭材の品質には問題が残る。この点、本発明によれば、上述のような特別な機構を追加せずとも、スクリュー上の土砂を孔底に落とさないようにすることができる。
【0016】
あるいは、地盤の掘削方法において、掘削ロッドを無回転で引き抜くことも好ましい。本発明によれば、掘削時においては、回転に伴う排土を閉塞板により抑制することが可能で、引抜き時に回転を止めることで更に排土する量を縮減することが可能となる。また、大きな摩擦抵抗を必要としない設計の場合には、回転による拡径部を築造することなく無回転とすることで投入する硬化材の量を縮減することが可能となる。
【0017】
さらに、本発明にかかる地盤の掘削方法において、掘削ロッドを掘削孔から引き上げながら当該掘削孔内に硬化材を注入することも好ましい。例えば無水掘り(掘削水を用いない掘削)の場合、このような方法は、孔壁の崩落等を抑えるといった観点からして好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、掘削地盤における杭体の支持性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施形態における掘削ロッドの一例を示す図で、(A)閉塞板の通過領域、(B)b−b線より下部の平面図、(C)縦断面図、(D)スクリューの羽根の通過領域を示す。
【図2】(I)掘削ロッドの(a)正面図および(b)底面図、(II)〜(V)該掘削ロッドにより孔底まで掘削するまでの工程を順に示す図であり、(IV)の(a)は掘削ロッドの正面図、(b)は平面図である。
【図3】(VI)〜(X)掘削ロッドにより孔底を均し、硬化材を吐出しながら引き抜き、杭体の芯材を掘削孔内に挿入するの工程を順に示す図である。
【図4】孔底が逆椀形の凸状となるように掘削された掘削孔および当該掘削孔内で築造された杭体を示す概略図である。
【図5】杭体の中心部付近が下側に凸となるように掘削された掘削孔および当該掘削孔内で築造された杭体を示す概略図である。
【図6】杭体の先端部に作用する力を示す、(A)杭体の中心部付近が下側に凸の場合、(B)杭体の先端部が平坦の場合の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の構成を図面に示す実施の形態の一例に基づいて詳細に説明する。
【0021】
図1〜図4に本発明にかかる地盤Gの掘削方法の実施形態を示す。本実施形態では、以下に示す掘削ロッド1を用いて地盤Gを掘削し、杭体(杭や柱列壁など)11を構築する。
【0022】
図1において、符号1はオーガーモータ(図示省略)により回転駆動されて地盤Gを掘削する掘削ロッドである。本実施形態にかかる掘削ロッド1は、スクリュー2、閉塞板3、拡大爪4、掘削ビット5等を備える。この掘削ロッド1の周面には螺旋状の羽根2aが取り付けられており、下端部に掘削ビット5が設けられている。本実施形態では、地盤Gの上方から見た場合に、右ねじ状のスクリュー2を有する掘削ロッド1が時計回りに回転する場合を「正回転」と呼ぶ。掘削ロッド1が正回転するとき、羽根2aが共に正回転することにより推進力を得て該掘削ロッド1は地盤Gを掘進する。
【0023】
掘削ロッド1は例えば鋼管軸部6によって中空構造とされ、液体等を通じるための配管を兼ねている。本実施形態の掘削ロッド1の先端には、硬化材10を吐出するためのノズル7が形成されている(図1等参照)。また、鋼管軸部6の上端には、別の掘削ロッドを例えば図示しない差込ピンを介して接合するためのジョイント8が形成されている(図2(IV)参照)。なお、掘削ロッド1が先行掘削する際、必要に応じてエアーや水、掘削液などが噴出されるが、本実施形態では、掘削液(掘削水)を用いずに掘削するいわゆる無水掘りを実施することとしている。
【0024】
スクリュー2は、鋼管軸部6の外周に螺旋状に形成された羽根2aによって形成されている(図1等参照)。本実施形態で用いる掘削ロッド1は、右ねじ状に形成される羽根2aと羽根2aとの間隔(スパイラルピッチ)が一定とされているものである(図1等参照)。さらに、本実施形態で用いる掘削ロッド1は、螺旋状に形成される羽根2aの外径が一定の大きさ(r1)とされているものである(図1参照)。
【0025】
また、スクリュー2の所定範囲において、羽根を二重螺旋構造とすることが好ましい。二重螺旋構造のスクリュー2によれば、掘削時(特に掘削開始時)、掘削ロッド1が曲がらずに掘進しやすくなる。本実施形態では、羽根2aと同ピッチの二重螺旋羽根2cが、掘削ロッド1の先端から半周分形成されている(図1等参照)。
【0026】
閉塞板3は、スクリュー2を構成する羽根2aと羽根2aとの間の空隙の一部または全部を遮る部材である。例えば本実施形態では、スクリュー2の中段の1箇所にのみ、表面が平らな板状部材からなる閉塞板3を設けている(図1参照)。閉塞板3の設置位置は特に限定されるものではないが、掘削ロッド1のロッド径をDとした場合(D=2r1)、掘削ロッド1の先端から0〜6Dの範囲内に配置されていることが好ましく、先端から2D〜4Dの範囲内に配置されていることがより好ましい(後述の実施例1参照)。この理由を概説すれば以下のとおりである。すなわち、本実施形態の掘削装置による掘削を行なった場合、地盤G中の硬い層(支持層)を掘削する際に閉塞板3の影響で掘削ロッド1を貫入させづらくなることが生じ得る。そこで、地盤Gの支持層内に閉塞板3を過度に貫入することを避けることが望ましく、この観点からの閉塞板3の好適な設置位置は先端から2D〜4Dの範囲内である。これは、地盤G中の固い層(支持層)に掘削ロッド1の先端部付近を根入れすることで、先端支持力度を大きくする設計のときに効果がある。
【0027】
また、本実施形態では、掘削ロッド1の回転時における閉塞板3の外縁の円形軌跡の外径r2が、羽根2aの外径r1よりも小さくなるようにしている(図1参照)。このように羽根2aと羽根2aとの間の空隙の一部が遮られた状態(準閉塞状態)とした場合、当該閉塞板3の外縁よりも外側に、スクリュー2に沿って排土される土砂の一部が通過しうる隘路(閉塞板3と掘削孔20の孔壁20aとの間の隙間)9が形成される(図1中の二点鎖線参照)。なお、本実施形態では隙間9が矩形の場合を例示しているがこれは一例にすぎない。例えば、下辺の方が長い台形の閉塞板3を採用し、隙間9を、下方よりも上方が広く開いた形としてもよい。また、外径r2を羽根2aの外径r1に等しくした閉塞板3を採用して隙間9をなくした状態(閉塞状態)としてもよい。
【0028】
拡大爪4は、掘削ロッド1の先端部に配置された掘削ビット5の外側へ配置され、スクリュー2による地盤Gの掘削径よりも大きい径を掘削する拡大掘削部材として機能する。本実施形態の拡大爪4は、特別な機構(例えば、掘削ロッド1を逆転させることで地盤(土砂)の抵抗により収容されている拡大爪4を突出させる機構や、油圧等を利用してシリンダー等のアクチュエーターを作動させ機械的に収容してある拡大爪4を突出させる機構など)が不要であり、尚かつ当該爪の開閉の確認も不要なことからメンテナンスやコストの面で有利な固定式であり、掘削ロッド1の回転に伴い、スクリュー2の羽根2aの外径r1よりも径の大きい溝部を掘削孔20の孔壁20aに形成する。
【0029】
さらに、二重螺旋部分の先端位置に取り付けられる拡大爪4は、硬化材10を吐出するノズル7の近傍に配置されていることが好ましい。本実施形態の拡大爪4は、連続螺旋である羽根2a(二重螺旋羽根2cではない方)の先端部外周箇所にのみ設置されている。このように、ノズル7の近傍であって、掘削回転時に該ノズル7に先行する位置の羽根2aに拡大爪4を設置することで、回転を伴いながら掘削ロッド1を引き抜きつつ硬化材10を充填する際に、周辺地盤Gを掘削した直後に硬化材10が充填されることで、地盤Gの崩壊を防ぎ、強度、形状ともに品質の高い杭体を築造することが可能となる。
【0030】
また、拡大爪4が上述のように1箇所設置された場合には、築造される溝部の体積は拡大爪4が複数個ある場合に比べ小さくなるため、充填する時間当たりの硬化材10の量が少なくなり、充填速度の設定範囲が小さい領域から大きい領域まで使えることから施工時の制御がしやすくなり、状況に応じた施工が行いやすくなる。
【0031】
また、溝部に硬化材10を注入し硬化させて節部12を築造するにあたり、当該節部12を所定のピッチにて築造する際、拡大爪4が複数個ある場合には、節部12が二重ないしは複数の螺旋状になり、それぞれの螺旋の軌跡が重ならないように施工するには掘削ロッド1の引き抜き速度を更に早く設定する必要性があるため、地盤Gの堆積状態が複雑で、軟硬互層となる地盤の場合などには特に施工機械の制御が困難となる場合がある。この点、拡大爪4の取り付け位置、個数を好ましい形態とした本実施形態によれば、これらの問題を回避し、より品質の高い杭体11を築造することが可能となる。
【0032】
また、掘削ロッド1の形状は、掘削孔20の孔底20bが平坦となるように掘削するものでもよいし、孔底20bに凹凸を付すように掘削するものでもよい。例えば掘削孔20の孔底20bが逆椀形(中央が上方へ盛り上がるドーム形)となるように掘削し、杭体11の底面を同様に逆椀型とした場合、杭先端地盤の変形機構(杭先端を支持する部分の形状等)が変化し、応力分担領域が拡大する、杭直下の先端地盤の密度が増加するなどにより、当該外力に対する抵抗力を作用させることができるから、当該杭体11の支持性能をさらに向上させることが可能である。
【0033】
上述のように孔底20bに凹凸を付すにあたっては、特殊な形状ないし配列の掘削ビット(例えば、外周寄りのものほど回転軸方向先端側に位置するように配置された複数の掘削ビット)5を利用することが可能であるが、拡大爪4をスクリュー2の先端2bよりもさらに先端側に(例えば先端側斜めに)突出させ、掘削孔20の孔底20bを径方向外周寄りの部分ほどさらに深底に形成できるようにすることも好ましい(図2等参照)。このような掘削ロッド1を用いて掘削した場合、掘削孔20の孔底20bを逆椀形(ドーム形)あるいはこれに近似した形状に形成し、杭体11の底面を同様の形状とすることができる(図4参照)。
【0034】
あるいは、掘削ビット5を傾斜配置させることにより、杭体11の底面を、例えば杭軸中心側から外周側に対して傾斜した逆三角錐型とする等、杭体11の中心部付近が下側に凸となるように形成することもできる(図5参照)。このような形状とすることで、杭体11に軸力が作用した場合に、杭体先端部の応力度の作用において中心方向(圧縮方向)の作用がより顕著化するため、引張り強度が圧縮強度に比べて総じて小さい硬化材10を用いて杭体11を築造する際に好ましい形態とすることができる(図6参照)。
【0035】
続いて、上述の掘削ロッド1を用いて地盤Gを掘削する様子を示す(図2、図3参照)。
【0036】
まず、オーガーモータにより掘削ロッド1を正回転させ、地表から地盤Gを掘削する(図2(I)〜(III)参照)。このとき、掘削ビット5とともに回転する拡大爪4により、掘削孔20の孔壁20aに螺旋状の溝部が形成される(図2(III)、(IV)参照)。掘削ロッド1が所定深さまで掘進したら、ジョイント8を介して別の掘削ロッド1を継ぎ足し、さらに深くまで掘削する(図2(IV) 、(V)参照)。
【0037】
ここで、掘削ロッド1の掘進時、拡大爪4が、羽根2aの外径r1よりも大きい範囲で地盤Gを掘削し、掘削孔20の孔壁20aの一部を節状に欠損させた状態とする(当該欠損した部分を以下では欠損部ともいい、図中、符号22で示す)。ただし、掘削ロッド1がさらに掘進すると、スクリュー2に沿って排土される土砂の一部が閉塞板3によって外側に押し出されて孔壁20aに練り付けられるので、当該欠損部22にも土砂が練り付けられ、欠損部22内に土砂が補充された状態となる(図2(III)、(IV)参照)。
【0038】
なお、図2(V)においては閉塞板3の付近のみに横向き矢印を記載しているので、あたかも閉塞板3の付近のみで土砂が孔壁20aに練り付けられているようにも見えるが、実際には、閉塞板3による排土抑制の作用の影響で、当該閉塞板3の下方(閉塞板3からスクリュー2の先端2bまでの間)においても土砂の練り付け作用が生じうる。図中では、このようにして練り付け作用を受けた(または受ける可能性のある)孔壁20aにはグラデーションを付して示している。
【0039】
掘削ロッド1の先端が所定深度にまで達したら、当該掘削ロッド1を深さ一定に維持しながら少なくとも1回転させる(空転)。これにより、掘削ロッド1の先端(掘削ビット5等)で、掘削孔20の孔底20bが周方向に平均化した状態となるように平滑化されるので、杭体11の荷重を掘削孔20の孔底20b全体に対してより均一に作用させることが可能な状態となる(図2(V)参照)。
【0040】
また、地盤Gの所定深度にて掘削ロッド1を回転(空転)させると、拡大爪4により、スクリュー2の羽根2aの外径r1よりも径の大きい環状の拡径部21が形成される(図2(V)参照)。本実施形態では、孔底20b付近にこのような拡径部21を形成し、当該拡径部21に硬化材10を注入して硬化させるようにしている。こうした場合、当該硬化した部分が、杭体11と孔壁20aとの摩擦力(周面摩擦力)を増大させる節部(図中、符号12で示す)の一部として機能しうる。また、拡径部21を形成することで、杭体11の底面積を増やして地盤Gによる支持領域を増加させることができる。
【0041】
なお、例えば孔底20b付近において掘削ロッド1の1回転あたりの引き上げ高さを、拡大爪4の鉛直方向高さより小さくすることも好ましい。こうした場合、掘削孔20の孔底20b付近に、拡大爪4の鉛直方向高さ(厚み)よりも高さの大きい(太い)拡径部21を形成することができる。
【0042】
さらに、上述のように掘削ロッド1を所定深度に維持しながら回転(空転)させると、掘削孔20中の土砂の一部がスクリュー2に沿って排土され、硬化材10を打設するスペースが形成される。このとき、従来のように、掘削するうちに掘削ロッド1を過剰に回転させると排土量が増え、掘削孔20の孔壁20aなど周囲の地盤Gを緩めてしまうことがあったが、この点、本実施形態においては、地盤Gの緩みを抑えることが可能である。すなわち、本実施形態では、スクリュー2に沿って排土される土砂の一部が閉塞板3によって外側に押し出され、孔壁20a(および欠損部22)に練り付けられる(図2(V)参照)。この際、土砂の性状、閉塞板3の設置態様、隙間9の大きさ、掘削ロッド1の回転速度など種々の要因にもよるが、本実施形態の掘削ロッド1においては土砂が閉塞板3よりも上に排土されるのがほぼ抑えられる。
【0043】
地盤Gの所定深度にて掘削ロッド1を回転(空転)させて孔底20bを均したら、掘削ロッド1を引き抜く工程へと移行する。この引き抜き工程においてはノズル7から硬化材10を吐出しながら掘削ロッド1を引き抜くことができる。上述のごとく掘削水を用いて掘削する場合には、孔壁20aの崩落をより抑えるといった観点からこのように硬化材10を吐出しながら掘削ロッド1を引き抜くことが好ましい。本実施形態では、ノズル7を開けて硬化材10を吐出し、スペースに充填しながら掘削ロッド1を引き抜く(図3(VII)等参照)。なお、硬化材10を例示すれば、セメントミルク、生コンクリート、モルタル等の硬化体(水硬性材料)を挙げることができる。
【0044】
また、本実施形態では、掘削ロッド1の引き抜き工程において、当該掘削ロッド1を正回転させながら引き抜くようにしている。このように掘削ロッド1を正回転させながら引き抜くと、スクリュー2上の土砂に対して排土方向へ揚送する力を与えながら掘削ロッド1を引き上げることになる。したがって、特に別の機構を追加せずとも、スクリュー2上の土砂を孔底20bに落とさないようにしながら掘削ロッド1を引き抜くことができる。
【0045】
また、このように掘削ロッド1を正回転させながら引き抜くと、拡大爪4が孔壁20aに螺旋状の溝部を掘る。ノズル7から吐出された硬化材10はこの溝部に入り込み、その状態で硬化して、杭体11の周囲に螺旋状の節部12を築造する(図3(VIII)等参照)。節部12は拡大爪4の形状に因り種々の形態をとり得るが、例えば本実施形態では断面が略矩形である櫛状の突起のような節部12を築造することができる。
【0046】
掘削孔20から掘削ロッド1を引き抜いたら、杭体11の芯材(例えば鉄筋カゴ、鋼管、既製杭等の芯材)13を掘削孔20内に挿入する(図3(IX)参照)。挿入後、硬化材10が硬化すると、掘削孔20内に杭体11が形成される(図3(X)参照)。なお、図3(IX)の一部および(図3(X)、図4においては硬化材10の外周ではなく断面を示している。
【0047】
上述した本実施形態の掘削方法によれば、掘削孔20の孔底20bにおいて掘削ロッド1を回転(空転)させることにより、先端(つまりは掘削孔20の底面)が周方向に平均化した状態となるように均すことができる。また、深さ一定に維持した状態で掘削ロッド1を回転させるとスクリュー2の作用により土砂の一部が排土されるが、このとき、本実施形態では閉塞板3が排土を抑制するので過度に土砂が排出されないようにすることができる。
【0048】
以上について従来の手法と対比しながら説明する。従来手法の場合、掘削孔の孔底において掘削ロッドを空転させようとすればそのぶん排土量が多くなって周囲の地盤Gを緩めてしまう可能性がある。このため、従来ならば、高さ(深さ)を維持しながら掘削ロッドを回転(空転)させるようなことは行われないのが実際である。これに対し、本実施形態では、土砂が過度に排出されるのを閉塞板3の作用により抑制することができるので、孔底20bで掘削ロッド1を回転(空転)させても周囲の地盤Gの緩みが抑えられる。このような作用により、本実施形態の掘削方法によれば、地盤Gの緩みを抑えつつ、掘削孔20の底面がより周方向に平均化した状態となるよう孔底20bを均すことができる。このように孔底20bを均すように加工すると、杭体11の先端地盤Gにおける部分的な破壊を生じにくくする効果があり、その結果、杭体11の先端部の支持力性能を向上させることができる。また、孔底20bが均されていれば、掘削孔20の深さの測定基準が明確となり、より精度の高い数値を得やすいという利点もある。
【0049】
また、本実施形態においては、上述のように羽根2aと羽根2aとの間に形成された閉塞板3が、掘削ロッド1の回転時、スクリュー2に沿って土砂が排土されるのを抑制するとともに、その一部を掘削孔20の孔壁20a(および欠損部22)に練り付ける。例えば、掘削ロッド1の掘進時、拡大爪4により掘削されて(乱されて)孔壁20aの一部が緩んだ状態となっても、閉塞板3の練り付け作用によって当該緩んだ箇所に土砂を練り付け、いったん緩んだ地盤Gを強化し、周辺地盤のせん断強度を向上させ、当該孔壁20aに溝部を掘削するための下地をつくることができる。このように土砂を孔壁20aに練り付け、当該孔壁20aに溝部を掘削して杭体11の周囲に所望の節部12を築造することは、当該杭体11の地盤Gに対する周面摩擦力を増大させうる点で好適である。このような作用により、周辺地盤Gに緩みが生じることが相乗的に抑えられる。加えて、本実施形態によれば、上述した閉塞板3の練り付け作用により、掘削ロッド1の先端部における地盤Gの緩みが他工法の場合よりも抑えられる。
【0050】
また、掘削工程において、掘削ロッド1の掘進速度と回転速度との間に一定となるような相関がない場合もあり得る。このような場合であっても、本実施形態の掘削方法によれば、閉塞板3が排土を抑制する結果、一定の相関がある場合と同様、掘削孔20の孔底20bを均すことが可能である。この点について説明を加えると、例えば従来手法であれば地盤Gの緩みを抑えるために掘進速度と回転速度とが一定の相関となるような制御が必要であり、一般に速度や回転の最適制御は難しいものであったのに対し、本実施形態の掘削方法においては、特有の構成によって排土が抑制されるようにしているため、地盤Gの緩みを抑えるためのこのような制御は必須ではないということができる。
【0051】
なお、上述の実施形態は本発明の好適な実施の一例ではあるがこれに限定されるものではなく本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、上述した実施形態では、羽根2aと羽根2aとの間隔(スパイラルピッチ)が一定であり、尚かつ羽根2aの外径が一定の大きさとされている掘削ロッド1を用いたが使用可能な掘削ロッド1がこれに限定されることはなく、この他、スパイラルピッチが一定でない形態の掘削ロッド1、あるいは、螺旋状の羽根2aの外径が一定でない形態の掘削ロッド1などを適用した場合にも、上述した実施形態と同様の作用効果を奏することは可能である。いうまでもないが、上述した実施形態と同様の作用効果を奏しうる限り、本明細書で述べた掘削ロッド1はいずれも本発明に適用することができるものである。
【0052】
また、上述した実施形態では、連続した螺旋状の羽根2aで構成されたスクリュー2を例示したがこれも好適な一例にすぎない。この他の形態として、羽根2aは、例えば閉塞板3の下端よりも上方において一部が途切れた不連続な形状となっていてもよい。ただし、このように羽根2aを不連続な形状にするとしても、閉塞板3の下端よりも下方においては連続形状となっていることが好ましい。
【0053】
また、上述した実施形態では、引き抜き工程にて、掘削ロッド1を連続して回転させながら引き抜くようにした形態を例示したが、これとは異なり、掘削ロッド1を不連続で回転させながら引き抜くようにしてもよい。このようにして掘削ロッド1が断続的に回転することにより、掘削孔20の孔壁20aには不連続な拡径部21が掘削される。したがって、これによれば、螺旋状であるが不連続である複数の節部が築造された杭体を構築することができる。このような節部を築造することによっても、掘削ロッド1の周囲において地盤Gに対する大きな抵抗力を実現することができる。
【0054】
また、上述した実施形態では、拡大掘削部材として固定式の拡大爪4が設けられていたが、例えば、径方向へ開いた拡開位置および収容された退避位置との間で開閉可能な拡大爪を採用することもできる。開閉可能な拡大爪を採用し、掘削ロッド1の掘進時に爪を退避させた状態とすれば、地盤G(孔壁20a)を乱す量が少なく、掘削抵抗も少ない。
【0055】
また、上述した実施形態においては引き抜き工程において掘削ロッド1を正回転させながら引き抜くようにしたが、当該掘削ロッド1を無回転のまま掘削孔2から引き抜くこともできる。こうした場合、拡大爪4によって孔壁20aに直線状の溝部が掘削され、杭体11には同様に直線状の節部12が築造される。
【0056】
また、上述した実施形態では閉塞板3の好適な形態例を説明したがこれは一例にすぎず、この他にも種々態様の閉塞板3を採用することができる。例示すれば、閉塞板3を複数設けることができるし、当該閉塞板3として矩形以外の形状のものを採用することもできる。あるいは、平板状のみならず、例えば表面が湾曲した閉塞板3を採用することもできる。また、閉塞板3を複数設ける場合には、大きさや形状が互いに異なるものを、異なる高さ・異なる周方向位置に配置することができる。あるいは、当該掘削ロッド1の回転方向に対する傾斜角度をそれぞれ別の角度に調整して配置することで、練り付け作用を調整することもできる。
【0057】
また、閉塞板3は、複数設けてもよい。閉塞板3を二以上備えた掘削ロッド1を用いて地盤Gを掘削することとすれば、掘削時における排土をさらに抑制することができる。また、こうした場合には、掘削ロッド1の回転時、掘削孔20の孔壁20aへさらに土砂を練り付けることもできる。閉塞板3を複数設ける場合、同形状の閉塞板3を用いてもよいし、あるいは、各閉塞板3の形状を互いに異ならせ、各閉塞板3における排土の抑制作用、土砂の練り付け作用を異ならせるようにしてもよい。なお、閉塞板3を複数設ける場合、各閉塞板3の高さ(深さ)を異ならせることができるのはもちろん、各閉塞板3の周方向配置(回転軸に沿って見たときの時計回りの位置)についても異ならせることができ、適宜配置することが可能である。
【0058】
また、上述した実施形態では引き抜き工程において掘削ロッド1を引き抜きながら硬化材10を吐出して掘削孔20内に充填し打設したが(図2(IV)参照)、掘削ロッド1を引き抜いてから硬化材10を吐出するようにしてもよい。こうした場合、掘削ロッド1の引き抜き工程と硬化材10の打設工程とが分離することになる。具体例を挙げれば、掘削孔20内に泥水などを充填しておき、管などでセメントミルク等を注入して置換するような態様もここでいう分離された引き抜き工程・打設工程に含まれる。
【実施例1】
【0059】
発明者らは、閉塞板3の好ましい設置位置について検討した。杭先端地盤の破壊領域に関する既往の研究では、根入れ長と杭径の比による関係は、Df(根入れ長)/D(杭径)で4D〜5Dの領域から破壊形態が変わるとする研究結果がある。しかしながら、この結果は均一な砂質土地盤による模型試験結果によるもので、なおかつ、打撃杭(貫入杭)による結果のため、埋め込み杭や現場造成杭についての根入れ長と杭径の関係については明確にされてはおらず、慣例的に根入れ長さを4Dとすることが多かった。また、支持層とする硬い地層に、過大な貫入をすることは施工の効率が悪くなるだけでなく、使用する施工機械への負担も大きい。そこで、発明者らは閉塞板の取り付け位置を任意に変えた杭による載荷試験を行い、周辺地盤の緩みを止めつつ支持力が最大となる効果的な閉塞板の取り付け位置を調査したところ、根入れと杭径の比が2Dから4Dの範囲にあるときによりよい結果が得られた。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明は、地盤中に杭や柱列壁(地中壁)等の杭体を構築する場合に適用して好適なものである。
【符号の説明】
【0061】
1…掘削ロッド、2…スクリュー、2a…羽根、2b…(スクリューの)先端、3…閉塞板(閉塞部材)、4…拡大爪(拡大掘削部材)、10…硬化材、11…杭体、12…節部、20…掘削孔、20b…孔底、21…拡径部、G…地盤

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周にスクリューを備えた掘削ロッドを用いて地盤を掘削する方法において、
前記掘削ロッドとして、前記スクリューを構成する羽根と羽根との間の空隙の一部または全部を遮る少なくとも一の閉塞部材を備えたロッドを用い、
該掘削ロッドにより前記地盤を所定深さまで掘削し、
当該掘削孔の孔底において、前記掘削ロッドを深さ一定で回転させ、前記スクリューの先端により当該孔底を周方向に均す、地盤の掘削方法。
【請求項2】
前記掘削ロッドの先端が所定深度にまで達したら、当該掘削ロッドを深さ一定に維持しながら少なくとも1回転させる、請求項1記載の地盤の掘削方法。
【請求項3】
前記掘削ロッドとして、当該掘削ロッドの先端部に配置され、前記スクリューによる前記地盤の掘削径よりも大きい径を掘削する拡大掘削部材を備えたロッドを用い、前記掘削孔の孔底に拡径部を形成する、請求項1に記載の地盤の掘削方法。
【請求項4】
前記掘削ロッドとして、外周側に位置する前記拡大掘削部材が前記スクリューの先端よりもさらに先端側に突出しているロッドを用い、前記掘削孔の孔底を径方向外周寄りの部分ほど深底に形成する、請求項3に記載の地盤の掘削方法。
【請求項5】
当該掘削孔の孔底から前記掘削ロッドを回転させながら引き抜く、請求項3に記載の地盤の掘削方法。
【請求項6】
前記掘削ロッドの1回転あたりの引き上げ高さを、前記拡大掘削部材の鉛直方向高さよりも小さくする、請求項5に記載の地盤の掘削方法。
【請求項7】
前記掘削ロッドを正回転させながら引き抜く、請求項4から6のいずれか一項に記載の地盤の掘削方法
【請求項8】
前記掘削ロッドを無回転で引き抜く、請求項3または4に記載の地盤の掘削方法。
【請求項9】
前記掘削ロッドを前記掘削孔から引き上げながら当該掘削孔内に硬化材を注入する、請求項1から8のいずれか一項に記載の地盤の掘削方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate