説明

地絡故障検出装置

【課題】送電側の中性点が直接接地された超高圧送電系統における地絡鉄塔の特定が可能な地絡故障検出装置を提供する。
【解決手段】サージアブソーバ140、142に地絡時の故障電流を検出した検出コイル部1、2出力を抑制する機能に加えて、第1および第2の検出コイル部1、2の磁気飽和を低減する機能をもたせ、更に、コア7とコア7に巻回されたコイル9との間に非磁性の空芯部分を有するように構成し、磁気飽和により第1および第2の検出コイル部1、2の出力波形が歪んだ場合に、第1および第2の検出コイル部1、2の非磁性の空芯部分による出力に基づいて地絡時の故障電流の歪みを改善し、位相検出を可能にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、送電鉄塔の地絡故障の検出に関し、特に、超高圧送電系統における送電鉄塔の地絡故障を検出する地絡故障検出装置に関する。
【背景技術】
【0002】
送電鉄塔の地絡故障を検出するものとして、例えば本出願人が先に提案した特許文献1に記載の地絡故障点表示装置がある。このような特許文献1に記載の地絡故障点表示装置を、送電電圧が187kV以上の超高圧送電線路における送電鉄塔の地絡故障の検出に適用した場合、送電側の中性点が抵抗を介することなく直接接地されているため、地絡故障が発生した場合に数十kA以上の多大な故障電流が架空地線に分流し、地絡故障を検出するための回路を損傷するおそれがあるばかりでなく、地絡時の故障電流が極めて大きくなること、また、地絡故障用継電器の遮断タイミングによっては架空地線を流れる電流に直流成分が重畳することなどから、故障電流を検出した検出コイルの出力波形が歪み、地絡故障の検出が困難になるなどの問題を生じるおそれがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3458123号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような特許文献1に記載の地絡故障点表示装置は、送電電圧が154kV以下の抵抗接地系の送電線路における地絡故障の検出には有効に機能するものであるが、山岳地などの地域に建設されることのある187kV以上の超高圧送電系統に対しては、上述したように、検出回路の損傷のおそれがあること、地絡故障時の故障電流が極めて大きくなること、架空地線を流れる電流に直流成分が重畳する場合があることなどから、検出出力の波形が歪んで地絡故障の検出ができなくなるという問題があった。
【0005】
本発明は、このような観点に基づいてなされたものであり、多大な故障電流による検出回路の損傷の防止を図ることができると共に、地絡時の故障電流が多大になること、また、架空地線を流れる電流に直流成分が重畳することによる故障検出への支障を生じさせることなく、送電側の中性点が直接接地された超高圧送電系統の地絡鉄塔の特定が可能な地絡故障検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明においては、中性点が直接接地された超高圧送電線路の架空地線に送電鉄塔を挟んで夫々取り付けられ、地絡時に前記架空地線に分流する故障電流を検出する第1および第2の検出コイル部と、前記第1および第2の検出コイル部で検出された地絡時の故障電流の位相から地絡故障が発生した送電鉄塔を検出する検出手段とを備え、前記検出手段が、前記第1および第2の検出コイル部の夫々の出力側に酸化亜鉛素子からなるサージアブソーバを並列に挿入して前記第1および第2の検出コイル部の出力を直接入力し、地絡時の故障電流の位相を検出するように構成され、前記サージアブソーバに地絡電流検出時の検出コイルの出力を所定電圧に抑制する機能に加えて、前記第1および第2の検出コイル部の磁気飽和を低減する機能をもたせると共に、前記第1および第2の検出コイル部が、コアとこのコアに巻回されたコイルとの間に前記コアに加えて非磁性の空芯部分を有するように構成され、磁気飽和により前記第1および第2の検出コイル部の出力波形が歪んだ場合に、前記第1および第2の検出コイル部の前記非磁性の空芯部分による出力に基づいて地絡時の故障電流の歪みを改善し、位相検出が可能となるようにした地絡故障検出装置によって、上記目的を達成する。
【0007】
このような構成によれば、中性点が直接接地されているために地絡故障時に多大な故障電流が流れた場合でも、サージアブソーバによって所定電圧に抑えられ、検出回路の損傷等を防止することができる。
【0008】
また、このような構成によれば、酸化亜鉛素子からなるサージアブソーバに第1および第2の検出コイル部のコアの磁気飽和を低減する機能をもたせている。即ち、架空地線を流れる故障電流からこれらの検出コイル部に誘起される電圧がサージアブソーバによって所定電圧に抑えられる。第1および第2の検出コイル部からの出力電圧を上述の所定電圧に維持するために、サージアブソーバには第1および第2の検出コイル部のコアの磁束を打消す方向に電流が多く流れ、これによって、第1および第2の検出コイル部の磁気飽和が低減され、これら検出コイル部の出力波形の歪みの改善を図ることができる。
【0009】
また、上記構成によれば、地絡時の故障電流が多大になること、また、地絡故障用継電器の遮断タイミングによっては故障電流に直流成分が重畳することから、第1および第2の検出コイル部で検出した電流の波形に歪みを生じることとなるが、第1および第2の検出コイル部のコアが磁気飽和しても、コアとコイルとの間の非磁性の空芯部分を磁束が貫くこととなる。そのため、空芯部分は磁気飽和がないため、架空地線を流れる電流が大きくなればなるほど空芯部分から歪みのない出力が増えて第1および第2の検出コイル部の出力に重畳され、出力波形の歪みを改善して位相検出が可能になる。
【0010】
また、本発明において、前記検出手段が、前記第1および第2の検出コイル部のコイルに並列に挿入された2つの前記サージアブソーバを含むサージアブソーバ回路と、前記サージアブソーバ回路に並列に挿入された直列接続の2つの双方向ツェナーダイオードを含む位相検出回路と、前記位相検出回路の出力を全波整流する整流回路とを含むように構成することができる。
【0011】
また、本発明において、前記検出手段が、更に、前記整流回路の全波整流出力を入力し、所定の定電流を与える定電流回路と、前記定電流回路によって定電流充電される充電回路と、前記充電回路の充電電圧が所定値以上になった場合に地絡故障を表す検出出力を与える検出回路とを有するように構成することができる。
【0012】
更に、本発明において、前記第1および第2の検出コイル部の前記コアに磁気ギャップを形成するように構成することができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、中性点が直接接地された超高圧送電系統の地絡鉄塔の検出が可能で、極めて大きな地絡電流による検出回路の損傷を防止することができると共に、故障電流を検出した検出コイル部の出力波形の歪みを改善することができる。
【0014】
また、本発明によれば、定電流充電を行うことにより商用周波数の半サイクル分と同じような電流波形をもつ雷に対して誤動作を防止することができると共に、直流成分により検出コイル部の出力波形が歪んだ場合でも定電流充電を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は本発明による地絡故障検出装置の一実施例を示す図である。
【図2】図2は本発明による地絡故障検出装置の一実施例を示す図で、入力端子aおよびbが図1の同符号の出力端子aおよびbに接続される。
【図3】図3は、送電側の中性点が直接接地された超高圧送電線路の送電鉄塔に取り付けられた本発明による地絡故障検出装置を示す図で、地絡故障を生じた超高圧送電線路の地絡鉄塔を示している。
【図4】図4は、地絡故障が発生した場合における、図3の地絡鉄塔に隣接した健全鉄塔の送電鉄塔の状態を示す図である。
【図5】図5は第1および第2の検出コイル部の構成を示す図である。
【図6】図6は第1(第2)の検出コイル部とコアの磁気飽和との関係を示す実験結果で、磁気飽和状態の第1(第2)の検出コイル部の出力を示している。
【図7】図7は第1(第2)の検出コイル部とコアの磁気飽和との関係を示す実験結果で、サージアブソーバ回路および位相検出回路を通してピーク電圧が制限された第1(第2)の検出コイル部の出力を示している。
【図8】図8は第1(第2)の検出コイル部とコアの磁気飽和との関係を示す実験結果で、第1(第2)の検出コイル部の出力にコアの空芯部分による出力が重畳した場合を示している。
【図9】図9は第1(第2)の検出コイル部とコアの磁気飽和との関係を示す実験結果で、第1(第2)の検出コイル部の出力にコアの空芯部分による出力が更に重畳した場合を示している。
【図10】図10は架空地線に流れる電流に直流成分が重畳した場合の地絡故障検出装置の動作波形図の一例を示す実験結果である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明を実施するための形態として、以下に本発明の一実施例を説明する。
【実施例1】
【0017】
図1および図2は本発明による地絡故障検出装置の一実施例を示す図で、図1の出力端子aおよびbは図2の同符号の入力端子aおよびbに接続される。
【0018】
地絡故障検出装置は、図1および図2に示されるように、第1の検出コイル部1、第2の検出コイル部2、検出手段3および表示部4を備えている。そして、このような地絡故障検出装置は、次に述べるように超高圧送電線路の鉄塔に取り付けられる。
【0019】
図3は、送電側の中性点が直接接地された超高圧送電線路の鉄塔に取り付けられた本発明による地絡故障検出装置を示す図で、超高圧送電系統における送電鉄塔5に地絡故障が発生した場合を示している。即ち、図3では、送電鉄塔5が地絡故障を発生した故障鉄塔である。
【0020】
送電鉄塔5は、送電電圧が187kV以上の超高圧送電線路を形成する送電鉄塔のひとつを示す。送電電圧が154kV以下の抵抗接地系統の送電線路では、送電側の中性点が抵抗を介して接地されており、地絡時の故障電流が抵抗で調整されるようになっている。これに対し、超高圧送電線路は中性点が直接接地されているため、抵抗接地系統より大きな数十kA以上の故障電流が架空地線6に流れることとなる。
【0021】
図3において、第1および第2の検出コイル部1、2は、送電鉄塔5を挟む架空地線6の若番側と老番側に夫々取り付けられている。この送電鉄塔5に落雷や鳥獣などによって地絡故障が発生すると、大地に向かって流れる故障電流Iaと架空地線6に分流する故障電流Ib1、Ib2が流れる。架空地線6に分流する故障電流Ib1、Ib2は鉄塔5を中心として互いに逆方向に流れ、第1の検出コイル部1に架空地線6の一方の故障電流Ib1によって電流Ic1が誘起され、第2の検出コイル部2に他方の故障電流Ib2によって電流Ic1と同位相の電流Ic2が誘起される。検出手段3では、誘起された電流Ic1、Ic2が同位相であることから地絡故障が発生した送電鉄塔5が判別され、表示部4にその旨表示される。
【0022】
図4は、地絡故障が発生した場合の、図3の地絡鉄塔に隣接した健全鉄塔の送電鉄塔の状態を示す図である。即ち、図4では、送電鉄塔5が地絡故障を発生していない健全鉄塔である。他の送電鉄塔で地絡故障が発生した場合には、送電鉄塔5を挟んで架空地線6に地絡故障が発生した送電鉄塔から故障電流Ib1、Ib2が同一方向に流れる。第1の検出コイル部1には一方の故障電流Ib1によって電流Ic1が誘起され、第2の検出コイル部2には他方の故障電流Ib2によって電流Ic1と逆位相の電流Ic2が誘起される。検出手段3では、誘起された電流Ic1、Ic2が逆位相であることから相殺され、表示部4へ表示出力が与えられることはない。
【0023】
図5は第1および第2の検出コイル部の構成を示す図である。
【0024】
第1および第2の検出コイル部1、2は、本例ではフェライトで形成されたI字状コア7およびU字状コア8を有している。第1および第2の検出コイル部1、2は、U字状コア8を上下動させるか又はU字状コア8の一側部8a又は8bを支点として回動させることなどにより、架空地線6と着脱自在に構成されている。
【0025】
I字状コア7は、コイル9との間の非磁性のボビン10、I字状コア7の外周囲を囲う非磁性のゴム部材11、ゴム部材11とボビン10との間およびゴム部材11とI字状コア7との間の空間部12などによって構成された非磁性の空芯部分を有している。このような非磁性の空芯部分は、後述するように、I字状コア7およびU字状コア8が磁気飽和して出力波形に歪みが生じても、このような非磁性の空芯部分は磁気飽和することなく、故障電流の増大に従って空芯部分から歪みのない出力が与えられて第1および第2の検出コイル部1、2の出力に重畳され、検出コイル部1、2の出力波形の歪みが改善される。
【0026】
更に、第1および第2の検出コイル部1、2は、I字状コア7とU字状コア8との間に本例では2つのギャップ13を有し、I字状コア7およびU字状コア8の磁気飽和が低減されるように構成されている。本例では、所望の厚さの非磁性部材、例えば真鍮の板をI字状コア7とU字状コア8との間に挿入することによって、ギャップ13の幅を調節できるようになっている。
【0027】
図1および図2に戻り、検出手段3は、サージアブソーバ回路14、位相検出回路15、整流回路16、定電流回路17、充電回路18および検出回路19を有している。
【0028】
サージアブソーバ回路14は、酸化亜鉛素子からなる2つのサージアブソーバ140、142を有している。一方のサージアブソーバ140は、第1の検出コイル部1の出力側に並列に挿入されて、第1の検出コイル部1の出力を他の素子を介在させることなく直接入力するように構成されている。同様に、他方のサージアブソーバ142は、第2の検出コイル部2の出力側に並列に挿入されて、第2の検出コイル部2の出力を他の素子を介在させることなく直接入力するように構成されている。更に、一方のサージアブソーバ140は、直列接続の双方向ツェナーダイオード150、151を有する位相検出回路15の一方の双方向ツェナーダイオード150に保護抵抗141を介して並列に接続され、他方のサージアブソーバ142は、他方の双方向ツェナーダイオード151に保護抵抗143を介して並列に接続されている。
【0029】
このようなサージアブソーバ回路14により、中性点が直接接地された系統において地絡故障時に多大な故障電流が流れた場合でも、検出コイル部1、2からの出力は、サージアブソーバ140、142によって所定電圧に抑えられ、検出のための回路の損傷等を防止することができる。
【0030】
本発明では、酸化亜鉛素子からなるサージアブソーバ140、142に第1および第2の検出コイル部1、2からの地絡時の出力を抑制する機能に加えて、第1および第2の検出コイル部1、2の磁気飽和を低減する機能をもたせている。即ち、架空地線6を流れる故障電流から第1および第2の検出コイル部1、2に誘起される電圧がサージアブソーバ140、142によって所定電圧に抑えられ、第1および第2の検出コイル部1、2からの検出出力をこの所定電圧に抑えるために、サージアブソーバ140、142には第1および第2の検出コイル部1、2のコア7、8の磁束を打消す方向に電流が多く流れ、これによって、第1および第2の検出コイル部1、2のコア7、8の磁気飽和が低減され、第1および第2の検出コイル部1、2の出力波形の歪みの防止を図ることができる。
【0031】
位相検出回路15の出力は整流回路16に与えられ、定格電流以上の電流の流入を防止する保護抵抗160を介してダイオード161〜164によって全波整流された後、図2の定電流回路17に与えられる。
【0032】
定電流回路17は、整流回路16の整流出力を平滑するコンデンサ170、定電圧レギュレータ171、後段回路への電流値を決めるための抵抗172、およびレギュレータ171の発振に伴うノイズを防止するコンデンサ173を有し、所定の定電流を充電回路18に与える。このように定電流充電が行われることによって、継続時間がある値以下の電流に対しては動作しないように構成されており、商用周波数の半サイクル分と同じような電流波形をもつ雷に対して誤動作を防止することができる。これと共に、整流回路16からの整流出力を平滑コンデンサ170で平滑することで、整流出力の脈動を抑えるように構成されており、直流成分の重畳によって第1および第2の検出コイル部1、2の出力波形が歪んだ場合でも所定の定電流で充電することができる。
【0033】
充電回路18は、充電用コンデンサ180とこれに並列挿入された抵抗181とを有し、充電用コンデンサ180が抵抗181との時定数に従って所定の定電流で充電される。検出回路19は、抵抗190とツェナーダイオード191とトリガ抵抗192との直列接続と、トリガ抵抗192に並列挿入されたノイズ防止用コンデンサ193と、サイリスタ194を有している。トリガ抵抗192はサイリスタ194のゲートにゲート電圧を与えるものであり、ノイズ防止用コンデンサ193はノイズによるの誤動作を防止するためのものである。このような構成の検出回路19は、充電回路18の充電電圧を監視し、充電電圧が所定値以上になることでサイリスタ194をオンさせ、表示部4に地絡故障を表す出力を与える。
【0034】
図6、図7、図8および図9は第1(第2)の検出コイル部1(2)とコア7、8の磁気飽和との関係を示す実験結果で、図6は磁気飽和状態の第1(第2)の検出コイル部1(2)の出力を示し、図7はサージアブソーバ回路14および位相検出回路15を通してピーク電圧が制限された第1(第2)の検出コイル部1(2)の出力を示し、図8は第1(第2)の検出コイル部1(2)の出力にI字状コア7の空芯部分による出力が重畳した場合を示し、図9は第1(第2)の検出コイル部1(2)の出力にI字状コア7の前述した空芯部分による出力が更に重畳した場合を示している。
【0035】
送電電圧が187kV以上の超高圧送電線路は、送電側の中性点が直接接地されているので、地絡故障が発生した場合、数十kA以上の極めて大きな故障電流が流れる。酸化亜鉛素子からなるサージアブソーバ140、142により磁気飽和の低減が図られるが、架空地線6を流れる故障電流が大きく、第1および第2の検出コイル部1、2のI字状コア7およびU字状コア8が図6に示されるように磁気飽和状態になり、第1および第2の検出コイル部1、2の出力波形が歪むこととなる。
【0036】
サージアブソーバ140、142によるコア7、8の磁気飽和の低減は、次のように行われる。前述したように、架空地線6を流れる故障電流から第1および第2の検出コイル部1、2に誘起される電圧がサージアブソーバ140、142によって所定電圧に抑えられ、第1および第2の検出コイル部1、2からの検出出力を上述の所定電圧に維持するために、サージアブソーバ140、142には第1および第2の検出コイル部1、2のコア7、8の磁束を打消す方向の電流が多くなり、これによって、第1および第2の検出コイル部1、2のコア7、8の磁気飽和が低減され、図7に示されるように、第1および第2の検出コイル部1、2の出力波形が微分波のような歪み波形から方形波に近づいた波形になり、サージアブソーバ140、142が、第1および第2の検出コイル部1、2の出力波形の歪みを低減させる方向に作用することがわかる。
【0037】
架空地線6を流れる故障電流が更に増大して第1および第2の検出コイル部1、2のコア7、8が磁気飽和しても、I字状コア7とコイル9との間の非磁性の空芯部分、即ち、コイル9との間の非磁性のボビン10、I字状コア7の外周囲を囲う非磁性のゴム部材11、ゴム部材11とボビン10との間およびゴム部材11とI字状コア7との間の空間部12などによって構成された非磁性の空芯部分を磁束が貫き、空芯部分は磁気飽和しないので、図8および図9に示されるように、架空地線6を流れる故障電流が大きくなればなるほど空芯部分から歪みのない出力が増えて第1および第2の検出コイル部1、2の出力に重畳され、検出コイル部1、2の出力波形の歪みを改善して位相検出が可能になる。これにより本発明では、多大な故障電流が検出されて第1および第2の検出コイル部1、2のコア7、8の磁気飽和によって第1および第2の検出コイル部1、2の出力波形が歪んでも、故障電流の位相検出を行うことができる。
【0038】
図10は架空地線6に流れる電流に直流成分が重畳した場合の地絡故障検出装置の動作波形図の一例を示す実験結果であり、(a)は直流成分が重畳した架空地線6を流れる電流を示し、(b)は直流成分が重畳した架空地線6の電流を検出した第1(第2)の検出コイル部1、2の出力波形を示し、(c)は定電流回路17の平滑コンデンサ170の電圧波形を示し、(d)は充電回路18の充電用コンデンサ181の電圧波形を示している。
【0039】
架空地線6を流れる電流が大きくなると、図10の(b)に示されるように、第1および第2の検出コイル部1、2のコア7、8が磁気飽和して第1および第2の検出コイル部1、2の出力波形が歪むこととなる。また、中性点が直接接地の超高圧送電線路では、故障電流の遮断タイミングによっては、故障電流に送電線路と大地との間のインダクタンスによる直流成分が重畳することがある。このとき、架空地線6に流れる故障電流は、図10の(a)に示されるように、0点を中心に変化しない電流波形となるため、コア7、8の磁気飽和によって検出コイル部1、2の出力波形は更に歪むことになる。しかしながら、コア7、8が磁気飽和しても、I字状コア7とコイル9との間の非磁性の空芯部分、即ち、コイル9との間の非磁性のボビン10、I字状コア7の外周囲を囲う非磁性のゴム部材11、ゴム部材11とボビン10との間およびゴム部材11とI字状コア7との間の空間部12によって構成された非磁性の空芯部分を磁束が貫くこととなる。これらの空芯部分は磁気飽和しないので、架空地線6を流れる故障電流が大きくなればなるほど空芯部分から歪みのない出力が増えて第1および第2の検出コイル部1、2の出力に重畳され、故障電流の波形の歪みを改善して位相検出が可能になる。これにより、本発明によれば、直流成分が重畳して第1および第2の検出コイル部1、2のコア7、8の磁気飽和によって第1および第2の検出コイル部1、2の出力波形が歪んでも、位相検出を行うことができる。なお、図10の(d)の時点Sは検出手段3の動作点である。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、送電側の中性点が直接接地されている超高圧送電線路における送電鉄塔の地絡故障を検出する検出装置として有効に利用することができ、地絡故障時の多大な故障電流による回路の損傷を防止し、また、多大な故障電流の検出に伴う第1および第2の検出コイル部のコアの磁気飽和等に拘わらず故障電流の位相検出を行うことができ、超高圧送電線路の送電鉄塔の地絡故障を検出する検出装置として利用することができる。
【符号の説明】
【0041】
1 第1の検出コイル部
2 第2の検出コイル部
3 検出手段
5 送電鉄塔
6 架空地線
7 I字状コア
8 U字状コア
9 コイル
10 ボビン
11 ゴム部材
12 空間部
13 ギャップ
14 サージアブソーバ回路
15 位相検出回路
16 整流回路
17 定電流回路
18 充電回路
19 検出回路
140、142 サージアブソーバ
150、151 双方向ツェナーダイオード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中性点が直接接地された超高圧送電線路の架空地線に送電鉄塔を挟んで夫々取り付けられ、地絡時に前記架空地線に分流する故障電流を検出する第1および第2の検出コイル部と、
前記第1および第2の検出コイル部で検出された地絡時の故障電流の位相から地絡故障が発生した送電鉄塔を検出する検出手段とを備え、
前記検出手段が、前記第1および第2の検出コイル部の夫々の出力側に酸化亜鉛素子からなるサージアブソーバを並列に挿入して前記第1および第2の検出コイル部の出力を直接入力し、地絡時の故障電流の位相を検出するように構成され、前記サージアブソーバに前記検出コイル部からの出力を抑制する機能に加えて、前記第1および第2の検出コイル部の磁気飽和を低減する機能をもたせると共に、
前記第1および第2の検出コイル部が、コアとこのコアに巻回されたコイルとの間に非磁性の空芯部分を有するように構成され、
磁気飽和により前記第1および第2の検出コイル部の出力波形が歪んだ場合に、前記第1および第2の検出コイル部の前記非磁性の空芯部分による出力に基づいて地絡時の故障電流の歪みを改善し、位相検出が可能となるようにしたことを特徴とする地絡故障検出装置。
【請求項2】
前記検出手段が、
前記第1および第2の検出コイル部のコイルに並列に挿入された2つの前記サージアブソーバを含むサージアブソーバ回路と、
前記サージアブソーバ回路に並列に挿入された直列接続の2つの双方向ツェナーダイオードを含む位相検出回路と、
前記位相検出回路の出力を全波整流する整流回路とを含むことを特徴とする請求項1に記載の地絡故障検出装置。
【請求項3】
前記検出手段が、更に、
前記整流回路の全波整流出力を入力し、所定の定電流を与える定電流回路と、
前記定電流回路によって定電流充電される充電回路と、
前記充電回路の充電電圧が所定値以上になった場合に地絡故障を表す検出出力を与える検出回路とを有することを特徴とする請求項2に記載の地絡故障検出装置。
【請求項4】
前記第1および第2の検出コイル部の前記コアに所定幅の磁気ギャップが形成されていることを特徴とする請求項1に記載の地絡故障検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−96961(P2013−96961A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−242944(P2011−242944)
【出願日】平成23年11月5日(2011.11.5)
【出願人】(000213297)中部電力株式会社 (811)
【出願人】(000232922)日油技研工業株式会社 (67)
【Fターム(参考)】