説明

堆肥化調整剤及び堆肥化調整方法

【課題】堆肥原料を発酵処理することにより堆肥化するための処理方法において、堆肥原料の嵩の増加を防止しながら堆肥原料そのものをゲル化又は固化させ、通気性を良好なものに改善して堆肥化を促進させることができる堆肥化調整剤及び堆肥化調整方法を提供する。
【解決手段】堆肥化調整剤において、好気性微生物及び天然由来の増粘性多糖類を含有することを特徴とする。増粘性多糖類は、例えばペクチン、カラギーナン、グァーガム、キサンタンガム、及びアラビアガム等が用いられる。好気性微生物は、例えば好熱菌が用いられる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、堆肥化調整剤及び堆肥化調整方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、天然由来の増粘性多糖類の配合により、堆肥原料の嵩の増加を防止しながら堆肥原料そのものをゲル化又は固化させ、通気性を良好なものに改善して堆肥化を促進させる堆肥化調整剤及び堆肥化調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、生物起源由来の有機物資源からなる資材として、バイオマス、例えば家畜の排泄物、下水余剰汚泥、及び食品廃棄物が知られている。下水余剰汚泥とは、下水として例えば家庭から排出される、窒素を含む有機性廃棄物を生物処理することにより得られる汚泥のことである。バイオマスは植物の生長に必要な窒素、リン、カリウム等の元素を含有することから、特に堆肥として再利用を図ることができる点で注目されている。しかしながら、多くの場合、バイオマスをそのまま堆肥として利用することはできず、該バイオマスにいくつかの処理を施す必要がある。例えば、家畜の排泄物、下水余剰汚泥等の廃棄物をそのまま廃棄したり、例えば堆肥として再利用したりすることはできず、廃棄物からのアンモニア等の臭気成分の除去、廃棄物中における水分含有量の低減等の処理が必要となる。また、例えば家畜の排泄物等の有機性廃棄物を単に放置することにより、微生物による分解及び発酵処理を有機性廃棄物に施す方法では、脂肪酸、アミン等の悪臭成分がさらに発生することから、有機性廃棄物の悪臭を低減させるための処理が必要である。放置等による微生物の分解及び発酵処理は該処理に長期間を要することから、処理時間の短縮を図ることも必要である。
【0003】
一般に、高含水性廃棄物では、該高含水性廃棄物の運搬性及び通気性を向上させるために、バーク、オガ屑、もみ殻等の天然の吸水性繊維質材料を高含水性廃棄物に配合して該高含水性廃棄物の水分含有量を低下させた後に微生物により堆肥化する方法が知られている。しかしながら、オガ屑等の天然の吸水性繊維質材料を用いて水分を吸水させる方法は、水分を十分に吸収させるために高含水性廃棄物の数倍量の吸水性繊維質材料を配合する必要ある。そのため、高含水性廃棄物全体の嵩の増加を招いて堆肥化に多大な時間を要したり、製造した堆肥の十分な広さの保存又は保管場所が必要であるといった問題があった。そこで従来、有機性の高含水性廃棄物を発酵処理することにより堆肥化する生物学的処理法として、特許文献1〜3に記載されるような処理方法が知られている。
【0004】
特許文献1では、高い吸水倍率を有する高吸水性樹脂であるポリアクリル酸ソーダ架橋物が家畜の排泄物に混合されて堆肥化処理が行われている。特許文献2は、極めて高い吸水倍率を有する吸水性ポリマーであるポリ−γ−グルタミン酸を堆肥化助剤として用いて堆肥化を促進する方法を開示する。特許文献3は、ゲル化材又は固化材として酸化処理された多糖類の架橋物、例えば酸化処理されたセルロースの架橋物を用いて高含水性原料の堆肥化を促進する方法を開示する。特許文献1〜3に開示される堆肥原料の処理方法は、吸水性ポリマーを使用することにより、例えばオガ屑が用いられた場合に生じる堆肥原料の嵩の増加を抑制しながら堆肥原料の通気性を向上させて堆肥化処理を行うことができる。
【特許文献1】特開平8−208362号公報
【特許文献2】特開2001−261475号公報
【特許文献3】特開2003−342093号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、特許文献1に開示される処理方法には、家畜の排泄物に配合されるポリアクリル酸ソーダ架橋物が微生物及び発酵熱によってほとんど分解されないことから、堆肥中に不純物として残留するという問題があった。特許文献2に開示される処理方法では、微生物から産出されるプロテアーゼによってポリ−γ−グルタミン酸が容易に分解される。そのため、特許文献2に開示される処理方法には、発酵処理の途中において堆肥原料中の水分量が過剰に多くなる場合があり、堆肥原料の水分調整が難しいという問題があった。特許文献3に開示される処理方法では、ゲル化材として配合されるセルロースが堆肥化処理後に最終的に生分解されることから堆肥中に不純物として残留するという問題は生じない。しかしながら、セルロースは主として中温以下の温度で活動するセルロース分解菌によって分解されることから、高温処理中において十分に分解されず堆肥化処理後に徐々に生分解される。また、多糖類が酸化処理及び架橋処理されているため、分解菌によって分解されにくい。したがって、特許文献3に開示される処理方法には、堆肥化処理後に多糖類が最終的に生分解されるまでに時間を要するという問題があった。
【0006】
本発明は、本発明者らの鋭意研究の結果、天然由来の増粘性多糖類の使用により、堆肥原料の嵩の増加を防止しながら堆肥原料そのものをゲル化又は固化させ、通気性を良好なものに改善して堆肥化を促進させることを見出したことによりなされたものである。本発明の目的は、堆肥原料を発酵処理することにより堆肥化するための処理方法において、堆肥原料の嵩の増加を防止しながら堆肥原料そのものをゲル化又は固化させ、通気性を良好なものに改善して堆肥化を促進させることができる堆肥化調整剤及び堆肥化調整方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために請求項1に記載の発明の堆肥化調整剤は、好気性微生物及び天然由来の増粘性多糖類を含有することを特徴とする。
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の堆肥化調整剤において、前記増粘性多糖類は、生分解性であることを特徴とする。
【0008】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の堆肥化調整剤において、前記増粘性多糖類は、ペクチン、カラギーナン、グァーガム、キサンタンガム、アラビアガム、ローカストビーンガム、タラガム、ガティガム、及びカードランから選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする。
【0009】
請求項4に記載の発明は、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の堆肥化調整剤において、前記好気性微生物は、好熱菌であることを特徴する。
請求項5に記載の発明は、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の堆肥化調整剤において、吸水性繊維質材料を更に含有することを特徴とする。
【0010】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の堆肥化調整剤において、前記吸水性繊維質材料は、植物性有機質材料であることを特徴とする。
請求項7に記載の発明は、請求項5又は請求項6に記載の堆肥化調整剤において、前記吸水性繊維質材料は、パルプ、コットンリタ、バーク、オガ屑、もみ殻、稲わら、コーン粕、バガス、大豆粕、フスマ、菜種粕、コーヒー粕、茶粕、米糠、及びおからから選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする。
【0011】
請求項8に記載の発明は、請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の堆肥化調整剤において、多糖類分解酵素を更に含有することを特徴とする。
請求項9に記載の発明は、請求項8に記載の堆肥化調整剤において、前記多糖類分解酵素は、少なくとも塩基性領域で活性を有することを特徴とする。
【0012】
請求項10に記載の発明は、請求項8又は請求項9に記載の堆肥化調整剤において、前記多糖類分解酵素は、セルロース分解酵素及びヘミセルロース分解酵素から選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする。
【0013】
請求項11に記載の発明の堆肥化調整方法は、堆肥原料に、好気性微生物及び天然由来の増粘性多糖類を含有する堆肥化調整剤を配合する工程を備えることを特徴とする。
請求項12に記載の発明は、請求項11に記載の堆肥化調整方法において、前記増粘性多糖類は、生分解性であることを特徴とする。
【0014】
請求項13に記載の発明は、請求項11又は請求項12に記載の堆肥化調整方法において、前記増粘性多糖類は、ペクチン、カラギーナン、グァーガム、キサンタンガム、アラビアガム、ローカストビーンガム、タラガム、ガティガム、及びカードランから選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする。
【0015】
請求項14に記載の発明は、請求項11から請求項13のいずれか一項に記載の堆肥化調整方法において、前記好気性微生物は、好熱菌であることを特徴する。
請求項15に記載の発明は、請求項11から請求項14のいずれか一項に記載の堆肥化調整方法において、吸水性繊維質材料を更に含有することを特徴とする。
【0016】
請求項16に記載の発明は、請求項15に記載の堆肥化調整方法において、前記吸水性繊維質材料は、植物性であることを特徴とする。
請求項17に記載の発明は、請求項15又は請求項16に記載の堆肥化調整方法において、前記吸水性繊維質材料は、パルプ、コットンリタ、バーク、オガ屑、もみ殻、稲わら、コーン粕、バガス、大豆粕、フスマ、菜種粕、コーヒー粕、茶粕、米糠、及びおからから選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする。
【0017】
請求項18に記載の発明は、請求項11から請求項17のいずれか一項に記載の堆肥化調整方法において、多糖類分解酵素を更に含有することを特徴とする。
請求項19に記載の発明は、請求項18に記載の堆肥化調整方法において、前記多糖類分解酵素は、少なくとも塩基性領域で活性を有することを特徴とする。
【0018】
請求項20に記載の発明は、請求項18又は請求項19に記載の堆肥化調整方法において、前記多糖類分解酵素は、セルロース分解酵素及びヘミセルロース分解酵素から選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする。
【0019】
請求項21に記載の発明は、請求項11から請求項20のいずれか一項に記載の堆肥化調整方法において、堆肥原料が含水性バイオマスであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、堆肥原料を発酵処理することにより堆肥化するための処理方法において、堆肥原料の嵩の増加を防止しながら堆肥原料そのものをゲル化又は固化させ、通気性を良好なものに改善して堆肥化を促進させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明を、堆肥化調整剤を用いた堆肥化調整方法に具体化した実施形態について詳細に説明する。
本実施形態に係る堆肥化調整方法は、堆肥原料に好気性微生物及び天然由来の増粘性多糖類を含有する堆肥化調整剤を配合して堆肥原料を発酵処理前に調整する方法である。堆肥化調整剤には、好ましくは多糖類分解酵素及び吸水性繊維質材料を更に含有してもよい。堆肥化調整剤が配合され、堆肥化調整された後の堆肥原料は、好気性微生物による高温分解処理によって最終的に堆肥化処理される。
【0022】
本実施形態において使用される堆肥原料の具体例は含水性バイオマスであれば特に限定されず、該具体例として、例えば牛、豚、羊、馬、鶏等の家畜の排泄物(糞尿)、下水処理汚泥、及び生ごみ等の食品廃棄物が挙げられる。本実施形態においては、従来オガ屑等の天然の吸水性繊維質材料を大量に用いて水分を十分に吸水させる必要が生じる高含水性の堆肥原料であっても、本発明を好適に用いることができる。
【0023】
堆肥化調整剤に含有される増粘性多糖類は、堆肥原料の粘度を調整して、堆肥原料の通気性を向上させる。増粘性多糖類は、天然(物)由来の天然成分である増粘性多糖類が使用され、好ましくは、生分解性の増粘性多糖類が用いられる。生分解性の増粘性多糖類は、堆肥化処理後に残留しても最終的に生分解される。多糖類として、例えばペクチン、カラギーナン、グァーガム、キサンタンガム、アラビアガム、ローカストビーンガム、タラガム、ガティガム、及びカードランが挙げられる。これらの具体例の中でも、増粘効果に優れることから、好ましくは、増粘性多糖類は、カラギーナン、グァーガム、キサンタンガム、及びローカストビーンガムから選ばれる少なくとも一種である。これらの増粘性多糖類は単独で堆肥化調整剤に含有されてもよいし、二種以上が組み合わされて堆肥化調整剤に含有されてもよい。
【0024】
堆肥化調整剤に含有される好気性微生物は、堆肥原料を発酵工程に積極的に誘導し、堆肥原料を最終的に堆肥化する。好気性微生物は、例えば好熱性の好気性菌及び中温性の好気性菌が挙げられる。好ましくは、好熱性の好気性菌が使用される。好気性微生物は、好ましくは好気性微生物が含有される戻し堆肥及び種菌資材が用いられ、その戻し堆肥及び種菌資材が堆肥化調整剤に配合されてもよい。好熱性の好気性菌及び中温性の好気性菌として、自然界に存在する公知の細菌が使用される。本実施形態に係る中温性の好気性菌、即ち中温菌として、堆肥原料を常温(20℃)から中温域(45〜55℃の温域)へ導くために、20℃〜55℃の範囲で少なくとも増殖可能な菌が好ましい。本実施形態に係る好熱性の好気性菌、即ち好熱菌として、堆肥原料を中温域から高温域(約60〜95℃の温域)へ導くために、約55℃以上の温度で少なくとも増殖可能な菌が好ましい。中温菌及び好熱菌として、例えばバチルス.アルヴェイ(B. alvei)、バチルス.アミロリチカス(B. amylolyticus)、バチルス.アゾトフィクサンス(B. azotofixans)、バチルス.サーキュランス(B. circulans)、バチルス.グルカノリチカス(B. glucanolyticus)、バチルス.ラーベー(B. larvae)、バチルス.ロータス(B. lautus)、バチルス.レンチモーバス(B. lentimorbus)、バチルス.マセランス(B. macerans)、バチルス.マッククオリエンシス(B. macquariensis)、バチルス.パバリ(B. pabuli)、バチルス.ポリミキサ(B. polymyxa)、バチルス.ポピリエー(B. popilliae)、バチルス.シクロサッカロリチカス(B. psychrosaccharolyticus)、バチルス.パルヴィフェイシェンス(B. pulvifaciens)、バチルス.チアミノリチカス(B. thiaminolyticus)、バチルス.ヴァリダス(B. validus)、バチルス.アルカロフィラス(B. alcalophilus)、バチルス.アミロリカフェイシャンス(B. amyloliquefaciens)、バチルス.アトロフェーアス(B. atrophaeus)、バチルス.カロテーラム(B. carotarum)、バチルス.ファーモス(B. firmus)、バチルス.フレクサス(B. flexus)、バチルス.ラテロスポラス(B. laterosporus)、バチルス.レンタス(B. lentus)、バチルス.リケニフォミス(B. licheniformis)、バチルス.メガテリウム(B. megaterium)、バチルス.ミコイデス(B. mycoides)、バチルス.ニアシニ(B. niacini)、バチルス.パントテニチカス(B. pantothenticus)、バチルス.パミラス(B. pumilus)、バチルス.シンプレックス(B. simplex)、バチルス.サブチリス(B. subtilis)、バチルス.サリンジェンシス(B. thuringiensis)、バチルス.スフェリカス(B. sphaericus)、ジオバチルス.サーモデニトリフィカンス(Geobacillus thermodenitrificans)、ジオバチルス.ステアロサーモフィルス(Geobacillus stearothermophilus)、ジオバチルス.コーストフィルス(Geobacillus kaustophilus)、ジオバチルス.サブテルラネンス (Geobacillus subterranens、ジオバチルス.サーモルーボランス(Geobacillus thermoleovorans)、及びジオバチルス.カルドキシルオシリチカス(Geobacillus caldoxylosilyticas)が挙げられる。本実施形態において、戻し堆肥として市販の堆肥が使用してもよいし、本実施形態において堆肥化処理が完了した堆肥が戻し堆肥として使用されてもよい。市販品の種菌資材として、例えばメニコン社製の商品名であるサーモマスターを使用することができる。
【0025】
堆肥原料には、微生物の発酵及び増殖を促進するために好ましくは吸水性繊維質材料が含有されている。吸水性繊維質材料として、好ましくは、入手が容易であり、且つ堆肥化処理後に生分解される天然の植物性有機質材料が使用される。吸水性繊維質材料として、有機質廃棄物、例えばパルプ、コットンリタ、バーク、オガ屑、もみ殻、稲わら、コーン粕、バガス、大豆粕、フスマ、菜種粕、コーヒー粕、茶粕、米糠、及びおからが挙げられる。これらの有機質材料を餌として中温菌の増殖が促進される。これらの有機質材料は単独で堆肥原料に配合されてよいし、二種以上が組み合わされて堆肥原料に配合されてもよい。これらの吸水性有機質材料は吸水作用をより高く発揮させるために含水率が低い吸水性有機質材料又は乾燥処理した吸水性有機質材料がより好ましい。
【0026】
多糖類分解酵素は、増粘性多糖類を最終的に堆肥中において分解して消失させたり、堆肥原料中の多糖類を微生物により生分解され易くしたりする。多糖類分解酵素として、例えば、セルロース又はその誘導体を加水分解するセルラーゼ(セルロース分解酵素)、ヘミセルロース又はその誘導体を加水分解するヘミセルラーゼ(ヘミセルロース分解酵素)、及びペクチン又はその誘導体を加水分解するペクチナーゼ(ペクチン分解酵素)が挙げられる。多糖類分解酵素として、堆肥化調整剤に含有される増粘性多糖類が分解可能な酵素が選択されて適用される。堆肥原料は通常、セルロース若しくはその誘導体、又はヘミセルロース若しくはその誘導体を含有している。そのため、好ましくは、多糖類分解酵素は、セルラーゼ及びヘミセルラーゼから選ばれる少なくとも一種である。この場合、多糖類分解酵素は、堆肥原料中の例えばセルロースを分解することにより、堆肥原料の堆肥化処理を促進することができる。
【0027】
多糖類分解酵素として、糖鎖の末端から特定数の糖単位を切り離すエキソ型の分解酵素、及び切断様式がランダムであるエンド型の分解酵素のいずれが使用されてもよい。エキソ型の分解酵素として、例えばセロビオヒドロラーゼが挙げられる。エンド型の分解酵素として、例えばエンドグルカナーゼが挙げられる。エキソ型の分解酵素及びエンド型の分解酵素のうち、下記の理由によりエキソ型の分解酵素が好ましい。即ち、エキソ型の分解酵素では、堆肥化中において増粘性多糖類の過剰な分解を抑制して堆肥処理中における堆肥原料中の水分量が過剰に多くなることを防止する効果が高い。更に、エキソ型の分解酵素は、堆肥化処理中及び堆肥化処理後に、増粘性多糖類を速やかに分解したり微生物による分解を促進したりすることができる。微生物による堆肥化処理は通常、堆肥原料中のアンモニア等の塩基性物質の存在により塩基性領域で行われる。そのため、好ましくは、少なくとも塩基性領域において活性を有する分解酵素が多糖類分解酵素として使用される。
【0028】
堆肥化調整剤の増粘性多糖類、吸水性繊維質材料及び多糖類分解酵素の含有量は、例えばそれらの化合物の種類、酵素の力価、並びに堆肥原料の成分及び水分の含有量により適宜に設定される。
【0029】
本発明に係る堆肥化調整時における堆肥原料中の水分量は特に限定されないが、好ましくは40〜95質量%であり、より好ましくは60〜90質量%である。水分量が40質量%以下の場合、微生物、例えば中温菌が十分に増殖しないおそれがある。堆肥原料中の水分量が高い場合、即ち高含水性堆肥原料の場合であっても、増粘性多糖類の配合によって堆肥原料をゲル化又は固化させることができる。それによって高含水性堆肥原料の通気性を高め、微生物の好気的代謝を維持又は向上させることができる。
【0030】
堆肥原料には、前記各成分以外にも、堆肥原料の通気性を確保するために、例えば上記以外の有機質廃棄物又は多孔質鉱物が配合されてもよい。有機質廃棄物として、例えばそば殻が挙げられる。多孔質鉱物として、例えばパーライトが挙げられる。
【0031】
次に、上記のように構成された本実施形態の堆肥化調整方法を用いて堆肥原料を調整し、さらに堆肥化処理する方法の作用を説明する。堆肥化原料として例えば家畜の排泄物が使用され、家畜の排泄物に天然由来の増粘性多糖類として例えばグァーガム及び吸水性繊維質材料として例えばオガ屑が配合されるとともに多糖類分解酵素として例えばエキソ型のセルラーゼが配合される場合、家畜の排泄物は以下のような反応によって分解される。まず、家畜の排泄物にグァーガム及びオガ屑が配合された際、家畜の排泄物中において過剰に含有される水分がグァーガム及びオガ屑に捕捉され、堆肥原料はグァーガムによってゲル化又は固化される。その結果、堆肥原料中の通気性が確保される。一次分解として、まず家畜の排泄物中の多糖類としての例えばセルロースがセルラーゼ等の分解酵素により低分子化されて糖類が遊離する。それに伴い、低分子化されたセルロース、例えばセロオリゴ糖又はグルコースを餌とする微生物が増殖する。微生物の増殖に伴い、堆肥原料中の温度は約2〜3日で最高温度(中温域〜高温域(50〜85℃))へ上昇する。
【0032】
次に、例えば撹拌又はブロアーによる空気混入作業により、堆肥原料に空気を積極的に混合させて好気的発酵を誘導する。好ましくは、空気混入作業は処理完了まで連続的に繰り返される。高温域での処理により、例えば水分含有量の減少、有機物の低分子化、アミン等の臭気化合物の分解、嫌気性発酵に起因するメタンガス等の発生の抑制、及び高分子繊維、タンパク質等の低分子化が行われる。また、高温処理によって、家畜の排泄物由来の植物の種子及び病原性細菌が死滅する。病原性細菌として、例えば大腸菌群、及び牛の乳房炎起因菌として知られる黄色ブドウ状球菌が挙げられる。高温処理過程中において水分量の減少とともにグァーガム及びオガ屑は微生物により徐々に分解されていく。
【0033】
堆肥原料の堆肥化は、例えば空気の供給量、外気温、又は堆肥原料中の水分率によって左右されるが、通常は2〜3ヶ月、堆肥化に長期間を要する場合には約6ヶ月で完了する。処理の完了は、堆肥中の高分子有機物の低分子化及び水分量の減少により温度の低下を伴う。処理が完了して製造された堆肥中の悪臭成分及び水分は著しく減少している。グァーガム及びオガ屑は、堆肥処理完了時においては微生物の作用により低分子化されていることから、処理後の堆肥中における微生物又は土壌中の微生物によって容易且つ速やかに分解されて消失する。
【0034】
本実施形態は以下の利点を有している。
(1)本実施形態では、堆肥原料に好気性微生物及び天然由来の増粘性多糖類を含有する堆肥化調整剤が配合されて堆肥化調整が行われている。そのため、堆肥原料中の水分量が堆肥化にとって過剰に多い場合でも、堆肥原料の通気性を確保することができる。よって、大量の吸水性繊維質材料の配合による堆肥原料全体の嵩の増加を大幅に抑制することができる。また、発酵温度の上昇を促すことができるため、堆肥化処理時間の短縮化を図ることができる。
【0035】
(2)本実施形態において、好ましくは、天然由来の増粘性多糖類としてカラギーナン、グァーガム、キサンタンガム、及びローカストビーンガム等の生分解性の多糖類が使用される。この場合、堆肥化処理後に土壌中又は堆肥中の微生物が増粘性多糖類を容易に分解するため、該増粘性多糖類の残渣を早期に低減させることができる。また、土壌に対して安全に適用することができる。
【0036】
(3)本実施形態において、好ましくは、好気性微生物として好熱性の好気性菌が使用される。この場合、堆肥原料を容易に中温域から高温域へ導くことができる。
(4)本実施形態において、好ましくは、好熱性の好気性菌及び中温性の好気性菌の少なくとも一方を含有する戻し堆肥又は種菌資材が堆肥化調整剤に配合される。この場合、堆肥原料に安価に種菌を配合することができ、堆肥化処理を容易に行うことができる。
【0037】
(5)本実施形態において、好ましくは、堆肥化調整剤は更に吸水性繊維質材料、例えばパルプ、コットンリタ、バーク、オガ屑、もみ殻、稲わら、コーン粕、バガス、大豆粕、フスマ、菜種粕、コーヒー粕、茶粕、米糠、及びおから等の植物性有機質材料を含有する。この場合、堆肥化処理後に土壌中又は堆肥中の微生物に植物性有機質材料を分解させ、該植物性有機質材料の残渣を低減させることができる。
【0038】
(6)本実施形態において、好ましくは、堆肥化調整剤は更に多糖類分解酵素、例えば塩基性領域で活性を有するセルロース分解酵素及びヘミセルロース分解酵素等を含有する。この場合、増粘性多糖類を最終的に堆肥中において分解して消失させたり、堆肥原料中の多糖類を微生物により生分解され易くしたりする。それにより短期間で堆肥化処理を完了することができる。
【0039】
(7)本実施形態の堆肥化処理は、微生物を用いた分解及び発酵処理であることから、燃焼法、浄化法、吸着法等の物理的又は化学的な処理方法に比べて、複雑な装置及び大量の水を必要とせず、更なる処理を必要とする二次処理物、即ち副産物も少なく、且つ化石燃料等のエネルギー消費量を抑制することができる。
【0040】
上記実施形態は以下のように変更されてもよい。
上記実施形態において、堆肥化調整剤が堆肥化調整方法として適用されている。しかしながら、単にそのまま廃棄されることが例えば環境の悪化を招く、家畜の排泄物、下水処理汚泥等の廃棄物を、環境を悪化させるおそれのない処理物に処理する方法として本発明が適用されてもよい。この場合、本実施形態において処理された処理物を適切に廃棄することが容易となる。
【0041】
上記実施形態において、堆肥化調整剤及び堆肥化調整方法を用いて製造された堆肥が戻し堆肥として畜産用敷料に適用されてもよい。
【実施例】
【0042】
次に、実施例及び比較例を挙げて前記実施形態を更に具体的に説明する。
下記の各実施例及び各比較例に関して、堆肥原料の堆肥化調整後の硬さ、堆肥化処理時における堆肥原料中の温度変化、及び堆肥化処理後の増粘性多糖類の残存の有無について評価を行った。温度変化として、堆肥原料の表層より25cm下部における温度変化を測定した。結果を表2,3、図1に示す。
【0043】
堆肥原料の堆肥化調整後の硬さに関して、堆肥原料の反発力として、50mL遠沈管を堆肥原料に静かに押し込んだときの反発力の強さ、及び堆肥原料の流動性として、堆肥原料が入ったトレイを少し傾斜させたとき、堆肥原料が形状を保持するか、を表1に示される基準により評価した。結果を表2に示す。
【0044】
【表1】

(各実施例)
堆肥原料としての乳牛フンに、下記表2に示される各成分を配合して堆肥化調整することにより混合物を得た。即ち、前記乳牛フン(含水率:90%)6.7L(6.4kg)に、各実施例の増粘性多糖類78g、吸水性繊維質材料としてのオガ屑7L(0.7kg)、及び種菌資材(メニコン社製:製品名サーモマスター)65mLを配合した。
【0045】
実施例1,3〜6は、さらに多糖類分解酵素としてのエキソ型の分解酵素であるセロビオヒドロラーゼを含有する酵素資材(トヨタルーフガーデン社製)19.5gを配合した。実施例3は、さらにもみ殻1L(0.1kg)を配合した。堆肥化試験装置(富士平工業社製:商品名かぐやひめ)に前記混合物13L(7kg)を仕込み、堆肥化処理を行った。
【0046】
(各比較例)
堆肥原料としての乳牛フンに、下記表2に示される各成分を配合して堆肥化調整することにより混合物を得た。即ち、比較例1,2は、前記乳牛フン(含水率:90%)6.7L(6.4kg)に、吸水性繊維質材料としてのオガ屑7L(0.7kg)を配合した。さらに種菌資材(メニコン社製:製品名サーモマスター)65mLを配合した。さらに多糖類分解酵素としてのエキソ型の分解酵素であるセロビオヒドロラーゼを含有する酵素資材(トヨタルーフガーデン社製)19.5gを配合した。堆肥化試験装置(富士平工業社製:商品名かぐやひめ)に前記混合物13L(7kg)を仕込み、堆肥化処理を行った。比較例1は、さらに吸水性ポリマーとして架橋カルボキシメチルセルロース(架橋CMC)78gを配合した。
【0047】
比較例3は、前記乳牛フン(含水率:90%)4.5L(4.3kg)に、吸水性繊維質材料としてのオガ屑8L(0.8kg)を配合した。さらに種菌として戻し堆肥1L(0.6kg)を配合した。堆肥化試験装置(富士平工業社製:商品名かぐやひめ)に前記混合物13L(6kg)を仕込み、堆肥化処理を行った。
【0048】
比較例4は、前記乳牛フン(含水率:90%)6.7L(6.4kg)に、吸水性繊維質材料としてのオガ屑11.9L(1.2kg)を配合した。さらに種菌として戻し堆肥1.8L(1.1kg)を配合した。尚、比較例4は堆肥化処理を行っていない。
【0049】
【表2】

【0050】
【表3】

表2,3に示すように、各実施例においては、堆肥化調整後の堆肥原料の硬さに優れ、堆肥原料の通気性を十分に確保できることが確認された。また、各実施例においては、発酵処理中の最高温度が53.4〜68.9℃に達した。また、各実施例においては、堆肥化処理後の増粘性多糖類の残存は認められなかった。以上により、各実施例においては、短時間で水分調整及び堆肥化処理を行うことができるものと期待される。
【0051】
一方、比較例2〜4は、堆肥化調整後の堆肥原料の硬さが低いことが確認された。比較例2は、堆肥原料の通気性を確保するためにさらにオガ屑を配合する必要がある。比較例3では、同一容量の試験装置で処理可能な堆肥原料の容量が各実施例と比較して少なくなっており、また各実施例と同一容量の堆肥原料を処理しようとすれば、比較例4のように全体の嵩がかなり増加してしまう。比較例1〜3においては、最高温度が各実施例に対し低い温度であった。以上により、比較例1〜3においては、堆肥化処理に長時間を要するものと思料される。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】各実施例及び各比較例における堆肥化処理中の温度と時間との関係を示すグラフ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
好気性微生物及び天然由来の増粘性多糖類を含有することを特徴とする堆肥化調整剤。
【請求項2】
前記増粘性多糖類は、生分解性であることを特徴とする請求項1に記載の堆肥化調整剤。
【請求項3】
前記増粘性多糖類は、ペクチン、カラギーナン、グァーガム、キサンタンガム、アラビアガム、ローカストビーンガム、タラガム、ガティガム、及びカードランから選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の堆肥化調整剤。
【請求項4】
前記好気性微生物は、好熱菌であることを特徴する請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の堆肥化調整剤。
【請求項5】
吸水性繊維質材料を更に含有することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の堆肥化調整剤。
【請求項6】
前記吸水性繊維質材料は、植物性有機質材料であることを特徴とする請求項5に記載の堆肥化調整剤。
【請求項7】
前記吸水性繊維質材料は、パルプ、コットンリタ、バーク、オガ屑、もみ殻、稲わら、コーン粕、バガス、大豆粕、フスマ、菜種粕、コーヒー粕、茶粕、米糠、及びおからから選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項5又は請求項6に記載の堆肥化調整剤。
【請求項8】
多糖類分解酵素を更に含有することを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の堆肥化調整剤。
【請求項9】
前記多糖類分解酵素は、少なくとも塩基性領域で活性を有することを特徴とする請求項8に記載の堆肥化調整剤。
【請求項10】
前記多糖類分解酵素は、セルロース分解酵素及びヘミセルロース分解酵素から選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項8又は請求項9に記載の堆肥化調整剤。
【請求項11】
堆肥原料に、好気性微生物及び天然由来の増粘性多糖類を含有する堆肥化調整剤を配合する工程を備えることを特徴とする堆肥化調整方法。
【請求項12】
前記増粘性多糖類は、生分解性であることを特徴とする請求項11に記載の堆肥化調整方法。
【請求項13】
前記増粘性多糖類は、ペクチン、カラギーナン、グァーガム、キサンタンガム、アラビアガム、ローカストビーンガム、タラガム、ガティガム、及びカードランから選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項11又は請求項12に記載の堆肥化調整方法。
【請求項14】
前記好気性微生物は、好熱菌であることを特徴する請求項11から請求項13のいずれか一項に記載の堆肥化調整方法。
【請求項15】
吸水性繊維質材料を更に含有することを特徴とする請求項11から請求項14のいずれか一項に記載の堆肥化調整方法。
【請求項16】
前記吸水性繊維質材料は、植物性であることを特徴とする請求項15に記載の堆肥化調整方法。
【請求項17】
前記吸水性繊維質材料は、パルプ、コットンリタ、バーク、オガ屑、もみ殻、稲わら、コーン粕、バガス、大豆粕、フスマ、菜種粕、コーヒー粕、茶粕、米糠、及びおからから選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項15又は請求項16に記載の堆肥化調整方法。
【請求項18】
多糖類分解酵素を更に含有することを特徴とする請求項11から請求項17のいずれか一項に記載の堆肥化調整方法。
【請求項19】
前記多糖類分解酵素は、少なくとも塩基性領域で活性を有することを特徴とする請求項18に記載の堆肥化調整方法。
【請求項20】
前記多糖類分解酵素は、セルロース分解酵素及びヘミセルロース分解酵素から選ばれる少なくとも一種であることを特徴とする請求項18又は請求項19に記載の堆肥化調整方法。
【請求項21】
堆肥原料が含水性バイオマスであることを特徴とする請求項11から請求項20のいずれか一項に記載の堆肥化調整方法。

【図1】
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【公開番号】特開2009−274908(P2009−274908A)
【公開日】平成21年11月26日(2009.11.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−127421(P2008−127421)
【出願日】平成20年5月14日(2008.5.14)
【特許番号】特許第4272251号(P4272251)
【特許公報発行日】平成21年6月3日(2009.6.3)
【出願人】(000138082)株式会社メニコン (150)
【Fターム(参考)】