説明

塗料の調製方法および作業性にすぐれた塗料

【課題】 塗料組成上の制約が多く、従来の揺変性向上技術では十分な作業能率に至らないような無機顔料の作業性が悪い塗料においても、塗装の作業効率を高めるとともに高品質の塗膜を得る。
【解決手段】 真球かつ粒径のそろった流動性付与剤を添加することによって、塗料の流動性を制御する。流動性付与成分は高濃度において顔料粒子間の摩擦を軽減するものであって、その形態は真球かつ粒径のそろった、表面の滑らかな球状粒子であり、塗料の固体成分100重量部に対して10%以上30%以下の範囲で添加する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は機能性塗料、すなわち顔料によって塗膜に所望の機能をもたせる媒質分散型塗料の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
塗料は、建造物、交通機関、生活用品などの外装を整えて生活環境を快適にするとともに、それらの寿命を延ばして省資源に大きく貢献している。さらに、素材や製品の表面を保護・装飾するにとどまらず、塗膜自体が様々な機能を発現させる場面も増加してきた。たとえば電磁波を反射、吸収あるいは放射する機能、抗菌や汚染物質の生化学的な分解機能などがよく知られている。これら塗膜の高機能化にともなって、塗料に含まれる顔料の材質や形態が多様化し、かつ塗膜の仕上がりに対する要求も高度化して塗装作業はますます難しくなっている。
【0003】
その一方で塗工の作業性向上、高能率化の要求は変わらず、とりわけ現地工事や、異形の物体への塗布においては塗料の流動性と塗布直後の塗膜の機械的安定性が常に問題となる。一般的に、塗装作業の能率を向上させるには、濃度を高めて塗布一層あたりの塗布厚を増やせばよい。しかし濃度を高めると流動性が低下して、作業が困難になるという二律背反の制約条件がある。
【0004】
そこで、塗料成分の粒度、粒子形状、基材、添加剤などを選定して、塗料の「揺変性」を高めることによってこの二律背反の制約を克服している(たとえば特許文献1および2を参照)。ここで揺変性とは、高濃度の懸濁液が呈する流動特性を表すものである。
すなわち、静置状態では固体粒子が相互の静止摩擦力によって絡み合って全体の形状を保っているが、これに揺動を加えると固体粒子間の接触がより小さい動摩擦力に変わり、懸濁液全体として流動性を増し塗装作業が容易になる、この傾向の程度を揺変性いう。揺変性の高い塗料では、高濃度でも流動性を有し、しかも塗布されて運動が停止すれば自重では動きにくく、したがって塗膜の垂れ下がりなどを生じにくい。
【0005】
塗料成分を調整する余地が無い場合に、揺変性を高めるためには無害な粉粒を添加するいわゆる揺変性付与剤が用いられる(たとえば特許文献3、4および5を参照)。これらの揺変性付与剤は増粘剤とも呼ばれるように、塗料の流動性を下げるとともに塗膜の保持性を高めて塗布作業による膜厚を大きくする機能を持っている。しかしながら、機能性塗料の中には揺変性付与剤など添加剤についての制約が大きく、スプレー塗装が困難なものが少なくない。このように多くの制約条件のもとで、より作業能率の高い塗料が求められている。
【特許文献1】特開平5−156127号公報(第3〜4頁)
【特許文献2】特開2005−2145号公報(第8頁)
【特許文献3】特開平8−113736号公報(第2〜4頁)
【特許文献4】特表2004−534108号公報(第8頁)
【特許文献5】特許第3828127号公報(第1〜6頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
塗料組成上の制約が多く、従来の揺変性向上技術では十分な作業能率が得られない機能性塗料においても、塗装の作業能率を高めるとともに高品質の塗膜を得ることが本発明の課題である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、真球かつ粒径のそろった流動性付与剤を添加することによって、塗料の流動性を制御する。従来一般的に行なわれている、揺変性付与剤(増粘剤)を添加して粘度を高めたり、希釈剤によって流動性を高める方法とは逆に、媒質を加えることなく粒子自体の形態によって流動性を高めることによって、塗料の作業性を改善するものである。
【0008】
流動性付与成分は高濃度において顔料粒子間の摩擦を軽減するものであって、その形態は真球かつ粒径のそろった球状粒子であり、塗料の固体成分100重量部に対して10%以上30%以下の範囲で添加すると有効である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によって、従来はスプレーガンによる塗布が困難であるような塗料についても、懸濁濃度を下げることなく流動性を高めることが可能となった。これによって、揺変性に乏しい顔料系塗料の応用範囲が広がるとともに、塗布作業の選択肢も広がるので大きな経済効果が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
発明者らは塗料の流動性が基材の物性や固体成分の濃度のみならず、固体成分の形態(形状寸法)にも大きく依存していることに着目し、高濃度での流動性を高める粒子成分を探索してこの発明に到達した。最も塗装性の悪い特定の機能性塗料に対して、さまざまな添加剤を試みた結果、流動性の付与に関して新しい知見を得たものである。以下に発明の詳細を、実施例を兼ねる実験結果とともに説明する。
【実施例1】
【0011】
実験に供した塗料はチタニアをアクリル系のエマルジョンに懸濁させた水性の遮熱塗料である。これを異形のFRP構造物に重力式スプレーガンにて塗布して、乾燥状態で60〜120μmの厚さとなる被膜を形成するという命題を設定した。スプレーガンによる塗布は、実用的な塗布方法の中で塗料の流動性に対する要求が最も厳しい方法であるので、この方法に使用できることを塗料の実用的な限界性能としたのである。
【0012】
この供試塗料は不定形の機能性顔料からなる水性高分子エマルジョン塗料であり、はけ塗りは容易であるが、スプレー塗装は不適とされている。重力式スプレーガンで作業できる濃度まで希釈すると、塗布後に塗膜が自重で動き、被塗装物の突出部分では塗膜が薄く、窪んだ部分では厚くなって塗膜品質を満足できないという状況であった。まず、各種の添加剤と揺変性付与剤を加えて試行したが、塗膜品質を満足させることはできなかった。
【0013】
ここで発想を転換し、媒質(水)や増粘剤の代わりに摩擦抵抗の小さい粒子を加えて流動性を高めることを試みた結果、媒質を加えず粉粒成分を加えるのみで流動性が明瞭に改善されるという驚くべき現象が認められた。すなわち機能性顔料の平均サイズよりも大きくかつ粒径のそろった真球の粒子を、機能性顔料の10%程度加えると、動的流動性が明瞭に改善され、スプレーガンによる塗装が可能になったのである。表1はこの試行錯誤の結果の一部分であり、流動性付与手段のそれぞれについて、スプレーガンにて作業可能な塗料の希釈条件を求め、得られた結果を比較したものである。
【0014】
【表1】

【0015】
探索の結果、好適な流動性付与剤と判定された溶融シリカ球の添加量に関しては、塗料の固体成分100重量部に対して添加量が10重量部程度から流動性に改善が認められ、20〜30重量部でスプレーガンでの作業が支障なく行なえるようになった。この原因はいまだ調査中であるが、不定形の顔料粒子と溶融シリカ球との接触界面では一方が平滑な球面であるので、顔料粒子同士の接触に比して大幅に摩擦力が小さいことに起因すると見られる。このような界面が塗料全体に対して或る適当な割合で存在すると、塗料全体の動的流動性が高まるものと推察される。
【0016】
したがって、流動性付与剤の粒子形態としては、形状は流体との摩擦が最小である真球形状が望ましいことは当然である。加えてその表面は凹凸がない滑らかなものでなければならない。このような条件を満たし、かつ工業的に利用できるものとして、溶融シリカ球が適合することが明らかになった。この粉粒体は溶融珪素の微末を浮遊状態で凝固・酸化させるので、極めて真球度が高く、かつ粒径がそろっている。更に製造過程に表面を荒らす要因が無いので、必然的に表面は滑らかである。
【0017】
実験結果のもうひとつの重要な知見として、不定形粒子と真球粒子との粒径の関係がある。本発明の作用効果をもたらすには溶融シリカ球の直径が顔料粒子の直径よりも平均的に大きいことが必要である。図1から明らかなように、機能性顔料は不定形で細粒側に広く分布しており、溶融シリカ球は粗粒側で狭い範囲に分布している。
溶融シリカ球が顔料粒子と同サイズ以下であると、溶融シリカ球が不定形の顔料粒子に囲い込まれた形となって上記の境界面効果が現れにくいと考えられる。
【0018】
ここで真球度に関しては、或る程度のいびつは許容される。即ち溶融工程を経たもののように表面が平滑であれば、アスペクト比で20%程度のいびつは性能に有意な障害とはならない。また粒径のそろい具合に関しては、対象となる不定形顔料の粒度分布によって決めるべきものである。実験結果から見れば、不定形顔料の平均粒径よりも大きく、かつそれとかけ離れない領域にあって、できるだけバラツキの小さい粒度分布が望ましい。
【0019】
溶融シリカ球の添加量を増やして行くと流動性は漸増する。しかしながら、そのことは同時に機能性顔料を薄めることとなり、塗膜本来の機能が低下することとなる。したがって流動性付与剤の使用に際しては、塗装作業が可能な最低限の添加量に制限すべきである。また顔料よりも大径の粒子が増えると、それが塗膜表面の品質を損なうおそれもある。この面からも流動性付与剤の粒径分布は狭い範囲に管理せねばならない。
【0020】
これらの知見から塗料の構成粒子を考えると、塗料本来の顔料成分を、真球かつ粒径のそろった流動性付与剤として、それに適合する形状の粒子とすれば理想的である。しかしながら、経済的にそのような条件が満たされることは珍しいので、無害で入手しやすい添加剤を用いるのが実用的である。現在この流動性付与剤の条件をみたすものとしてはたとえば本実施例で使用した溶融シリカ球がある。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本願発明の実施例における粒度分布の概念図である。

【特許請求の範囲】


【図1】
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【公開番号】特開2009−242766(P2009−242766A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−114521(P2008−114521)
【出願日】平成20年3月30日(2008.3.30)
【出願人】(505447227)
【Fターム(参考)】