説明

塗装設備用の水滴捕集装置

【課題】塗装設備において、空気に含まれる水滴を効率よく確実に捕集することができる塗装設備用の水滴捕集装置を提供すること。
【解決手段】水滴捕集装置としてのエリミネーター31は、空気A2の流通方向の上流側に配置される上流側部材41と、下流側に配置される下流側部材42とを備える。上流側部材41は、上流側から下流側に向けて縮径するように形成された複数のホーン型通路部43を有する。下流側部材42は、ホーン型通路部43側が開口しその開口側に向かって徐々に拡がるように形成された内面形状の衝突捕集部47を有する。衝突捕集部47の開口端側からその内部に入り込むようにホーン型通路部43の先端が配置されるとともに、衝突捕集部47の開口端には、内側に向けて折り返すように突設された水切り板49を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗装設備内において空気中に含まれる水滴を衝突させて捕集する塗装設備用の水滴捕集装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、塗装ブースの塗装室内にて被塗物に対する霧化塗装を行うと、オーバースプレーにより、塗料ミストや揮発性有機溶剤などを含んだ汚染空気が塗装室内に充満してしまう。その結果、塗料ミストのカブリによって被塗物の品質が損なわれたり、揮発性有機溶剤によって作業者の健康が害されたりする可能性がある。これらの問題を解決するために、汚染空気を吸引して塗装室外に排出する構造を備えた塗装ブースが従来提案されている。
【0003】
ところが、公害防止の観点から、塗装室の汚染空気をそのまま大気中に放出することはできない。そのため、従来の塗装ブースでは、塗装室の下部に排気室を設置し、塗装室から吸引した汚染空気を排気室にて浄化処理するように構成している。
【0004】
具体的には、自動車ボディや自動車部品の塗装を行う塗装ブースでは、排気室において、汚染空気を洗浄水に接触させて混合し、その汚染空気に含まれる塗料ミストを洗浄水に捕捉させることで、汚染空気から塗料ミストを分離除去している。この塗装ブースにおける空気は、下流側の配管等を介して外部に排出されるが、その空気中に残存する洗浄水の水滴が配管に付着すると、その配管に錆等が発生する場合がある。この場合、配管の交換作業等のメンテナンスコストが嵩んでしまう。さらに、空気中の水滴には塗料粒子が付着しているため、その空気を外部に排出すると環境面からも問題となってしまう。このため、従来の塗装設備では、空気中の水滴を除去するために水滴除去装置(エリミネーター)が設けられている(例えば、特許文献1参照)。
【0005】
図7は、特許文献1に開示されている水滴捕集装置61の断面図である。図7に示されるように、水滴捕集装置61では、複数の板状捕集具62,63が並設された捕集具列64,65を気流の上流側と下流側とに配置し、各捕集具列64,65の間で気流を蛇行させることで、各捕集具62,63に水滴を衝突させて捕集している。より詳しくは、上流側及び下流側の捕集具列64,65を構成する各捕集具62,63は、板面状の本体部62a,63aと本体部62a,63aの両端部にて上流側に延びる側壁部62b,63bとを備える。各捕集具62,63において側壁部62b,63bは本体部62a,63aに対して垂直に設けられている。また、隣り合う捕集具62,63の間には、空気A0を下流側に流すための通路67,68が形成されている。そして、上流側の捕集具62間に形成された通路67に対向するように下流側の捕集具63が配置されている。さらに、上流側の捕集具62の中央部には、下流側に延びる仕切り板69が設けられている。この仕切り板69を設けることによって、上流側の捕集具62間の通路67から下流側の捕集具63に噴出された空気A0が下流側の通路68に確実に案内されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2005−34744号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、図7の水滴捕集装置61では、上流側の捕集具62間に形成された通路67の開口(噴出し口)から下流側の捕集具63までの距離が長くなっている。この場合、通路67から噴出した空気A0の流速は、開口からの距離に応じて遅くなる。このため、下流側の捕集具63に衝突する際に十分な流速を確保することができず、水滴の捕集効率を十分に得ることができなくなる場合がある。この対策として、空気A0の送風圧力を高めることで捕集具63に衝突させる風速を速め、水滴を効率よく捕集する手法が考えられる。しかしながら、下流側の捕集具63において、本体部63aは平面状であり、かつ本体部63aと側壁部63bとの接続部分が角張った形状となっているため、空気A0の風速を速めると、捕集具63内で乱流が生じ易くなる。ここで、捕集具63内において乱流が生じると、捕集具63に水滴が衝突し難くなり、水滴の捕集効率が悪化してしまう。また、空気A0の流速を速めると、下流側の捕集具63や仕切り板69にて一旦捕集された水滴が再度飛散してしまうといった問題が生じる。この場合、下流側の配管等に水分を含んだ空気A0が流れてしまう。
【0008】
さらに、図7の水滴捕集装置61において、捕集具列64,65の段数を3段以上に増やすことにより捕集効率が高められるが、捕集具列64,65の段数を増やすと、捕集具62,63の部品点数が増えてしまう。この場合、装置コストが嵩むことに加え、装置サイズも大型化してしまう。さらに、水滴捕集装置61における圧力損失が大きくなるため、送風装置の大型化や消費電力の増大といった問題も生じてしまう。
【0009】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、塗装設備において、空気に含まれる水滴を効率よく確実に捕集することができる塗装設備用の水滴捕集装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、手段1に記載の発明は、空気を一定方向に流しつつ被塗物に塗料を吹き付けて塗装を行うための塗装室と、前記塗料を含んだ空気を洗浄水に接触させて混合し、前記塗料を洗浄水に捕捉させて回収する塗料回収装置とを備えた塗装設備に用いられ、前記塗装設備内にて前記塗料回収装置よりも下流側に配置され、前記空気中に含まれる前記洗浄水の水滴を衝突させて捕集する水滴捕集装置において、前記空気の流通方向と直交する方向に配置される板状部材であって、前記流通方向の上流側から下流側に向けて縮径するように形成された複数のホーン型通路部を有する上流側部材と、前記ホーン型通路部の先端と対向する位置に配置されそのホーン型通路部から噴出される前記空気を受ける部材であって、前記ホーン型通路部側が開口しその開口側に向かって徐々に拡がるように形成された内面形状の衝突捕集部を有する下流側部材とを備え、前記衝突捕集部の開口端側からその内部に入り込むように前記ホーン型通路部の先端が配置されるとともに、前記衝突捕集部の開口端には、内側に向けて折り返すように突設された水切り部を有することを特徴とする塗装設備用の水滴捕集装置をその要旨とする。
【0011】
手段1に記載の発明によると、上流側部材において、流通方向の上流側から下流側に向けて縮径するように形成されたホーン型通路部を有する。従って、ホーン型通路部を空気が通過する際に、その流速を十分に速めることができる。また、ホーン型通路部の先端が衝突捕集部の開口端側からその内部に入り込んでいるため、ホーン型通路部において空気の噴出し口となる下流側開口と衝突捕集部との距離が短くなる。このため、ホーン型通路部から噴出された空気が勢い良く衝突捕集部に衝突し、空気に含まれる水滴を衝突捕集部の表面に確実に付着させることができる。さらに、衝突捕集部の開口端には、水切り部が突設されるとともに、その内面形状が開口側に向かって徐々に拡がるように衝突捕集部が形成されている。このように形成すると、衝突捕集部内における空気の乱流を抑制することができ、水切り部に空気を確実に導いて水滴を付着させることができる。従って、本発明の水滴捕集装置を用いると、空気に含まれる水滴を効率よく確実に捕集することができる。また、従来技術のように捕集具列の段数を増やす必要がなく、水滴捕集装置を低コストでコンパクトに構成することができる。
【0012】
手段2に記載の発明は、手段1において、前記水切り部は、傾斜角度または長さが調整可能に設けられていることをその要旨とする。
【0013】
手段2に記載の発明によると、ホーン型通路部から衝突捕集部に噴出される空気の流速に応じて、水切り部の傾斜角度または長さを調整することができ、空気に含まれる水滴を確実に捕集することができる。
【0014】
手段3に記載の発明は、手段1または2において、前記水切り部は、前記衝突捕集部における開口幅の5%以上の長さを有することをその要旨とする。
【0015】
手段3に記載の発明によると、水切り部が衝突捕集部における開口幅の5%以上の長さを有するので、空気に含まれる水滴を確実に水切り部に衝突させて捕集することができる。
【0016】
手段4に記載の発明は、手段1乃至3のいずれかにおいて、前記ホーン型通路部の先端の外周面には、その径方向外側に突出するように鍔部が設けられていることをその要旨とする。
【0017】
手段4に記載の発明によると、ホーン型通路部の先端に鍔部を設けることにより、空気の風速が比較的速くなるホーン型通路部の先端近傍において空気の乱流を抑えることができ、空気に含まれる水滴を確実に衝突捕集部に衝突させることができる。また、衝突捕集部に衝突した空気は鍔部に沿って流れるため、衝突捕集部の開口端に設けられている水切り部側に確実に案内することができる。
【0018】
前記衝突捕集部は、お椀型または蒲鉾型に湾曲した曲面形状を有することが好ましい。このようにすると、衝突捕集部に衝突した空気が曲面状の内面に沿って流れるため、その空気を開口部側にスムーズに導くことができる。
【0019】
前記水切り部は、前記衝突捕集部の開口端に、溶接にて固定されていてもよいし、着脱式のアタッチメントを用いて固定されていてもよい。着脱式のアタッチメントを用いる場合、傾斜角度や長さの異なる水切り部を容易に変更することができる。従って、空気の風速に応じた最適な傾斜角度や長さの水切り部を装着することでき、実用上好ましいものとなる。
【0020】
前記ホーン型通路部の上流側開口径(空気吸込み口の口径)は、下流側開口径(空気噴出し口の口径)の2倍以上であることが好ましい。このようにすると、ホーン型通路部を流れる空気の流速を確実に速めることができる。
【0021】
また、衝突捕集部の開口の下流側に形成される通路の幅は、ホーン型通路部の下流側開口径の2倍以上の幅を有することが好ましい。さらに、隣り合う衝突捕集部の間に形成される下流側通路の幅は、ホーン型通路部の下流側開口径の2倍以上の幅を有することが好ましく、5倍以上の幅を有することがより好ましい。このように、下流側通路の幅を広くすることにより、水滴捕集装置から排出される空気の風速を遅くすることができる。この結果、衝突捕集部等に付着した水滴が再飛散することを防止することができる。
【発明の効果】
【0022】
以上詳述したように、手段1〜4に記載の発明によると、塗装設備において、空気に含まれる水滴を効率よく確実に捕集することができる塗装設備用の水滴捕集装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】一実施の形態の塗装ブースを示す概略構成図。
【図2】エリミネーターを示す断面図。
【図3】水切り板の別の固定方法を示す要部断面図。
【図4】水切り板の別の固定方法を示す要部断面図。
【図5】別の実施の形態のエリミネーターを示す断面図。
【図6】別の実施の形態のエリミネーターを示す断面図。
【図7】従来の水滴捕集装置を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を自動車の車両ボディを塗装するための塗装ブースに具体化した一実施の形態を図面に基づき詳細に説明する。図1は、本実施の形態の塗装ブースを示す概略構成図である。
【0025】
図1に示されるように、塗装ブース1(塗装設備)は、車両ボディ2(被塗物)に塗料を吹き付けることにより、その車両ボディ2の外表面に塗膜を形成させるためのものであり、タクト運転の生産ラインに設けられている。この塗装ブース1には、車両ボディ2の塗装を行うための塗装室3と、塗装室3の上側に設けられ塗装室3にダウンフローの空調空気A1を供給するための給気室4と、塗装室3の下側に設けられその塗装室3内の空気を排気するための排気室5とが設けられている。
【0026】
給気室4には、塗装室3の天井面に沿ってフィルタ6が配設されている。そして、その給気室4に圧送された空気が、フィルタ6を介して所定の風速(例えば、0.3m/sec)を有する空調空気A1として塗装室3に向けて流下させられる。このように、本実施の形態の塗装室3では、上側から下側に向かう一定方向に空調空気A1を流しつつ車両ボディ2の塗装が行われる。
【0027】
塗装室3の床部7は簀子状の部材(グレーチング)で形成され、その床部7には、台車8に乗せられた車両ボディ2を1台ずつ搬送するためのコンベア9が設けられている。また、塗装室3において、コンベア9の左右両側に塗装ロボット11が設けられ、該塗装ロボット11のアーム12に取り付けられた塗装機13で車両ボディ2が塗装される。
【0028】
排気室5は、塗装室3内の汚染空気A2を、排気ファン15の吸引力によって吸引するようになっている。なお、汚染空気A2には、塗装室3内の塗装機13からオーバースプレーされた塗料ミストが含まれている。
【0029】
排気室5には、フロープレート21が排気室5を上下に仕切るよう略水平に配設されている。このフロープレート21の上面には、塗装室3から吸引した汚染空気A2に含まれるミスト状の塗料が降り落ちて液膜が形成される。また、排気室5において、そのフロープレート21の上面に洗浄水W1を供給するための給水管22が設けられている。さらに、排気室5においてフロープレート21の略中央部側には、複数のベンチュリー部23が設けられている。このベンチュリー部23において、塗料を含んだ汚染空気A2を洗浄水W1に接触させて混合し、塗料を洗浄水W1に捕捉させる。そして、ベンチュリー部23を通過して塗料を補足した洗浄水W1がその下方に形成された貯留部24に回収される。
【0030】
より詳しくは、ベンチュリー部23を通過するときに、汚染空気A2及び洗浄水W1の流速が速まり、洗浄水W1が微粒化される。その洗浄水W1の水滴によって、汚染空気A2中の塗料ミストが効率よく捕集される。そして、塗料ミストを捕集した水滴の大部分は、貯留部24に回収される。また、塗料ミストを捕集した水滴の一部は、空気A2とともに下流側(排気室5の側壁に設けられた排気ダクト26側)に導かれる。
【0031】
ここで、貯留部24に溜められた洗浄水W1は、図示しないポンプ等によって分離装置27に送り込まれる。そして、分離装置27において、洗浄水W1中に含まれる塗料成分がフィルタ(図示略)によって濾過され回収される。その後、分離装置27のフィルタで濾過され浄化された洗浄水W1がポンプ等によって給水管22に再度供給される。このように、本実施の形態で使用される洗浄水W1は、塗装ブース1内において循環供給される循環水となっている。なお、フロープレート21、ベンチュリー部23、貯留部24及び分離装置27によって塗料回収装置30が構成されている。
【0032】
排気室5において貯留部24よりも下流側となる排気ダクト26の近傍には、汚染空気A2中の水滴を衝突させて捕集するエリミネーター31が配置されている。エリミネーター31で捕集された水滴は、下方に滴り落ちた後、排気室5下方の傾斜面32に沿って流れ貯留部24に回収される。また、エリミネーター31において水滴が除去された空気A1は、排気ファン15によって吸引されて排気ダクト26から排出される。そして、その空気A1は、給気ダクト33を介して再び給気室4に導かれるようになっている。
【0033】
図2は、本実施の形態のエリミネーター31を示す断面図である。図2に示されるように、エリミネーター31は、空気A2の流通方向の上流側に配置される上流側部材41と下流側に配置される下流側部材42とからなる2段構造の水滴捕集装置である。上流側部材41及び下流側部材42は、2mm程度の厚さを有するステンレス鋼板を用いて形成されている。上流側部材41は、空気A2の流通方向と直交する方向に配置される板状部材であり、流通方向の上流側から下流側に向けて縮径するように形成された複数のホーン型通路部43を有する。ホーン型通路部43において、空気A2の空気吸込み口となる上流側開口44の口径D1は、空気A2の噴出し口となる下流側開口45の口径D2の2倍以上となっている。
【0034】
下流側部材42は、ホーン型通路部43から噴出される空気A2を受ける部材であり、ホーン型通路部43の先端と対向する位置に配置されている。下流側部材42には、ホーン型通路部43側が開口しその開口側に向かって徐々に拡がるように形成された内面形状の衝突捕集部47が複数形成されている。本実施の形態の衝突捕集部47は、湾曲した曲面形状を有するお椀型の捕集部である。
【0035】
エリミネーター31において、下流側部材42に形成された衝突捕集部47の開口端側からその内部に入り込むようにホーン型通路部43の先端が配置されている。このようにすると、ホーン型通路部43において空気A2の噴出し口となる下流側開口45と衝突捕集部47との距離L1が短くなる。具体的には、ホーン型通路部43の下流側開口45と衝突捕集部47との距離L1は、例えば50mm程度となっている。また、衝突捕集部47の開口端には、内側に向けて折り返すように水切り板49(水切り部)が突設されている。水切り板49は、衝突捕集部47における開口幅T1の5%以上の長さT2を有し、その衝突捕集部47の開口端に溶接にて固定されている。
【0036】
また、上流側部材41において、隣り合うホーン型通路部43の中間点に対応した位置には、下流側に向けて整流板51が延設されている。この整流板51を設けることによって、衝突捕集部47の開口から排出された空気A1が下流側に導かれる。また、衝突捕集部47の開口よりも下流側に形成される通路52,53の幅は、ホーン型通路部43の下流側開口径D2の2倍以上の幅を有している。具体的には、衝突捕集部47の水切り板49と上流側部材41との間に形成される通路52の幅T3は、下流側開口径D2の3倍程度であり、隣り合う衝突捕集部47の間に形成される通路53(下流側通路)の幅T4は、下流側開口径D2の6倍程度となっている。このように、本実施の形態のエリミネーター31は、下流側に行くに従って通路52,53の幅T3,T4が広くなるよう上流側部材41及び下流側部材42が形成されている。
【0037】
従って、本実施の形態によれば以下の効果を得ることができる。
【0038】
(1)本実施の形態のエリミネーター31では、上流側部材41において、流通方向の上流側から下流側に向けて縮径するように形成されたホーン型通路部43を有する。従って、ホーン型通路部43を空気A2が通過する際に、その流速を十分に速めることができる。因みに、通路部全体を細く形成して風速を速める方法も考えられるが、この場合には、通路部の吸込み口付近で乱流が生じ、圧力損失が大きくなってしまう。これに対して、本発明のようにホーン型通路部43を形成することにより、圧力損失を抑えることができ、風速を効率よく速めることができる。また、ホーン型通路部43の先端が衝突捕集部47の開口端側からその内部に入り込んでいるため、ホーン型通路部43において空気A2の噴出し口となる下流側開口45と衝突捕集部47との距離L1が短くなる。このため、ホーン型通路部43から噴出された空気A2が勢い良く衝突捕集部47に衝突し、空気A2に含まれる水滴を衝突捕集部47の表面に確実に付着させることができる。さらに、衝突捕集部47の開口端には、水切り板49が突設されるとともに、その内面形状が開口側に向かって徐々に拡がるように衝突捕集部47が形成されている。このように形成すると、衝突捕集部47内にて空気A2の乱流を抑制することができ、水切り板49に空気A2を確実に導いて水滴を付着させることができる。従って、本実施の形態のエリミネーター31を用いると、空気A2に含まれる水滴を効率よく確実に捕集することができる。また、従来技術のように捕集具列64,65の段数を増やす必要がなく、エリミネーター31を低コストでコンパクトに構成することができる。
【0039】
(2)本実施の形態のエリミネーター31では、衝突捕集部47は、お椀型に湾曲した曲面形状を有するので、衝突捕集部47に衝突した空気A2が曲面状の内面に沿って流れて開口部側の水切り板49にスムーズに導かれる。また、水切り板49が衝突捕集部47における開口幅T1の5%以上の長さT2を有するので、空気A2に含まれる水滴を確実に水切り板49に衝突させて捕集することができる。
【0040】
(3)本実施の形態のエリミネーター31において、ホーン型通路部43の上流側開口径D1は、下流側開口径D2の2倍以上であるので、ホーン型通路部43を流れる空気A2の流速を確実に速めることができる。
【0041】
(4)本実施の形態のエリミネーター31において、衝突捕集部47の開口の下流側に形成される通路52の幅T3は、ホーン型通路部43の下流側開口径D2の3倍程度であり、さらに、隣り合う衝突捕集部47の間に形成される下流側通路53の幅T4は、ホーン型通路部43の下流側開口径D2の6倍程度である。このように、下流側の通路52,53の幅T3,T4を段階的に広くすることにより、エリミネーター31から排出される空気A1の風速を遅くすることができる。この結果、衝突捕集部47に付着した水滴が再飛散するといった問題を回避できる。
【0042】
なお、本発明の実施の形態は以下のように変更してもよい。
【0043】
・上記実施の形態のエリミネーター31において、衝突捕集部47の水切り板49は、開口端に溶接にて固定されるものであったが、これに限定されるものではない。図3に示されるように、蝶番のような固定部材54を用いて、水切り板49の傾斜角度を調整可能に設けてもよい。さらに、図4に示されるように、着脱式のアタッチメント55を用いて衝突捕集部47の開口端に水切り板49を固定してもよい。なお、アタッチメント55は、締結手段としてボルト56を用いたアタッチメントである。この場合、衝突捕集部47に作用する空気A2の流速に応じた最適な傾斜角度や長さの水切り板49を装着できるため、水滴の捕集効率を高めることができる。
【0044】
・図5に示すエリミネーター31Aのように、ホーン型通路部43の先端の外周面に、その径方向外側に突出するように鍔部57を設けてもよい。このように鍔部57を設けることによって、ホーン型通路部43の先端近傍における空気A2の乱流を抑えることができ、空気A2に含まれる水滴を確実に衝突捕集部47に衝突させることができる。また、衝突捕集部47に衝突した空気A2は鍔部57に沿って流れるため、その空気A2を水切り板49に確実に案内することができる。
【0045】
・上記実施の形態のエリミネーター31,31Aでは、下流側部材42の衝突捕集部47は、湾曲した曲面形状を有するお椀型の捕集部であったが、これに限定されるものではない。衝突捕集部47は、開口側に向かって徐々に拡がるように形成された内面形状を有していればよく、例えば、蒲鉾型に湾曲した曲面形状を有する捕集部としてもよい。なおこの場合、衝突捕集部47は細長い凹部となるため、ホーン型通路部43もその長さに合わせて細長く形成されるとともに、上流側開口44及び下流側開口45はスリット状に形成される。また、衝突捕集部47の内面形状は、曲面形状に限定されるものではなく、例えば、図6に示されるエリミネーター31Bのように、傾斜面58,59を設けることによってその内面形状が開口側に向かって徐々に拡がるように衝突捕集部47Aを形成してもよい。このようにしても、衝突捕集部47A内で生じる空気A2の乱流を抑えることができる。
【0046】
・上記実施の形態の塗装ブース1は、車両ボディ2を塗装するための塗装ブースであるが、他の自動車部品や家電部品などを塗装するための塗装ブースに本発明のエリミネーター31,31A,31Bを用いてもよい。
【0047】
次に、特許請求の範囲に記載された技術的思想のほかに、前述した実施の形態によって把握される技術的思想を以下に列挙する。
【0048】
(1)手段1乃至4のいずれか1項において、前記衝突捕集部は、お椀型または蒲鉾型に湾曲した曲面形状を有することを特徴とする塗装設備用の水滴捕集装置。
【0049】
(2)手段1乃至4のいずれか1項において、前記水切り部は、水切り板であることを特徴とする塗装設備用の水滴捕集装置。
【0050】
(3)手段1乃至4のいずれか1項において、前記水切り部は、前記衝突捕集部の開口端に溶接にて固定されていることを特徴とする塗装設備用の水滴捕集装置。
【0051】
(4)手段1乃至4のいずれか1項において、前記水切り部は、着脱式のアタッチメントを用いて前記衝突捕集部の開口端に固定されていることを特徴とする塗装設備用の水滴捕集装置。
【0052】
(5)手段1乃至4のいずれか1項において、前記上流側部材において、隣り合うホーン型通路部の中間点に対応した位置に設けられ、前記衝突捕集部の開口から排出された前記空気を下流側の通路に導く整流板をさらに備えたことを特徴とする塗装設備用の水滴捕集装置。
【0053】
(6)手段1乃至4のいずれか1項において、前記ホーン型通路部の上流側開口径は、下流側開口径の2倍以上であることを特徴とする塗装設備用の水滴捕集装置。
【0054】
(7)手段1乃至4のいずれか1項において、前記衝突捕集部の開口よりも下流側に形成される通路の幅は、前記ホーン型通路部の下流側開口径の2倍以上の幅を有することを特徴とする塗装設備用の水滴捕集装置。
【0055】
(8)手段1乃至4のいずれか1項において、隣り合う前記衝突捕集部の間に下流側通路が形成され、前記下流側通路の幅は、前記ホーン型通路部の下流側開口径の2倍以上の幅を有することを特徴とする塗装設備用の水滴捕集装置。
【符号の説明】
【0056】
1…塗装設備としての塗装ブース
2…被塗物としての車両ボディ
3…塗装室
30…塗料回収装置
31,31A,31B…塗装設備用の水滴捕集装置としてエリミネーター
41…上流側部材
42…下流側部材
43…ホーン型通路部
47,47A…衝突捕集部
49…水切り部としての水切り板
57…鍔部
A1…空気としての空調空気
A2…空気としての汚染空気
W1…洗浄水

【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気を一定方向に流しつつ被塗物に塗料を吹き付けて塗装を行うための塗装室と、前記塗料を含んだ空気を洗浄水に接触させて混合し、前記塗料を洗浄水に捕捉させて回収する塗料回収装置とを備えた塗装設備に用いられ、前記塗装設備内にて前記塗料回収装置よりも下流側に配置され、前記空気中に含まれる前記洗浄水の水滴を衝突させて捕集する水滴捕集装置において、
前記空気の流通方向と直交する方向に配置される板状部材であって、前記流通方向の上流側から下流側に向けて縮径するように形成された複数のホーン型通路部を有する上流側部材と、
前記ホーン型通路部の先端と対向する位置に配置されそのホーン型通路部から噴出される前記空気を受ける部材であって、前記ホーン型通路部側が開口しその開口側に向かって徐々に拡がるように形成された内面形状の衝突捕集部を有する下流側部材と
を備え、
前記衝突捕集部の開口端側からその内部に入り込むように前記ホーン型通路部の先端が配置されるとともに、前記衝突捕集部の開口端には、内側に向けて折り返すように突設された水切り部を有することを特徴とする塗装設備用の水滴捕集装置。
【請求項2】
前記水切り部は、傾斜角度または長さが調整可能に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の塗装設備用の水滴捕集装置。
【請求項3】
前記水切り部は、前記衝突捕集部における開口幅の5%以上の長さを有することを特徴とする請求項1または2に記載の塗装設備用の水滴捕集装置。
【請求項4】
前記ホーン型通路部の先端の外周面には、その径方向外側に突出するように鍔部が設けられていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の塗装設備用の水滴捕集装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−86064(P2013−86064A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−231333(P2011−231333)
【出願日】平成23年10月21日(2011.10.21)
【出願人】(000110343)トリニティ工業株式会社 (147)
【Fターム(参考)】