説明

塗装金属板

【課題】防虫性と耐食性に優れた塗装金属板を提供する。
【解決手段】金属板の少なくとも片面に複数の塗膜層を有する塗装金属板であって、該塗膜層の最上層に防虫剤を0.5質量%以上含有する塗膜を有し、最上層の塗膜に接して下層にクロメートフリー系防錆顔料を5〜60質量%と防虫剤を0.5〜10質量%含有する塗膜を有する塗装金属板。防虫剤としては合成ピレスロイド系化合物が好適であり、下層に含まれるクロメートフリー系防錆顔料としてはイオン交換系防錆顔料とりん酸系防錆顔料が好適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、家電分野や屋外建材分野に好適な、防虫性を有し、さらに耐食性にも優れた塗装金属板に関するものである。さらに詳しくは、冷蔵庫、洗濯機等の家電分野や屋根材、壁材等の建材分野に使用され、防虫性と同時に耐食性を必要とされる塗装金属板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、消費者のニーズが安全や衛生という点で高まっている。その結果、半翅目(例えば、カイガラムシ、アブラムシ等)、双翅目(ハエ、蚊等)、鱗翅目(蛾)、総翅目(アザミウマ等)、網翅目(ゴキブリ等)等の害虫が、生活環境に近づかないことが望まれている。
【0003】
一般家庭においては食べ物の残りかすなどが原因となり、ハエ、ゴキブリ等の害虫が集まってくるという問題がある。
【0004】
これらハエ、ゴキブリ等の害虫の問題を解決するために、防虫剤として合成ピレスロイド系化合物を使用することがよく知られている。これら防虫剤は単なる散布や塗布といった使用に加え、繊維塊、織布、敷物等の繊維製品に配合して防虫機能を付与することが一般に行われている。
【0005】
更に、家電製品や建材製品の幅広い分野に使用されている塗装鋼板に適用した例として、特許文献1では、塗装鋼板のトップ層に防虫剤を添加して、防虫剤を効率的に使用する方法が提案されている。さらに、特許文献2では、トップ層を着色塗膜とし、さらに紫外線吸収剤を添加することにより、紫外線による防虫剤の分解を抑制し、長期間にわたって防虫性能を発揮する塗装鋼板が報告されている。
【0006】
確かにこれらの方法により、防虫性能を付与した塗装鋼板が製造され、一般的な環境であればある程度の期間その性能を維持することは可能となる。しかし、害虫が好んで集まる場所は湿度が高くなおかつ高温で、下地金属板が腐食しやすいと同時に、防虫成分が溶出、放散し易い環境である。従って、特許文献1や特許文献2に記載された方法では、高温高湿環境下では、長期間の使用により、下地金属板が腐食して外観に問題が発生する可能性と、防虫成分が早期に溶出するため、防虫性能を長期間にわたって保持することが困難であるという問題があった。
【0007】
【特許文献1】特開2003−127272号公報
【特許文献2】特開2004−209788号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
このように、現在までに様々な防虫鋼板が提案されてきたが、害虫が発生しやすい高温多湿な環境で長期間にわたって耐食性と防虫性能を保持できる塗装金属板は未だ提案されていない。本発明は、以上述べた欠点を解決し、高温多湿な環境でも十分な耐食性を有し、長期間にわたって、防虫性能を発揮しうる塗装金属板を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記課題を解決するもので、その趣旨とするところは以下のとおりである。
(1) 金属板の少なくとも片面に複数の塗膜層を有する塗装金属板であって、前記塗膜層の最上層に防虫剤を0.5質量%以上含有する塗膜を有し、前記最上層の塗膜に接する下層にクロメートフリー系防錆顔料を5質量%以上60質量%以下と防虫剤を0.5質量%以上10質量%以下含有する塗膜を有する、塗装金属板。
(2) 前記防虫剤が、少なくとも一種類以上の合成ピレスロイド系化合物を含むことを特徴とする、(1)に記載の塗装金属板。
(3) 前記クロメートフリー系防錆顔料が、イオン交換系防錆顔料とりん酸系防錆顔料の少なくとも1種類以上であることを特徴とする、(1)又は(2)に記載の塗装金属板。
(4) 前記下層の塗膜中の前記防虫剤の濃度が、前記最上層の塗膜の前記防虫剤の濃度以上であることを特徴とする、(1)〜(3)のいずれかに記載の塗装金属板。
【発明の効果】
【0010】
本発明の塗装金属板は、害虫の発生しやすい高温多湿な環境で長期間の耐食性を有すると同時に害虫を寄せ付けない性能を長期間にわたって保持する特徴を有するものであり、例えば家電製品や建材製品用の塗装金属板として特に好適なものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下に、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。本発明者は、上記の課題を解決し、優れた耐食性を有する防虫性塗装金属板を開発するために、防虫性と耐食性を詳細に検討した。その結果、金属板の少なくとも片面の最上層に防虫剤を含有し、最上層塗膜に接した下層にクロメートフリー系防錆顔料と防虫剤の両方を含有する塗装金属板が長期の防虫性と耐食性の両方に優れることを見いだし、本発明を完成させた。
【0012】
本発明の特徴は、防虫剤を含有する最表層塗膜の下層塗膜にクロメートフリー系防錆顔料と防虫剤を共存させる点にある。これまでに報告されていたような防虫剤を含有する単層皮膜を有する金属板を高温多湿な環境におくと、その防虫性能は短期間のうちに失われてしまう。又、防虫性能の延長を目的として、防虫剤入りの皮膜の下層にさらに防虫剤のみを添加した皮膜を設けることを試みたが防虫性能の延長効果はわずかしか認められない。しかし、この下層皮膜に防虫剤とともにクロメートフリー系防錆顔料を添加すると高温多湿な環境においても防虫性能が長期にわたって持続することを見出し本発明に至った。
【0013】
この、クロメートフリー系防錆顔料と防虫剤の共存による高温多湿条件下の防虫性能長寿命化の機構は明らかではないが、クロメートフリー系防錆顔料の表面に皮膜中防虫剤の一部が吸着し、この吸着された成分が徐々に放散されることにより効果が長期にわたって持続するのではないかと考えられる。
【0014】
本発明では、金属板の少なくとも片面の最上層に防虫剤を0.5質量%以上含有する塗膜を有し、最上層塗膜に接した下層にクロメートフリー系防錆顔料を5〜60質量%と防虫剤を0.5〜10質量%含有する塗膜を有する。
【0015】
本発明で、少なくとも片面の最上層に防虫剤を0.5〜5質量%含有する塗膜を有するのは、最上層の塗膜に防虫剤を添加した条件で、効率的に防虫効果が発揮されるからであり、0.5質量%未満では防虫剤を添加した効果が現れないため、防虫剤の添加量を0.5質量%以上とした。一方、5質量%超では防虫剤の添加量に対する性能の向上が小さく経済的ではないため、防虫剤の添加量を5質量%以下とすることが好ましい。
【0016】
防虫剤は特に限定するものではなく、一般に公知の防虫剤を使用することができる。例えば、N,N−ジメチルトルアミド、有機りん系、センブリ抽出液、カンフル、桂皮油、ナフタレン、パラジクロルベンゼン、ほう酸、四ほう酸ナトリウム、アルキルフェノール、N−フェニルカーバメイト類、N−シクロヘキシルカーバメイト類、トリハロアリル誘導体、3−クロロ−2,3−ジョードアリル誘導体、オリゴイミド、ニーム抽出液、モノテルペノイド、ダイヤジン、フェニトロチン、ピリジンプロピルチオカーボネート系、酢酸トリエステル、N,N−ジアリル−N’−エチル尿素、二塩基酸飽和ジアルキルエステル、ピレスロイド系等のうち一種類または二種類以上を適量混合して用いる。
【0017】
特に好適なものは合成ピレスロイド系化合物である。合成ピレスロイド系化合物としては特に限定するものではなく、例えば、アレスリン、D−テトラメリン、レスメトリン、フラメトリン、フェノトリン、ペルメトリン、シフェノトリン、ブラトリン、エトフェンプロックス、シフルトリン、アクリナトリン等が挙げられる。但し、最上層の塗膜による防虫性能は、長期間高温多湿な環境におかれると徐々に失われる。それを補うために下層の塗膜にも防虫剤を添加する。
【0018】
この下層塗膜には防虫剤と合わせてクロメートフリー系防錆顔料を含有する。即ち、クロメートフリー系防錆顔料を金属板の直上、乃至は適当な化成処理層やプライマーを介しておくことにより、効率的に金属板を腐食から守る。さらに、上述のように、下層皮膜にクロメートフリー系防錆顔料と同時に防虫剤を添加すると、防虫剤がクロメートフリー系防錆顔料に担持され、徐々に防虫剤が放散される効果が現れてくることにより、高温多湿な環境におかれても、長期間にわたって防虫効果を発揮する。
【0019】
下層皮膜中のクロメートフリー系防錆顔料の添加量は5〜60質量%である。5質量%未満では耐食性及び防虫性能の長寿命化への添加効果が不十分で、60質量%超では加工性が低下する。
【0020】
クロメートフリー系防錆顔料は特に限定するものではなく、一般に公知のクロメートフリー顔料を適用することができる。例えば、水分散シリカ、ヒュームドシリカ等の微粒シリカ、酸化バナジウム、硫酸バナジウム等のバナジウム系防錆顔料、モリブデン酸カルシウム、モリブデン酸アルミニウム、モリブデン酸バリウム、りんモリブデン酸アンモニウム等のモリブデン系防錆顔料、フェロシリコン等のフェロアロイ、りん酸系防錆顔料、イオン交換系防錆顔料等のうち一種または二種以上を適量混合して用いることができる。
【0021】
耐食性および防虫性能の長寿命化の観点から特に好適なものは、りん酸系防錆顔料とイオン交換系防錆顔料であり、りん酸系防錆顔料としては、例えば、りん酸亜鉛、りん酸鉄、りん酸アルミニウム、りん酸カルシウム、りん酸マグネシウム、亜りん酸塩、トリポリりん酸アルミニウム等を挙げることができ、イオン交換系防錆顔料としては、カルシウムイオン交換シリカ、マグネシウムイオン交換シリカ、ストロンチウムイオン交換シリカ等を挙げることができる。りん酸系防錆顔料とイオン交換系防錆顔料の1種類または2種類以上を適量混合して用いることで、優れた耐食性と長期にわたっての防虫性能が得られる。りん酸系防錆顔料とイオン交換系防錆顔料の添加量の合計は5〜60質量%である。5質量%未満では防錆性及び防虫性能の持続性効果が観られず、60質量%超では皮膜加工性が低下する。上記観点からより好ましい防錆顔料の添加量範囲は10〜50質量%である。
【0022】
防虫剤の下層皮膜への添加量は0.5〜10質量%である。0.5質量%未満では添加した効果が無く、10質量%超では添加量に対する性能の向上が小さく不経済であり、また塗料のポットライフ、皮膜加工性の低下傾向が認められ好ましくない。
【0023】
防虫剤は、特に限定するものではなく、最上層の皮膜と同様に一般に公知の防虫剤を使用することができる。例えば、N,N−ジメチルトルアミド、有機りん系、センブリ抽出液、カンフル、桂皮油、ナフタレン、パラジクロルベンゼン、ほう酸、四ほう酸ナトリウム、アルキルフェノール、N−フェニルカーバメイト類、N−シクロヘキシルカーバメイト類、トリハロアリル誘導体、3−クロロ−2,3−ジョードアリル誘導体、オリゴイミド、ニーム抽出液、モノテルペノイド、ダイヤジン、フェニトロチン、ピリジンプロピルチオカーボネート系、酢酸トリエステル、N,N−ジアリル−N’−エチル尿素、二塩基酸飽和ジアルキルエステル、ピレスロイド系等のうち一種類または二種類以上を適量混合して用いる。
【0024】
特に好適なものは合成ピレスロイド系化合物である。合成ピレスロイド系化合物としては、特に限定するものではなく、例えば、アレスリン、D−テトラメリン、レスメトリン、フラメトリン、フェノトリン、ペルメトリン、シフェノトリン、ブラトリン、エトフェンプロックス、シフルトリン等が挙げられる。尚、最上層塗膜とその下層塗膜に用いられる防虫剤は、同じものでも違ったものでも構わない。
【0025】
本発明の塗装金属板は、下層の塗膜中の防虫剤の濃度が、最上層の塗膜の防虫剤の濃度以上であることが好ましい。下層の防虫剤濃度や防錆顔料の濃度が上述したような条件を満たしていれば、従来よりも長期間にわたって防虫性能を発揮することはできる。しかし、最上層の塗膜中の防虫剤の濃度が、下層の塗膜中の防虫剤の濃度と比較して高くなればなるほど、初期の防虫性能からの長期の防虫性能の劣化が大きくなる。そこで、下層の塗膜中の防虫剤の濃度を、最上層の塗膜の防虫剤の濃度以上とすることにより、長期の防虫性能の劣化を避け、安定した長期の防虫性能を担保することができる。
【0026】
本発明の防虫剤を含有する最上層の塗膜に紫外線吸収剤を添加することにより、防虫効果を長期間保持することが可能となる。これは、一般に防虫剤が紫外線に弱く、紫外線によって分解することを防ぐことができるからである。紫外線吸収剤の種類は特に限定するものではなく、一般に公知のものを使用できる。例えば、ベンゾフェノン系、シアノアクリレート系、トリアジン系、ベンゾトリアゾール系等を挙げることができる。紫外線吸収剤の添加量は1〜10質量%である。1質量%未満では添加した効果が現れず、10質量%超では効果が飽和するため不経済である。
【0027】
最上層の防虫剤を含有する塗膜の厚さは1〜15μmである。1μm未満では初期の防虫効果が不十分であり、15μm超では初期の防虫効果が飽和して不経済であり、又、下層皮膜からの防虫成分拡散に対しても不利となる。より好ましい最上層の膜厚範囲は3〜10μmである。一方、その下層のクロメートフリー系防錆顔料と防虫剤の両方を含有する塗膜の厚さは1〜15μmである。1μm未満では防錆顔料の効果が現れず、15μm超では加工性が低下する。より好ましい膜厚は3〜10μmである。
【0028】
本発明の塗装金属板に使用する塗料の樹脂は、特に限定されるものではなく、通常、塗料用樹脂として使用されているものを適用することができる。例えば、高分子ポリエステル系樹脂、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂、フッ素系樹脂、あるいはこれらの変性樹脂等の樹脂成分をブチル化メラミン、メチル化メラミン、ブチルメチル混合メラミン、尿素樹脂、イソシアネートやこれらの混合系の架橋成分により架橋させたもの、あるいは電子線硬化型、紫外線硬化型等のものが挙げられる。また、熱硬化型のものや熱可塑型のものを使用してもよい。尚、最上層塗膜とその下層塗膜に用いられる樹脂は、同じものでも違ったものでも構わない。
【0029】
本発明の塗装金属板は、通常の塗料に使用されている着色顔料や染料を使用して着色しても良い。着色顔料や染料は特に限定するものではない。顔料としては、無機系、有機系、両者の複合系に関わらず公知のものを使用することができ、チタン白、亜鉛黄、アルミナ白、シアニンブルー等のシアニン系顔料、ピラゾロンオレンジ、アゾ系顔料、紺青、縮合多環系顔料、等が例示できる。この他に、金属片・粉末、パール顔料、マイカ顔料等の光輝性顔料、インジゴイド染料、硫化染料、フタロシアニン染料、ジフェニルメタン染料、ニトロ染料、アクリジン染料等の染料等が挙げられる。顔料や染料の濃度は特に限定されず、必要な色や隠蔽力によって決定すればよい。
【0030】
さらに、着色顔料や染料以外にも、塗料に通常添加されているものであれば、問題なく添加できる。例えば、炭酸カルシウム、タルク、石膏、クレー等の体質顔料、その他の有機架橋微粒子および/または無機微粒子等である。また、必要に応じて、表面平滑剤、ヒンダードアミン系光安定剤、粘度調整剤、硬化触媒、顔料分散剤、顔料沈降防止剤、色別れ防止剤等を用いることができる。本発明の塗装金属板にニッケルフィラー等を添加して導電性を付与してもよい。
【0031】
本発明の塗装金属板は、任意の方法で塗装することができる。例えば、バーコーター、スプレー塗装、刷毛塗り、ロールコーター、オーバーフローカーテンコーター、スリットカーテンコーター、ローラーカーテンコーター、Tダイ、複層カーテンコーター等が挙げられる。
【0032】
本発明の塗装金属板の乾燥(硬化)方式は任意であり、熱風加熱、高周波誘導加熱等の加熱乾燥や、自然乾燥、電子線、紫外線の照射による硬化等、使用する塗料に適した方式を選択すればよい。
【0033】
本発明の下地金属板は、特に限定するものではないが、ステンレス鋼板、めっき鋼板及びアルミニウム合金板が適している。ステンレス鋼板としては、フェライト系ステンレス鋼板、マルテンサイト系ステンレス鋼板、オーステナイト系ステンレス鋼板等が挙げられる。アルミニウム合金板としては、JIS1000番系(純Al系)、JIS2000番系(Al−Cu系)、JIS3000番系(Al−Mn系)、JIS4000番系(Al−Si系)、JIS5000番系(Al−Mg系)、JIS6000番系(Al−Mg−Si系)、JIS7000番系(Al−Zn系)等が挙げられる。
【0034】
特に好適な金属板は、コストと性能のバランスのとれためっき鋼板である。めっき鋼板としては亜鉛めっき鋼板、亜鉛−鉄合金めっき鋼板、亜鉛−ニッケル合金めっき鋼板、亜鉛−クロム合金めっき鋼板、亜鉛−アルミ合金めっき鋼板、アルミめっき鋼板、亜鉛−アルミ−マグネシウム合金めっき鋼板、亜鉛−アルミ−マグネシウム−シリコン合金めっき鋼板、アルミ−シリコン合金めっき鋼板、亜鉛めっきステンレス鋼板、アルミめっきステンレス鋼板等が挙げられる。
【0035】
金属板の塗装前処理としては、水洗、湯洗、酸洗、アルカリ脱脂、研削、研磨等があり、必要に応じてこれらを単独もしくは組み合わせて行うとよい。塗装前処理の条件は適宜選択すればよい。
【0036】
金属板の上には、必要に応じて化成処理を施してもよい。化成処理は、塗装と下地金属板の密着性をより強固なものとするためと、耐食性の向上を目的として処理される。化成処理としては、公知の技術が使用でき、例えば、りん酸亜鉛処理、シランカップリング系処理、複合酸化被膜系処理、ノンクロメート系処理、タンニン酸系処理、チタニア系処理、ジルコニア系処理、これらの混合処理等が挙げられる。
【0037】
又、必要に応じ、防虫剤を0.5〜5質量%含有する最上層塗膜に接し、クロメートフリー系防錆顔料を5〜60質量%と防虫剤を0.5〜10質量%含有する下層塗膜と金属板の間、或いは、前記下層塗膜と金属板上に設けた化成処理層の間に更なる塗膜層を設けても良い。新たな塗膜層を設ける目的としては、更なる耐食性の向上、皮膜加工性の向上、意匠性の付与などが挙げられ、目的に応じた塗膜層を設ける事でこれら特性の向上や付与が可能となる。
【実施例】
【0038】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。下地金属板としては板厚が0.5mmでめっき付着量が両面で60g/mの溶融亜鉛めっき鋼板を用いた。本溶融亜鉛めっき鋼板に対して脱脂処理(日本パーカライジング(株)製FC4670)を行った。その後、水洗、乾燥を行い、引き続いてクロメートフリー化成処理(日本パーカライジング(株)製、CT−E300)を300mg/mの付着量で処理した。
【0039】
下塗り塗料としては日本ファインコーティング(株)製P655プライマーの防錆顔料を除いたクリアー塗料を用い、防錆顔料としてはテイカ(株)製トリポリりん酸アルミニウム(K−White G105、以下G105)とGRACE(株)製Caイオン交換シリカ(SHIELDEX C303、以下C303)を用いた。防虫剤としては金鳥(株)製ペルメトリン(商品名エクスミン)と日本農薬(株)製アクリナトリン(商品名日農アーデント)を用いた。下塗り塗料は乾燥膜厚が5μmとなるようにバーコーターを使用して塗布後、熱風加熱炉で最高到達板温200℃に50秒で到達する条件で加熱硬化させ下塗り層を形成させた。
【0040】
上塗り塗料としては日本ファンインコーティング(社)製のNSC200HQを用いた。上塗り塗料の色は顔料を入れないクリアー塗料としたものと青色の塗料としたものの2水準とした。防虫剤としては金鳥(株)製ペルメトリン(商品名エクスミン)と日本農薬(株)製アクリナトリン(商品名日農アーデント)を添加した。上塗り塗料は乾燥膜厚が15μmとなるようにバーコーターを使用して塗布後、熱風加熱炉で最高到達板温230℃に50秒で到達する条件で加熱硬化させ、上塗り被覆層を形成させた。なお、裏面には下塗り塗装に使用したものと同じ塗料を塗装した。裏面の被覆層の膜厚は3μmとし、裏面は表面を塗装する前にバーコーターを用いて塗布し、熱風加熱炉で最高到達板温200℃に50秒で到達する条件で加熱硬化させ、形成させた。
【0041】
(耐食性と皮膜加工性の評価)
耐食性の評価はJIS H8502記載の方法で中性塩水噴霧を使用するサイクル腐食試験を120サイクル行い、切断端面部からの膨れ幅を測定し、以下の評価基準で評点を付与し、評点の○以上を合格とした。
◎:端面からの膨れ幅3mm未満
○:端面からの膨れ幅3mm以上7mm未満
△:端面からの膨れ幅7mm以上15mm未満
×:端面からの膨れ幅15mm以上
【0042】
皮膜加工性の評価は、常温で試験片を180度折り曲げし、折り曲げ部にセロハンテープを貼り付け後、急激に剥がして、セロハンテープへ付着した塗膜の多少を目視で評価し、以下の評価基準で評点を付与し、評点の○以上を合格とした。
◎:剥離無し
○:剥離面積5%未満
△:剥離面積5%以上25%未満
×:剥離面積25%以上
【0043】
(防虫性の評価)
40cm×40cm×20cmのステンレス製容器を用意した。その底板に試験片を20cm×20cmのサイズに切断して左端に入れた。ステンレス容器の右半分はステンレスが露出した状態にしておいた。このステンレス容器にチャバネゴキブリを20匹入れ、1時間後に試験片上に存在するチャバネゴキブリの数(X)を測定し、防虫率=(20−X)×100/20を算出し、以下の評価基準で評点を付与し、○以上を合格とした。
◎:防虫率90%以上100%以下
○+:防虫率80%以上90%未満
○:防虫率70%以上〜80%未満
△:防虫率50%以上〜70%未満
×:防虫率50%未満
【0044】
防虫性能の評価は塗装金属板を作製1日後(常温放置)と促進劣化試験後に行った。促進劣化試験はRH95%、50℃の条件に200日間、300日間放置するものとした。
【0045】
耐食性と皮膜加工性と防虫性の評価結果を表1(上塗り塗料がクリアーの場合)と表2(上塗り塗料が青色の場合)に示す。表1と表2より本発明の範囲の防錆顔料の添加範囲で優れた耐食性と皮膜加工性と防虫性を示すことがわかる。一方、添加量が少ない場合は耐食性と防虫性に劣り、添加量が多い場合は皮膜加工性に劣り不適当であることがわかる。
【0046】
一方、下塗り層において本発明の範囲より防虫剤が多い場合には防虫性は十分であるが、皮膜加工性が低下するため不適当である。
【0047】
防虫性の評価結果を表3(上塗り塗料がクリアーの場合)と表4(上塗り塗料が青色の場合)に示す。表3と表4より、本発明の範囲の防錆顔料と防虫剤の添加量範囲で良好な防虫性が得られることがわかる。上塗り層の防虫剤の添加量が本発明の範囲にあれば、作製1日後の防虫性能は十分であることがわかる。しかし、下塗り層の防虫剤の添加量が本発明の範囲より少ない量であったり、クロメートフリー系防錆顔料が共存しない条件では、促進劣化試験後の防虫性が不十分であることがわかる。
【0048】
また、表3と表4の実施例からわかるように、下層の防虫剤の添加量が上塗り層の防虫剤の添加量よりも少ない実施例よりも、下層の防虫剤の添加量が上塗り層の防虫剤の添加量よりも多い実施例の方が、促進劣化試験の評価が高く、長期防虫性能に優れていることがわかる。

【0049】
【表1】







【0050】
【表2】

【0051】
【表3】

【0052】
【表4】

【0053】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属板の少なくとも片面に複数の塗膜層を有する塗装金属板であって、
前記塗膜層の最上層に防虫剤を0.5質量%以上含有する塗膜を有し、前記最上層の塗膜に接する下層にクロメートフリー系防錆顔料を5質量%以上60質量%以下と防虫剤を0.5質量%以上10質量%以下含有する塗膜を有する、塗装金属板。
【請求項2】
前記防虫剤が、少なくとも一種類以上の合成ピレスロイド系化合物を含むことを特徴とする、請求項1に記載の塗装金属板。
【請求項3】
前記クロメートフリー系防錆顔料が、イオン交換系防錆顔料とりん酸系防錆顔料の少なくとも1種類以上であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の塗装金属板。
【請求項4】
前記下層の塗膜中の前記防虫剤の濃度が、前記最上層の塗膜の前記防虫剤の濃度以上であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の塗装金属板。



【公開番号】特開2009−220518(P2009−220518A)
【公開日】平成21年10月1日(2009.10.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−69919(P2008−69919)
【出願日】平成20年3月18日(2008.3.18)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】