説明

塩基性塩化第二鉄溶液及びその製造方法

【課題】 保存安定性に優れ、処理水中の鉄成分の残留量を低減させることが可能な塩基性塩化第二鉄を提供することを目的とする。
【解決手段】 無機酸を含有させ、塩基性塩化第二鉄溶液の平均分散粒子径を特定の範囲に制御することにより上記課題を解決した。即ち、塩基度が5〜60%であり、無機酸を含有し、平均分散粒子径が3〜50nmであることを特徴とする塩基性塩化第二鉄溶液である。また、塩化第二鉄と無機酸の混合溶液にアルカリ剤を添加することを特徴とする上記塩基性塩化第二鉄溶液の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄系凝集剤である塩基性塩化第二鉄溶液に関し、特に、水処理剤として優れた性能を有する塩基性塩化第二鉄溶液に関する。
【背景技術】
【0002】
各種排水や汚濁水の浄化に用いる鉄系凝集剤としては、硫酸第二鉄、塩化第二鉄、ポリ硫酸第二鉄、塩基性塩化第二鉄等が知られている。
【0003】
塩基性塩化第二鉄の特徴として、特許文献1にはpHが4〜11の領域で凝集効果があり、腐食性が小さいこと、特許文献2には余剰汚泥が分散した液体中のリンや硫化水素の濃度低減効果に優れていること、特許文献3には廃液の防臭効果も期待できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−59173号公報
【特許文献2】特開2008−80252号公報
【特許文献3】特開2000−5506号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、塩基性塩化第二鉄は保存安定性に劣るため、実験室レベルで製造できても産業レベルでの製造は困難であった。また、処理水中の鉄成分の残留量を低減させることが困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
そこで、本発明者らは上記課題について鋭意検討した結果、無機酸を含有させ、塩基性塩化第二鉄の平均分散粒子径を特定の範囲に制御することによって、上記課題が解決されることを見出し、本発明を完成させるに至ったものである。
【0007】
即ち、本発明は以下の通りである。
(1)塩基度が5〜60%であり、無機酸を含有し、平均分散粒子径が3〜50nmであることを特徴とする塩基性塩化第二鉄溶液。
(2)無機酸が、硫酸及びリン酸のうちいずれか一方又は双方である上記(1)記載の塩基性塩化第二鉄溶液。
(3)無機酸の含有量が、硫酸をSO4、リン酸をPO4としたとき、(SO4+PO4)/Fe(モル比)=0.05〜0.2の範囲である上記(1)又は(2)記載の塩基性塩化第二鉄溶液。
(4)上記(1)〜(3)のいずれか1項記載の塩基性塩化第二鉄溶液を乾燥して得られる塩基性塩化第二鉄粉末。
(5)塩化第二鉄と無機酸の混合溶液にアルカリ剤を添加することを特徴とする上記(1)〜(3)のいずれか1項記載の塩基性塩化第二鉄溶液の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の塩基性塩化第二鉄溶液は、酸性からアルカリ性までの広いpH範囲で優れた除濁性を示す。また、汚泥処理に用いた場合は、ろ過性及び脱水性を向上させることができるため、汚泥の含水率を低くすることが可能となる。さらに、処理水中の鉄成分の残留量を低減させることが可能であり、使用時に中和のためのアルカリ剤が不要または大きく削減できるという長所を有する。
以上のように、本発明の塩基性塩化第二鉄溶液の産業的意義は多大である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下において、本発明の塩基性塩化第二鉄溶液について更に詳細に説明する。
本発明の塩基性塩化第二鉄溶液は、塩基度が5〜60%であり、無機酸を含有し、平均分散粒子径が3〜50nmであることを特徴とするものである。
【0010】
塩基性塩化第二鉄は、ポリ塩化第二鉄とも称され、一般的には一般式〔Fe2(OH)nCl6-nm(但し、m>1)で示される無機高分子化合物である。その塩基度は、次のようにして求める。系内に存在するイオンを、XaFeb(OH)cCldYe(Xは価数αのカチオン、Yは価数βのアニオンとする)で示したときに、c を(a×α+b×3)−(d×1+e×β)より算出し、塩基度(%)をc/(b×3)×100で求める。但し、XとYが複数の場合、各XとYについてモル数×価数を計算しその合計をa×α、e×βとする。例えば、XがX1、X2、X3の場合は、a1×α1+a2×α2+a3×α3をa×αとする。
【0011】
本発明の塩基性塩化第二鉄溶液の塩基度の範囲について云えば、塩基度が5%未満では水処理剤としての塩基性塩化第二鉄の特性が低下し、塩基度が60%を超えると製造が困難となる。前記塩基度の好ましい範囲は10〜40%である。
【0012】
また、本発明の塩基性塩化第二鉄溶液は無機酸を含有することを特徴とするものである。無機酸としては、硫酸及びリン酸のうちいずれか一方又は双方を含有することが好ましい。
無機酸の含有量は、硫酸をSO4、リン酸をPO4としたとき、(SO4+PO4)/Fe(モル比)=0.05〜0.2の範囲であることが好ましい。前記モル比が0.05〜0.2の範囲を外れる場合、凝集性や保存安定性が悪くなる。
【0013】
また、本発明の塩基性塩化第二鉄溶液の平均分散粒子径は、3〜50nmの範囲である。前記範囲において、高い凝集効果、即ち高いフロック形成能が得られる。ここでいう平均分散粒子径とは、鉄(Fe)濃度1質量%の条件で(株)堀場製作所製「動的光散乱式粒径分布測定装置 LB−500」で測定した際のメジアン径のことである。
【0014】
本発明の塩基性塩化第二鉄溶液の鉄(Fe)濃度について云えば、概ね8〜12質量%の範囲であることが好ましい。8質量%を下廻ると、充分な凝集性能を得るために排水等に対して塩基性塩化第二鉄溶液を多量に注入する必要が生じ、また輸送上も経済的でない。一方、12質量%を超えると原料の濃度の関係から製造が困難となるだけでなく、安定性が悪くなる。
【0015】
本発明の塩基性塩化第二鉄溶液は、これを乾燥させて粉末とすることもできる。乾燥方法は、噴霧乾燥、気流乾燥等を用いた常法に従って乾燥すればよい。粉末化したものは、再度水に溶解、分散させることにより元の塩基性塩化第二鉄溶液と同等の効果を発揮することができる。
【0016】
本発明の塩基性塩化第二鉄溶液の製造方法は、塩化第二鉄と無機酸の混合溶液にアルカリ剤を添加するものである。
【0017】
塩化第二鉄としては、市販の試薬、工業用グレードのもの等、特に制限なく使用できるが、副生物等を用いる場合は重金属等をできるだけ含まないものを用いることが好ましい。また、固体の塩化第二鉄を用いる場合は、所定量の水に溶解させてから用いることが好ましい。
【0018】
無機酸としては、硫酸及びリン酸のうちいずれか一方又は双方を用いることが好ましい。無機酸の添加量は、硫酸をSO4、リン酸をPO4としたとき、得られる塩基性塩化第二鉄溶液中の(SO4+PO4)/Fe(モル比)=0.05〜0.2の範囲であることが好ましい。前記モル比の範囲内において凝集性や保存安定性がより向上する。
【0019】
塩化第二鉄と無機酸の混合方法については特に制限は無く、両者が充分に混合するように撹拌すればよい。また、両者を混合後一定時間撹拌することが好ましい。
【0020】
次に、アルカリ剤を添加する。アルカリ剤としては、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物、炭酸塩及び炭酸水素塩が好ましく、これらのうち1種以上を用いることができる。具体的には、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸水素カルシウム、炭酸水素マグネシウム等を例示できる。
【0021】
アルカリ剤の添加割合は、設定する塩基度に応じて適量添加すればよい。また、アルカリ剤の添加方法については特に制限は無く、アルカリ剤が十分溶解、反応するように混合・撹拌すればよい。固体のアルカリ剤を用いる場合は、固体のまま添加する方法、水に溶解させて溶液として添加する方法、又はスラリーとして添加する方法等適宜選択すればよい。アルカリ剤の添加後に、熟成工程として、溶解残渣を少なくするために一定時間撹拌を続けることが好ましい。尚、設定する鉄(Fe)濃度に応じて水を適宜添加しても良い。
【0022】
次に、溶解残渣を除去するために、ろ過することが好ましい。ろ過方法には特に制限は無く、フィルタープレス等の任意の方法でろ過すればよい。
以上の操作によって得られた本発明の塩基性塩化第二鉄溶液は、設定する鉄(Fe)濃度に応じて濃縮、あるいは、希釈を行ってもよい。
【0023】
本発明の塩基性塩化第二鉄溶液の製造方法における温度条件については特に限定は無く、塩基度、平均分散粒子径及び得られる凝集性能等の効果を勘案して、0〜90℃の範囲内で適宜設定すればよい。
【実施例】
【0024】
以下、本発明の詳細について実施例を挙げて説明するが、本発明はそれらの実施例によって限定されるものではない。尚、塩基度の%以外は、特に断らない限り%は全て質量%を示す。
【0025】
[原料]
原料は全て和光純薬工業株式会社製の試薬(特級グレード)を用いた。
尚、リン酸は85%溶液を用いた。塩化第二鉄溶液は、塩化鉄(III)六水和物630gを水370gに溶解したものを用いた。
【0026】
[実施例1]
塩化第二鉄溶液196.15gに対し、リン酸を5.26g添加した後、60分間撹拌した。次に、アルカリ剤として炭酸ナトリウム14.52gを用い、これを水14.52gに懸濁させたスラリーを添加し、30分間撹拌した。最後に、ろ紙(アドバンテック東洋株式会社製No.5Cろ紙)でろ過し、濃度調整を行い、塩基性塩化第二鉄溶液を得た。尚、製造時の温度条件は常温である。
【0027】
[実施例2、3]
表1の原料組成で実施例1と同様にして塩基性塩化第二鉄溶液を作成した。
【0028】
[比較例1]
リン酸を添加しなかった以外は、表1の原料組成で実施例1と同様にして塩基性塩化第二鉄溶液を作成した。
【0029】
【表1】

【0030】
上記実施例及び比較例で得られた塩基性塩化第二鉄溶液の性状を表2に示した。
【0031】
【表2】

【0032】
[比較例2]
塩化鉄(III)六水和物494gを水506gに溶解させた塩化第二鉄溶液(Fe:10.2%)を用いた。
【0033】
次に、上記実施例及び比較例の塩基性塩化第二鉄溶液及び塩化第二鉄溶液(以下、無機凝集剤と総称する)を安定性試験、凝集試験に供試した。
【0034】
[安定性試験]
無機凝集剤を50℃で7日間保存し、溶液の状態を観察した。変化の見られなかったものを○、多量に沈殿が生じたものを×とした。
【0035】
[凝集試験]
比較例1の塩基性塩化第二鉄溶液は上記安定性試験において安定性が悪かったため、本試験に供試しなかった。
・供試水
水道水に上水試験方法により調製した標準カオリンを分散懸濁させたものを使用した。
供試水の性状は、濁度:350度、pH7.75、水温:21℃である。
・ジャーテスト試験
供試水1000mlに、無機凝集剤を250ppm加え、急速撹拌(120rpm×3分)、緩速撹拌(40rpm×10分)を行い、10分間静置後、上澄水100mlを採取し、処理水pH、濁度、残留鉄濃度を測定した。
【0036】
上記試験結果を表2にまとめた。
【0037】
【表3】

【0038】
以上の結果より、本発明の塩基性塩化第二鉄溶液は、安定性に優れ、さらに塩化第二鉄溶液よりも凝集性能及び処理水中の残留鉄濃度の低減に優れた効果を有することが分かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩基度が5〜60%であり、無機酸を含有し、平均分散粒子径が3〜50nmであることを特徴とする塩基性塩化第二鉄溶液。
【請求項2】
無機酸が、硫酸及びリン酸のうちいずれか一方又は双方である請求項1記載の塩基性塩化第二鉄溶液。
【請求項3】
無機酸の含有量が、硫酸をSO4、リン酸をPO4としたとき、(SO4+PO4)/Fe(モル比)=0.05〜0.2の範囲である請求項1又は2記載の塩基性塩化第二鉄溶液。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項記載の塩基性塩化第二鉄溶液を乾燥して得られる塩基性塩化第二鉄粉末。
【請求項5】
塩化第二鉄と無機酸の混合溶液にアルカリ剤を添加することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項記載の塩基性塩化第二鉄溶液の製造方法。

【公開番号】特開2013−82567(P2013−82567A)
【公開日】平成25年5月9日(2013.5.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−221745(P2011−221745)
【出願日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【出願人】(000203656)多木化学株式会社 (58)
【Fターム(参考)】