説明

増粘剤

【課題】本発明の目的は、増粘効果が高い増粘剤を提供することにある。
【解決手段】本発明は、下記一般式(1)で表され、且つBET法による比表面積が80〜400 m2/gである炭酸基含有水酸化マグネシウム粒子よりなる増粘剤である。
Mg(OH)2-x(CO3)0.5x・mH2O・・・(1)
但し式中、x及びmは下記の条件を満足する。
0.02≦x≦0.7
0≦m≦1
さらに本発明は、前記炭酸基含有水酸化マグネシウム粒子を350〜900℃で焼成して得られたBET法による比表面積が30〜400 m2/gである酸化マグネシウム粒子よりなる増粘剤である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化性樹脂用増粘剤及びそれを使用した熱硬化性樹脂組成物、並びにその組成物からの成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱硬化性樹脂に充填材、硬化剤、増粘剤等を加えた樹脂組成物を強化繊維に含浸させた熱硬化性樹脂成形材料は、繊維強化プラスチック(FRP)と呼ばれ、機械的強度、耐熱性、耐水性、耐薬品性が優れているため、住宅資材、自動車部品、スポーツ用品、プリント回路用銅張積層板等に広く使用されている。熱硬化性樹脂の中でも不飽和ポリエステル樹脂は、他の熱硬化性樹脂と比べて増粘性や成形性に優れていることから、FRP用途には最も多く利用されている樹脂である。
【0003】
FRPの増粘には、通常、酸化マグネシウム粒子や水酸化マグネシウム粒子等の金属系増粘剤か、イソシアネート系増粘剤が古くから広く使用されている。〔特許文献1〕・〔特許文献2〕・〔特許文献3〕・〔特許文献4〕
【0004】
非特許文献1では、酸化マグネシウム粒子の増粘性をBET法比表面積と水分の影響を含めて評価している。BET法比表面積が大きい酸化マグネシウム粒子は増粘効果が高いが、水や二酸化炭素の吸着による経時変化が激しいため、安定した増粘物を得ることが難しい。その点、水酸化マグネシウム粒子はそれ自体が水和物のために経時変化は少ないが、酸化マグネシウム粒子より増粘効果が低いせいか、水酸化マグネシウム粒子の増粘性を比較分析した文献等はほとんど見られない。
【0005】
上述したように、酸化マグネシウム粒子やイソシアネート系増粘剤は反応性が高いがゆえに、水分(湿度)による変質が懸念され、保管には細心の注意が必要である。一方、水酸化マグネシウム粒子は、酸化マグネシウム粒子やイソシアネート系増粘剤と比べると保管安定性には優れているが、増粘効果が劣るため、多く添加する必要がある。
【0006】
本発明者は、水酸化マグネシウム粒子が生成する過程において、水酸化マグネシウム粒子の結晶成長を阻害するであろう二価アニオンを添加することによって、BET法比表面積が大きい水酸化マグネシウム粒子が得られるのではないかという着想を持ち、この着想の下に、マグネシウム塩溶液とアルカリ物質とをCO3イオンの存在下で反応させたところ、従来と比べてBET法比表面積が大きい炭酸基含有水酸化マグネシウム粒子が得られることを見出し先に提案した。これら炭酸基含有水酸化マグネシウムのBET法比表面積は80 m2/g以上であり、200 m2/g以上も可能である。〔特許文献5〕
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭62−73915号公報
【特許文献2】特開平6−200136号公報
【特許文献3】特開平8−225731号公報
【特許文献4】特開2001−71339号公報
【特許文献5】WO 2008/123566号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】真鍋忠;強化プラスチック Vol.45, No.7, p.20-22, 1999
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記問題点を解消するべくなされたものであり、増粘効果が高く、保管安定性に優れた熱硬化性樹脂用増粘剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は上述の問題点を改善するために鋭意検討した結果、BET法比表面積が大きい炭酸基含有水酸化マグネシウムが、従来の水酸化マグネシウムと比べて増粘効果が極めて高いことを見出し、本発明を完成させるに至った。本発明の増粘剤は、物理化学的に水酸化マグネシウムの性質を示すため、保管安定性にも優れている。
【0011】
本発明の炭酸基含有水酸化マグネシウム粒子からなる増粘剤のBET法比表面積の下限は80m2/gであり、好ましくは100m2/gであり、より好ましくは120m2/gである。一方、BET法比表面積の上限は400m2/gであり、好ましくは350m2/gであり、より好ましくは300m2/gである。
【0012】
さらに本発明者は、前記炭酸基含有水酸化マグネシウム粒子を350〜900℃で焼成して得られたBET法比表面積が30〜400 m2/gである酸化マグネシウム粒子が、従来の酸化マグネシウム粒子と比べて増粘効果が極めて高いことも見出した。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の内容を実施例及び比較例により詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【実施例1】
【0014】
塩化マグネシウム水溶液とアルカリ混液(NaOH:Na2CO3=30:1)を連続注加反応して得られたスラリーを水洗、乾燥、粉砕して、BET法比表面積が201m2/gである炭酸基含有水酸化マグネシウム粒子からなる増粘剤を得た。
【実施例2】
【0015】
実施例1の炭酸基含有水酸化マグネシウム粒子を400℃で1時間焼成して、BET法比表面積が240m2/gである酸化マグネシウム粒子からなる増粘剤を得た。
【実施例3】
【0016】
実施例1の炭酸基含有水酸化マグネシウム粒子を600℃で1時間焼成して、BET法比表面積が119m2/gである酸化マグネシウム粒子からなる増粘剤を得た。
比較例1
【0017】
Marine Magnesium Company製 水酸化マグネシウム粒子「Marinco H2」を増粘剤として用いた。BET法比表面積は32m2/gであった。
比較例2
【0018】
協和化学工業(株)製 水酸化マグネシウム粒子「キョーワスイマグF」を増粘剤として用いた。BET法比表面積は58m2/gであった。
比較例3
【0019】
協和化学工業(株)製 酸化マグネシウム粒子「MA40F」を増粘剤として用いた。BET法比表面積は44m2/gであった。
比較例4
【0020】
協和化学工業(株)製 酸化マグネシウム粒子「マグミック」を増粘剤として用いた。BET法比表面積は38m2/gであった。
<増粘性評価>
【0021】
上記実施例1〜3及び比較例1〜4の増粘剤について次の方法により増粘性評価をおこなった。下記の割合で混合した不飽和ポリエステル樹脂組成物を25℃の恒温槽に静置し、ヘリパススタンド付きB型粘度計(Brookfield社製)で経時的に粘度を測定した。水酸化マグネシウム粒子系増粘剤の粘度測定結果を表1に、酸化マグネシウム粒子系増粘剤の粘度測定結果を表2に示した。
不飽和ポリエステル樹脂(日本ユピカ(株)製 ユピカ7506) 100重量部
炭酸カルシウム(日東粉化(株)製 重質炭カル NS#100) 100重量部
増粘剤サンプル 0.7〜3重量部
【0022】
【表1】

【0023】
【表2】

【0024】
表1に示す通り、炭酸基含有水酸化マグネシウム系増粘剤である実施例1は、市販水酸化マグネシウム系増粘剤である比較例1や比較例2の半分以下の添加量で同等の増粘効果が得られた。
【0025】
また、表2に示す通り、炭酸基含有水酸化マグネシウム系増粘剤を焼成した増粘剤である実施例2や実施例3は、市販酸化マグネシウム系増粘剤である比較例3や比較例4と比較して増粘効果が極めて高いため、添加量をかなり削減できると推測される。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明によれば、増粘性に優れた熱硬化性樹脂増粘剤及び当該増粘剤を使用した熱硬化性樹脂及び当該熱硬化性樹脂を使用した熱硬化性樹脂成形材料(FRP)が提供される。炭酸基含有水酸化マグネシウム系増粘剤は、従来の水酸化マグネシウム系増粘剤と比べて増粘効果が極めて高く、物理化学的に水酸化マグネシウムの性質を示すため、酸化マグネシウム系増粘剤やイソシアネート系増粘剤と比べて保管安定性にも優れている。また炭酸基含有水酸化マグネシウム系増粘剤を焼成して得られる酸化マグネシウム系増粘剤も従来の酸化マグネシウム系増粘剤と比べて極めて活性が高いため、少ない添加量で増粘効果を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表され、且つBET法による比表面積が80〜400 m2/gである炭酸基含有水酸化マグネシウム粒子よりなる増粘剤。
Mg(OH)2-x(CO3)0.5x・mH2O・・・(1)
但し式中、x及びmは下記の条件を満足する。
0.02≦x≦0.7
0≦m≦1
【請求項2】
請求項1に記載の炭酸基含有水酸化マグネシウム粒子を350〜900℃で焼成して得られ、且つBET法による比表面積が30〜400 m2/gである酸化マグネシウム粒子よりなる増粘剤。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の増粘剤を含有することを特徴とする熱硬化性樹脂組成物。
【請求項4】
熱硬化性樹脂が不飽和ポリエステル樹脂である請求項3に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
熱硬化性樹脂がビニルエステル樹脂である請求項3に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項6】
増粘剤の添加量が熱硬化性樹脂100重量部に対して0.1〜5重量部であることを特徴とする請求項3〜5に記載の熱硬化性樹脂組成物。
【請求項7】
請求項3〜6に記載の熱硬化性樹脂組成物を硬化して得られた成形品。
【請求項8】
請求項3〜6の熱硬化性樹脂組成物および強化繊維よりなり、形状がシート状あるいはバルク状である熱硬化性樹脂成形材料。
【請求項9】
請求項8に記載の熱硬化性樹脂成形材料を硬化して得られた成形品。

【公開番号】特開2012−20885(P2012−20885A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−157522(P2010−157522)
【出願日】平成22年7月12日(2010.7.12)
【出願人】(000162489)協和化学工業株式会社 (66)
【Fターム(参考)】