説明

多孔膜及びこれを用いた反射板

【課題】植物起源の化合物を利用することによる環境適合性を有し、耐熱性に優れ、しかも可視光に対し高い反射率を示す多孔膜及びこれを用いた反射板を提供する。
【解決手段】デヒドロアビエチン酸に由来する骨格を繰り返し単位に含む特定重合体を含んでなり、内部に空孔を有する多孔膜。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は多孔膜及びこれを用いた反射板に関する。
【背景技術】
【0002】
空孔を含有するフィルムやシート材には光の反射性を示すものがあり、その断熱性やクッション性、軽量性から、例えば電子機器の照明用部材、一般家庭照明用部材、内照看板などの反射材として使用されている。特に近年では、液晶テレビやコンピュータの普及とともに、液晶反射板用途において、より高い反射率を示し、耐熱性を有し、軽量な反射板が求められている。
そこで、前記反射板に応用可能な技術として、樹脂フィルムを成形する際、加圧下で不活性ガスと接触させて、樹脂フィルムに不活性ガスを含浸させ、大気圧下で延伸した多孔性延伸樹脂フィルムがある(特許文献1、2)。また、ポリエチレンテレフタレートに無機粒子を混ぜて延伸することでボイドの形成を行っている反射フィルムもある(特許文献3)。このような延伸樹脂フィルムからなる多孔膜は、その空孔により表面に微細な凹凸が形成されることから、可視光を反射させた場合に全反射率に対する拡散反射率が高くなり、反射板の用途に好適である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−8942号公報
【特許文献2】特開2009−244749号公報
【特許文献3】特開2011−25473号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1〜3に記載されているフィルムには化石燃料由来のポリマーが用いられており、昨今の環境問題の観点からは二酸化炭素の換算排出量の低い天然資源由来のものへの代替が望まれる。天然資源由来の多孔膜は従来、耐熱性が十分でなく、反射板に用いることができなかった。また、より簡便な方法で独立孔を形成した多孔膜を得ることが要望されていた。
ところで、本出願人は先に天然資源由来のアビエタン系の化合物に注目し、これを重合体とすることに成功した。そしてその重合体の物性を確認し、高耐熱性および耐湿耐水性を発現させることができることを見出した(特開2011−26569号公報、特開2011−74249号公報)。その後の研究開発を通じ、上記重合体を溶液キャスト法等の簡便な方法で独立孔を有する多孔膜にできることを発見した。このような独立孔の形成は上記重合体特有の現象であり、同じ方法を用いてもバイオマスポリマーであるセルロースエステルでは貫通孔になってしまう。
【0005】
すなわち本発明は、植物起源の化合物を利用することによる環境適合性を有し、耐熱性に優れ、しかも可視光に対し高い反射率を示す多孔膜及びこれを用いた反射板の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題は下記の手段により解決された。
(1)デヒドロアビエチン酸に由来する骨格を繰り返し単位に含む特定重合体を含んでなり、内部に空孔を有する多孔膜。
(2)前記デヒドロアビエチン酸に由来する骨格が下記一般式(U)で表される構造を含む(1)に記載の多孔膜。
【0007】
【化1】

(R及びRは炭素原子数1〜6のアルキル基もしくはアルケニル基を表す。n、mは0〜2を表す。環Cyはヘテロ原子を含んでもよい飽和もしくは不飽和の6員環もしくは7員環を表す。式中、*,**は結合手を表す。*はRから延びる結合手であってもよい。)
(3)前記特定重合体が下記一般式A1又はA2で表される繰り返し単位を含む重合体から選ばれる(1)又は(2)に記載の多孔膜。
【0008】
【化2】

【0009】
(式中、L11、L12、L21、L22、及びL23は、2価の連結基を表す。*は結合手を表す。)
(4)前記一般式A1中、連結基L11が式中2位で示される炭素原子と結合した(1)〜(3)のいずれか1項に記載の多孔膜。
(5)前記一般式A2中、連結基L23が式中2位及び2’位で示される炭素原子と結合した(1)〜(4)のいずれか1項に記載の多孔膜。
(6)式A1中のL11が、*−L13−CO−**(*はヒドロフェナントレン環側の結合手を表す。**はその逆の結合手を表す。)で表され、L13が、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、アリーレン基、酸素原子、又は単結合であり、L12がカルボニル基もしくはカルボニルオキシ基である(1)〜(5)のいずれか1項に記載の多孔膜。
(7)式A2中のL21及びL22がカルボニル基もしくはカルボニルオキシ基であり、L23が酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基、アルキレン基、アルケニレン基、アリーレン基、又は単結合である(1)〜(6)のいずれか1項に記載の多孔膜。
(8)さらに、前記特定重合体が、環構造を含むジオール化合物由来の繰り返し単位を含む(1)〜(7)のいずれか1項に記載の多孔膜。
(9)前記環構造を含むジオール化合物由来の繰り返し単位が、下記一般式(B1)で表される(8)に記載の多孔膜。
【0010】
【化3】

【0011】
(Lは、酸素原子、カルボニル基、スルホニル基、アルキレン基、又は単結合である。Lが複数存在するとき、そのそれぞれは同じでも異なっていてもよい。R及びRは、それぞれ独立して、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基を表し、互いに結合して環を形成していてもよい。R及びRが複数存在するとき、そのそれぞれは同じでも異なっていてもよい。n1及びn2はそれぞれ独立して0〜4の整数を表す。n3は0〜2の整数を表す。*は結合手を表す。)
(10)前記空孔が、平均孔径が0.5μm以上50μm以下の独立孔である(1)〜(9)のいずれか1項に記載の多孔膜。
(11)前記空孔が相分離を利用した溶液キャスト法で製造される(1)〜(10)のいずれか1項に記載の多孔膜。
(12)(1)〜(11)のいずれか1項に記載の多孔膜を含んでなる反射板。
【発明の効果】
【0012】
本発明の多孔膜及びこれを用いた反射板は、植物起源の化合物を利用したものであり、二酸化炭素の換算排出量の低減に大いに資する環境適合性を有する。さらに、耐熱性、反射率に優れ、熱収縮に強く、しかも溶液キャスト法により簡便に独立孔を有する多孔膜とすることができるという優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の一実施形態としての反射板を用いた液晶装置のバックライト周辺の機構を模式的に示した斜視図である。
【図2】実施例で作製したフィルムの表面を示す電子顕微鏡写真に係る図面代用写真である。
【図3】実施例で調製した試料のTgを求めるためのDMAチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の多孔膜は、植物起源の化合物を利用した特定重合体からなる。この多孔膜は植物由来でありながら非常に高い耐熱性を有し、熱収縮に強い。この理由は未解明の点を含むが、以下のように推定される。すなわち、上記特定重合体は、デヒドロアビエチン酸に由来する骨格を有する化学構造的に安定した三環状部分が母格として二次元的に連結したことにより、特有のマトリックスが樹脂中に作出されるためと考えられる。このような材料はこれまでなく、特にバイオマス資源を用いて得られる従来のバイオマスポリマーは、通常、耐熱性に劣る。本発明に利用される上記特定重合体は、バイオマス資源に由来する原料を用いることができるにも拘らず、上記のごとく優れた耐熱性を示す。以下、本発明の好ましい実施態様を中心に詳細に説明する。
【0015】
[特定重合体]
(デヒドロアビエチン酸に由来する骨格を含む繰り返し単位)
本発明の特定重合体は、下記式(AA)で表されるデヒドロアビエチン酸又はその誘導体を原料モノマーとして使用する。これを重合させて得られる単独重合体であっても、当該原料モノマーと他のモノマーとを重合させて得られる共重合体であってもよい。すなわち、上記特定重合体は、その分子構造中にデヒドロアビエチン酸に由来する骨格を含む繰り返し単位を有してなる。
【0016】
【化4】

【0017】
ここで、本発明において「デヒドロアビエチン酸に由来する骨格」とは、上記のデヒドロアビエチン酸に由来する構造を有していればよく、言い変えれば、所望の効果を奏する範囲で、デヒドロアビエチン酸から誘導化できる構造骨格であればよい。好ましい例としては下記が挙げられる。
【0018】
【化5】

【0019】
「デヒドロアビエチン酸に由来する骨格」はさらに置換基を有してもよい。有してもよい置換基の例としては、アルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子、水酸基、カルボニル基、ニトロ基、アミノ基などが挙げられる
【0020】
好ましくは(AA−1)、(AA−3)、(AA−10)であり、最も好ましくは(AA−1)である。
【0021】
本発明の特定重合体においては、一般式化していうと、前記デヒドロアビエチン酸に由来する骨格として下記一般式(U)で表される構造を含むことが好ましい。
【0022】
【化6】

及びRは炭素原子数1〜6のアルキル基もしくはアルケニル基を表す。n、mは0〜2を表す。環Cyはヘテロ原子を含んでもよい飽和もしくは不飽和の6員環もしくは7員環を表す。式中、*,**は結合手を表す。*はRから延びる結合手であってもよい。Rはメチル基であることが好ましい。Rは炭素原子数1〜4のアルキル基であることが好ましく、i−プロピル基であることがより好ましい。Cyはシクロヘキサン環もしくはシクロヘキセン環であることが好ましく、シクロヘキサン環であることがより好ましい。n,mは1であることが好ましい。
【0023】
上記一般式(U)は下記一般式(U1)であることが好ましい。
【0024】
【化7】

式中、*,**は結合手を表す。Rは一般式(U)と同義である。
【0025】
デヒドロアビエチン酸は、植物起源の松脂に含まれるロジンを構成する成分の1つである。すなわち、天然起源の材料をその基質として利用することができるため、二酸化炭素の排出量において相殺され、化石燃料起源のプラスチック材料に比し、大幅にその換算排出量を削減することができる。次世代材料として望まれる環境適合型の、バイオマス資源由来の素材である。なお、上記デヒドロアビエチン酸に由来する骨格、式UないしはU1で表される骨格を総称してデヒドロアビエタン主骨格と呼ぶことがあり、これを「DA主骨格」と省略して呼ぶことがある。
さらに、本発明の好ましい実施形態において重要な骨格構造として、下記式U2及びU3で表されるものが挙げられる。下記式U2のものをデヒドロアビエタン骨格(DA骨格)と呼び、式U3のものをデヒドロアビエチン酸骨格(DAA骨格)という。
【0026】
【化8】

【0027】
前記特定重合体は、下記一般式A1又はA2で表される繰り返し単位を含む重合体から選ばれることが好ましい。
【0028】
【化9】

(式中、L11、L12、L21、L22、及びL23は、2価の連結基を表す。*は結合手を表す。)
【0029】
前記一般式A1中、連結基L11が式中2位で示される炭素原子と結合したことが好ましい。前記一般式A2中、連結基L23が式中2位及び2’位で示される炭素原子と結合したことが好ましい。
【0030】
(分子量等)
本発明における特定重合体は、DA主骨格を主鎖の一部を構成するように含んでいれば、その結合態様は特に限定されるものではない。前記特定重合体の質量平均分子量は限定的でないが、好ましくは5,000〜700,000、より好ましくは10,000〜500,000である。質量平均分子量がこの範囲であることにより、反射板に適した、耐熱性が実現され良好となる。なお、本発明における質量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフェィー(GPC)による分子量測定(ポリスチレン換算)で得られた値である。なお、本発明における質量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフェィー(GPC)による分子量測定(ポリスチレン換算)で得られた値である。なお、本明細書では特に断らない限り、キャリアとしてはN−メチル−2−ピロリドンを用い、カラムとしてはトーソー(TOSOH)株式会社製 TSK−gel Super AWM−H(商品名)用いた値で分子量を示す。
【0031】
ガラス転移温度(Tg)は限定的でないが、好ましくは100℃以上、より好ましくは150〜400℃、更に好ましくは150〜350℃である。ガラス転移温度がこの範囲であることにより、ポリエステル系重合体は、特に耐熱性に優れ、反射板に好適に用いることができる。前記ガラス転移温度は、試料が粉体の場合、示差走査熱量計(DSC)を用い、30〜400℃の温度範囲について、窒素気流下に昇温速度10℃/min.の条件で測定する。具体的には実験化学講座(日本化学会編、丸善株式会社発行)第5版6巻の48ページから49ページにあるように、転移前後のベースラインと転移スロープの最大傾斜の接線との交点から補外ガラス転移開始温度と補外ガラス転移終了温度を読み取る.さらに転移の中点から中間点ガラス転移温度を読み取り、これを本件では試料が粉体の場合のTgとする。本発明においては、上記に代え、後述するとおり、動的粘弾性測定装置(DMA)を用い、フィルムのTgを測定し、それをTgとして定義してもよい。フイルムのTgは特に断らない限り、後記実施例で示した方法及び条件により求めるものとする。
【0032】
前記特定重合体の密度は限定的でないが、好ましくは1.25g/cm以下、より好ましくは0.90g/cm〜1.25g/cm、更に好ましくは1.00g/cm〜1.20g/cmである。密度がこの範囲であることにより、特定重合体は、耐熱性に優れ、反射板等への利用に良好となる。なお、ポリエステル系重合体の密度は、精密比重計AUW120D(SHIMADZU社製)を用いて測定される値をいう。
【0033】
なお、前記特定重合体には、DA主骨格を含む繰返し単位を有するものに対して、更に化学処理等を施した誘導体も含む。
【0034】
前記特定重合体を構成する一般式(A1)で表される繰り返し単位及び一般式(A2)で表される繰り返し単位の総含有率は特に制限されないが、繰り返し単位を構成する構造部の総量(例えば下記エステル系重合体のジカルボン酸化合物由来の繰り返し単位の総量)に対し、耐熱性と密度の観点から、10モル%以上であることが好ましく、20モル%以上であることがより好ましく、30モル%以上であることがより好ましく、40モル%以上であることが更に好ましい。
【0035】
前記特定重合体は、必要に応じて、DA主骨格を含まないその他の繰り返し単位の少なくとも1種を含んだ共重合体であってもよい。
【0036】
(連結形態)
一般式A1及びA2には、L11、L12、L21、L22、L23の5つの連結基が存在するが、L23以外の4つの連結基については、(1)ポリエステル系重合体[I]、(2)ポリエステル系重合体[II]の2種においてそれぞれ好ましいものが異なる。中でも、本発明においては、(1)ポリエステル系重合体が高い性能が得られる点で好ましく、その順で以下に好ましい連結基の内容について説明する。なお、本明細書においてポリエステルとは、連結基にオキシカルボニル基があればよく、ポリカーボネート構造をとっていてもよい。ポリアミドについても同様であり、アミド基が連結基に含まれていればよく、ポリイミド構造、ポリウレア構造、ポリウレタン構造等であってもよい。
【0037】
(1)ポリエステル系重合体[I]
<ジカルボン酸化合物由来の繰り返し単位>
〜一般式A1で表される繰り返し単位〜
・L11
式A1中のL11は、*−CO−L13−**又は*−L13−CO−**(*は5,6,7,8,9,10−ヘキサヒドロフェナントレン環(母核)側の結合手を表す。**はその逆の結合手を表す。)であることが好ましい。L13は、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、アリーレン基、酸素原子、又は単結合であることが好ましい。なお、本明細書においては、「連結基」という用語を、2つの構造部を連結するものであれば、原子や単結合を含む意味で用いる。
【0038】
前記アルキレン基及びアルケニレン基は、直鎖又は分岐鎖の鎖状であっても、環状であってもよい。L13は、耐熱性の観点から、炭素数2〜10のアルキレン基、炭素数2〜10のアルケニレン基、炭素数6〜18のアリーレン基、酸素原子、又は単結合であることが好ましい。より好ましくは、炭素数2〜4の鎖状のアルキレン基、炭素数5〜6の環状のアルキレン基、炭素数2〜4の鎖状のアルケニレン基、炭素数5〜6の環状のアルケニレン基、炭素数6〜10のアリーレン基、酸素原子、又は単結合である。
【0039】
本明細書において「化合物」という語を末尾に付して特定の分子を呼ぶときには、当該化合物そのものに加え、その塩、錯体、そのイオンを含む意味に用いる。また、所望の効果を奏する範囲で、所定の置換基を伴ったあるいは所定の形態で修飾された誘導体を含む意味である。また、本明細書において置換基ないし連結基に関して「基」という語を末尾に付して特定の原子群を呼ぶときには、その基に任意の置換基を有していてもよい意味である。上記、連結基にさらに有してもよい置換基としては、下記置換基Tが挙げられる。
【0040】
これらアルキル基に代表される炭化水素基は、さらに置換基を有するものであってもよく、導入可能な好ましい置換基(以下、置換基Tという。)としては、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、ヘテロ環基、シアノ基、ニトロ基、アルコキシ基、シリルオキシ基、アシルオキシ基、カルバモイルオキシ基、カルボニルオキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、アリールオキシカルボニルオキシ基、アミノ基、アシルアミノ基、アミノカルボニルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、スルファモイルアミノ基、アルキルスルホニルアミノ基、アリールスルホニルアミノ基、メルカプト基、アルキルチオ基、アリールチオ基、ヘテロ環チオ基、スルファモイル基、アルキルスルフィニル基、アリールスルフィニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、アシル基、アリールオキシカルボニル基、アルコキシカルボニル基、カルバモイル基、シリル基などが挙げられる。
置換基としてより好ましくは、アルキル基、アリール基、ヒドロキシ基、アルコキ
シ基、ハロゲン原子等を挙げることができる。
【0041】
13で表される連結基の具体例として以下のものを挙げることができるが、本発明がこれに限定して解釈されるものではない。なお、以下の例示化学構造式では、結合手*はヒドロフェナントレン環に結合する側であり、結合手**がその反対側を意味する。
【0042】
【化10】

【0043】
一般式(A1)におけるL13としては、耐熱性の観点から、単結合、(L1−ex−4)、(L1−ex−10)又は(Ll−ex−12)であることが好ましく、単結合であることがより好ましい。
【0044】
前記一般式A1中、連結基L11は式中1位、2位、4位のいずれの炭素原子に結合するものであってもよいが、2位もしくは4位で示される炭素原子と結合したものであることが好ましく、2位で示される炭素原子と結合したものであることがより好ましい。なお、この結合位置は、後述する(2)ポリエステル重合体[II]についても同様である。なお、上記式中の炭素原子の位置番号は、アビエタンの位置番号に対して、1位が11位、2位が12位、3位が13位、4位が14位に相当する。
【0045】
・L12
12は、カルボニル基もしくはカルボニルオキシ基であることが好ましい。換言すると、このポリエステル系重合体[I]に係る実施形態においては、DA主骨格がDAA骨格を構成している。
【0046】
前記ポリエステル系重合体[I]の好適な態様のもう一つは、2つのデヒドロアビエタン主骨格が直接又は連結基を介して結合してなる二量体構造を、主鎖の一部として繰り返し単位中に含むものである。この二量体構造を含む繰り返し単位は、例えば、上記一般式(A2)で表される。
【0047】
〜一般式A2で表される繰り返し単位〜
・L21、L22
式A2中のL21及びL22及は、カルボニル基もしくはカルボニルオキシ基であることが好ましい。このことは、上記L12と同様に、本実施形態の特定重合体が、DAA骨格を含む繰り返し単位を有して構成されていることを意味する。
【0048】
・L23
23は、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基、アルキレン基、アルケニレン基、アリーレン基、又は単結合であることが好ましい。前記アルキレン基及びアルケニレン基は、直鎖又は分岐鎖の鎖状であっても、環状であってもよい。L23で表される連結基は、耐熱性の観点から、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基、炭素数2〜10のアルキレン基、炭素数2〜10のアルケニレン基、及び炭素数6〜18のアリーレン基からなる群から選択される少なくとも1種から構成されることが好ましく、酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基、炭素数2〜4の鎖状のアルキレン基、炭素数5〜6の環状のアルキレン基、炭素数2〜4の鎖状のアルケニレン基、炭素数5〜6の環状のアルケニレン基、及び炭素数6〜8のアリーレン基からなる群から選択される少なくとも1種から構成される2価の連結基、又は単結合であることがより好ましい。
【0049】
23で表される連結基を構成するアルキレン基、アルケニレン基及びアリーレン基は可能な場合には置換基を有していてもよい。アルキレン基、アルケニレン基及びアリーレン基における置換基としては、前記置換基Tを挙げることができる。L23で表される連結基の具体例として、以下の連結基を挙げることができるが、本発明はこれらに限定されない。
【0050】
【化11】

【0051】
23としては、耐熱性の観点から、(L2−ex−2)、(L2−ex−5)、(L2−ex−9)又は(L2−ex−11)であることが好ましく、(L2−ex−2)であることがより好ましい。
【0052】
前記一般式A2中、連結基L11は式中1位、2位、4位、1’位、2’位、4’位のいずれの炭素原子に結合するものであってもよいが、2位、4位、2’位、及び4’位で示される炭素原子と結合したものであることが好ましく(ただし、2つのヒドロフェナントレン環を連結する組合せである。)、2位及び2’位で示される炭素原子と結合したものであることがより好ましい。なお、この結合位置は、後述する(2)ポリエステル系重合体[II]についても同様である。
【0053】
前記ポリエステル系重合体[I]を構成するジカルボン酸化合物由来の繰り返し単位中における一般式(A1)で表される繰り返し単位及び一般式(A2)で表される繰り返し単位総含有率は特に制限されないが、ジカルボン酸化合物由来の繰り返し単位の総量を50モル%とした場合、耐熱性と密度の観点から、10モル%以上であることが好ましく、20モル%以上であることがより好ましく、30モル%以上であることがより好ましく、40モル%以上であることが更に好ましい。
【0054】
本実施形態のポリエステル系重合体[I]は、その他のジカルボン酸化合物との共重合体であってもよい。その他のジカルボン酸化合物しては、ポリエステル系重合体[I]を構成するのに通常用いられるジカルボン酸化合物を特に制限なく用いることができ、例えば、合成高分子V(朝倉書店)P.63−91等に記載のジカルボン酸化合物を用いることができる。
【0055】
その他のジカルボン酸化合物としては例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、及びナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸類や、シクロヘキサンジカルボン酸、ジシクロヘキサンジカルボン酸、アジピン酸等の脂肪族ジカルボン酸類が挙げられる。前記ポリエステル系重合体[I]におけるその他のジカルボン酸化合物由来の繰り返し単位の含有率は、本発明の効果を損なわない範囲であれば特に制限されない。例えば,その他のジカルボン酸化合物由来の繰り返し単位の含有率は、前記ポリエステル系重合体[I]を構成するジカルボン酸化合物由来の繰り返し単位中に、40モル%以下であることが好ましく、30モル%以下であることがより好ましい。
【0056】
<ジオール化合物由来の繰り返し単位>
・環構造を含むジオール化合物
本実施形態のポリエステル系重合体[I]は、環構造を有するジオール化合物由来の繰り返し単位を少なくとも1種を含むことが好ましい。前記ジオール化合物に含まれる環構造は、ポリエステル系重合体[I]の側鎖部分に含まれていても、主鎖の一部を構成するように含まれていてもよいが、耐熱性の観点から、ジオール化合物に含まれる環構造が主鎖の一部を構成していることが好ましい。これによりさらに耐熱性が向上する。
【0057】
前記ジオール化合物に含まれる環構造は、脂肪族環であっても、芳香族環であってもよく、また炭化水素環であってもヘテロ環であってもよい。さらに脂肪族環は不飽和結合を含むものであってもよい。またジオール化合物に含まれる環の数は特に制限されないが、例えば1〜5とすることができ、耐熱性の観点から,1〜3であることが好ましく、1〜2であることがより好ましい。ジオール化合物が2以上の環構造を含む場合、2以上の単環が共有結合又は連結基で連結した構造であっても、縮環構造であってもよい。
【0058】
前記環構造を有するジオール化合物由来の繰り返し単位の具体例としては、例えば,シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、1,4−ビス(2−ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、1,4−ビス(2−ヒドロキシプロポキシ)ベンゼン、及び4−ヒドロキシエチルフェノール等に由来する繰り返し単位や、下記一般式(B1)で表されるジオール化合物由来の繰り返し単位を挙げることができる。前記環構造を有するジオール化合物由来の繰り返し単位は、耐熱性の観点から、下記一般式(B1)で表されるジオール化合物由来の繰り返し単位であることが好ましい。
【0059】
【化12】

【0060】
一般式(B1)中、Lは、酸素原子、カルボニル基、スルホニル基、及びアルキレン基からなる群から選ばれる少なくとも1種から構成される2価の連結基、又は、単結合を表す。Lが複数存在する場合、それぞれのLは同じでも異なっていてもよい。R及びRはそれぞれ独立して、ハロゲン原子、アルキル基、及びアルコキシ基からなる群から選ばれる置換基を表し、互いに結合して環を形成してもよい。またR及びRが複数存在する場合、それぞれのR及びRは同じでも異なっていてもよい。n1及びn2はそれぞれ独立して0〜4までの整数を表し、n3は0〜2までの整数を表す。
【0061】
における2価の連結基を構成するアルキレン基は、直鎖や分岐鎖の鎖状アルキレン基であっても、環状アルキレン基であってもよい。またアルキレン基の炭素数は、耐熱性の観点から、1〜6であることが好ましく、1〜4であることがより好ましい。なお、ここでいうアルキレン基の炭素数には、後述する置換基の炭素数を含まないものとする。さらにアルキレン基は、炭素数1〜6の鎖状又は環状アルキル基、炭素数6〜18のアリール基等の置換基を有していてもよい。アルキレン基における置換基の数は2以上であってもよく、アルキレン基が2以上の置換基を有する場合、2以上の置換基は同一でも異なっていてもよく、また互いに連結して環を形成してもよい。
【0062】
及びRはそれぞれ独立して、ハロゲン原子、アルキル基、及びアルコキシ基からなる群から選ばれる置換基を表すが、耐熱性の観点から、フッ素原子、塩素原子、炭素数1〜8のアルキル基、及び炭素数1〜8のアルコキシ基からなる群から選ばれる置換基であることが好ましい。
【0063】
n1及びn2は0〜4の整数を表すが、0〜2の整数であることが好ましく、0又は1であることがより好ましく、0であることがさらに好ましい。n3は0〜2の整数を表すが、0又は1であることが好ましい。
【0064】
以下に一般式(B1)で表される繰り返し単位の具体例を示すが、本発明はこれらに限定されない。
【0065】
【化13】

【0066】
一般式(B1)で表される繰り返し単位としては、耐熱性の観点から.上記(B1−ex−1)、(B1−ex−2)、(B1−ex−3)、(B1−ex−4)、(B1−ex−5)、(B1−ex−6)又は(B1−ex−11)であることが好ましく、上記(B1−ex−1)、(B1−ex−2)又は(B1−ex−3)であることがより好ましい。
【0067】
前記ポリエステル系重合体[I]を構成するジオール化合物由来の繰り返し単位中における、一般式(B1)で表される繰り返し単位の含有率は特に制限されないが、ジオール化合物由来の繰り返し単位の総量を50モル%とした場合、耐熱性と密度の観点から、10モル%以上であることが好ましく、20モル%以上であることがより好ましく、30モル%以上であることがより好ましく、40モル%以上であることが更に好ましい。
【0068】
・環構造を含まないジオール化合物
前記ポリエステル系重合体[I]は、環構造を含まないその他のジオール化合物由来の繰り返し単位の少なくとも1種を含むものであってもよい。環構造を含まないジオール化合物としては、ポリエステル系重合体[I]を構成するのに通常用いられるジオール化合物を特に制限なく用いることができ、例えば、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1.3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−ドデカンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール等といったジオール化合物が挙げられる。
前記ポリエステル系重合体[I]における環構造を含まないジオール化合物由来の繰り返し単位の含有率は、その好ましい範囲において、前記環構造を含むものと同様である。
【0069】
本実施形態のポリエステル系重合体[I]は、耐熱性の観点から、ジカルボン酸化合物由来の繰り返し単位として、下記の構造の少なくとも1つずつを有する組合せに係るものであることが好ましい。
【0070】
・ジカルボン酸化合物由来の繰り返し単位
一般式(A1)・・・L11がカルボニル基、化学式(L1−ex−4)、(L1−ex−10)又は(L1−ex−12)、L12がカルボニル基
一般式(A2)・・・L23が化学式(L2−ex−2)、(L2−ex−5)、(L2−ex−9)又は(L2−ex−11)、L21及びL22がカルボニル基
・ジオール化合物由来の繰り返し単位
化学式(B1−ex−1)、(B1−ex−2)、(B1−ex−3)、(B1−ex−4)、(B1−ex−5)、(B1−ex−6)又は(B1−ex−11)
【0071】
より好ましくは下記である。
・ジカルボン酸化合物由来の繰り返し単位
一般式(A1)・・・L11がカルボニル基
一般式(A2)・・・L23が(L2−ex−2)、L21及びL22がカルボニル基
・ジオール化合物由来の繰り返し単位
化学式(B1−ex−1)、(B1−ex−2)、(B1−ex−3)又は(B1−ex−4)
【0072】
更に好ましくは下記である。
・ジカルボン酸化合物由来の繰り返し単位
化学式(L1−ex−1)、(L2−ex−1)
・ジオール化合物由来の繰り返し単位
化学式(B1−ex−1)、(B1−ex−2)、(B1−ex−3)、(B1−ex−4)
【0073】
本実施形態のポリエステル系重合体[I]を構成するジカルボン酸化合物由来の繰り返し単位とジオール化合物由来の繰り返し単位の含有比率(ジカルボン酸化合物由来の繰り返し単位:ジアミン化合物由来の繰り返し単位)は、特に制限されないが、通常1:1である。
【0074】
(ポリエステル系重合体[I]の製造方法)
本実施形態のポリエステル系重合体[I]の製造に用いるデヒドロアビエチン酸は、例えば、ロジンから得ることができる。ロジンに含まれる構成成分は、これら採取の方法や松の産地により異なるが、一般的には、アビエチン酸(1)、ネオアビエチン酸(2)、パラストリン酸(3)、レボピマール酸(4)、デヒドロアピエチン酸(5)、ピマール酸(6)、イソピマール酸(7)等のジテルペン系樹脂酸の混合物である。これらのジテルペン系樹脂酸のうち、(1)から(4)で表される各化合物は、ある種の金属触媒の存在下、加熱処理することにより不均化を起こし、デヒドロアビエチン酸(5)と、下記構造のジヒドロアビエチン酸(8)に変性する。即ち、本発明のポリエステル系重合体[I]を製造する上で必要なデヒドロアビエチン酸(5)は、種々の樹脂酸の混合物であるロジンに適切な化学処理を施すことにより比較的容易に得ることができ、工業的にも安価に製造することができる。なお、ジヒドロアビエチン酸(8)とデヒドロアビエチン酸(5)とは、公知の方法により容易に分離できる。
【0075】
【化14】

【0076】
例えば、上記の一般式(A1)又は(A2)で表される繰り返し単位及び一般式(B1)で表される繰り返し単位を有するポリエステル系重合体[I]を合成する工程は、一般式(B1)で表される繰り返し単位をなすジオール化合物と、上記の一般式(A1)又は(A2)で表される繰り返し単位をなすジカルボン酸化合物又はその誘導体であるジカルボン酸ハライド誘導体もしくはジエステル誘導体とを公知の方法で重縮合させることにより合成することができる。この一連の工程をスキームにすると下記スキーム1及び2の2通りに分けて説明することができる。なお、下記の反応スキームは本発明における1例であり、この説明により本発明が限定して解釈されるものではない。
【0077】
【化15】

【0078】
【化16】

【0079】
重合体の具体的な合成方法としては、例えば、新高分子実験学3、高分子の合成・反応(2)、78〜95頁、共立出版(1996年)に記載の方法(例えば、エステル交換法、直接エステル化法、酸ハライド法等の溶融重合法、低音溶液重合法、高温溶液重縮合法、界面重縮合法など)などが挙げられ、本発明では特に酸クロリド法及び界面重縮合法が好ましく用いられる。
【0080】
エステル交換法は、ジオール化合物とジカルボン酸エステル誘導体とを溶融状態又は溶液状態で、必要により触媒の存在下に加熱することにより脱アルコール重縮合させポリエステル系重合体[I]を合成する方法である。
【0081】
直接エステル化法は、ジオール化合物とジカルボン酸化合物とを溶融状態又は溶液状態で触媒の存在下に,加熱下において脱水重縮合させることによりポリエステル系重合体[I]を合成する方法である。
【0082】
酸ハライド法は、ジオール化合物とジカルボン酸ハライド誘導体とを溶融状態又は溶液状態で、必要により触媒の存在下に加熱し脱ハロゲン化水素重縮合させることによりポリエステル系重合体[I]を合成する方法である。
【0083】
界面重合法は、ジオール化合物を水、前記ジカルボン酸化合物又はその誘導体を有機溶媒に溶解させ、相問移動触媒を使用して水/有機溶媒界面で重縮合させることによりポリエステル系重合体[I]を合成する方法である。
【0084】
なお、スキーム2のデヒドロアビエチン酸(DAA)の二量化体は、特開2011−26569記載の方法で合成できる。具体的には、L23を単結合で連結する場合、オキサリルクロリドを用い触媒量のN,N−ジメチルホルムアミドを添加して反応を進行させることができる。L23をメチレン基とする場合には、上記オキサリルクロリドをジクロロメタンに代える方法などが挙げられる。あるいは、下記合成例のように、DAAをホルマリンと混合し、触媒量のトリフルオロ酢酸を添加することで反応を進行させてもよい。
【0085】
(2)ポリエステル系重合体[II]
本実施形態においては連結基がそれぞれ以下のものであることが好ましい。
・L11
11は、単結合、*−L1A−O−**、又は*−L1A−CO−**である。*はヒドロフェナントレン環側の結合手を表し、**はその逆の結合手を表す。L1Aで示される二価の連結基としては特に限定的ではないが、例えば、−(C2n)−、−CO(C2n)−、(ここで、nは1〜12、好ましくは1〜8の整数であり、直鎖でも分岐でも環状でもよくまた、更に置換基を有していてもよい。また、分子鎖を構成する炭素原子の1つ以上が、酸素原子に置き換わった構造であってもよい。)等が挙げられる。L1Aに結合する原子が酸素原子のときには、好ましくは−(CH−、−(CH5−、又は−(CH−等である。L1Aに結合する原子がカルボニル基のときには、好ましくは−(CH−、−(CH−、−(CH−、−CO(CH−、−CO(CH−、又は−CO(CH−等である。
【0086】
・L12
12は、*−CH−O−**である。*はヒドロフェナントレン環側の結合手を表し、**はその逆の結合手を表す。
【0087】
・L21
21は、*−CH−O−**であり、*−CH−O−CO−(L2A−CO)−**であることが好ましい。*はヒドロフェナントレン環側の結合手を表し、**はその逆の結合手を表す。L2Aはアルキレン基又はアリーレン基を表す。アルキレン基の好ましい炭素数は1〜20であり、特に好ましくは2〜12である。アルキレン基は、直鎖、分岐及び環状のいずれでもよく、また、更に置換基を有していてもよい。アルキレン基は、分子鎖を構成する炭素原子の1つ以上が、酸素原子に置き換わった構造であってもよい。アルキレン基として、具体的には、例えば、−CH−、−(CH)−、−(CH)−、−(CH)−、−(CH−、−(CH−、−CHOCH−、−CHOCHCHOCH−、及び−C10−、等が挙げられる。nは0又は1を示す。
【0088】
2Aで示されるアリーレン基の好ましい炭素数は6〜20であり、特に好ましくは6〜15である。アリーレン基は、単環であっても縮環であってもよく、また、更に置換基を有してもよい。アリーレン基として、具体的には、例えば、−C−、−C10−、−C−、−COC−及び−CCOC−、等が挙げられる。 L2Aとして好ましくは、−(CH−、−C10−、−C−又は−C10−である。
【0089】
・L22
22は、*−CH−O−**である。*はヒドロフェナントレン環側の結合手を表し、**はその逆の結合手を表す。
【0090】
・L23
23は、(1)ポリエステル系重合体[I]と同義であり、好ましい範囲も同じである。
【0091】
(ポリエステル系重合体[II]の製造方法)
本実施形態の重合体は、例えば、以下のスキーム3で合成することができる。以下は、反応経路の例示であり、本発明がこれに限定して解釈されるものではない。なお、下記は上記一般式(A1)で示される態様を例示しているが、アビエタン主骨格を2つもつ2量体とする以外同様であるので一般式(A2)のものについては省略する。2量体化については、前記ポリエステル系重合体[I]と同様である。
【0092】
【化17】

【0093】
(i)のジカルボン酸体の合成は前記ポリエステルの(I)と同様にして行うことができる。アビエチン酸にカルボキシ基を導入したジカルボキシ化合物(i)からジアルコキシ化合物(ii)への反応は、通常の還元反応によればよい。例えば、水素化アルミで還元することにより、上記還元反応を速やかに進行させることができる。ジアルコキシ化合物(ii)からポリカルボン酸クロリド化合物との反応によりポリエステル(iii)を得る反応は、例えば、後述する合成例を参照することができる。
【0094】
上記(1)ポリエステル系重合体[I]の製造方法や化合物の詳細については、特開2011−026569号公報を参照することができる。(2)ポリエステル系重合体[II]の製造方法や化合物の詳細については、特開2011−074249号公報を参照することができる。
【0095】
[多孔膜]
本発明の多孔膜は、上記特定重合体を含み、内部に空孔を有する。ここで空孔とは、樹脂の隔壁で囲まれた空間であり空気を含む孔(穴)のことをいう。空孔は独立孔であることが好ましい。独立孔とは樹脂の隔壁で閉じている(隙間がない)孔をいい、貫通孔を含まない意味である。独立孔であることにより効率的に光を散乱させることができ好ましい。
【0096】
(多孔膜の特性)
・平均孔径
平均孔径が大きすぎると、入射光が光反射板の内部まで浸透したり、気泡界面での乱反射の回数が減少したりするため、拡散反射率が低下する傾向がある。また、特に液晶表示装置のバックライト装置においてシート状の反射板を用いる場合には、反射板の端部からの光損失により反射板表面に戻る光量が減少するため、拡散反射率が低下する。平均孔径は50μm以下であることが好ましく、30μm以下であることがより好ましい。なお、平均気泡径が可視光の波長よりも小さくなると入射光が透過するので、平均気泡径は少なくとも可視光の波長以上であることが必要である。平均孔径は0.5μm以上であることが好ましい。これより小さいと光が散乱されず透過することがある。さらに好ましくは1μm以上である。なお、本発明における平均孔径とは、断面をSEMで観察し、ランダムに20個の空隙を選んでその径を平均した値をいう。
【0097】
・膜厚
多孔膜の厚さが薄すぎると、反射板として用いたとき、他の要件を満たしていても、光反射板背面への光の漏洩が多くなるため拡散反射率が低下する。また、多孔膜の厚さが薄すぎると、所定形状に成形した場合に、形状保持性に劣る。多孔膜の厚さは30μm以上であることが好ましく、50μm以上であることがより好ましく、100μm以上であることがより好ましい。膜厚の上限は特に制限はないが、反射板に用いる場合、500μm以下であることが実際的である。
本発明における膜厚はデジタルリニアゲージDG−525H(小野測器社製)にて測定した値とする。測定は3箇所行い、その平均値を求める。
【0098】
・比重
多孔膜の比重が大きすぎる、すなわち空隙率が小さくなると、反射板として用いたとき、他の要件を満たしていても、発泡していない樹脂部分における光吸収や光反射板の透明化による光透過などにより光損失が大きくなるため拡散反射率が低下する。なお、多孔膜の比重は0.7以下が好ましく、0.4以下であることがより好ましい。比重の下限は特に制限はないが、独立孔を保持する観点から0.05以上であることが好ましい。
本発明において比重は精密比重計AUW120D(SHIMADZU社製)で測定した値とする。
【0099】
・反射率
本発明の多孔膜は、波長300〜800nmに対する拡散反射率が90%以上であることが好ましい。さらに好ましくは95%以上である。反射率が90%未満であるとバックライトユニットに組み込んだときに十分な輝度を得ることができない場合がある。
本発明における反射率は分光光度計(UV−3101C:島津製作所社製)により300〜800nm波長域で測定した値の平均とする。なお、標準白色板には硫酸バリウムの微粉末を固めた白板を用いた。
・光沢度
前記光沢度とは、JIS規格のZ8741に記載される定義に準ずる。
前記多孔膜の光沢度としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、入射角60度以下で、波長400〜800nmの光を入射して測定したときに、50以上が好ましく、60以上がより好ましく、70以上が更に好ましく、80以上が特に好ましい。このような光沢度を有することで均一な反射を得ることができであり好ましい。
光沢度は変角光沢計VG−1001P(商品名、日本電色工業社製)を用いて、波長400〜800nmを含む光を60度(°)入射、60度受光の条件で測定した値とする。
【0100】
・熱収縮率
本発明の多孔膜は、85℃の熱収縮率が、直交する2方向ともに、好ましくは0.3%以下、さらに好ましくは0.2%以下、最も好ましくは0.1%以下である。この範囲の熱収縮率であることで、バックライトユニットに反射板として用いたときに光源の熱で変形することのない、高い耐熱性を備える多孔膜を得ることができる。
熱収縮率は、フィルムサンプル(0.5cm×2.0cm片)を作製し、引張荷重100mNの条件下、TMA(リガク社製、TMA8310)の引張荷重法にて100℃で5時間加熱した場合の寸法変化量を測定し、測定前のサンプル長で除した値とする(なお、収縮するとマイナスの値を示すが、絶対値で表記した)。
【0101】
(製膜方法)
本発明の多孔膜は溶液キャスト法によって形成される。溶液キャスト法については特公昭55−38366号公報を参照することができる。
多孔膜は通常ポリマー溶液中から相分離させる方法が使用されるが、本発明においても掛かる方法が好ましく使用される。多孔膜は相分離(スピノーダル分解)、コアセルベーションを経て形成される。このようなプロセスは単一の親溶媒の揮発過程で形成される場合もあれば、親溶剤/貧溶剤の混合溶媒の揮発過程で形成される場合もある、さらに熱(冷却)によって誘起される場合もある。また親溶媒のポリマー溶液に対して非溶媒の誘起によって相分離を促進させることも可能である。非溶媒による誘起は、非溶媒蒸気による暴露もしくは非溶媒浴への浸漬、またはその両方の組み合わせが用いられる。ここで、親溶媒は上記特定重合体を十分溶解しうる溶媒を、貧溶剤は上記特定重合体を実質的に溶解しないが膨潤させる溶剤、非溶剤は上記特定重合体を実質的に溶解、膨潤させない溶剤である。
【0102】
本発明において、親溶剤、貧溶剤、非溶剤は、特定重合体に対する溶解作用、膨潤作用によって決定される相対的な定義であるから、かかる定義と溶剤の具体例とを一義的に対応させることはできない。すなわち、用いた特定重合体の種類によって親溶剤、貧溶剤、非溶剤の種類が異なったり、あるいは入れ変わったりすることがある。しかし、これらの関係は特定重合体の化学的、物理的性質に基づくものであり、当業者であれば誰もが通常の知識に基づいて特定重合体と三種類の溶剤を容易に選択できるので、本発明におけるこの方法においてはこれらの関係を特に問題にする必要はないであろう。上記親溶剤は重合体を溶かすものであることが好ましい。貧溶剤は重合体を膨潤させるが溶かさないものであることが好ましい。非溶剤は膨潤すらさせない、あるいはまったく干渉しないものであることが好ましい。
特定重合体、親溶剤、貧溶剤及び非溶剤の溶解混合方法は特に制限されず、例えば特定重合体を親溶剤に溶解した後、貧溶剤と非溶剤を加える方法、特定重合体を親溶剤と貧溶剤の一部の混合物に加えて溶解し、この溶液に残りの貧溶剤を加え、さらに非溶剤を加える方法など数十種類の方法があって、そのいずれの方法も用いることができる。その他、各溶剤の混合比率、混合時の温度(溶剤の沸点以下が好ましいという条件はある)などの条件には何ら特殊な制約はない。さらに、ある場合は、貧溶剤と非溶剤の一方が使用されないことがある。すなわち、無機塩などを使用することによって親溶剤と、貧溶剤又は非溶剤を組合せればよいこともある。しかしながら、調製された特定重合体溶液が安定であれば、以後の操作が簡単になるので、安定な溶液となるように溶解、混合を行うことが望ましい。安定な溶液とは、特定重合体が溶液中でゲル化や相分離することのない溶液であり、そのためには溶剤中の親溶剤の量を他の溶剤のそれぞれの量より多くしたり、あるいは特定重合体を親溶剤の全部と貧溶剤の一部との混合物に加えて溶解させたりするなどの手段を採用すればよい。
【0103】
特定重合体溶液に用いる有機溶剤にはキシレン、ナフタレン、トルエンの如き芳香族炭化水素、ジオクチルフタレート、ジメトキシオキシエチルフタレートあるいはジメチルフタレートの如きフタル酸エステル、トリフェニルフォスフェート、あるいはトリクレジルフォスフェートの如きリン酸エステル類、グリセロールトリアセテート、エチルフタリルエチルグリコレートあるいはメチルフタリルエチルグリコレートの如き多価アルコールエステル類、灯油やケロシンの如き鉱油、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンの如きケトン類、メチレンクロライド、クロロホルムあるいは1,1−ジクロルエタンの如きハロゲン化炭化水素類、酢酸メチルあるいは酢酸エチルの如きエステル類、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)の如き窒素化合物などがある。
【0104】
これらの溶剤を単独あるいは二つ以上の溶剤による混合溶剤として用いることができる。使用する特定重合体の連結基や重合度によって、適切な溶剤を選択しなければならない。この特定重合体溶液において特定重合体濃度としては、特定重合体の種類や溶剤の種類によっても異なるが、連続した多性膜を形成する関係からある程度濃度が高い方が好ましく、例えば15質量%前後が好ましい。特定重合体の溶解度は高くはないが、膜を形成する関係で高い方が好ましい。
【0105】
このようにして調製した特定重合体溶液はアプリケーターを用いてガラス板、プラスチックフィルムあるいは金属板の如き支持体上に50から3000μmの厚さに流延(引き延)される。親溶剤、もしくは親溶剤/貧溶剤の混合溶剤の揮発過程で相分離が起こる場合は、溶媒揮発後、膜を支持体から剥離・乾燥すれば多孔膜が得られる。
非(貧)溶剤の誘起により相分離を促進する場合は、塗布後、直ちにあるいは溶剤の一部を揮発させた後、もしくは一定時間、非(貧)溶剤の蒸気に暴露した後、非(貧)溶剤中に支持体ごと浸漬して相分離を誘起し、多孔膜を形成する。非(貧)溶剤は親溶剤と相互に溶解性が高く、且つ特定重合体に対して貧溶剤あるいは非溶剤が使用される。上記要件を満たせば何でも使用可能であるが、取扱い性のよさ、安価であることや安全性などから、メタノール、エタノールあるいはイソプロパノールの如きアルコール類や水が好ましい。流延する時の樹脂溶液温度は室温であることが一般的だが、使用する溶剤系によっては100℃前後の高温で流延し、空気中で冷却したりあるいは室温あるいは室温以下の低温に冷却した凝固液中に浸漬して急冷したりすることも行われる。
【0106】
[反射板]
本発明の反射板は本発明の多孔膜を用いたものであれば特に制限はない。多孔膜のみで形成されていても、支持体を有していてもよい。
図1に本発明の反射板を用いた液晶装置のバックライトの模式的な斜視図を示す。バックライト10においては、上記実施形態で詳述した多孔膜からなる反射膜1をリフレクタ基材51の表面に有するランプリフレクタ5が示されている。これも広義の反射板といえる。本装置では、このランプリフレクタ5に囲まれた発光ランプ4からの光が導光板2に入り、拡散板3を通して液晶パネルへと送られる。このとき導光板2から下へ漏れた光を反射して再利用するために、反射膜1と反射基材61からなる反射板6が設けられている。したがって、本実施形態によれば、多硬膜からなる反射膜1の高い光反射性が得られ、より効率的に光を液晶パネルに供給することができる。また、本実施形態の反射膜は発光ランプが発する熱に耐え、熱収縮に強く、液晶表示装置のそうした要求特性を満たし、良好に機能する。
本発明の多硬膜の利用形態は上記に限定されるものではなく、例えば蛍光灯や白熱電球、あるいはLEDライトの光源カバーなどにも好適に利用でき、上記の利点を発揮する。こうした光源カバーとしての利用形態などは、特開2006−8942号公報、特開2009−244749号公報、特開2011−25473号公報等を参照することができる。
【実施例】
【0107】
以下に、実施例により本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明がこれにより限定して解釈されるものではない。
【0108】
<合成例1> DAAモノマー合成
デヒドロアビエチン酸重合体の合成に用いる1,2−カルボキシデヒドロアビエチン酸(a−1)を、下記合成経路に従って合成した。
【0109】
【化18】

【0110】
92%デヒドロアビエチン酸(A),荒川化学工業製60.0gと塩化メチレン120mlの混合物に、塩化オキサリル26.8gを室温で滴下した。3時間撹拌した後、溶媒を減圧留去し、そこにメタノール32.0gを滴下した。室温で3時間撹拌後、過剰のメタノールを減圧留去し、化合物(B)の白色結晶62.8gを得た。
【0111】
化合物(B)62.8g、塩化アセチル18.8gおよび塩化メチレン160mlの混合物に無水塩化アルミニウム58.6gを少量ずつ3〜5℃で加えた。5〜8℃で2時間撹拌した後、反応液を1000gの氷水に注いだ。酢酸エチル400mlを加えて有機層を抽出した。食塩水で洗浄、無水塩化マグネシウムで乾燥した後、溶媒を減圧留去し、残渣に冷メタノール100mlを加えて析出した化合物(C)の白色結晶をろ取した(収量65.6g)。
【0112】
水酸化ナトリウム64.0gを水200mlに溶かし、そこに臭素51.2gを8〜10℃で滴下した。さらに、化合物(C)35.6gをジメトキシエタン200mlに溶かした液を10〜12℃で滴下した。室温で2時間攪拌した後、反応液を6N冷希塩酸に注いで酸性とし、析出した白色結晶を濾取した。結晶をメタノールから再結晶して化合物(D)の結晶29.8gを得た。
【0113】
化合物(D)20.4gに対して10wt%水酸化ナトリウム水100gを加えて攪拌した。その後、反応系を外設130℃にて昇温し、緩やかに還流させた。そのまま3時間攪拌し、反応を薄層クロマトグラフィーにてチェックした後、反応系の温度を室温まで冷却した。冷却した1N塩酸250mLに反応系の内容物をゆっくりと添加し、酸析させた。そのものをヌッチェにてろ取し、水をかけ洗いすることでろ液を中性にした。固体を取り出し、乾燥させることで12−カルボキシデヒドロアビエチン酸(a−1)19.2gを得た。
【0114】
<合成例2>
【0115】
【化19】

【0116】
化合物(a−1)の結晶13.76gを塩化メチレン160mlに分散し、塩化オキサリル11.18gおよびジメチルホルムアミド0.6mlを加えて5時間加熱還流した。この間結晶は完全に溶解した。放冷後、溶媒を減圧留去し、残渣に酢酸エチル20mlとn−ヘキサン60mlを加え、化合物(a−1)の酸クロリド(a−1’)の白色沈殿を濾取、減圧乾燥した。収量は13gであった。
【0117】
ジカルボン酸(a−2)を、下記合成経路に従って合成した。
【0118】
【化20】

【0119】
92%デヒドロアビエチン酸(上記化学式(A)、荒川化学工業製)120g、36%ホルマリン20ml及び塩化メチレン200mlの混合物に、10〜15℃でトリフルオロ酢酸200mlを滴下した。15〜20℃で8時間攪拌した後、塩化メチレンとトリフルオロ酢酸を減圧留去した。残渣に水2lを加え、灰白色結晶を濾過、十分に水洗した。乾燥後、1lの熱n−ヘキサンを加えて1時間攪拌し、放冷後、(a−2)の白色結晶を濾取した。収量は118gであった。
【0120】
<合成例3>
以下のスキームに従ってポリエステル系重合体(PE−1)を合成した。
【0121】

【0122】
ハイドロキノン2.03g、N,N’−ジメチルアミノピリジン7.05gをN,N’−ジメチルアセトアミド100mlに溶解させた。系内の温度を10℃まで冷却し、そこに上記で得られたジカルボン酸化合物(a−1)の酸クロリド誘導体(a−1’)10.5gを少量ずつ加えた。反応液は徐々に粘稠となった。室温で8時間撹拌した後、反応液にメタノール1Lを加え、生成したPE−1を濾別、メタノールで洗浄した。得られたものを乾燥後、ジメチルホルムアミド100mlに加熱溶解し、メタノール1000mlに少量ずつ注いで再沈殿させた。再沈殿物を回収し、乾燥後、PE−1の白色固体10.8gを得た。得られたポリエステル重合体(デヒドロアビエチン酸重合体、PE−1)のGPC測定(溶媒:NMP)による質量平均分子量は95000であった。
【0123】
合成例1において、ジカルボン酸化合物及びジオール化合物を下記表1に記載した化合物にそれぞれ変更したこと以外は、PE−1の合成例に記載の方法と同様にして、ポリエステル系重合体(PE−2)〜(PE−10)を得た。表1におけるガラス転移温度は粉末試料を示差走査熱量計(DSC)によって測定して求めた値である。
【0124】
【表1】

【0125】
表1中、ジカルボン酸化合物、ジオール化合物、ジアミン化合物における括弧内の数字は、ポリエステル系重合体およびポリアミド系重合体製造時の仕込み量(モル%)を示す。なお、ジカルボン酸化合物、ジオール化合物、ジアミン化合物の総量を100モル%とした。また以下にジカルボン酸化合物、ジオール化合物、ジアミン化合物の構造を示す。
【0126】
【化21】

【0127】
(実施例)
ポリマーPE-1 3gをN−メチルピロリドンに12質量%の濃度で溶解させ、これを濾過精度0.01mmの濾紙(東洋濾紙(株)製、#63)で加圧ろ過しドープを作製した(試験101)。
作製したドープをドクターブレードを用い、クリアランス1.0mmでガラス基板上に流延した。流延後、湿度85%RHの空気に5分間暴露し、その後水浴へ30分流水浸漬した。得られたフィルムを120℃、1Torrで3時間真空乾燥させ多孔フィルムを作製した。膜厚は120μm(0.12mm)であった。得られたフィルム断面を電子顕微鏡で観察した写真を図2に示す。微細な独立孔が形成された多孔膜であることがわかる。
【0128】
ポリマーPE-1 3gをメチレンクロライド/メタノール(85/15)混合溶媒に12質量%の濃度で溶解させ、これを濾過精度0.01mmの濾紙(東洋濾紙(株)製、#63)で加圧ろ過しドープを作製した(試験102)。
作製したドープをドクターブレードを用い、クリアランス1.0mmでガラス基板上に流延した。流延後、室温で6時間静置し、40℃で30分、100℃で30分加熱乾燥させ、その後140℃、1Torrで1時間真空乾燥させフィルムを作製した。膜厚は90μm(0.09mm)であった。
【0129】
ポリマーPE−1を表に記載のポリマーに変えた以外は試験102と同様にしてフィルムを作製した。膜厚は表1に示した。
【0130】
(比較例)
ポリマーC(セルロースアセテート:L70ダイセル社製)3gをメチレンクロライド/メタノール(85/15)混合溶媒に12質量%の濃度で溶解させ、これを濾過精度0.01mmの濾紙(東洋濾紙(株)製、#63)で加圧ろ過しドープを作製した。
作製したドープをドクターブレードを用い、クリアランス1.0mmでガラス基板上に流延した。流延後、室温で6時間静置し、40℃で30分、100℃で30分加熱乾燥させ、その後140℃、1Torrで1時間真空乾燥させフィルムを作製した(c11)。膜厚は120μm(0.12mm)であった。
【0131】
光反射フィルムである帝人デュポン製の商品名:UXZ1(厚さ0.23mm)を比較例2の反射板とした。UXZ1は、PETに硫酸バリウムを混ぜて二軸延伸したフィルムである(特開2011−25473号公報)(c12)。
【0132】
光反射フィルムである古河電工の商品名:MCPET(厚さ1.00mm)を比較例3の反射板とした。MCPETはPETにCOを含浸させて発泡させたフィルムである(特開2009−244749号公報)(c13)。
【0133】
−評価方法−
実施例及び比較例のフィルム(反射板)について、下記の測定、評価を行った。
(膜厚測定)
得られたフィルムの厚さをデジタルリニアゲージDG−525H(小野測器社製)にて測定した。測定は3箇所行い、その平均値を求めた。
(比重(密度)の測定)
得られたフィルムの比重を精密比重計AUW120D(SHIMADZU社製)にて測定した。
(反射率)
反射率は分光光度計(UV−3101C:島津製作所社製)により300〜800nm波長域で測定した。なお、標準白色版には硫酸バリウムの微粉末を固めた白板を用いた。
(光沢度の測定)
変角光沢計VG−1001DP(商品名、日本電色工業社製)を用いて、波長400〜800nmを含む光を60度(°)入射、60度受光の条件で測定し、光沢度を得た。
(ガラス転移点温度(Tg))
得られたフィルムから5mm×22mmの短冊状試験片を切り出し、これを動的粘弾性測定装置Rheogel−E4000(UBM社製)にて、引っ張りモードで温度範囲25℃〜350℃の正接損失(tanδ)を測定した。正接損失(tanδ)が極大値を示す温度をガラス転移温度(Tg)とした。その読み取り例として試験101のものを図3に示した。
(熱収縮率の測定)
フィルムサンプル(0.5cm×2.0cm片)を作製し、引張荷重100mNの条件下、TMA(リガク社製、TMA8310)の引張荷重法にて100℃で5時間加熱した場合の寸法変化量を測定し、測定前のサンプル長で除した値をフィルムの寸法変化率とした(なお、いずれも収縮変化(マイナス値)を示したが、絶対値で表記した)。
【0134】
(空隙率)
樹脂の密度をA、多孔フイルムの密度をBとしたとき、空隙率=B/A×100として特定した。
【0135】
(平均孔径)
多孔膜の断面をSEMで観察し、ランダムに20個の空隙を選んでその径を平均した値とした。
【0136】
(独立孔の判別)
JIS K 3832,ASTM F316−86に基づく多孔質材料の貫通細孔径評価であるバブルポイント法にて孔径を評価した。測定値が得られない結果をもって貫通孔でない、すなわち独立孔であると判断した。
【0137】
(熱伝導率)
α=k/ρ・Cp
α:温度拡散率
k :熱伝導率(Js−1m−1K−1)
ρ:密度(kg m−3)
Cp:比熱容量(J kg−1K−1)
温度拡散率はアルバック理工社製Model LaserPITを用いて測定、比熱容量はSII社製DSC6200Sを用いて測定し熱伝導率を算出した。
【0138】
【表2】

【0139】
実施例のフィルムはいずれも独立孔が形成され、高い反射率を有する。しかも熱収縮が少なく、熱伝導率が低いという、優れた耐熱性を有し、しかもガラス転移温度が比較例のものより極めて高いという優れた特性を有する。これらのフィルムはいずれも光源からの熱に耐えることができ、反射率も高いので、反射板として好適であることがわかる。
【符号の説明】
【0140】
1 反射膜
2 導光板
3 拡散板
4 蛍光ランプ
5 ランプリフレクタ
6 反射板
10 バックライト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
デヒドロアビエチン酸に由来する骨格を繰り返し単位に含む特定重合体を含んでなり、内部に空孔を有する多孔膜。
【請求項2】
前記デヒドロアビエチン酸に由来する骨格が下記一般式(U)で表される構造を含む請求項1に記載の多孔膜。
【化1】

(R及びRは炭素原子数1〜6のアルキル基もしくはアルケニル基を表す。n、mは0〜2を表す。環Cyはヘテロ原子を含んでもよい飽和もしくは不飽和の6員環もしくは7員環を表す。式中、*,**は結合手を表す。*はRから延びる結合手であってもよい。)
【請求項3】
前記特定重合体が下記一般式A1又はA2で表される繰り返し単位を含む重合体から選ばれる請求項1又は2に記載の多孔膜。
【化2】

(式中、L11、L12、L21、L22、及びL23は、2価の連結基を表す。*は結合手を表す。)
【請求項4】
前記一般式A1中、連結基L11が式中2位で示される炭素原子と結合した請求項1〜3のいずれか1項に記載の多孔膜。
【請求項5】
前記一般式A2中、連結基L23が式中2位及び2’位で示される炭素原子と結合した請求項1〜4のいずれか1項に記載の多孔膜。
【請求項6】
式A1中のL11が、*−L13−CO−**(*はヒドロフェナントレン環側の結合手を表す。**はその逆の結合手を表す。)で表され、L13が、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基、アリーレン基、酸素原子、又は単結合であり、L12がカルボニル基もしくはカルボニルオキシ基である請求項1〜5のいずれか1項に記載の多孔膜。
【請求項7】
式A2中のL21及びL22がカルボニル基もしくはカルボニルオキシ基であり、L23が酸素原子、硫黄原子、カルボニル基、スルホニル基、アルキレン基、アルケニレン基、アリーレン基、又は単結合である請求項1〜6のいずれか1項に記載の多孔膜。
【請求項8】
さらに、前記特定重合体が、環構造を含むジオール化合物由来の繰り返し単位を含む請求項1〜7のいずれか1項に記載の多孔膜。
【請求項9】
前記環構造を含むジオール化合物由来の繰り返し単位が、下記一般式(B1)で表される請求項8に記載の多孔膜。
【化3】

(Lは、酸素原子、カルボニル基、スルホニル基、アルキレン基、又は単結合である。Lが複数存在するとき、そのそれぞれは同じでも異なっていてもよい。R及びRは、それぞれ独立して、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基を表し、互いに結合して環を形成していてもよい。R及びRが複数存在するとき、そのそれぞれは同じでも異なっていてもよい。n1及びn2はそれぞれ独立して0〜4の整数を表す。n3は0〜2の整数を表す。*は結合手を表す。)
【請求項10】
前記空孔が、平均孔径が0.5μm以上50μm以下の独立孔である請求項1〜9のいずれか1項に記載の多孔膜。
【請求項11】
前記空孔が相分離を利用した溶液キャスト法で製造される請求項1〜10のいずれか1項に記載の多孔膜。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の多孔膜を含んでなる反射板。

【図1】
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【図3】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−18874(P2013−18874A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−153350(P2011−153350)
【出願日】平成23年7月11日(2011.7.11)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】