説明

多孔質分離膜の製造方法

【課題】内部に所定の微小細孔層を有し、親水性ポリマーの溶出を抑制することが可能な多孔質分離膜の製造方法を提供する
【解決手段】(a)10〜20重量%のポリエーテルスルホン,(b)10〜20重量%の重量平均分子量400〜800のポリエチレングリコールからなる膨潤剤、および(c)5〜20重量%の重量平均分子量50000以下の親水性ポリマーを含むポリマー成分と良溶媒および非溶媒を含む製膜原液を調製する工程と、前記製膜原液を温度15〜20℃、湿度50〜75%の雰囲気中で支持体上に流延する工程と、前記流延膜を有する支持体を凝固浴に浸漬する工程とを含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質分離膜の製造方法に関し、特に膜内部に最小孔径を有する非対称構造の内部緻密膜の製造方法に係わる。
【背景技術】
【0002】
従来、電子工業分野、食品分野等において、0.1〜10μm、特に0.1〜5μmの微粒子の除去、細菌の除去に精密濾過用多孔質分離膜が用いられている。
【0003】
前記多孔質分離膜は、外面および内部の孔径が実質的に変わらない対称形分離膜と、厚さ方向に孔径が連続的または不連続的に変化し、表裏で孔径が異なる非対称形分離膜と、膜内部に最小孔径の微小細孔層を有する内部緻密形分離膜とに分類される。
【0004】
前記対称形分離膜は、濾過操作において被処理流体の流速に対して膜全体が大きな抵抗を示すため、大きな流速で被処理流体を濾過することが困難である。また、対象膜の表面に孔径以上の粒子が付着すると、その粒子の堆積、目詰まりを起こして濾過寿命を短くする。このような対称形分離膜の抵抗を下げるために膜厚を薄くすることが試みられているが、強度が低くなって破損しやすくなる新たな問題が生じる。
【0005】
前記非対称形分離膜は、被処理流体が接する表面に大きな孔、裏面側に微細な孔径を持つ微小細孔層が形成された構造を有するため、前記微小細孔層を膜の全体厚さに対して薄くなるように制御することによって、被処理流体の流速を高めても膜全体に加わる抵抗を小さくすることが可能になる。また、微粒子等を含む被処理流体の濾過においても表面に比較的大きな孔が存在するため、膜内部での微粒子の捕捉が可能になり濾過寿命を延ばすことが可能になる。しかしながら、非対称形分離膜は裏面側の微小細孔層が外部からの衝撃に弱く傷が付き易いために、この膜をフィルタ等のカートリッジに襞折形状にして収納する際、その微小細孔層に大きな孔が形成され、本来の優れた機能が低減される欠点があった。
【0006】
前記内部緻密形分離膜は、前記非対称形分離膜の欠点を補い、外部からの衝撃にも耐える強度を有する。また、内部の最小孔径の微小細孔層の厚さやその孔径を制御して最大孔径と最小孔径の差を小さくすることにより、各種用途の被処理流体の流速に対して膜抵抗を下げることが可能になる。
【0007】
特許文献1には、2枚の非対称形分離膜をそれらの微小細孔層同士が密着するように重ねて前述の内部緻密形分離膜を製造することが開示されている。
【0008】
特許文献2には、膜内部に微小細孔層を形成する内部緻密形分離膜の製造方法が開示されている。この方法は、膜素材であるポリマーに膨潤剤、重量平均分子量が100000以上の親水性ポリマーおよび非溶媒を添加し、これらを良溶媒で溶解して製膜原液を調製し、これを支持体に流延して流延膜中の溶媒を蒸発させるとともに、空気中の水分にてその膜表面に局所的な相分離を起こさせ、さらに水のような凝固液に浸漬し、膜内部から溶剤を除去し、その後洗浄、乾燥、支持体から剥離を行うことによって内部緻密形分離膜を製造する方法である。
【0009】
このような内部緻密形分離膜の製造において、親水性ポリマーは膜表面の孔径を強制的に広げるために、前記成膜原液に比較的多量添加している。しかしながら、この親水性ポリマーは内部緻密形分離膜に残留するため、少量であるが膜から溶出して濾過操作時に初期汚染を招く問題があった。
【特許文献1】特開昭58−150402号公報
【特許文献2】特開昭63−141607号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、内部に所定の微小細孔層を有し、親水性ポリマーの溶出を抑制することが可能な多孔質分離膜の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によると、
(a)10〜20重量%のポリエーテルスルホン,(b)10〜20重量%の重量平均分子量400〜800のポリエチレングリコールからなる膨潤剤、および(c)5〜20重量%の重量平均分子量50000以下の親水性ポリマーを含むポリマー成分と良溶媒および非溶媒を含む製膜原液を調製する工程と、
前記製膜原液を温度15〜20℃、湿度50〜75%の雰囲気中で支持体上に流延する工程と、
前記流延膜を有する支持体を凝固浴に浸漬する工程と
を含むことを特徴とする多孔質分離膜の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、内部に所定の微小細孔層を有し、被処理流体の濾過時の抵抗低減、濾過寿命の延長などの優れた濾過性能とフィルタ等のカートリッジに襞折形状にして収納する際の表面への傷発生を防止でき、さらに親水性ポリマーの溶出を抑制して濾過操作時の初期汚染を防止することが可能な多孔質分離膜の製造方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明に係る多孔質分離膜の製造方法を詳細に説明する。
(第1工程)
(a)10〜20重量%のポリエーテルスルホン,(b)10〜20重量%の重量平均分子量400〜800のポリエチレングリコールからなる膨潤剤、および(c)5〜20重量%の重量平均分子量50000以下の親水性ポリマーを含むポリマー成分と良溶媒および非溶媒を含む製膜原液を調製する。ここで、前記(a)〜(c)のポリマー成分の配合割合はこれらのポリマー成分と前記良溶媒および非溶媒を合算した製膜原液中の割合を意味する。
【0014】
前記ポリエーテルスルホンの配合比率を10重量%未満にすると、得られた多孔質分離膜を濾過、分離に使用した際、その強度が低く、破損する虞がある。一方、前記ポリエーテルスルホンの配合比率が20重量%を超えると、得られた多孔質分離膜の強度が強くなりすぎて濾過、分離に使用した際に破損する虞がある。より好ましいポリエーテルスルホンの配合比率は、13〜16重量%である。
【0015】
前記ポリエチレングリコール(膨潤剤)の重量平均分子量を400未満にすると、製膜原液の粘度が低下することにより所定の膜厚を得ることが困難になり、得られた多孔質分離膜の分離性能が不均一になる虞がある。一方、前記ポリエチレングリコールの重量平均分子量が800を超えると、固体状になって製膜原液の成分として取り扱い上に支障になる虞がある。
【0016】
前記膨潤剤(ポリエチレングリコール)の配合比率を10重量%未満にすると、得られた多孔質分離膜に目的とする網目構造を形成することが困難になる。一方、前記膨潤剤の配合比率が20重量%を超えると、均質、均一な製膜原液を調製することが困難になる。より好ましい膨潤剤の配合比率は、13〜17重量%である。
【0017】
前記親水性ポリマーとしては、例えばポリビニルピロリドンまたはヒドロキシプロピルセルロースを用いることができる。この親水性ポリマーの中で、ポリビニルピロリドンが好ましい。
【0018】
前記親水性ポリマーの重量平均分子量が50000を超えると、得られた多孔質分離膜に親水性ポリマーが残留しやすくなる虞がある。より好ましい親水性ポリマーの重量平均分子量は、30000〜50000である。
【0019】
前記親水性ポリマーの配合比率を5重量%未満にすると、得られた多孔質分離膜の孔径が全体的に均一になり、目的とする微小細孔層および孔径分布を形成することが困難になる。一方、前記親水性ポリマーの配合比率が20重量%を超えると、得られた多孔質分離膜にその親水性ポリマーが残留しやすくなり、少量であるがその多孔質膜から溶出して初期汚染を招く虞がある。より好ましい親水性ポリマーの配合比率は、9〜13重量%である。
【0020】
前記良溶媒としては、例えばN−メチル−ピロリドン、アセトン、ジメチルホルムアミド等を用いることができる。
【0021】
前記非溶媒は、得られた多孔質分離膜の孔分布を制御(調節)するために用いられる。この非溶媒としては、例えば水、一価アルコール、多価アルコール、エチレングリコール、テトラエチレングリコール等を用いることができる。前記非溶媒は、製膜原液中に5〜30重量%配合されることが好ましい。
【0022】
(第2工程)
前記製膜原液を温度15〜20℃、湿度50〜75%の雰囲気中で支持体上に流延して流延膜を形成する。
【0023】
前記支持体としては、例えばポリエチレンフタレ−ト(PET)フィルム等を用いることができる。
【0024】
前記流延時の雰囲気温度を15℃未満にすると、目的とする網目構造を有する多孔質分離膜を得ることが困難になる。一方、流延時の雰囲気温度が20℃を超えると、表面蒸発により流延した膜表面に微小細孔を持たない緻密層(スキン層)が形成される虞がある。
【0025】
前記流延時の雰囲気湿度を50%未満にすると、流延した膜表面に微小細孔を持たない緻密層(スキン層)が形成される虞がある。一方、前記流延時の雰囲気湿度が75%を超えると、流延した膜表面に欠陥が生じ、所期の厚さおよび網目構造を有する多孔質分離膜の製造が困難になる。また、製膜原液を流延する際の製膜安定性も低下する虞がある。
【0026】
前記流延時の膜厚さは、約100μm〜約200μm、より好ましくは約130μm〜約160μmにすることが望ましい。
【0027】
(第2工程)
前記流延した膜を有する支持体を凝固浴に浸漬する。このとき、流延した膜の成分である前記所定の重量平均分子量を持つポリエチレングリコールからなる膨潤剤、所定の重量平均分子量を持つ親水性ポリマー、良溶媒および非溶媒と凝固液との相互作用により、流延した膜の表面近傍の内部に微細な孔径の微小細孔層が形成され、これより表面側に比較的な大きな孔径が分布され、かつこの微細細孔層から前記支持体の面に向かって孔径が大きくなるように分布される。つづいて、凝固浴から支持体を取り出し、その支持体上の膜を洗浄、乾燥し、支持体から剥離することにより多孔質分離膜を製造する。得られた多孔質膜の各孔は連続気孔である。
【0028】
前記凝固液は、前述した非溶媒(例えば水、一価アルコール、多価アルコール、エチレングリコール、テトラエチレングリコール等)を用いることができる。
【0029】
前記洗浄は、50〜70℃の温水で行うことが好ましい。
【0030】
以上説明した本発明の実施形態によれば、表面近傍の内部に微細な孔径の微小細孔層が形成され、これより表面側に比較的な大きな孔径が分布され、かつこの微細細孔層から前記支持体の面に向かって孔径が大きくなるように分布される孔傾斜層が形成された多孔質分離膜を製造することができる。その結果、前記微小細孔層を膜の全体厚さに対して薄くなるように制御することによって、前記孔傾斜層が形成された面側から被処理流体を流入させた場合、その被処理流体の流速を高めても膜全体に加わる抵抗を小さくすることが可能になる。また、微粒子等を含む被処理流体の濾過においても多孔質膜の被処理流体の流入面に前記孔傾斜層の比較的大きな孔が存在するため、膜内部での微粒子の捕捉が可能になり濾過寿命を延ばすことが可能になる。その上、孔傾斜層と反対側の面は比較的大きな孔径の孔が分布され、強度を高く外部からの衝撃に対して保護されるため、この多孔質分離膜をフィルタ等のカートリッジに襞折形状にして収納する際、その表面側が損傷されることなく、優れた濾過機能を維持することができる。
さらに、得られた多孔質分離膜は被処理流体、例えば食品関係の被処理液の濾過に適用しても親水性ポリマーの溶出を防ぐことができるため、被処理液の初期汚染を防止することができる。
【0031】
以下,本発明の実施例を詳細に説明する。
【0032】
(実施例1)
まず、ポリエーテルスルホン(住友化学社製商品名:スミカフレックス4200P)14重量%、重量平均分子量600のポリエチレングリコール13重量%、重量平均分子量45000のポリビニルピロリドン9重量%、1−ブタノール15重量%、N−メチル−ピロリドン47重量%および水2重量%を秤量し、N−メチル−ピロリドンを除く各成分をタンク内に入れ、攪拌し、さらにN−メチル−ピロリドンを添加してポリマー成分を溶解した後、脱気を行ってポリエーテルサルホンが均一に溶解された製膜原液を調製した。
次いで、前記製膜原液を支持体であるPETフィルム上に温度17±2℃、湿度70±5%の雰囲気で約200μmの厚さに流延し、その後10秒間放置した。つづいて、この流延膜を凝固液である水が収容された処理槽内に浸漬した。ひきつづき、PETフィルムをその上に形成された膜と共に前記処理槽から取り出し、60℃の温水槽で洗浄し、乾燥した後、PETフィルムから多孔質分離膜を剥離した。
得られた多孔質分離膜は、実質的にポリエーテルスルホンからなる140μmの厚さを有し、表面から10〜15μmの厚さに平均径10μmの比較的大きな孔が分布された層、この層から20〜30μmの厚さに平均径が0.07μmの微細な孔径を持つ微小細孔層、この微小細孔層から裏面(支持体に接する面)に向かって孔径が大きくなるように分布して形成された孔傾斜層が形成された構造を有していた。この孔傾斜層の裏面側での孔の平均径は、約8μmであった。
また、得られた多孔質分離膜についてASTM−F316によるIPAバブルポイント試験および通液試験を行った。なお、通液試験は多孔質分離膜の二次側(表面側)を減圧(−80kPa)にし、一次側(孔傾斜層側)から水100mLを通液し得るまでに要した時間を測定する試験である。その結果、バブルポイント値は85kPa、透水性能は9秒/100mL・−80kPaであった。なお、多孔質分離膜は水に湿潤し、透水性能も増大した。
さらに、得られた多孔質分離膜をフィルタカートリッジとして使用するために襞折したところ、襞折前と遜色のない濾過性能を示した。
(比較例1)
製膜原液としてポリエーテルスルホン(住友化学社製商品名:スミカフレックス4200P)14重量%、重量平均分子量1000のポリエチレングリコール7重量%、重量平均分子量50000のポリビニルピロリドン3重量%、1−ブタノール18重量%、N−メチル−ピロリドン57重量%および水1重量%を秤量し、N−メチル−ピロリドンを除く各成分をタンク内に入れ、攪拌し、さらにN−メチル−ピロリドンを添加してポリマー成分を溶解した後、脱気を行ってポリエーテルサルホンを均一に溶解して調製したものを用いた以外、実施例1と同様な方法により多孔質分離膜を製造した。
【0033】
得られた多孔質分離膜について、実施例1と同様にASTM−F316によるIPAバブルポイント試験および通液試験を行った。その結果、バブルポイント値は450kPaであったが、通液試験での水の透過は認められなかった。
【0034】
(比較例2)
製膜原液の一成分であるポリビニルピロリドンとして重量平均分子量150000のものを用いた以外、実施例1と同様な方法により多孔質分離膜を製造した。
【0035】
実施例1および比較例2により得られた多孔質分離膜に比抵抗値17MΩの超純水を7L/分の流速で透過させ、透過後の超純水の比抵抗値が元の17MΩに回復するまでの時間を測定した。その結果、比較例2の多孔質分離膜の回復時間が36分間であるのに対し、実施例1の多孔質分離膜の回復時間が16分間と半分以下に短縮され、親水性ポリマーであるポリビニルピロリドンの溶出を抑制できることがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)10〜20重量%のポリエーテルスルホン,(b)10〜20重量%の重量平均分子量400〜800のポリエチレングリコールからなる膨潤剤、および(c)5〜20重量%の重量平均分子量50000以下の親水性ポリマーを含むポリマー成分と良溶媒および非溶媒を含む製膜原液を調製する工程と、
前記製膜原液を温度15〜20℃、湿度50〜75%の雰囲気中で支持体上に流延する工程と、
前記流延膜を有する支持体を凝固浴に浸漬する工程と
を含むことを特徴とする多孔質分離膜の製造方法。
【請求項2】
前記親水性ポリマーは、ポリビニルピロリドンまたはヒドロキシプロピルセルロースであることを特徴とする請求項1記載の多孔質分離膜の製造方法。
【請求項3】
前記凝固浴は、水、一価アルコール、多価アルコール、エチレングリコール、テトラエチレングリコールから選ばれる少なくとも1種の非溶媒からなることを特徴とする請求項1記載の多孔質分離膜の製造方法。

【公開番号】特開2006−81970(P2006−81970A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−266909(P2004−266909)
【出願日】平成16年9月14日(2004.9.14)
【出願人】(000178675)ヤマシンフィルタ株式会社 (18)
【Fターム(参考)】