説明

多層めっき皮膜及びプリント配線板

【課題】電子部品、特に、プリント配線板の導体部分等に適用して、優れたハンダ付け性、ワイヤーボンディング性などを付与することが可能な新規な処理方法を提供する。
【解決手段】リン含有率10〜13重量%の無電解ニッケルめっき皮膜、厚さ0.01〜1μmの無電解パラジウムめっき皮膜、及び置換型金めっき皮膜が順次積層されてなる多層めっき皮膜、並びに該多層めっき皮膜がプリント配線板の導体部分に形成されていることを特徴とするプリント配線板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、プリント配線板の導体部分の表面処理として適用する場合に、優れたハンダ接合強度を与えることのできる多層めっき皮膜及び該多層めっき皮膜が形成されたプリント配線板に関する。
【背景技術】
【0002】
電子部品、特にプリント配線板において、金ワイヤー、アルミワイヤー等のボンディングやハンダ付けを行う際に、接合箇所の導体部分に対する表面処理として、無電解ニッケルめっき皮膜を形成した後、金めっき皮膜を形成することがある。この処理は、金めっき皮膜によってニッケルめっき皮膜の表面を保護して高いハンダ接合強度を発揮させるとともに、良好なハンダ濡れ性を確保しようとするものである。上記表面処理では、通常、1〜10μm程度の無電解ニッケルめっき皮膜を形成した後、置換めっき方法によって0.03〜0.1μm程度の金めっき皮膜を形成しており、更に、金ワイヤーボンディングにおける優れた耐熱性を付与することなどを目的として、厚さ0.2〜1μm程度の金めっき皮膜を置換めっき法又は還元めっき法によって形成することがある。
【0003】
しかしながら、上記した方法では、置換めっき法で金めっき皮膜を形成する際に、下地のニッケルめっき皮膜との電位差によって金めっきが析出するために、ニッケルめっき皮膜の表面が浸食されるという問題点がある。この様なニッケルめっき皮膜の浸食は、ハンダ付け性やボンディング性の低下の原因となり、更に、液の汚染の原因ともなる。
【0004】
このため、ニッケルめっき皮膜の保護等を目的として、無電解ニッケルめっき皮膜と置換金めっき皮膜との間に、中間層として無電解パラジウムめっき皮膜を形成する方法が提案されている(下記特許文献1参照)。この方法は、中間層としてパラジウムめっき皮膜を形成することによって、置換金めっき液によるニッケルめっき皮膜の浸食を抑制しようとするものであるが、無電解パラジウムめっき皮膜は、ハンダ中への拡散性が劣るために、ハンダ付けの際に無電解ニッケルめっき皮膜の表面に残存して、ハンダ接合強度の低下の原因となることがある。また、無電解パラジウムめっき皮膜が薄い場合や、被めっき物の形状は複雑な場合などには、パラジウムめっき皮膜の析出が不十分となって、ニッケルめっき皮膜の露出部分が生じることがある。この場合、ニッケルはパラジウムより卑な金属であるために、一部でもニッケルめっき皮膜が露出すると、この部分のニッケルが優先的に溶解してニッケル表面が浸食され、ハンダ付け性低下の原因となる。
【特許文献1】特開平10−168578号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記した従来技術の現状に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、電子部品、特に、プリント配線板の導体回路部分等に適用して、優れたハンダ付け性、ワイヤーボンディング性などを付与することが可能な新規な処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記した目的を達成すべく鋭意研究を重ねてきた。その結果、プリント配線板の導体部分に、通常用いられているニッケルめっき皮膜と比較してリン含有量が多い特定の無電解ニッケルめっき皮膜を形成した後、0.01〜1μmという非常に薄い無電解パラジウムめっき皮膜を形成する場合には、その後、置換型金めっきを行う際に、下地のニッケルめっき皮膜が殆ど浸食されることがなく、しかも、ハンダ付けの際にパラジウムが迅速にハンダ中に拡散して、良好なハンダ接合性が確保されることを見出した。本発明は、この様な新規な知見に基づいて、更に研究を重ねた結果完成されたものである。
【0007】
即ち、本発明は、下記の多層めっき皮膜及び該多層めっき皮膜が形成されたプリント配線板を提供するものである。
1. リン含有率10〜13重量%の無電解ニッケルめっき皮膜、厚さ0.01〜1μmの無電解パラジウムめっき皮膜、及び置換型金めっき皮膜が順次積層されてなる多層めっき皮膜。
2. 置換型金めっき皮膜上に、更に、還元型無電解金めっき皮膜が形成されてなる上記項1に記載の多層めっき皮膜
3. 上記項1又は2に記載の多層めっき皮膜がプリント配線板の導体部分に形成されていることを特徴とするプリント配線板。

本発明の多層めっき皮膜は、リン含有率10〜13重量%の無電解ニッケルめっき皮膜、厚さ0.01〜1μmの無電解パラジウムめっき皮膜、及び置換型金めっき皮膜が順次積層されてなるものである。
【0008】
この様な特定の条件を満足するめっき皮膜を積層した多層構造のめっき皮膜では、無電解パラジウムめっき皮膜の存在によって、置換型金めっきを行う際に、ニッケルめっき皮膜の浸食を防止できる。しかも、リン含有量10〜13重量%というリン含有量が多く、耐食性に優れた無電解ニッケルめっき皮膜を形成しているので、パラジウムめっき皮膜によって完全に被覆されずニッケルめっき皮膜が一部露出している場合であっても、置換型金めっきを行う際に、ニッケルめっき皮膜の浸食を抑制することができる。このため、厚さ0.01〜1μmという非常に薄い無電解パラジウムめっき皮膜を形成するだけで、十分なニッケルめっき皮膜の保護効果が発揮される。更に、無電解パラジウムめっき皮膜が非常に薄いために、ハンダ付けを行う際に、パラジウムが十分にハンダ中に拡散して、高いハンダ接合強度を確保できる。
【0009】
以上の様に、上記した特定の多層構造のめっき皮膜とすることによって、プリント配線板の導体部分などに、高いハンダ結合強度を有するめっき皮膜を形成することができる。以下、本発明の多層めっき皮膜について、より具体的に説明する。
【0010】
(1)無電解ニッケルめっき皮膜
本発明では、ニッケルめっき皮膜として、リン含有量10〜13重量%程度の無電解ニッケルめっき皮膜を形成する。この様なリン含有量が多い無電解ニッケルめっき皮膜は、良好な耐食性を有するものであり、この上に、非常に薄い無電解パラジウムめっき皮膜を形成した場合であっても、置換型金めっき液による浸食が殆ど生じることがない。
【0011】
上記した無電解ニッケルめっき皮膜は、水溶性ニッケル化合物、還元剤、及び錯化剤を必須成分として含有する水溶液からなる無電解ニッケルめっき液を用いて形成することができる。
【0012】
水溶性ニッケル化合物としては、めっき液に可溶性であって、所定の濃度の水溶液が得られるものであれば特に限定されない。例えば、硫酸ニッケル、塩化ニッケル、スルファミン酸ニッケル、次亜リン酸ニッケル等を用いることができる。水溶性ニッケル化合物は1種単独又は2種以上混合して用いることができる。特に硫酸ニッケルが溶解性が良好である点で好ましい。
【0013】
水溶性ニッケル化合物の含有量は、0.5〜50g/L程度とすることが好ましく、2〜10g/L程度とすることがより好ましい。
【0014】
還元剤としては、次亜リン酸及び次亜リン酸塩から選ばれた少なくとも一種を用いることができる。次亜リン酸塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等を用いることができる。還元剤の含有量は、5〜100g/L程度とすることが好ましく、10〜50g/Lとすることがより好ましい。
【0015】
錯化剤としては公知の錯化剤を使用できる。例えば、酢酸、蟻酸等のモノカルボン酸、これらのアンモニウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩等;マロン酸、コハク酸、アジピン酸、マレイン酸、フマール酸等のジカルボン酸、これらのアンモニウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩等;リンゴ酸、乳酸、グリコール酸、グルコン酸、クエン酸等のヒドロキシカルボン酸、これらのアンモニウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩等;エチレンジアミンジ酢酸、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、これらのアンモニウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩等を1種単独又は2種以上混合して用いることができる。
【0016】
錯化剤の含有量は、0.5〜100g/L程度とすることが好ましく、5〜50g/Lとすることがより好ましい。
【0017】
尚、エチレンジアミンテトラ酢酸、ジエチレントリアミンペンタ酢酸等のアミノポリカルボン酸やそれらのナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等;グリシン、アラニン、イミノジ酢酸、ニトリロトリ酢酸、L−グルタミン酸、L−グルタミン酸2酢酸、L−アスパラギン酸、タウリン等のアミノ酸類、アミノトリメチレンホスホン酸、エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸、それらのアンモニウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩等のアミノ基を有する化合物や、エチレンジアミン、ジエチレントリアミンなどのアミン化合物は、例えば0.5g/L程度以上配合すると目的のリン含有量のニッケルめっき皮膜が得られ難くなるため、配合しないことが望ましい。
【0018】
無電解ニッケルめっき液には、更に、安定剤として、通常用いられている硝酸鉛、酢酸鉛等の鉛塩、硝酸ビスマス、酢酸ビスマス等のビスマス塩等を1種単独又は2種以上添加することができる。その添加量は0.01〜100mg/L程度が好ましい。ただし、チオジグリコール酸、チオ硫酸ナトリウム等や、その他公知の硫黄化合物については、安定剤として効果が認められる濃度、例えば0.05mg/L以上配合すると目的のリン含有量のニッケルめっき皮膜が得られ難いため、配合しないことが望ましい。
【0019】
さらに、めっき液の浸透性を向上させるために、界面活性剤を配合することができる。界面活性剤としては、ノニオン性、カチオン性、アニオン性、両性等の界面活性剤を1種単独又は2種以上添加することができる。添加量としては、0.1〜100mg/L程度が好ましい。
【0020】
無電解ニッケルめっき液のpHは、2〜9程度、特に3〜8程度であることが好ましい。pH調整には、硫酸、リン酸等の無機酸および水酸化ナトリウム、アンモニア水等を使用することができる。
【0021】
上記したpH範囲において、pHを低く設定することによって、リン含有量の多いニッケルめっき皮膜を形成できる。
【0022】
(2)無電解パラジウムめっき皮膜
無電解パラジウムめっき皮膜は、パラジウム化合物、還元剤及び錯化剤を必須成分として含有する水溶液からなる無電解パラジウムめっき液を用いて形成することができる。
【0023】
無電解パラジウムめっき液に配合するパラジウム化合物としては、めっき液に可溶性であって、所定の濃度の水溶液が得られるものであれば特に限定されない。例えば、硫酸パラジウム、塩化パラジウム、酢酸パラジウム、ジクロロジエチンレジアミンパラジウム、テトラアンミンパラジウムジクロライド等の水溶性パラジウム化合物を用いることができる。また、パラジウム化合物として、パラジウムを溶液化したいわゆるパラジウム溶液を使用することもできる。パラジウム溶液としては、例えば、ジクロロジエチレンジアミンパラジウム溶液やテトラアンミンパラジウムジクロライド溶液も使用することができる。パラジウム化合物は、1種単独又は2種以上混合して用いることができる。
【0024】
パラジウム化合物の含有量は、パラジウムとして0.1〜30g/L程度とすることが好ましく、0.3〜10g/L程度とすることがより好ましい。
【0025】
無電解パラジウムめっきの還元剤としては、蟻酸、次亜リン酸、亜リン酸、これらの塩(ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等)等を用いることができる。これらの還元剤は、一種単独又は二種以上混合して用いることができる。
【0026】
還元剤の含有量は、0.1〜100g/L程度とすることが好ましく、1〜50g/Lとすることがより好ましい。
【0027】
還元剤としては、特に、蟻酸又はその塩が好ましい。これを使用することにより、99%以上の純度のパラジウムめっき皮膜の形成が可能になり、より高いハンダ接合強度を得ることができる。
【0028】
錯化剤としては、公知の錯化剤が使用できる。例えばエチレンジアミン、ジエチレントリアミン等のアミン類;エチレンジアミンジ酢酸、エチレンジアミンテトラ酢酸、ジエチレントリアミンペンタ酢酸等のアミノポリカルボン酸、これらのナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等;グリシン、アラニン、イミノジ酢酸、ニトリロトリ酢酸、L−グルタミン酸、L−グルタミン酸2酢酸、L−アスパラギン酸、タウリン等のアミノ酸、これらのナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等;アミノトリメチレンホスホン酸、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸、これらのアンモニウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩等を配合することができる。錯化剤は1種単独又は2種以上混合して用いることができる。錯化剤の配合量としては、0.5〜100g/L程度とすることが好ましく、5〜50g/L程度とすることがより好ましい。
【0029】
無電解パラジウムめっき液のpHは2〜9程度であることが好ましく、特に3〜8程度であることが好ましい。pH調整には、硫酸、リン酸等の無機酸、水酸化ナトリウム、アンモニア水等を使用することができる。
【0030】
(3)置換型金めっき皮膜
置換型金めっき皮膜は、水溶性金塩及び錯化剤を必須成分として含有する水溶液からなる置換型金めっき液を用いて形成することができる。
【0031】
置換型金めっき液としては、一般にプリント配線板用途などにおいて使用されているものをそのまま利用できる。置換型金めっき液としては、シアン含有めっき浴とシアン不含有めっき浴があるが、いずれのめっき浴を用いても良い。
【0032】
置換型金めっき液に配合する水溶性金塩としては、めっき液に可溶性であって、所定の濃度の水溶液が得られるものであれば特に限定されない。例えば、亜硫酸金カリウム、亜硫酸金ナトリウム、亜硫酸金アンモニウム、シアン化金カリウム、シアン化金ナトリウム、シアン化金アンモニウム等を用いることができる。水溶性金塩は1種単独又は2種以上混合して用いることができる。水溶性金塩の含有量は、0.1〜20g/L程度とすることが好ましく、0.3〜5g/L程度とすることがより好ましい。
【0033】
錯化剤としては公知の錯化剤を使用できる。例えばエチレンジアミン、ジエチレントリアミン等のアミン類;エチレンジアミンジ酢酸、エチレンジアミンテトラ酢酸、ジエチレントリアミンペンタ酢酸等のアミノポリカルボン酸、これらのナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩等;グリシン、アラニン、イミノジ酢酸、ニトリロトリ酢酸、L−グルタミン酸、L−グルタミン酸2酢酸、L−アスパラギン酸、タウリン等のアミノ酸類、これらのアンモニウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩等;アミノトリメチレンホスホン酸、1−ヒドロキシエチリデン−1,1−ジホスホン酸、エチレンジアミンテトラメチレンホスホン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸などのアルキルスルホン酸、これらのアンモニウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩等;ヒドロキシメタンスルホン酸、ヒドロキシエタンスルホン酸等のアルカノールスルホン酸、これらのアンモニウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩等;ベンゼンスルホン酸、p−フェノールスルホン酸等の芳香族スルホン酸、これらのアンモニウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩等を用いることができる。錯化剤は1種単独又は2種以上混合して用いることができる。錯化剤の含有量は、0.5〜100g/L程度とすることが好ましく、5〜50g/L程度とすることがより好ましい。
【0034】
置換型金めっき液のpHは2〜9程度、特に3〜8程度であることが好ましい。pH調整には、硫酸、リン酸等の無機酸、水酸化ナトリウム、アンモニア水等を使用することができる。
【0035】
(4)多層めっき皮膜の形成方法:
本発明の多層めっき皮膜を形成するには、まず、被めっき物上にリン含有量10〜13重量%程度の無電解ニッケルめっき皮膜を形成する。
【0036】
被めっき物については特に限定はないが、特に、本発明は、プリント配線板のパッド部分、回路部分、端子部分等の導体部分を被めっき物とする場合に、ハンダ付け性、ワイヤーボンディング性などに優れた皮膜を形成することが可能である。
【0037】
プリント配線板としては、例えば、エポキシ樹脂、ポリイミド樹脂等を基材として銅等による導体部分が形成されている基板;ガラス、セラミックス等を基材として銅、銀、タングステン、モリブデンなどによる導体部分が形成されている基板等を使用できる。
【0038】
無電解ニッケルめっき皮膜は常法に従って形成することができる。通常は、無電解ニッケルめっき液中に被めっき物を浸漬すればよい。
【0039】
無電解ニッケルめっきに先だって、常法に従って、脱脂、活性化などの前処理を行うことができる。被めっき物が無電解ニッケルめっきに対して触媒活性を有さない場合には、常法に従ってパラジウム核などの金属触媒核を付着させた後に無電解ニッケルめっきを行えばよい。無電解ニッケルめっきの際には、必要に応じて、めっき液の撹拌や被めっき物の揺動を行うことができる。
【0040】
無電解ニッケルめっき液の処理温度は、50℃〜95℃程度、特に60℃〜90℃程度であることが好ましい。
【0041】
無電解ニッケルめっき皮膜の膜厚は、特に限定的ではないが、0.1〜15μm程度であることが好ましく、0.2μm〜10μm程度であることがより好ましい。ニッケルめっき液の膜厚が薄すぎる場合には、ニッケルめっきの効果が得られ難く、厚すぎる場合には、一定以上の効果は得られないので、経済的でない。
【0042】
次いで、上記した方法で無電解ニッケルめっき皮膜を形成した被めっき物を無電解パラジウムめっき液中に浸漬することによって、無電解パラジウムめっき皮膜を形成することができる。
【0043】
無電解パラジウムめっき液の処理温度としては、30℃〜90℃程度、特に40℃〜80℃程度であることが好ましい。
【0044】
無電解パラジウムめっき皮膜の厚さは、0.01〜1μm程度とすることが必要であり、0.05〜0.5μm程度とすることが好ましい。この様な非常に薄い無電解パラジウムめっき皮膜をリン含有量10〜13重量%程度の無電解ニッケルめっき皮膜上に形成することによって、置換型金めっき皮膜を形成する際にニッケルめっき皮膜の浸食が抑制され、しかも、ハンダ付けの際に、パラジウムが残存することなくハンダ中に十分に拡散して、高いハンダ接合強度を得ることができる。
【0045】
次いで、無電解パラジウムめっき皮膜を形成した被めっき物を置換型金めっき液中に浸漬することによって、金めっき皮膜を形成することができる。
【0046】
置換型金めっき液の処理温度としては、50℃〜95℃程度、特に60℃〜90℃程度であることが好ましい。
【0047】
置換型金めっき皮膜の膜厚については、特に限定的ではなく、被めっき物の使用目的などに応じて適宜決めればよい。通常は、0.001〜0.3μm程度の範囲とすればよい。
【0048】
本発明によれば、リン含有量10〜13重量%程度の無電解ニッケルめっき皮膜上に、厚さ0.01〜1μm程度の無電解パラジウムめっき皮膜を形成することによって、置換型金めっきを行う際に、無電解ニッケルめっき皮膜の浸食を抑制できる。その結果、無電解ニッケルめっき皮膜の良好な状態を維持でき、しかもパラジウムめっき皮膜の膜厚が薄く、ハンダ中に十分に拡散することによって、良好なハンダ接合性を得ることができる。
【0049】
さらに、必要に応じて、還元剤を含有する無電解金めっき液を用いて厚付け金めっきを行うこともできる。厚付け金めっきを行うことによって、さらに耐熱性の良好なニッケル/パラジウム/金めっき皮膜が得られ、特にワイヤーボンディング性能における耐熱性が良好になる。厚付け金めっき皮膜の膜厚は、特に限定的ではないが、通常、金めっき皮膜の合計膜厚として、1μm程度までの膜厚とされる。
【発明の効果】
【0050】
本発明の多層めっき皮膜は、例えば、プリント配線板の導体部分等に対する表面処理として適用した場合には、優れたハンダ接合性、ワイヤーボンディング性などを付与することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0051】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
【0052】
実施例1
以下、本発明の実施例及び比較例において用いためっき液の組成を示す。
(I)無電解ニッケルめっき液
(1)ニッケル浴A1〜A3:
硫酸ニッケル・6水和物 22.5g/L
次亜リン酸ナトリウム 20 g/L
リンゴ酸 10 g/L
コハク酸 10 g/L
上記組成の水溶液について、水酸化ナトリウムを用いてpH調整を行い、pH4.2に調整したものをニッケル浴A1、pH4.6に調整したものをニッケル浴A2、pH5.0に調整したものをニッケル浴A3とする。
【0053】
(2)ニッケル浴B1及びB2:
硫酸ニッケル・6水和物 22.5g/L
次亜リン酸ナトリウム 20 g/L
リンゴ酸 10 g/L
コハク酸 10 g/L
チオジグリコール酸 20 mg/L
上記組成の水溶液について、水酸化ナトリウムを用いてpH調整を行い、pH4.2に調整したものをニッケル浴B1、pH4.6に調整したものをニッケル浴B2とする。
【0054】
(II)無電解パラジウムめっき液
(1)パラジウム浴A
ジクロロジエチレンジアミンパラジウム溶液 2g/L(パラジウムとして)
エチレンジアミン 10g/L
蟻酸ナトリウム 10g/L
pH 6.0
(2)パラジウム浴B
ジクロロジエチレンジアミンパラジウム溶液 2g/L(パラジウムとして)
エチレンジアミン 10g/L
次亜リン酸ナトリウム 10g/L
pH 6.0
(3)パラジウム浴C:
ジクロロジエチレンジアミンパラジウム溶液 2g/L(パラジウムとして)
エチレンジアミン 10g/L
亜リン酸ナトリウム 10g/L
pH 6.0
【0055】
(III)置換金めっき液
(1)金めっき浴A
エチレンジアミン4酢酸2ナトリウム 20g/L
シアン化金カリウム 2g/L(金として)
pH 5.0
【0056】
被めっき物として樹脂基板に銅回路およびレジストを形成したプリント基板を用いた。該プリント基板は、6cm×6cmの樹脂基板上に、厚さ18μmの銅箔を用いてパッド径0.5mmφのパッド部を多数形成したものである。
【0057】
まず、被めっき物について、脱脂処理を行った後、過硫酸ナトリウム溶液で0.5μm程度のエッチングを行い、触媒付与液(商標名:ICPアクセラ、奥野製薬工業(株)製)200ml/L中に、室温で1分間浸漬して無電解めっき用触媒を付与した。
【0058】
その後、無電解ニッケルめっき液として、上記ニッケル浴A1〜A3又はB1〜B2を用いて、空気攪拌を行いながら、80℃の浴温で被めっき物を浸漬して、厚さ約5μmのニッケルめっき皮膜を形成した。各ニッケル浴におけるめっき時間は下記表1に示す通りである。
【0059】
【表1】

【0060】
その後、無電解パラジウムめっき液として、パラジウム浴A〜Cのいずれかを用いて、60℃のめっき液中に被めっき物を浸漬することによって無電解パラジウムめっき皮膜を形成した。実施例1〜5及び比較例1〜4については、浸漬時間を10分間として、厚さ約0.2μmのパラジウムめっき皮膜を形成した。実施例6は浸漬時間を40分間として厚さ約0.8μmのパラジウムめっき皮膜を形成した。比較例5、比較例6については、それぞれ浸漬時間を65分、100分として厚さ1.3μmおよび2μmのパラジウムめっき皮膜をそれぞれ形成した。
【0061】
次いで、上記した方法で無電解パラジウムめっき皮膜を形成した試料を、金めっき浴A中に80℃で15分間浸漬して置換型金めっき皮膜を形成した。
【0062】
尚、無電解ニッケル、パラジウム、金めっきのそれぞれの膜厚は、蛍光X線膜厚測定装置により測定した。
【0063】
また、パラジウムめっき皮膜の純度については、銅張り樹脂基板に無電解ニッケルめっきを形成し、その上に3μmの無電解パラジウムめっきを形成した試料を樹脂埋め後研磨を行い、断面方向からEDS(エネルギー分散型X線分光法)により測定した。
【0064】
また、ニッケルめっき皮膜中のリン含有率については、シアンを含有する剥離液を用いて金及びパラジウムを剥離し、ニッケルめっき表面を露出させ、EDS(エネルギー分散型X線分光法)により測定した。
【0065】
下記表2に各メッキ皮膜の膜厚と、ニッケルめっき皮膜のリン含有量及びパラジウムめっき皮膜の純度を記載する。
【0066】
【表2】

【0067】
ハンダ接合性試験
上記した方法でめっき皮膜を形成した各試料について、ハンダボールプル試験によって、ハンダ接合性を評価した。
【0068】
ハンダボールプル試験では、Sn−3.5%Ag−0.75%Cuの鉛フリーハンダボールを用い、基板のパッド径は0.5mmφの箇所を使用した。
【0069】
まず、試験基板にフラックスを塗布し、ハンダボールを載せ、リフロー処理を行った。リフロー条件はプリヒート160℃でピーク温度240℃(230℃以上10秒間)で行った。その後、ハンダバンププル強度測定装置(デイジ社#4000)を用いてハンダプル強度を測定した。測定は20点行い、ハンダボールプル強度の平均値を求めた。結果を下記表3に示す。
【0070】
【表3】

【0071】
尚、上記プル強度測定後の試料について接合部の表面と断面の観察を行った結果、実施例1〜6及び比較例1〜4の各試料については、無電解ニッケルめっき皮膜とハンダボールとの界面での破壊が認められ、無電解ニッケルめっき皮膜とハンダとの接合強度を測定できたことが確認できた。また、比較例5および6の試料については、破壊箇所にパラジウム皮膜が残存しており、ハンダ中へのパラジウムの拡散が不十分であったことが、プル強度低下の一因であると考えられる。
【0072】
また、前述した方法で金及びパラジウムを剥離しニッケルめっき表面を露出させてニッケルめっき皮膜中のリン含有率を測定した試料について、SEM(走査型電子顕微鏡)によってニッケルめっき界面における孔食の有無を観察した。結果を下記表4に示す。
【0073】
【表4】

【0074】
以上の表2〜表4に示した結果から明らかなように、実施例1及び4〜6では、非常に良好なハンダ接合強度が得られた。また、金及びパラジウムめっき剥離表面も、孔食、粒界腐食等がなく、置換型金めっきでのダメージは認められなかった。
【0075】
実施例2および3では、これらの実施例と比較すると僅かに強度は低かったが、比較例1〜6と比較すると接合強度の大幅な改善が認められた。また、実施例1等と同様に孔食、粒界腐食等はなく、置換金めっきでのダメージは認められなかった。
【0076】
なお、実施例1〜6について、めっき皮膜とハンダとの接合界面を表面および断面観察したが、ハンダ成分以外の検出元素は、ニッケル、リンのみであり、パラジウムおよび金はハンダ中に完全に拡散したものと考えられる。
【0077】
一方、比較例1〜4では、実施例と比較して、ハンダ接合強度は低い値であった。また、金めっきの時間が同一にも関わらず、各実施例と比較して金めっきは厚く形成されており、電位の卑なニッケルが一部溶解したと考えられる。この点については、表3に記載した通り、比較例1〜4のニッケルめっき表面において、孔食、粒界腐食が観察されたことからも確認できる。
【0078】
また、比較例5および6では、金めっきおよびパラジウムめっき剥離後の表面観察では、孔食、粒界腐食等は認められなかったが、ハンダ接合強度は特に低い値であった。この点については、ハンダプル試験後の基板界面からパラジウムが検出されており、断面観察を行った結果、ニッケルめっき皮膜上にパラジウムめっき層が0.5μm程度残存していることが判明した。このことから、パラジウムめっきが厚すぎると、ハンダ付けの際にハンダ中にパラジウムが完全に拡散できず、ハンダ接合強度は逆に低くなることが明らかとなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン含有率10〜13重量%の無電解ニッケルめっき皮膜、厚さ0.01〜1μmの無電解パラジウムめっき皮膜、及び置換型金めっき皮膜が順次積層されてなる多層めっき皮膜。
【請求項2】
置換型金めっき皮膜上に、更に、還元型無電解金めっき皮膜が形成されてなる請求項1に記載の多層めっき皮膜
【請求項3】
請求項1又は2に記載の多層めっき皮膜がプリント配線板の導体部分に形成されていることを特徴とするプリント配線板。

【公開番号】特開2008−177261(P2008−177261A)
【公開日】平成20年7月31日(2008.7.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−7763(P2007−7763)
【出願日】平成19年1月17日(2007.1.17)
【出願人】(591021028)奥野製薬工業株式会社 (132)
【Fターム(参考)】