説明

多環芳香族炭化水素の除去方法

【課題】有機物質の燃焼で発生する多環芳香族炭化水素(PAHs)を効率的に除去すること。
【解決手段】有機物質の燃焼で発生する多環芳香族炭化水素(PAHs)を非晶質鉄水酸化物および/または活性炭で吸着し、当該多環芳香族炭化水素を除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大気、水、土壌などの環境中に存在する多環芳香族炭化水素(以下「PAHs」ともいう)を除去するためのPAHsの除去方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、工業化の発達により、石油、化学製品など固定発生源からの燃焼ガスや、内燃機関、特にディーゼルエンジン機関などの移動発生源の排出ガス中にはPAHsが多く含まれている。PAHsは、炭素と水素を含む化合物の不完全燃焼によって多く発生し、大気のみならず、水、土壌、動植物中にも含まれている。
また、PAHsのうち、ベンゾaピレンはタバコの主流煙よりも副流煙に多く含まれていて、喫煙者よりも非喫煙者への健康障害が懸念されている。
【0003】
株式会社内田老鶴圃から1993年に出版された鈴木静雄著“大気の環境科学”97ページの表2・28によると、タバコの喫煙による肺がん死亡率(人口10万人あたり)は、都市(394人)及び農村(363人)ともに喫煙者の方が肺がんにかかる割が多いが、一方非喫煙者でも、都市に131人、農村部住んでいる人の死亡率14人と都市部の方が10倍近く肺がんになっている。これは大気中のベンゾaピレン(都市部77ng/m、農村7ng/m)で示されるように、自動車排ガス由来の多環芳香族炭化水素(PAHs)が多いためであろうと報告されている。
これらのベンゾaピレンは、発がん性物質と言われ、国により平成8年5月に大気汚染防止法の改正により「有害大気汚染物質に該当する可能性がある物質」として234物質、内「優先取組物質」の22物質の内の一つとして指定され、測定が義務付けられているが、環境基準までは制定されていない。
【0004】
さらに、これらのPAHsは、花粉、ダニなどのアレルゲンを刺激してアレルギーの発症を促進するアジュバント成分でもあることが我々の研究でも解明されている。環境中の化学物質とアレルギーとの関連では、特許文献1で、アレルギーの発症を促進する環境成分としてDEP(ディーゼル排気粒子)のアジュバント成分を除去するフィルターが提案されているが、DEP中のPAHsの成分までは、記述されていない。
また、特許文献2には、ディーゼルエンジンから排出される微粒子の除去フィルターが開示されているが、PAHsの吸着に関しては一切記載されていない。
さらに、特許文献3は、タバコの煙の中のベンゾ(a)ピレンを高比表面積微粉末の表面に二本鎖DNA分子で捕集し、その微粉末の一例として活性炭などが記載されているが、ベンゾ(a)ピレンの捕集は活性炭の表面の二本鎖DNA分子であり、活性炭は単なる二本鎖DNA分子のキャリアー材である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−214016号公報
【特許文献2】特開2008−212759号公報
【特許文献3】WO 2006/117862号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、発ガン性及びアレルギーの発症のアジュバント作用となる多環芳香族炭化水素(PAHs)を効率的に除去できる多環芳香族炭化水素の除去方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、有機物質の燃焼で発生する多環芳香族炭化水素(PAHs)を非晶質鉄水酸化物および/または活性炭で吸着することを特徴とする多環芳香族炭化水素の除去方法に関する。
ここで、多環芳香族炭化水素としては、ベンゾ(a)アントラセン、ベンゾ(a)ピレン、およびp−ニトロフェノールの群から選ばれた少なくとも1種が挙げられる。
また、非晶質鉄水酸化物および/または活性炭は、繊維層中に充填されているものが好ましい。
本発明の多環芳香族炭化水素の除去方法は、好ましくは、タバコフィルター、空気清浄器のフィルター、換気扇のフィルター、または空調のフィルターに適用される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、空気、水、土壌などの環境中のアレルギー発症アジュバント成分や発ガン性が懸念されるベンゾaピレンなどのPAHsを非晶質鉄水酸化物および/または活性炭で吸着させることによって有機物質の燃焼で発生する多環芳香族炭化水素(PAHs)を効率的に除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】PAHsの7成分に対応するIL−8の検出結果を示す図である。
【図2】PAHsの7成分に対応するマウス気道抵抗値AHRを、Derf+DEPの気道抵抗を100としたときの比較を示す図である。
【図3】PAHsの7成分の除去率を示す図である。
【図4】フェリハイドライトのX線解析図である。
【図5】ベンゾaピレンと非晶質鉄水酸化物の吸着メカニズムの図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明に適用される多環芳香族炭化水素〔PAHs〕とは、有機物質の燃焼によって発生する物質であり、例えば下記に示す7成分(ナフタレン、フルオレン、フェナントレン、フルオランテン、ベンゾaアントラセン、ベンゾaピレン、n−ニトロフェノール)が挙げられる。本発明に適用される多環芳香族炭化水素(PAHs)としては、特に、ベンゾ(a)アントラセン、ベンゾ(a)ピレン、p−ニトロフェノールが挙げられる。
【0011】
【化1】

【0012】
これらの7成分のPAHsは、有機物質の燃焼によって発生し、空気および水などに混在し、アレルギーや発がん性に関連する。このため、本発明の多環芳香族炭化水素の除去方法では、好ましくは、自動車用キャビンフィルター、室内換気給気フィルター、浄水器フィルターなどで、空気または水の中の微量PAHs物質を除去するために適用される。
【0013】
次に、本発明の多環芳香族炭化水素の除去方法に用いられる材料は、非晶質鉄水酸化物および/または活性炭からなる機能性粒子(以下「機能性粒子」ともいう)である。
このうち、非晶質鉄水酸化物とは、非晶質水酸化鉄(III)であり、Fe・nHOの組成を有する含水酸化鉄(フェリハイドライトと言う)で、水酸化鉄(III)〔Fe(OH)〕、オキシ水酸化鉄(III)〔FeO(OH)〕、水素化酸化鉄(III)〔FeHO〕が混在した無定形のものである。
非晶質水酸化鉄(III)は、天然にも存在し、鉄サビなども利用出来るが、量産化するためには塩化第2鉄(FeCl)を苛性ソーダを用いて、Fe・nHOの沈殿物に生成させて、乾燥して作られる。また、硝酸鉄〔Fe(NO〕でも可能であるが、この場合、消防法の関連から、貯蔵に一定の条件が要求されるので、火災などの危険性がない塩化第2鉄(FeCl)が好ましい。この塩化第2鉄から製造された非晶質水酸化鉄は、図4に示すX線解析図において、特定の位置に2つのピークを有することから、Ferryhiderite(フェリハイドライト)であることが分かる。
この非晶質水酸化鉄(III)は、天然にも存在する化合物であり、アルミニウムや有害な重金属を含んでいないので、安全に使用することができる。
非晶質鉄水酸化物の表面比表面積は、273.6m/g程度と活性炭の1,000m/gに比べて1/3程度であるが、重金属やPAHsの吸着に有効である。
【0014】
また、活性炭は、粒状活性炭の方が、非晶質鉄水酸化物と混合する場合好ましいが、活性炭繊維でも良い。アレルギーアジュバント物質を除去するフィルターに使用する場合は、いずれにしても、表面に活性化添着物質が無い活性炭が好ましい。
なお、空気中で使用される場合は、粒状活性炭が好ましく、この場合、さらに有害物質を化学反応で吸着除去するために各種の填着剤を填着させることもできる。例えば、アンモンニアなどのアルカリガスを含む場合、酸性物質を填着させることができる。しかしながら、飲料水では、填着剤が溶出するので、無填着の粒状活性炭を使用することが必要である。
これらの機能性粒子は、単独使用、混合使用、または多層で単独・混合使用も可能である。
【0015】
本発明の多環芳香族炭化水素の除去方法では、PAHsを効果的に吸着する非晶質鉄水酸化物および/または粒状活性炭からなる機能性粒子と、それを保持する多孔質構造体にPAHsを通して、当該PAHsを吸着除去することが好ましい。
【0016】
ここで、多孔質構造体として、ポリオレタンフォームや、不織布、織物、メッシュ状体などがあるが特には限定されない。
その形態は、機能性粒子を袋状、円筒状、プリーツ状にした形態でも良いし、また一定の形状に充填された状態でも良く、特に形態には限定されないが、不織布からなるフィルターが好ましい。
この場合、フィルターは、空気などの気体を浄化するものでも、あるいは、水などの液体、土壌を浄化するものであってもよい。
【0017】
本発明の非晶質鉄水酸化物および/または活性炭粒子からなる機能性粒子を保持する不織布は、樹脂加工によるいわゆるケミカル不織布、ニードルパンチフエルト(不織布)、水絡結合によるWJ不織布、スパンボンド不織布、メルトブロー不織布など3次元構造を有する不織布であれば、空気または溶液などを通し、かつ機能性粒子を保持できるので何れも良いが、エアレイド不織布を使用した方が、フィルター材から揮発物質が殆ど出ないので好ましい。
【0018】
かかるエアレイド不織布としては、すくなくとも下層と上層を含む複数層のエアレイド不織布からなる複層タイプと、一層のエアレイド不織布を用いた単層タイプが挙げられる。
【0019】
まず、複層タイプのエアレイド不織布の製造方法を述べる。
すなわち、多孔質ネットコンベア上に位置する多数台の噴き出し部から熱接着性複合繊維、または熱接着性複合繊維と非熱接着性繊維の混紡繊維を噴出させ、ネットコンベア下面に配置した空気サクション部で吸引しながらネットコンベア上にウェブを形成し、熱風ゾーンを通過させて、熱接着性複合繊維と熱接着性複合繊維との交絡点、または熱接着複合繊維と非熱接着性繊維の交絡点で、熱接着性複合繊維の表面を溶融接着させ、冷却ゾーンで溶融交絡点を固化させてエアレイド不織布を製造する方法であり、一般に熱接着性複合繊維としては、芯部の繊維融点と鞘部の繊維融点が50℃以上離れていることが望ましい。具体的な熱接着性複合繊維として、芯部がポリエステル繊維またはポリポロピレン繊維で、鞘部がポリエチレン繊維のものが挙げられる。
【0020】
ここで、エアレイド不織布の下層は、空気または水などの流体の流出側に位置するため、機能性粒子の脱離を防止し、かつ機能性粒子の破壊保護のため、フィルター効果とクッション効果が求められるので、繊維長1〜15mm、単糸繊径として、10〜75μmが必要である。繊維長1mm未満であれば、不織布の強力が少なく、一方15mmを超えると繊維紡出時の分散性が悪くなる。より好ましくは3〜5mmの繊維長である。
また、単糸繊径が10μmより小さいと機能性粒子の脱落が少なくフィルター効果は上がるが、繊維が細いため、クッション効果が少なくなる。一方、75μmを超えると、クッション効果が良くなるが、フィルター効果が少なくなり、機能性粒子の流出を生じるので好ましくない。
なお、エアレイドで下層を第1層として製造すれば、生産時の吸引熱風によりコンベアネット部に繊維層が圧縮されるので下層の密度が高くなり、その結果、下層部は硬くなりフィルターの形態保持の作用を果たす。また、エアレイド製法の特徴として構成する繊維が面方向のみならず厚さ方向にも配列し、良好な通気性を示す。
【0021】
エアレイド不織布の下層の目付けは、好ましくは20〜100g/m、さらに好ましくは35〜70g/mである。20g/m未満では、機能性粒子が露出する恐れがあり、一方100g/mを超えると、高密度になり中層、上層の繊維の吸引に支障をきたすので好ましくない。
【0022】
エアレイド不織布の上層(流体流入側)も、下層同様に、フィルター自体としての機能とともに、機能性粒子を含む混合層または中間層からの機能性粒子の脱離を防止し、またプレフィルターとしての作用を果たす。
本発明の吸着用エアレイド不織布に用いられる上層は、下層に使用した繊維を使用しても下層よりは低密度になり、その結果、下層よりは低圧損になる。その理由は、シートの厚さ方向に空気を貫通させながらシート化するというエアレイド製法上の特徴に起因する。結果的に、構成する繊維が面方向のみならず厚さ方向にも配列し、良好な通気性を示す。
【0023】
ところで、上層であるプレフィルター層は、一般的には、大気中の比較的大きな粒子をフィルターの表面層で捕らえて、細かな粒子はフィルターの内部で捕集する方式を採用すればライフが長くなるので、比較的太い繊維が使用される。しかしながら、本発明に用いられるフィルターは、吸着層である混合層または中間層に機能性粒子を保持しているので、フィルターをプリーツなどのアッセンブリー加工時の機能性粒子のプレフィルター層側からの漏れを防止するためには、圧損を上げない程度に細い繊維層が必要となる。そのため、上層のプレフィルター層となる熱接着性複合繊維の種類や単糸繊径、繊維長は、下層の熱接着性複合繊維と同様にしても良い。
また、上層の目付けは、好ましくは10〜100g/m、さらに好ましくは30〜80g/mである。10g/m未満では、30μm程度の機能性粒子の漏れの可能性が有り、一方100g/mを超えると、プリーツ加工などでは厚くなり過ぎてプリーツ面積が少なくなる。
【0024】
次に、機能性粒子を配置させる構造として、本発明は熱接着性複合繊維と機能性粒子を混合させた混合層と機能性粒子層のみの中間層として設置させる構造の2種類がある。
混合層は、PAHsが希薄の場合や、フィルターの形状をプリーツまたはその他の成型構造としてフィルターを設計する場合が好ましい。
一方、中間層は、浄水器など、吸着性能のライフまたはフィルターの設置面積が大きく取れない場合のフィルターで、機能性粒子層だけを必要量充填できる層であり、中間層の上下層、すなわち流体流入層および流出層にエアレイド不織布を設置させる構造である。
【0025】
混合層としては、単糸繊径が繊維長1〜15mm、単糸繊径30〜70μmの熱接着性複合繊維を主体とするエアレイド不織布の空隙部に機能性粒子が充填されている。繊維長さが1mm未満では、機能性粒子との接着不足になり、一方15mmを超えると繊維の分散性が良くないので好ましくなく、さらに3〜5mmの繊維長が好ましい。混合層の単糸繊径の作用効果は、機能性粒子の接着とクッション性を目的とするため、30〜70μmが必要である。30μm未満であると、粒子を保持する繊維層空間が少なくなり粒子の充填量が少なくなる。一方、70μmを超える場合は、繊維空間は多くなるが粒子との接着数が少なくなり粒子の繊維からの脱落の要因にもなるので好ましくない。
【0026】
混合層を構成するフィルターは、エアレイド法によって形成する。すなわち、多孔質ネットコンベア上に位置する多数台の噴き出し部のうち、第一の噴出し部から繊維長1〜15mm、単糸繊径として、10〜75μmの熱接着複合繊維(A)を20〜100g/mを下層として紡出し、第二の噴出し部から、単糸繊径が繊維長1〜15mm、単糸繊径30〜70μmの熱接着性複合繊維(B)30〜100g/mを紡出し、ネットコンベア下面に配置した空気サクション部で吸引しながらネットコンベア上に、エアレイドウェブを形成させ、次いで、パウダーホッパーから機能性粒子を該ウェブ上に散布して、該ウェブの空隙内に充填させ、さらに上層として第三の噴出し部から繊維長1〜15mm、単糸繊径として、10〜75μmの熱接着複合繊維(A)を20〜100g/mを紡出して、熱処理工程で熱接着性複合繊維と機能性粒子、および繊維どうしの交絡点を溶融冷却接着させることによって、フィルターが作成される。
【0027】
なお、混合層ではなく、中間層の場合は、混合層の製造の際に、熱接着性複合繊維(B)を省略すればよい。
【0028】
混合層また中間層に用いられ、吸着性粒子として機能する機能性粒子としては、非晶質鉄水酸化物、活性炭、あるいは非晶質鉄水酸化物と活性炭の併用系であるが、そのほか、ゼオライト、活性白土、大谷石、シリカゲル、モレキュラーシーブ、多孔性鉱物などを併用してもよい。
【0029】
機能性粒子の大きさは、小さければ小さい程、比表面積が広くなり吸着速度は速くなるが、吸着量は機能性粒子の重さに関係し、粒径には余り寄与されないし、小さくなればエアレイド不織布からの離脱も大きくなり、またエアレイド不織布製造時の均一散布などに支障を来たす。従って、機能性粒子の平均粒径は、好ましくは30〜5,000μm、さらに好ましくは100〜3,000μmである。30μmより細かいと、不織布より露出し易く、また散布が均一に行い難い。一方、5,000μmより大きいと、初期の吸着速度が遅くなったり、エアレイドによる均一散布が困難である。
なお、ここで言う粒子の平均径とは、タイラー社の篩を使用し、JIS K1474、活性炭試験方法の粒度測定に準じて測定されたものを言い、メッシュと粒子径の算出は次の近似式を採用した。
粒子径(μm)=(25.4/メッシュ)×590
【0030】
また、混合層に用いられる機能性粒子の目付け(中間層が複層の場合を含む)は、要求される吸着性能によって異なるが、好ましくは50〜2,000g/m、さらに好ましくは100〜1,000g/mである。50g/m未満では、PAHsの吸着性能が劣る。一方、例えば500g/mを超える場合は、粒子供給ノズルの供給を2〜3台設置し、2〜3層の中間層を設ければ良いが、機能性粒子の目付けが1,000g/mを超える不織布はロール生産が困難になるので、機能性粒子の中間層として設計すれば良い。
以上のように、混合層は1層のみならず、機能性粒子の目付けによっては、2〜3層の複層構造を採用してもよい。
【0031】
さらに、混合層を構成する熱接着性複合繊維と機能性粒子の重量割合は、好ましくは10〜30/90〜70重量%、さらに好ましくは10〜25/90〜75重量%である。熱接着性複合繊維の割合が10重量%未満では、機能性粒子への接着が不良になり、機能性粒子の漏れを生じやすく、一方、30重量%を超えると、吸着性能が悪くなる。
【0032】
なお、流出側である最下層には、メルトブロー不織布をさらに付加してもよい。最下層に使用されるメルトブロー不織布は、繊維の平均径は0.2〜25μm、好ましくは0.5〜15μm、目付が10〜60g/m、好ましくは12〜50g/mである。平均径が0.2μm未満の場合、メルトブロー法の生産性が悪化して高コストとなるので実用的でなくなり、かつ、繊維が平面配列となりやすいメルトブロー法不織布においては、特に極細化すると通気性が悪化しやすい傾向があるので、エアフィルターとして好ましくない。一方、25μmを超えると、太過ぎて微細粉塵の捕集性能が悪化する。メルトブロー不織布を構成する繊維の平均径は、ポリマー粘度、紡糸口金のポリマー吐出口の口径、ポリマー吐出量、高速加熱媒体流の流量と流速、温度などの条件により、容易に調整することができる。
また、メルトブロー不織布の目付けは、10g/m未満では、強度が低過ぎて実用的でないばかりか、微細粉塵の捕集性能も悪化し、一方、60g/mを超えると、通気性が悪化して好ましくない。
なお、メルトブロー不織布は、芯鞘型複合繊維から形成されていても良い。
【0033】
次に、単層タイプのエアレイド不織布に製造方法について述べる。
すなわち、多孔質ネットコンベア上に位置する多数台の噴き出し部から、上記と同様の熱接着性複合繊維、または熱接着性複合繊維と非熱接着性繊維の混紡繊維を噴出させ、ネットコンベア下面に配置した空気サクション部で吸引しながらネットコンベア上にウェブを形成し、熱風ゾーンを通過させて、熱接着性複合繊維と熱接着性複合繊維との交絡点、または熱接着複合繊維と非熱接着性繊維の交絡点で、熱接着性複合繊維の表面を溶融接着させ、冷却ゾーンで溶融交絡点を固化させてエアレイド不織布を製造する。
【0034】
ここで、エアレイド不織布は、空気または水などの流体の流出側に位置するため、機能性粒子の脱離を防止し、かつ機能性粒子の破壊保護のため、フィルター効果とクッション効果が求められるので、繊維長1〜15mm、単糸繊径として、10〜75μmが必要である。繊維長1mm未満であれば、不織布の強力が少なく、一方15mmを超えると繊維紡出時の分散性が悪くなる。より好ましくは3〜5mmの繊維長である。
また、単糸繊径が10μmより小さいと機能性粒子の脱落が少なくフィルター効果は上がるが、繊維が細いため、クッション効果が少なくなる。一方、75μmを超えると、クッション効果が良くなるが、フィルター効果が少なくなり、機能性粒子の流出を生じるので好ましくない。
【0035】
単層タイプのエアレイド不織布の目付けは、好ましくは25〜200g/m、さらに好ましくは50〜150g/mである。25g/m未満では、機能性粒子が露出する恐れがあり、一方200g/mを超えると、高密度になり、機能性粒子の吸引に支障をきたすほか、得られるフィルターの通気性が悪化し好ましくない。
【0036】
次に、機能性粒子を配置させる構造として、上記の複層タイプと同様に、熱接着性複合繊維と機能性粒子を混合させた混合層と機能性粒子層のみの中間層として設置させる構造の2種類があり、これらの構成および作用は、複層タイプと同様であるので、その詳細は省略する。ここで、機能性粒子の目付けも、複層タイプと同様である。
【0037】
なお、混合層は、エアレイド法によって形成する。すなわち、多孔質ネットコンベア上に位置する多数台の噴き出し部のうち、第一の噴出し部から繊維長1〜15mm、単糸繊径として、10〜75μmの熱接着複合繊維(A)を第1層として紡出し、第二の噴出し部から、単糸繊径が繊維長1〜15mm、単糸繊径30〜70μmの熱接着性複合繊維(B)を紡出し、ネットコンベア下面に配置した空気サクション部で吸引しながらネットコンベア上に、エアレイドウェブを形成させ、次いで、パウダーホッパーから機能性粒子を該ウェブ上に散布して、該ウェブの空隙内に充填させ、熱処理工程で熱接着性複合繊維と機能性粒子、および繊維どうしの交絡点を溶融冷却接着させることによって、フィルターが作成される。
【0038】
また、中間層は、混合層の製造方法において、熱接着性複合繊維(B)を用いない以外は、同様にして、機能性粒子をウェブ上に散布すればよい。
【0039】
なお、流出側である最下層には、複層タイプと同様に、メルトブロー不織布やスパンボンド不織布をさらに付加してもよい。
【0040】
また、本発明に用いられる単層タイプの場合、最上層に、エレクトレット加工されたメルトブロー不織布を積層させたものが好ましい。
このようにすると、エアレイド不織布に載置された機能性粒子の脱落が防止されるとともに、フィルターを通過する微量子を捕集することができるという効果があり、好ましいものである。
【0041】
本発明のメルトブロー不織布には、一般にポリオレフィンが用いられる。用いるポリオレフィンとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ4メチル1ペンテン、ポリ3メチル1ブテンなどが挙げられる。これらの中では、特にプロピレンからなる単独重合体、共重合体が細い均一な繊維構成を得やすく、かつまた、不織布強度の面から好ましい。また、これらのポリオレフィンは、必要に応じて適宜ブレンドして用いることができる。
【0042】
本発明のメルトブロー不織布は、上記のポリオレフィンを用い、メルトブロー法で製造して得られる。
メルトブロー不織布としては、目付けは、好ましくは5〜50g/mであり、より好ましくは10〜40g/mである。平均繊維径は、好ましくは2〜30μmであり、より好ましくは4〜10μmである。厚みは、好ましくは0.1〜0.6mmであり、より好ましくは0.2〜0.4mmである。通気度は、好ましくは5〜100cc/sec/cmであり、より好ましくは5〜50cc/sec/cmである。このような物性を有するポリオレフィン製のメルトブロー不織布がエアフィルターとして用いるのに好ましい。
【0043】
なお、本発明に用いられるメルトブロー不織布は、メルトブロー法により得られるウェブをカレンダー加工を施すことにより、得られる不織布の繊維構造を固定させるとともに、その厚さや密度を調整することもできる。カレンダー加工においては、1対の加熱ローラーの隙間を調整し所望の厚さの不織布に加工する方法が好ましい。この場合、隙間は0.3〜4mm、さらに好ましくは0.8〜3mmである。温度は、20〜90℃、好ましくは20〜80℃である。90℃を超えると、融点に接近してくるので、表面繊維が変形しはじめ、皮膜が形成されやすくなって圧損増加や捕集性能のダウンを生じる。一方、20℃未満では、カレンダー効果が発揮しにくくなる。なお、あらかじめウェブを予熱してある場合には低温度で加工することもできる。カレンダーローラーの表面は、フラットでも良いし、凹凸形状を取ることもできる。
これらの条件は、所望の厚さ・密度に加工するに適した条件を、本発明の作用・効果を阻害しない範囲で適宜選択することができる。
【0044】
また、エレクトレット加工とは、例えば特開昭61−186568号公報に開示されている加工方法であり、公知の種々のエレクトレット化の方法、例えば、熱エレクトレット法、エレクトロエレクトレット法、ラジオエレクトレット法、メカノエレクトレット法などを適用することによって、シートなどを荷電状態にする加工方法である。
エレクトレット加工の具体的な一例としての条件は、ポリオレフィン系メルトブロー不織布の場合、好ましくは80〜150℃、さらに好ましくは90℃〜110℃程度の加熱ローラー上にて、−30〜−5KVあるいは+5〜+30KV、さらに好ましくは−30〜−5KV程度の直流電圧を印加し、次に冷却ロール上にてさらに−30〜−5KVあるいは+5〜+30KV、さらに好ましくは−30〜−5KV程度の直流電圧を印加する方法などが挙げられる。生活空間に存在する微少塵埃の多くはプラス帯電しているものが比較的に多いので、印加電圧はマイナスとする方が好ましい。
【0045】
また、エレクトレット加工としては、例えば上記のエレクトレット加工と同様の加工方法のほか、例えば特開2005−131485号公報の段落「0017」−「0019」に具示されているような、メルトブロー不織布への水の噴流または水滴流を衝突させる方法も挙げることができる。
【0046】
以上の単層タイプの場合、機能性粒子が載置された単層タイプのエアレイド不織布とメルトブロー不織布との一体化は、ホットメルト接着剤、ラテックス系接着剤、エマルジョン系接着剤、樹脂パウダー接着剤、超音波ウエルダー、高周波ウエルダー、または部分的な熱圧接着などによればよい。
ここで、これらの接着剤の成分としては、ポリオレフィン系、ポリ酢酸ビニル系、ポリアクリル酸エステル系、合成ゴム系、ポリウレタン系、エポキシ樹脂系、熱硬化型樹脂系、無機系などを挙げることができる。
これらの接着剤の使用量は、通常、固形分換算で、2〜20g/m、好ましくは4〜10g/mであり、圧損を上げずにしかも剥離を生じない範囲で決められる。
【0047】
また、これらの接着剤の使用に代えて、機能性粒子が載置されたエアレイド不織布とメルトブロー不織布とをカレンダー加工などにより、加熱・加圧接着し、一体化させることもできる。
ここで、カレンダー処理の線圧は、幅方向で均一な接圧になるよう設定すれば、任意の圧力を選択することができる。高圧の場合は密度・不織布強力・層間強力がアップし、厚さがダウンする。低圧の場合は勿論これに反する影響が出る。不織布強力を重視するのであれば極力高圧のほうが好ましい。柔軟性を重視するのであれば低圧の方が好ましい。カレンダー処理の線圧は、通常、10〜100kgf/cmの範囲で任意に選択できる。また、一対のローラー間に任意の隙間を設けても良い。
【0048】
エアレイド不織布とメルトブローを積層・一体化して複合シートとするには、インラインでもアウトラインでも可能である。
インラインの場合、エアレイド製造装置から搬出された、機能性粒子が載置されたエアレイド不織布の上部にホットメルト接着剤の粉を散布し、ついでその上からメルトブロー不織布を積層して一体化させ、必要に応じて、カレンダー加工して、複合シートを得る。
また、アウトラインの場合には、あらかじめ作製された機能性粒子が載置されてなるエアレイド不織布とメルトブロー不織布とを接着剤を介して一体化し、必要に応じて、カレンダー加工を施す。
インライン、アウトラインいずれの場合も、接着剤を用いない場合には、カレンダー加工により、両者を加熱・加圧して一体化すればよい。
【実施例】
【0049】
以下、本発明を参考例・実施例を挙げて、さらに具体的に説明する。
【0050】
参考例(アレルギーアジュバント成分の解明)
アレルギーを刺激する環境中のアジュバント成分の一部として、上記に示したPAHsの7成分のアジュバント検証を細胞毒性試験と動物暴露試験で確認した。
【0051】
<細胞毒性試験>
上記に示した7成分のPAHsを夫々12.3ng/ml、DCM(ジクロロメタン)で溶解し、A549癌細胞に24時間放置し、IL−8(インターロイキンー8、免疫細胞の活性化を促す蛋白質の一種)の検出を行った結果を図1に示す。
比較の意味で、DCMの溶剤のみをコントロールとし、自動車排出物質(DEP)は特許文献1に記載した環境研究所の標準DEPダストを使用した。標準DEPダストは、PAHsのみならず、重金属をも含んでいるものと推定される。
図1より、7成分のPAHsは、全てコントロールよりもIL−8の生成が高くなっているので、アレルギーに対してアジュバント作用が認められ、そのうち、フェナントレン、ナフタレン、p−ニトロフェノールは特許文献1でアレルギー作用が判明したDEPダストより高いので更にDEPよりもアジュバント作用が高いことが分かる。
【0052】
<動物暴露試験>
ダニ(Derf)とPAHsの7成分を100ng/mlに希釈してマウスに週2回6週間、一回投与液量は0.1mlで経口吸引した後のマウス気道抵抗値AHRを測定し、(Derf+DEP)場合の気道抵抗を100としたときの比較を図2に示す。図2より、Vehicle(コントロール)に比べて、全ての検体にAHRが上がるが、DEP、およびPAHsの7成分にDerfを加えると、Derf単体よりは気道抵抗が上がり、マウスの喘息状況が著しいことが分かる。
すなわち、PAHsの7成分は、アレルギーに対してのアジュバント作用があることが分かる。
【0053】
以上の細胞毒性試験及び動物暴露試験によって、上記PAHsの7成分はアレルギーに対してアジュバント作用があることが検証された。
【0054】
実施例1
クラレクラフレックス社製のPP(PC15KELポリプロピレン)スパンボンド不織布(目付け:15g/m)の上にエアレイド不織布製造機の噴射ノズルから、繊度11dt、繊維長5mmの、鞘部ポリエチレン/芯部ポリエステルからなる熱接着性複合繊維(帝人ファイバー(株)製)を50g/m紡出し、その後にパウダーホッパーより、機能性粒子として、平均粒径が100〜500μmの非晶質水酸化鉄(日水化学製で塩化第2鉄より作成したFerrihydrite)を50g/mで該ウェブ層上に散布し、熱風条件として135℃で熱処理して不織布1を作成して総目付け115g/mのPAHs吸着用フィルター1(非晶質鉄フィルター)を作成し、下記の要領でDEP試験を行った。
【0055】
実施例2
実施例1で使用した非晶質水酸化鉄の代わりに、平均粒径が100〜500μmのクラレ製の活性炭50g/mを使用した以外は、実施例1と同様にして、総目付け115g/mのPAHs吸着用フィルター2(活性炭フィルター)を作成し、下記の要領でDEP試験を行った。
【0056】
比較例1
フィルター無しで試験したときのガラスろ紙に付着した濃度を表1に示す。
【0057】
<DEP試験>
実施例1及び実施例2で作成したフィルター1,2を夫々、金星製紙製のDEP(ディーゼル排気粒子)試験機で評価した。DEP試験は、ディーゼル発電機(デンヨー製DA−3100SS−IV)を使用し、負荷率40%でDEPを発生させ、速度150lpmでDEPガスを約70m、各種フィルターに透過させ、フィルターを透過したDEPガスを下流に位置するガラスろ紙(アドバンテックGR100B)で捕集した。そのときにガラスろ紙に付着した6成分のPAHsの濃度を表1に示す。
なお、比較例1は、フィルター無しで試験したときのガラスろ紙に付着した濃度を表1に示す。
PAHsの分析は、有害大気汚染物質測定マニュアル(平成9年3月環境庁)第II章第I節個体捕集―高速液体クロマトグラフに準じて行った。
【0058】
【表1】

【0059】
ND:
検出なし(検出限界濃度0.001ng/m
表1より、実施例1の非晶質鉄フィルター1、および実施例2の活性炭フィルター2は、フィルターなしの比較例1に比べて、ベンゾ(a)アントラセン、ベンゾ(a)ピレン及び、フルオランテンの濃度が低い、即ちこれらの成分の吸着性が高いことを示している。特に、ベンゾ(a)ピレンに対する吸着性は、実施例2の活性炭フィルターより、実施例1の非晶質鉄フィルターの方が更に優れていることが分かる。
なお、今回のDEP試験機では、p−ニトロフェノールが発生されなかったので、PAHsの溶液での吸着試験を行った。
【0060】
<PAHs吸着試験>
(PAHs混合液の調製)
0.1%のDMSO溶液中にナフタレン、フルオレン、フェナントレン、フルオランテン、ベンゾ(a)アントラセン、ベンゾ(a)ピレンの各液を5,000ng/mlに調整し、混合溶液Aを作成した。p−ニトロフェノール液の場合は、測定感度の関係から高濃度の20,000ng/mlに調整し、混合溶液Aを作成した。
【0061】
(フィルターの吸着試験)
表1に記載した実施例1、2および実施例1,2の繊維のみの不織布ベース生地のフィルター5cmを別々にA液に室温で浸漬放置した。24時間後、フィルターを取り出し、A液の残液を遠心分離機で溶液B液を5ml回収した。コントロール溶液はフィルターを浸漬しないA液を使用した。
【0062】
(PAHs分析結果)
分析はGC/MS(ガスクロマトグラフ/質量分析)測定で行い、コントロール液の各成分の濃度とB液の濃度より、PAHs各成分の除去率を図3に示す。
【0063】
図3より、非晶質鉄(塩化第2鉄より作成したFerrihydrite)又は活性炭を含まない不織布ベース生地は、ナフタレン、フルオレン、フェナントレン、フルオランテンなどは、ある程度除去できるが、ベンゾ(a)アントラセン、ベンゾ(a)ピレン、p-ニトロフェノールは殆ど除去出来ていない。
一方、非晶質鉄(塩化第2鉄より作成したFerrihydrite)からなる実施例1のフィルターは、ベンゾ(a)ピレン、ベンゾ(a)アントラセンの吸着性能が活性炭からなる実施例2のフィルターよりは優れているが、p-ニトロフェノールは活性炭の方が優れている。
従って、PAHs類の吸着には、非晶質鉄(塩化第2鉄より作成したFerrihydrite)と活性炭の混合が好ましい。
【0064】
実施例3
実施例1で使用したエアレイド不織布製造機を用い、下層に2.2dt帝人複合ポリエステル〔芯部ポリエステル(PET)/鞘部ポリエチレン(PE)、繊維長5mm〕30g/mと、中層に20dtチッソ複合ポリプロピレン繊維〔芯部ポリプロピレン/鞘部ポリエチレン、繊維長5mm〕を50g/m紡出させ、更に実施例1で使用した非晶質鉄水酸化物80g/mと実施例2で使用した活性炭80g/mを散布し、上層に下層と同様の2.2dt帝人複合ポリエステル繊維50g/mを紡出させて、更にメルトブロー不織布ET01580(東レ製、目付15g/m)を最下層に積層して実施例3のフィルターを作成した。このときの物性を表2に示す。
【0065】
比較例2
市販の空気清浄器に使用されている160g/m入り粒状活性炭不織布を実施例3との比較例2としてその物性値を表2に示す。
【0066】
比較例3
市販の空気清浄器に使用されているケミカル脱臭剤入り不織布とトリボエレクトレットからなる空気清浄器用フィルターを比較例3としてその物性値を表2に示す。
【0067】
【表2】

【0068】
通気性(cm/sec) フラジール通気性試験機
圧損(Pa) 速度1m/secでの圧力損失
0.3μm効率(%) パーティクルカウウンターを使用して0.3μmの大気塵を1m/secで通過させたときのフィルター捕集効率
【0069】
<タバコ試験>
実施例3及び比較例2,3のフィルターを夫々、金星製紙製のタバコ試験機で評価した。タバコ試験機は、タバコ(マイルドセブンBaP71.5ng/本)を拡散容器で1本を燃焼させ、評価フィルターを通過したタバコの煙を20L/minの速度で絶対濾紙(アドバンテック製GB-100Rの粒子捕集用と3MエムポアディスクC18FFのガス捕集用絶対濾紙を直列に配置)で捕集し、夫々の絶対濾紙に付着したPAHsをDEP試験と同様の高速液体クロマトグラフで分析した。
その結果を表3に示すが、表3のBlank値は、マイルドセブンのタバコを燃焼させたときのPAHs濃度である。ベンゾaピレンのガス成分は検出されなかった。
【0070】
【表3】

【0071】
表3より、本発明の実施例3のフィルターは、市販の空気清浄器フィルターである比較例2及び比較例3の粒子状のPAHsの吸着性が良いことが明らかである。
しかし、ガス状PAHsについては、実施例3は比較例2より若干吸着性が低いが、この原因は比較例3の方が活性炭の多いためと考えられる。従って、粒子とガスの両方のPAHsを吸着するには、実施例3の方が有効である。
【0072】
<PAHsの吸着メカニズム>
以上の実験結果から、図5を用いて、非晶質鉄水酸化物であるフェリハイドライトのベンゾaピレン(BaP)の吸着メカニズムをフロンティア軌道理論で説明する。
フロンティア軌道理論では、ベンゾaピレン等の多環芳香族炭化水素は、電子によって占有される分子軌道の最もエネルギー準位の高い電子が存在する軌道HOMO(最高被占軌道 HOMO Highest Occupied Molecular Obital)と、最もエネルギー準位の低い電子が存在しない軌道LUMO(最低被占軌道 Lowest Unoccupied Molecular Orbital)と吸着サイトの相互作用により吸着反応が解釈できる。
BaPなどの多環芳香族炭化水素は、HOMOにある電子の反応性が高く、他の分子のLUMOと相互反応をしてエネルギー安定化を引き起こす。つまり、一つの分子のHOMOの形状と、もう一つの分子のLUMOが形状的に近い構造であれば、エネルギー安定化による吸着を起こしうることになる。
BaPのHOMOの分子軌道を非経験量子化学計算法(Gaussian09W)を用いて計算した結果、HOMOの形状は鋭角60度の菱形の頂点に電子密度の高い部分が存在し、その一辺の長さは約5Åであった。一方、本発明で使用したフェリハイドライド(Fd)である非晶質鉄水酸化物のX線回折データを基に表面の水素位置を分子動力学法(Material Studio)を使用して計算した結果、水素位置の鋭角60度の菱形頂点に存在し、水素間の長さも約5Åであった。この結果を図5に示すが、図5の上部は5環のベンゼン核を有するベンゾaピレン(BaP)のHOMOを表し、下部は非晶質鉄水酸化物のX線回折による構造を示したものである。これより、BaPのHOMOとFdのLUMOの形状が良く一致していることが判明した。BaPのHOMOが本発明で使用した非晶質鉄水酸化物のLUMOである水素原子との求核型吸着反応を生じていると考えられる。
活性炭の有機ガス吸着はファンデァワールス力による物理吸着で、分子量の小さい有機ガスへの吸着は強い。しかし、BaPのように分子量の大きい多環芳香族炭化水素の場合には、フロンティア軌道を有する非晶質鉄水酸化物の方が吸着力が強いものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明多環芳香族炭化水素の除去方法は、タバコフィルター、空気清浄器のフィルター、換気扇のフィルター、または空調のフィルターなどの分野に適用される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機物質の燃焼で発生する多環芳香族炭化水素(PAHs)を非晶質鉄水酸化物および/または活性炭で吸着することを特徴とする多環芳香族炭化水素の除去方法
【請求項2】
多環芳香族炭化水素が、ベンゾ(a)アントラセン、ベンゾ(a)ピレン、およびp−ニトロフェノールの群から選ばれた少なくとも1種である、請求項1記載の多環芳香族炭化水素の除去方法。
【請求項3】
非晶質鉄水酸化物および/または活性炭が、繊維層中に充填されている請求項1または2記載の多環芳香族炭化水素の除去方法。
【請求項4】
タバコフィルター、空気清浄器のフィルター、換気扇のフィルター、または空調のフィルターに適用される請求項1〜3いずれかに記載の多環芳香族炭化水素の除去方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−20278(P2012−20278A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−46073(P2011−46073)
【出願日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【出願人】(591196315)金星製紙株式会社 (36)
【出願人】(504174180)国立大学法人高知大学 (174)
【出願人】(504160781)国立大学法人金沢大学 (282)
【Fターム(参考)】