多角的皮膚バリア機能改善剤
【課題】タイトジャンクション機能の不全による皮膚バリア機能の低下を改善する成分が、傷害されたタイトジャンクションにおいてどの様にその機能の回復をせしめるかを視覚的に鑑別できる鑑別法を提供する。
【解決手段】皮膚乃至は培養皮膚三次元モデルのタイトジャンクションを傷害処理してなる、タイトジャンクション傷害皮膚モデルと、タイトジャンクション機能トレーサー及び蛍光標識されたセラミドとを用い、トレーサーの分布の変化より、タイトジャンクションにおいてどの様にその機能の回復をせしめるかを視覚的に鑑別する。
【解決手段】皮膚乃至は培養皮膚三次元モデルのタイトジャンクションを傷害処理してなる、タイトジャンクション傷害皮膚モデルと、タイトジャンクション機能トレーサー及び蛍光標識されたセラミドとを用い、トレーサーの分布の変化より、タイトジャンクションにおいてどの様にその機能の回復をせしめるかを視覚的に鑑別する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化粧料などの皮膚外用剤の有効成分のスクリーニングに有用な皮膚バリア機能改善素材のスクリーニング法に関する。また、当該スクリーニング法により見出した皮膚バリア機能改善剤に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚におけるバリア機能は、生体にとっての異物の生体内への侵入を防ぐ意味で重要な機能の一つとなっている。かかるバリア機能の不全は肌荒れ、炎症などの原因ともなり、その保全策は化粧料分野においては一大課題となっている。この様な皮膚バリア機能の因子としては、角層細胞の形状や接合状態に起因する角層のバリア機能、表皮・真皮の含水量などの皮膚保湿性などが挙げられ、単純なものではなく、多くの因子が絡み合っていることが既に知られている。これらの因子で近年特に注目されているのは、表皮顆粒層に存在するタイトジャンクション蛋白であり、かかるタイトジャンクション蛋白を介した細胞接合の不全に皮膚バリア機能の低下が起因すると言う説である(例えば、特許文献1、特許文献2を参照)。このタイトジャンクションの機能に注目した化粧料素材のスクリーニング法も前記の特許文献に開示されている。この方法では、タイトジャンクション機能の不全による皮膚バリア機能の低下を改善する成分を、数値として評価できるが、タイトジャンクションの不全に対してどの様にスクリーニング素材が働いているかを視覚的に捉えることは困難であり、この様な視覚的に皮膚バリア機能改善を捉えられる鑑別法が望まれていた。
【0003】
タイトジャンクション以外に、皮膚バリア機能については、セラミドの量、分布状況及びその種類が皮膚バリア機能に対して重要な因子となっていることも知られている(例えば、特許文献3、特許文献4、特許文献5を参照)。又、セラミドの生体内分布を調べるための標識セラミドも既に知られており(例えば、特許文献6を参照)、市販品も存する。しかしながら、検体が及ぼす、セラミドの分布状況と、タイトジャンクションの傷害からの回復改善効果とを比較可能な条件下で同時に検討した例は存しない。この為、皮膚バリア機能の低下とその改善に関しては、その要因が多面的であることを認めつつも、一因子のみで語られることが少なくなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−26092号公報
【特許文献2】特開2006−250786号公報
【特許文献3】特開2002−102177 号公報
【特許文献4】特開2007−108060 号公報
【特許文献5】特表2006−511462 号公報
【特許文献6】特開平09−2978 号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、この様な状況下為されたものであり、因子の多い皮膚バリア機能の低下において、多角的視点に立って、その改善効果を鑑別できる皮膚バリア機能向上素材のスクリーニング法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この様な状況に鑑みて、本発明者らは、因子の多い皮膚バリア機能の低下において、多
角的視点に立って、その改善効果を鑑別できる皮膚バリア機能向上素材のスクリーニング法を求めて鋭意研究を重ねた結果、皮膚又は培養皮膚三次元モデルを標識されたセラミドとともに培養し、しかる後に、皮膚又は培養皮膚三次元モデルにおける標識されたセラミドの存在状況を観察することにより、セラミド分布への影響を知り、ほぼ同じ実験被験体である、皮膚又は培養皮膚三次元モデルについて、そのタイトジャンクションを傷害処理してなる、タイトジャンクション傷害皮膚モデルに対して、タイトジャンクションの傷害からの回復効果を有するか否かを鑑別することにより、タイトジャンクションへの作用も鑑別でき、これらを総合することにより、多角的な皮膚バリア機能への検体の作用が鑑別できることを見出し、発明を完成させるに至った。即ち、本発明は以下に示すとおりである。
(1)皮膚又は培養皮膚三次元モデルを標識されたセラミドとともに培養し、
上記培養した皮膚又は培養皮膚三次元モデルを検体で処理し、
皮膚又は培養皮膚三次元モデルにおける標識されたセラミドの存在状況を観察し、
セラミドの組織内輸送が、検体が存在しない条件に比して促進された検体であると鑑別された、ε,γ−グルタミルリジン及び/又はパルマリア抽出物を含む、皮膚バリア機能改善剤。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、因子の多い皮膚バリア機能の低下において、多角的視点に立って、その改善効果を鑑別できる皮膚バリア機能向上素材のスクリーニング法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】無処理コントロールにおけるトレーサーの染色画像を示す図である。図中点線で囲まれた部分が角層で、それよりも下の部分が表皮層である。以下同様。(図面代用写真)
【図2】図1と同様の、抗オクルディン抗体の染色画像(矢印)を示す図である。(図面代用写真)
【図3】図1と同様の、トレーサー、抗オクルディン抗体(矢印)それぞれの染色画像を重ね合わせた像を示す図である。(図面代用写真)
【図4】1mMカプリン酸ナトリウム処理におけるトレーサーの染色画像を示す図である。(図面代用写真)
【図5】図4と同様の、抗オクルディン抗体の染色画像(矢印)を示す図である。(図面代用写真)
【図6】図4と同様の、トレーサー、抗オクルディン抗体(矢印)それぞれの染色画像を重ね合わせた像を示す図である。*印は角層部分へのトレーサーの漏出を示す。(図面代用写真)
【図7】1mMカプリン酸ナトリウム処理後、カプリン酸ナトリウムを含まない培地に交換して3時間後のトレーサーの染色画像を示す図である。(図面代用写真)
【図8】図7と同様の、抗オクルディン抗体の染色画像(矢印)を示す図である。(図面代用写真)
【図9】図7と同様の、トレーサー、抗オクルディン抗体(矢印)それぞれの染色画像を重ね合わせた像を示す図である。*印は角層部分へのトレーサーの漏出を示す。(図面代用写真)
【図10】1mMカプリン酸ナトリウム処理後、カプリン酸ナトリウムを含まない培地に交換して6時間後のトレーサーの染色画像を示す図である。(図面代用写真)
【図11】図10と同様の、抗オクルディン抗体の染色画像(矢印)を示す図である。(図面代用写真)
【図12】図10と同様の、トレーサー、抗オクルディン抗体(矢印)それぞれの染色画像を重ね合わせた像を示す図である。*印は角層部分へのトレーサーの漏出を示す。(図面代用写真)
【図13】1mMカプリン酸ナトリウム処理後、カプリン酸ナトリウムを含まず、500μg/mlε,γ−グルタミルリジンと0.1%パルマリア抽出物の混合物を含む培地に交換して3時間後のトレーサーの染色画像を示す図である。(図面代用写真)
【図14】図13と同様の、抗オクルディン抗体の染色画像(矢印)を示す図である。(図面代用写真)
【図15】図13と同様の、トレーサー、抗オクルディン抗体(矢印)それぞれの染色画像を重ね合わせた像を示す図である。*印は角層部分へのトレーサーの漏出を示す。(図面代用写真)
【図16】1mMカプリン酸ナトリウム処理後、カプリン酸ナトリウムを含まず、500μg/mlε,γ−グルタミルリジンと0.1%パルマリア抽出物の混合物を含む培地に交換して6時間後のトレーサーの染色画像を示す図である。(図面代用写真)
【図17】図16と同様の、抗オクルディン抗体の染色画像(矢印)を示す図である。(図面代用写真)
【図18】図16と同様の、トレーサー、抗オクルディン抗体(矢印)それぞれの染色画像を重ね合わせた像を示す図である。(図面代用写真)
【図19】1mMカプリン酸ナトリウム処理後、カプリン酸ナトリウムを含まず、500μg/mlε,γ−グルタミルリジンを含む培地に交換して6時間後のトレーサーの染色画像を示す図である。(図面代用写真)
【図20】図19と同様の、抗オクルディン抗体の染色画像(矢印)を示す図である。(図面代用写真)
【図21】図19と同様の、トレーサー、抗オクルディン抗体(矢印)それぞれの染色画像を重ね合わせた像を示す図である。(図面代用写真)
【図22】1mMカプリン酸ナトリウム処理後、カプリン酸ナトリウムを含まず、0.1%パルマリア抽出物を含む培地に交換して6時間後のトレーサーの染色画像を示す図である。(図面代用写真)
【図23】図22と同様の、抗オクルディン抗体の染色画像(矢印)を示す図である。(図面代用写真)
【図24】図22と同様の、トレーサー、抗オクルディン抗体(矢印)それぞれの染色画像を重ね合わせた像を示す図である。(図面代用写真)
【図25】カプリン酸ナトリウム未処理の「EPI-200」の凍結切片の蛍光画像を示す図である。(図面代用写真)
【図26】1mMカプリン酸ナトリウム処理12時間後の「EPI-200」の凍結切片の蛍光画像を示す図である。(図面代用写真)
【図27】1mMカプリン酸ナトリウム処理12時間後、カプリン酸ナトリウムを含まない新鮮な維持培地に置換して18時間後の「EPI-200」の凍結切片の蛍光画像を示す図である。(図面代用写真)
【図28】蛍光標識セラミドの細胞外への分泌量に対するε,γ−グルタミルリジン、パルマリア抽出物の影響を示す図である。(図面代用写真)
【図29】1mMカプリン酸ナトリウム処理12時間後、維持培地に置換して12時間後の「EPI-200」の凍結切片の蛍光画像を示す図である。(図面代用写真)
【図30】1mMカプリン酸ナトリウム処理12時間後、500μg/mlε,γ−グルタミルリジンを含有する維持培地に置換して12時間後の「EPI-200」の凍結切片の蛍光画像を示す図である。(図面代用写真)
【図31】1mMカプリン酸ナトリウム処理12時間後、0.1%パルマリア抽出物を含有する維持培地に置換して12時間後の「EPI-200」の凍結切片の蛍光画像を示す図である。(図面代用写真)
【発明を実施するための形態】
【0009】
<1>本発明のセラミドの組織内輸送の鑑別法
本発明のセラミドの組織内輸送の鑑別法は、皮膚又は培養皮膚三次元モデルを標識されたセラミドとともに培養し、しかる後に、皮膚又は培養皮膚三次元モデルにおける標識の存在状況を観察することを特徴とする。前記の皮膚としては、所望により体毛を除去し、生体より採取した皮膚断片であって、角層などを除いた、表皮顆粒層、表皮基底層及び真皮部分からなるものが好ましく、マウス、ラット、モルモット、ブタ、ウサギの皮膚断片が好ましい。又、前記培養皮膚三次元モデルとしては、ヒト又はヒトを除く動物の皮膚より採取した、正常な(癌化していない)ケラチノサイト、フィブロブラストなどの皮膚細胞を培養し、三次元構造を構築し、皮膚の構造に疑似させたものが好ましく、この様な形態の市販品を購入して使用することも出来る。好ましい市販品としては、例えば、倉敷紡績株式会社から販売されている「EFT-400」(正常培養ヒト三次元皮膚モデル)などが好
適に例示できる。特に表皮成分のみで構成される「EPI-200」や、USA MaTek社から販売されている「EpiDerm」などがさらに好適に例示できる。かかる皮膚又は培養皮膚三次元モ
デルは、標識されたセラミドを含む培地中で1〜10時間、好ましくは3〜5時間培養し、標識されたセラミドを細胞内に取り込ませる。PBS(リン酸緩衝生理食塩水)や液体培地で洗浄した後、新鮮な培地に交換して培養を続ける。6〜24時間後、好ましくは12〜18時間後に培地を回収し、その蛍光強度を計測したり、組織を切片に加工して、蛍光顕微鏡下観察して取り込まれたセラミドの量を蛍光として捉え、定量するとともにその存在位置を鑑別する。回収した培地中のセラミド量が多かったり、培養皮膚三次元モデルにおける、表皮細胞間の角層側を上部分とした場合にセラミドが上部分に多く輸送されたほうが角層形成が促進され、皮膚バリア機能改善作用を有する。切片においてはさらにその鑑別には、蛍光顕微鏡の観察像をコンピューターなどに取込み、アドビ社製の「フォトショップ」などの画像処理ソフトを用いて、二値化などの画像処理を行い、蛍光部位と非蛍光部位とを分けて、存在位置を二次元分布として把握することが出来る。又、白点と黒点の面積比より、蛍光強度を鑑別することも出来る。かかるセラミドの組織内輸送状況は、後記の皮膚バリア機能改善素材のスクリーニング法の指標として使用することが出来る。
【0010】
<2>本発明の皮膚バリア機能改善素材のスクリーニング法
本発明の皮膚バリア機能改善素材のスクリーニング法は、前記のセラミドの組織内輸送の鑑別法において、検体が標識されたセラミドの組織内輸送に与える影響を鑑別し、セラミドの組織内輸送が、検体が存在しない条件に比して促進された場合には前記検体は、セラミドの欠乏による皮膚バリア機能の低下を改善する作用を有すると鑑別することを特徴とする。セラミドの組織内輸送は、前記の如くに、蛍光部分の面積の増大と、蛍光部分の広がりによって鑑別することが出来る。
【0011】
皮膚又は培養皮膚三次元モデルを用い、カプリン酸などのタイトジャンクション傷害剤で処置することにより、前記のセラミドの組織内輸送の鑑別法とほぼ同じ条件でタイトジャンクションの傷害からの回復促進作用を鑑別できることから、かかる回復促進作用を加味して、皮膚バリア機能改善素材のスクリーニングを行うことが出来、この様なスクリーニングを行うことが好ましい。この様なタイトジャンクションの傷害回復に関するスクリーニングは以下のように行うことが出来る。
【0012】
まず、次に示す手順に従って、タイトジャンクション傷害皮膚モデルを用意する。タイトジャンクション傷害皮膚モデルは、皮膚バリア機能向上成分のスクリーニング用のものであって、皮膚又は培養皮膚三次元モデルのタイトジャンクションを傷害処理してなることを特徴とする。前記の皮膚としては、所望により体毛を除去し、生体より採取した皮膚断片であって、角層などを除いた、表皮顆粒層、表皮基底層及び真皮部分からなるものが好ましく、マウス、ラット、モルモット、ブタ、ウサギの皮膚断片が好ましい。又、前記培養皮膚三次元モデルとしては、ヒト又はヒトを除く動物の皮膚より採取した、正常な(癌化していない)ケラチノサイト、フィブロブラストなどの皮膚細胞を培養し、三次元構造を構築し、皮膚の構造に疑似させたものが好ましく、この様な形態の市販品を購入して
使用することも出来る。好ましい市販品としては、例えば、倉敷紡績株式会社から販売されている「EPI-200」(正常培養ヒト三次元皮膚モデル)などが好適に例示できる。かか
る皮膚又は培養皮膚三次元モデルは、顆粒層側から傷害手段を講じてタイトジャンクション部分を傷害する。傷害手段としては、例えば、紫外線や化学物質などが好ましく例示でき、紫外線であれば、波長280〜320nmの紫外線を7.5〜200mJ/cm2、さらに好ましくは50〜160mJ/cm2の単位あたりのエネルギー量で照射すればよく、化学的な処置であれば、カプリン酸、カプリル酸などの中鎖長(炭素数8〜12)の脂肪族飽和直鎖脂肪酸またはその一価金属塩の0.1〜10mM、さらに好ましくは0.5〜
2mMの溶液を真皮側又は表皮基底層側から、5〜24時間、さらに好ましくは10〜1
5時間作用させればよい。また、オクルディンやクローディンの細胞外ドメインを認識する中和抗体を使用することもできる。これらの傷害処置の内、特に好ましいものは化学的傷害処置であり、なかでもカプリン酸溶液による処理が特に好ましい。これはタイトジャンクションに対して均質な損傷がなしうるからである。この様な均質な傷害は、後記の傷害タイトジャンクションの回復促進剤のスクリーニングにおいては、そのメカニズムを的確に鑑別する上で非常に重要な因子となる。処置後傷害手段は直ちに皮膚又は培養皮膚三次元モデルより離脱させる。離脱は、紫外線照射であれば照射を終了することにより出来るし、化学的傷害手段であれば、培地又はPBS(リン酸緩衝生理食塩水)などで洗浄する
ことによりなしうる。斯くして得られたタイトジャンクション傷害皮膚モデルは、後記タイトジャンクション機能回復剤の鑑別法に用いられ、傷害されたタイトジャンクションの回復促進剤のスクリーニングに好適に使用される。
【0013】
次に、タイトジャンクション機能トレーサーキットを用意する。タイトジャンクション機能トレーサーキットは、標識されていてもよいビオチンと、標識されていてもよいアビジンからなるタイトジャンクション機能トレーサーキットであって、前記ビオチン又はアビジンのどちらかは蛍光標識されていることを特徴とする。前記標識としては、例えば、フルオロセイン、ローダミン、フルオテトラメチルローダミン、ダンシルなどの蛍光標識、ルシフェリンなどの発光標識、ガリウムなどの放射性標識、ホースラディッシュ・ペルオキシダーゼなどの酵素標識などが例示でき、感度高く、視覚的にタイトジャンクション機能を鑑別するには、ビオチン又はアビジンのどちらかに蛍光標識を用いることが好ましい。タイトジャンクションの機能を鑑別するためには、本発明のキットでは、標識されていてもよいビオチンを、真皮側又は表皮基底層側から作用させ、表皮顆粒層に向かって作用させる。この時、タイトジャンクションの機能が正常であれば標識されていてもよいビオチンは表皮顆粒層側で食い止められ、角層側には移動しない。タイトジャンクションの機能が不全であれば、標識されていてもよいビオチンは角層側へと移動する。この様な皮膚組織中での標識されていてもよいビオチンの移動は、標識されていてもよいアビジンを作用させることにより、可視化できる。前記アビジンとしては、ビオチンとの不可逆的結合性を有するものであれば、何れも用いることが出来、例えば、ストレプトアビジン等が、その入手の容易性から好適に例示できる。かかるアビジンの標識としては、蛍光標識されていることが好ましい。本発明のキットについて、真皮側又は表皮基底層側より作用させる物質として標識されていてもよいアビジンを選択し、組織中の標識されていてもよいアビジンの可視化手段として標識されていてもよいビオチンを用いることも出来るが、タイトジャンクションの機能の正確な鑑別には、真皮側より作用させる物質として標識されていてもよいビオチンを用い、該ビオチンの可視化手段として標識されていてもよいアビジンを用いることがより好ましい。
【0014】
タイトジャンクション機能回復剤の鑑別法は、前記タイトジャンクション傷害皮膚モデルを検体で処理したものと、未処理のものとを、前記タイトジャンクション機能トレーサーキットで処理し、トレーサーの皮膚組織内における分布状況を調べ、基底層から顆粒層へのトレーサーの動きが、検体で処理することにより妨げられている蓋然性が、未処理のものに比して有意に高い場合には、前記検体の投与が皮膚のタイトジャンクションを回復
させる効果を有し、該回復によって皮膚バリア機能が向上すると鑑別することを特徴とする。前記蓋然性は、タイトジャンクション傷害皮膚モデルを、蛍光顕微鏡下観察することで容易に鑑別しうる。蓋然の差の有意性は、蛍光顕微鏡の観察像をコンピューターなどに取込み、アドビ社製の「フォトショップ」などの画像処理ソフトを用いて、二値化などの画像処理を行い、蛍光部位と非蛍光部位とを分けて、蛍光部位の総面積比を求め、これを統計処理することにより明らかに出来る。検体未処理と、処理とにおける、この値の差が大きいほど、検体のタイトジャンクション傷害回復作用、言い換えればバリア機能の回復作用が優れると鑑別できる。又、検体の濃度は実際に皮膚に投与した場合に外挿出来るように設定し、ドーズを振って用量効果をみることも好ましい。本発明の鑑別法では、画像として、タイトジャンクションの傷害からの回復が鑑別できるので、蛍光部分の偏りや、時系列的変化などを追うことにより、タイトジャンクションの回復過程のメカニズムなども知ることが出来る。以上の作業を工程に分けて表現すると以下のようになる。
(工程1)皮膚又は培養皮膚三次元モデルのタイトジャンクションを傷害手段により傷害し、タイトジャンクション傷害皮膚モデルを作成する工程
(工程2)タイトジャンクション傷害皮膚モデルを検体で処理する工程
(工程3)工程2の検体で処理したタイトジャンクション傷害皮膚モデルと、検体で処理しないタイトジャンクション傷害皮膚モデルをタイトジャンクション機能トレーサーキットの片方、好ましくは標識されたビオチンで処理する工程
(工程4)工程3のトレーサー処理した皮膚モデルより顕微鏡用の標本を作製する工程
(工程5)工程4の標本をトレーサーキットのもう一方、好ましくは、蛍光標識アビジンで処理する工程
(工程6)工程4の標本を顕微鏡下、好ましくは蛍光顕微鏡下観察する工程
(好ましくは工程7)工程6の顕微鏡像をイメージ画像としてコンピューターに取込み、画像処理し、蛍光部と非蛍光部とに分け、蛍光部の量比を求める工程
(好ましくは工程8)工程7の蛍光部の量比と、検体処理の相関関係の程度を求め、タイトジャンクション機能の回復促進作用の有無を鑑別する工程
【0015】
斯くして、鑑別されたセラミドの組織内輸送と、タイトジャンクションの傷害からの回復促進作用とは統合されて、皮膚バリア機能の改善素材として有用か、否かを鑑別される。
【0016】
前記統合においては、スクリニーング評価の結果を、1)タイトジャンクションの傷害からの回復促進も、セラミドの産生促進作用も有さない素材、2)タイトジャンクションの傷害からの回復促進作用は有するが、セラミドの産生促進作用は有さない素材、3)タイトジャンクションの傷害からの回復促進は有さないが、セラミドの産生促進作用は有する素材、4)タイトジャンクションの傷害からの回復促進も、セラミドの産生促進作用も有する素材の4つに分類し、それぞれの分類ごとに序列を決めることが好ましい。この分類において、4に分類される素材であって、実使用濃度において両方の作用が発現する素材が特に皮膚外用剤の有効成分として好ましい成分とされる。かかる成分は任意成分とともに化粧料などの皮膚外用剤に製剤化される。
【0017】
以下に、実施例を挙げて、本発明について更に詳細に説明を加える。
【実施例】
【0018】
実施例1
(工程1)「EPI-200」を、1mMカプリン酸ナトリウムを含む培地で12時間培養した。(工程2、3)処理検体として500μg/mlε,γ−グルタミルリジンと0.1%パルマリア抽出物の混合物を含む、1mMカプリン酸ナトリウムを含まない培地に交換して
培養を続け、一定時間ごとに「EPI-200」を回収する1時間前にトレーサーとして「EZ-LinkTM-スルフォ-NHS-LC-ビオチン」(ピアス社製)を最終濃度0.1mg/mlになるよ
うに加えた。一方、未処理検体として500μg/mlε,γ−グルタミルリジンと0.1%パルマリア抽出物を含まない70%エタノール水溶液を添加し、同様に培養を続けた。
(工程4)工程1〜3で処理した「EPI-200」を回収し、「OCTコンパウンド」(サクラファインテック社製)に浸漬し、液体窒素中で凍結した。続いて凍結切片作製装置にて凍結切片標本を作製した。
(工程5)該標本をウサギ抗オクルディン抗体(インビトロジェン社製)と反応させ、その後FITC標識ロバ抗ウサギ抗体(ICN-ファーマシューティカル社製)及びストレプトアビジン-テキサスレッド(オンコジーン社製)と反応させた。
(工程6)工程5で得た標本を488、543nmの2波長で、蛍光顕微鏡下で観察した。
【0019】
図1〜3は無処理コントロール、図4〜6は1mMカプリン酸ナトリウムで処理したと
きの皮膚モデル組織切片像である。以下図7〜24も同様に、各図中点線で囲まれた部分は角層を示す。図1、4はトレーサーの染色画像、図2、5は抗オクルディン抗体の染色画像(矢印)、図3、6はトレーサー、抗オクルディン抗体それぞれの染色画像を重ね合わせた像である。図1〜3より表皮基底層側(下)より添加したトレーサーが細胞間を通ってタイトジャンクションの位置(矢印、抗オクルディン抗体染色部位)、即ち顆粒層のところで止まっていることが判り、図4〜6よりカプリン酸ナトリウム処理でタイトジャンクションを傷害せしめることによってトレーサーが一部顆粒層より上の角層部分に漏出していることが判る(図6*印)。図7〜9はその後3時間経過、図10〜12は6時間経過後の皮膚モデル組織切片像である。一方、図13〜15はタイトジャンクション傷害後に500μg/mlε,γ−グルタミルリジンと0.1%パルマリア抽出物の混合物を含む培地で培養した3時間経過後、図16〜18はその6時間経過後の皮膚モデル組織切片像である。図7、10、13、16はトレーサーの染色画像、図8、11、14、17は抗オクルディン抗体の染色画像(矢印)、図9、12、15、18はトレーサー、抗オクルディン抗体それぞれの染色画像を重ね合わせた像である。図7〜9及び10〜12よりカプリン酸ナトリウムによってタイトジャンクション傷害後、カプリン酸ナトリウムを離脱せしめてもトレーサーが角層部分に漏出したままであったが(図9、12*印)、図13〜15及び16〜18に示すようにε,γ−グルタミルリジンとパルマリア抽出物の混合物で処理することによってトレーサーの角層部分への漏出が防がれていることが判る。
なお、図19〜21にはタイトジャンクション傷害後に500μg/mlε,γ−グルタミルリジンのみを、図22〜24にはタイトジャンクション傷害後に0.1%パルマリア抽出物のみを添加して6時間後の結果も示す。図19、22はトレーサーの染色画像、図20、23は抗オクルディン抗体の染色画像(矢印)、図21、24はトレーサー、抗オクルディン抗体それぞれの染色画像を重ね合わせた像である。ε,γ−グルタミルリジン、パルマリア抽出物はいずれも単独でもトレーサーの角層部分への漏出を防ぐことが判る。即ち本鑑別法は、タイトジャンクション機能に関与した皮膚バリア改善素材のスクリーニングに適していることが判る。
【0020】
実施例2
<工程1>「EPI-200」を培養プレートに移し、表皮基底層側に200μlの5μM 「BODIPY(登録商標) FL-C5-Ceramide-BSA」(モレキュラープローブ社製)を含む維持培地(EPI-100、クラボウ製)を加え、37℃、5%二酸化炭素で4時間培養した後、4℃冷蔵庫で1時間静置した。
<工程2>500μlの新鮮な維持培地に置換し、37℃、5% CO2で20時間培養した
。
<工程3>300μlの5%脱脂牛血清アルブミンを含む維持培地に置換し、4℃で30
分間静置した。
<工程4>工程3を2回繰り返した。
<工程5>新鮮な維持培地及び1mMカプリン酸ナトリウムを含む維持培地にそれぞれ置換し、37℃、5%二酸化炭素で培養した。
<工程6>培養12時間後、1mM カプリン酸ナトリウムを含まない新鮮な維持培地に置
換した。
<工程7>一定時間培養後「EPI-200」を支持体から切り離し、「OCTコンパウンド」(サクラファインテック社製)に包埋して液体窒素で凍結した。
<工程8>凍結切片を作製し、蛍光顕微鏡下、励起波長470nm/蛍光波長525nm
で観察した。
【0021】
図25はカプリン酸ナトリウム未処理、図26は1mMカプリン酸ナトリウム処理12
時間後、図27は1mMカプリン酸ナトリウム処理12時間後、カプリン酸ナトリウムを
含まない新鮮な維持培地に置換して18時間後の「EPI-200」の凍結切片の蛍光画像であ
る。角層直下の表皮顆粒層(矢印)の蛍光(セラミド)がカプリン酸ナトリウム未処理では細胞間の上部分に多く認められるのに対して(図25)、カプリン酸ナトリウム処理により消失していることが判る(図26)。この後カプリン酸ナトリウムを含まない新鮮な維持培地に置換して18時間後には、再び表皮顆粒層の細胞間の上部分(矢印)に蛍光(セラミド)が認められる(図27)。つまり、カプリン酸ナトリウムはセラミドを角層方向に分泌する表皮細胞の働きを可逆的に阻害する作用を有することが判る。即ち本鑑別法は、セラミドの組織内輸送へのタイトジャンクションの関与の程度の評価に適していることが判る。
【0022】
実施例3
実施例2と同様に<工程6>まで行うが、<工程6>の後、別個の「EPI-200」を、5
00μg/mlε,γ−グルタミルリジン、0.1%パルマリア抽出物それぞれ単独で含有する維持培地に置換し6時間培養を続けた。その後培地を回収し、細胞外に分泌された「BODIPY FL-C5-Ceramide-BSA」の蛍光強度(励起波長485nm、蛍光波長535nm
)を、ARVO SX Multilabel Counter(PerkinElmer社製)を用いて測定した。さらに、そ
の後<工程8>まで進めた。
【0023】
結果を図28に示すが、ε,γ−グルタミルリジン、パルマリア抽出物は、いずれも無添加コントロールよりも有意に蛍光標識セラミド「BODIPY FL-C5-Ceramide-BSA」の細胞
外への分泌量を促進する。また図29は1mMカプリン酸ナトリウム処理12時間後、維持培地に置換して12時間後、図30は1mMカプリン酸ナトリウム処理12時間後、5
00μg/mlε,γ−グルタミルリジンを含有する維持培地に置換して12時間後、図31は1mMカプリン酸ナトリウム処理12時間後、0.1%パルマリア抽出物を含有す
る維持培地に置換して12時間後の「EPI-200」の凍結切片の蛍光画像である。角層直下
の表皮顆粒層の蛍光(セラミド)が図29では細胞間の上部分には多く認められないのに対して、図30、31ではそれぞれ表皮顆粒層の細胞間の上部分(矢印)に多く認められる。つまり、ε,γ−グルタミルリジン及びパルマリア抽出物はそれぞれ単独で、セラミドを角層方向に分泌する表皮細胞の働きを早める効果を有することが判る。即ち本鑑別法は、実施例1及び2の結果も加味して、セラミドの組織内輸送へのタイトジャンクションの関与の程度に基づいた、皮膚バリア改善素材のスクリーニングに適していることが判る。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明は、化粧料などの皮膚外用剤の有効成分の評価に応用できる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、化粧料などの皮膚外用剤の有効成分のスクリーニングに有用な皮膚バリア機能改善素材のスクリーニング法に関する。また、当該スクリーニング法により見出した皮膚バリア機能改善剤に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚におけるバリア機能は、生体にとっての異物の生体内への侵入を防ぐ意味で重要な機能の一つとなっている。かかるバリア機能の不全は肌荒れ、炎症などの原因ともなり、その保全策は化粧料分野においては一大課題となっている。この様な皮膚バリア機能の因子としては、角層細胞の形状や接合状態に起因する角層のバリア機能、表皮・真皮の含水量などの皮膚保湿性などが挙げられ、単純なものではなく、多くの因子が絡み合っていることが既に知られている。これらの因子で近年特に注目されているのは、表皮顆粒層に存在するタイトジャンクション蛋白であり、かかるタイトジャンクション蛋白を介した細胞接合の不全に皮膚バリア機能の低下が起因すると言う説である(例えば、特許文献1、特許文献2を参照)。このタイトジャンクションの機能に注目した化粧料素材のスクリーニング法も前記の特許文献に開示されている。この方法では、タイトジャンクション機能の不全による皮膚バリア機能の低下を改善する成分を、数値として評価できるが、タイトジャンクションの不全に対してどの様にスクリーニング素材が働いているかを視覚的に捉えることは困難であり、この様な視覚的に皮膚バリア機能改善を捉えられる鑑別法が望まれていた。
【0003】
タイトジャンクション以外に、皮膚バリア機能については、セラミドの量、分布状況及びその種類が皮膚バリア機能に対して重要な因子となっていることも知られている(例えば、特許文献3、特許文献4、特許文献5を参照)。又、セラミドの生体内分布を調べるための標識セラミドも既に知られており(例えば、特許文献6を参照)、市販品も存する。しかしながら、検体が及ぼす、セラミドの分布状況と、タイトジャンクションの傷害からの回復改善効果とを比較可能な条件下で同時に検討した例は存しない。この為、皮膚バリア機能の低下とその改善に関しては、その要因が多面的であることを認めつつも、一因子のみで語られることが少なくなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−26092号公報
【特許文献2】特開2006−250786号公報
【特許文献3】特開2002−102177 号公報
【特許文献4】特開2007−108060 号公報
【特許文献5】特表2006−511462 号公報
【特許文献6】特開平09−2978 号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、この様な状況下為されたものであり、因子の多い皮膚バリア機能の低下において、多角的視点に立って、その改善効果を鑑別できる皮膚バリア機能向上素材のスクリーニング法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この様な状況に鑑みて、本発明者らは、因子の多い皮膚バリア機能の低下において、多
角的視点に立って、その改善効果を鑑別できる皮膚バリア機能向上素材のスクリーニング法を求めて鋭意研究を重ねた結果、皮膚又は培養皮膚三次元モデルを標識されたセラミドとともに培養し、しかる後に、皮膚又は培養皮膚三次元モデルにおける標識されたセラミドの存在状況を観察することにより、セラミド分布への影響を知り、ほぼ同じ実験被験体である、皮膚又は培養皮膚三次元モデルについて、そのタイトジャンクションを傷害処理してなる、タイトジャンクション傷害皮膚モデルに対して、タイトジャンクションの傷害からの回復効果を有するか否かを鑑別することにより、タイトジャンクションへの作用も鑑別でき、これらを総合することにより、多角的な皮膚バリア機能への検体の作用が鑑別できることを見出し、発明を完成させるに至った。即ち、本発明は以下に示すとおりである。
(1)皮膚又は培養皮膚三次元モデルを標識されたセラミドとともに培養し、
上記培養した皮膚又は培養皮膚三次元モデルを検体で処理し、
皮膚又は培養皮膚三次元モデルにおける標識されたセラミドの存在状況を観察し、
セラミドの組織内輸送が、検体が存在しない条件に比して促進された検体であると鑑別された、ε,γ−グルタミルリジン及び/又はパルマリア抽出物を含む、皮膚バリア機能改善剤。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、因子の多い皮膚バリア機能の低下において、多角的視点に立って、その改善効果を鑑別できる皮膚バリア機能向上素材のスクリーニング法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】無処理コントロールにおけるトレーサーの染色画像を示す図である。図中点線で囲まれた部分が角層で、それよりも下の部分が表皮層である。以下同様。(図面代用写真)
【図2】図1と同様の、抗オクルディン抗体の染色画像(矢印)を示す図である。(図面代用写真)
【図3】図1と同様の、トレーサー、抗オクルディン抗体(矢印)それぞれの染色画像を重ね合わせた像を示す図である。(図面代用写真)
【図4】1mMカプリン酸ナトリウム処理におけるトレーサーの染色画像を示す図である。(図面代用写真)
【図5】図4と同様の、抗オクルディン抗体の染色画像(矢印)を示す図である。(図面代用写真)
【図6】図4と同様の、トレーサー、抗オクルディン抗体(矢印)それぞれの染色画像を重ね合わせた像を示す図である。*印は角層部分へのトレーサーの漏出を示す。(図面代用写真)
【図7】1mMカプリン酸ナトリウム処理後、カプリン酸ナトリウムを含まない培地に交換して3時間後のトレーサーの染色画像を示す図である。(図面代用写真)
【図8】図7と同様の、抗オクルディン抗体の染色画像(矢印)を示す図である。(図面代用写真)
【図9】図7と同様の、トレーサー、抗オクルディン抗体(矢印)それぞれの染色画像を重ね合わせた像を示す図である。*印は角層部分へのトレーサーの漏出を示す。(図面代用写真)
【図10】1mMカプリン酸ナトリウム処理後、カプリン酸ナトリウムを含まない培地に交換して6時間後のトレーサーの染色画像を示す図である。(図面代用写真)
【図11】図10と同様の、抗オクルディン抗体の染色画像(矢印)を示す図である。(図面代用写真)
【図12】図10と同様の、トレーサー、抗オクルディン抗体(矢印)それぞれの染色画像を重ね合わせた像を示す図である。*印は角層部分へのトレーサーの漏出を示す。(図面代用写真)
【図13】1mMカプリン酸ナトリウム処理後、カプリン酸ナトリウムを含まず、500μg/mlε,γ−グルタミルリジンと0.1%パルマリア抽出物の混合物を含む培地に交換して3時間後のトレーサーの染色画像を示す図である。(図面代用写真)
【図14】図13と同様の、抗オクルディン抗体の染色画像(矢印)を示す図である。(図面代用写真)
【図15】図13と同様の、トレーサー、抗オクルディン抗体(矢印)それぞれの染色画像を重ね合わせた像を示す図である。*印は角層部分へのトレーサーの漏出を示す。(図面代用写真)
【図16】1mMカプリン酸ナトリウム処理後、カプリン酸ナトリウムを含まず、500μg/mlε,γ−グルタミルリジンと0.1%パルマリア抽出物の混合物を含む培地に交換して6時間後のトレーサーの染色画像を示す図である。(図面代用写真)
【図17】図16と同様の、抗オクルディン抗体の染色画像(矢印)を示す図である。(図面代用写真)
【図18】図16と同様の、トレーサー、抗オクルディン抗体(矢印)それぞれの染色画像を重ね合わせた像を示す図である。(図面代用写真)
【図19】1mMカプリン酸ナトリウム処理後、カプリン酸ナトリウムを含まず、500μg/mlε,γ−グルタミルリジンを含む培地に交換して6時間後のトレーサーの染色画像を示す図である。(図面代用写真)
【図20】図19と同様の、抗オクルディン抗体の染色画像(矢印)を示す図である。(図面代用写真)
【図21】図19と同様の、トレーサー、抗オクルディン抗体(矢印)それぞれの染色画像を重ね合わせた像を示す図である。(図面代用写真)
【図22】1mMカプリン酸ナトリウム処理後、カプリン酸ナトリウムを含まず、0.1%パルマリア抽出物を含む培地に交換して6時間後のトレーサーの染色画像を示す図である。(図面代用写真)
【図23】図22と同様の、抗オクルディン抗体の染色画像(矢印)を示す図である。(図面代用写真)
【図24】図22と同様の、トレーサー、抗オクルディン抗体(矢印)それぞれの染色画像を重ね合わせた像を示す図である。(図面代用写真)
【図25】カプリン酸ナトリウム未処理の「EPI-200」の凍結切片の蛍光画像を示す図である。(図面代用写真)
【図26】1mMカプリン酸ナトリウム処理12時間後の「EPI-200」の凍結切片の蛍光画像を示す図である。(図面代用写真)
【図27】1mMカプリン酸ナトリウム処理12時間後、カプリン酸ナトリウムを含まない新鮮な維持培地に置換して18時間後の「EPI-200」の凍結切片の蛍光画像を示す図である。(図面代用写真)
【図28】蛍光標識セラミドの細胞外への分泌量に対するε,γ−グルタミルリジン、パルマリア抽出物の影響を示す図である。(図面代用写真)
【図29】1mMカプリン酸ナトリウム処理12時間後、維持培地に置換して12時間後の「EPI-200」の凍結切片の蛍光画像を示す図である。(図面代用写真)
【図30】1mMカプリン酸ナトリウム処理12時間後、500μg/mlε,γ−グルタミルリジンを含有する維持培地に置換して12時間後の「EPI-200」の凍結切片の蛍光画像を示す図である。(図面代用写真)
【図31】1mMカプリン酸ナトリウム処理12時間後、0.1%パルマリア抽出物を含有する維持培地に置換して12時間後の「EPI-200」の凍結切片の蛍光画像を示す図である。(図面代用写真)
【発明を実施するための形態】
【0009】
<1>本発明のセラミドの組織内輸送の鑑別法
本発明のセラミドの組織内輸送の鑑別法は、皮膚又は培養皮膚三次元モデルを標識されたセラミドとともに培養し、しかる後に、皮膚又は培養皮膚三次元モデルにおける標識の存在状況を観察することを特徴とする。前記の皮膚としては、所望により体毛を除去し、生体より採取した皮膚断片であって、角層などを除いた、表皮顆粒層、表皮基底層及び真皮部分からなるものが好ましく、マウス、ラット、モルモット、ブタ、ウサギの皮膚断片が好ましい。又、前記培養皮膚三次元モデルとしては、ヒト又はヒトを除く動物の皮膚より採取した、正常な(癌化していない)ケラチノサイト、フィブロブラストなどの皮膚細胞を培養し、三次元構造を構築し、皮膚の構造に疑似させたものが好ましく、この様な形態の市販品を購入して使用することも出来る。好ましい市販品としては、例えば、倉敷紡績株式会社から販売されている「EFT-400」(正常培養ヒト三次元皮膚モデル)などが好
適に例示できる。特に表皮成分のみで構成される「EPI-200」や、USA MaTek社から販売されている「EpiDerm」などがさらに好適に例示できる。かかる皮膚又は培養皮膚三次元モ
デルは、標識されたセラミドを含む培地中で1〜10時間、好ましくは3〜5時間培養し、標識されたセラミドを細胞内に取り込ませる。PBS(リン酸緩衝生理食塩水)や液体培地で洗浄した後、新鮮な培地に交換して培養を続ける。6〜24時間後、好ましくは12〜18時間後に培地を回収し、その蛍光強度を計測したり、組織を切片に加工して、蛍光顕微鏡下観察して取り込まれたセラミドの量を蛍光として捉え、定量するとともにその存在位置を鑑別する。回収した培地中のセラミド量が多かったり、培養皮膚三次元モデルにおける、表皮細胞間の角層側を上部分とした場合にセラミドが上部分に多く輸送されたほうが角層形成が促進され、皮膚バリア機能改善作用を有する。切片においてはさらにその鑑別には、蛍光顕微鏡の観察像をコンピューターなどに取込み、アドビ社製の「フォトショップ」などの画像処理ソフトを用いて、二値化などの画像処理を行い、蛍光部位と非蛍光部位とを分けて、存在位置を二次元分布として把握することが出来る。又、白点と黒点の面積比より、蛍光強度を鑑別することも出来る。かかるセラミドの組織内輸送状況は、後記の皮膚バリア機能改善素材のスクリーニング法の指標として使用することが出来る。
【0010】
<2>本発明の皮膚バリア機能改善素材のスクリーニング法
本発明の皮膚バリア機能改善素材のスクリーニング法は、前記のセラミドの組織内輸送の鑑別法において、検体が標識されたセラミドの組織内輸送に与える影響を鑑別し、セラミドの組織内輸送が、検体が存在しない条件に比して促進された場合には前記検体は、セラミドの欠乏による皮膚バリア機能の低下を改善する作用を有すると鑑別することを特徴とする。セラミドの組織内輸送は、前記の如くに、蛍光部分の面積の増大と、蛍光部分の広がりによって鑑別することが出来る。
【0011】
皮膚又は培養皮膚三次元モデルを用い、カプリン酸などのタイトジャンクション傷害剤で処置することにより、前記のセラミドの組織内輸送の鑑別法とほぼ同じ条件でタイトジャンクションの傷害からの回復促進作用を鑑別できることから、かかる回復促進作用を加味して、皮膚バリア機能改善素材のスクリーニングを行うことが出来、この様なスクリーニングを行うことが好ましい。この様なタイトジャンクションの傷害回復に関するスクリーニングは以下のように行うことが出来る。
【0012】
まず、次に示す手順に従って、タイトジャンクション傷害皮膚モデルを用意する。タイトジャンクション傷害皮膚モデルは、皮膚バリア機能向上成分のスクリーニング用のものであって、皮膚又は培養皮膚三次元モデルのタイトジャンクションを傷害処理してなることを特徴とする。前記の皮膚としては、所望により体毛を除去し、生体より採取した皮膚断片であって、角層などを除いた、表皮顆粒層、表皮基底層及び真皮部分からなるものが好ましく、マウス、ラット、モルモット、ブタ、ウサギの皮膚断片が好ましい。又、前記培養皮膚三次元モデルとしては、ヒト又はヒトを除く動物の皮膚より採取した、正常な(癌化していない)ケラチノサイト、フィブロブラストなどの皮膚細胞を培養し、三次元構造を構築し、皮膚の構造に疑似させたものが好ましく、この様な形態の市販品を購入して
使用することも出来る。好ましい市販品としては、例えば、倉敷紡績株式会社から販売されている「EPI-200」(正常培養ヒト三次元皮膚モデル)などが好適に例示できる。かか
る皮膚又は培養皮膚三次元モデルは、顆粒層側から傷害手段を講じてタイトジャンクション部分を傷害する。傷害手段としては、例えば、紫外線や化学物質などが好ましく例示でき、紫外線であれば、波長280〜320nmの紫外線を7.5〜200mJ/cm2、さらに好ましくは50〜160mJ/cm2の単位あたりのエネルギー量で照射すればよく、化学的な処置であれば、カプリン酸、カプリル酸などの中鎖長(炭素数8〜12)の脂肪族飽和直鎖脂肪酸またはその一価金属塩の0.1〜10mM、さらに好ましくは0.5〜
2mMの溶液を真皮側又は表皮基底層側から、5〜24時間、さらに好ましくは10〜1
5時間作用させればよい。また、オクルディンやクローディンの細胞外ドメインを認識する中和抗体を使用することもできる。これらの傷害処置の内、特に好ましいものは化学的傷害処置であり、なかでもカプリン酸溶液による処理が特に好ましい。これはタイトジャンクションに対して均質な損傷がなしうるからである。この様な均質な傷害は、後記の傷害タイトジャンクションの回復促進剤のスクリーニングにおいては、そのメカニズムを的確に鑑別する上で非常に重要な因子となる。処置後傷害手段は直ちに皮膚又は培養皮膚三次元モデルより離脱させる。離脱は、紫外線照射であれば照射を終了することにより出来るし、化学的傷害手段であれば、培地又はPBS(リン酸緩衝生理食塩水)などで洗浄する
ことによりなしうる。斯くして得られたタイトジャンクション傷害皮膚モデルは、後記タイトジャンクション機能回復剤の鑑別法に用いられ、傷害されたタイトジャンクションの回復促進剤のスクリーニングに好適に使用される。
【0013】
次に、タイトジャンクション機能トレーサーキットを用意する。タイトジャンクション機能トレーサーキットは、標識されていてもよいビオチンと、標識されていてもよいアビジンからなるタイトジャンクション機能トレーサーキットであって、前記ビオチン又はアビジンのどちらかは蛍光標識されていることを特徴とする。前記標識としては、例えば、フルオロセイン、ローダミン、フルオテトラメチルローダミン、ダンシルなどの蛍光標識、ルシフェリンなどの発光標識、ガリウムなどの放射性標識、ホースラディッシュ・ペルオキシダーゼなどの酵素標識などが例示でき、感度高く、視覚的にタイトジャンクション機能を鑑別するには、ビオチン又はアビジンのどちらかに蛍光標識を用いることが好ましい。タイトジャンクションの機能を鑑別するためには、本発明のキットでは、標識されていてもよいビオチンを、真皮側又は表皮基底層側から作用させ、表皮顆粒層に向かって作用させる。この時、タイトジャンクションの機能が正常であれば標識されていてもよいビオチンは表皮顆粒層側で食い止められ、角層側には移動しない。タイトジャンクションの機能が不全であれば、標識されていてもよいビオチンは角層側へと移動する。この様な皮膚組織中での標識されていてもよいビオチンの移動は、標識されていてもよいアビジンを作用させることにより、可視化できる。前記アビジンとしては、ビオチンとの不可逆的結合性を有するものであれば、何れも用いることが出来、例えば、ストレプトアビジン等が、その入手の容易性から好適に例示できる。かかるアビジンの標識としては、蛍光標識されていることが好ましい。本発明のキットについて、真皮側又は表皮基底層側より作用させる物質として標識されていてもよいアビジンを選択し、組織中の標識されていてもよいアビジンの可視化手段として標識されていてもよいビオチンを用いることも出来るが、タイトジャンクションの機能の正確な鑑別には、真皮側より作用させる物質として標識されていてもよいビオチンを用い、該ビオチンの可視化手段として標識されていてもよいアビジンを用いることがより好ましい。
【0014】
タイトジャンクション機能回復剤の鑑別法は、前記タイトジャンクション傷害皮膚モデルを検体で処理したものと、未処理のものとを、前記タイトジャンクション機能トレーサーキットで処理し、トレーサーの皮膚組織内における分布状況を調べ、基底層から顆粒層へのトレーサーの動きが、検体で処理することにより妨げられている蓋然性が、未処理のものに比して有意に高い場合には、前記検体の投与が皮膚のタイトジャンクションを回復
させる効果を有し、該回復によって皮膚バリア機能が向上すると鑑別することを特徴とする。前記蓋然性は、タイトジャンクション傷害皮膚モデルを、蛍光顕微鏡下観察することで容易に鑑別しうる。蓋然の差の有意性は、蛍光顕微鏡の観察像をコンピューターなどに取込み、アドビ社製の「フォトショップ」などの画像処理ソフトを用いて、二値化などの画像処理を行い、蛍光部位と非蛍光部位とを分けて、蛍光部位の総面積比を求め、これを統計処理することにより明らかに出来る。検体未処理と、処理とにおける、この値の差が大きいほど、検体のタイトジャンクション傷害回復作用、言い換えればバリア機能の回復作用が優れると鑑別できる。又、検体の濃度は実際に皮膚に投与した場合に外挿出来るように設定し、ドーズを振って用量効果をみることも好ましい。本発明の鑑別法では、画像として、タイトジャンクションの傷害からの回復が鑑別できるので、蛍光部分の偏りや、時系列的変化などを追うことにより、タイトジャンクションの回復過程のメカニズムなども知ることが出来る。以上の作業を工程に分けて表現すると以下のようになる。
(工程1)皮膚又は培養皮膚三次元モデルのタイトジャンクションを傷害手段により傷害し、タイトジャンクション傷害皮膚モデルを作成する工程
(工程2)タイトジャンクション傷害皮膚モデルを検体で処理する工程
(工程3)工程2の検体で処理したタイトジャンクション傷害皮膚モデルと、検体で処理しないタイトジャンクション傷害皮膚モデルをタイトジャンクション機能トレーサーキットの片方、好ましくは標識されたビオチンで処理する工程
(工程4)工程3のトレーサー処理した皮膚モデルより顕微鏡用の標本を作製する工程
(工程5)工程4の標本をトレーサーキットのもう一方、好ましくは、蛍光標識アビジンで処理する工程
(工程6)工程4の標本を顕微鏡下、好ましくは蛍光顕微鏡下観察する工程
(好ましくは工程7)工程6の顕微鏡像をイメージ画像としてコンピューターに取込み、画像処理し、蛍光部と非蛍光部とに分け、蛍光部の量比を求める工程
(好ましくは工程8)工程7の蛍光部の量比と、検体処理の相関関係の程度を求め、タイトジャンクション機能の回復促進作用の有無を鑑別する工程
【0015】
斯くして、鑑別されたセラミドの組織内輸送と、タイトジャンクションの傷害からの回復促進作用とは統合されて、皮膚バリア機能の改善素材として有用か、否かを鑑別される。
【0016】
前記統合においては、スクリニーング評価の結果を、1)タイトジャンクションの傷害からの回復促進も、セラミドの産生促進作用も有さない素材、2)タイトジャンクションの傷害からの回復促進作用は有するが、セラミドの産生促進作用は有さない素材、3)タイトジャンクションの傷害からの回復促進は有さないが、セラミドの産生促進作用は有する素材、4)タイトジャンクションの傷害からの回復促進も、セラミドの産生促進作用も有する素材の4つに分類し、それぞれの分類ごとに序列を決めることが好ましい。この分類において、4に分類される素材であって、実使用濃度において両方の作用が発現する素材が特に皮膚外用剤の有効成分として好ましい成分とされる。かかる成分は任意成分とともに化粧料などの皮膚外用剤に製剤化される。
【0017】
以下に、実施例を挙げて、本発明について更に詳細に説明を加える。
【実施例】
【0018】
実施例1
(工程1)「EPI-200」を、1mMカプリン酸ナトリウムを含む培地で12時間培養した。(工程2、3)処理検体として500μg/mlε,γ−グルタミルリジンと0.1%パルマリア抽出物の混合物を含む、1mMカプリン酸ナトリウムを含まない培地に交換して
培養を続け、一定時間ごとに「EPI-200」を回収する1時間前にトレーサーとして「EZ-LinkTM-スルフォ-NHS-LC-ビオチン」(ピアス社製)を最終濃度0.1mg/mlになるよ
うに加えた。一方、未処理検体として500μg/mlε,γ−グルタミルリジンと0.1%パルマリア抽出物を含まない70%エタノール水溶液を添加し、同様に培養を続けた。
(工程4)工程1〜3で処理した「EPI-200」を回収し、「OCTコンパウンド」(サクラファインテック社製)に浸漬し、液体窒素中で凍結した。続いて凍結切片作製装置にて凍結切片標本を作製した。
(工程5)該標本をウサギ抗オクルディン抗体(インビトロジェン社製)と反応させ、その後FITC標識ロバ抗ウサギ抗体(ICN-ファーマシューティカル社製)及びストレプトアビジン-テキサスレッド(オンコジーン社製)と反応させた。
(工程6)工程5で得た標本を488、543nmの2波長で、蛍光顕微鏡下で観察した。
【0019】
図1〜3は無処理コントロール、図4〜6は1mMカプリン酸ナトリウムで処理したと
きの皮膚モデル組織切片像である。以下図7〜24も同様に、各図中点線で囲まれた部分は角層を示す。図1、4はトレーサーの染色画像、図2、5は抗オクルディン抗体の染色画像(矢印)、図3、6はトレーサー、抗オクルディン抗体それぞれの染色画像を重ね合わせた像である。図1〜3より表皮基底層側(下)より添加したトレーサーが細胞間を通ってタイトジャンクションの位置(矢印、抗オクルディン抗体染色部位)、即ち顆粒層のところで止まっていることが判り、図4〜6よりカプリン酸ナトリウム処理でタイトジャンクションを傷害せしめることによってトレーサーが一部顆粒層より上の角層部分に漏出していることが判る(図6*印)。図7〜9はその後3時間経過、図10〜12は6時間経過後の皮膚モデル組織切片像である。一方、図13〜15はタイトジャンクション傷害後に500μg/mlε,γ−グルタミルリジンと0.1%パルマリア抽出物の混合物を含む培地で培養した3時間経過後、図16〜18はその6時間経過後の皮膚モデル組織切片像である。図7、10、13、16はトレーサーの染色画像、図8、11、14、17は抗オクルディン抗体の染色画像(矢印)、図9、12、15、18はトレーサー、抗オクルディン抗体それぞれの染色画像を重ね合わせた像である。図7〜9及び10〜12よりカプリン酸ナトリウムによってタイトジャンクション傷害後、カプリン酸ナトリウムを離脱せしめてもトレーサーが角層部分に漏出したままであったが(図9、12*印)、図13〜15及び16〜18に示すようにε,γ−グルタミルリジンとパルマリア抽出物の混合物で処理することによってトレーサーの角層部分への漏出が防がれていることが判る。
なお、図19〜21にはタイトジャンクション傷害後に500μg/mlε,γ−グルタミルリジンのみを、図22〜24にはタイトジャンクション傷害後に0.1%パルマリア抽出物のみを添加して6時間後の結果も示す。図19、22はトレーサーの染色画像、図20、23は抗オクルディン抗体の染色画像(矢印)、図21、24はトレーサー、抗オクルディン抗体それぞれの染色画像を重ね合わせた像である。ε,γ−グルタミルリジン、パルマリア抽出物はいずれも単独でもトレーサーの角層部分への漏出を防ぐことが判る。即ち本鑑別法は、タイトジャンクション機能に関与した皮膚バリア改善素材のスクリーニングに適していることが判る。
【0020】
実施例2
<工程1>「EPI-200」を培養プレートに移し、表皮基底層側に200μlの5μM 「BODIPY(登録商標) FL-C5-Ceramide-BSA」(モレキュラープローブ社製)を含む維持培地(EPI-100、クラボウ製)を加え、37℃、5%二酸化炭素で4時間培養した後、4℃冷蔵庫で1時間静置した。
<工程2>500μlの新鮮な維持培地に置換し、37℃、5% CO2で20時間培養した
。
<工程3>300μlの5%脱脂牛血清アルブミンを含む維持培地に置換し、4℃で30
分間静置した。
<工程4>工程3を2回繰り返した。
<工程5>新鮮な維持培地及び1mMカプリン酸ナトリウムを含む維持培地にそれぞれ置換し、37℃、5%二酸化炭素で培養した。
<工程6>培養12時間後、1mM カプリン酸ナトリウムを含まない新鮮な維持培地に置
換した。
<工程7>一定時間培養後「EPI-200」を支持体から切り離し、「OCTコンパウンド」(サクラファインテック社製)に包埋して液体窒素で凍結した。
<工程8>凍結切片を作製し、蛍光顕微鏡下、励起波長470nm/蛍光波長525nm
で観察した。
【0021】
図25はカプリン酸ナトリウム未処理、図26は1mMカプリン酸ナトリウム処理12
時間後、図27は1mMカプリン酸ナトリウム処理12時間後、カプリン酸ナトリウムを
含まない新鮮な維持培地に置換して18時間後の「EPI-200」の凍結切片の蛍光画像であ
る。角層直下の表皮顆粒層(矢印)の蛍光(セラミド)がカプリン酸ナトリウム未処理では細胞間の上部分に多く認められるのに対して(図25)、カプリン酸ナトリウム処理により消失していることが判る(図26)。この後カプリン酸ナトリウムを含まない新鮮な維持培地に置換して18時間後には、再び表皮顆粒層の細胞間の上部分(矢印)に蛍光(セラミド)が認められる(図27)。つまり、カプリン酸ナトリウムはセラミドを角層方向に分泌する表皮細胞の働きを可逆的に阻害する作用を有することが判る。即ち本鑑別法は、セラミドの組織内輸送へのタイトジャンクションの関与の程度の評価に適していることが判る。
【0022】
実施例3
実施例2と同様に<工程6>まで行うが、<工程6>の後、別個の「EPI-200」を、5
00μg/mlε,γ−グルタミルリジン、0.1%パルマリア抽出物それぞれ単独で含有する維持培地に置換し6時間培養を続けた。その後培地を回収し、細胞外に分泌された「BODIPY FL-C5-Ceramide-BSA」の蛍光強度(励起波長485nm、蛍光波長535nm
)を、ARVO SX Multilabel Counter(PerkinElmer社製)を用いて測定した。さらに、そ
の後<工程8>まで進めた。
【0023】
結果を図28に示すが、ε,γ−グルタミルリジン、パルマリア抽出物は、いずれも無添加コントロールよりも有意に蛍光標識セラミド「BODIPY FL-C5-Ceramide-BSA」の細胞
外への分泌量を促進する。また図29は1mMカプリン酸ナトリウム処理12時間後、維持培地に置換して12時間後、図30は1mMカプリン酸ナトリウム処理12時間後、5
00μg/mlε,γ−グルタミルリジンを含有する維持培地に置換して12時間後、図31は1mMカプリン酸ナトリウム処理12時間後、0.1%パルマリア抽出物を含有す
る維持培地に置換して12時間後の「EPI-200」の凍結切片の蛍光画像である。角層直下
の表皮顆粒層の蛍光(セラミド)が図29では細胞間の上部分には多く認められないのに対して、図30、31ではそれぞれ表皮顆粒層の細胞間の上部分(矢印)に多く認められる。つまり、ε,γ−グルタミルリジン及びパルマリア抽出物はそれぞれ単独で、セラミドを角層方向に分泌する表皮細胞の働きを早める効果を有することが判る。即ち本鑑別法は、実施例1及び2の結果も加味して、セラミドの組織内輸送へのタイトジャンクションの関与の程度に基づいた、皮膚バリア改善素材のスクリーニングに適していることが判る。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明は、化粧料などの皮膚外用剤の有効成分の評価に応用できる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
皮膚又は培養皮膚三次元モデルを標識されたセラミドとともに培養し、
上記培養した皮膚又は培養皮膚三次元モデルを検体で処理し、
皮膚又は培養皮膚三次元モデルにおける標識されたセラミドの存在状況を観察し、
セラミドの組織内輸送が、検体が存在しない条件に比して促進された検体であると鑑別された、ε,γ−グルタミルリジン及び/又はパルマリア抽出物を含む、皮膚バリア機能改善剤。
【請求項1】
皮膚又は培養皮膚三次元モデルを標識されたセラミドとともに培養し、
上記培養した皮膚又は培養皮膚三次元モデルを検体で処理し、
皮膚又は培養皮膚三次元モデルにおける標識されたセラミドの存在状況を観察し、
セラミドの組織内輸送が、検体が存在しない条件に比して促進された検体であると鑑別された、ε,γ−グルタミルリジン及び/又はパルマリア抽出物を含む、皮膚バリア機能改善剤。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【公開番号】特開2013−100357(P2013−100357A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2013−28577(P2013−28577)
【出願日】平成25年2月18日(2013.2.18)
【分割の表示】特願2009−92348(P2009−92348)の分割
【原出願日】平成21年4月6日(2009.4.6)
【出願人】(000113470)ポーラ化成工業株式会社 (717)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成25年2月18日(2013.2.18)
【分割の表示】特願2009−92348(P2009−92348)の分割
【原出願日】平成21年4月6日(2009.4.6)
【出願人】(000113470)ポーラ化成工業株式会社 (717)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]