説明

夜間用遮光レンズ

【課題】夜間あるいは暗所において物体がより明瞭に目視でき、なおかつそのような明瞭に目視できる視野が広い夜間用遮光レンズを提供すること。
【解決手段】視感透過率が75%を超える夜間用遮光レンズ11において、周辺領域(B領域)の400〜500nmの波長帯に対する平均透過率を、中心領域A領域)の400〜500nmの波長帯に対する平均透過率よりも高くした。これによって中心領域で視界がクリアになって物体が見えやすくなるとともに、暗い中でも視界の縁で認識される物体の動きを察知しやすくなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は夜間あるいは暗所において散歩、ドライブ、自転車走行等する際に使用される夜間用の遮光レンズに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来からサングラス用レンズとしてグレア感、つまり光の散乱によって生じるぎらぎらした感じを抑制し、視界をクリアにするために主として短波長光側の可視光を多くカットするものが提案されている。このような先行技術として特許文献1を挙げる。
ところで、サングラスは必ずしも昼間のみならず、夜間あるいは暗所においても用いられるものである。もちろん昼間のサングラス用のレンズに比べて夜間用遮光レンズの可視光全体の透過率は高めに設定されているが、よりクリアな視界を確保するという点では通常のサングラス用レンズと同様に短波長光側の可視光を多くカットした夜間用の遮光レンズを提供することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−145683号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、夜間あるいは暗所においてはどうしても視界全体の光度が下がるため昼間に比べて物体が見にくくなるのは避けられないものである。更に、従来の短波長光側を多くカットしたレンズでは経験的に視野周辺が見にくいというデータが得られている。そのため、夜間あるいは暗所において物体がより明瞭に目視でき、なおかつそのような明瞭に目視できる視野が広い夜間用遮光レンズが求められていた。
本発明は、このような従来の技術に存在する問題点に着目してなされたものである。その目的は、夜間あるいは暗所において物体がより明瞭に目視でき、なおかつそのような明瞭に目視できる視野が広い夜間用遮光レンズを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための請求項1の発明では、視感透過率が75%を超える夜間用遮光レンズにおいて、周辺領域の400〜500nmの波長帯に対する平均透過率を、中心領域の400〜500nmの波長帯に対する平均透過率よりも高くしたことをその要旨とする。
また、請求項2の発明では請求項1の発明の構成に加え、前記中心領域とはレンズの光学中心を中心とした一定の領域であることをその要旨とする。
また、請求項3の発明では請求項1の発明の構成に加え、前記中心領域とは累進屈折力レンズの遠用部中心を中心とした一定の領域であることをその要旨とする。
また、請求項4の発明では請求項1〜3のいずれかの発明の構成に加え、前記周辺領域は耳側領域に設定されることをその要旨とする。
また、請求項5の発明では請求項1〜4のいずれかの発明の構成に加え、前記中心領域の半径 は5〜30mmであることをその要旨とする。
また、請求項6の発明では請求項1〜5のいずれかの発明の構成に加え、前記中心領域から前記周辺領域への移行領域は400〜500nmの波長帯に対する透過率が徐々に変化する領域であることをその要旨とする。
また、請求項7の発明では請求項1〜6のいずれかの発明の構成に加え、前記中心領域における400〜500nmの波長帯の平均透過率は30〜50%であることをその要旨とする。
【0006】
上記のような構成の夜間用遮光レンズであれば、特に物体を注視する中心領域付近については相対的に400〜500nmの波長帯の光、つまり短波長可視光の透過率が周辺領域よりも低いため、短波長可視光を遮蔽でき、特に短波長可視光が主原因である散乱が効果的に防止されて視野がクリアになる。
一方、周辺領域では中心領域のような注視は行わないので、物体の詳細な外観を認識することはできないが、その周辺部位の視野が確保され、物体が視野内外へ出没する際の動きを十分察知する必要がある。そのためには、本発明のように中心領域の400〜500nmの波長帯に対する透過率よりも高くすることが必要である。視野の周辺部位では物体を注視しないため、短波長可視光を抑制してグレア感を感じなくする必要はない。むしろ、暗い状況でより物体の動きを察知できるようにするため周辺領域では短波長可視光を積極的に透過させるわけである。
ここに視感透過率が75%とは夜間に使用されることを考慮してレンズ全体の透過特性として75%に留めたものである。視感透過率は可視光領域(380nm〜780nm)で標準光源に比視感度関数をかけたものを分母とし、レンズを通して入射した光束に比視感度関数をかけたものを分子とし、100をかけて算出される。
【0007】
この発明の理論の概略を説明する。光は網膜の視細胞によって認識される。視細胞は4種類あり、具体的にはL.M.Sの3種類の錐体細胞と、1種類の桿体細胞である。錐体細胞は網膜中心付近に分布し主として明るい所で機能する視細胞であり、桿体細胞は網膜の周辺に分布し暗い所で機能する視細胞である。錐体細胞は色を識別できるが、桿体細胞は色の識別はできない。但し、錐体細胞は網膜周辺にも若干分布があるため網膜周辺でも色を感じることはできる。
従来より物体を注視する際に400〜500nmの波長帯(つまり短波長可視光)を抑制することで、抑制しない場合に比べてよりクリアに目視できることが知られている。しかし、物体を注視する領域はすなわち中心領域であり、注視しない周辺領域についての知見はなかった。上記の分布に従えば400〜500nmの波長帯(つまり短波長可視光)を抑制することで効果があるのは錐体細胞と考えられる。上記のように網膜中心と網膜周辺では視細胞の分布が異なるため、網膜周辺つまり視野の周辺領域で注視した場合とは異なる見え方が予想される。
そのため、出願人は実験的に物体を注視する際に中心領域では400〜500nmの波長帯(つまり短波長可視光)を抑制することで、抑制しない場合に比べてよりクリアに目視できることを再確認した。つまり網膜中心に多い錐体細胞は短波長可視光が少ない方がより高機能であることが確認された。
一方、視野の周辺領域では逆に短波長可視光が多いほどより物体の動きを察知できるという知見を得た。つまり、網膜周辺に多い桿体細胞は短波長可視光が多い方がより高機能であることが確認された。
このような知見に基づいて中心領域では短波長可視光を抑制し、周辺領域では短波長可視光を抑制しないようにする。という発想が本願発明である。このようなレンズは特に視界全体の光度が下がる夜間用遮光レンズに適用することが好ましい。
【0008】
前記中心領域とはレンズの光学中心を中心とした一定の領域であり、累進屈折力レンズでは遠用部中心を中心とした一定の領域である。そのような領域が物体を注視して網膜中心が存在する領域だからである。このような中心領域の半径 は5〜30mmであることが好ましい。
また、周辺領域とは耳側領域に設定されることが好ましい。鼻側は通常中心領域に含まれるため周辺領域とする必要はなく、耳側領域のみに中心領域と異なる透過領域を設けることで他人から見られる場合もそれほど違和感を感じられずに済むからである。
また、中心領域から周辺領域への移行領域は400〜500nmの波長帯に対する透過率が徐々に変化する領域であることが眼にとっても違和感を感じずに視線を移動できるため好ましい。
また、中心領域における400〜500nmの波長帯の平均透過率は30〜50%であることが好ましい。30%より400〜500nmの波長帯の平均透過率が低いと、視感透過率が75%を達成できず、また、50%よりも高いと中心領域においてクリアな視界を確保しにくくなってくるためである。
【発明の効果】
【0009】
上記各請求項の発明では、周辺領域の400〜500nmの波長帯に対する平均透過率を、中心領域の400〜500nmの波長帯に対する平均透過率よりも高くしたため、中心領域で視界がクリアになって物体が見えやすくなるとともに、暗い中でも視界の縁で認識される物体の動きを察知しやすくなり夜間用遮光レンズとして好適である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施例の夜間用遮光レンズに眼の位置を照合させた状態の説明図。
【図2】B領域の評価をする際のモニターの配置状態を説明する説明図。
【図3】(a)〜(c)はB領域の評価をする際にモニターに表示される縞模様の説明図。
【図4】他の実施例の夜間用遮光レンズに眼の位置を照合させた状態の説明図。
【図5】他の実施例の夜間用遮光レンズに眼の位置を照合させた状態の説明図。
【図6】他の実施例の夜間用遮光レンズに眼の位置を照合させた状態の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の夜間用遮光レンズの実施例について図面に従って説明をする。
図1に示すように、夜間用遮光レンズ11は横長の長方形形状を呈している。ここではフレームは省略する。夜間用遮光レンズ11は例えば、S度数−2.00D C度数:0.00Dに設定されており、作図において光学中心O上に瞳の中心があるものとする。図1におけるA領域は中心領域であって表1の(1)で示す光学特性とされ、B領域は周辺領域であって表1の(2)で示す光学特性とされている。A領域は玉型レンズに対して光学中心Oを中心とした半径30mmの円の範囲で設定し、フレーム入れするためにその後玉型レンズを横長の長方形形状にカットしたものである。
夜間用遮光レンズ11は例えば、次のようにしてA領域及びB領域の特性を得ることができる。プラスチックレンズ上にアニオン系界面活性剤を主成分とする被膜を形成させ、インクジェット方式で被膜表面にインクを供給し、レンズを加熱して同着色剤をレンズ側に転移させた後、被膜を水洗除去する。着色剤の塗布方法として例えばインクジェット方式を用いることにより、コンピューターを使用した所望の色調と濃度、着色範囲の指定、模様の描画までもが可能となる。
表1の(1)は400〜500nmの波長帯の平均透過率は33%とされ、表1の(2)では84%とされている。(1)と(2)の視感透過率は75%である。
このような夜間用遮光レンズ11についてA領域及びB領域についてそれぞれ実際の装用に近い状態で評価した。
【0012】
【表1】

【0013】
<A領域の評価>
表1の(1)(2)(3)について以下のような評価を行った。(3)は(1)と(2)の中間的性質の透過特性であって、比較のために評価した。(2)の400〜500nmの波長帯の平均透過率は59%とされている。尚、(1)(2)(3)の特性であるとレンズの外観は(1)では黄色がかって見え、(2)では緑がかって見え、(3)では青く見える。
(1)(2)(3)の単色レンズを各被験者にそれぞれランダムに装用させ、計10人のデータを取った(30データ)。
具体的な評価方法として、背景輝度が異なる2種類の視力表を用いたランドルト環による低コントラスト視力の測定を用いた。この方法は視野中心でものを見たときのコントラスト感度を評価するものである。
視力は加算平均できるようLogMAR値を用いた。背景とランドルト環のコントラストが5%、15%の2種類の視力表を用いた。
視角(ランドルト環の切れ目の大きさを角度で表したもの)=1/小数視力値の関係にある。
このとき、LogMAR=Log(視角)
とされる。これはすなわちLogMAR値が低いほうが小数視力値が高いことを意味し、例えば、LogMAR値が0のとき、小数視力に換算すると1.0である。
このような評価方法によって得られた結果を表2に示す。その結果、コントラスト5%の視力表でのLogMAR値は、(1)は−0.01、(2)は0、(3)は0.01となった。また、コントラスト15%の視力表でのLogMAR値は(1)は−0.01、(2)は0.015、(3)は0.04となった。
表2によれば、表1の(1)が夜間を想定したコントラストが低い場面において、非常に視力値の結果は良好であることが分かる。この傾向は(1)→(3)→(2)の順であり、400〜500nmの波長帯が多くなると散乱が多くなって物体が見にくくなることが分かる。このことから、中心領域において本実施例の夜間用遮光レンズ11は好適であることが分かる。
【0014】
【表2】

【0015】
<B領域の評価>
表1の(1)(2)(3)について以下のような評価を行った。(1)(2)(3)の単色レンズを各被験者にそれぞれランダムに装用させ、計10人のデータを取った(30データ)。
具体的な評価方法は、図2 に示すように第1のパソコンのモニター21を被験者の正面に配置し、この視線方向と20度ずらした方向に第2のパソコンのモニター22を配置する。そして、モニター21にはランダムな数字を所定のごく短い時間間隔(例えば1秒間隔)で表示させるように制御する。一方、モニター22には図3 に示すような縞模様の流れる画面表示を当初はコントラストがない(a)状態(a)から(b)〜(c)のように徐々にコントラストの諧調を上げていくようにする。縞は視角にして縦横2度の範囲内に1.5cycle/度の間隔で表示させた。
被験者には常に正面のモニター21の数字を読ませつつ、被験者の視野の縁に見えるモニター22のコントラストを認識させ、縞模様が認識できた段階で操作キーを入力させ、それに呼応して画面を停止させるようになっている。このような評価方法によって得られた結果を表3に示す。表3における縦軸は、縞が認識できた段階の縞のコントラストを示す。(1)は11.9%(2)11.5%は(3)11.1%となった。
表3によれば、表1の(2)が非常に早く縞模様を認識することができている。 この傾向は(2)→(3)→(1)の順であり、400〜500nmの波長帯が多くほうが視野の周囲での物体が見やすくなることが分かる。このことから、周辺領域において本実施例の夜間用遮光レンズ11は好適であることが分かる。
【0016】
【表3】

【0017】
このような構成とすることで実施例では次のような効果を奏する。
(i)夜間用遮光レンズ11は中心領域においては400〜500nmの波長帯の透過率が抑制されているため、散乱が生じず視界がクリアになって物体が見えやすくなるとともに、周辺領域においては400〜500nmの波長帯の透過率が高く設定されているため、暗い中でも視界の縁で認識される物体の動きを察知しやすくなっている。
(ii)夜間用遮光レンズ11は特に耳側のみ周辺領域として(2)の特性の部分が形成されており、鼻側の全域については(1)の特性であって普通の遮光レンズであるため、人に見られた際の違和感を感じにくくなっている。
【0018】
尚、この発明は、次のように変更して具体化することも可能である。
・中心領域は光学中心Oを中心とした半径 5〜30mmの円であれば周辺領域を形成させながら様々なサイズ、形状の夜間用遮光レンズに対応することができる。
例えば、図4 のように中心領域を狭くして、周辺領域を大きくしてもよい。また、図5 のように実施例1のサイズに中心領域を狭くしたレンズに形成してもよい。
・図6 のように周辺領域と中心領域との境界を直線で構成するようにしてもよい。
・上記ではいずれも周辺領域と中心領域との境界が明瞭となるような図示をしていたが、両者の移行領域で400〜500nmの波長帯に対する透過率が徐々に変化するようにしてもよい。
その他本発明の趣旨を逸脱しない態様で実施することは自由である。
【符号の説明】
【0019】
11…夜間用遮光レンズ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
視感透過率が75%を超える夜間用遮光レンズにおいて、周辺領域の400〜500nmの波長帯に対する平均透過率を、中心領域の400〜500nmの波長帯に対する平均透過率よりも高くしたことを特徴とする夜間用遮光レンズ。
【請求項2】
前記中心領域とはレンズの光学中心を中心とした一定の領域であることを特徴とする請求項1に記載の夜間用遮光レンズ。
【請求項3】
前記中心領域とは累進屈折力レンズの遠用部中心を中心とした一定の領域であることを特徴とする請求項1に記載の夜間用遮光レンズ。
【請求項4】
前記周辺領域は耳側領域に設定されることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の夜間用遮光レンズ。
【請求項5】
前記中心領域の半径は 5〜30mmであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の夜間用遮光レンズ。
【請求項6】
前記中心領域から前記周辺領域への移行領域は400〜500nmの波長帯に対する透過率が徐々に変化する領域であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の夜間用遮光レンズ。
【請求項7】
前記中心領域における400〜500nmの波長帯の平均透過率は30〜50%で あることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の夜間用遮光レンズ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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