説明

大気中降下物の連続捕集装置

【課題】乾性不溶解沈着物、乾性溶解沈着物、湿性不溶解沈着物、並びに、湿性溶解沈着物の捕集物質量時間推移を定量的に計測できる大気降下物の連続捕集装置を提供する。
【解決手段】ろうと状の乾性沈着物採取口と、上方に向けた開口を有する湿性沈着物採取口と、降雨を検出する降雨検出器及び煤塵採取口蓋と、煤塵採取口蓋開閉機構を備え、かつ、前記乾性沈着物採取口の後段に設けられ、前記乾性沈着物採取口から吸引された前記大気中粒子を粗大粒子と微小粒子とに分ける分級器と、粗大粒子用の乾性沈着物捕集器と、乾性沈着物捕集器交換装置と、微小粒子用の乾性沈着物捕集器と、循環気流路と、前記湿性沈着物採取口の下方に前記湿性沈着物採取口を通過した粒子を捕集する湿性沈着物捕集容器を備えた湿性沈着物捕集装置を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大気中の降下粒子を捕集する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
種々の生産活動・消費活動に伴って発生する大気中の煤塵は、重大な環境汚染項目のひとつとみなされており、その実態把握と対策が社会から強く求められている。また、大気中の降下物の社会問題として、酸性雨が注目されている。降下煤塵と酸性雨の問題は、大気中物質の地表近傍での物体表面(地面、建物の壁、植物の葉や茎、生物の皮膚等)沈着が問題を引き起こす点で共通している。従って、大気中物質の物質別沈着速度を正確に計測する計測装置が存在すれば、沈着によって生じる様々な問題解決のための貴重な情報を提供できることになるので、このような装置は極めて有用といえる。
【0003】
ここで、これら大気中降下物、沈着物の実態把握のために物質別大気中物質の沈着速度を正確に計測するためには、次のような機能が必要である。第1に、刻々と変化する気象条件や汚染源操業条件に追従して沈着物を時系列的に区分けして捕集し、かつ、この捕集物を事後にオフラインで(一部項目はオンラインで)分析できるように個々の捕集物を健全な状態で保存する機能である。全同定を計測機内でオンラインで実施することも原理的には可能ではあるが、装置が巨大化・高額化するので現実的ではないからである。第2に、捕集物の計測データを用いて大量の降下煤塵発生等の異常時に警報発生等の即時対応を講じる観点からは、少なくとも捕集物の質量に関して、オンラインで計測できる機能である。第3に、瞬時風向と瞬時捕集物との相関関係から、主たる発塵源を推定する解析を行う観点からは、刻々と変化する気象条件や汚染源操業条件に追従するために、前記オンラインで捕集物の沈着速度を計測する周期を、少なくとも1時間、望ましくは、1分から10分程度以内とする機能である。第4に、計測場所での大気中物質の沈着機構のうち主たるプロセスを明らかにする観点から、沈着機構別に分離して沈着物を捕集する機能である。沈着機構別の沈着物は、一般に、次の4種類に分類される。即ち、乾性溶解沈着物、乾性不溶解沈着物、湿性溶解沈着物、並びに、湿性不溶解沈着物である。乾性沈着物とは、非降雨時に沈着した物質であり、主として煤塵である。湿性沈着とは降雨時に沈着した物質であり、雨滴中に溶解した大気中ガスや、雨滴との衝突によって雨滴中に取り込まれて雨滴とともに沈着した煤塵である。水溶性の沈着物(溶解沈着物)は、雨水や沈着面に水分が存在すれば、水に溶解する沈着物であり、雨水のpHに影響を与えうる。不溶解性の沈着物は、水には溶けない沈着物であり、沈着面に固体として長期に残留しうる。
【0004】
これら4つの必要機能を全て備えた計測装置は従来存在せず、特に、前記第3機能に関しては、1時間未満の計測周期で正確に計測できる計測機はなく、前記第4機能に関しては、そもそも時系列的に計測可能な該当する計測装置が存在しなかった。以下に従来技術とその問題点を説明する。
【0005】
公的な降下煤塵管理は、図1に示すデポジットゲージを用いてなされることが多い。沈着物採取口27に沈着した降下煤塵は、再飛散や降雨過程を経て捕集瓶7にしばしば発生する降雨時に、雨水とともに受動的に捕集される。1ヶ月間に捕集した煤塵の総量から降下煤塵の平均的な煤塵降下速度に換算する。この手法は、古くから公的に認められた測定法であるので、他のいずれの降下煤塵計測方法を用いる場合でも、長期測定において、この器具での測定値との相関を示すことが求められる。
【0006】
ここで、降下煤塵の理想捕集速度について定義しておく。降下煤塵の場合、主として、地表面への沈着が実際の環境汚染に対応する。地表面において、単位面積当たり単位時間当たりの煤塵沈着量、即ち、煤塵降下速度は、地表面直上での、煤塵種及び粒径別の大気中煤塵濃度と煤塵種及び粒径別の大気中粒子沈降速度を乗じたもので定義される。大気中粒子沈降速度には、粒子の自由落下によるものと、大気乱流に起因する拡散によるものが含まれる。デポジットゲージの沈着物採取口入口でも理想的にはこの煤塵降下速度が満足され、これを理想捕集速度と定義する。実際のデポジットゲージでは、計器の空気力学的抵抗等の理由によって、捕集できる降下煤塵速度は一般に理想捕集速度よりも減少する。実際の煤塵降下速度の理想捕集速度に対する比を粒子捕集効率と呼ぶ。
デポジットゲージには、測定の時間分解能が低いために短時間での大気中煤塵量測定値の
【0007】
組み合わせで問題箇所を探索する手法に適用することができないという問題がある。また、比重1の粒子に換算して約4〜7μm未満の粒子は、周囲気流への追従性が高いために容易には壁面に付着できない。このため、デポジットゲージには特に4μm未満の粒子は、ほとんど捕集されない。
【0008】
降下した煤塵を直接測定するのではなく、大気中の粒子濃度を測定して煤塵降下速度に換算する手法もしばしば用いられる。大気中の粒子を測定する公的に認められた装置として代表的なのは、図2に示すローボリュームサンプラ(または、吸引流量のより大きいものはハイボリュームサンプラとよばれる)である。沈着物採取口1から煤塵を含む大気をブロワまたは圧縮機6で、流量制御装置9で流量を制御しながら高流量で吸引して捕集フィルタ5上に捕集し、一定時間に捕集された粒子質量を吸引大気量で除して大気中粒子濃度を算出するものである。この計測法は、例えば4〜7μm以下の比較的小径の粒子に対しては一定の合理性を有するが、より粗大な粒子に対しては誤差が大きく実用的でない。これは、粗大な粒子は、周囲の大気流れへの追従性が低いので、吸引を行っても計器内に捕集することが困難だからである。ローボリュームサンプラは、フィルタ交換を自動で実施できないので、連続的な煤塵濃度推移を測定することが困難という問題もある。
【0009】
同様の吸引による大気中の煤塵濃度の測定原理を用いて、連続的な濃度分布推移を測定する計測装置として、SPM(suspended particulate matter)計が存在する。SPMとは大気中の直径10μm以下の粒子である。特許文献1に開示された構成の連続式SPM計の概略を、図3を用いて説明する。煤塵粒子を含んだ大気は、沈着物採取口1からブロワまたは圧縮機6によって装置内に吸引される。連続式SPM計には吸気口の形状に特段の制約はないが、降雨時の雨水浸水を防止するため、通常、水平方向、または、下方に開口を有する円管開放端とする場合が多い。吸引された煤塵を含んだ大気は、沈着物採取口直後に配置された粗大粒子フィルタ3によって10μmを超える粗大な粒子が除去される。粗大粒子フィルタ3にはグリース塗布したインパクタやサイクロン等の空気力学的分級器等が用いられる。粗大粒子フィルタ3によって除去された粗大粒子は、装置外に廃棄される。粗大粒子フィルタ3を通過したSPMのみを含む大気は、沈着物採取口気流路2を通ってβ線吸収式質量測定器4内に流入し、空気中の煤塵のみが捕集フィルタ5上に捕集される。捕集煤塵に対して一定時間β線吸収式の質量測定が実施される。β線吸収式質量測定は、乾性・非破壊的に高速で微量の試料の質量を計測できる利点があり、1時間程度以内の短周期での連続煤塵計測で最も広く採用される方法である。質量測定が終了した後、捕集フィルタ送り装置14を作動させて煤塵の付着した部位の捕集フィルタ5をβ線吸収式質量測定器から回収するとともに、次の測定用に、未使用の捕集フィルタ5部位をβ線吸収式質量測定器内に送りこむ。図3では捕集フィルタ5としてテープ状のものを用い、また、捕集フィルタ送り装置14として、未使用のテープ状の捕集フィルタ5を予めロール状に巻いたものを送り出し、粒子捕集済みのテープ状捕集フィルタ5をロール状に巻き取る機構を用いている。捕集フィルタ5によって煤塵の大半を除去された吸気は、β線吸収測定中は、気流路2を通って外気中にそのまま放出される。尚、捕集フィルタ5によって粒子を捕集する場合、極端に小さい粒子が捕集フィルタ5を透過してしまうことは、原理的に避けられない。透過する粒子の上限直径は、公的に規準値、例えば、0.3μmが定められている。ここで、この極端に小さい粒子の大気中での質量構成率は一般に小さいので、この粒子の影響を無視する。以下、単に「微小粒子」と記述する場合には、直径0.3μm以下の粒子(または、公的に認められる捕集フィルタ5透過粒子)を暗黙に除外するものとする。大気の吸引中に捕集フィルタ5上の部分的な目詰まりが生じることによって、配管系の圧力抵抗は刻々と変化するので、この影響を補償する様に、吸引流量は、流量制御装置9等を用いて一定に制御される。連続式SPM計も吸引による煤塵捕集法であるので、粗大な粒子を採取する目的には使用できない。
【0010】
連続式SPM計を発展させたものとして連続式PM2.5(particulate matter 2.5) 計が存在する。特許文献2に開示された図4に示す装置では、吸気された大気は、まず、粗大粒子フィルタ3を通過して大気中の直径10μmを越える粗大粒子が除去されて大気中の粒子は、SPMのみになる。次に、大気は分級器8を通過し、SPMのうちでより小径のPM2.5(比重1相当の粒子に換算して、粒径分布の中央値が2.5μmの粒子)とそれ以外の比較的粗大なSPM粒子を含む気流を分離してそれぞれ別系統の捕集フィルタ5に煤塵粒子を捕集する。分級器8には慣性分級器8の一種であるバーチャルインパクタが用いられる。捕集された前記2系統の煤塵粒子は、β線吸収式質量測定法によってそれぞれの系統での連続質量測定が行われる。連続式PM2.5計も粗大な粒子を採取する目的には使用できない。尚、バーチャルインパクタ等の空気力学的分級器8を用いる場合、気流への追従性の高い微小粒子の一部が、粗大粒子側の気流に混入することが原理的に避けられない。しかし、この微小粒子の混入量はバーチャルインパクタにおける分流流路間の流量比に比例し、粗大粒子側へ分流される流量割合は一般に小さいので、分流気流とともに粗大粒子側に流れる微小粒子量の全吸引微小粒子量に対する割合も小さい。このため、粗大粒子側に分流された微小粒子の影響は、一般に無視される。
【0011】
粗大な粒子も含めた降下煤塵を直接的、かつ、連続的に測定する装置として、特許文献3に示した連続式降下煤塵計が考案されている。市販されている装置の概要を図5に示す。これは、基本構造として、連続式SPM計の吸引端に、上方に開口を有するデポジットゲージ型形状の沈着物採取口1を付与したものである。さらに、実質的な外気の吸引を行わないようにするため、沈着物採取口下端から吸引された大気は主循環気流路11’を通って装置内を循環し、除塵フィルタ10によって除塵された後、沈着物採取口内に吐出される機構になっている。通常1時間単位での煤塵降下速度の計測が可能であるが、これより短い周期で計測を行うことは、捕集できる粒子質量が一般に過小なため、SN比の制約から困難である。従って、この装置の時間分解能は、十分とはいえない。また、この装置においては、単位時間に捕集された煤塵量を沈着物採取口の断面積で除して降下煤塵量を算出しているが、この計測された長期間平均の煤塵降下速度がデポジットゲージと大きく異なる傾向を示す場合が多く、かつ、その原因も不明という問題が存在する。さらに、降下煤塵の挙動を把握するためには粒径分布が極めて重要な情報である。なぜならば、大気中の煤塵の平均落下速度は、粒径の2乗弱に比例するので、煤塵の飛散可能距離が粒径によって大きく異なるからである。しかしながら、この装置では粒径分布を測定することはできない問題がある。
【0012】
降下煤塵を連続的に測定する装置として、特許文献4に採取口を連続的に加振して採取口内面に付着した粒子を壁面から離脱させ、これを採取口下端から連続的に吸引して質量測定する方法が開示されている。しかし、この装置では、採取口への循環流の導入がなく、実質的に採取口外の大気を吸引しているため、降下煤塵の正確な測定を行うことは困難である。また、この装置では、粗大な粒子に関しては、加振によって壁面に付着した粒子が下方に粒子が落下する。しかし、より微小な粒子については、壁面から離脱した粒子の落下速度が小さいため、周囲の風によって採取口内部に自然に存在する気流によって、大半の粒子が採取口外に流出してしまうので、この点でもこの装置は降下煤塵の測定精度が低いという問題がある。
【0013】
この外、特許文献5に、湿式で降下煤塵を捕集し、連続質量測定を行う方法も開示されている。しかし、この方法では、降下煤塵の捕集効率は比較的高いものの、捕集試料が捕集用の水に一部溶解するため降下煤塵全体の質量を測定することができず、かつ捕集した不溶解煤塵の質量測定を行うためには、水のろ過、乾燥工程が必要であり、装置が複雑化するとともに、ろ過材の湿分が大きく変動することによる質量計測誤差を避けることが難しく、微量高精度質量計測装置として適切ではない。
【0014】
微量の降下煤塵質量を連続的に測定する他の手法として、特許文献6に示す振動素子式マイクロ天秤型質量計測器が存在する。この手法では、捕集した煤塵質量の微小な時間変化を比較的広い質量範囲で測定することができる。
【0015】
これら乾式の連続式降下煤塵計では降雨時に採取口を煤塵採取口蓋により閉止するため、湿性降下物を捕集することができなかった。デポジットゲージでは、乾性と湿性沈着物の合計が捕集されるので、従来の連続煤塵計による煤塵捕集量とデポジットゲージによる捕集量の差は、もっぱら降雨時の湿性沈着物量の差と一般にみなされてきた。しかし、湿性沈着物による影響が計測によって定量的に評価されたことはなく、従来装置では前記の乾性沈着物の捕集誤差に加えて湿性降下煤塵の誤差が避けられないという問題があった。
【0016】
次に酸性雨捕集装置の従来技術について述べる。一般に酸性雨捕集といわれている技術は、降雨時に雨に溶解または混入して地表や植物表面に沈着する湿性沈着物の捕集と、降雨がない場合の乾性沈着物の捕集の2種類を総合したものである。後者の捕集は、近年、その重要性が認識されたものである。これは、乾性沈着物が植物表面上で吸湿して酸性水溶液状態となって、酸性雨の湿性沈着物と同様の原理で植物に被害を与えるため、当初の酸性雨の定義であった湿性沈着物と乾性沈着物が組で議論されるようになったものである。
【0017】
湿性沈着物と乾性沈着物の同時捕集は、伝統的に、煤塵採取口蓋31を煤塵採取口蓋開閉装置32を用いて有効な採取口を切り替える方式の図15に示す降水サンプラと呼ばれる捕集器が用いられていた。これは、湿性沈着物用捕集器35と乾性沈着物用捕集器7の上方に湿性沈着物採取口30と乾性沈着物採取口1を設け、さらにこれら採取口の上方に煤塵採取口蓋31とその開閉機構32、並びに、感雨器29を設け、降雨時には乾性沈着物用採取口1に煤塵採取口蓋31を閉じて湿性沈着物採取口30上の煤塵採取口蓋31を開け、降雨のない場合には煤塵採取口蓋31の開閉をこれとは逆にするものである。この装置の場合、捕集物を短時間周期の試料に分割できない問題があり、また、デポジットゲージとは異なり、乾性沈着物採口1には降雨が一切流れ込まないため、この捕集器内面に付着した粒子が容器底に洗い落とされることがなく、煤塵採取口蓋31開放時の風の吹き込みによる再飛散によって乾性沈着物の捕集量が著しく低下するという問題があるため、現在ではあまり使用されていない。
【0018】
湿性沈着物の連続捕集装置として、非特許文献1に規定された、図6に示す市販の装置が存在する。この装置では、気象庁基準の降雨量測定に用いられる転倒ます式雨量計の雨水計量部34によって1mm毎などの一定雨水量に切り分けられた雨水試料を雨量計量部の排水口から導水管38を通じて雨水計量部の下方に設けられた湿性沈着物捕集容器35に捕集し、前記捕集容器内の雨水試料のpHをpH計測器37によって間欠的に測定し、降雨量ごとに捕集容器を交換することによって積算雨量値に対応した雨水試料を連続的に捕集するものである。また、前記湿性沈着物捕集容器35は、湿性沈着物捕集容器交換装置36によって、一定捕集量ごとに交換される。さらにこの装置では、沈着物の捕集時に乾性沈着物が混入しないように、感雨器29と連動した煤塵採取口蓋31を設けて、降雨のない場合には煤塵採取口蓋31を閉じる。降雨時には採取口上に蓋の閉まるデポジットゲージを乾性沈着物捕集用に併設する場合もある。しかし、この装置では、開閉蓋切り替え式捕集器と同様に、再飛散による乾性沈着物の捕集量誤差が大きいという問題がある。
【0019】
また、特許文献7に示す無動力雨水採取容器交換装置も開示されている。この装置では、複数の湿性沈着物捕集容器35を環状に配置し、特定の湿性沈着物捕集容器35に雨量が一定量捕集されると、自重によって装置が回転して、湿性沈着物捕集容器35が交換されるものである。しかし、この装置では、採取口が降雨の有無によって開閉できないため、乾性沈着物が捕集された雨水に混入することが避けられない問題がある。
【0020】
近年、酸性雨の乾性沈着物捕集にフィルターパック法が広く適用されている。この方法は、雨よけのために下方を向いた採取口から周囲の大気をコンプレッサによって吸引し、吸引流路途中に直列に設けられた孔径の異なるフィルタによって大気中の粒子を捕集、保存するものである。しかし、この装置では、吸引を行い、かつ、採取口が上方を向いていないため、大気中を自由落下しうる粗大な粒子の捕集効率が著しく低いという問題がある。このように、酸性雨の乾性沈着物捕集の分野では、標準的な定量捕集方法が未だ確立されていないという問題がある。
【0021】
【特許文献1】特開2006−3090号公報
【特許文献2】特許第3574045号公報
【特許文献3】特公平6―021848号公報
【特許文献4】特開平7−190915号公報
【特許文献5】特開平10−218号公報
【特許文献6】特開平7−43283号公報
【特許文献7】特開平5−1984号公報
【非特許文献1】環境庁環境大気常時監視マニュアル第4版
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
以上述べたように、従来技術において、短周期で乾性沈着物を正確に捕集するとともに、湿性沈着物を捕集して湿性沈着物の影響を補足し、これらの捕集物の分析結果から、大気中の全沈着物、即ち、乾性不溶解沈着物、乾性溶解沈着物、湿性不溶解沈着物、並びに、湿性溶解沈着物の捕集物質量時間推移を正確に計測することは困難であった。このため、降下煤塵や酸性雨による沈着物の時系列解析は、著しく制約を受けていた。
【0023】
本発明は、上記の問題、即ち、第1に、乾性不溶解沈着物、乾性溶解沈着物、湿性不溶解沈着物、並びに、湿性溶解沈着物の捕集物質量時間推移を定量的に計測すること、第2に、捕集物質量時間推移を測定する際に不可避的に必要とされる、乾性沈着物採取口での大気を吸引する際の、捕集量から算出される降下物の降下速度が同一条件で採取口での吸引を行わない場合のものと大きく異なる現象を回避して正確に乾性沈着物の捕集速度を計測すること、を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0024】
そこで、本発明者の降下煤塵計測に関する研究の結果、以下の解決手段を発明するに至った。
【0025】
[第1発明]
第1発明は、上方に向けた開口を有すると共に、下端が気流路と接続されている、ろうと状の乾性沈着物採取口と、上方に向けた開口を有する湿性沈着物採取口と、降雨を検出する降雨検出器と、前記降雨検出器の検出値に応じて、前記乾性沈着物採取口と前記湿性沈着物採取口のいずれか一方を閉止する煤塵採取口蓋と、前記降雨検出器の検出値に基づいて、降雨時には乾性沈着物採取口を閉鎖して湿性沈着物採取口を開放し、降雨時以外には湿性沈着物採取口を閉鎖して乾性沈着物採取口を開放する煤塵採取口蓋開閉機構と、前記乾性沈着物を捕集する乾性沈着物捕集装置と、前記湿性沈着物を捕集する湿性沈着物捕集装置と、を備え、前記乾性沈着物捕集装置は、前記乾性沈着物採取口内に存在する大気中粒子を大気と共に前記乾性沈着物採取口の下端から前記気流路を通して吸引するためのブロワ又は圧縮機と、前記乾性沈着物採取口の後段に設けられ、前記乾性沈着物採取口から吸引された前記大気中粒子を粗大粒子と微小粒子とに分ける1つまたは2つ以上の分級器と、前記分級器の後段に設けられた、前記分級器の微小粒子側出口を一度も通過することのない粗大粒子用気流路と、前記粗大粒子用気流路の途中に設けられた、粗大粒子用の乾性沈着物捕集器と、前記分級器の後段に設けられた、1つまたは2つ以上の前記微小粒子側出口に接続する微小粒子用気流路と、前記微小粒子用気流路の途中に設けられた、微小粒子用の乾性沈着物捕集器と、前記乾性沈着物捕集器を定期的に交換する乾性沈着物捕集器交換装置と、前記粗大粒子用気流路と前記微小粒子用気流路が合流して形成され、前記吸引された大気と同一流量の大気を前記乾性沈着物採取口内に導入するための循環気流路と、前記乾性沈着物捕集器の後段の前記粗大粒子用気流路または前記循環気流路上に設けられた、流量制御装置と、前記乾性沈着物捕集器の後段の前記粗大粒子用気流路または前記循環気流路上に設けられた、ブロワ又は圧縮機と、から構成され、前記湿性沈着物捕集装置は、前記湿性沈着物採取口の下方に前記湿性沈着物採取口を通過した粒子を捕集する湿性沈着物捕集容器を備えた湿性沈着物捕集装置を備えることを特徴とする、大気中降下物の連続捕集装置である。
【0026】
従来の大気中降下物の連続捕集装置には、乾性沈着物採取口から乾性沈着物を大気とともに吸引して前記吸引された乾性沈着物を分級した後、それぞれ連続的に捕集し、かつ、吸引した大気流量と同一流量の大気を前記乾性沈着物採取口に導入するものは存在しない。
【0027】
従来の従来の大気中降下物の連続捕集装置、例えば、乾性沈着物捕集装置としてのβ線吸収方式連続式降下煤塵計における降下煤塵の煤塵降下速度算出理論では、沈着物採取口下端から単位時間当たりに吸引された大気中の粒子質量全てを沈着物採取口入口断面積で除したものを降下煤塵の煤塵降下速度としていた。しかし、本発明者の詳細な調査の結果、この理論は、誤りであることが判明した。以下、具体的に説明する。
【0028】
屋外で有風時の連続煤塵計の乾性沈着物採取口付近断面での一般的な流れ場の概念を図7に示す。乾性沈着物採取口は、大きく上下二領域に分割できる。上部は、外気の風の乾性沈着物採取口への巻き込みによって発生する旋回流の支配する領域であり、これを「外気流支配領域」と呼ぶ。外気流支配領域での主流速度は、外気の風速と同程度の値、例えば、数m/sに達する。下部は、乾性沈着物採取口1下端での吸気により乾性沈着物採取口1下端方向への流れが顕著な領域であり、これを「吸気支配領域」と呼ぶ。これら二領域の境界を「乾性沈着物採取口内部流れ場境界」18と呼ぶ。乾性沈着物採取口内部流れ場境界18の上下方向位置は、外気流速と吸気流量の比で変化し、高風速時にはより下方へ、高流量で吸引する場合にはより上方へ移動する傾向となる。乾性沈着物採取口1内でのこのような流れ場上で、乾性沈着物採取口1入口から乾性沈着物採取口1内に進入した粒子の軌跡の概念は、大きく、次の3つの場合に分類できる。第1の場合は、粒子径が、例えば、数百μm以上と非常に大きい場合の軌跡であり、このときの粒子軌跡は、旋回流等の流れ場の影響をほとんど受けずに、そのまま乾性沈着物採取口1下端から吸気とともに計測器内に流入する(図8の軌跡a)。つまり、乾性沈着物採取口1入口に進入した全粒子が吸引されるので、乾性沈着物採取口1入口は、実質的な吸着面(仮想吸着面と呼ぶ)として作用することになる。図8に非常に粗大な粒子の仮想吸着面22の位置を示す。第2の場合は、粒子径が数μmから数十μm程度である大気中を自由落下する、一般的な粒径の粗大粒子の場合であり、乾性沈着物採取口1入口から乾性沈着物採取口1内に進入した粒子の大部分は、外気流支配領域内の旋回流とともにこの領域内を回転し、一部の粒子は、乾性沈着物採取口内部流れ場境界18を越えて吸気支配領域に進入して乾性沈着物採取口1下端から吸気とともに計測器内に流入するが(図8の軌跡c)、大半の粒子は、再び乾性沈着物採取口1入口から外気に放出されてしまう(図8の軌跡b)。この場合、一般的粒径の粗大粒子での仮想吸着面23は、乾性沈着物採取口内部流れ場境界18と一致する。粒子捕集量が乾性沈着物採取口1入口断面積ではなく、仮想吸着面断面積であることの証拠として、本発明者は、従来の連続式煤塵計に対して、同一循環(吸引)流量で異なる乾性沈着物採取口1入口断面積条件(直径130mm、200mm、並びに、300mm)の装置を個別に準備し、同一地点で同時に煤塵捕集実験を行った。その結果、全ての装置についてほぼ同じ煤塵捕集量が得られた。粒子捕集中に乾性沈着物採取口1内部の速度分布を測定した結果、いずれの装置でも乾性沈着物採取口1下端−乾性沈着物採取口内部流れ場境界18(仮想吸着面)の距離は一定であった。つまり、仮想吸着面面積が煤塵捕集量を支配していることがわかった。この事実も本発明者が初めて見出したものである。第3の場合は、数μm以下の大気中を単に浮遊する粒子の場合であり、大気の流れとほぼ完全に一致するので乾性沈着物採取口1内での粒子濃度は、ほぼ一様であり、計測器内に吸気される粒子量は、吸気流量と外気濃度だけに依存する。尚、粒子の軌跡は乾性沈着物採取口1内部では厳密には乾性沈着物採取口1中に吐出された循環流の分だけ粒子濃度は減少するが、有風時には外気と乾性沈着物採取口1内との物質交換が著しく強いので、循環流による粒子濃度低下効果を実質的に無視できる。従って、仮想吸着面の概念は存在しない。粒子軌跡は、第2の場合と同様である。以上の分類と、連続式降下煤塵計における煤塵降下速度算出についての従来理論との関わりを述べる。第1の非常に粗大な粒子の場合、乾性沈着物採取口1入口を通過した粒子全てが捕集されるので従来理論で問題ない。次に、第2の一般的な粒径の粗大粒子の場合では、乾性沈着物採取口内部流れ場境界18、即ち、仮想吸着面を通過した粒子のみが捕集されるので、捕集した粒子を仮想吸着面面積で除したものが降下煤塵の煤塵降下速度に対応するはずである。従って、捕集量を乾性沈着物採取口1入口断面積で除する従来理論は誤りである。さらに、第3の微小粒子の場合では、微小粒子は地表への沈着速度が一般に低いので、降下煤塵の煤塵降下速度への影響は本来、小さい。しかし、従来装置では、実際に粒子が地表に沈着しうるかとは無関係に大気中の微小粒子を吸引により強制的に捕集し、かつ、捕集された粒子と降下煤塵の煤塵降下速度との関係は不明であるので、算出された微小粒子分の降下煤塵速度の根拠は薄弱である。従って、第1から第3の粒子を含む全捕集粒子を合計した捕集粒子質量を、単に乾性沈着物採取口1断面積で除して降下煤塵速度に換算する従来理論の妥当性は極めて低い。
【0029】
この様に誤った理論をもとに構築された従来装置でのハード面での最大の問題は、捕集した粒子のうち降下煤塵とは無関係な、吸引により捕集された微小粒子を本来測定する対象であるより粗大な粒子から区別することができないことである。つまり、降下煤塵の捕集にあたっては、本来、粒子の捕集量は粒子採取口開口面積のみに比例すべきであるのに、従来装置では粒子捕集量が主に大気の吸引流量に比例してしまうという測定原理的問題が存在した。このため、従来の連続式煤塵捕集装置による煤塵捕集量は、吸引を行わないために主として降下煤塵を捕集することのできる、デポジットゲージ等の非連続式煤塵捕集器での煤塵捕集量との間に不可避的な誤差を生じることが避けられない。また、粒子捕集の時間分解能を向上させるためには、粒子捕集速度を増大させる必要がある。このためには、粒子採取口入口の開口面積を増大させるか、または、吸引流量を増大させる方法が考えられる。従来装置で吸引流量を増大させずに粒子採取口面積を増大させても、前述のように粒子捕集速度は増大せず、効果がない。また、従来装置で大気の吸引流量を増大した場合、粒子捕集速度は増大するものの、増大した粒子のうち、PM2.5等の、本来、降下煤塵になりえない微小な粒子の捕集量の割合が増えるので、降下煤塵量の測定誤差は一層、拡大してしまう。このため、従来装置で高精度に測定時間分解能を向上させることは困難であった。
【0030】
本発明において、本発明者による上記、当業者の知り得ない、従来常識を覆す新知見を元に、降下煤塵に対応する粒子を、それ以外の粒子から分離して捕集することにより、降下煤塵の連続的な煤塵降下速度を正確に計測することを初めて可能にしたものである。
【0031】
また、前述の連続式PM2.5計やフィルタパック法のように、吸引した外気中の粒子を分級して捕集する装置も存在する。しかし、これらの装置では沈着物採取口内への気流の導入がないため、沈着物採取口は、一方的に外気を吸引するため、沈着物採取口内に自然」落下する降下煤塵の量を正確に測定することは困難である。また、これらの装置では、採取口形状に関して大気中を自由落下しうる粗大な粒子の捕集に関して特段の配慮がなされておらず、大気中を自由落下しうる粗大な粒子の捕集効率が低い。さらに、これらの装置では、降雨時の雨滴が捕集器内に浸入することを防止するために採取口を側方または下方を向けて設置するか沈着物採取口の上方に雨よけの覆いを設ける等して、採取口への粒子の自由落下を阻害する形状が通常、採用されている。これらの理由から、これらの従来装置を用いて大気中を自由落下しうる粗大な粒子について、本発明でのように、物理的意味のある捕集(即ち、煤塵降下速度を容易に算出可能な捕集)を行うことは不可能である。
【0032】
また、従来の連続煤塵計では、降雨時には沈着物採取口を煤塵採取口蓋で閉鎖するため、乾性沈着物と装置の吸引流量に比例した微小粒子の合計量しか捕集及び認識することができない。また、従来の酸性雨捕集装置では、降雨のないときには沈着物採取口が煤塵採取口蓋で閉鎖されているため、湿性降下粒子しか捕集することができない。これに対して本発明では、降雨時には湿式降下粒子のみを捕集し、降雨のない場合には乾性沈着物のみを再飛散させることなく、かつ、装置の吸引量に比例して捕集される微小粒子から分離して連続的に捕集することができる。このため、吸引を行わない、大気中降下粒子全体を捕集する公的基準の存在する捕集器、例えば、デポジットゲージでの一定期間の捕集粒子量と、本発明の装置で捕集される湿性降下粒子及び乾性沈着物の同一期間の捕集量の合計は良い相関を示し、デポジットゲージに対応する粒子捕集量のうち、湿性降下粒子と乾性沈着物の比率を本発明の装置によって正確に推定することができる。同時に、本発明では、湿性降下粒子と乾性降下粒子を区別せずに捕集するデポジットゲージでは区別の困難な、乾性沈着物中の溶解成分や湿性降下粒子中の不溶解成分の構成率を、捕集した粒子を湿性降下粒子と乾性沈着物を別々に分析することによって正確に求めることができる。同様の効果を期待して、従来の連続煤塵計と従来の酸性雨捕集装置を同一地点に併設し、一定期間に両装置で捕集された粒子量の合計を求めた場合、従来の連続煤塵計には装置の吸引流量に比例して捕集される微小粒子の誤差が存在するため、前記粒子量の合計値は、同一期間のデポジットゲージによる捕集粒子量と一致することはないので、デポジットゲージの捕集粒子量を湿性と乾性に分離する推定は困難である。また、同様に、従来の煤塵採取口蓋31付湿性/乾性沈着物切り替え捕集器を用いた場合も、前述のように、付着粒子の再飛散効果によって乾性沈着物捕集器側の粒子捕集量に大きな誤差を生じるため、デポジットゲージの捕集粒子量を湿性と乾性に分離する推定は困難である。
【0033】
このように、本発明は、従来技術の単純な組み合わせを用いたのでは困難な異質な効果を発揮することができる。
【0034】
[第2発明]
第2発明は、前記乾性沈着物捕集器がテープ状の捕集フィルタであり、前記テープ状の捕集フィルタ上の粒子捕集場所を一定時間毎に更新する捕集フィルタ送り装置と、前記テープ状の捕集フィルタ上に捕集された粗大な乾性沈着物と微小な乾性沈着物の質量をそれぞれ連続的に計測するβ線吸収式質量計測器と、前記計測値を連続的に記録する演算および記録装置と、を更に備えることを特徴とする第1発明に記載の大気中降下物の連続捕集装置である。
【0035】
主として降下煤塵質量を問題とする場合、捕集された大気中降下粒子の一定間隔での質量変化を粒子捕集装置内に設けられた質量計測器によってリアルタイムに計測することにより、乾性沈着物の降下速度の連続データを粒子の捕集直後に記録することができる。その結果、捕集した粒子を長期間保存した後回収して質量分析を行う際に避けられない測定誤差、例えば、揮発性の高い乾性沈着物(例:工場等の高温排気中に含まれる揮発性有機化合物が常温大気中で凝縮することで生成した粒子は、捕集器で捕集されても、その後の気温・湿度・日射条件等によっては再気化して捕集器から失われることがある)の捕集後の質量変化誤差を低減することができる。
【0036】
[第3発明]
第3発明は、前記乾性沈着物捕集器に捕集された大気中粒子の質量を連続的に計測する振動素子式マイクロ天秤型質量計測器と、前記計測値を連続的に記録する演算および記録装置と、を更に備えることを特徴とする第1発明に記載の大気中降下物の連続捕集装置である。
【0037】
本発明の効果は、第2発明と同様に、捕集した乾式沈着粒子をリアルタイムに計測することにより、乾性沈着物の降下速度の連続データを粒子の捕集直後に記録することができることである。
【0038】
[第4発明]
第4発明は、所定時刻からの積算雨量を検出する手段と、2つ以上の前記湿性沈着物捕集器と、前記積算雨量に基づいて前記湿性沈着物捕集器を交換する湿性沈着物捕集器交換装置と、を備えることを特徴とする第1から第3発明のいずれか1つに記載の大気中降下物の連続捕集装置である。
【0039】
本発明により、捕集した湿性沈着採取物の捕集時刻を特定することができる。この捕集物の分析結果と、第1〜第3発明による時系列乾性沈着物の分析結果を組み合わせることによって、全効果粒子の時系列的推移を知ることができる。
【0040】
従来の降下粒子の捕集装置では、乾性または湿性沈着物を単独に連続捕集していたのみなので、降雨開始または終了の直前及び直後での降下粒子量の変動を捕らえるこことはできなかった。本発明では、この様な変動を補足することによって、降雨による粒子降下量への単独の影響を、より正確に測定することができる。例えば、特定煤塵発生源の近傍で、煤塵発生量と風向風速の変化がないときに、降雨が発生した際の本発明による測定値を分析することにより、煤塵捕集地点において、降雨により煤塵が洗い落とされて当該地点に降雨開始前よりも多く降下煤塵が検出されるのか、あるいは、降雨によって煤塵が洗い流された後の大気が当該地点に到達するので降雨開始前よりも少ない降下煤塵量が検出されるのかを区別することができる。
【0041】
[第5発明]
第5発明は、前記湿性沈着物捕集器に捕集された湿性沈着物のうち、捕集した雨水である大気中物質水溶液のpHを連続的に計測するpH計測器と、前記計測値を連続的に記録する演算および記録装置と、を備えることを特徴とする第1から第4発明のいずれか1つに記載の大気中降下物の連続捕集装置である。
【0042】
本発明によって、捕集された湿性降下物の特性をリアルタイムに知ることができ、測定後の速やかな対応、例えば、ある計測地点で降下煤塵速度が所定の許容値を超えて検出された場合には、警報を発するとともに、別途計測された風向等の条件から推定される煤塵発生源工場に対して、低発塵操業を行うように指示・依頼する等の、降下煤塵低減作業への即時反映に適用することができる。
【0043】
[第6発明]
第6発明は、前記乾性沈着物捕集用の分級器が1台、または、2台以上設けられ、全ての前記乾性沈着物捕集器の後段、かつ、前記循環気流路中に除塵用の除塵フィルタを設け、前記乾性沈着物用の分級器のうち少なくとも1台の微小粒子側出口から、前記除塵フィルタの前段、かつ、全ての前記乾性沈着物捕集器の後段である循環気流路の位置まで、前記微小粒子を含む吸引された大気の一部を流通させるバイパス気流路を備えることを特徴とする第1〜第5発明のいずれか1つに記載の大気中降下物の連続捕集装置である。
【0044】
第1発明では乾性沈着物用の流路系において、いずれの分岐流路においても捕集器であるフィルタが設けてある。このため、大量の乾性沈着物の捕集を行うために循環気流量を増大させると、フィルタの抵抗が著しく大きくなり、ブロワの巨大化や消費電力の増大、並びに、これに伴う筐体内部での発熱対策が必要となり、装置が高価となりがちである。また、第2、第3発明のように、質量計測時のSN比を確保するために薄い捕集フィルタを適用せざるをえない装置では、そもそも、大きな通気抵抗はフィルタを破壊してしまうため、循環気流量の上限が存在する。
【0045】
そこで、本発明では、乾性沈着物用流路系内の分岐流路にフィルタを通過することのないバイパス気流路を設け、循環気流量の大半をこのバイパス気流路を通過させることによって、大きな循環気流量と捕集フィルタでの小さな通気抵抗を両立させることができる。また、バイパス気流路を導入することで粒子の捕集特性が変化することがないように、バイパス気流路を分岐させる際には、気流に追従する、微小粒子と、大気中を自由落下しうる、粗大粒子とに分級する分級器を分岐点に設け、この分級器の微小粒子側出口をバイパス気流路側に接続し、粗大粒子側出口を捕集部側に接続する。この結果、分級された粗大粒子側出口では、仮想吸着面への粒子吸着量に相当する粗大粒子が濃縮されて流出するとともに、ここでの流量に比例した量の微小粒子が濃縮されることなく捕集部方向に流出する。また、分級された微小粒子側出口では、微小粒子のみがバイパス気流路方向に流出する。
【発明の効果】
【0046】
本発明により、乾性不溶解沈着物、乾性溶解沈着物、湿性不溶解沈着物、並びに、湿性溶解沈着物の捕集物質量時間推移を定量的に計測することができる。
【0047】
また、本発明では、乾性沈着物採取口から吸引された粒子を、降下煤塵とそれ以外の微小粒子に分離して捕集することにより、捕集物質量時間推移を測定する際に不可避的に必要とされる、乾性沈着物採取口での大気を吸引する際の、捕集量から算出される降下物の降下速度が同一条件で採取口での吸引を行わない場合のものと大きく異なる現象を回避して正確に乾性沈着物の捕集速度を計測することができる。
【0048】
さらに、本発明による計測値及び捕集されたサンプルを分析することにより、測定地点での降下煤塵や酸性雨の気象条件等への依存性解析を容易にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0049】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0050】
[第1発明]
(装置構成)
図9を用いて第1発明における一実施形態の装置構成を説明する。まず、乾性沈着物捕集装置について説明する。大気に対して、上方に開放した円錐ろうと状の乾性沈着物採取口1を通じて大気中流れとともに降下煤塵が捕集装置内に進入する。装置内には、気流路2、主循環気流路11、粗大粒子用分岐気流路12、並びに、微小粒子用分岐気流路13からなる循環気流路が設置され、主循環気流路11の途中に配置されたブロワまたは圧縮機6によって、乾性沈着物採取口1下端からブロワまたは圧縮機6方向に循環気流が形成・維持される。乾性沈着物採取口1の入口付近には、主循環気流路11が合流し、乾性沈着物採取口1内に循環流を排気するので乾性沈着物採取口1と外気間での流量は、平均的に零となり、乾性沈着物採取口1入口では実質的に外気を吸引しない。粒子の自由落下、または、乾性沈着物採取口1内下端からの吸気によって乾性沈着物採取口1に進入した粒子の一部は、気流路2に進入する。気流路2内の煤塵粒子は、気流によって分級器8に流入する。分級器8の内部で煤塵は分級され、大気中で自由落下しうる粗大粒子(即ち、降下煤塵)を主として含む気流と、それ以外の微小粒子のみを含む気流に分流されて、それぞれ、粗大粒子用分岐気流路12及び微小粒子用分岐気流路13に分かれて分級器8から流出する。粗大粒子用分岐気流路12は、粗大粒子用の乾性沈着物捕集部45に進入する。気流中の粗大粒子は、粗大粒子用の乾性沈着物捕集部45中の捕集フィルタ5上に捕集される。図9の装置では、捕集フィルタ5が乾性沈着物捕集器である。大気は乾性降下粗大粒子捕集器を通過して後段の粗大粒子用分岐気流路12へ流出する。乾性沈着物捕集部45の捕集フィルタ5に捕集された粗大な乾性沈着物は、乾性沈着物捕集器交換装置49によって定期的に交換される。分級器8の特性を安定化させるため、捕集フィルタ5を通過した大気は、流量制御装置9によって、作業中、常に一定流量になるように調整されている。同様の構造と手順により、微小粒子用分岐気流路12気流中の微小粒子は、微小粒子用の乾性沈着物捕集部46に捕集される。流量制御装置9の下流で、微小粒子用分岐気流路12と粗大粒子用分岐気流路12は合流して主循環気流路11に接続する。粗大粒子用の乾性沈着物捕集部45および微小粒子用の乾性沈着物捕集部46には市販のフィルタを用いることができる。また、従来技術の連続式SPM計に用いられる技術を適用して市販の薄膜テープ状のフィルタを乾性沈着物捕集器として用い、この薄膜テープ状のフィルタを一定期間ごとに巻き取りフィルタをロール状に回収する市販の乾性沈着物捕集器交換装置49でもよい。循環気流路21から乾性沈着物採取口1内に吐出される大気は含有粒子の点で清浄でなければならないので、上流の捕集フィルタ5で除去できなかった大気中粒子を除去するために、主循環気流路11中に除塵フィルタ10を設置してもよい。循環流の乾性沈着物採取口1への吐出は、従来の連続煤塵計測装置でのものと同様に、乾性沈着物採取口1入口直下で全周均一に乾性沈着物採取口1下端方向に乾性沈着物採取口1内面に沿ってなされるようにすることが望ましい。以上の装置構成をまとめると、乾性沈着物捕集装置は、乾性沈着物採取口1、気流路2、分級器8、粗大粒子用分岐気流路12、微小粒子用分岐気流路13、捕集フィルタ5を内蔵した粗大粒子用乾性沈着物捕集部45および微小粒子用乾性沈着物捕集部46、流量制御装置9、除塵フィルタ10、並びに、主循環気流路11を専用部品として含む。
【0051】
次に、湿性沈着物捕集装置について説明する。上方に開口を備えた湿性沈着物採取口30から捕集された粒子を含んだ雨水は、湿性沈着物採取口30の下方に設けられた湿性沈着物捕集容器35に流入して捕集される。上方向けた開口を備えた湿性沈着物捕集容器35を用いて、湿性沈着物採取口30を湿性沈着物捕集容器35が兼ねてもよい。以上の装置構成をまとめると、湿性沈着物捕集装置は、湿性沈着物採取口30、導水管38、並びに、湿性沈着物捕集容器35を専用部品として含む。
【0052】
さらに、乾性沈着部物捕集装置および湿性沈着物捕集装置の共用部品である、晴雨で切り替えを行う煤塵採取口蓋31の開閉機構32について説明する。感雨器29により降雨を検出した際には、乾性沈着物採取口1を閉止するように煤塵採取口蓋31を移動させ、感雨器29が降雨を検出する期間、この状態を維持する。感雨器29が降雨を検出しないときには、湿性沈着物採取口30を閉止するように煤塵採取口蓋31を移動し、位置を維持する。感雨器29は、市販の電気抵抗測定型を用いることができる。煤塵採取口蓋31の構造や切り替え機構には一般的なものを用いることができる。例えば、従来の煤塵採取口蓋31付の湿性/乾性沈着物切り替え捕集器での煤塵採取口蓋31切り替え機構を用いることができる。
【0053】
(演算および記録装置)
第1発明の装置に関わる装置の設定・制御、捕集物の分析、並びに、測定値の記録・保存は、演算および記録装置34によって自動的に、または、この演算装置を外部から操作して、実施できる。演算および記録装置34は、データ入出力機構、データ保存機構、計時機能、並びに、データ演算機能を備えた装置であればどのようなものであってもよい。例えば、市販のパソコンやPLCを用いることができる。演算および記録装置34は、図示しない信号線によって、乾性沈着物捕集器交換装置49、流量制御装置9、ブロワまたは圧縮機6、感雨器29、並びに、煤塵採取口蓋開閉装置32等と接続され、所定の計測制御を実施する。演算および記録装置は、1台の装置で全ての機能を実施してもよいし、機能別に複数の演算および記録装置を設けて、機能を分担させてもよい。また、これらの分析作業及び演算作業の全部または一部を手作業で行ってもよい。また、演算および記録装置34は、必ずしも計測装置の筐体26内に設ける必要はなく、遠隔地に設置してもよい。この場合、入力線及び出力線を筐体26内から引き出して筐体26外の演算および記録装置34に接続する等して、データ通信を行えばよい。
【0054】
(乾性沈着物捕集器)
乾性沈着物捕集器として、フィルタ方式以外でも、市販のスクラバー等の湿式粒子捕集器や市販の静電集塵機を用いることができる。しかし、装置が簡易、かつ、粒子の捕集効率の高い、フィルタ方式であることが望ましい。フィルタ方式としては、市販のローボリュームサンプラ用のグラスファイバ製捕集フィルタを用いることができる。また、フッ素樹脂製などの市販のメンブランフィルタを用いることもできる。
【0055】
(乾性沈着物捕集器交換装置)
乾性沈着物捕集器交換装置49には、一般的な機構のものを用いることができる。例えば、フィルタを予めカートリッジ状に加工しておき、前記カートリッジ状のフィルタを予め装置内に複数充填しておく。捕集中のフィルタカートリッジは、上下から気流路2によって挟み込まれてフィルタとして機能する。一定時間ごとに、フィルタカートリッジの気流路2による挟み込みを開放して粒子捕集済みのフィルタカートリッジを水平方向への押出機構等を用いて気流路2から取り外し、その代わりに未使用のフィルタカートリッジを気流路2中に移動させた後、再びこのフィルタカートリッジを気流路2で挟み込むことにより、前記乾性沈着物捕集器の交換を実現できる。
【0056】
(捕集粒子の分析方法)
捕集された不溶解成分粒子は、捕集された粒子は、同一時間区分に捕集されたものごとに、従来技術の方法により、質量や化学成分を測定される。測定方法は、例えば、電子天秤を用いた質量測定を用いることができ、また、一般的な化学分析手法や蛍光X線法、または、ICP−MASS法による成分分析等を行うことができる。湿性沈着物は、捕集水をろ過することにより得られたろ過残留物を湿性沈着物中の不溶解成分とみなすことができ、この際のろ液は、湿性沈着物中の溶解成分のみを含むとみなすことができる。また、乾性沈着物捕集器によって捕集された粒子のうち、不溶解成分のみを抽出するためには、捕集した粒子を一旦、蒸留水などと混和し、この混和物をろ過することによって、ろ過残留物として乾性降下不溶解成分粒子のみを抽出することができる。またろ液は、乾性沈着物溶解成分粒子とみなすことができる。質量については、捕集時間と、数値解析等の手法で求めた前述の等価採取口面積とで除することによって、煤塵降下速度に換算する。また、微小粒子の場合、連続式SPM計等と同様に、捕集された煤塵量を乾性沈着物採取口1下端で吸引した大気流量で除して大気中の粒子濃度に換算する。
【0057】
これらの分析及び演算行う器具及び装置は、必ずしも計測装置内に存在しなくてもよい。この装置が計測装置外にある場合、計測装置内で測定された質量測定値を外部の演算装置にデータを移動させ、外部の演算装置で煤塵降下速度や大気中粒子濃度を算出すればよい。この方法の利点は、計測装置ごとに演算装置をもつ必要がないため、装置が小型化することである。データの移動方法は、通信線を用いてもよいし、計測装置内にリムーバブルハードディスク等の演算および記録装置を設置して、演算および記録装置を物理的に輸送して行ってもよい。また、本発明は、煤塵降下速度を高い分解能で正確に測定できることに特徴があるが、微小粒子を同時に測定すべき特段の必要性がない場合には、微小粒子計測部を省略して単なる気流路2とし、設備費を低減させてもよい。
【0058】
(乾性沈着物採取口)
降下煤塵捕集量は、仮想吸着面面積に比例し、仮想吸着面面積は乾性沈着物採取口1入口断面積以上にはなりえないので、煤塵粒子捕集量を増大させて粒子質量測定のSN比を向上させる観点から、乾性沈着物採取口1の面積は、大きいことが有利である。少なくとも、公的な長期降下煤塵捕集器であり、かつ、本質的にデポジットゲージと同一原理の測定器である米国式ダストジャーの直径10mm以上であることが望ましく、より望ましくは、長期間の降下煤塵捕集を前提とした、デポジットゲージでの乾性沈着物採取口1直径300mm(英国規格)以上とすることができる。また、降下乾性沈着物採取口1が極端に大きい場合、乾性沈着物採取口1への煤塵付着の悪影響の回避が困難になるので、乾性沈着物採取口1直径は、直径1000mm以下にできる。但し、前述の様に、単に乾性沈着物採取口1入口面積を拡大しただけでは煤塵捕集量を増大させることはできず、循環(吸引)流量の増大による仮想吸着面の上昇と組み合わせて適用されるべきである。
【0059】
乾性沈着物採取口1のろうと形状は、上方に向けて広がる円錐台形状(簡単のため、単に円錐状と呼ぶ)が望ましいが、加工上の簡便さ等を優先して多角形錐状としてもよい。また、整流のために、乾性沈着物採取口1入口直下部分のみ円筒状とし、それより下部を円錐状としてもよい。
【0060】
ところで、捕集した煤塵が乾性沈着物採取口1近傍に付着することは、デポジットゲージの場合にはあまり問題ではない。これは、デポジットゲージは、一般に1ヶ月程度の長時間の測定を前提としており、測定中の降雨による洗浄捕集効果が期待できるからである。このため、デポジットゲージでの乾性沈着物採取口1は、ろうと状の形状ではあるものの、ろうとを円錐とみなした場合の頂角は鈍角である。しかし、1時間周期程度の短時間測定を前提とする第1発明においては、乾性沈着物採取口1近傍での煤塵付着は、測定の時間遅れの原因となるため、好ましくない。このため、第1発明においては、乾性沈着物採取口1近傍での煤塵付着を抑制する手段として、乾性沈着物採取口1をろうと状とし、このろうとを円錐とみなした場合の頂角を鋭角、より望ましくは、30°以下とすることができる。また、極端に鋭角なろうとの場合、ろうと長が長大となって乾性沈着物採取口1内面積が大幅に拡大してかえって粒子付着を助長するので、頂角は5°以上であることが望ましい。乾性沈着物採取口1内面の材質に関しては、煤塵の付着性を低下させるため、ステンレス鋼製、クロムめっきや亜鉛めっき等のめっき鋼製、アルミニウム製、アルミニウム合金製、マグネシム合金製、チタン合金製、または、表面のフッ素樹脂コーティングを採用することができる。
【0061】
乾性沈着物採取口1の入口には整流器を設けることができる。整流器は、外気の乾性沈着物採取口1内部への吹き込み風を減風でき、かつ、降下煤塵の捕集を妨げないものであればどのような形式であってもよい。例えば、開口率20〜80%程度の網を、乾性沈着物採取口1の入口に平行に、前記採取口の軸方向に前記採取口口径の50%程度以上の間隔をおいて複数枚設けてもよい。整流器を設けることにより、前記外気流支配領域が減少するので、粒子捕集効率を向上させることができる。このような効果は、前記の開口率範囲、かつ、前記の網間隔の範囲でなければ発揮されないことを本発明者は発見した。
【0062】
また、乾性沈着物採取口1の入口周囲には50mm程度以上の幅を有したつば状の導流板を設置してもよい。導流板を設置することにより、前記採取口風上側前縁部での外気流の剥離が抑制されるので、粒子捕集効率を向上させることができる。このような効果は、前記の幅以上の導流板でなければ発揮されないことを本発明者は発見した。
【0063】
さらに、乾性沈着物採取口1を加熱して前記採取口内面を外気よりも10℃以上高温に維持してもよい。この様にすることで、大気中に含まれる潮解性の粒子、例えば、海塩粒子の前記採取口内面への付着を防ぐことができ、粒子の捕集効率を向上させることができる。
【0064】
(湿性沈着物採取口)
湿性沈着物採取口30の形状は、乾性沈着物と同様に、上方に向けた開口を備えたろうと状とすることができる。また、乾性沈着物採取口とは異なり、常に、採取口に雨水が流れ込んで採取口側壁を洗浄するので、ろうと状以外の形状、例えば、円筒状の形状とすることもできる。湿性沈着物採取口30内面の材質に関しては、酸性雨に侵されず、かつ、吸湿性の少ない材料でなければならない。ステンレス鋼製、クロムめっきや亜鉛めっき等のめっき鋼製、アルミニウム製、アルミニウム合金製、マグネシム合金製、チタン合金製、ソーダガラス、または、表面のフッ素樹脂コーティングを採用することができる。
【0065】
(湿性沈着物捕集器)
湿性沈着物の捕集器の形状は、湿性沈着物採取口30から流入した雨水を一定時間以上保持することができればどのようなものであってもよい。例えば、ビーカー状、試験管状、または、フラスコ状の形状とすることができる。捕集した雨水をオフラインで分析する場合には、一般に、捕集した雨水を捕集後に長時間保存しておく必要がある。このために、捕集器の入口を小さな断面積として、雨水の蒸発を抑制することができる。また、同様の目的で、装置内に市販の冷房器を設けて捕集器を常時冷却して雨水の蒸発を抑制することができる。一方、捕集した雨水の分析を装置内で捕集直後に実施する場合には、捕集した雨水を長時間捕集器内に保持する必要は必ずしもない。この場合、捕集器は、分析に必要な分量の雨水を一時的に保持すればよく、分析の終了した雨水を直ちに系外排出するころができる、このような捕集器として、捕集器の底に小径の孔を設けて捕集器内には一定量以上の雨水が貯留されないようにすることができる。このような捕集器は小型でよいので、装置全体も小型化できる利点がある。捕集器内面の材質は、前記湿性沈着物採取口30内面に用いることのできる材料と同様のものを用いることができる。
【0066】
(分級境界)
図9の分級器8における分級境界について述べる。大気中で自由落下しうる大きさの粒子は、比重1の粒子に換算して直径4μm〜7μm以上である。従って、この範囲に分級境界を設定することが降下煤塵を選択的に捕集する上で望ましい。また、分級された残りの微小粒子は、健康影響が大きいといわれる、SPMとPM2.5の中間的な大きさ定義の粒子である。従って、この分級された微小粒子は、これら健康影響に関する指標と密接な関係が存在することが期待され、大気質評価の重要な指標になりうるので、微小粒子を捕集して質量測定することには大きな意義がある。尚、既存の装置、例えば連続式SPM計や連続式PM2.5計との共用性を重視して、粗大粒子が直径10μm以上、または、PM2.5の上限直径以上(法的規準は存在しないが、概ね、直径3μmに相当する場合が多い)となるように分級境界を設定することも原理的には可能である。但し、この場合には捕集された粗大粒子が降下煤塵の直径範囲(4μm〜7μm以上)とは一致しなくなるので、測定精度をかなり犠牲にしなければならず、用途が限られる。
【0067】
(分級器)
乾性沈着物捕集器の分級器8には、一般的な湿式・乾式いずれの捕集器も適用することができる。但し、処理能力が高く、装置が小型化でき、メンテナンス性にも優れる、慣性式分級器8、または、遠心式分級器8を用いることが望ましい。慣性式分級器8としては、ルーバー分級器8やカスケード型を含むインパクタ分級器8を用いることができる。第1発明の用途として、より望ましくは、分級後の粒子をそれぞれ異なる気流路2にそのまま分離できるため装置構造を簡略化できる、バーチャルインパクタ型分級器8、または、サイクロン式分級器8を用いることができる。
【0068】
(除塵フィルタ)
除塵フィルタ10は測定に用いられるわけではないので、余裕をもった大きな容量のものを用いることができ、定期的に除塵フィルタ10の交換さえ行えば、目詰まり等による作業の停止を招くことはない。フィルタ材質としては、一般的なグラスファイバ製のものや、市販のセラミックフィルタ等を用いることができる。また、フィルタを直列多段に結合して、除塵能力の向上を図ってもよい。
【0069】
(ブロワまたは圧縮機、流量制御装置)
これらの装置は、従来技術のものをそのまま流用することができる。尚、流量制御装置9とは、例えば、体積型流量計等の流量測定装置(または、流量を算出可能な流速測定装置や圧力測定装置)、バタフライ弁等の流量調整弁とそのアクチュエータ、並びに、制御演算装置等から構成され、気流路2内の気流が、常時、所定の流量となるように流量調整弁の開度を調整するものを使用することができる。
【0070】
(循環気流路)
煤塵の付着を抑制することが望ましいので、内面をステンレス鋼製、クロムめっきや亜鉛めっき等のめっき鋼製、アルミニウム製、アルミニウム合金製、マグネシム合金製、チタン合金製、または、フッ素樹脂コーティングした管を使用することができる。
【0071】
[第2発明]
(装置構成)
一実施形態である図10を用いて第2発明を説明する。第2発明は、図9の乾性沈着物捕集器の具体的形態として、粗大粒子用粗大粒子用分岐気流路12に、粗大粒子用の乾性沈着物捕集部45として捕集フィルタ5を用いる粗大粒子用β線吸収式質量計測器20を、また、微小粒子用分岐気流路13に、微小粒子用の乾性沈着物捕集部45として捕集フィルタ5を用いる微小粒子用β線吸収式質量計測器21を設けたものである。粗大粒子を含む気流は、粗大粒子用β線吸収式質量計測器20に流入する。煤塵粒子はこの測定器内の捕集フィルタ5上に捕集され、大気は捕集フィルタ5を通過してこの測定器から流出する。捕集フィルタ5に捕集された全煤塵粒子は、粒子捕集中に粗大粒子用β線吸収式質量計測器20によって連続的に質量測定がなされる。この粒子質量測定値を、試料捕集時間、並びに、数値流体解析や実測によって求めた乾性沈着物採取口1内速度分布を用いて推定した仮想吸着面積で除することにより、降下煤塵の煤塵降下速度を算出できる。捕集フィルタ5は巻取りテープ式になっており、乾性沈着物捕集器交換装置14によって一定時間ごとにテープを巻き取ることによって、新しいフィルタ部位と自動的に交換される。同様の構造と手順により、微小粒子用分岐気流路12気流中の微小粒子は、微小粒子用β線吸収式質量計測器21に進入して、その質量推移が連続的に計測される。微小粒子の場合、降下煤塵速度は定義が困難なので、連続式SPM計等と同様に、捕集された煤塵量を乾性沈着物採取口1下端で吸引した大気流量で除して大気中の粒子濃度に換算する。流量制御装置9の下流で、微小粒子用分岐気流路12と粗大粒子用分岐気流路12は合流して主循環器流路11に接続する。
【0072】
(β線吸収式質量測定器)
β線式質量計測機は、市販のものを使用することができ、±10μg程度の精度で微量物の質量を計測することができる。
【0073】
(捕集フィルタ)
β線吸収式及び同種の原理による質量測定器の場合、テープ状の捕集フィルタ5を用いる。捕集フィルタ5の交換には、テープ状の連続式捕集フィルタ5のロールを送り出して新たな捕集フィルタ5をこの測定器内に送り込むと同時に、測定済みの捕集フィルタ5を、駆動装置によって連続的にロール状に巻き取って回収する捕集フィルタ5交換装置14を用いることができる。捕集フィルタ5は、粗大粒子計測部と微小粒子計測部でそれぞれ別のテープ状補集フィルタを用いてもよいし、テープ状捕集フィルタ5及び捕集フィルタ5交換装置を共用して、粗大粒子と微小粒子の捕集及び質量測定を同一テープ状捕集フィルタ5上の異なる部位において同時に行ってもよい。捕集フィルタ5の材質は、煤塵の検出精度に与える影響を抑制するため、軽量で質量変化の少ないものが望ましい。この観点から、薄膜化が可能で、吸湿性の少ない、フッ素樹脂性の多孔テープを捕集フィルタ5に用いることができる。また、安価なテープとして、グラスファイバ製のテープ状捕集フィルタ5を用いることもできる。
【0074】
(演算および記録装置)
第1発明と同様の機能に加えて、演算および記録装置は、β線吸収式質量計測器と接続して、この計器から出力される測定値を時系列的に記録・保存する機能を備える。
【0075】
[第3発明]
(装置構成)
一実施形態である図11を用いて第3発明を説明する。第3発明は、図9の粗大粒子用の乾性沈着物捕集部45および微小粒子用の乾性沈着物捕集部46として、それぞれ微小な捕集フィルタ5を用い、かつ、これらの捕集フィルタで捕集された粒子の質量をそれぞれ、粗大粒子用振動素子式マイクロ天秤型質量計測器51及び微小粒子用振動素子式マイクロ天秤型質量計測器52で連続的に計測して計測値を時系列的に記録する装置である。振動素子式マイクロ天秤型質量計測器の原理は、前記捕集フィルタ5に連続的に振動を与え、その応答周波数の変化を検出することにより、捕集フィルタ5に捕集された粒子の質量を連続的に計測するものである。振動素子式マイクロ天秤型質量計測器は、±数μgの質量計測を行うことのできる市販のものを用いることができる。粗大粒子用分岐気流路12の流路中に粗大粒子用振動素子式マイクロ天秤型質量計測器51を、微小粒子用分岐気流路13の流路に微小粒子用振動素子式マイクロ天秤型質量計測器52をそれぞれ設ける。
【0076】
捕集された乾性降下物の質量変化のみを得ることが目的である場合には、フィルタを頻繁に交換する必要はなく、フィルタの物理的容量限界まで粒子を捕集し続けることができる。フィルタの物理的容量限界まで粒子を捕集したときには、市販の逆流洗浄装置等の自動クリーニング装置を装置内に別に設けておき、フィルタが物理的要領限界まで粒子を捕集したことをその質量計測値から演算装置34によって認識する都度、このフィルタを洗浄する構造にしておけば、フィルタを交換することなく、長期間に渡って質量計測を継続できる。また、捕集された乾性降下物の成分や粒径の時系列変化をも問題とする場合には、フィルタを自動着脱可能な構造とし、定期的にフィルタ交換装置によってフィルタを交換することによって、一定期間ごとの乾性沈着物の試料を個別に捕集、保存することができる。この個別に保存された試料をそれぞれ分析することによって、成分や粒径の時系列変化を知ることができる。フィルタの自動着脱機構は、一般的な市販の産業用自動着脱装置、例えば、ロボットアームを用いた装置を用いることができる。
【0077】
(演算および記録装置)
第1発明と同様の機能に加えて、演算および記録装置は、振動素子式マイクロ天秤型質量計測器と接続して、この計器から出力される測定値を時系列的に記録・保存する機能を備える。
【0078】
[第4発明]
一実施形態である図12を用いて第4発明を説明する。図12は、図10の装置において、湿性沈着物捕集容器交換装置36を設けて湿性沈着物捕集容器35を交換可能な構造とし、かつ、交換する時刻を演算するともに交換時刻を記録する機能を演算および記録装置34に追加したものである。
【0079】
(積算雨量を検出する手段)
湿性沈着物捕集容器35の底に歪ゲージ型等の質量計測器50を設け、この質量測定器で湿性沈着物捕集容器35を支えつつ、湿性沈着物捕集容器35中の雨水の質量を湿性沈着物捕集容器35ごと、連続的、または、間欠的に計測し、この測定値から、湿性沈着物捕集容器35交換直後に測定した湿性沈着物捕集容器35単体の質量値を減じて、雨水質量を算出する。計測された雨水質量値を演算および記録装置に記録する。演算および記録装置34に予め設定しておいた湿性沈着物捕集容器35交換雨量値と比較し、この交換雨量値に雨水質量計測値が達したときに、演算および記録装置34は、湿性沈着物捕集容器交換装置36に対して、湿性沈着物捕集容器35を交換させる指示を与える。少量の雨が長時間に渡って断続的に降り、かつ、湿性沈着物捕集容器35上方で湿性沈着物採取口30に煤塵採取口蓋31が蓋をした状態において湿性沈着物捕集容器35内の雨水面が計測装置内部に対して開放されている場合、一旦捕集された雨水が蒸発により減少する場合がある。この影響を補正するため、積算雨量を算出する際に、測定時点での雨水質量値を直接使用するのではなく、前測定時刻での雨水質量計測値からの増加分のみを累積して積算雨量とみなし、雨水蒸発によって前測定時刻よりも雨水質量測定値が減少していた場合には、その雨量減少分を積算雨水から差し引かないという演算処理を採用することができる。
【0080】
この他、雨水捕集容器内の瞬時の雨量を測定する方法として、超音波式等の水位計を湿性沈着物捕集容器35の内面に向けて照射するように設置し、測定された水位を雨量に換算してもよい。
【0081】
(湿性沈着物捕集容器)
湿性沈着物捕集容器35の構造や材質等は、第1発明の説明で述べたものと同様のものを用いることができる。但し、湿性沈着物捕集容器35は湿性沈着物採取口30とは共用できず、湿性沈着物採取口30と着脱可能な構造でなければならない。例えば、湿性沈着物採取口30の下端をろうと状の形状とし、このろうとの下方にビーカー状のガラス製湿性沈着物捕集容器35を配置することができる。また、捕集物への汚染を防止するため、湿性沈着物採取口30に湿性沈着物捕集容器35が装着されていないときには、湿性沈着物捕集容器35には蓋をできる構造であることが望ましい。
【0082】
(湿性沈着物交換装置)
湿性沈着物の交換装置は、市販のフラクションコレクタ等を用いることができる。演算および記録装置34から、湿性沈着物捕集容器35交換の支持を受けた場合に、湿性沈着物捕集容器交換装置36は、湿性沈着物捕集容器35を湿性沈着物採取口30の下方から移動させて保存し、未使用の湿性沈着物捕集容器35を湿性沈着物採取口30の下方に移動させる。湿性沈着物捕集容器交換装置36は、必要に応じて湿性沈着物を捕集し終わった湿性沈着粒捕集容器に煤塵採取口蓋31を取り付ける機構としてもよい。
【0083】
(演算および記録装置)
第1〜3発明の演算および記録装置の機能に加えて、前述の湿性沈着物捕集関係の計測制御機能を設ける。この湿性沈着物捕集関係の計測制御機能のみを独立の演算および記録装置として備えてもよい。このような独立の演算および記録装置を雨水演算装置とよぶことにする。
【0084】
(無動力湿性沈着物捕集容器交換装置)
本発明では、図13に示すように、湿性沈着物採取口30の下方に従来技術の無動力湿性沈着物捕集容器交換装置40を配置してもよい。この装置では、煤塵採取口蓋31開閉機構を利用して、降雨時のみに湿性沈着物を湿性沈着物捕集容器35に捕集し、一定雨量が湿性沈着物捕集容器35に貯留されると、その重みで湿性沈着物捕集容器交換装置36が自動的に回転して次の空の湿性沈着物捕集容器35が湿性沈着物採取口30直下に移動する。
【0085】
このとき、無動力湿性沈着物捕集容器交換装置36の容器交換用の回転軸に軸の回転を検知するセンサと計時機能を備えた演算および記録装置34を設け、一定量の降雨が湿性沈着物捕集容器35に貯留されるごとに生じる前記容器交換用の回転軸の変化を前記回転を検知する角度計53により検知し、この回転の生じた時刻を演算および記録装置34に時系列的に保存することにより、所定時刻からの積算雨量に換算することができる。
【0086】
[第5発明]
一実施形態である図14を用いて第5発明を説明する。図14は、図10の湿性沈着物採取口30と湿性沈着物捕集容器35の間にpH計測器37を設けて連続的、または、間欠的雨水のpHを計測し、さらに、測定したpH値を記録する演算および記録装置34を設けたものである。ろうと状の湿性沈着物採取口30内に落下した雨水は、ろうとの下端に集められて流下し、pH計測器37の検出部に接触下してpH値が計測された後、湿性沈着物捕集容器35に捕集される。pH計測器37は、市販のガラス電極式のものを用いることができる。
【0087】
本発明では雨水の捕集と同時にpHを測定するので、保存された捕集雨水を事後的に分析してそのpHを求める作業を省略することができる。さらに、湿性沈着物の特性として、雨水のpH値のみを問題とする場合には、雨水を捕集して保存する必要は必ずしもなく、湿性沈着物捕集容器35は、一時的に雨水を貯留できさえすればよいので、図14に示すように、湿性沈着物捕集容器35の底に排水口等を設けるなどして、湿性沈着物採取口30から流下して湿性沈着物捕集容器35に一時的に貯留された雨水をpH計測器37によってpH計測を行いつつ、湿性沈着物捕集容器35の後段に排水管54を設けて雨水をそのまま装置外に排水してもよい。
【0088】
(演算および記録装置)
第1〜3発明の演算および記録装置の機能に加えて、演算および記録装置は、降雨の開始、流量時刻と降雨中のpH計測器によるpH計測値を時系列的に記録する機能を備える。pH値を時系列的に記録する際機能のみを独立した装置で分担する場合には、計時機能を備えた市販のデータレコーダやペンチャート等の計算機を用いない装置をこの分担部分の演算および記録装置として用いることができる。
【0089】
[第6発明]
一実施形態である図16を用いて第6発明を説明する。図16は、図12の装置に、図12中の分級器8の前段にバイパス用分級器8’を設け、の微小粒子側出口にバイパス気流路33を接続し、バイパス気流路8’の下流端を主循環気流路11に接続したものである。また、バイパス気流路33の途中には流量制御装置9が設けられている。バイパス用分級器8’は、図12中の分級器と同一の分級特性を備えた慣性式、または、遠心式のものを用いることができる。この分級特性は、バイパス用分級器8’の構造および流量制御装置9によって実現される、各分岐流路の流量比によって定まる。一般的には、バイパス用分級器の微小粒子側出口を流出する気流量を、流入量の80%以上に設定することが粗大粒子を濃縮する観点から有利であり、また、バーチャルインパクタ等の分級装置として実現可能である。
【0090】
微小粒子の乾性沈着を問題にしないのであれば、図12の装置から微小粒子用の捕集部を除去した装置であってもよい。この場合、図12における微小粒子用分岐流路13がバイパス気流路33として機能する。
【0091】
さらに、より大量の粗大粒子捕集を行うために、循環気流路を増大させる場合には、1台のバイパス分級器の粗大粒子側許容流量では不足する場合がある。この場合には、図16のバイパス用分級器8’の前段に複数のバイパス用分級器を直列に接続し、前段側の粗大粒子側の出口をその直後のバイパス用分級器の流入口に接続することを繰り返せばよい。各バイパス用分級器の微小粒子用の出口は、それぞれ独立したバイパス気流路および流量制御装置に接続するとともに、これら全てのバイパス気流路は、粒子捕集部の後段で合流して循環気流路に接続するようにする。このような接続の結果、粗大粒子捕集部には常に分級器の粗大粒子側出口を通過した気流が流入し、この気流中には粒子採取口下端で吸引された大半の粗大粒子が濃縮しており、これら全ての粗大粒子が粗大粒子捕集部に捕集される。一方、最下流側の分級器の微小粒子側出口の下流に微小粒子捕集部を設けた場合には、微小粒子捕集部には、外気と同一濃度の微小粒子濃度の気流が流入し、微小粒子捕集部を通過する気流量に比例した量の微小粒子がここで捕集される。これは、微小粒子は大気流れにほぼ完全に追従するので、微小粒子を含む気流が慣性式、または、遠心式分級器を通過しても、両出口での気流中微小粒子濃度が変化しないからである。
【実施例】
【0092】
(実施例1)
図9に示す構造の降下煤塵計測装置を屋外で運用して降下煤塵の連続測定を行った。乾性沈着物採取口1は、入口直径200mmの円錐ろうと状のステンレス鋼構造であり、ろうとを円錐とみなした場合の頂角を25°とした。循環気流の乾性沈着物採取口1への吐出方法は、乾性沈着物採取口1入口直下に、全周均一に、乾性沈着物採取口1内面に沿って下向きに吐出した。気流路2の内面を、全てステンレス鋼製とした。分級器8にはバーチャルインパクタを用い、循環気流量が1Nm/時間となるように制御して、比重1相当の粒子について直径6μm以下の微小粒子を含む気流とそれ以外の粗大粒子を含む気流に分級し、それぞれ独立に質量測定を行った。ここでの分級の定義は、比重1相当の粒子について直径6μmの粒子が粗大粒子用分岐気流管に90%、微小粒子用分岐気流管に10%の割合で分離することである。粗大粒子を捕集する捕集フィルタ5は、多孔質で幅20mmの白色フッ素樹脂テープとし、このうち、直径10mmの範囲のみで粒子を捕集するように、上下に分割された気流路2端が質量測定中にはフッ素樹脂テープを挟み込むように流路を設定した。捕集フィルタ送り装置14として、ロールの送り出し・巻き取り機構を採用し、1時間ごとに間欠的に粒子捕集済み捕集フィルタ5を送り出した。除塵フィルタ10は、1μm用の汎用繊維状フィルタの下流に0.3μm用のセラミックフィルタを設置して、排気の清浄化を図った。また、市販の感雨器29を用いて降雨を検知し、雨天時には煤塵採取口蓋31が乾性沈着物採取口1入口を覆って雨水が計測器内に侵入しないようにした。
【0093】
また、入口直径200mmの上方に開口を備えたステンレス製のろうと状の湿性沈着物採取口30の下端に直径10mmの開口を設け、ここに導水管38を接続して、容量20Lのガラス瓶である湿性沈着物捕集容器35に雨水とともに沈着する湿性沈着粒子を捕集した。湿性沈着物採取口30の上方には、雨天時のみ開放される煤塵採取口蓋31が設けられており、湿性沈着物採取口30に乾性沈着物が流入することを防止した。
【0094】
本装置を乾性の降下煤塵が平均5t/kmM以上ある工業地域に設置してこれを運転し、6ヶ月間の連続自動測定を実施した。乾性沈着物について、1ヶ月ごとに使用済みの捕集フィルタ5を回収して、オフラインで事後的に各時刻での粗大粒子捕集フィルタ上の捕集粒子の質量をそれぞれ計測した。前記質量の計測方法として、測定対象の捕集フィルタ5を手動でもみほぐした後、採取した煤塵を金属ヘラにより薬包紙上にこそぎ落として書き落とされた煤塵を精密電子天秤により秤量を行い、これを全乾性沈着物質量とみなした。次に、回収した乾性沈着物にpH5.7の炭酸水溶液に投入して溶解沈着物を水溶させた後、水溶液をろ過した。ろ液の一部を取り分け、pHおよびイオン量を市販のpH計測器及びイオンクロマトグラフィー装置で計測した。その結果、平均値は、pH=5.2、SO2−量1.5meq/m月相当、NO量0.6meq/m月相当であり、試料ごとの(即ち、時系列的な)標準偏差は、pH=1.6、SO2−量5.5meq/m月相当、NO量2.1meq/m月相当であった。これらの値は、乾性沈着物の酸性雨影響を非定常に示したものである。さらに、残りのろ液を加熱蒸発させた後の残留物、即ち、乾性溶解沈着物の質量を秤量して求めた。前記の全乾性沈着物質量から、乾性溶解沈着物の質量を減じて、乾性不溶解沈着物の質量を求めた。湿性沈着物について、1ヶ月ごとに湿性沈着物捕集器を回収して以下の処理を行い、分析を行った。即ち、まず、回収した湿性沈着物捕集容器35中の、粒子を含んだ水溶液に、捕集期間中の捕集雨水蒸発を補正するためにpH5.7の炭酸水を適量加えて水量調整した。補正水量は、別途、記録しておいた捕集期間中の降水量の合計値から推定した。次に、前記粒子を含んだ水溶液を孔径1μm以下のメンブランフィルタでろ過し、湿性溶解沈着物と湿性不溶解沈着物に分離する。ろ液の一部を取り分け、pHおよびイオン量を市販のpH計測器及びイオンクロマトグラフィー装置で計測した。その結果、月別平均値は、pH=4.6、SO2−量4.8meq/m月相当、NO量1.7meq/m月相当であった。これが、湿性沈着物の酸性雨影響を示すものである。さらに、残りのろ液を加熱乾燥させて、残留物を秤量し、湿性溶解沈着物質量を計測した。また、ろ過残粒子については、これを乾燥させた後、秤量して湿性不溶解沈着物の質量を求めた。
【0095】
さらに、代表的な捕集粒子サンプルを、ロールに巻き取る前に捕集フィルタ5ごと切り出して、オフラインでその粒径分析を一般的な画像処理粒子計測手法に基いて実施した。その結果、粗大粒子サンプルとして、5μmから400μmの粒子が捕集され、粒径に関する累積質量分布の50%値は、粒径約30μmに対応した。また、前記秤量結果と粒径分布計測結果から算出される捕集粒子の総体積を用いて求めた粒子の平均比重は、約1.8であった。
【0096】
本装置による粗大粒子の捕集質量の1ヶ月ごと積算値を乾性沈着物採取口1入口面積で除して算出した月間煤塵降下速度を、同一地点でのデポジットゲージによる月間煤塵降下速度と比較した。その結果、本装置の捕集量平均は、デポジットゲージの約80%であり、[デポジットゲージによる月間煤塵降下速度]/[本装置による月間煤塵降下速度]の変動の標準偏差は、0.15であった。また、全期間を通じた乾性不溶解沈着物、乾性溶解沈着物、湿性不溶解沈着物、並びに、湿性溶解沈着物の捕集質量の比は、60:20:5:17であり、これら捕集沈着物の総質量を採取口の断面積と捕集期間で除して求めた降下煤塵速度の、デポジットゲージで得られたものに対する比は、総溶解沈着物(即ち、湿性溶解沈着物と乾性溶解沈着物)について1.11、総不溶解沈着物(即ち、湿性不溶解沈着物と乾性不溶解沈着物)について1.02、総沈着物(即ち、総溶解沈着物と総不溶解沈着物)について1.05倍であり、良好な一致が得られた。従って、本装置による粗大粒子計測値とデポジットゲージ計測値の間で比較的強い相関を得ることができた。
【0097】
また、本装置での乾性微小粒子捕集質量の1ヶ月ごと積算値を吸引総流量で除して得た月間大気中微小粒子濃度を、同一地点に設置した連続式PM2.5計の月間大気中PM2.5濃度と比較した。その結果、本装置の大気中濃度平均は、連続式PM2.5計によるものの約140%であり、[連続式PM2.5計による月間大気中PM2.5濃度]/[本装置による月間大気中微小粒子濃度]の変動の標準偏差は、0.2であった。従って、本装置による微小粒子計測値と連続式PM2.5計測値の間では、強い相関を得ることができた。
【0098】
さらに、本装置による10分ごとの乾性降下煤塵速度の6時間分を、同一地点、同一時刻に市販の粘着テープ式降下煤塵捕集器を10分ごとに交換して測定したものと比較した。その結果、[粘着テープによる10分間塵降下速度]/[本装置による10分間煤塵降下速度]の変動の標準偏差は、約0.3であり、連続式煤塵計において、初めて実用的な短時間周期(10分間平均)での計測が実現できた。
【0099】
(実施例2)
図10に示す、捕集した乾性沈着物の質量をオンラインで時系列的に計測する粗大粒子用β線吸収式質量計測器20および微小粒子用β線吸収式質量計測器21を用いること以外の条件を全て実施例1と同様にして試験を行った。尚、追加の比較計器として、孔径0.8μmの捕集フィルタ、孔径0.48μm、並びに、2種類の湿式捕集フィルタから構成されるフィルターパック法による乾性沈着粒子捕集の捕集装置を用いた。前記粗大粒子用β線吸収式質量計測器20および前記微小粒子用β線吸収式質量計測器21は、自動的に、常時質量の時間変化量を計測し、これを10分ごとに積算して乾性沈着物の降下速度の10分値データに換算し、このデータを演算及び記録装置34に時系列的に記録した。
【0100】
本装置を用いて6ヶ月間の連続自動測定を実施した。代表的な粗大粒子捕集フィルタ上の粒子サンプルを、ロールに巻き取る前に捕集フィルタ5ごと切り出して、オフラインでその粒径分析を一般的な画像処理粒子計測手法に基いて実施した。その結果、粗大粒子サンプルとして、5μmから400μmの粒子が捕集され、粒径に関する累積質量分布の50%値は、粒径約30μmに対応した。
【0101】
本装置による粗大粒子の捕集質量の1ヶ月ごと積算値を乾性沈着物採取口1入口面積で除して算出した月間煤塵降下速度を、同一地点でのデポジットゲージによる月間煤塵降下速度と比較した。その結果、本装置の捕集量平均は、デポジットゲージの約80%であり、[デポジットゲージによる月間煤塵降下速度]/[本装置による月間煤塵降下速度]の変動の標準偏差は、0.15であった。また、全期間を通じた乾性不溶解沈着物、溶解乾性沈着物、湿性不溶解沈着物、並びに、湿性溶解沈着物の捕集質量の比は、60:20:5:17であり、これら捕集沈着物の総質量を採取口の断面積と捕集期間で除して求めた降下煤塵速度は、デポジットゲージで得られたものの1.05倍であり、良好な一致が得られた。従って、本装置による粗大粒子計測値とデポジットゲージ計測値の間で比較的強い相関を得ることができた。
【0102】
本実施例においては捕集フィルタから粒子を離脱させなくてもその質量を計測することができるので、本装置での微小粒子捕集質量の1ヶ月ごと積算値を吸引総流量で除して得た月間大気中微小粒子濃度を、同一地点に設置した連続式PM2.5計の月間大気中PM2.5濃度と比較した。その結果、本装置の大気中濃度平均は、連続式PM2.5計によるものの約140%であり、[連続式PM2.5計による月間大気中PM2.5濃度]/[本装置による月間大気中微小粒子濃度]の変動の標準偏差は、0.2であった。従って、本装置による微小粒子計測値と連続式PM2.5計測値の間では、強い相関を得ることができた。
【0103】
さらに、本装置による10分ごとの降下煤塵速度の6時間分を、同一地点、同一時刻に市販の粘着テープ式降下煤塵捕集器を10分ごとに交換して測定したものと比較した。その結果、[粘着テープによる10分間塵降下速度]/[本装置による10分間煤塵降下速度]の変動の標準偏差は、約0.3であり、連続式煤塵計において、初めて実用的な短時間周期(10分間平均)での計測が実現できた。
【0104】
一方、実施例1と本質的に同様の方法による酸性雨指標の分析結果は、粗大粒子に関して本質的に実施例1と同様の結果を得た。微小粒子に関しても、捕集フィルタを直接、pH5.7の炭酸水溶液に浸すことによって、酸性雨の原因物質を水溶させ、これらの物質の量を測定した。その結果得られたSO2−量(単位は、meq/m月)およびNO量(単位は、meq/m月)のフィルターパック法によって得られたSO2−量およびNO量に対する比は、平均値でそれぞれ0.96及び0.88であり、月平均値のばらつきでそれぞえれ0.21および0.37であり、本装置における微小粒子の酸性雨影響物質捕集量は、フィルターパック法と良好な相関を示すことがわかった。しかし、本実施例の結果から、乾性の降下煤塵が5t/kmM以上あるような工業地域においては、粗大粒子として捕集される乾性沈着物中の酸性雨影響物質は、微小粒子として捕集される乾性沈着物中の酸性雨影響物質に比べてむしろ多いことがわかり、原理的に微小粒子主体でしか粒子を捕集できないフィルターパック法では問題のあることがわかった。
【0105】
(比較例1)
図5に示す、従来型連続式煤塵計を用いて、実施例1と同一地点、同一時期に同様の方法で捕集煤塵質量測定を行った。その結果、捕集量平均は、デポジットゲージの約130%であり、[デポジットゲージによる月間煤塵降下速度]/[本装置による月間煤塵降下速度]の変動の標準偏差は、0.35であった。従って、本装置による粗大粒子計測値とデポジットゲージ計測値の間には相関は認められるものの、本発明に比べて劣る。
【0106】
(実施例3)
質量計測装置として振動素子式マイクロ天秤型質量計測器を使用する以外の条件を全て実施例2と同様にして計測を行った。その結果、本装置による粗大粒子の捕集質量の1ヶ月ごと積算値を乾性沈着物採取口1入口面積で除して算出した月間煤塵降下速度を、同一地点でのデポジットゲージによる月間煤塵降下速度と比較した。その結果、本装置の捕集量平均は、デポジットゲージの約80%であり、[デポジットゲージによる月間煤塵降下速度]/[本装置による月間煤塵降下速度]の変動の標準偏差は、0.15であった。従って、本装置による粗大粒子計測値とデポジットゲージ計測値の間で比較的強い相関を得ることができた。
【0107】
また、本装置での微小粒子捕集質量の1ヶ月ごと積算値を吸引総流量で除して得た月間大気中微小粒子濃度を、同一地点に設置した連続式PM2.5計の月間大気中PM2.5濃度と比較した。その結果、本装置の大気中濃度平均は、連続式PM2.5計によるものの約140%であり、[連続式PM2.5計による月間大気中PM2.5濃度]/[本装置による月間大気中微小粒子濃度]の変動の標準偏差は、0.2であった。また、全期間を通じた乾性不溶解沈着物、乾性溶解沈着物、湿性不溶解沈着物、並びに、湿性溶解沈着物の捕集質量の比は、60:20:5:17であり、これら捕集沈着物の総質量を採取口の断面積と捕集期間で除して求めた降下煤塵速度は、デポジットゲージで得られたものの1.05倍であり、良好な一致が得られた。従って、本装置による微小粒子計測値と連続式PM2.5計測値の間では、強い相関を得ることができた。
【0108】
さらに、本装置による10分ごとの降下煤塵速度の6時間分を、同一地点、同一時刻に市販の粘着テープ式降下煤塵捕集器を10分ごとに交換して測定したものと比較した。その結果、[粘着テープによる10分間塵降下速度]/[本装置による10分間煤塵降下速度]の変動の標準偏差は、約0.3であり、連続式煤塵計において、初めて実用的な短時間周期(10分間平均)での計測が実現できた。
【0109】
(実施例4)
湿性沈着物の捕集方法が以下である以外の条件を全て実施例2と同様にして試験を行った。即ち、図12に示す、湿性沈着物の捕集方法では、実施例1と同様の湿性沈着物採取口30と導水管を設け、導水管の下方に、湿性沈着物捕集容器交換装置36として市販のフラクションコレクタを用いて交換される湿性沈着物捕集容器35を設けてある。湿性沈着物捕集容器35には、容量100mLのガラス瓶を用い、連番を付与した合計100個の湿性沈着物捕集容器35を装置内に装填した。導水管直下の湿性沈着物捕集容器35は秤量器50の上に載り、質量測定器は、湿式容器中の捕集物の質量を湿式容器の質量を予め除外した質量測定値として、連続的に計測した。この捕集物質量測定値は、演算および記録装置34に取り込まれて、捕集物の質量の大半を占める雨水捕集質量として認識した。演算および記録装置34は、この雨水補捕集質量が一定のしきい値を超えた瞬間を降雨開始時刻と認識するとともに、降雨開始時刻を湿性沈着物補修容器の番号とともに演算および記録装置34内に記録した。次に、演算および記録装置34は、降雨開始時刻からの時間を計測した。演算および記録装置34は、降雨開始時刻から所定時間経過した、または、雨水捕集中の湿性沈着物捕集器の質量が所定値を越えた場合に、雨水捕集容器を未使用のものと交換するように、湿性沈着物捕集容器交換装置36に指令するとともに、この指令を出力した時刻を、湿性沈着物捕集容器35交換時刻として、演算および記録装置34に記録した。この指令を受けた湿性沈着物捕集容器交換装置36は、湿性沈着物捕集容器35を交換した。演算および記録装置34は、降雨開始後に、雨水捕集質量が所定時間以上増加しない場合、降雨が終了したと認識し、雨水捕集容器を未使用のものと交換するように、湿性沈着物捕集容器交換装置36に指令するとともに、この指令を出力した時刻を、降雨終了時刻として、演算および記録装置34に記録した。この指令を受けた湿性沈着物捕集容器交換装置36は、湿性沈着物捕集容器35を交換した。
【0110】
乾性沈着物の分析を実施例2と同様に行い、湿性沈着物の分析は、湿性沈着物捕集容器35ごとに、実施例1と同様の方法で実施した。その結果、乾性沈着物の分析結果は、実施例2と同様の傾向を得た。また湿性沈着物の分析結果から、湿性不溶解沈着物の平均70%以上、及び、湿性溶解沈着物の平均60%以上が降雨開始後最初の湿性沈着物捕集容器35に捕集されることがわかった。この結果、降雨中の煤塵沈着速度は一定ではないことがわかった。また、降雨時に、沈着物捕集地点上での風向別に、湿性沈着物の捕集量平均値が明確に異なる結果を得た。これは、風向ごとの風上に煤塵の発生源が存在するか否かによる差であると考えられる。即ち、この試験では、計測装置からみて、風向が南東、南、南西、西方向には工場群を含む市街地が存在し、この風向での湿性沈着物捕集量は全般的に多いに対し、計測装置からみて風向が北西、北、北東、東の方向は主に海洋であるため湿性沈着物の捕集量が少なくなる傾向を示した。本装置による乾性沈着物の捕集質量を風向別に平均化した結果も、湿性沈着物と同様の風向で高い値示すものと、湿性沈着物の平均捕集量の少ない風向で高い値を示すものに分かれた。これは、煤塵発生源が捕集地点近傍に存在する場合には、発生した煤塵は、発生点近傍に雨とともに落下するため、乾性・湿性沈着物ともに大きな値を示すのに対し、煤塵発生源が捕集地点から遠方に存在する場合には、降雨時には煤塵が発生点近傍に落下して遠方まで飛散しないため、乾性沈着物捕集量は多くても湿性沈着物捕集量が小さくなったものと解釈できる。この様に、湿性・乾性沈着物を時系列的に捕集・分析することにより、降下粉塵に関するより深い知見を得ることができた。
【0111】
さらに、酸性雨影響物質の調査を行うためにサンプルごとの湿性溶解沈着物の成分を分析した結果では、平均値は、pH=4.5、SO2−量4.5meq/m月相当、NO量1.4meq/m月相当であり、標準偏差は、pH=1.8、SO2−量6.3meq/m月相当、NO量2.9meq/m月相当であり、酸性雨影響物質の降下量は、短時間で大きく変動することがわかった。また、酸性雨影響物質が多く捕集される際の平均風向は、観測点からみて特定の工場の方向であり、酸性雨に大きな影響を与える工場も推定することができた。乾性沈着物の酸性雨影響の分析結果は、実施例2と本質的に同様であった。このように、本発明では乾性及び湿性沈着物の酸性雨影響の時系列的、かつ、定量的に計測することができた。
【0112】
(実施例5)
湿性沈着物捕集容器35及び湿性沈着物捕集容器交換装置36が無動力湿性沈着物捕集容器交換装置40である図13に示す装置であること以外を実施例2と同様して試験を行った。湿性沈着物捕集容器35は、要量10mLのガラス製のカップであり、降雨量1mm分の湿性沈着物を捕集するごとに無動力湿性沈着物捕集容器交換装置40が回転して、未使用の湿性沈着物捕集容器35と交換される。無動力湿性沈着物捕集容器交換装置40は、特許文献7に示されたものと同様のものを購入して用いた。無動力湿性沈着物捕集容器交換装置40の回転軸には角度計53が連結されており、角度計53による湿性沈着物捕集容器35交換装置の回転軸角度の変化、即ち、湿性沈着物捕集容器35の交換時刻を、回転計に接続した演算および記録装置が記録する。湿性沈着物捕集容器35の交換時刻と、煤塵採取口蓋31の開閉時刻を組み合わせて用いることによって、降雨の開始時刻及び降雨が一定量に達した時刻を時系列的に求めることができた。降雨終了後に、湿性沈着物を捕集した湿性沈着物捕集容器35を回収して分析を行い、乾性沈着物の捕集物の分析結果と併せて、実施例4と同様の知見をより安価な湿性沈着物捕集構造で実現できた。
【0113】
(実施例6)
湿性沈着物捕集容器35にpH計測器37を設け、pH計測器37の出力を演算および記録装置に時系列的に記録するとともに、湿性沈着物捕集容器35の底に排水口を設け、この排水口に排水管54を接続して湿性沈着物捕集容器35内に貯留されうる雨水を排水する図14の装置であること以外を実施例2と同様にして試験を行った。pH計測器37には市販のガラス電極式のものを用いた。降雨中は、湿性沈着物捕集容器35には少量の雨水が貯留され、そのpHをpH計測器37によって計測して結果を演算および記録装置に記録した。一定期間の試験の後、乾性沈着物回収し、これを水溶させて時系列的なpHを分析した。その結果、乾性沈着物及び湿性沈着物の酸性雨に与える影響が時系列的に求めることができた。また、湿性沈着物の分析をオンラインで行ったため、湿性沈着物を試験後に回収・分析する必要がなく、装置も簡素化できた。
【0114】
(実施例7)
図16の装置を用いて循環気流量を5Nm/時間、バイパス気流路の流量を4Nm/時間となるようにブロワと流量制御装置を設定した以外の条件を実施例4と同様にして試験を実施した。
【0115】
その結果、乾性沈着物の粗大粒子の測定結果は、対応するデポジットゲージの月間粉塵降下速度に対して平均150%の粉塵降下速度が得られ、デポジットゲージよりも十分高い粒子捕集効率がえられた。このことは、短周期での質量計測時のSN比を工場させる点で有利である。また、[デポジットゲージによる月間粉塵降下速度]/[本装置による月間粉塵降下速度]の標準偏差は、0.10であった。さらに、本装置による10分ごとの降下粉塵速度の6時間分を対応する粘着テープ式降下粉塵捕集器の測定と比較した。その結果、[粘着テープによる10分間塵降下速度]/[本装置による10分間粉塵降下速度]の変動の標準偏差は、約0.18であった。このように、捕集量の増大にともなって、測定値のバラツキも提言した。また、本装置での乾性沈着物の微小粒子の月間大気中微小粒子濃度を、対応する連続式PM2.5計の月間大気中PM2.5濃度と比較した。その結果、本装置の大気中濃度平均は、連続式PM2.5計によるものの約135%であり、[連続式PM2.5計による月間大気中PM2.5濃度]/[本装置による月間大気中微小粒子濃度]の変動の標準偏差は、0.19であった。このように、循環流量が増大したにもかかわらず、微小粒子であるPM2.5の大気中濃度は特段、影響を受けないことがわかった。
【0116】
湿性沈着物の分析結果は、実質的に実施例4と同様である。
【0117】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【図面の簡単な説明】
【0118】
【図1】従来技術のデポジットゲージの模式図である。
【図2】他の従来技術のローボリュームサンプラの模式図である。
【図3】他の従来技術の連続式SPM計の模式図である。
【図4】他の従来技術の連続式PM2.5計の模式図である。
【図5】他の従来技術の連続式降下煤塵計の模式図である。
【図6】他の従来技術の湿性沈着物の連続捕集装置の模式図である。
【図7】乾性沈着物採取口1内流れ場の模式図である。
【図8】乾性沈着物採取口1内粒子軌跡の模式図である。
【図9】第1発明における一実施形態の模式図である。
【図10】第2発明における一実施形態の模式図である。
【図11】第3発明における一実施形態の別の模式図である。
【図12】第4発明における一実施形態の模式図である。
【図13】第4発明における一実施形態の他の模式図である。
【図14】第5発明における一実施形態の模式図である。
【図15】他の従来技術の降水サンプラの模式図である。
【図16】第6発明における一実施形態の模式図である。
【符号の説明】
【0119】
1 ・・・乾性沈着物採取口
2 ・・・気流路
3 ・・・粗大粒子フィルタ
4 ・・・β線吸収式質量測定器
5 ・・・捕集フィルタ(乾性沈着物捕集器)
6 ・・・ブロワまたは圧縮機
7 ・・・捕集瓶
8 ・・・分級器
9 ・・・流量制御装置
10・・・除塵フィルタ
11・・・(主)循環気流路
12・・・粗大粒子用(分岐)気流路
13・・・微小粒子用(分岐)気流路
14・・・捕集フィルタ送り装置
18・・・乾性沈着物採取口内部流れ場境界
20・・・粗大粒子用β線吸収式質量計測器
21・・・微小粒子用β線吸収型質量計測器
22・・・超粗大粒子時の仮想吸着面
23・・・一般的な粗大粒子の仮想吸着面
26・・・筐体
27・・・沈着物採取口
29・・・感雨器(降水検出器)
30・・・湿性沈着物採取口
31・・・煤塵採取口蓋
32・・・煤塵採取口蓋開閉装置
33・・・バイパス気流路
34・・・演算および記録装置
35・・・湿性沈着物捕集容器
36・・・湿性沈着物捕集容器交換装置
37・・・pH計測器
38・・・導水管
40・・・無動力湿性沈着物捕集容器交換装置
45・・・粗大粒子用の乾性沈着物捕集部
46・・・微小粒子用の乾性沈着物捕集部
49・・・乾性沈着物捕集器交換装置
50・・・秤量器
51・・・粗大粒子用振動素子式マイクロ天秤型質量計測器
52・・・微小粒子用振動素子式マイクロ天秤型質量計測器
53・・・角度計
54・・・排水管



【特許請求の範囲】
【請求項1】
上方に向けた開口を有すると共に、下端が気流路と接続されている、ろうと状の乾性沈着物採取口と、
上方に向けた開口を有する湿性沈着物採取口と、
降雨を検出する降雨検出器と、
前記降雨検出器の検出値に応じて、前記乾性沈着物採取口と前記湿性沈着物採取口のいずれか一方を閉止する煤塵採取口蓋と、
前記降雨検出器の検出値に基づいて、降雨時には乾性沈着物採取口を閉鎖して湿性沈着物採取口を開放し、降雨時以外には湿性沈着物採取口を閉鎖して乾性沈着物採取口を開放する煤塵採取口蓋開閉機構と、
前記乾性沈着物を捕集する乾性沈着物捕集装置と、
前記湿性沈着物を捕集する湿性沈着物捕集装置と、
を備え、
前記乾性沈着物捕集装置は、
前記乾性沈着物採取口内に存在する大気中粒子を大気と共に前記乾性沈着物採取口の下端から前記気流路を通して吸引するためのブロワ又は圧縮機と、
前記乾性沈着物採取口の後段に設けられ、前記乾性沈着物採取口から吸引された前記大気中粒子を粗大粒子と微小粒子とに分ける1つまたは2つ以上の分級器と、
前記分級器の後段に設けられた、前記分級器の微小粒子側出口を一度も通過することのない粗大粒子用気流路と、
前記粗大粒子用気流路の途中に設けられた、粗大粒子用の乾性沈着物捕集器と、
前記分級器の後段に設けられた、1つまたは2つ以上の前記微小粒子側出口に接続する微小粒子用気流路と、
前記微小粒子用気流路の途中に設けられた、微小粒子用の乾性沈着物捕集器と、
前記乾性沈着物捕集器を定期的に交換する乾性沈着物捕集器交換装置と、
前記粗大粒子用気流路と前記微小粒子用気流路が合流して形成され、前記吸引された大気と同一流量の大気を前記乾性沈着物採取口内に導入するための循環気流路と、
前記乾性沈着物捕集器の後段の前記粗大粒子用気流路または前記循環気流路上に設けられた、流量制御装置と、
前記乾性沈着物捕集器の後段の前記粗大粒子用気流路または前記循環気流路上に設けられた、ブロワ又は圧縮機と、
から構成され、
前記湿性沈着物捕集装置は、
前記湿性沈着物採取口の下方に前記湿性沈着物採取口を通過した粒子を捕集する湿性沈着物捕集容器を備えた湿性沈着物捕集装置を備えることを特徴とする、大気中降下物の連続捕集装置。
【請求項2】
前記乾性沈着物捕集器がテープ状の捕集フィルタであり、
前記テープ状の捕集フィルタ上の粒子捕集場所を一定時間毎に更新する捕集フィルタ送り装置と、
前記テープ状の捕集フィルタ上に捕集された粗大な乾性沈着物と微小な乾性沈着物の質量をそれぞれ連続的に計測するβ線吸収式質量計測器と、
前記計測値を連続的に記録する演算および記録装置と、
を更に備えることを特徴とする請求項1に記載の大気中降下物の連続捕集装置。
【請求項3】
前記乾性沈着物捕集器に捕集された大気中粒子の質量を連続的に計測する振動素子式マイクロ天秤型質量計測器と、
前記計測値を連続的に記録する演算および記録装置と、
を更に備えることを特徴とする請求項1に記載の大気中降下物の連続捕集装置。
【請求項4】
所定時刻からの積算雨量を検出する手段と、
2つ以上の前記湿性沈着物捕集器と、
前記積算雨量に基づいて前記湿性沈着物捕集器を交換する湿性沈着物捕集器交換装置と、
を備えることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の大気中降下物の連続捕集装置。
【請求項5】
前記湿性沈着物捕集器に捕集された湿性沈着物のうち、捕集した雨水である大気中物質水溶液のpHを連続的に計測するpH計測器と、
前記計測値を連続的に記録する演算および記録装置と、
を備えることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の大気中降下物の連続捕集装置。
【請求項6】
前記乾性沈着物捕集用の分級器が1台、または、2台以上設けられ、
全ての前記乾性沈着物捕集器の後段、かつ、前記循環気流路中に除塵用の除塵フィルタを設け、
前記乾性沈着物用の分級器のうち少なくとも1台の微小粒子側出口から、前記除塵フィルタの前段、かつ、全ての前記乾性沈着物捕集器の後段である循環気流路の位置まで、前記微小粒子を含む吸引された大気の一部を流通させるバイパス気流路を備えることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の大気中降下物の連続捕集装置。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図16】
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【図15】
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【公開番号】特開2009−180609(P2009−180609A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−19681(P2008−19681)
【出願日】平成20年1月30日(2008.1.30)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】