説明

姿勢バランス測定装置

【課題】バランス機能向上を目的としたトレーニングのための測定データを取得することが可能な姿勢バランス測定装置を提供する。
【解決手段】姿勢バランス測定装置100は、人が直立して乗る起立台120と、起立台120を動かすことによって、起立台120に乗った人の姿勢バランスを動揺させる制御部と、起立台120に乗った人の身体重心の位置を測定するフォースプレートと、を備え、制御部は、起立台120を水平方向に移動させることによって、起立台120に乗った人に移動刺激を与える移動刺激印加手段と、起立台120を水平方向に回転させることによって、起立台120に乗った人に回転刺激を与える回転刺激印加手段と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は姿勢バランス測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
加齢に伴うバランス機能低下の抑制にはトレーニングが重要である。しかし、そのためには、トレーニングの基礎となる測定データが必要である。特許文献1には、立位姿勢の安定度を身体重心の動揺として測定する重心動揺計が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平08−215176号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の重心動揺計は、立位姿勢時の安定度(すなわち、静的バランス機能)を測定するものであり、外部からの突発的な力を加えられたときの安定度(すなわち、動的バランス機能)を測定するものではない。そのため、バランス機能向上を目的としたトレーニングのための測定データを取得する装置という観点からは十分な機能を有しているとはいえない。
【0005】
本発明は、上記事項に鑑みてなされたものであり、バランス機能向上を目的としたトレーニングのための測定データを取得することが可能な姿勢バランス測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の姿勢バランス測定装置は、
人が直立して乗る起立台と、
前記起立台を動かすことによって、前記起立台に乗った人の姿勢バランスを動揺させるバランス動揺手段と、
前記起立台に乗った人の身体重心の位置、筋電位、頭頂部位置、または/および、関節角度を測定する測定手段と、を備え、
前記バランス動揺手段は、
前記起立台を水平方向に移動させることによって、前記起立台に乗った人に移動刺激を与える移動刺激印加手段と、
前記起立台を所定の鉛直線を軸に回転させることによって、前記起立台に乗った人に回転刺激を与える回転刺激印加手段と、を有する、
ことを特徴とする。
【0007】
前記起立台の移動方向、移動距離、または/および、移動速度の情報から構成される移動情報を設定する移動情報設定手段、を備え、
前記移動刺激印加手段は、前記移動情報設定手段によって設定された前記移動情報に基づいて前記起立台を水平移動させてもよい。
【0008】
前記起立台の回転方向、回転角度、または/および、回転速度の情報から構成される回転情報を設定する回転情報設定手段、を備え、
前記回転刺激印加手段は、前記回転情報設定手段に設定された前記回転情報に基づいて前記起立台を回転させてもよい。
【0009】
前記移動刺激印加手段は移動刺激を印加する毎に前記起立台の移動方向を変更してもよい。
【0010】
前記回転刺激印加手段は回転刺激を印加する毎に前記起立台の回転方向を変更してもよい。
【0011】
前記起立台に乗った人に対して前記起立台の動作開始を通知する通知手段、を備えていてもよい。
【0012】
前記起立台に乗った人に視覚刺激を与えるための動画を表示する動画表示手段、を備えていてもよい。
【0013】
複数の方向から被験者の頭頂部を撮像する撮像手段、を備え、
前記測定手段は複数の方向から撮像された頭頂部の画像に基づいて被験者の頭頂部位置を算出してもよい。
【0014】
前記起立台に設置される複数の荷重センサーを備え
前記測定手段は荷重センサーの測定値に基づいて前記起立台に加わる荷重の作用中心点を所定時間毎に取得してもよい。
【0015】
前記バランス動揺手段によって起立台が動いてから一定時間内の前記作用中心点の軌跡長、または外周面積を算出する算出手段、を備えていてもよい。
【0016】
前記起立台に乗った人が自ら前記バランス動揺手段を動作させるための刺激印加開始手段、を備えていてもよい。
【発明の効果】
【0017】
バランス機能向上を目的としたトレーニングのための測定データを取得することが可能な姿勢バランス測定装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施形態に係る姿勢バランス測定装置の斜視図である。
【図2】本発明の実施形態に係る姿勢バランス測定装置のブロック図である。
【図3】本発明の実施形態に係る姿勢バランス測定装置の断面図である。
【図4】起立台の動作を説明するための図であり、(A)は起立台が水平移動する様子を示す図、(B)は起立台が回転する様子を説明するための図である。
【図5】フォースプレートが荷重の作用中心点(COP)を算出する様子を説明するための図である。
【図6】記憶部に格納される測定データを説明するための図である。
【図7】制御部の命令に従って起立台が動作する様子を説明するための図であり、(A)はPCから制御部に送信される操作データを説明するための図、(B)は操作データに基づいて起立台が動作する様子を説明するための図である。
【図8】人の予測的制御能力を説明するための図である。
【図9】制御部で実行される姿勢バランス測定処理のフローチャートである。
【図10】姿勢バランス変化量を説明するための図であり、(A)はCOPの軌跡長を説明するための図、(B)はCOPの外周面積を説明するための図である。
【図11】ゴニオメーターを使って被験者の関節角度を測定する様子を示す図である。
【図12】安全板を取り付けた姿勢バランス測定装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施形態に係る姿勢バランス測定装置について、図面を参照しながら説明する。
姿勢バランス測定装置100は、バランス機能向上を目的としたトレーニングのための測定データを取得する装置であり、図1に示すように、台座110と、起立台120と、安全棒130と、安全ベルト140と、ディスプレイ150と、報知器160と、通信ケーブル170と、PC(Personal Computer)180とから構成される。
【0020】
台座110は、上部中央に四角形の凹部が形成された台座であり、台座内部には、図2に示すように、制御部111と、記憶部112とが格納されている。また、台座110の側面には、図1に示すように、コネクタ部113が形成されている。
【0021】
制御部111は、プロセッサ等の処理装置から構成され、記憶部112に格納されているプログラムに従って動作し、後述の「姿勢バランス測定処理」を含む種々の動作を実行する。
【0022】
記憶部112は、RAM(Random Access Memory)等の記憶装置から構成され、プログラムや測定データ等の各種データを記憶する。
【0023】
コネクタ部113は、通信ケーブル170を接続するための、例えば、USBコネクタ等から構成される。コネクタ部113は、図2に示すように、台座内部で制御部111と接続されている。
【0024】
起立台120は、図3に示すように、姿勢バランス測定対象者(以下、「被験者」という。)が直立して乗るための場所であり、台座110上部中央の凹部に設置されている。
【0025】
起立台120は、被験者に移動刺激および回転刺激を印加するとともに、その際の被験者の姿勢バランス変化量を測定できるようになっている。ここで「移動刺激」とは、例えば、図4(A)に示すように起立台120が突発的にまたは予告後に水平方向に移動することによって被験者に印加される加速度のことであり、「回転刺激」とは、例えば、図4(B)に示すように突発的にまたは予告後に起立台120が回転することによって被験者に印加される加速度のことである。また、「姿勢バランス変化量」とは、被験者の姿勢バランスの動揺の程度を数値や記号で表したものであり、例えば、被験者の身体重心の変化の程度を数値化したものである。なお、姿勢バランス変化量については後で詳しく述べる。
【0026】
起立台120は、図3に示すように、台車部121と、フォースプレート122とから構成される。
【0027】
台車部121は、起立台120下部の台車部分である。台車部121の車輪それぞれには、例えば、電気モーターが設置されている。台車部121は制御部111からの電気通信(例えば、通信ケーブルを介した通信もしくは無線通信)を介して命令を受信できるようになっていて、制御部111からの命令に従って電気モーターを動作させて起立台120を水平移動および回転させる。
【0028】
フォースプレート122は、被験者の身体重心の揺れを測定するための装置である。フォースプレート122の内部には複数の荷重センサーが内蔵されていて、フォースプレート122はその荷重センサーの値に基づいて身体重心の移動量を測定する。より具体的には、フォースプレート122はフォースプレート122に加わった荷重の作用中心点(COP:Center Of Pressure)を身体重心として測定する。
【0029】
COPは、例えば、2次元の座標情報として出力される(以下、この座標情報を「COP座標データ」という)。例えば、図5に示すように、フォースプレート122の内部であって長方形の頂点の位置に、例えば、ミリグラム単位で荷重を測定可能な荷重センサーA、B、C、Dが設置されているとする。このとき、COP座標データ(P,P)は、フォースプレート122の中心Oを原点(0,0)として、例えば、下記(式1)(式2)により算出される。
【0030】
【数1】

【0031】
ここで、W、W、W、Wは、それぞれ荷重センサーA、B、C、Dによって測定される値である。また、LX1は中心Oから荷重センサーB、DまでのX軸方向の距離であり、LX2は中心Oから荷重センサーA、CまでのX軸方向の距離である。また、LY1は重心Oから荷重センサーA、BまでのY軸方向の距離であり、LY2は中心Oから荷重センサーC、DまでのY軸方向の距離である。
【0032】
フォースプレート122はCOP座標データを、例えば、0.01秒間間隔で測定し、無線通信機等を使って制御部111に送信する。制御部111はフォースプレート122からCOPデータを受信すると、受信時刻を付して図6に示すような測定データに変換して記憶部112に格納する。
【0033】
安全棒130は、被験者を転倒から守る補助棒であり、図1に示すように、両端が台座110に固定された逆U字状の鉄パイプ131と、被験者の腰あたりの高さに水平に位置する鉄パイプ132と、被験者の前面および上部に縦に位置する鉄パイプ133とから構成される。
【0034】
安全ベルト140は、被験者を転倒から守るためのベルトであり、図1に示すように、鉄パイプ131の上部で固定され吊下げられている。安全ベルト140は、例えば、図3に示すように、被験者の腰ベルト等に固定されて使用される。
【0035】
ディスプレイ150は、LCD(Liquid Crystal Display)等の映像再生装置から構成される。ディスプレイ150は、例えば、車が迫ってくるような映像や、景色が回転するような映像を表示して、被験者に視覚刺激を与える(以下、被験者に加えられる刺激を、移動刺激、回転刺激、視覚刺激等も含め「外乱」とよぶ)。ディスプレイ150は制御部111と信号線で接続されていて、制御部111から送信された映像信号に基づいて映像を表示する。なお、ディスプレイ150は、被験者によりリアリティーある視覚刺激を与えるため、3D映像が表示できるようになっていてもよい。
【0036】
報知器160は、スピーカー、チャイム、ベル等の音発生装置から構成される。報知器160は制御部111と信号線で接続されていて、制御部111からの命令に従ってブザー音等を発報する。
【0037】
通信ケーブル170は、USBケーブル等の通信用のケーブルから構成される。通信ケーブル170の一端はコネクタ部113に、他端はPC180に接続されている。
【0038】
PC180は、入出力装置(例えば、モニタ、キーボード、マウス等)を備えるパーソナルコンピュータ等から構成される。PC180には姿勢バランス測定装置100を操作するための専用のアプリケーションソフトがインストールされている。オペレータ(例えば、姿勢バランスに関する専門知識を有する者)等はそのアプリケーションソフトを操作して姿勢バランス測定装置100を動作させる。
【0039】
PC180は、通信ケーブル170を介して後述する操作データを制御部111に送信することによって姿勢バランス測定装置100を操作する。
【0040】
操作データは、姿勢バランス測定装置100制御用のデータであり、上記アプリケーションソフトによって生成される。操作データは、例えば、図7(A)に示すようなフォーマットのパケットデータであり、例えば、「移動方向」、「移動距離」、「移動速度」、「回転方向」、「回転角度」、「回転速度」、「動作開始通知」等の項目が含まれている。
【0041】
「移動方向」は起立台120の水平移動の方向を示す情報であり、任意の角度を設定できるようになっている。「移動方向」は例えば0°〜360°までの角度情報として指定される。例えば、「移動方向」に90°が指定された場合、制御部111は、図7(B)に示すように、前方向(鉄パイプ133のある方向)を0°として時計回りに90°の方向に起立台120を水平移動させる。
【0042】
「移動距離」は起立台120の水平移動の距離を示す情報であり、任意の距離(もしくは位置)を設定できるようになっている。「移動距離」は例えば0mm〜180mmの範囲で指定される。例えば、「移動距離」に100mmが指定された場合、制御部111は、図7(B)に示すように、現在の位置を基準として起立台120を100mmほど水平移動させる。
【0043】
「移動速度」は起立台120の水平移動の速度を示す情報であり、任意の速度を設定できるようになっている。「移動速度」は例えば速度0mm/秒〜400mm/秒の範囲で指定される。例えば、「移動速度」に60mm/秒が指定された場合、制御部111は起立台120を60mm/秒の速度で水平移動させる。
【0044】
「回転方向」は、起立台120の回転方向を示す情報であり、任意の方向を設定できるようになっている。「回転方向」は例えば“時計回り”、“反時計回り”のいずれかが指定される。例えば、「回転方向」に“時計回り”が指定された場合、制御部111は、図7(B)に示すように、起立台120の中心Oを通る鉛直線を軸として起立台120を時計回りに回転させる。
【0045】
「回転角度」は、起立台120の回転角度を示す情報であり、任意の角度を設定できるようになっている。「回転角度」は例えば0°〜90°までの角度で指定される。例えば、「回転方向」に30°が指定された場合、制御部111は、図7(B)に示すように、起立台120を30°回転させる。
【0046】
「回転速度」は起立台120の回転速度を示す情報であり、任意の速度を設定できるようになっている。「回転速度」は例えば角速度0rad/秒〜6.28rad/秒の範囲で指定される。例えば、「回転速度」に3.14rad/秒が指定された場合、制御部111は起立台120を3.14rad/秒の速度で回転させる。
【0047】
「動作開始通知」は、起立台120を動作させる前に被験者に動作開始通知をするか否かを示す情報である。「動作開始通知」は例えば“通知あり”、“通知なし”のいずれかが指定される。例えば、「動作開始通知」に“通知あり”が指定された場合、制御部111は、報知器160を使って起立台120の動作開始前にブザー音等を発報する。
【0048】
この「動作開始通知」は、被験者に突発的な加速度が加わった後、図8に示すように、即座に体を足で支えられるようにするための機能である。高齢者は突発的に力が加わると反射的に足が前や後ろに出ず、結果、転倒事故に至ることが多い。このような高齢者であっても、力が加わる前にブザー音等の合図が与えられると、足が前や後ろに出て体を支えられる。高齢者等は動作開始通知機能を使って足を出す練習を重ねることによって、予測的制御能力(すなわち、刺激が加わった初期段階で即座に体が次の状態を予測して反射的に体を制御する能力)が高まっていく。練習を重ねることによって、そのうちブザー音等の合図が与えられなくても足が反射的に前や後ろに出て補償できるようになる。
【0049】
次に、このような構成を有する姿勢バランス測定装置100の動作について説明する。
姿勢バランス測定装置100に電源が投入されると、制御部111は被験者の姿勢バランスを測定するための「姿勢バランス測定処理」を開始する。以下、図9のフローチャートを参照して姿勢バランス測定処理を説明する。
【0050】
姿勢バランス測定装置100が動作を開始すると、制御部111はPC180からの操作データ受信待ち状態となる(ステップS101)。オペレータは被験者を起立台120に立たせて、PC180を操作する。PC180はオペレータの操作内容を操作データに変換して制御部111に送信する。
【0051】
制御部111はPC180から操作データを受信すると(ステップS101:Yes)、操作データに含まれる「動作開始通知」情報を基に、被験者に対して起立台120の動作開始を通知するか否かを判別する(ステップS102)。動作開始を通知しない場合はステップS104に進み(ステップS102:No)、動作開始を通知する場合はステップS103に進む(ステップS102:Yes)。
【0052】
動作開始を通知する場合(ステップS102:Yes)、制御部111は起立台120を動作させる前に報知器160を使って動作開始のブザー音を発砲する(ステップS103)。
【0053】
次に、制御部111は操作データの内容に従って起立台120を動作させる(ステップS104)。例えば、操作データの「移動距離」「移動速度」に0以外の値が設定されていたら、制御部111は指定の移動方向に起立台120を水平移動させる。また、操作データの「回転角度」「回転速度」に0以外の値が設定されていたら、制御部111は指定の回転方向に起立台120を回転させる。また、「移動距離」「移動速度」「回転角度」「回転速度」のいずれにも0が設定されていたら、被験者の安静立位姿勢時の姿勢データを測定するため、起立台120を動作させずにそのままステップS105に進む。なお、制御部111は起立台120を水平移動させながら回転させてもよいし、水平移動のみ、回転のみの動作をさせてもよい。
【0054】
次に、制御部111は、起立台120の動作開始時点から所定時間(例えば20秒間)の間に送信されたCOP座標データに、現在時刻を付して測定データとして記憶部112に格納する(ステップS105)。
【0055】
制御部111は、記憶部112に格納された測定データを基に、被験者の姿勢バランス変化量を算出する(ステップS106)。姿勢バランス変化量は被験者の姿勢バランスの乱れの程度を表す値であり、より具体的には、起立台120の動作開始時点から所定時間内におけるCOPの軌跡長や外周面積等のことである。
【0056】
軌跡長は、例えば、図10(A)に示すように、測定データに格納されたCOP座標データを時間順に連結した線(以下、「COP軌跡」という。)の長さのことである。軌跡長が長いほど姿勢バランスは大きく乱れている。
【0057】
外周面積は、例えば、図10(B)に示すように、COP軌跡の外周を包絡線で取り囲んだときの取り囲まれた部分の面積のことである。外周面積が大きいほど姿勢バランスは大きく乱れている。
【0058】
姿勢バランス変化量を算出したら、制御部111は算出した姿勢バランス変化量をPC180に送信する(ステップS106)。PC180は受信した姿勢バランス変化量をモニタに表示する。姿勢バランス変化量の送信が完了したら、制御部111は再びPC180からの操作データ受信待ち状態となる(ステップS101)。
【0059】
本実施形態によれば、安静立位姿勢時のみならず、外乱印加時の姿勢バランスの測定データ(例えば、COP座標データ)を取得することができる。被験者やオペレータ等は、測定データを使って姿勢バランス向上のためのトレーニングプログラムを作成することができる。
【0060】
また、姿勢バランス測定装置100は移動刺激のみならず、ひねりの力が加わったことを想定した回転刺激をも被験者に印加できるようになっている。また、移動刺激と回転刺激は同時に印加できるようになっている。そのため、姿勢バランス測定装置100は被験者に対してより複雑でより現実な刺激の下での姿勢バランスの測定が可能となっている。
【0061】
また、姿勢バランス測定装置100は刺激の強度(例えば、移動速度、移動距離、回転速度、回転角度等)を変更できるようになっている。そのため、被験者の状態に応じた刺激の印加も可能である。
【0062】
また、姿勢バランス測定装置100は刺激印加前に被験者に刺激の印加開始を通知する動作開始通知機能を有している。そのため、被験者は動作開始通知機能を使って足を出す練習を重ねることができる。練習を重ねることで、被験者は自身の予測的制御能力を高めることができる。また、被験者の外乱に対処する動作様式を知ることができ、それが適切な対処であるかの判定を可能とさせ、トレーニングプログラムの作成上重要な手がかりとなる。
【0063】
また、姿勢バランス測定装置100は移動方向や回転方向をオペレータの操作によって変更できるようになっている。また、姿勢バランス測定装置100は移動刺激と回転刺激は同時に印加できるようになっている。そのため、被験者は姿勢バランス測定装置100の次の動きの予測が極めて困難になり、より効率的に予測的制御能力を高めることができる。
【0064】
また、70歳前後の高齢者のバランス機能は20歳代に比べて80%程度も低下しているが、視覚情報を手がかりとした制御が補償的に機能するため自覚されにくい。本実施形態の姿勢バランス測定装置100は、視覚情報を手がかりとした制御が補償的に機能しないように視覚刺激を印加できるようになっているため、より正確な被験者の姿勢バランス機能を測定することが可能である。
【0065】
なお、姿勢バランス測定装置100が測定する測定データはCOPに限られない。例えば、姿勢バランス測定装置100は、被験者の足関節、膝関節、股関節等の付近および身体各部位の筋肉に貼付される電極を備え、その電極によって被験者の筋電位を測定してもよい。測定した筋電位は筋電図として、例えばPC180に表示できるようにしてもよい。外乱刺激に対応する諸筋群間相互の協調性の分析を可能とする。また、姿勢が大きく乱れたときは筋電位の振幅が増大する傾向が見られるので、筋電図に基づく姿勢バランス機能評価が可能になる。
【0066】
また、姿勢バランス測定装置100から得られる測定データは被験者の頭頂部位置であってもよい。例えば、姿勢バランス測定装置100は被験者の頭頂部を、それぞれ異なった方向から撮像するカメラを複数台備えている。複数台のカメラは、撮像した画像を、逐次、制御部111に送信するようになっている。被験者は、例えば、球体等の形状をした反射マーク(入射した光が再び入射方向へ帰る性質を有する再帰反射材を表面に施したマーク)により頭頂部の位置を示す目印が設置されたキャップをかぶっている。制御部111は複数方向からの映像を処理して、その目印の位置を3次元の座標データとして算出する。腰部を中心に上体を前後に動作させてバランスを取る状態(Hip Strategy)では、姿勢が大きく乱れてもCOPがあまり変化せず動揺を評価できない場合があるが、頭頂部位置を測定することによって、より正確な姿勢バランスの変化を捉えることができる。反射マークを身体の特定部位に目印として設置すれば、全身の動作を分析することが可能となる。
【0067】
また、姿勢バランス測定装置100による測定データは被験者の関節角度であってもよい。例えば、被験者の足、膝、腰等の各関節に、図11に示すように、ゴニオメーター190の2枚の角度測定板191を固定する。ゴニオメーター本体192は制御部111と無線で通信できるようになっていて、2枚の角度測定板191の角度を被験者の関節角度として制御部111に送信する。より詳細に被験者の姿勢バランスの変化を捉えることができる。
【0068】
また、姿勢バランス測定装置100の安全棒130の鉄パイプ表面には握り圧の測定ができるように、圧力センサーが取り付けられていてもよい。被験者が安全棒130を握ったか否か、または、その強さの程度を検知できるので、COP等の測定データが有効か無効かを判別できる。その結果、より正確な測定データの取得が可能になる。
【0069】
また、起立台120の動作はPC180からの指示によらず、例えば、制御部111がランダムに決定してもよい。例えば、PC180からは動作開始命令のみ送信できるようにしておいて、「移動方向」、「移動距離」、「移動速度」、「回転方向」、「回転角度」、「回転速度」等の情報は制御部111がランダムに決定する。より予測不能な刺激の印加が可能になる。
【0070】
また、姿勢バランス測定装置100に、起立台120に乗った状態で被験者自身が持てる押しボタンが取り付けられていてもよい。そして、被験者がその押しボタンを押すことによって、起立台120が動作できるように構成されていてもよい。これにより、予測的制御機能の特徴や能力を判定する手がかりが得られる。また、トレーニングの視点からも、オペレータがいなくても、被験者一人で訓練することが可能になる。
【0071】
また、図12に示すように、被験者に専用のチョッキを着せ、そのチョッキに安全ベルト140を固定するようにしてもよい。また、起立台120には、図12に示すように、起立台120の側部に固定され、起立台120と台座110のとの間の隙間を覆うように、例えば、起立台120の上面と同じ高さに調整された水平板を有する安全板123が設置されていてもよい。バランスを崩した時の被験者の安全性をさらに高めることができる。
【産業上の利用可能性】
【0072】
高齢者やスポーツ選手のバランス機能向上を目的としたトレーニングの指針作成等で利用可能である。
【符号の説明】
【0073】
100 姿勢バランス測定装置
110 台座
111 制御部
112 記憶部
113 コネクタ部
120 起立台
121 台車部
122 フォースプレート
123 安全板
130 安全棒
131〜133 鉄パイプ
140 安全ベルト
150 ディスプレイ
160 報知器
170 通信ケーブル
180 PC
190 ゴニオメーター
191 角度測定板
192 ゴニオメーター本体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
人が直立して乗る起立台と、
前記起立台を動かすことによって、前記起立台に乗った人の姿勢バランスを動揺させるバランス動揺手段と、
前記起立台に乗った人の身体重心の位置、筋電位、頭頂部位置、または/および、関節角度を測定する測定手段と、を備え、
前記バランス動揺手段は、
前記起立台を水平方向に移動させることによって、前記起立台に乗った人に移動刺激を与える移動刺激印加手段と、
前記起立台を所定の鉛直線を軸に回転させることによって、前記起立台に乗った人に回転刺激を与える回転刺激印加手段と、を有する、
ことを特徴とする姿勢バランス測定装置。
【請求項2】
前記起立台の移動方向、移動距離、または/および、移動速度の情報から構成される移動情報を設定する移動情報設定手段、を備え、
前記移動刺激印加手段は、前記移動情報設定手段によって設定された前記移動情報に基づいて前記起立台を水平移動させる、
ことを特徴とする請求項1に記載の姿勢バランス測定装置。
【請求項3】
前記起立台の回転方向、回転角度、または/および、回転速度の情報から構成される回転情報を設定する回転情報設定手段、を備え、
前記回転刺激印加手段は、前記回転情報設定手段に設定された前記回転情報に基づいて前記起立台を回転させる、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の姿勢バランス測定装置。
【請求項4】
前記移動刺激印加手段は移動刺激を印加する毎に前記起立台の移動方向を変更する、
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の姿勢バランス測定装置。
【請求項5】
前記回転刺激印加手段は回転刺激を印加する毎に前記起立台の回転方向を変更する、
ことを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載の姿勢バランス測定装置。
【請求項6】
前記起立台に乗った人に対して前記起立台の動作開始を通知する通知手段、を備える、
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の姿勢バランス測定装置。
【請求項7】
前記起立台に乗った人に視覚刺激を与えるための動画を表示する動画表示手段、を備える、
ことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の姿勢バランス測定装置。
【請求項8】
複数の方向から被験者の頭頂部を撮像する撮像手段、を備え、
前記測定手段は複数の方向から撮像された頭頂部の画像に基づいて被験者の頭頂部位置を算出する、
ことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の姿勢バランス測定装置。
【請求項9】
前記起立台に設置される複数の荷重センサーを備え
前記測定手段は荷重センサーの測定値に基づいて前記起立台に加わる荷重の作用中心点を所定時間毎に取得する、
ことを特徴とする請求項1乃至8のいずれか1項に記載の姿勢バランス測定装置。
【請求項10】
前記バランス動揺手段によって起立台が動いてから一定時間内の前記作用中心点の軌跡長、または外周面積を算出する算出手段、を備える、
ことを特徴とする請求項9に記載の姿勢バランス測定装置。
【請求項11】
前記起立台に乗った人が自ら前記バランス動揺手段を動作させるための刺激印加開始手段、を備える、
ことを特徴とする請求項1乃至10のいずれか1項に記載の姿勢バランス測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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