説明

宇宙環境試験装置

【課題】宇宙環境試験装置において、温調プレートを回転可能とするとともに温度環境による駆動部の不具合の発生を減少させ、メンテナンスを容易にした。
【解決手段】宇宙環境試験装置1は、供試体4を固定する温調プレート5が真空容器2内に設けられ、温調プレート5を回転させる回転軸6が真空容器2を貫通して設けられ、温調プレート5に冷媒7を供給、排出する可撓性配管8が回転軸6に巻き付けられて設けられている。回転軸6には、真空容器2の外側から回転駆動を与える駆動部30が設けられている。温調プレート5の回転と共に、可撓性配管8が回転軸6に巻き付くように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、宇宙空間を模擬して宇宙環境を再現させた宇宙環境試験を行うための宇宙環境試験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、多様な試験・観測目的を有する人工衛星を開発するために、宇宙環境試験装置を使用し、宇宙環境を模擬した宇宙環境試験が行われている。
従来の宇宙環境試験装置(以下、必要に応じて「試験装置」と称する)は、真空容器と、その内部に設けた定置式のベースプレート(温度調節する場合は、加熱用のヒータと冷却用の液体窒素などの冷媒の流路を設けた「温調プレート」)とを備え、ベースプレートの上部に供試体を固定させていた。
そして、宇宙環境試験には、真空容器内に内部を黒塗りさせた略円筒形状等のシュラウドに液体窒素を供給して冷暗黒状態とし、真空容器内を高真空状態にすることで宇宙空間と同環境を再現し、供試体へのソーラー光(模擬太陽光)の照射試験と温調プレートによる供試体への伝導伝熱試験を行うものがある。
このような試験を従来の宇宙環境試験装置を用いて行うと、供試体の固定角度を変更する作業が発生する。つまり、一旦、宇宙環境試験装置内の宇宙環境(真空、低温)を破壊して、常温及び大気圧に戻す作業を行ってから試験装置を大気開放し、ベースプレートに対して供試体の取付け方向を変更する作業を行い、再度、試験装置内の宇宙環境を再現するという作業が行われることになり、多大な時間が必要になるといった欠点があった。
これに対して、ベースプレートを回転可能に設けた宇宙環境試験装置が、例えば特許文献1に開示されている。
特許文献1は、略円盤状のベースプレートの周部より下方に突出した縁が形成され、その縁の内周に内周ギアが形成され、回転駆動モータ(駆動部)の回転軸に取り付けた駆動ギアと内周ギアとが噛合することでベースプレートを回転させるものである。これにより、宇宙環境試験を行なう際に、ベースプレートに取り付けた供試体の取付け方向を変更する作業が不要となる。
【特許文献1】特開平11−30572号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記のような従来の宇宙環境試験装置によれば、以下のような問題があった。
特許文献1で示されている回転駆動式のベースプレートを設けた宇宙環境試験装置では、供試体に温度変化を与える試験を行なうとき、シュラウドやベースプレートに冷媒を供給することで温度環境が極低温に変化することから、真空容器内の回転駆動モータなどの駆動部に不具合が発生する可能性があった。
そして、この駆動部に不具合が発生した場合には、真空容器内でメンテナンスを行なう必要があり、その際、宇宙環境を破壊して再現作業(試験装置内の常温戻し、大気圧戻し、試験装置の開放、真空排気、装置内冷却)を実施しなければならず、手間と時間がかかるという問題があった。
【0004】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、伝導伝熱などによって供試体に温度変化を与える試験ができる温調プレートを回転可能にし、温度環境による駆動部の不具合の発生を減少させ、メンテナンスを容易にした宇宙環境試験装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記目的を達成するため、本発明に係る宇宙環境試験装置では、供試体を固定する温調プレートが真空容器内に設けられた宇宙環境試験装置において、温調プレートを回転させる回転軸が真空容器を貫通して設けられ、回転軸を回転させる駆動部が真空容器の外側に設けられていることを特徴としている。
このような特徴により、駆動部は、真空容器内の温度環境の影響を受けることがなく回転軸を駆動させることができる。また、駆動部に不具合が発生した場合、真空容器の外側でメンテナンスすることができる。そして、駆動部を真空容器内に設置しない構成であるため、真空容器の大きさを必要最小限とすることができる。
【0006】
また、本発明に係る宇宙環境試験装置では、温調プレートには、冷媒を供給、排出する可撓性配管が設けられることが好ましい。
このような特徴により、温調プレートの回転に対して冷媒用の供給管及び排出管をフレキシブルに追従させることができ、冷媒用の供給管及び排出管を取り付けた状態の温調プレートをスムーズに回転させることができる。
【0007】
また、本発明に係る宇宙環境試験装置では、可撓性配管が回転軸に巻き付けられて設けられていることが好ましい。
このような特徴により、可撓性配管は、回転軸に沿って巻き付けられるため、周囲に拡がることなくコンパクトに配置される。このように、温調プレートの下部のスペースを有効利用した構成であるため、周囲に配置される機材類との取り合いがスムーズになると共に、真空容器の大きさを小さくすることができる。
【0008】
また、本発明に係る宇宙環境試験装置では、回転軸には、真空容器の外方の位置に磁性流体シールが設けられていることが好ましい。
この場合、磁性流体シールは、温調プレートの回転に必要な駆動力を真空容器外の大気圧から真空圧に伝達させることができ、真空容器と回転軸とが隙間なく気密性を有した構成となり、真空容器内の真空圧力を維持することができる。
【0009】
また、本発明に係る宇宙環境試験装置では、回転軸又は回転軸に接する部位には、回転軸への熱伝達を抑制する断熱材が設けられていることが好ましい。
このような特徴により、温調プレートの温度が回転軸又は回転軸に接する部位を介して駆動部に伝わることを防ぐことができる。
【0010】
また、本発明に係る宇宙環境試験装置では、回転軸には、温調プレートの回転数を検出する角度検出器が設けられていることが好ましい。
この場合、角度検出器によって回転軸の回転数から回転角度を検出することで、温調プレートおよび供試体を高精度に角度調整することが可能となる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の宇宙環境試験装置によれば、駆動部は、真空容器内の温度環境の変化の影響を受けることなく温調プレートの回転軸を駆動させることができる。また、駆動部に不具合が発生した場合、真空容器の外側でメンテナンスすることができる。このため、真空容器内の宇宙環境を破壊することなく、宇宙環境試験を行うことができる。つまり、従来のように宇宙環境の破壊および再現作業(試験装置内の常温戻し、大気圧戻し、試験装置の開放、真空排気、装置内冷却)を実施する必要がなくなり、試験時間を短縮させることができる。
また、駆動部を真空容器内に設置しない構成であるため、真空容器の大きさを必要最小限とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態による宇宙環境試験装置について、図1乃至図3に基づいて説明する。
図1は本発明の実施の形態による宇宙環境試験装置の全体を示す概要図、図2は宇宙環境試験装置の温調プレート及び駆動部を示した詳細図、図3(a)乃至(c)は温調プレートの回転工程を示す図である。
【0013】
図1に示す本実施の形態による宇宙環境試験装置1は、内部を真空状態にするための図示しない送気管及び排気管を備えた円筒状の真空容器2と、真空容器2の内側で冷暗黒を模擬するために黒塗りされ、その内部を液体窒素などの冷媒で冷却できるように構成されるシュラウド3とが設けられている。このシュラウド3は、真空容器2より小径の略円筒状を形成している。そして、真空容器2内に供試体4を配置しておき、真空容器2内を高真空状態とし、真空容器2の内部で宇宙空間を模擬した宇宙環境を形成するものである。
また、図1に示すように、本実施の形態による宇宙環境試験装置1を使用した宇宙環境試験(以下、必要に応じて「試験」と略記する)は、真空容器2内の温度環境を変化させ、供試体4に対して真空容器2の一端2aからソーラー光すなわち模擬太陽光を照射させる試験である。
【0014】
図1に示すように、宇宙環境試験装置1は、シュラウド3の内側で上面に供試体4を固定させる平板状の温調プレート5と、温調プレート5を下方より回転可能に支持する回転軸6と、回転軸6の周囲に螺旋状に巻き付けるようにして配置させた可撓性配管8とから概略構成されている。この可撓性配管8は、温調プレート5に液体窒素などの冷媒7を供給するためのものである。
また、宇宙環境試験装置1は、回転軸6に真空容器2の外側から回転駆動を与える駆動部30が設けられている。
【0015】
図2に示すように、温調プレート5は、上面に複数のメネジが形成されており、これらのメネジの任意箇所に螺合するボルト(図示省略)を使用して供試体4が固定されている。また、下面には加温用のヒータ(図示省略)が設置されている。温調プレート5の内部には、可撓性配管8から供給された冷媒7を通過させるための流路5aが縦横方向に内装されている。そして、この流路5a内に冷媒7を供給させることで、温調プレート5を所定の温度に温度制御させることができる。
また、温調プレート5は、第一断熱材9Aを介して支持台10上に固定されている。
【0016】
回転軸6は、図2に示すように、支持台10の下面を支持するように固定され、円筒状の支持構造体11の内部に貫通されている。そして、回転軸6の上端には、回転軸6の振れを抑えるとともに温調プレート5及び供試体4の荷重を受ける第一軸受12を設けている。また、回転軸6は、真空容器2を貫通し、その略境界部で第二軸受13によって支持されている。また、シュラウド3には、回転軸6を挿通させた支持構造体11を通過させる開口部14が設けられている。
【0017】
さらに、回転軸6は、真空容器2の外方で磁性流体シール15を介して、駆動部30に連結されている。この磁性流体シール15は、温調プレート5の回転に必要な駆動力を真空容器外の大気圧から真空圧に伝達するために採用するものである。これにより、真空容器2と回転軸6とが隙間なく気密性を有した構成となり、真空容器2内の真空圧力を維持することができる。
【0018】
また、宇宙環境試験では、温調プレート5は、例えば−100〜+100℃の温度範囲で使用される。このため、温調プレート5の温度が回転軸6を介して駆動部30に伝わらないように、適宜箇所に断熱材が設けられている。具体的には、図2に示すように、温調プレート5と支持台10との間に設けた第一断熱材9Aと、第一軸受12および第二軸受13によって回転軸6を支持する箇所に第二及び第三断熱材9B、9Cが設けられている。これにより、温調プレート5或いは冷媒7の供給路をなす可撓性配管8から回転軸6への熱伝達を抑制する効果を奏する。なお、本発明の回転軸に接する部位とは、前述した支持台10、第一軸受12、第二軸受13に相当する。
【0019】
図2に示すように、回転軸6を駆動させる駆動部30には、電気駆動をなすステッピングモータ31が採用されている。そして、回転軸6に同軸に設けられた例えばウォーム歯車などの第一噛合部材32と、ステッピングモータ31の回転軸に同軸に設けられた例えばウォームなどの第二噛合部材33とが噛合することで回転軸6が駆動される。なお、ステッピングモータ31には、手動用のハンドル(図示省略)を設けておき、ステッピングモータ31を非通電時に手動で駆動できるようにしておくことが好ましい。
【0020】
また、回転軸6の下方端部に角度検出器34を設けておき、回転軸6の回転数から回転角度を検出できるようにしておく。このように、ステッピングモータ31と角度検出器34を使用することで、温調プレート5の回転角度や回転速度を制御でき、温調プレート5および供試体4は、円滑で高精度な角度調整が可能となるうえ、連続回転動作も可能となる。
なお、温調プレート5の回転範囲は、例えば真空容器2の長手方向の一端2a(図1参照)に設置されるソーラー光の照射口方向を中立位置とし、±90°に回転できるように設定されている。
【0021】
次に、図2に示すように、温調プレート5に供給する冷媒用の可撓性配管8は、可撓性を有してなるフレキシブルな配管であり、温調プレート5の入口側と出口側に2本設けられている。そして、夫々の可撓性配管8の一端8a、8aが温調プレート5の半径方向で対称となる位置に設けられている。また、各可撓性配管8の他端8b、8b側は、真空容器2の所定位置に液密に貫通して真空容器2の外方に配置されている。
【0022】
図3(a)乃至(c)は、温調プレート5を上述した±90°の範囲で回転させた図であり、支持台10(図2参照)などの部品が省略されている。また、二本の可撓性配管8、8の夫々を区別するために符号8A、8Bを付した。
図3(a)に示すように、可撓性配管8A、8Bは、温調プレート5の回転中立位置において、予め回転軸6(図2では支持構造体11)に、例えば180°の角度で時計回り又は反時計回りに回転させて螺旋状に巻き付けて設置しておく。ここで、この巻付け方向を時計回りとすると、温調プレート5が中立位置よりさらに時計回りに回転したときに、その回転に対応した巻付けができるように可撓性配管8A、8Bの長さに余裕をもたせておく。
そして、図3(b)および(c)に示すように、温調プレート5を上述した±90°の範囲で中立位置から正逆両方向に回転させたとき、どちらの回転方向に対しても可撓性配管8A、8Bが回転軸6の周囲に巻き付けられる。つまり、時計回りに90°回転したときに可撓性配管8A、8Bは、例えば270°の角度を回った状態で巻き付けられ、反時計回りに90°回転したときには、例えば90°の角度で巻き付けられた状態となる。
ここで、可撓性配管8の必要長さは、少なくとも温調プレート5の回転範囲内で屈曲させたときの最小曲げ半径以下とならない長さ寸法にしておく。
【0023】
このように、可撓性配管8は、温調プレート5の回転軸6に沿って螺旋状に巻き付けられるため、周囲に拡がることなくコンパクトに配置される。このように、温調プレート5の下部のスペースを有効利用した構成であるため、周囲に配置される機材類(図示省略)との取り合いがスムーズになると共に、真空容器2の大きさを小さくすることができる。
さらに、上述したように予め温調プレート5の回転中立位置で可撓性配管8を螺旋状に巻き付けておくことで、回転軸6に対する巻き付けの追従性がよくなるという効果がある。
なお、温調プレート5の回転角度が設定した±90°を超えてしまった場合に、この可撓性配管8を破損させないための保護として、電気的あるいは機械的なストッパ(図示省略)を設けるようにしておくことが好ましい。
【0024】
上述したように実施の形態による宇宙環境試験装置では、駆動部30は、真空容器2内の温度環境の変化の影響を受けることなく温調プレート5の回転軸6を駆動させることができる。また、駆動部30に不具合が発生した場合、真空容器2の外側でメンテナンスすることができる。このため、真空容器2内の宇宙環境を破壊することなく、宇宙環境試験を行うことができる。つまり、従来のように宇宙環境の破壊および再現作業(試験装置内の常温戻し、大気圧戻し、試験装置の開放、真空排気、装置内冷却)を実施する必要がなくなり、試験時間を短縮させることができる。
また、駆動部30を真空容器2内に設置しない構成であるため、真空容器2の大きさを必要最小限とすることができる。
【0025】
以上、本発明による宇宙環境試験装置の実施の形態について説明したが、本発明は上記の実施の形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
例えば、実施の形態では温調プレート5の回転中立位置に対して±90°としているが、この回転範囲に限定されることはない。要は、温調プレート5の回転範囲に対応した長さに可撓性配管8が設定されていればよいのである。また、実施の形態では予め温調プレート5の回転軸6に対して可撓性配管8を180°回転させて螺旋状に巻き付けた状態にしているが、とくに180°の角度に限定されることはなく、温調プレート5の回転範囲に応じて適宜巻付け角度を設定すればよい。そして、上述した回転中立位置において、予め可撓性配管8を回転軸6に巻き付けない状態としてもかまわない。
さらに、駆動部30の構造については、実施の形態によるステッピングモータ31等に限定されることはないが、温調プレート5の回転角度や回転速度を制御できるような駆動構造であることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の実施の形態による宇宙環境試験装置の全体を示す概要図である。
【図2】宇宙環境試験装置の温調プレート及び駆動部を示した詳細図である。
【図3】(a)乃至(c)は温調プレートの回転工程を示す図である。
【符号の説明】
【0027】
1 宇宙環境試験装置
2 真空容器
3 シュラウド
4 供試体
5 温調プレート
6 回転軸
7 冷媒
8 可撓性配管
9A 第一断熱材
9B 第二断熱材
9C 第三断熱材
11 支持構造体
15 磁性流体シール
30 駆動部
31 ステッピングモータ
34 角度検出器




【特許請求の範囲】
【請求項1】
供試体を固定する温調プレートが真空容器内に設けられた宇宙環境試験装置において、
前記温調プレートを回転させる回転軸が前記真空容器を貫通して設けられ、
前記回転軸を回転させる駆動部が前記真空容器の外側に設けられていることを特徴とする宇宙環境試験装置。
【請求項2】
前記温調プレートには、冷媒を供給、排出する可撓性配管が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の宇宙環境試験装置。
【請求項3】
前記可撓性配管が前記回転軸に巻き付けられて設けられていることを特徴とする請求項2に記載の宇宙環境試験装置。
【請求項4】
前記回転軸には、前記真空容器の外方の位置に磁性流体シールが設けられていることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の宇宙環境試験装置。
【請求項5】
前記回転軸又は前記回転軸に接する部位には、前記回転軸への熱伝達を抑制する断熱材が設けられていることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の宇宙環境試験装置。
【請求項6】
前記回転軸には、前記温調プレートの回転数を検出する角度検出器が設けられていることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の宇宙環境試験装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−137301(P2007−137301A)
【公開日】平成19年6月7日(2007.6.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−335351(P2005−335351)
【出願日】平成17年11月21日(2005.11.21)
【出願人】(000231235)大陽日酸株式会社 (642)
【Fターム(参考)】