説明

安定化および再生方法

【課題】常温で液状のシクロヘキサントリカルボン酸無水物を、結晶析出することなく、安定に保存するための安定化方法の提供。
【解決手段】trans,trans−1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸−1,2−無水物を含む、液状のシクロヘキサントリカルボン酸無水物を100℃以上に加熱する、あるいは結晶析出したシクロヘキサントリカルボン酸無水物を100℃以上に加熱する、シクロヘキサントリカルボン酸無水物の安定化方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ樹脂硬化剤等として有用な液状シクロヘキサントリカルボン酸無水物または液状シクロヘキサントリカルボン酸無水物と脂環式ジカルボン酸無水物を含有する組成物の安定化方法に関するものであり、詳しくは、常温で液状のシクロヘキサントリカルボン酸無水物を、結晶析出することなく、安定に保存するための安定化方法、および結晶が析出した液状のシクロヘキサントリカルボン酸無水物を再生して、結晶析出することなく安定に保存するための再生方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、高輝度の青色LEDや白色LEDが開発され、掲示板、フルカラーディスプレーや携帯電話のバックライト等にその用途を広げている。従来、LED等の光電変換素子の封止材料には、無色透明性に優れることからエポキシ基含有化合物と酸無水物硬化剤からなる熱硬化性樹脂組成物が使用されている。かかる光電変換素子に用いられるエポキシ基含有化合物の硬化剤として、メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、ヘキサヒドロ無水フタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸等の脂環式酸無水物が一般的に使用されており、中でも常温で液状であるメチルヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸等が取り扱いの容易さから主に使用されている。
【0003】
従来のシクロヘキサントリカルボン酸無水物の製造方法としては、トリメリット酸を極性溶媒中、表面積940m2/g以上の活性炭に担持したロジウム触媒を用いて分子状水素によって水素化した後、テトラヒドロフランおよび/またはアセトニトリルを溶媒として用いて再結晶して得たcis,cis−1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸を無水酢酸等の無水化試薬を用いて無水化する方法(特許文献1)および、トリメリット酸アルキルエステルを貴金属系水素化触媒および脂肪族アルコール存在下に加熱して核水素化して得た1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸アルキルエステルをスルホランおよび/またはジメチルスルホキシド溶媒中で加水分解して得た1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸を脱水閉環する方法(特許文献2)が開示されているが、何れも得られたシクロヘキサントリカルボン酸無水物は固体状である。
【0004】
従来のシクロヘキサントリカルボン酸無水物は、このように固体状であるため取り扱い難く、溶媒に溶解して用いられることが多いが、操作が煩雑であり、乾燥工程が必要となり、そのために環境にも悪影響を及ぼすことがある。
シクロヘキサントリカルボン酸無水物は無色透明性などに優れることから光半導体の封止材用樹脂などの各種用途へ使用が期待されるが、従来のシクロヘキサントリカルボン酸無水物は固体状であるために取り扱い難く、その用途が限定されている。
【0005】
近年、シクロヘキサントリカルボン酸および/またはシクロヘキサントリカルボン酸無水物を加熱溶融することにより、シクロヘキサントリカルボン酸無水物を含有する常温で液状の無水物が得られることが見出された(特許文献3)。この取り扱いが容易な液状のシクロヘキサントリカルボン酸無水物は、塗料、接着剤、成形品、光半導体の封止材用樹脂、硬化剤、ポリイミド樹脂などの原料や改質剤、可塑剤や潤滑油原料、医農薬中間体、塗料用樹脂原料、トナー用樹脂等として有用であり、用途が広がっている。
液状のシクロヘキサントリカルボン酸無水物ならびに脂環式ジカルボン酸無水物を含有する組成物は、さらに低粘度液状で取り扱いが容易であり、硬化促進剤を添加しなくても硬化性が良好であり、かつ光線透過率およびその熱安定性に優れたエポキシ樹脂硬化物が得られる新規なエポキシ樹脂硬化剤であることが見出された(特許文献4)。
【0006】
しかしながら、液状のシクロヘキサントリカルボン酸無水物は、保存時および脂環式ジカルボン酸無水物との混合時に、次第に結晶が析出し、最終的には全体が白色固体化してしまう問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許第5412108号明細書
【特許文献2】特開平8−325196号公報
【特許文献3】国際公開第2005/049597号
【特許文献4】国際公開第2005/121202号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、塗料、接着剤、成形品、光半導体の封止材料樹脂、硬化剤、ポリイミド樹脂などの原料や改質剤、可塑剤や潤滑油原料、医農薬中間体、塗料用樹脂原料、トナー用樹脂等に有用な、常温で液状のシクロヘキサントリカルボン酸無水物を、結晶析出することなく、安定に保存するための安定化方法、および結晶が析出した液状のシクロヘキサントリカルボン酸無水物を再生して、結晶析出することなく安定に保存するための再生方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決するため鋭意検討した結果、液状シクロヘキサントリカルボン酸無水物を100℃以上に加熱することにより、結晶析出することなく、安定に保存することが出来、また、結晶が析出した液状のシクロヘキサントリカルボン酸無水物であっても100℃以上に加熱することにより、結晶が無い状態に再生され、安定に保存することが出来ることを見出し、本発明に至った。
【0010】
すなわち本発明は次の通りである。
〔1〕式(1)で表されるtrans,trans−1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸−1,2−無水物を含有するシクロヘキサントリカルボン酸無水物を100℃以上に加熱することを特徴とするシクロヘキサントリカルボン酸無水物の安定化方法。
〔2〕結晶析出したシクロヘキサントリカルボン酸無水物を100℃以上に加熱する〔1〕の安定化方法。
【化1】

【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、液状のシクロヘキサントリカルボン酸無水物を結晶が析出することなく安定化することができ、結晶が析出した液状のシクロヘキサントリカルボン酸無水物を結晶が無い状態に再生され、安定に保存することが出来る。更に、本発明の方法により安定化した液状のシクロヘキサントリカルボン酸無水物は、脂肪族ジカルボン酸無水物と混合した混合物においても安定に保存することが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明で使用するシクロヘキサントリカルボン酸無水物は、式(1)で表されるtrans,trans−1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸−1,2−無水物を含むシクロヘキサントリカルボン酸無水物である。
【0013】
また、本発明で使用するシクロヘキサントリカルボン酸無水物には、式(1)で表されるtrans,trans−1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸−1,2−無水物以外に、式(2)で表されるcis,cis−1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸−1,2−無水物等のシクロヘキサントリカルボン酸無水物が含まれていてもよい。
本発明で使用するシクロヘキサントリカルボン酸無水物には、1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸−1,2−無水物以外に、1,2,3−シクロヘキサントリカルボン酸−1,2−無水物が含まれてもよい。
【化3】

【0014】
本発明で好適に使用される1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸無水物は、trans,trans−1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸−1,2−無水物とcis,cis−1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸−1,2−無水物等のシクロヘキサントリカルボン酸無水物との混合物であり、常温で液状のシクロヘキサントリカルボン酸無水物(以下、「液状シクロヘキサントリカルボン酸無水物」と称す場合がある)である。
【0015】
なお、シクロヘキサントリカルボン酸無水物中の式(1)で表されるtrans,trans−1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸−1,2−無水物の含有量は、好ましくは1質量%以上であり、より好ましくは5質量%以上、さらに好ましくは10質量%以上である。シクロヘキサントリカルボン酸無水物中に式(1)で表されるtrans,trans−1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸−1,2−無水物を1質量%以上含有させることにより流動性を生じ脂肪族ジカルボン酸無水物と任意の割合で混合可能となり、取り扱いが容易となる。
【0016】
trans,trans−1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸−1,2−無水物は、シクロヘキサン−1,2,4−トリカルボン酸やcis,cis−1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸−1,2−無水物を加熱溶融することにより製造することができる。また、予めシクロヘキサン−1,2,4−トリカルボン酸やcis,cis−1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸−1,2−無水物と、脂肪族ジカルボン酸無水物を混合してから加熱溶融し、trans,trans−1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸−1,2−無水物を生成させてもよい。
【0017】
cis,cis−1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸−1,2−無水物は、ベンゼン−1,2,4−トリカルボン酸を直接水素化する方法、ベンゼン−1,2,4−トリカルボン酸エステルを水素化する方法、ベンゼン−1,2,4−トリカルボン酸アルカリ金属塩を水素化する方法等で製造された1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸を無水化(脱水)することにより得られ、通常、無水酢酸等の無水化剤を使用して製造される。cis,cis−1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸−1,2−無水物は、式(2)で表される常温で固体状の無水物である。
【0018】
すなわち、シクロヘキサン−1,2,4−トリカルボン酸を加熱溶融することにより無水化および異性化が進行し、また、cis,cis−1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸−1,2−無水物を加熱溶融することにより異性化が進行し、trans,trans−1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸−1,2−無水物が生成する。このような反応により、通常、trans,trans−1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸−1,2−無水物とcis,cis−1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸−1,2−無水物の混合物が得られる。
【0019】
加熱溶融時の圧力は大気圧、減圧、加圧のいずれの条件でもよいが、無水化により生じる生成水の除去の容易さから大気圧または減圧が好ましい。また、着色及び水分の混入を防ぐため、不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
加熱溶融時の温度は、これらの原料が溶融する温度であればよいが、低温では無水化反応および異性化反応の速度が小さく、高温では脱炭酸反応等の副反応が生成しやすくなることから、180℃から300℃であることが好ましく、190℃から280℃であることが更に好ましい。
加熱溶融時間は温度により異なるが、生産効率の面から24時間以内が好ましく、10時間以内が更に好ましい。加熱溶融は、回分式、連続式の何れで行ってもよい。
【0020】
本発明では、シクロヘキサントリカルボン酸無水物を100℃以上に加熱することにより安定化を行う。また、結晶析出したシクロヘキサントリカルボン酸無水物を100℃以上に加熱することにより、シクロヘキサントリカルボン酸無水物を結晶が無い状態に再生し、安定化させる。安定化(および再生)する際の圧力は、大気圧、減圧、加圧のいずれの条件でもよいが、保存中や作業中に大気中から混入した水分や、混入した水分と反応してシクロヘキサントリカルボン酸となったものの無水化により生じる生成水の除去の容易さから大気圧または減圧が好ましい。また、着色及び水分の混入を防ぐため、不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
【0021】
シクロヘキサントリカルボン酸無水物を安定化(および再生)する際の温度は100℃以上であれば良いが、低温では安定化(および再生)にかかる時間が長くかかり、高温では着色や脱炭酸反応などの副反応がおこりやすくなることから、100〜180℃が好ましく、120℃から180℃であることが更に好ましい。
シクロヘキサントリカルボン酸無水物を安定化(および再生)する際の時間は温度により異なるが、好ましくは0.1時間以上、より好ましくは0.5時間以上、更に好ましくは1時間以上である。この時間は長すぎても特段の支障はないが、生産効率の面から10時間以内が好ましく、5時間以内が更に好ましい。
シクロヘキサントリカルボン酸無水物を安定化(および再生)する方式は、回分式、連続式の何れで行ってもよい。
【0022】
シクロヘキサントリカルボン酸無水物を安定化(および再生)する際には、本発明の効果を損なわない範囲で、シクロヘキサントリカルボン酸や後述の脂肪族ジカルボン酸無水物等、他の成分が共存していてもよい。
【0023】
本発明の方法で安定化した常温で液状のシクロヘキサントリカルボン酸無水物は脂肪族ジカルボン酸無水物と混合して使用することが出来、混合物においても安定に保存することが出来る。
脂肪族ジカルボン酸無水物としては、無水蓚酸、無水マロン酸、無水コハク酸、無水グルタル酸のような直鎖脂肪族ジカルボン酸(アルキル基等で置換されたものも含む)の無水物を用いることができるが、脂環式ジカルボン酸無水物が好ましく、常温で液状であるメチルヘキサヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、水素化メチルナジック酸無水物等が好適に用いられる。また、常温で固体であっても液状シクロヘキサントリカルボン酸無水物と混合するとよく溶解して液状となるヘキサヒドロ無水フタル酸も好適に用いられる。
【0024】
本発明の方法で安定化した常温で液状のシクロヘキサントリカルボン酸無水物をエポキシ樹脂硬化剤として使用して硬化することが出来るエポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、ビフェニル型エポキシ樹脂、スチルベン型エポキシ樹脂、ハイドロキノン型エポキシ樹脂、ナフタレン骨格型エポキシ樹脂、テトラフェニロールエタン型エポキシ樹脂、DPP型エポキシ樹脂、トリスヒドロキシフェニルメタン型エポキシ樹脂、ジシクロペンタジエンフェノール型エポキシ樹脂、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキサンカルボキシレートやビニルシクロヘキセンジエポキサイド等の脂肪族エポキシ樹脂、TGPS(トリグリシドキシフェニルシラン)や3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等の含ケイ素エポキシ樹脂、ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物のジグリシジルエーテル、ビスフェノールAプロピレンオキサイド付加物のジグリシジルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジグリシジルエーテル、脂肪族多価アルコールのポリグリシジルエーテル、ヘキサヒドロ無水フタル酸のジグリシジルエステル等の多塩基酸のポリグリシジルエステル、ブチルグリシジルエーテル、ラウリルグリシジルエーテル等のアルキルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、クレジルグリシジルエーテル等のエポキシ基を1個もったグリシジルエーテル等が挙げられ、また上記エポキシ樹脂の核水添化物が挙げられる。これらの化合物は単独で又は2種以上を適宜混合して使用することができる。特に、脂肪族エポキシ樹脂および核水添化エポキシ樹脂は、得られる硬化物の無色透明性を良好にするためより好適に用いられる。
【0025】
本発明の方法で安定化した常温で液状のシクロヘキサントリカルボン酸無水物をエポキシ樹脂硬化剤とするエポキシ樹脂組成物におけるエポキシ樹脂とエポキシ樹脂硬化剤の配合割合は、所定の効果が得られる限り特に限定されるものではないが、下記式:
当量比=(X/2)/Y
(式中、Xは硬化剤中および樹脂中の、酸無水物基をカルボキシル基相当数2とし、カルボン酸基をカルボキシル基相当数1としたときの全カルボキシル基相当数、Yは樹脂中のエポキシ基数を表す)
で表される当量比として、0.1〜3.0、好ましくは0.3〜1.5の範囲である。該当量比を0.1以上とすることで硬化の進行が十分となり、また、3.0以下とすることで硬化物のガラス転移温度(Tg)の低下や吸湿性や無色透明性の低下を防止し、かつ高温条件下や高エネルギー光照射下での着色を防止することができる点で好ましい。なお、ここで上記全カルボキシル基相当数は、中和滴定などにより求められる。また、エポキシ基数はエポキシ樹脂のエポキシ基当量より算出される。
【0026】
なお、本発明の方法で安定化した常温で液状のシクロヘキサントリカルボン酸無水物をエポキシ硬化剤として使用したエポキシ樹脂組成物において、硬化促進剤の使用は、硬化物の無色透明性が損なわれやすいため好ましくないので通常不要であるが、必要に応じて本発明の効果を損なわない範囲で硬化促進剤を適宜使用することができる。
必要に応じて用いられる硬化促進剤としては、例えば、ベンジルジメチルアミン、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、ジメチルシクロヘキシルアミン等の3級アミン類、1−シアノエチル−2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール等のイミダゾール類、トリフェニルホスフィン、亜リン酸トリフェニル等の有機リン系化合物、テトラフェニルホスホニウムブロマイド、テトラ−n−ブチルホスホニウムブロマイド等の4級ホスホニウム塩類、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−7等やその有機酸塩等のジアザビシクロアルケン類、オクチル酸亜鉛、オクチル酸錫やアルミニウムアセチルアセトン錯体等の有機金属化合物類、テトラエチルアンモニウムブロマイド、テトラブチルアンモニウムブロマイド等の4級アンモニウム塩類、三ふっ化ホウ素、トリフェニルボレート等のホウ素化合物、塩化亜鉛、塩化第二錫等の金属ハロゲン化物が挙げられる。更には、高融点イミダゾール化合物、ジシアンジアミド、アミンをエポキシ樹脂等に付加したアミン付加型促進剤等の高融点分散型潜在性促進剤、イミダゾール系、リン系、ホスフィン系促進剤の表面をポリマーで被覆したマイクロカプセル型潜在性促進剤、アミン塩型潜在性硬化促進剤、ルイス酸塩、ブレンステッド酸塩等の高温解離型の熱カチオン重合型の潜在性硬化促進剤等に代表される潜在性硬化促進剤も使用することができる。これらの硬化促進剤は単独又は2種以上を適宜混合して使用することができる。
【0027】
さらに、本発明の方法で安定化した常温で液状のシクロヘキサントリカルボン酸無水物をエポキシ硬化剤として使用したエポキシ樹脂組成物には、必要に応じて、エチレングリコール、プロピレングリコール等脂肪族ポリオール、脂肪族又は芳香族カルボン酸化合物、フェノール化合物等の炭酸ガス発生防止剤、ポリアルキレングリコール等の可撓性付与剤、酸化防止剤、可塑剤、滑剤、シラン系等のカップリング剤、無機充填材の表面処理剤、難燃剤、帯電防止剤、着色剤、帯電防止剤、レベリング剤、イオントラップ剤、摺動性改良剤、各種ゴム、有機ポリマービーズ、ガラスビーズ、グラスファイバー等の無機充填材等の耐衝撃性改良剤、揺変性付与剤、界面活性剤、表面張力低下剤、消泡剤、沈降防止剤、光拡散剤、紫外線吸収剤、抗酸化剤、離型剤、蛍光剤、導電性充填材等の添加剤を、得られる硬化物の特性を損なわない範囲で配合することができる。
【0028】
硬化方法には、特に制限はなく、密閉式硬化炉や連続硬化が可能なトンネル炉等の従来公知の硬化装置を採用することができる。加熱源は特に制約されることなく、熱風循環、赤外線加熱、高周波加熱等、従来公知の方法で行うことができる。硬化温度及び硬化時間は、80℃〜250℃で30秒〜10時間の範囲が好ましい。硬化物の内部応力を低減したい場合は、80〜120℃、0.5時間〜5時間の条件で前硬化した後、120〜180℃、0.1時間〜5時間の条件で後硬化することが好ましい。
【0029】
本発明の方法で安定化した常温で液状のシクロヘキサントリカルボン酸無水物をエポキシ硬化剤として使用したエポキシ樹脂組成物は、LED、半導体レーザー等の発光素子、光導電素子、フォトダイオード、太陽電池、フォトトランジスタ、フォトサイリスタ等の受光素子、フォトカプラー、フォトインタラプター等の光結合素子で代表される光電変換素子の絶縁封止材料、液晶等の接着剤、光造形用の樹脂、更にプラスティック、ガラス、金属等の表面コーティング剤、装飾材料等の透明性を要求される用途などに用いることができる。具体的には、モールド変圧器、モールド変成器(変流器(CT)、零層変流器(ZCT)、計器用変圧器(PT)、設置型計器用変成器(ZPT))、ガス開閉部品(絶縁スペーサ、支持碍子、操作ロッド、密閉端子、ブッシング、絶縁柱等)、固体絶縁開閉器部品、架空配電線自動化機器部品(回転碍子、電圧検出要素、総合コンデンサ等)、地中配電線機器部品(モールドジスコン、電源変圧器等)、電力用コンデンサ、樹脂碍子、リニアモーターカー用コイル等の重電関係の絶縁封止材、各種回転機器用コイルの含浸ワニス(発電器、モーター等)等に用いることができる。
さらに上記エポキシ樹脂組成物は、ポッティング、注型、フィラメントワインディング、積層等の従来公知の方法で2mm以上の厚みの絶縁封止や成型物にも適用可能である。すなわち、フライバックトランス、イグニッションコイル、ACコンデンサ等のポッティング樹脂、LED、ディテクター、エミッター、フォトカプラー等の透明封止樹脂、フィルムコンデンサー、各種コイルの含浸樹脂等の弱電分野で使用される絶縁封止樹脂などに用いることができる。その他、積層板や絶縁性が必ずしも必要でない用途として、各種FRP成型品、各種コーティング材料、接着剤、装飾材料等に使用されるエポキシ樹脂組成物等に用いることができる。
【実施例】
【0030】
以下に実施例および比較例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0031】
また、本実施例等で使用したシクロヘキサントリカルボン酸無水物の分析、分取および同定はHPLCおよびNMRを使用して行った。測定条件は以下の通りである。
(1)HPLC分析
装置 :agilent製 HP1100(B)
カラム :YMC−Pack CN 120Å S−5μm
4.6mm×150mm
移動相:ノルマルヘキサン/テトラヒドロフラン=90/10
カラム温度:40℃
流量 :1.0ml/min
試料溶液 :約7000ppmアセトニトリル溶液
注入量 :5μl
【0032】
(2)HPLC分取
装置 :(株)島津製作所製 LC−6A
カラム :CAPCELL PAK CN 120Å 5μm
20mm×250mm
移動相 :ノルマルヘキサン/テトラヒドロフラン=95/5
カラム温度:室温
流量 :10ml/min
試料溶液 :8mg/mlアセトニトリル溶液
注入量 :1ml
分取領域 :カット1:Rt=17分〜19分
カット2:Rt=19分30秒〜24分
(Rtはリテンションタイムを示す)
【0033】
(3)NMR測定
2次元NMR解析により平面構造を決定し、デカップリング法(「有機化合物のスペクトルによる同定法 R.M.silverstein B.C.Bassler 東京化学同人」参照)でプロトン間の結合定数(J値)を決定することによって、アクシャルとエクアトリアルプロトンを決定し立体構造を推定した。
装置 :日本電子(株)製 JNM−ALPHA−400 (400MHz)
溶媒 :カット1:重アセトン、重DMSO(デカップリングH−NMR)
カット2:重アセトン
プローブ :TH5 (5mmφ)
手法:1次元NMR:H−NMR、13C−NMR、DEPT135、デカップリングH−NMR
2次元NMR:HHCOSY、HMQC、HMBC、NOESY
【0034】
〔製造例1〕
温度計、攪拌機、コンデンサ、温度制御装置を備えた四つ口フラスコに、シクロヘキサン−1,2,4−トリカルボン酸100質量部を仕込み、窒素ガス流通下生成する水分を系外に除去しながら250℃で3時間加熱溶融を行い、淡黄色透明液状の1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸−1,2−無水物を得た。原料のシクロヘキサン−1,2,4−トリカルボン酸基準の無水化率は95%、得られた液状1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸−1,2−無水物の60℃における粘度は14.6Pa・sであった。
得られた液状無水物(液状シクロヘキサントリカルボン酸無水物)についてHPLC分析を行ったところ、2つのピーク(Rt=7.5分、及び8.7分)が検出された。次いで、該液状無水物についてHPLC分取を行い、前記2つのピークに相当するカット1とカット2を得た。それぞれについてNMR測定を行った結果、カット1は式(3)に示される平面構造を有し、前記式(1)に示されるtrans,trans−1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸−1,2−無水物であると同定され(表1、2参照)、カット2は式(4)に示される平面構造を有し、前記式(2)に示されるcis,cis−1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸−1,2−無水物であると同定された(表3、4参照)。
尚、前記液状無水物中のtrans,trans−1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸−1,2−無水物は63.2質量%、cis,cis−1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸−1,2−無水物は36.8質量%であった。
【0035】
【化4】

【0036】
【表1】

【0037】
【表2】

【0038】
【化5】

【0039】
【表3】

【0040】
【表4】

【0041】
〔実施例1〕
製造例1で得られた液状シクロヘキサントリカルボン酸無水物を、温度計、撹拌装置(マグネティックスターラー:以下同様)を備えた三つ口フラスコ中で窒素ガス流通下、190℃に加熱して1時間保持した後、室温まで冷却して24時間後に目視観察したところ、結晶は析出していなかった。その後、缶に密閉して4ヶ月保管した後に観察したところ結晶は析出していなかった。
【0042】
〔実施例2〕
製造例1で得られた液状シクロヘキサントリカルボン酸無水物を、温度計、撹拌装置を備えた三つ口フラスコ中で窒素ガス流通下、150℃に加熱して1時間保持した後、室温まで冷却して24時間後に目視観察したところ、結晶は析出していなかった。
【0043】
〔実施例3〕
製造例1で得られた液状シクロヘキサントリカルボン酸無水物を、温度計、撹拌装置を備えた三つ口フラスコ中で窒素ガス流通下、100℃に加熱して1時間保持した後、室温まで冷却して24時間後に目視観察したところ、結晶は析出していなかった。
【0044】
〔比較例1〕
製造例1で得られた液状シクロヘキサントリカルボン酸無水物を、温度計、撹拌装置を備えた三つ口フラスコ中で窒素ガス流通下、80℃に加熱して1時間保持した後、室温まで冷却したところ、冷却中に結晶が析出し、24時間後には全体が結晶化していた。
【0045】
〔実施例4〕
比較例1と同様な方法で得られた結晶析出した液状シクロヘキサントリカルボン酸無水物を、温度計、撹拌装置を備えた三つ口フラスコ中で窒素ガス流通下、190℃に加熱して1時間保持した後、室温まで冷却して24時間後に目視観察したところ、結晶は析出していなかった。
【0046】
〔実施例5〕
比較例1と同様な方法で得られた結晶析出した液状シクロヘキサントリカルボン酸無水物を、温度計、撹拌装置を備えた三つ口フラスコ中で窒素ガス流通下、150℃に加熱して1時間保持した後、室温まで冷却して24時間後に目視観察したところ、結晶は析出していなかった。
【0047】
〔実施例6〕
比較例1と同様な方法で得られた結晶析出した液状シクロヘキサントリカルボン酸無水物を、温度計、撹拌装置を備えた三つ口フラスコ中で窒素ガス流通下、100℃に加熱して1時間保持した後、室温まで冷却して24時間後に目視観察したところ、結晶は析出していなかった。
【0048】
〔比較例2〕
比較例1と同様な方法で得られた結晶析出した液状シクロヘキサントリカルボン酸無水物を、温度計、撹拌装置を備えた三つ口フラスコ中で窒素ガス流通下、80℃に加熱して1時間保持した後、室温まで冷却したところ、冷却中に結晶が析出し、24時間後には全体が結晶化していた。
【0049】
〔実施例8〕
比較例1と同様な方法で得られた結晶析出した液状シクロヘキサントリカルボン酸無水物を、温度計、撹拌装置を備えた三つ口フラスコ中で窒素ガス流通下、120℃に加熱して1時間保持した後、75℃まで冷却してからリカシッドMH700G(主成分:メチルヘキサヒドロ無水フタル酸、新日本理化製、以下「MH700G」と称す)と混合した。混合比率は質量比として、液状シクロヘキサントリカルボン酸無水物:MH700G=8:2である。室温まで冷却して24時間後に目視観察したところ、結晶は析出していなかった。
【0050】
〔実施例9〕
比較例1と同様な方法で得られた結晶析出した液状シクロヘキサントリカルボン酸無水物を、温度計、撹拌装置を備えた三つ口フラスコ中で窒素ガス流通下、190℃に加熱して1時間保持した後、75℃まで冷却してから実施例8と同じ混合比率でMH700Gと混合した。室温まで冷却して24時間後に目視観察したところ、結晶は析出していなかった。
【0051】
〔比較例3〕
比較例1で得られた結晶析出した液状シクロヘキサントリカルボン酸無水物を、温度計、撹拌装置を備えた三つ口フラスコ中で窒素ガス流通下、75℃に加熱して1時間保持した後、実施例8と同じ混合比率でMH700Gと混合したところ、混合時に白濁した。室温まで冷却して24時間後に目視観察したところ、全体が結晶化していた。
【0052】
〔実施例10〕
製造例1で得られた液状シクロヘキサントリカルボン酸無水物を、温度計、撹拌装置を備えた三つ口フラスコ中で窒素ガス流通下、190℃に加熱して1時間保持した後、75℃まで冷却してから実施例8と同じ混合比率でMH700Gと混合した。室温まで冷却して24時間後に目視観察したところ、結晶は析出していなかった。その後、缶に密閉して4ヶ月保管した後に観察したところ結晶は析出していなかった。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の安定化方法により、常温で液状のシクロヘキサントリカルボン酸無水物を安定化することができ、該液状シクロヘキサントリカルボン酸無水物は液状で取扱が容易なことから種々の用途に工業的に有利に用いることができる。
【0054】
すなわち、塗料、接着剤、成形品、光半導体の封止材用樹脂、あるいは液晶表示装置(LCD)、固体撮像素子(CCD)、エレクトロルミネッセンス(EL)装置等を構成するカラーフィルターの保護膜用塗工液等に好適に使用できる熱硬化性樹脂組成物の硬化剤、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、アルキッド樹脂等の原料や改質剤、可塑剤や潤滑油原料、医農薬中間体、塗料用樹脂原料、トナー用樹脂等として有用な、常温で液状のシクロヘキサントリカルボン酸無水物を結晶が析出することなく、安定化できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表されるtrans,trans−1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸−1,2−無水物を含むシクロヘキサントリカルボン酸無水物を100℃以上に加熱することを特徴とするシクロヘキサントリカルボン酸無水物の安定化方法。
【化1】

【請求項2】
結晶析出したシクロヘキサントリカルボン酸無水物を100℃以上に加熱する請求項1に記載の安定化方法。

【公開番号】特開2013−112643(P2013−112643A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−260368(P2011−260368)
【出願日】平成23年11月29日(2011.11.29)
【出願人】(000004466)三菱瓦斯化学株式会社 (1,281)
【Fターム(参考)】