説明

安定性評価方法および安定性評価装置

【課題】円形以外の坑道形状を有する場合や複雑な掘削を行う場合にも適用しても高い評価精度を維持することができる安定性評価方法および安定性評価装置を提供する。
【解決手段】地山の地質条件および坑道の設置条件を含む条件設定を行い、地山がMohr−Coulombの降伏基準にしたがうものとして、地山の材料の三軸圧縮試験から得られる応力−ひずみ曲線を軸ひずみの値で区分して線形化することによって得られる区分線形ひずみ軟化モデルに基づいて坑道部の地山の掘削の数値解析を行うことにより、所定の掘削区間における非線形ひずみ測度を算出し、算出した非線形ひずみ測度と、区分線形ひずみ軟化モデルにおける所定の軸ひずみに対応した非線形ひずみ測度である許容値とを比較することによって前記地山の安定性を評価する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、坑道周辺の地山の安定性の評価を行う安定性評価方法および安定性評価装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、図14に示すような核燃料サイクルでは、高レベル放射性廃棄物をいかにして処分するかが重要な問題である。高レベル放射性廃棄物は、図14に示すように、使用済み燃料のリサイクル過程で発生する放射能レベルが高い廃液をガラスで固めたものである。高レベル放射性廃棄物は、長期間にわたって高い放射能レベルを維持することから、人間の生活環境から隔離して安全に処分することが求められている。
【0003】
このような状況に鑑み、高レベル放射性廃棄物の処分方法の一つとして、地下深くにトンネル群を建設し、そのトンネル群の中に高レベル放射性廃棄物を埋設する地層処分が検討されている。図15は、高レベル放射性廃棄物の地層処分施設の概略構成を示す図である。地層処分施設は、複数の処分トンネル(坑道)と、これらの処分トンネルを連結する主要トンネルと、主要トンネルを地上受入施設に連結する数種類の立坑とを備える。我が国の場合、地層処分施設は、地下300mより深い位置に設置することが法令によって定められている。
【0004】
上述した地層処分施設では、施工前に、地下施設の坑道の支保および周辺地山の安定性を正しく評価することが求められる。このうち、特に重要なのが、坑道周辺の地山の安定性の評価方法である。トンネルにおいて用いられる既往の地山の安定性の評価方法としては、許容壁面ひずみを用いて安定性を評価する方法が知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−114697号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した特許文献1の従来技術は、坑道が円形以外の坑道形状を有する場合や複雑な掘削を行う場合に適用すると評価精度が低くなってしまうという問題があった。
【0007】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、円形以外の坑道形状を有する場合や複雑な掘削を行う場合にも適用しても高い評価精度を維持することができる安定性評価方法および安定性評価装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る安定性評価方法は、坑道周辺の地山の安定性を評価する安定性評価方法であって、地山の地質条件および坑道の設置条件を含む条件設定を行う設計工程と、前記地山がMohr−Coulombの降伏基準にしたがうものとして、前記地山の材料の三軸圧縮試験から得られる応力−ひずみ曲線を軸ひずみの値で区分して線形化する区分線形ひずみ軟化モデルを形成するモデル形成工程と、前記モデル形成工程で形成した区分線形ひずみ軟化モデルに基づいて坑道部の地山の掘削の数値解析を行うことにより、所定の掘削区間における非線形ひずみ測度を算出する数値解析工程と、前記数値解析工程で算出した非線形ひずみ測度と、前記区分線形ひずみ軟化モデルにおける所定の軸ひずみに対応した非線形ひずみ測度である許容値とを比較することによって前記地山の安定性を評価する比較工程と、を有することを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る安定性評価方法は、上記発明において、前記比較工程で比較した結果、前記数値解析工程で算出した非線形ひずみ測度が前記許容値以下である場合に、該非線形ひずみ測度に対応する壁面変位を算出する変位算出工程と、前記設計工程で設定した条件にしたがって掘削を行う掘削工程と、前記掘削工程で掘削した坑道の壁面変位を計測する計測工程と、前記変位算出工程で算出した壁面変位と前記計測工程で計測した壁面変位とに基づいて掘削した地山の安定性を評価する評価工程と、をさらに有することを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る安定性評価方法は、上記発明において、前記所定の軸ひずみは、前記区分線形ひずみ軟化モデルにおける弾性限界ひずみ以上の値を有することを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る安定性評価装置は、坑道周辺の地山の安定性を評価する安定性評価装置であって、地山の地質条件および坑道の設置条件を含む条件、ならびに前記地山がMohr−Coulombの降伏基準にしたがうものとして、前記地山の材料の三軸圧縮試験から得られる応力−ひずみ曲線を軸ひずみの値で区分して線形化することによって形成される区分線形ひずみ軟化モデルの情報を記憶する記憶部と、前記記憶部が記憶する区分線形ひずみ軟化モデルに基づいて地山の掘削の数値解析を行うことにより、所定の掘削区間における非線形ひずみ測度を算出する数値解析部と、前記数値解析部が算出した非線形ひずみ測度と、所定の軸ひずみに対応した非線形ひずみ測度である許容値とを比較することによって前記地山の安定性を評価する比較部と、を備えたことを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係る安定性評価装置は、上記発明において、前記比較部が比較した結果、前記数値解析部が算出した非線形ひずみ測度が前記許容値以下である場合に、該非線形ひずみ測度に対応する壁面変位を算出する変位算出部と、前記変位算出部が算出した壁面変位と、前記条件にしたがって掘削された坑道で計測した壁面変位とに基づいて、掘削した地山の安定性を評価する評価部と、をさらに備えたことを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係る安定性評価装置は、上記発明において、前記所定の軸ひずみは、前記区分線形ひずみ軟化モデルにおける弾性限界ひずみ以上の値を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、地山がMohr−Coulombの降伏基準にしたがうものとして、地山の材料の三軸圧縮試験から得られる応力−ひずみ曲線を軸ひずみの値で区分して線形化する区分線形ひずみ軟化モデルを形成し、このモデルに基づいて坑道部の地山の掘削の数値解析を行うことによって算出した非線形ひずみ測度と、所定の軸ひずみに対応した非線形ひずみ測度である許容値とを比較することによって地山の安定性を評価するため、円形以外の坑道形状を有する場合や複雑な掘削を行う場合にも適用しても高い評価精度を維持することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、本発明の一実施の形態に係る安定性評価装置の構成を示すブロック図である。
【図2】図2は、区分線形ひずみ軟化モデルの概要を示す図である。
【図3】図3は、三軸圧縮試験から得られる応力−ひずみ曲線を示す図である。
【図4】図4は、弾性限界ひずみ、ピークひずみ、軟化開始ひずみおよび流動開始ひずみと拘束圧との関係を示す図である。
【図5】図5は、状態ひずみ比と拘束圧との関係を示す図である。
【図6】図6は、三軸圧縮試験によって得られる区分線形ひずみ軟化モデルの軸差応力と軸ひずみとの関係および体積ひずみと軸ひずみとの関係を示す図である。
【図7】図7は、本発明の一実施の形態に係る安定性評価方法の処理の概要を示すフローチャートである。
【図8】図8は、坑道の断面形状と寸法の設定例を示す図である。
【図9】図9は、解析対象とする領域(解析領域)と境界条件の設定例を模式的に示す図である。
【図10】図10は、図9に示す以外の解析条件を示す図である。
【図11】図11は、切羽近傍の要素分割状況を示す図である。
【図12】図12は、地質条件を示す図である。
【図13】図13は、地山と支保(吹付けコンクリート)との境界部分を拡大して表示した図である。
【図14】図14は、核燃料サイクルの概要を示す図である。
【図15】図15は、高レベル放射性廃棄物の地層処分施設の概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態(以下、「実施の形態」という)を説明する。
【0017】
図1は、本発明の一実施の形態に係る安定性評価装置の構成を示すブロック図である。同図に示す安定性評価装置1は、高レベル廃棄物の地層処分施設などに設けられる坑道周辺の地山の安定性を評価する装置である。安定性評価装置1は、キーボード、マウス、タッチパネル等のインタフェースを用いて実現され、各種情報の入力を受け付ける入力部2と、地山の安定性評価に関する各種演算を実行する演算部3と、液晶または有機EL等からなる表示パネルを用いて実現され、安定性評価結果を含む各種情報を表示出力する出力部4と、演算部3が演算を実行する際に必要なパラメータ等の情報を含む各種情報を記憶する記憶部5と、安定性評価装置1の動作を制御する制御部6と、を備える。
【0018】
演算部3は、掘削に関する数値解析を行うことによって安定性の評価指標となる非線形ひずみ測度を算出する数値解析部31と、数値解析部31が算出した非線形ひずみ測度を所定の許容値と比較する比較部32と、比較部32が比較した結果、非線形ひずみ測度が許容値以下である場合、非線形ひずみ測度に対応する壁面変位を算出する変位算出部33と、変位算出部33が算出した壁面変位と、実際の掘削に伴って計測された坑道の壁面変位とを比較することによって地山の安定性を評価する評価部34と、を有する。
【0019】
記憶部5は、入力部2によって入力された設計条件を記憶する設計条件記憶部51と、安定性を評価する際に実行する数値解析用のモデルに関する情報を記憶するモデル情報記憶部52とを有する。
【0020】
設計条件記憶部51が記憶する設計条件は、地質条件、設置条件、トンネルの形状および寸法、支保の設定などがある。このうち、地質条件は、弾性係数、ポアソン比、内部摩擦角、粘着力、一軸圧縮強度などである。また、設置条件は、掘削深度、掘削深度に応じた初期地圧、掘進長(掘進区間)などである。
【0021】
モデル情報記憶部52が記憶する数値解析用のモデルは、区分線形ひずみ軟化モデルと呼ばれるモデルである。図2は、区分線形ひずみ軟化モデルの概要を示す図である。図2に示す曲線Cssは、軟岩などの地山においてボーリングなどにより得られる試料を用いて三軸圧縮試験を行うことによって得られる応力−ひずみ曲線である。図2において、横軸は軸ひずみ(ε1)であり、縦軸は軸差応力(σ1−σ3)である。区分線形ひずみ軟化モデルは、4つの軸ひずみ(弾性限界ひずみεe,ピークひずみεp,軟化開始ひずみεs,流動開始ひずみεf)を用いて応力−ひずみ曲線Cssを5つの状態I〜Vに区分した後、状態ごとに線分(直線)で近似することによって得られる。図3に示すように、応力−ひずみ曲線は、三軸圧縮試験時の拘束圧σ3の値に応じて変化する。
【0022】
図4は、弾性限界ひずみεe,ピークひずみεp,軟化開始ひずみεs,および流動開始ひずみεfと、拘束圧σ3との関係を示す図である。また、図5は、弾性限界ひずみεeに対するピークひずみεpの比の値εp/εe=ηp、弾性限界ひずみεeに対する軟化開始ひずみεsの比の値εs/εe=ηs、および弾性限界ひずみεeに対する流動開始ひずみεfの比の値εf/εe=ηfと、拘束圧σ3との関係を示す図である。これらの比の値ηp,ηs,ηfは状態ひずみ比と呼ばれる。状態ひずみ比ηp,ηs,ηfは、一軸圧縮強度σcを用いることにより、
ηp=2σc-0.18,ηs=3σc-0.25,ηf=5σc-0.32
と表されることが知られている(アイダン・オメール,赤城知之,川本眺万,”スクィーズィングレベルの判定基準となるパラメータ(状態ひずみ)について”,土木学会第25回岩盤力学シンポジウム(89),pp.426−430,1993)。
【0023】
図6は、地山の材料の三軸圧縮試験によって得られる区分線形ひずみ軟化モデルの軸差応力σ1−σ3と軸ひずみε1との関係および体積ひずみεVと軸ひずみε1との関係を示す図である。図6において、折れ線OABCDが軸差応力σ1−σ3と軸ひずみε1との関係を示しており、折れ線OA'B'C'D'が体積ひずみεVと軸ひずみε1との関係を示している。なお、図中のf,g,hは、区間A'B',B'C',C'D'における体積増加率をそれぞれ示している(以下、勾配f,g,hという)。
【0024】
以上の機能構成を有する安定性評価装置1は、演算および制御機能を有するCPUを備えたコンピュータを用いて実現される。安定性評価装置1が備えるCPUは、記憶部5が記憶、格納する情報および本実施の形態に係る安定性評価方法を実行するためのプログラムを含む各種プログラムを記憶部5から読み出すことによって様々な演算処理を実行する。
【0025】
図7は、本実施の形態に係る安定性評価方法の処理の概要を示すフローチャートである。地山の安定性を評価する際には、各種条件設定を行うことによって設計を行う(ステップS1)。このステップS1で設定された条件は、安定性評価装置1の入力部2によって入力され、設計条件記憶部51に格納される。
【0026】
以下、具体的な条件設定例を示す。図8は、軟岩における地層処分施設の坑道の断面形状と寸法の設定例を示す図である。本実施の形態では、例えば内径が5m、掘削径が6mの円形断面を有する坑道を解析対象とする。このような坑道を用いれば、軸対称解析を行うことができ、逐次掘削によるモデルを単純化することができる。支保は例えば吹付けコンクリートのみを考慮し、吹付の厚さを0.5mとする。
【0027】
図9は、解析対象とする領域(解析領域)および境界条件の設定例を模式的に示す図である。図9に示す場合、解析領域は100(m)×100(m)である。また、最終切羽位置は、境界の影響を受けないように境界より60mとしている。
【0028】
図10は、上記以外の解析条件を示す図である。図10に示す場合、設置深度が500m、初期地圧が10.79MPa、掘進長が0.5mにそれぞれ設定されている。また、地層処分施設の施工計画を稼動5日で週休2日とした場合のサイクルタイムとして、掘削時間135分、吹付けコンクリート(インバートも含む)に要する時間が70分、ロックボルト+その他の処理に要する時間が35分と設定されている。
【0029】
図11は、坑道における切羽近傍の要素分割状況を示す図である。切羽近傍の要素として、地山と吹付けコンクリートを0.1m×0.25mに分割する。これにより、地山掘削部分は領域a'、b'に細分化され、吹付けコンクリートは領域a、bに細分化される。なお、図11の領域nは、切羽掘削区間を示している。また、領域i,i−1,・・・は、切羽面からL1の距離において吹付けコンクリートが設置された区間を示している。
【0030】
図12は、地質条件を示す図である。地質条件としては、軟岩系岩盤等級として、例えばSR−Dの岩盤等級の地山を利用する。この岩盤等級の地山の物性値として、弾性係数、ポアソン比、内部摩擦角、粘着力、一軸圧縮強度、換算一軸圧縮強度、状態ひずみが設定される。なお、岩盤等級がSR−Eの地山を利用することも可能である。
【0031】
図12に示す地質条件のうち、換算一軸圧縮強度は、Mohr−Coulombの降伏条件を用いて粘着力と内部摩擦角から算出される強度である。具体的には、図6の折れ線OABCDでピーク強度を有する区間ABにおけるMohr−Coulombの降伏条件は、ピーク強度における軸圧(最大主応力)σ1、拘束圧(最小主応力)σ3、および換算一軸圧縮強度σcを用いることにより、
σ1−κσ3−σc=0 …(1)
と表される。ここで、換算一軸圧縮強度σcおよび定数κは、ピーク強度における粘着力cpおよび内部摩擦角φpを用いて、それぞれ次式(2)、(3)で表される。
【数1】

【0032】
また、図6の折れ線OABCDで残留強度の区間CDにおけるMohr−Coulombの降伏条件は、残留強度の軸圧(最大主応力)σ'1、拘束圧(最小主応力)σ'3、および換算一軸圧縮強度σ'cを用いることにより、
σ'1−κ'σ'3−σ'c=0 (4)
と表される。ここで、換算一軸圧縮強度σ'cおよび定数κ'は、残留強さにおける粘着力crおよび内部摩擦角φrを用いて、それぞれ次式(5)、(6)で表される。
【数2】

【0033】
次に、地山の材料の三軸圧縮試験を行うことによって得られる応力−ひずみ曲線から区分線形ひずみ軟化モデルを形成する(ステップS2)。形成された区分線形ひずみ軟化モデルに関する情報は、モデル情報記憶部52に格納される。なお、安定性評価装置1が、演算部3によって応力−ひずみ曲線の情報から区分線形ひずみ軟化モデルを自動的に生成するようにすることも可能である。
【0034】
この後、数値解析部31が、設計条件記憶部51が記憶する設計条件に基づいて坑道部の地山の掘削の数値解析を行う(ステップS3)。具体的には、区分線形ひずみ軟化モデルを有限差分法コードFLAC(例えば、Itasca Consulting Group, Inc., "FLAC User's Guide", 2000.を参照)の中のひずみ軟化モデルに組み込んで解析を行う。この際、数値解析部31は、安定性評価指標としての非線形ひずみ測度
【数3】

を算出する。ここで、式(7)の右辺のepij(i,j=x,y,z)は偏差塑性ひずみであり、塑性ひずみεpijおよびクロネッカーのデルタδijを用いることにより、
【数4】

で定義される(i,j,k=x,y,z)。なお、本実施の形態において、同じ項に含まれるテンソルの共通の添え字については和をとるものとする。
【0035】
主塑性ひずみεp1とεp3との間には、
εp3=−αf・εp1,εp1=−αg・εp3
という関係がある。ここで、係数αfは、勾配fを用いて定義されるダイレイタンシー角
【数5】

を用いることにより、
【数6】

と表される。また、係数αgは、勾配gを用いて定義されるダイレイタンシー角
【数7】

を用いることにより、
【数8】

と表される。
【0036】
続いて、比較部32は、算出した非線形ひずみ測度ε(p)と所定の許容値ε(p)perとの大小関係を比較する(ステップS4)。この許容値ε(p)perは、区分線形ひずみ軟化モデルにおける弾性限界ひずみεe1以上の大きさを有する軸ひずみに対応する非線形ひずみ測度であれば、任意に設定可能である。例えば、地山がMohr−Coulombの降伏基準にしたがう場合、軸ひずみεs1,εf1にそれぞれ対応する非線形ひずみ測度ε(p)s,ε(p)fのいずれかを用いて許容値ε(p)perを定義することができる。ここで、非線形ひずみ測度ε(p)s,ε(p)fは、式(7)〜(12)を用いることにより、それぞれ
【数9】

と表される。ここで、弾性限界ひずみεe1は、地山の弾性係数E、拘束圧σ3および換算一軸圧縮強度ε0を用いて、
【数10】

と表される。
このように、区分線形ひずみ軟化モデルにおいて、弾性限界ひずみεe1より大きい軸ひずみに対応する非線形ひずみ測度は、弾性限界ひずみεe1を基準として与えられる。
【0037】
なお、ステップS2で形成した区間線形ひずみ軟化モデルにおいて、例えば、ひずみ軟化時の強度定数φを、ピーク強度時の内部摩擦角φpに等しい(φ=φp)と仮定し、ひずみ軟化時の付着力cを、非線形ひずみ測度ε(p),ε(p)s,ε(p)f、ピーク強度時の付着力cpおよび残留強度時の付着力crを用いて、次式(16)〜(18)で表現することもできる。
【数11】

【0038】
比較部32が比較した結果、ε(p)≦ε(p)perである場合(ステップS4:Yes)には、地山が安定であると評価することができる。この場合には、実際の掘削を行った後の安定性を評価するために、変位算出部33が、非線形ひずみ測度ε(p)を生じる坑道の壁面変位Uを算出する(ステップS5)。一方、比較部32が比較した結果、ε(p)>ε(p)perである場合(ステップS4:No)には、地山が不安定であるため、ステップS1へ戻って設計条件の見直しが行われる。
【0039】
図13は、地山と支保(吹付けコンクリート)との境界部分を拡大して表示した図である。変位算出部33は、まず地山要素Gと支保要素Tとの境界における節点変位をUj,Uj+1として、節点変位Uj,Uj+1の平均値
【数12】

を算出する。その後、変位算出部33は、一つの掘進長a〜b内の壁面変位Uavの平均値
【数13】

を算出し、掘進区間における壁面変位とする。ここで、式(19)の右辺のUava、Uavbは、それぞれ領域a、bにおける節点変位の平均値である。
【0040】
ステップS5の後、実際に掘削を行う(ステップS6)。この際の掘削は、上述した施工計画にしたがって所定掘進長だけ行う。
【0041】
その後、掘削によって生じた坑道の所定の掘進長における壁面変位uの計測を行う(ステップS7)。ここでの計測は、公知の方法にしたがって行えばよい。
【0042】
続いて、評価部34は、数値解析によって得られた変位量Uと計測によって得られた変位量uとを比較することによって地山の安定性を評価する(ステップS8)。評価部34が比較した結果、u≦Uである場合(ステップS8:Yes)、評価部34は、掘削を行った坑道周辺の地山が安定であると評価する(ステップS9)。この場合において、掘削を継続するとき(ステップS10:Yes)には、ステップS6に戻る。一方、掘削を継続しないとき(ステップS10:No)には、一連の処理を終了する。
【0043】
これに対し、評価部34が比較した結果、u>Uである場合(ステップS8:No)、評価部34は、掘削を行った坑道周辺の地山が不安定であると評価する(ステップS11)。この場合において、処理を継続するとき(ステップS12:Yes)、ステップS1に戻って設計条件を再設定する。一方、処理を継続しないとき(ステップS12:No)、一連の処理を終了する。
【0044】
以上説明した本発明の一実施の形態によれば、地山がMohr−Coulombの降伏基準にしたがうものとして、地山の材料の三軸圧縮試験から得られる応力−ひずみ曲線を軸ひずみの値で区分して線形化する区分線形ひずみ軟化モデルを形成し、このモデルに基づいて坑道部の地山の掘削の数値解析を行うことによって算出した非線形ひずみ測度と、所定の軸ひずみに対応した非線形ひずみ測度である許容値とを比較することによって地山の安定性を評価するため、円形以外の坑道形状を有する場合や複雑な掘削を行う場合にも適用しても高い評価精度を維持することが可能となる。
【0045】
また、本実施の形態によれば、非線形ひずみ測度を安定性の評価指標として用いているため、地山の安定性を定量的に評価することができる。
【0046】
また、本実施の形態によれば、数値解析によって得られた非線形ひずみ測度が許容値以下である場合に、該非線形ひずみ測度に対応する壁面変位を算出する一方、設定した条件にしたがって実際の掘削を行った後で掘削した坑道の壁面変位を計測し、算出した壁面変位と計測した壁面変位とに基づいて、掘削した地山の安定性を評価するため、施工を進めながら高精度な安定性の評価を行うことができる。
【0047】
また、本実施の形態によれば、許容値を定める軸ひずみが、区分線形ひずみ軟化モデルにおける軟化開始ひずみ以上の値を有するため、上記特許文献1に記載の技術では使用することができなかった許容値を設定することが可能となり、より正確な安定性の評価を行うことができる。
【符号の説明】
【0048】
1 安定性評価装置
2 入力部
3 演算部
4 出力部
5 記憶部
6 制御部
31 数値解析部
32 比較部
33 変位算出部
34 評価部
51 設計条件記憶部
52 モデル情報記憶部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
坑道周辺の地山の安定性を評価する安定性評価方法であって、
地山の地質条件および坑道の設置条件を含む条件設定を行う設計工程と、
前記地山がMohr−Coulombの降伏基準にしたがうものとして、前記地山の材料の三軸圧縮試験から得られる応力−ひずみ曲線を軸ひずみの値で区分して線形化する区分線形ひずみ軟化モデルを形成するモデル形成工程と、
前記モデル形成工程で形成した区分線形ひずみ軟化モデルに基づいて坑道部の地山の掘削の数値解析を行うことにより、所定の掘削区間における非線形ひずみ測度を算出する数値解析工程と、
前記数値解析工程で算出した非線形ひずみ測度と、前記区分線形ひずみ軟化モデルにおける所定の軸ひずみに対応した非線形ひずみ測度である許容値とを比較することによって前記地山の安定性を評価する比較工程と、
を有することを特徴とする安定性評価方法。
【請求項2】
前記比較工程で比較した結果、前記数値解析工程で算出した非線形ひずみ測度が前記許容値以下である場合に、該非線形ひずみ測度に対応する壁面変位を算出する変位算出工程と、
前記設計工程で設定した条件にしたがって掘削を行う掘削工程と、
前記掘削工程で掘削した坑道の壁面変位を計測する計測工程と、
前記変位算出工程で算出した壁面変位と前記計測工程で計測した壁面変位とに基づいて掘削した地山の安定性を評価する評価工程と、
をさらに有することを特徴とする請求項1に記載の安定性評価方法。
【請求項3】
前記所定の軸ひずみは、前記区分線形ひずみ軟化モデルにおける弾性限界ひずみ以上の値を有することを特徴とする請求項1または2に記載の安定性評価方法。
【請求項4】
坑道周辺の地山の安定性を評価する安定性評価装置であって、
地山の地質条件および坑道の設置条件を含む条件、ならびに前記地山がMohr−Coulombの降伏基準にしたがうものとして、前記地山の材料の三軸圧縮試験から得られる応力−ひずみ曲線を軸ひずみの値で区分して線形化することによって形成される区分線形ひずみ軟化モデルの情報を記憶する記憶部と、
前記記憶部が記憶する区分線形ひずみ軟化モデルに基づいて地山の掘削の数値解析を行うことにより、所定の掘削区間における非線形ひずみ測度を算出する数値解析部と、
前記数値解析部が算出した非線形ひずみ測度と、所定の軸ひずみに対応した非線形ひずみ測度である許容値とを比較することによって前記地山の安定性を評価する比較部と、
を備えたことを特徴とする安定性評価装置。
【請求項5】
前記比較部が比較した結果、前記数値解析部が算出した非線形ひずみ測度が前記許容値以下である場合に、該非線形ひずみ測度に対応する壁面変位を算出する変位算出部と、
前記変位算出部が算出した壁面変位と、前記条件にしたがって掘削された坑道で計測した壁面変位とに基づいて、掘削した地山の安定性を評価する評価部と、
をさらに備えたことを特徴とする請求項4に記載の安定性評価装置。
【請求項6】
前記所定の軸ひずみは、前記区分線形ひずみ軟化モデルにおける軟化開始ひずみ以上の値を有することを特徴とする請求項4または5に記載の安定性評価装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−112111(P2012−112111A)
【公開日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−259959(P2010−259959)
【出願日】平成22年11月22日(2010.11.22)
【出願人】(000002299)清水建設株式会社 (2,433)