説明

対象物質捕集装置および捕集方法

【課題】 試料として例えば皮膚表面の、そこから放出される対象物質であるガスと外気中の物質とを、それぞれ捕集することが可能な捕集装置を提供する。
【解決手段】 皮膚表面から放出されるガスを捕集するためのシートと環境中の空気を捕集するシートとを、捕集面が互いに向きあうように貼り合わせた捕集装置を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料から放出される対象物質を捕集する装置またそれを用いた捕集方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、人の皮膚表面から放出されるガス成分の濃度から健康状態などを測定できる可能性が示唆されている。例えば皮膚から放出されるガス成分中のアセトンの濃度と、血液中のβ−ヒドロキシ酪酸との濃度の相関が報告されている(非特許文献1)。これによれば採血とは異なり、被験者に対して非侵襲的に採取した試料から健康状態を判断することが可能である。
【0003】
特許文献1は人の皮膚表面から放出されるガスを採取する方法が記載され、ガス収集容器が考案されている。また特許文献2にはガス吸着シートが考案されている。これらは、いずれも皮膚から放出されたガスを容器あるいはシートに移すことで、分析装置への導入を容易にするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第3850662号公報
【特許文献2】特開2006−214747号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】野瀬 和利,近藤 孝晴,荒木 修喜,津田 孝雄:分析化学:Vol.54,p.161(2005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
皮膚表面からの放出された対象物質と空気中に含まれている同種の物質とを区別することが測定の精度を上げる上で重要である。本発明は、皮膚表面からの放出されたガスに空気中に含まれている同種のガスが混合しない状態で対象物質を捕集する対象物質捕集装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明により、
試料の一部と接することで前記試料から放出される対象物質を捕集する捕集部を有する第1の部材と、前記試料が曝されている空間に曝されることで前記空間中の物質を捕集する捕集部を有する第2の部材とを有し、
前記第1の部材の捕集部も前記第2の部材の捕集部も外気から遮断されて保持されるように前記第1の部材と前記第2の部材とを重ね合わせて保持する保持手段を有することを特徴とする対象物質捕集装置が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、試料の一部に第1の部材の捕集部を接することで外界のたとえば空気に触れることなく試料から放出される対象物質を収集することができる。さらに第2の部材の捕集部は第1の部材の使用時と同じタイミングで外界に曝されるので、外界の物質例えば参照用ガスの捕集も同時に開始することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】第1の実施の形態に係る対象物質捕集装置の構成を示す模式図である。
【図2】第1の実施の形態に係る対象物質捕集装置の使用時を示す模式図である。
【図3】第1の実施の形態に係る対象物質捕集装置の、第1の部材を捕集部からみた模式図である。
【図4】第2の実施の形態に係る対象物質捕集装置を示す模式図である。
【図5】第3の実施の形態に係る対象物質捕集装置を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(第1の実施の形態)
第1の実施の形態に係る対象物質捕集装置は、第1の部材と第2の部材とが互いの捕集部を対向させて貼りあわされている形態である。
【0011】
図1は第1の実施の形態に係る対象物質捕集装置の構成を示す模式図である。
【0012】
第1の部材はカバーシート101と、捕集部である捕集シート103と、保護シート107を有している。また第2の部材はカバーシート102と、捕集部である捕集シート104と、保護シート108を有している。
【0013】
第1の部材は皮膚等の試料の表面に貼りつく部材であり、第2の部材は参照用の部材である。
【0014】
捕集シート103は皮膚に対向して配置され、保護シート107を介して皮膚から放出される対象ガス(対象物質)を取り込む。皮膚から放出されるガスは、対象ガスを含んでいる。
【0015】
カバーシート101、捕集シート103、保護シート107はいずれも可撓性である。これにより肘や膝等の曲がる試料に対応することができる。
【0016】
保持手段であるカバーシート105は粘着性で、その面(粘着面)が試料表面に貼りつき、少なくとも捕集している間は剥れない。 捕集シートは103は母材が不織布あるいは濾紙である。そこにシリカゲルが設けられており、皮膚から放出されるアセトン(対象物質)に触れることで捕集し変色する。シリカゲルはソルバトクロミック物質を有している。ソルバトクロミック物質は例えば(2,6−diphenyl−4−(2,4,6−tripheynylpyidinio)phenolateのようなReichardt’s dyeや、例えば[Ni(acac)(tmen)]BPh4といったニッケル錯体である。
【0017】
カバーシート101はガスを透過しないシートであり、その素材は、ポリビニールフルオライドである。
【0018】
保護シート107は皮膚の汚れなどが捕集シート103に直接触れないようにするためのシートである。
【0019】
図1に図示されるように第1の部材と第2の部材の捕集部は、第1の部材と第2の部材とが張り合わされていることにより外気から遮断されている。これにより捕集シート103は皮膚からアセトンを捕集するまで保護されている。
【0020】
第2の部材は第1の部材と同じ構成である。中でも第2の部材の捕集シート104は第1の部材の捕集シート103と同一の構成である。第1の部材と第2の部材は、貼りあわされた状態から剥がされ、第1の部材は皮膚に貼られ、同時に第2の部材は皮膚に貼られず、外気にさらされる。これにより第1の部材が空間中の物質であるアセトンを捕集している間、第2の部材は外気中のアセトンを取り込み、変色する。
【0021】
第1の部材の捕集シート103が皮膚から放出されるアセトンを捕集している間、捕集シート103は外気に曝されない。したがって捕集シート103が着色する変化の度合いは皮膚から放出されるアセトンの量に影響される。
【0022】
一方で捕集中に外気に含まれるアセトンを捕集シート104によって捕集するのはそのアセトンを利用するためである。
【0023】
具体的には、捕集シート103に捕集されるアセトンの総量のうち、皮膚に由来するアセトンの量と大気中のアセトンの量との分離である。捕集シート103には外界に由来するアセトンと皮膚から放出されるアセトンの両方が捕集されている。一方、捕集シート104には外界のアセトンのみが捕集されている。捕集シート103と104とは、同じタイミングで外界にさらされることから、双方の差分を取ることで、皮膚から放出されるアセトンの量を正確に把握することが可能となる。アセトンの量とは例えば濃度である。
【0024】
双方の差分を取ることについて説明する。差分とは捕集シート103の変色の度合いと捕集シート104のそれとの違いである。濃度の違いにより色の度合いが異なるリファレンスをあらかじめ複数用意しておく。リファレンスは色の度合いと濃度が対応したものである。このようなリファレンスを用いれば、それぞれの捕集シート103、104の変色の度合いに最も近いリファレンスを選ぶことができ、それらの濃度の差分を計算することができる。
【0025】
本実施形態に係る対象物質捕集装置が有する第1、第2の部材のカバーシートは、いずれも対象ガスを透過しないものであるが、本発明においてカバーシートは対象ガス以外の別のガスを透過してもよい。
【0026】
本実施形態に係る第1の部材も第2の部材も可撓性であるが、本発明は少なくともいずれか一方のカバーシートはたわみにくい、具体的にはたわまない金属板ようなカバーシートであってもよい。
【0027】
本実施形態に係る試料は四肢や背中等といった哺乳類の部位にある皮膚であるが、本発明に係る試料は皮膚である以外に、内臓でもよい。また試料は魚類、植物等であってもよい。
【0028】
本実施形態に係る第1の部材が捕集する対象物質は、気体(ガス)であるが、本発明に係る対象物質は個体、液体でもよい。好ましくは外気と混じりやすい気体である。
【0029】
気体はアセトンのほかにアルコール類、アルデヒド類、イソプレン、窒素酸化物などであってもよい。好ましくはアセトンである。というのも血液中のケトン体の濃度と皮膚から採取されるガス中のアセトンの濃度に相関があるからである。
【0030】
本実施形態に係る第1の部材はカバーシートが粘着性を有しているが、本発明では第1の部材あるいは第2の部材が重ね合わせて保持されればそれを可能にするものが保持手段である。他にも例えば第1の部材あるいは第2の部材の少なくともいずれか一方が粘着性を有してもよく、またいずれも粘着性を有さず、別部材の例えば両面に粘着性を有する部材を用いてもよい。具体的には両部材が対向する面にこの両面に粘着性を有する部材を配置してもよい。また後述する第3の実施形態のようにクランプ等のはさみで両部材を貼り合わせてもよい。
【0031】
本実施形態に係る捕集シート103はシリカゲルを有するが捕集シートはその代わりにモレキュラーシーブスでもよい。
【0032】
アセトンを捕集する場合はこれらが好ましい。そしてその他として吸着性のある多孔質素材や、相互作用力によりアセトンを捕集する非多孔性素材や、アセトンを特異的に吸着するアミン化合物などを使用することができる。捕集シート104も同様にこれらから選ばれたものを有すればよい。捕集シート103、104は同じものを有してもよく、異なるものを有してもよい。
【0033】
シリカゲルやモレキュラーシーブスやその他多孔質素材や非多孔性素材やアミン化合物といった対象物質を捕集する物質を用いる場合、捕集後熱を加えて対象物質を回収し、濃度を測定してもよい。この場合、回収された対象物質を例えばガスクロマトグラフィーを用いて濃度測定することができる。ガスクロマトグラフィーを用いる場合は、既知の濃度の対象物質を用いて検量線をあらかじめ作成することで、正確な濃度測定ができる。
【0034】
本実施形態に係る第1の部材も第2の部材もそれぞれ保護シート107、108を有しているが、少なくともいずれか一方は無くてもよい。例えばカバーシート101、102の少なくともいずれかが粘着性を有していれば保護シート107、108の少なくともいずれか一方が省略されてもよい。あるいはカバーシート101、102の少なくともいずれかが粘着性を有していても粘着性のある保護シート107、108の少なくともいずれか一方が設けられていてもよい。
【0035】
図2は、第1の実施の形態に係る対象物質捕集装置の使用時を示す模式図である。具体的には図1に示すガスの捕集シートを用いて、皮膚ガスを捕集する様子の模式図である。
【0036】
第1の部材201を皮膚203の一部(試料の一部)に貼りつけ、第2の部材202を、捕集シート104が皮膚の外気に曝されるように静置させる。
【0037】
図3は、第1の実施の形態に係る対象物質捕集装置の、第1の部材を捕集部からみた模式図である。保護シート107は捕集シート103より外側に配置され、その外側にカバーシート101の縁がある。保護シート107は捕集シート103より広く、捕集シート103の表面を保護している。捕集シート103は保護シート107とカバーシート101によって挟まれている。捕集シート103が粉状物質を含んでいる場合、保護シート107により飛び散らない。
【0038】
(第2の実施の形態)
本発明の第2の実施の形態に係る対象物質捕集装置は、捕集シート103、104がカバーシート101、102の半分以下の面積で、それぞれがカバーシート101の片側に寄っている。
第1の部材と第2の部材とが貼り合わされている場合、捕集シート同士は対向しないでずれている。その他は第1の実施の形態と同じである。
【0039】
(第3の実施の形態)
本発明の第2の実施の形態に係る対象物質捕集装置は、第1および第2の部材がクランプ等のはさみで貼り合わされている形態である。それ以外は第1および第2のいずれかの形態と同じである。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明にて説明するガスの捕集シートにて、例えば皮膚から放出されるガスを捕集することができる。
【符号の説明】
【0041】
103、104 捕集部
105 保持手段
201 第1の部材
202 第2の部材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料の一部と接することで前記試料から放出される対象物質を捕集する捕集部を有する第1の部材と、前記試料が曝されている空間に曝されることで前記空間中の物質を捕集する捕集部を有する第2の部材とを有し、
前記第1の部材の捕集部も前記第2の部材の捕集部も外気から遮断されて保持されるように前記第1の部材と前記第2の部材とを重ね合わせて保持する保持手段を有することを特徴とする対象物質捕集装置。
【請求項2】
前記第1の部材と前記第2の部材はいずれもシートであることを特徴とする請求項1に記載の対象物質捕集装置。
【請求項3】
前記空間中の物質とは、前記対象物質であることを特徴とする請求項1と2のいずれか一項に記載の対象物質捕集装置。
【請求項4】
前記対象物質はアセトンであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の対象物質捕集装置。
【請求項5】
前記保持手段は前記第1の部材と前記第2の部材の少なくともいずれか一方が有する粘着面であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の対象物質捕集装置。
【請求項6】
前記保持手段は前記第1の部材と前記第2の部材を挟む手段であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の対象物質捕集装置。
【請求項7】
第1の部材と第2の部材が重ねあわされていることで、前記第1の部材の捕集部と前記第2の部材の捕集部とが外界から遮断されている対象物質捕集装置によって対象物質を捕集する捕集方法であって、
重ねあっている前記第1の部材と前記第2の部材を剥がし、
前記第1の部材の捕集部を試料の一部に接し、
前記第2の部材の捕集部を前記試料が曝されている空間に曝し、
前記第1の部材の捕集部によって前記試料から放出される対象物質を捕集し、
前記第2の部材の捕集部によって前記空間中の物質を捕集する捕集方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−193992(P2012−193992A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−56806(P2011−56806)
【出願日】平成23年3月15日(2011.3.15)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】