説明

封入した生物活性物質の制御された放出

本発明は、酵母を含むコアと乳化可能な脂質を含む被覆とを含む封入した酵母複合体である。酵母はサッカロミセス セレビシエを含む。本発明はさらに、他の封入した生物活性物質複合体にも関する。被覆の性質によって、封入物からの生物活性物質の制御された放出が提供される。本封入した複合体は、食品組成物、食品、及び動物用飼料製品において有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的には、食品の製造に関し、特に食品における酵母の使用に関する。本発明はさらに、他の食品成分及び/又は動物用飼料の成分及び/又は食品及び/又は動物用飼料製品の内部又は外部の環境条件に曝された場合に好適に保護される生物活性物質の使用に関する。
【背景技術】
【0002】
酵母は生きた有機体であり、周囲の環境に敏感である。例えば、酵母を水分に曝すと酵母が不安定化する可能性がある。
【0003】
ベーカリーミックス用の乾燥ミックスパッケージの製造業者は、その乾燥ミックスパッケージにおける酵母の限界について経験を積んでいる。小麦粉中に存在する十分な水及び乾燥ミックスパッケージ中に存在する他の成分は、該パッケージに含まれる酵母を最終的に不安定化させる。水分が存在するために、パッケージミックスに存在している間でさえ酵母は活性化し、二酸化炭素を生成し始める。結果として、消費者がパッケージミックスを使用しようとする場合、酵母の活性値はドウの細胞構造を十分に膨らませるのに必要な二酸化炭素を生成するには不十分になっている。したがって、ドウが十分に膨らまないので、得られた焼成品は消費者にとって感覚的に劣ったものとなる。
【0004】
この問題を解決するための一つの方法は、消費者が酵母を直接加えることである。しかしながら、このことは不整合な結果を生じることとなり、消費者の誤操作並びに混合装置及び調製方法の限界による一定しない操作が結果として生じる可能性がある。
【0005】
別の方法は、酵母を1回分の小容器に分けてパッケージすることである。従って、酵母は乾燥ミックスパッケージの他の成分と分離される。にもかかわらず、小容器ごとに少量の酵母をパッケージする費用が高いことから、この方法は高価な代替手段である。さらに、小容器をそれぞれの乾燥ミックスパッケージに確実に入れるためにパッケージミックスの費用が実質的に増加する。
【0006】
乾燥ミックスパッケージの安定性を増加させる他の方法は、小麦粉を含むパッケージ成分の全てを乾燥することである。しかしながら、酵母に損害を与える値まで、パッケージの成分は保存中に最終的に水分を吸収するため、この方法は有効ではない。
【0007】
ナラヤナスワミイ他の米国特許第6,261,613号は、ベータ1次形態にある脂肪(すなわちブロック対称性を有するトリグリセリド結晶)に例えば酵母を封入する粒子を開示する。被覆物質はさらに乳化剤、例えば水素添加した植物油に見出されるものを含んでもよい。しかしながら、被覆物質は、約40℃〜約55℃の限られた温度範囲においてのみ酵母を放出することができる。
【0008】
パシフィコ他の米国特許第6,251,478B1は、脂質物質に封入した感受性の物質、例えば乳酸菌、酵素、及び栄養物を開示する。開示された脂質物質は、モノ−、ジ−、及びトリアシルグリセロールを含む。しかしながら、感受性の物質の放出速度の制御については記載されていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
酵母のような生物活性物質の放出速度を制御する必要がある。所望の最終製品(例えばパン)に応じて、例えば水と接触した後直ちに酵母が放出されることが必要となる場合がある。他の場合には、いくつかの製品、例えば冷蔵したドウでは、水に曝された場合に一定期間において遅延した放出速度が必要となる。
【0010】
従って、食品製造の分野において、生物活性物質、特に酵母の放出速度を制御する必要がある。このように、本発明の目的は、乳化可能な脂質を含む被覆を有する、安定化した封入した酵母を提供することであり、該被覆は例えば耐摩耗性及び保存安定性を付与し、食品組成物及び食品において使用される酵母の放出を制御する。さらに本発明の目的は、食品組成物、食品及び/又は動物用飼料製品で使用される、好ましくは安定化され、保護され、かつ放出が制御された生物活性物質を安定化することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、乳化可能な脂質と添加物を含む被覆中に生物活性物質を封入することによって、生物活性物質の放出速度が制御できるという、本出願人の驚くべき発見に基づいている。
【0012】
驚くべきことに出願人はさらに、一又は複数のモノグリセリドから本質的になる被覆を有する封入した生物活性物質複合体は、水のような溶媒に該封入した複合体を曝した場合に、生物活性物質の放出の増加を示すことを見出した。
【0013】
本発明は、封入した生物活性物質複合体、特に封入した酵母複合体、及びその組成物、特に食品組成物並びにそれから製造した製品を含む。本発明はさらに、食品組成物及びこの特定の複合体を使用する製品の製造方法も含む。
【0014】
封入した酵母複合体は酵母を含むコアと乳化可能な脂質を含む被覆とを含む。被覆は酵母を不安定化因子(例えば溶媒)から保護し、かつ複合体が溶媒に曝された場合に酵母の放出を制御する。好ましい態様において、溶媒は水性溶媒、例えば水である。
【0015】
乳化可能な脂質は、溶媒に曝された場合に乳化し、かつ典型的な保存温度において該脂質が固形であるような融点を有するものであれば、いずれの脂質でもよい。乳化可能な資質は植物又は動物から誘導した脂質であることができる。好ましい態様において、乳化可能な脂質はモノグリセリドである。
【0016】
好ましい態様において、封入した生物活性物質複合体は、一又は複数のモノグリセリドから本質的になる被覆によって取り囲まれた酵母を含む。
【0017】
本発明で有用な酵母は乾燥酵母であり、例えばサッカロミセス セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)を含む。好ましい態様では、酵母は即席酵母である。複合体中に存在する酵母の最小量は複合体の約5質量%、好ましくは約30質量%、より好ましくは約50質量%である。複合体中に存在する酵母の最大量は複合体の約95質量%、好ましくは約90質量%、より好ましくは約85質量%である。
【0018】
封入した酵母複合体を含む食品組成物は、乾燥ミックスパッケージ、又は冷凍若しくは冷蔵したドウであってもよい。好ましい態様では、食品組成物は乾燥ミックスパッケージである。
【0019】
食品は、他の食品成分と組み合わせた複合体を含む。この組み合わせを、酵母を放出する溶媒と接触させる。好ましい態様では、該組み合わせに溶媒を添加してドウを生じる。ドウを焙炉処理しかつ焼成して食品を得ることができる。好ましくは、食品はベーカリー製品であり、より好ましくはパン製品である。
【0020】
本発明の結果として、食品組成物、例えば乾燥ミックスパッケージ及びドウが受ける保存条件(例えば湿度、高温、酸素等)に耐えることができる酵母が提供される。封入した複合体の被覆は酵母を環境から保護し、かつ被覆の耐摩耗性を損なうことなく溶媒に乳化させる。溶媒における被覆の乳化により酵母の放出が可能となる。被覆の乳化を、乳化可能な脂質に添加剤を含ませることによって制御することができる。被覆の乳化を制御することによって、組成物、例えば冷凍したドウ及び冷蔵したドウにおける酵母を保護することが可能となる。
【0021】
本発明に従って封入し、保護しかつ放出を制御することができる他の生物活性物質は、例えば細菌、好ましくは有用な細菌、酵素、栄養素、例えばビタミン類、ミネラル類、及び抗酸化剤を含む。
【0022】
他の態様では、本発明は、溶媒に曝した場合の封入した複合体からの生物活性物質の放出速度を制御する方法に関する。この方法は、乳化可能な脂質を一定量の一又は複数の添加物とブレンドしてブレンドを得る工程;該ブレンドで生物活性物質を被覆して、生物活性物質を含むコアと該ブレンドを含む被覆とを含む封入した生物活性物質を形成する工程を含み、この場合、乳化可能な脂質と添加物とは同一ではなく、溶媒に曝した場合の封入した複合体からの生物活性物質の放出速度は添加物の量が増加するのに従って減少する。別の場合には、溶媒に曝した場合の封入した複合体からの生物活性物質の放出速度は添加物の量が減少するのに従って増加する。
【0023】
さらに他の態様では、本発明は、溶媒に曝した場合の封入した複合体からの生物活性物質の放出速度を制御する方法を提供する。この方法は、生物活性物質を一定量の乳化可能な脂質で被覆して封入した生物活性物質複合体を形成する工程を含み、この場合、封入した複合体からの生物活性物質の放出速度は、封入した複合体の全質量に対する乳化可能な脂質の量が増加するのに従って減少する。別の場合には、封入した複合体からの生物活性物質の放出速度は、封入した複合体の全質量に対する乳化可能な脂質の量が減少するのに従って増加する。
【0024】
本発明の結果として、食品組成物、食品及び/又は動物用飼料製品が受ける保存条件(例えば湿度、加熱、酸素等)に耐えることができる生物活性物質が提供される。封入した複合体の被覆は生物活性物質を環境から保護し、かつ被覆の耐摩耗性を損なうことなく溶媒における乳化を提供する。溶媒における被覆の乳化特性により食品組成物、食品及び/又は動物用飼料製品における生物活性物質の放出を制御することが可能となる。
【0025】
本発明を他のまたさらなる利点とともによりよく理解するために、以下の詳細な説明が参照され、また本発明の範囲は特許請求の範囲に記載されている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明は、封入した生物活性物質、特に酵母に関する。封入した生物活性物質は複合体であり、それは生物活性物質を含むコアと乳化可能な脂質を含む被覆とを含む。添加物を乳化可能な脂質とブレンドして生物活性物質の放出速度を制御することができる。
【0027】
本明細書で使用する“生物活性物質”は機能性又は栄養性を有し、かつ好ましくない状況に置かれた場合に典型的には低い安定性、生物活性も減少又は喪失を示す全ての物質を意味する。好ましくない状況は、例えば湿度、高温、酸素及び酸性又は塩基性pHを含んでもよい。生物活性物質がこのような状況に置かれた場合、生物活性物質は例えば分解し、解離し、不活性化し、かつ/又は生存能力を失う可能性がある。生物活性物質の例は酵母である。
【0028】
本発明で有用な酵母は乾燥酵母であってもよい。例えば酵母はサッカロミセス セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)であってもよい。好ましい態様では、酵母は即席酵母である。
【0029】
即席酵母は、使用前の発酵(すなわち水と糖による再構成)が必要でない高度に活性な酵母である。即席酵母は温水中で急速に活性化する。即席酵母の例は、ラピッド ライズ イースト(Rapid Rise Yeast)及びブレッド マシン イースト(Bread Machine Yeast)を含む。
【0030】
先に述べた酵母の機能特性に加えて、酵母は栄養特性を有することもできる。例えば、酵母はミネラルを豊富化し、消化を補助しかつ/又は宿主の腸内微生物バランスを有益に改良することができる。本発明に従って封入することができる有益な酵母は、サッカロミセス ボーラルディ(Saccharomyces boulardii)、サッカロミセス セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、及びサッカロミセス セレビシエ ボーラルディ(Saccharomyces cerevisiae boulardii)を含むが、これに限定されない。
【0031】
他の生物活性物質も本発明で考慮される。これらは、例えば微生物、酵素、香料、及び栄養素、例えばビタミン類、ミネラル類、及び抗酸化剤を含むが、これに限定されない。
【0032】
微生物は全ての単細胞有機体、例えば細菌、藻類、真菌類、及びプロトゾアを含む。微生物は天然の菌株及び研究室で育成した菌株を含むことができる。研究室で育成した菌株は組み換え遺伝子又は天然の菌株の性質と比較して特異的な生物学的性質を発現するように変性したものを含むことができる。例えば、微生物はタンパク質を発現するための遺伝子を組み換えた遺伝子を含むことができる。組み換え微生物及び/又は変性した微生物の製造方法は当業者に公知である。例えば、Molecular Cloning, A Laboratory Manual(Sambrook, et al., Second Edition, Cold Spring Harbor)を参照されたい。好ましくは、微生物は細菌である。
【0033】
本発明で有用な細菌は、いずれの細菌であってもよい。好ましくは、細菌は有用な細菌として作用する。有用な細菌は、典型的には微生物の補充であり、微生物のバランスを有利に改良する。例えば、有用な細菌は消化を援助することができ、宿主の消化管における良い細菌の成長を促進することによって病気の阻止を補助することができる。有用な細菌として使用することができる細菌はラクトバチルス(Lactobacillus)、ビフィドバクテリウム ロンガム(Bifidobacterium longum)、ペディオコッカス アシディラクティック(Pediococcus acidilactic)、及びエンテロコッカス フェシウム(Enterococcus faecium)を含むがこれに限定されない。好ましくは、ラクトバチルス(Lactobacillus)はラクトバチルス アシドフィラス(Lactobacillus acidophilus)又はラクトバチルス ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)である。
【0034】
酵素は、化学反応を触媒する全てのタンパク質分子を含む。本発明において有用な酵素は、例えばラクターゼ、リパーゼ、エステラーゼ、ペクチナーゼ、アミラーゼ、ホスホリパーゼ、及びグルコアミラーゼを含むが、これに限定されない。
【0035】
本発明で使用する栄養素は、現実のかつ/又は考えられる有益な健康上の利点を有し、使用者に長期にわたる有害な生物学的作用を及ぼさない物質である。有益な健康上の利点は、例えば食品の栄養欠乏を補うことを含んでもよい。栄養素の例はビタミン類、ミネラル類、及び抗酸化剤を含むが、これに限定されない。
【0036】
ビタミンは、正常な代謝過程において典型的に必須である全ての有機物質である。ビタミンはいずれのビタミンであってもよい。ビタミン類の例は、ビタミンA(レチノール)、B1(チアミン)、B2(リボフラビン)、B複合体、B6(ピリドキシン)、B12(コバラミン)、C(アスコルビン酸)、D(コレカルシフェロール)、E(トコフェロール)、F(リノール酸)、G、H(ビオチン)、及びK、並びにコリン、葉酸、イノシトール、ナイアシン、パントテン酸、及びパラ−アミノ安息香酸を含むが、これに限定されない。
【0037】
ミネラル類は、典型的には栄養に必須の天然の無機物質である。ミネラルはいずれのミネラルであってもよい。ミネラル類は、ホウ素、カルシウム、クロム、銅、鉄、マグネシウム、マンガン、モリブデン、ニッケル、リン、セレン、ケイ素、スズ、バナジウム、及び亜鉛を含むが、これに限定されない。
【0038】
抗酸化剤は、酸化を阻止し、かつ酸化の障害作用を妨げることができる物質である。抗酸化剤は酵素であってもよく、又は他の有機物質、例えばビタミンE又はベータカロチンであってもよい。
【0039】
生物活性物質は複合体中に、最小量で封入した複合体の約5質量%、好ましくは約30質量%、より好ましくは封入した複合体の約50質量%の量で存在する。封入した複合体中に存在する生物活性物質の最大量は複合体の約95質量%、好ましくは約90質量%、より好ましくは封入した複合体の約85質量%である。
【0040】
好ましくない状況から生物活性物質を保護し安定化するために、生物活性物質(コア)を、乳化可能な脂質を含む連続した被覆に封入する。本明細書で使用する“封入”という用語は、生物活性物質を完全に取り巻く被覆を意味する。
【0041】
本発明で有用な被覆は連続した被覆である。“連続した”という用語によって、生物活性物質は均一に保護されることを意味する。本発明の連続した被覆は完全に周囲を取り囲み、状況、例えば湿度、温度及び保存中に生じる状況からの生物活性物質の保護を提供し、かつ生物活性物質の制御された放出を提供する。生物活性物質の放出速度は、以下に述べるように添加物の添加によって制御される。複合体が溶媒に曝された場合、被覆中の乳化可能な脂質と溶媒が相互に作用し、その結果被覆の乳化が生じ、生物活性物質の放出が生じる。
【0042】
本明細書で使用する“乳化可能な脂質”は、溶媒に曝された場合にそれを乳化するか又は乳剤を形成するいずれの脂質であってもよい。“乳剤”は液体中で非常に微細に分割された脂質の懸濁によって形成された液体である。
【0043】
乳化可能な脂質はいずれの脂質又は脂質から誘導した物質であることができ、該物質は溶媒に曝した場合に乳化し又はエマルションを形成するが、典型的な保存温度、例えば23℃において該乳化可能な脂質が固体である融点を有するものである。本明細書において“乳化可能な脂質”は、少なくとも一つの親水性基と少なくとも一つの疎水性基を含み、溶媒中において親水性と疎水性の界面を形成することができる構造を有する脂質を意味する。乳化可能な脂質の上記したこれらの化学的及び/又は物理的性質によって、乳化が可能となる。界面の例は、例えばミセル及び二分子層を含む。親水性基は極性基であることができ、荷電してもよく非荷電であってもよい。
【0044】
乳化可能な脂質を動物又は植物起源から誘導することができ、例えばパーム核油、ダイズ油、綿実油、キャノラ油、家きん脂から誘導することができる。脂質は好ましくは水素添加され、飽和していてもよく部分的に不飽和であってもよい。乳化可能な脂質の例は、モノグリセリド、ジグリセリド、脂肪酸、脂肪酸のエステル、リン脂質、これらの塩、及びこれらの組み合わせを含むが、これらに限定されない。
【0045】
モノグリセリド及びジグリセリドを生物系中で自然に形成することができ、またトリグリセリドの部分的又は完全な加水分解及び市販の製造装置における蒸留によって製造することができる。これらの方法は当業者に公知である。モノグリセリドはモノアシルグリセロールとしても公知であり、これはグリセロールと脂肪酸のエステル結合で形成される分子である。ジグリセリド(すなわちジアシルグリセロール)は、それぞれの脂肪酸がグリセロールにエステル結合する二つの脂肪酸とグリセロールとで形成される分子である。モノ−又はジグリセリドに含まれる一又は複数の脂肪酸分子の性質により、乳化可能な脂質の性質を変化させることができる。例えば、水素添加したパーム油蒸留モノグリセリドは、より長い脂肪酸鎖を有するモノグリセリドと比較して増強された乳化能力を示す。
【0046】
リン脂質は、例えばモノアシル及びジアシルリン脂質であってもよい。リン脂質の例は、ホスファチジン酸、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルセリン、ホスファチジルグリセロール、及びジホスファチジルグリセロールを含むが、これに限定されない。
【0047】
脂肪酸は炭素原子4個の、好ましくは炭素原子6個の最小炭素原子鎖の長さを有することができる。脂肪酸に存在する最大炭素鎖の長さは24個の炭素原子であり、好ましくは22の炭素原子である。脂肪酸は飽和であっても不飽和(例えば部分的に飽和したもの)であってもよい。これらの脂肪酸の例は、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、パルミトオレイン酸、オレイン酸、リシノレイン酸、及びリノレン酸を含むが、これに限定されない。
【0048】
脂肪酸エステルは、4〜24の炭素原子を有する脂肪酸から製造するモノ−又はジグリセロールエステル、例えばグリセリルジステアレート、グリセリルモノステアレート、グリセリルジパルミテート、グリセリルモノパルミテート、グリセリルジラウレート、グリセリルジドコサノエート、グリセリルモノドコサノエート、グリセリルモノカプレート、グリセリルジカプレート、グリセリルモノミリステート、グリセリルジミリステート、グリセリルモノデセノエート、グリセリルジデセノエートであることができる。
【0049】
乳化可能な脂質は好ましくは食品級の乳化可能な脂質である。食品級の乳化可能な脂質のいくつかの例は、ソルビタンモノステアレート、ソルビタントリステアレート、カルシウムステアロイルラクチルレート、及びカルシウムステアロイルラクチレートを含む。乳化可能な脂質である食品級の脂肪酸エステルの例は、モノ−及びジグリセリドの酢酸エステル、モノ−及びジグリセリドのクエン酸エステル、モノ−及びジグリセリドの乳酸エステル、脂肪酸のポリグリセロールエステル、脂肪酸のプロピレングリコールエステル、及びモノ−及びジグリセリドのジアセチル酒石酸エステルを含む。
【0050】
好ましい態様において、乳化可能な脂質はモノグリセリドである。好ましくは、被覆は水素添加したパーム油からの100%蒸留モノグリセリドを含む。
【0051】
他の好ましい態様では、生物活性物質が酵母である場合、被覆は本質的に一又は複数のモノグリセリドからなる。
【0052】
上記のように、被覆はさらに一又は複数の添加物を含むことができる。添加物を使用して、封入した複合体を溶媒に曝した場合に封入した複合体から生物活性物質が放出される速度を制御することができ、これは以下に記載される。
【0053】
他の態様において、本発明は封入した複合体からの生物活性物質の放出速度を制御する方法に関する。該方法は、乳化可能な脂質を一又は複数の添加物とブレンドしてブレンドを得、生物活性物質を該ブレンドで被覆して、生物活性物質を含むコア及び乳化可能な脂質と一又は複数の添加物とのブレンドを含む被覆を含む封入した生物活性物質を製造することを含む。溶媒に曝した場合の封入した複合体からの生物活性物質の放出速度は、添加物の量が増加するに従って減少する。別の場合には、溶媒に曝した場合の封入した複合体からの生物活性物質の放出速度は、添加物の量が減少するに従って増加する。このように、被覆の性質によって封入体からの生物活性物質の放出を制御することができる。
【0054】
乳化可能な脂質を添加物とブレンドすることは、当業者に公知のいずれの方法によっても行うことができる。例えば、不飽和脂肪酸の酸化を防ぐために通常窒素の存在下にタンク中で撹拌しながら脂質を溶融状態でブレンドすることができる。
【0055】
添加物は、乳化可能な脂質、乳化可能でない脂質、又はこれらの組み合わせであってもよい。しかしながら、添加物と乳化可能な脂質とは同一物であることはできない。例えば、乳化可能な脂質がモノグリセリドである場合には、添加物は同一のモノグリセリドであることはできないが、異なるモノグリセリドであることはできる。先に述べたように、モノグリセリドは、例えばその脂肪酸基において変化することができる。被覆の乳化に関する異なる化学的性質及び/又は物理的性質を有する異なる乳化可能な脂質を含むものを使用することによって、被覆の乳化及び生物活性物質の放出を制御することができる。例えば、水素添加したパーム油からの好ましい蒸留したモノグリセリドに加えて、該モノグリセリドにジグリセリドをブレンドして被覆の乳化を制御することができ、こうして複合体からの生物活性物質の放出速度を制御する(例えば減少させる)ことができる。
【0056】
乳化可能でない脂質は一般に単独では乳化しない。乳化可能でない脂質は、被覆の性質、及び構成脂質が乳化を可能とする限りは、添加物として使用することができる。乳化可能でない脂質、例えばトリグリセリドを、本発明の乳化可能な脂質とブレンドすることができる。一又は複数の添加物と本発明の乳化可能な脂質とを含むものを使用して、被覆の乳化及び生物活性物質の放出を制御する。例えば、添加物、トリグリセリドをモノグリセリド(例えば乳化可能な脂質)とブレンドして被覆の乳化を制御することができ、こうして複合体からの生物活性物質の放出速度を制御する(例えば減少させる)ことができる。さらなる例として、一又は複数の添加物、例えばジグリセリド及びトリグリセリドを乳化可能な脂質とブレンドして、生物活性物質の放出を制御することができる。
【0057】
乳化可能でない脂質は、上記したような乳化に関する化学的及び/又は物理的性質を有せず、全ての脂質、脂質から誘導した物質、ワックス、有機エステル、又はこれらの組み合わせを含む。乳化可能でない脂質を動物、植物、無機物又は合成物起源のものから誘導することができる。乳化可能でない脂質は好ましくは水素添加されており、飽和又は不飽和であってもよく、かつトリグリセリドに限定されない。好ましい態様では、被覆はモノグリセリドとトリグリセリドとのブレンドを含む。
【0058】
ワックスはパラフィンワックス、石油ワックス、無機ワックス、例えばオゾケライト、セレシン、又はモンタンワックス、植物ワックス、例えばカルナウバワックス、ベイベリーワックス又はフラックスワックス、動物ワックス、例えばゲイロウ、又は昆虫ワックス、例えばミツロウであることができる。
【0059】
さらに、ワックス物質は、12〜31の炭素原子を有する脂肪酸のエステル及び12〜31の炭素原子を有する脂肪アルコールであってもよく、この場合エステルは炭素原子含量は24〜62である、又はこれらの混合物であってもよい。例はミリシルパルミテート、セチルパルミテート、ミリシルセロテート、セチルミリステート、セチルパルミテート、セチルセルテート、ミリシルメリスセート、ステアリルパルミテート、ステアリルミリステート、及びラウリルラウレートを含む。
【0060】
乳化可能な脂質は被覆中に約1%、好ましくは約5%、より好ましくは約15%の最小量で存在する。乳化可能な脂質は被覆中に100%、好ましくは約95%、より好ましくは約90%の最大量で存在する。
【0061】
放出速度は、封入した複合体が溶媒に曝された時間当たりに放出される生物活性物質の量である。例えば、例として50%のトリグリセリドと50%のモノグリセリドのブレンドを含む被覆を有する封入した複合体中の生物活性物質の放出速度は、1%のトリグリセリドと99%のモノグリセリドのブレンドを含む被覆を有する封入した複合体と比較して減少する。
【0062】
さらなる態様において、本発明は、溶媒に曝した場合の封入した複合体からの生物活性物質の放出速度を制御する方法を提供する。この方法は、生物活性物質を一定量の乳化可能な脂質で被覆して封入した生物活性物質複合体を形成することを含み、この場合、封入した複合体の全質量に対する乳化可能な脂質の量が増加するに従って、封入した複合体からの生物活性物質の放出速度が減少する。別の場合には、封入した複合体の全質量に対する乳化可能な脂質の量が減少するに従って、封入した複合体からの生物活性物質の放出速度が増加する。この態様で使用することができる乳化可能な脂質は、本質的に一又は複数のモノグリセリドから成ることができる。
【0063】
例えば、封入した複合体は、封入した複合体の全質量に対して、15質量%の乳化可能な脂質、例えばモノグリセリドと85質量%の生物活性物質を含むことができる。例えば、1質量%の乳化可能な脂質を有する封入した複合体では、60質量%の乳化可能な脂質を有する封入した複合体と比較して、封入した複合体からの生物活性物質の放出速度が増加する。
【0064】
上記の被覆の性質(例えば質の組成)に加えて、封入した複合体からの生物活性物質の放出速度は、さらに、例えば封入する生物活性物質、封入した複合体が曝される環境条件、使用する溶媒の型、使用する溶媒の量、及び/又はせん断(例えば混合)にも依存する可能性がある。
【0065】
本発明の封入した複合体から利益を受ける封入した複合体、食品組成物、食品、及び/又は動物用飼料製品の官能特性を強化する成分を、被覆はさらに含むことができる。これらの成分の例は保存剤及び芳香剤を含むが、これに限定されない。
【0066】
被覆は生物活性物質を被覆して(すなわち取り巻いて)、適切な時に放出されるまで周囲の環境から生物活性物質が保護される。本発明で有用な適切な時は、複合体に溶媒が添加される時及び被覆の性質を制御することによって決定される。従って、被覆は生物活性物質を保護し、生物活性物質の制御された放出を提供する。
【0067】
溶媒は水性溶媒であることができる。水性溶媒は乳化可能な脂質に存在する親水性基と相互作用して被覆の連続性を崩壊させ、その結果水性溶媒と被覆中の脂質との間のエマルションを生じさせ、こうして複合体から生物活性物質を放出させる。
【0068】
水性溶媒は本質的に水、例えばミルク、水等を含む液体である。好ましくは、水性溶媒は水である。
【0069】
溶媒はさらに水性溶媒と非極性溶媒、例えば油との混合物であってもよい。例えば、本発明の封入した酵母複合体を含むドウの製造に際して、水と油の溶液を添加することができる。水性溶媒は、封入した複合体の被覆中の乳化可能な脂質に存在する親水性基と相互作用する。非極性溶媒は、被覆中の乳化可能な脂質に存在する疎水性基と相互作用する。その結果、溶媒は被覆の連続性を崩壊させ、被覆中の脂質と溶媒の間のエマルションを形成し、複合体から生物活性物質を放出させる。
【0070】
被覆は、保存中の好ましくない状況、例えば温度、熱、湿度、酸素等から生物活性物質を保護する。従って、本発明の封入した複合体を、一年間又はそれ以上の期間まで、室温、冷蔵、又は冷凍温度で保存することができる。典型的には、室温は約15.6℃(60°F)〜約26.7℃(80°F)である。冷蔵温度は通常約1.4℃(34°F)〜約7.8℃(46°F)であり、冷凍温度は典型的には約−6.7℃(20°F)である。
【0071】
生物活性物質に連続被覆を行う方法は臨界的ではなく、本発明の部分を形成するものでもなく、被覆が生物活性物質に所望の程度の保護と放出を提供する限りいかなる方法によっても行うことができる。生物活性物質を乳化可能な脂質中へ、当業者に公知のいずれかの方法で封入することができる。例えば、生物活性物質を溶融した乳化可能な脂質へ懸濁し、該懸濁物を“冷凍室”へスプレーすることができる。
【0072】
別の方法として、生物活性物質を、流動床装置中で溶融した乳化可能な脂質で被覆することができる。米国特許第4,511,584号の第3〜5欄;第4,537,784号の第4〜5欄;第4,511,592号の第4欄;及び第4,497,845号の第4欄は、流動床装置において顆粒状粒子に脂質被覆を行う方法を開示している。基本的には、顆粒状粒子が流動床室へ導入される。次いで被覆物質を流動床室へスプレーすることによって顆粒状粒子に適用される。米国特許第4,511,584号;第4,537,784号;第4,511,592号;及び第4,497,845号を、流動床装置において生物活性物質へ乳化可能な脂質を含む被覆を適用する方法へ適合させることができる。米国特許第4,511,584号;第4,537,784号;第4,511,592号;及び第4,497,845号の関連部分を、これらに言及することによって本明細書に取り込む。
【0073】
適切な時間に生物活性物質を放出するまで、本被覆が、食品組成物、食品、及び/又は動物用飼料製品の製造及び保存に伴う上記の状況から生物活性物質を保護しかつ安定化する。
【0074】
本発明の一部として考慮されている食品組成物は、乳化可能な脂質を含む被覆を有する封入した生物活性物質を有利に含む食品組成物である。本組成物は他の成分、例えば小麦粉、乾燥卵、糖及び塩を含むことができる。本発明の組成物に含まれる成分の量及び割合は、当業者に公知である。例えば、組成物は乾燥ミックスパッケージであってもよい。乾燥ミックスパッケージは、例えばドリンクミックス、例えばタンパク質ドリンクミックス又は消化補助用ドリンクミックス、例えば封入した有用な細菌を含むミックスである。乾燥ミックスパッケージの他の例は、例えば乾燥クッキーミックスを含み、これは例えば封入した有用な細菌を含むことができる。乾燥ミックスパッケージが封入した酵母を含む場合、該乾燥ミックスパッケージは好ましくは溶媒の添加によってドウを形成するのに必要な微粒子成分を含む。食品組成物はさらに、冷凍又は冷蔵したドウ、例えばパンのドウ又はクッキーのドウであることができる。
【0075】
乾燥ミックスパッケージを室温、冷蔵又は冷凍温度で、乳化可能な被覆によって行われる保護によって生じる生物活性物質に対する有害な作用を生じることなく、保存することができる。好ましくは、乾燥ミックスパッケージを室温で保存する。乾燥ミックスパッケージを長期間保存することができる。典型的には、保存期間は1年又はそれ以上にまでなることができる。
【0076】
他の態様では、本発明は、本発明の封入した生物活性物質複合体を含む食品及び/又は動物用飼料製品、及び該食品及び/又は動物用飼料製品の製造方法に関する。食品及び/又は動物用飼料製品を、本発明の封入した生物活性物質複合体を他の成分と組み合わせることによって製造することができる。これらの成分を、本技術分野で公知のいずれの方法とも組み合わせることができる。方法は、例えば機械的手段、例えばミキサー、又は手動による手段、例えば手を動かすことを含むことができる。他の成分の例は、小麦粉、卵、糖及び塩を含むがこれに限定されない。特定の食品及び/又は動物用飼料製品における封入した生物活性物質複合体と他の成分の量及び割合は、当業者に公知である。
【0077】
例えば、封入した複合体が酵母を含む場合、形成された組み合わせはドウであることができる。焙炉処理は通常、ドウから食品を製造するための一つの工程である。焙炉処理は、酵母が糖を二酸化炭素へ変換する過程であり、これによってドウを膨張させることができる。
【0078】
ドウ(例えば冷凍したドウ、冷蔵したドウ、又は乾燥ミックスパッケージから得られたドウ)を、酵母の生存可能性に悪影響を与えないいずれかの温度で焙炉処理することができる。例えば、約29.4℃(85°F)又はそれより低い温度から約43.3℃(110°F)の範囲で焙炉処理される。典型的には、約32.2℃(90°F)〜約40.6℃(105°F)でドウを焙炉処理する。焙炉処理の後、ドウを当業者に公知の温度で焼成し、食品(例えばパン)が提供される。
【0079】
食品はいずれの摂取可能な組成物であってもよく、該組成物は有利には本発明の封入した生物活性物質複合体を含む。食品は固形、液状、又は半固形/半液状の形態にあることができる。食品はいずれの可食性組成物であることができ、該組成物は栄養補助食品を含む。食品の例はクッキー、ピザ生地、ベーカリー製品、ジュース類、乳製品、例えばアイスクリーム、ミルク、及びヨーグルトを含むが、これに限定されない。ベーカリー製品は、例えばロールパン、バン、ビスケット、又はパンであることができる。好ましくは、ベーカリー製品はパン類である。
【0080】
動物用飼料製品はいずれの摂取可能な組成物であってもよく、該組成物は有利には本発明の封入した生物活性物質を含む。動物用飼料製品は、固形(例えばペレット)、液状、又は半固形/半液状の形態にあることができる。動物はどんな動物でもよく、例えばヒヒ、及び他の霊長類、愛玩動物、例えば犬及び猫、実験動物、例えばラット及びマウス、家畜、例えば馬、羊及び雌牛であってもよい。動物用飼料製品の例は家畜用飼料、ペットフード、及び動物用ペレットを含む。
【0081】
特に食品及び/又は動物用飼料製品において使用する封入した生物活性物質の型は、当業者に公知である。例えば、食品がパン類である場合、当業者は本発明の封入した酵母複合体を使用することを理解するであろう。
【0082】

例1:蒸留し水素添加したパーム油モノグリセリドブレンドによる酵母の封入
酵母、例えば即席酵母を、封入法を使用して酵母に溶融した蒸留モノグリセリドブレンドをスプレーすることによって被覆する。封入法の例は、米国特許第3,913,847号に示されている流動床スプレーアプリケーターであり、これに言及することによってその全てを本明細書に取り込む。しかしながら、被覆方法は米国特許第3,913,847号に示された方法に限定されない。当業者は、本発明を、他の封入法、例えばスプレーチリング法及びスピニングディスク法を使用しても行えることを理解するであろう。
【0083】
モノグリセリド被覆は摩耗に抵抗することによって被覆を保護し、酸素及び湿度に対するバリヤーとして作用する。封入した酵母複合体は、酵母の保存の延長を生じる。
【0084】
例2:パン用の乾燥ミックスにおける封入した酵母複合体の改良された保存安定性
封入した酵母複合体を、例1に記載した方法に従って、100%水素添加したパーム油蒸留モノグリセリドで製造した。得られた複合体は15%の被覆と85%の酵母を含んでいた。
【0085】
封入した酵母複合体を外気湿度(40%から50%の相対湿度)で10週間保存した。毎週試料を取り出し、生酵母(同一条件下に保存したもの)と、パン種発酵試験において性能を比較した。
【0086】
製パン機焼成のためのドウの配合は以下のとおりである:

【0087】
成分を市販の製パン機に入れ、製造業者の指示に従って処理する。混合工程において、封入した酵母複合体が水に曝されると、酵母が放出される。焼成が終了した後、ローフを冷却し、検査のために切断し、ライズを測定した。
【0088】
保存試験の結果を以下の表1に示す:
表1
酵母の保存安定性に対する封入の作用

【0089】
上記の表に示されたように、同一条件下に保存された未封入の酵母に比べて、封入した酵母は優れたライズを生じた。従って、乳化可能な脂質を含む封入した酵母複合体の被覆は、保存中に遭遇する状況に対して顕著な保護を酵母に提供する。
【0090】
本発明の結果として、複合体を(組成物及びそれから製造する製品に)製造することができ、これは保存中に、予め配合した製パン機械による製品が遭遇する状況から酵母を保護し、優れたパン種発酵特性を提供する。さらに、保存期間が延びたことは、未封入の酵母に対して封入した酵母複合体を使用したことによる大きな利点である。
【0091】
例3.冷凍ドウにおける封入酵母複合体の保存安定性の改良
90%の水素添加した植物油/10%の蒸留したモノグリセリド被覆で封入した70%活性の酵母を評価するために、以下の配合に従ってドウを製造した:

配合1及び2に従ってドウを製造した後、ドウを−17.8℃(0°F)で3日間冷凍し、次いで3.4℃(38°F)で24時間冷蔵した。
【0092】
保存後に、ドウを37.8℃(100°F)で1時間焙炉処理し、次いで190.6℃(375°F)で15分間焼成した。配合1はある程度のライズを生じたが、一方配合2は極めて高いライズを提供した。パンのライズを観察した結果、以下の表2に詳細に示したとおり、封入した酵母(配合2)の改良された冷蔵及び冷凍保存安定性が示された。
表2
酵母の冷凍保存安定性に対する封入の作用

* 新鮮なドウを室温で2時間保持し、次いで上記のように焙炉処理し焼成した。
【0093】
上記の表で示したように、同一条件下で保存した場合、未封入酵母と比較して封入した酵母は優れたライズを生じた。従って、乳化可能な脂質を含む封入した酵母複合体の被覆は、冷凍したドウが遭遇する状況に対して顕著な保護を酵母に提供した。
【0094】
従って、被覆中に存在する添加物の量により、封入した複合体からの生物活性物質の放出速度を増加させることができ、このように、冷蔵しかつ冷凍したドウ中の酵母の保護が生じる。
【0095】
本発明の結果として、複合体を(組成物及びそれから製造する製品に)製造することができ、これは、冷蔵及び冷凍保存中及びドウの製造中に遭遇する状況から保存中の酵母を保護し、優れたパン種発酵性を提供する。さらに、保存期間が延びたことは、未封入の酵母に対して封入した酵母複合体を使用したことによる大きな利点である。
【0096】
上記のように、本発明の好ましい態様であると現在のところ考えられるものを記載してきたが、本発明に変化及び変更を行うことができ、他の態様も当業者には公知であり、これらは本発明の範囲内に入り、これらの他の変化及び変更並びに態様の全ては本出願の特許請求の範囲に記載した発明の範囲に入ることが意図されている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下を含む封入した生物活性物質複合体:
(a)生物活性物質を含むコア;及び
(b)乳化可能な脂質を含む被覆であって、該被覆が生物活性物質を連続的に被覆し、かつ乳化可能な脂質が溶媒に曝された場合に乳化する、被覆。
【請求項2】
被覆が本質的に一又は複数のモノグリセリドから成りかつ生物活性物質が酵母である、請求項1に記載の複合体。
【請求項3】
被覆が水素添加したパーム油の蒸留したモノグリセリドを含む、請求項1に記載の複合体。
【請求項4】
被覆がさらに一又は複数の添加物を含む、請求項1に記載の複合体。
【請求項5】
添加物がジグリセリド、トリグリセリド、又はこれらの組み合わせである、請求項4に記載の複合体。
【請求項6】
乳化可能な脂質が植物から誘導した脂質である、請求項1に記載の複合体。
【請求項7】
乳化可能な脂質が動物から誘導した脂質である、請求項1に記載の複合体。
【請求項8】
乳化可能な脂質がモノグリセリド、ジグリセリド、又はこれらの組み合わせである、請求項1に記載の複合体。
【請求項9】
乳化可能な脂質が水素添加されている、請求項1に記載の複合体。
【請求項10】
溶媒が水である、請求項1に記載の複合体。
【請求項11】
生物活性物質が微生物である、請求項1に記載の複合体。
【請求項12】
微生物が酵母である、請求項11に記載の複合体。
【請求項13】
酵母がサッカロミセス セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)である、請求項12に記載の複合体。
【請求項14】
酵母が即席酵母である、請求項12に記載の複合体。
【請求項15】
微生物が有用な細菌である、請求項11に記載の複合体。
【請求項16】
生物活性物質が酵素である、請求項1に記載の複合体。
【請求項17】
生物活性物質がビタミンである、請求項1に記載の複合体。
【請求項18】
生物活性物質がミネラルである、請求項1に記載の複合体。
【請求項19】
生物活性物質が抗酸化剤である、請求項1に記載の複合体。
【請求項20】
溶媒に曝された場合における封入した複合体からの生物活性物質の放出速度を制御する方法であって、該方法が以下の工程を含む方法:
(a)乳化可能な脂質を一定量の一又は複数の添加物とブレンドしてブレンドを得る工程;及び
(b)工程(a)で得られたブレンドで生物活性物質を被覆して封入した生物活性物質複合体を製造する工程;
ここで、乳化可能な脂質と添加物とは同一ではなく、封入した複合体からの生物活性物質の放出速度は添加物の量が増加するに従って減少する。
【請求項21】
生物活性物質が酵母である、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
生物活性物質が有用な細菌である、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
生物活性物質が酵素である、請求項20に記載の方法。
【請求項24】
生物活性物質がビタミンである、請求項20に記載の方法。
【請求項25】
生物活性物質がミネラルである、請求項20に記載の方法。
【請求項26】
生物活性物質が抗酸化剤である、請求項20に記載の方法。
【請求項27】
溶媒に曝された場合における封入した複合体からの生物活性物質の放出速度を制御する方法であって、該方法が以下の工程を含む方法:
(a)乳化可能な脂質を一定量の一又は複数の添加物とブレンドしてブレンドを得る工程;及び
(b)工程(a)で得られたブレンドで生物活性物質を被覆して封入した生物活性物質複合体を製造する工程;
ここで、乳化可能な脂質と添加物とは同一ではなく、封入した複合体からの生物活性物質の放出速度は添加物の量が減少するに従って増加する。
【請求項28】
生物活性物質が酵母である、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
生物活性物質が有用な細菌である、請求項27に記載の方法。
【請求項30】
生物活性物質が酵素である、請求項27に記載の方法。
【請求項31】
生物活性物質がビタミンである、請求項27に記載の方法。
【請求項32】
生物活性物質がミネラルである、請求項27に記載の方法。
【請求項33】
生物活性物質が抗酸化剤である、請求項27に記載の方法。
【請求項34】
溶媒に曝された場合における封入した複合体からの生物活性物質の放出速度を制御する方法であって、該方法が一定量の乳化可能な脂質で生物活性物質を被覆して封入した生物活性物質複合体を製造する工程を含み、ここで封入した複合体からの生物活性物質の放出速度が封入した複合体の全質量に対する乳化可能な脂質の量が増加するに従って減少する、方法。
【請求項35】
乳化可能な脂質が本質的に一又は複数のモノグリセリドから成る、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
生物活性物質が酵母である、請求項34に記載の方法。
【請求項37】
溶媒に曝された場合における封入した複合体からの生物活性物質の放出速度を制御する方法であって、該方法が一定量の乳化可能な脂質で生物活性物質を被覆して封入した生物活性物質複合体を製造する工程を含み、ここで封入した複合体からの生物活性物質の放出速度が封入した複合体の全質量に対する乳化可能な脂質の量が減少するに従って増加する、方法。
【請求項38】
乳化可能な脂質が本質的に一又は複数のモノグリセリドから成る、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
生物活性物質が酵母である、請求項37に記載の方法。
【請求項40】
請求項1に記載の封入した生物活性物質複合体を含む食品組成物。
【請求項41】
食品組成物が乾燥ミックスパッケージである、請求項40に記載の組成物。
【請求項42】
乾燥ミックスパッケージが乾燥ドリンクミックスである、請求項41に記載の組成物。
【請求項43】
食品組成物がドウである、請求項40に記載の組成物。
【請求項44】
ドウが冷凍ドウである、請求項43に記載の組成物。
【請求項45】
ドウが冷蔵ドウである、請求項43に記載の組成物。
【請求項46】
以下の工程を含む、食品及び/又は動物用飼料製品の製造方法:
(a)請求項1に記載の封入した生物活性物質複合体を他の成分と組み合わせる工程;及び
(b)工程(a)から得られた該組み合わせたものを生物活性物質を放出させる溶媒と接触させる工程。
【請求項47】
工程(a)から得られた組み合わせたものが乾燥ミックスパッケージである、請求項46に記載の方法。
【請求項48】
工程(b)から得られた組み合わせたものがドウである、請求項46に記載の方法。
【請求項49】
乾燥ミックスパッケージを室温で保存する、請求項47に記載の方法。
【請求項50】
ドウを焙炉処理しかつ焼成する工程をさらに含む、請求項48に記載の方法。
【請求項51】
食品がベーカリー製品である、請求項46に記載の方法。
【請求項52】
動物用飼料製品が動物用ペレットである、請求項46記載の方法。
【請求項53】
以下の工程を含む方法に従って製造した食品及び/又は動物用飼料製品:
(a)請求項1に記載の封入した生物活性物質複合体を他の成分と組み合わせる工程;及び
(b)工程(a)から得られた該組み合わせたものを生物活性物質を放出させる溶媒と接触させる工程。
【請求項54】
工程(a)から得られた組み合わせたものが乾燥ミックスパッケージである、請求項53に記載の方法。
【請求項55】
工程(b)から得られた組成物がドウである、請求項53に記載の方法。
【請求項56】
ドウが冷凍又は冷蔵されたドウである、請求項55に記載の食品。
【請求項57】
ドウを焙炉処理し、次いで焼成する、請求項55に記載の食品。
【請求項58】
食品がピザ生地である、請求項53に記載の食品。
【請求項59】
食品がベーカリー製品である、請求項53に記載の食品。
【請求項60】
食品が栄養補助食品である、請求項53に記載の食品。
【請求項61】
食品が乳製品である、請求項53に記載の食品。
【請求項62】
動物用飼料製品が動物用ペレットである、請求項53に記載の動物用飼料製品。

【公表番号】特表2006−512091(P2006−512091A)
【公表日】平成18年4月13日(2006.4.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−508592(P2005−508592)
【出願日】平成15年12月15日(2003.12.15)
【国際出願番号】PCT/US2003/039847
【国際公開番号】WO2004/060074
【国際公開日】平成16年7月22日(2004.7.22)
【出願人】(504261147)バルケム コーポレイション (2)
【Fターム(参考)】