説明

封着用ガラス組成物および封着材料

【課題】本発明は、錫リン酸系ガラスの耐水性を改善すると同時に、低酸素雰囲気、特に減圧雰囲気で良好に封着できるとともに、490℃以下の低温で封着可能であり、且つ熱的安定性の良好な封着用ガラス組成物および封着材料を得ることを技術課題とする。
【解決手段】本発明の封着用ガラス組成物は、ガラス組成として、下記酸化物換算のモル%表示で、SnO 30〜80%、P 10〜25%(但し、25%は含まない)、B 0〜20%、ZnO 0〜20%、SiO 0〜10%、Al 0〜10%、WO 0〜20%、RO(RはLi、Na、K、Csを指す) 0〜20%含有し、且つ低酸素雰囲気、特に減圧雰囲気における封着に用いることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、封着用ガラス組成物およびこれを用いた封着材料に関し、プラズマディスプレイパネル(以下、PDPと称する)、フィールドエミッションディスプレイ(以下、FEDと称する)、蛍光表示管(以下、VFDと称する)等の平面表示装置の封着、レンズキャップ、LDキャップ等の光部品の封着、ICパッケージ、水晶振動子や弾性表面波素子等の圧電振動子等の電子部品(電子部品収納容器を含む)の封着に好適な封着用ガラス組成物および封着材料に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から平面表示装置等の封着材料としてガラスが用いられている。ガラスは、樹脂系の接着剤に比べ、化学的耐久性および耐熱性が優れるとともに、平面表示装置等の気密性を確保するのに適している。
【0003】
これらのガラスは、用途によっては機械的強度、流動性、電気絶縁性等様々な特性が要求されるが、少なくとも平面表示装置等に使用される蛍光体の蛍光特性等を劣化させない温度で使用可能であることが要求される。それゆえ、上記特性を満足するガラスとして、ガラスの融点を下げる効果が極めて大きいPbOを多量に含有する鉛ホウ酸系ガラス(例えば、特許文献1参照)が広く用いられてきた。
【0004】
ところが、最近、鉛ホウ酸系ガラスに含まれるPbOに対して環境上の問題が指摘されており、鉛ホウ酸系ガラスからPbOを含まないガラスに置き換えることが望まれている。そのため、鉛ホウ酸系ガラスの代替品として、様々な低融点ガラスが開発されている。その中でも、特許文献2、3等に記載されている錫リン酸系ガラス(SnO−P系ガラスとも称される)は、熱膨張係数等の諸特性において、鉛ホウ酸系ガラスと略同等の特性を有するため、その代替候補として期待されているが、耐水性および熱的安定性等の特性において、依然として鉛ホウ酸系ガラスの特性に及ばないのが実情である。
【0005】
ところで、PDPに使用される封着材料は、以下のような熱処理工程を経る。まず、PDPの背面基板の外周辺部に封着ペーストを塗布した後、一次焼成(グレーズ工程、仮焼成工程とも称される)を行う。一次焼成は、ビークルに含まれる樹脂が完全に熱分解する温度条件で行われる。次に、封着材料の二次焼成(封着工程、シール工程とも称される)が行われ、PDPの前面基板と背面基板を封着する。最後に、排気管を通してPDP内部を真空排気した後、希ガスを必要量注入して排気管を封止する。このようにしてPDPは作製される。また、FEDは、装置内部が高真空に保たれており、この高真空中で電界を加えて発生させた電子線で蛍光体を励起し、可視光線を発光させる方式の表示装置である。FEDにおいても、一次焼成および二次焼成の後、製造の最終工程で排気管を通じて、装置内部を高真空に排気した後、排気管を封止する工程が存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平2−229738号公報
【特許文献2】特開平7−69672号公報
【特許文献3】特開平9−227154号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の錫リン酸系ガラスは、ガラス構成成分としてPを多量に含有しているため、鉛ホウ酸系ガラスに比べてガラスの耐水性が十分ではなく、高耐水性が要求されるPDP、FED等の平面表示装置の長期信頼性を確保することができなかった。具体的には、特許文献2、3に記載されている錫リン酸系ガラスは、Pを25モル%以上含有している。錫リン酸系ガラスでは、P含有量がガラスの耐水性を決定づける主要因子であり、P含有量が25モル%以上であると、ガラスの耐水性を確保することは困難となる。
【0008】
一方、錫リン酸系ガラスにおいて、P含有量を25モル%未満とすれば、ガラスの耐水性を向上させることができるが、ガラス構成成分が少なくなるため、特に、大気雰囲気で焼成を行う場合、ガラスの熱的安定性が損なわれやすくなるとともに、封着材料として使用することが困難となる。
【0009】
また、既述の通り、PDPは、一次焼成工程、二次焼成工程、真空排気工程を経て、製造される。通常、一次焼成工程、二次焼成工程は、大気中で行われ、真空排気工程は、高真空の減圧雰囲気で行われる。真空排気工程は、装置内部を高真空にするために高温且つ長時間(通常、5時間以上)を要する工程となっており、PDP等の製造効率を低下させる一因となっている。このような事情から、真空排気工程を短縮する試みが各種行われているが、未だ有効な改善策が見出されていないのが実情である。
【0010】
現状、二次焼成工程と真空排気工程は、同時に行うことができないが、二次焼成工程と真空排気工程を同時に行うことができれば、飛躍的にPDPの製造工程を高めることができ、PDPの製品コストを大幅に下げることが可能となる。二次焼成工程と真空排気工程を同時に行うためには、二次焼成を減圧(真空)中で行う必要があるが、従来の錫リン酸系ガラスは、Pの含有量が25モル%以上であるため、減圧中で封着すると封着層に許容できない泡が生じ、PDPの気密性を担保できなくなると同時に、封着層の接着強度が著しく低下してしまう。更に、錫リン酸系ガラスを用いて、減圧中で封着すると、ガラスが失透しやすくなり、所定の封着厚みを形成できなくなると同時に、PDPの気密性を担保できないおそれが生じる。
【0011】
一方、FEDも装置内部を高真空に保持する工程が存在するため、PDPの場合と同様に減圧中で封着できれば、製造効率を飛躍的に高めることができると同時に、製品コストを低廉化することができる。さらに、FEDは、PDPに比べて、蛍光体、素子等の部材の耐熱性が乏しいため、490℃以下の低温封着が要求される。
【0012】
本発明は、錫リン酸系ガラスの耐水性を改善すると同時に、PDP等の製造効率を高めるべく、低酸素雰囲気、特に減圧中で良好に封着できるとともに、490℃以下の低温で封着可能であり、且つ熱的安定性の良好な封着用ガラス組成物および封着材料を得ることを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者は、鋭意努力の結果、下記酸化物換算のモル%表示でSnO 30〜80%、P 10〜25%(但し、25%は含まない)、B 0〜20%、ZnO 0〜20%、SiO 0〜10%、Al 0〜10%、WO 0〜20%、RO(RはLi、Na、K、Csを指す) 0〜20%にガラス組成を規制することによって、上記課題を解決できることを見出し、本発明として、提案するものである。すなわち、第一に、本発明の封着用ガラス組成物は、ガラス組成として、下記酸化物換算のモル%表示で、SnO 30〜80%、P 10〜25%(但し、25%は含まない)、B 0〜20%、ZnO 0〜20%、SiO 0〜10%、Al 0〜10%、WO 0〜20%、RO(RはLi、Na、K、Csを指す) 0〜20%含有し、且つ低酸素雰囲気における封着に用いることを特徴とする。ここで、本発明でいう「低酸素雰囲気」とは、酸素濃度が15体積%以下の雰囲気(好ましくは10体積%以下、より好ましくは5体積%以下、更に好ましくは1体積%以下)を指し、例えば高真空雰囲気、Ar雰囲気、N雰囲気等の中性ガス雰囲気およびN雰囲気に1%のHガスを混入した雰囲気等の還元性ガス雰囲気が挙げられる。なお、雰囲気中の残存酸素濃度は、例えば、東レエンジニアリング株式会社製LC−750等で測定することができる。
【0014】
本発明の封着用ガラス組成物は、ガラス組成範囲を上記のように厳密に規制することにより、所望の特性を得ることができる。具体的には、SnOの含有量を所定範囲に規制することによって、低温封着性を確保することができるとともに、減圧中に封着した場合であっても、平面表示装置の気密信頼性を維持することができる。また、Pの含有量を25モル%未満に規制することによって、ガラスの耐水性を顕著に向上させることができる。Pの含有量を25モル%未満に規制すれば、ガラスの熱的安定性が損なわれるおそれがあるが、更に、上記ガラス組成にB、SiO等を所定量添加すれば、ガラスの低温封着性を損なうことなく、ガラスの熱的安定性を維持することができる。さらに、Pの含有量を25モル%未満に規制すれば、減圧中で封着した場合であっても、平面表示装置の信頼性を確保することができる。したがって、本発明の封着用ガラス組成物を封着材料として使用すれば、減圧中で封着できるため、PDP等の平面表示装置の製造コストを低廉化することができる。
【0015】
本発明の封着用ガラス組成物は、低酸素雰囲気(減圧雰囲気、中性雰囲気、還元性雰囲気等)で良好に封着することができる。その理由は以下の通りである。ガラス組成中でSnは、価数が二価の場合に安定なガラス形成成分となる。一方、Snの価数が四価になると、ガラスが失透しやすくなり、熱的に不安定な状態となる。したがって、低酸素雰囲気の場合、錫リン酸系ガラスは、焼成時にガラス組成中のSnOが酸化されて、SnOとなる反応が進行しにくく、失透が生じにくい。さらに、本発明の封着用ガラス組成物は、Pの含有量を25モル%未満に規制にしているため、低酸素雰囲気で焼成した場合、ガラスが発泡しにくいという利点も併有している。
【0016】
第二に、本発明の封着用ガラス組成物は、上記ガラス組成に加えて、下記酸化物換算のモル%表示で、MoO、Nb、TiO、ZrO、CuO、MnO、MgO、CaO、SrO、BaOを合量で0〜35%含有することに特徴付けられる。
【0017】
第三に、本発明の封着用ガラス組成物は、上記ガラス組成に加えて、下記酸化物換算のモル%表示で、MoO 0〜5%、Nb 0〜15%、TiO 0〜15%、ZrO 0〜15%、CuO 0〜10%、MnO 0〜15%、R’O(R’はMg、Ca、Sr、Baを指す) 0〜15%含有することに特徴付けられる。
【0018】
第四に、本発明の封着用ガラス組成物は、ガラス組成として、下記酸化物換算のモル%表示で、SnO 30〜80%、P 10〜25%(但し、25%は含まない)、B 0.1〜10%(但し、10%は含まない)、ZnO 0〜20%、SiO 0〜10%、Al 0〜10%、WO 0〜20%、RO(RはLi、Na、K、Csを指す) 0〜20%、MoO 0〜5%、Nb 0〜15%、TiO 0〜15%、ZrO 0〜15%、CuO 0〜10%、MnO 0〜15%、R’O(R’はMg、Ca、Sr、Baを指す) 0〜15%含有することに特徴付けられる。
【0019】
第五に、本発明の封着用ガラス組成物は、上記ガラス組成に加えて、下記酸化物換算のモル%表示で、Fを0〜10%含有することに特徴付けられる。
【0020】
第六に、本発明の封着材料は、上記の封着用ガラス組成物からなるガラス粉末50〜100体積%と、耐火性フィラー粉末0〜50体積%とを含有することに特徴付けられる。
【0021】
第七に、本発明の封着材料は、減圧雰囲気で焼成したときに、焼成体の表面に光沢があり、且つ失透が認められないことに特徴付けられる。ここで、本発明でいう「減圧雰囲気で焼成したときに、焼成体の表面に光沢があり、且つ失透が認められない」については、以下の手順でその適否を判断する。まず封着材料を2cmφに乾式プレスし、ボタン状の試料を作製する。次に、作製した試料を高歪点ガラス基板に載置した上で、減圧焼成炉を用いて、1.0×10Torr減圧下において、(封着材料の軟化点+30℃)の温度で30分間焼成する。昇降温速度は、5℃/分とし、焼成炉への試料の投入、取り出しは室温で行う。光沢は、作製したボタン状の試料表面の平均表面粗さRaを測定することで評価する。なお、平均表面粗さRaは、JIS−R3502に準拠した方法により測定する。ボタン表面の平均表面粗さRaが100μm以下の場合、「光沢がある」として評価する。さらに、焼成後の試料を観察し、作製したボタン状の試料表面に結晶が析出していないものを「失透が認められない」として評価する。なお、失透の評価は、実体顕微鏡を用いて、ボタン表面上の結晶を観察することで行う。
【0022】
第八に、本発明の封着材料は、中性雰囲気または還元性雰囲気で焼成したときに、焼成体の表面に光沢があり、且つ失透が認められないことに特徴付けられる。ここで、本発明でいう「中性雰囲気または還元性雰囲気で焼成したときに、焼成体の表面に光沢があり、且つ失透が認められない」については、以下の手順でその適否を判断する。まず封着材料を2cmφに乾式プレスし、ボタン状の試料を作製する。次に、作製した試料を高歪点ガラス基板に載置した上で、雰囲気焼成炉を用いて、N雰囲気またはN雰囲気に1%のHガスを混入した雰囲気下、(封着材料の軟化点+30℃)の温度で30分間焼成する。昇降温速度は、5℃/分とし、焼成炉への試料の投入、取り出しは室温で行う。光沢は、作製したボタン状の試料表面の平均表面粗さRaを測定することで評価する。ボタン表面の平均表面粗さRaが100μm以下の場合、「光沢がある」として評価する。なお、平均表面粗さRaは、JIS−R3502に準拠した方法により測定する。さらに、焼成後の試料を観察し、作製したボタン状の試料表面に結晶が析出していないものを「失透が認められない」として評価する。なお、失透の評価は、実体顕微鏡を用いて、ボタン表面上の結晶を観察することで行う。
【0023】
第九に、本発明の封着材料は、前記耐火性フィラーが、酸化錫、酸化ニオブ、リン酸ジルコニウム、コーディエライト、Na0.5Nb0.5Zr1.5(PO、KZr(PO、Ca0.25Nb0.5Zr1.5(PO、NbZr(PO、K0.5Nb0.5Zr1.5(PO、ZrWO(POの群から選択される一種または二種以上を含有することに特徴付けられる。
【0024】
第十に、本発明の封着材料は、PDP、FED、VFD、CRT(Cathode Ray Tube)、電子部品、光部品のいずれかの封着に使用することに特徴付けられる。
【0025】
第十一に、本発明の封着タブレットは、封着材料を所定形状に焼結させた封着タブレットにおいて、封着材料が前記の封着材料であることに特徴付けられる。
【0026】
第十二に、本発明の封着ペーストは、封着材料がビークルに分散された封着ペーストにおいて、封着材料が前記の封着材料であることに特徴付けられる。ここで、本発明でいう「ビークル」は、溶剤、樹脂バインダー等を含む封着ペーストの構成材料であり、溶剤は必須の成分であるが、樹脂バインダーは任意の成分である。
【0027】
第十三に、本発明の封着ペーストは、ビークルが、トルエン、N,N’−ジメチルホルムアミド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、炭酸ジメチル、ブチルカルビトールアセテート、酢酸イソアミル、プロピレンカーボネート、N−メチル−2−ピロリドンアセトニトリル、ジメチルスルホキシド、アセトン、メチルエチルケトン、イソドデシルアルコール、イソトリデシルアルコール、ペンタンジオール、ペンタンジオール誘導体、C2n+1OH(n=8〜20)で表される高級アルコールの群から選択される一種または二種以上を含有することに特徴付けられる。
【0028】
第十四に、本発明の封着ペーストは、ビークルが、ニトロセルロース、ポリエチレングリコール誘導体、ポリエチレンカーボネートの群から選択される一種または二種以上を含有することに特徴付けられる。
【0029】
第十五に、本発明のPDPまたはFEDの製造方法は、前記の封着材料を用いた封着工程を有するPDPまたはFEDの製造方法であって、封着工程の全部または一部が減圧雰囲気で実行されることに特徴付けられる。本発明でいう「減圧雰囲気」とは、大気圧が1.0×10Torr以下の場合を指す。
【0030】
第十六に、本発明の光部品または電子部品の製造方法は、前記の封着材料を用いた封着工程を有する光部品または電子部品の製造方法であって、封着工程の全部または一部が中性雰囲気または還元性雰囲気で実行されることに特徴付けられる。本発明でいう「中性雰囲気」とは、Ar雰囲気、N雰囲気等の中性ガス雰囲気を指す。本発明でいう「還元性雰囲気」とは、N雰囲気に1%のHガスを混入した雰囲気等の還元性ガス雰囲気を指す。
【発明の効果】
【0031】
本発明の封着用ガラス組成物は、耐水性が大幅に向上していると同時に、減圧中でも良好に封着できるため、PDP等の平面表示装置の製造効率を大幅に高めることができる。すなわち、PDP等の平面表示装置の場合、減圧中で封着することができれば、排気管を通じて、5時間以上の長時間に亘って装置内部を真空排気する必要がなくなり、PDP等の平面表示装置の製造効率を飛躍的に高めることができる。さらに、本発明の封着用ガラス組成物は、490℃以下の低温で封着可能にもかかわらず、熱的安定性が良好である利点を有している。一般的に、ガラスの低温化とガラスの熱的安定性は、両立困難な特性であるが、本発明の封着用ガラス組成物は、両者を高いレベルで両立することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
本発明の封着用ガラス組成物のガラス組成範囲を上記のように限定した理由を以下に説明する。なお、以下の%表示は、特に限定がある場合を除き、モル%を指す。
【0033】
SnOは、ガラスの融点を低下させる必須成分であり、その含有量は30〜80%、好ましくは40〜70%、より好ましくは50〜66%である。特に、SnOが40%以上であれば、ガラスの流動性に優れ、高い気密性を確保することができる。SnOが30%より少ないと、ガラスの粘性が高くなり過ぎ、封着温度が高くなるおそれがある。また、SnOが80%より多いと、ガラス化が困難になる傾向がある。なお、錫リン酸系ガラスの場合、SnOが70%を超えると、大気雰囲気で焼成時にガラスが変質しやすくなるが、低酸素雰囲気であれば、SnOが70〜80%の範囲であっても、焼成時にガラスが変質し難い。
【0034】
は、ガラス形成酸化物であり、必須成分である。その含有量は、10〜25%(但し、25%は含まない)、好ましくは11〜24%、より好ましくは13〜23%、更に好ましくは15〜20%である。Pが25%以上であると、ガラスの耐水性が低下し、平面表示装置等の長期信頼性を担保し難くなる。一方、Pが10%より少ないと、ガラスの熱的安定性が乏しくなる。また、一般的に、ガラス形成酸化物であるPが少なくなるにつれて、ガラスの熱的安定性が乏しくなるが、本発明の封着用ガラス組成物は、ガラス組成を所定範囲に規制しているため、Pが25%未満であっても、ガラスの熱的安定性が良好である。特に、Pの含有量が少ないため、焼成雰囲気が減圧雰囲気であっても、良好に焼成することができる。
【0035】
は、ガラス形成酸化物であり、ガラスを安定化させる成分である。その含有量は0〜20%であり、好ましくは0.1〜16%、より好ましくは2〜15%、更に好ましくは3〜11.8%、最も好ましくは3〜10%(但し、10%は含まない)である。特に、低温封着を行う場合、Bの含有量を1〜5%とすれば、ガラスを低温化することができる。また、一般的に、ガラス形成酸化物であるBが少なくなるにつれて、ガラスの熱的安定性が乏しくなるが、焼成雰囲気を低酸素雰囲気とすれば、Bの含有量が少ない場合であっても、良好に焼成することができる。Bが20%より多いと、ガラス組成のバランスが取れなくなり、ガラス溶融時にガラスが分離し、ガラス融液表面にスカムが発生しやすくなる。一方、Bを少量添加、例えば2%程度添加すれば、逆にスカムの発生を抑制することができる。更に、Bが20%より多いと、ガラスの粘性が高くなりすぎ、ガラスの流動性が悪化する。
【0036】
ZnOは、中間酸化物であり、ガラスを安定化させる成分である。その含有量は0〜20%、好ましくは0〜15%、より好ましくは0〜10%、更に好ましくは3〜10%である。特にZnOの含有量を3%以上とすれば、ガラスの熱的安定性を向上させることができ、封着時にガラス表面に失透が生じ難くなる。一方、ZnOが20%より多いと、ガラス組成のバランスを欠き、逆にガラスの熱的安定性が低下しやすくなる。
【0037】
SiOは、ガラス形成酸化物であり、ガラスを安定化させる成分である。その含有量は0〜10%、好ましくは0.5〜5%である。特に、SiOを少量添加、例えば0.5%程度添加すれば、ガラスの熱的安定性が向上し、封着時にガラスが失透し難くなる。SiOを5%以下とすれば、ガラスの軟化温度はあまり上昇せず、低温封着を行うことができる。一方、SiOが10%より多いと、ガラスの軟化温度が上昇し、低温封着が困難になるとともに、ガラスの流動性が損なわれる。
【0038】
Alは、中間酸化物であり、ガラスを安定化させる成分であるとともに、ガラスの熱膨張係数を低下させる成分である。その含有量は0〜10%、より好ましくは0〜5%、更に好ましくは0.1〜5%である。特に、Alの含有量を0.5〜5%とすれば、ガラスの熱的安定性や熱膨張係数を調整しやすくなる。一方、Alが10%より多いと、ガラスの軟化温度が上昇し、低温封着が困難となるとともに、ガラスの流動性が損なわれる。
【0039】
WOは、必須成分ではないが、被封着物との接着力を向上させる効果がある成分であるとともに、ガラスの耐候性を向上させる成分であり、WOをガラス組成に適量添加すれば、長期間にわたって信頼性の高い封着層を形成することができる。WOの含有量は0〜20%、好ましくは0〜15%、より好ましくは1.2〜15%、更に好ましくは3〜10%である。上記効果を的確に享受するためには、WOを0.1%、特に3%以上とすればよい。また、WOが比較的高価な原料であることおよびガラスの流動性を考慮すると、WOを10%以下とするのが好ましい。一方、WOが20%より多いと、原料コストの高騰を招くことに加えて、ガラスの軟化点が上昇し、低温封着が困難となる。
【0040】
本発明において、ROは必須成分ではないが、ROの内、少なくとも1種類をガラス組成中に添加すれば、ガラス基板等との接着力を高めることができる。その含有量は0〜20%、好ましくは0〜10%である。特に、ガラスの熱的安定性、例えば封着時の表面失透およびガラスの流動性を考慮した場合、ROは合量で10%以下とするのが好ましい。ROの合量が20%を超えると、封着時にガラスが失透しやすくなる。なお、ROの内、LiOが最もガラス基板等との接着力を向上させる能力が高いが、LiOは、焼成時にガラス基板等の被封着物に含まれるアルカリ元素とイオン交換し、ガラス基板等にマイクロクラックが発生しやすくなる。したがって、LiOの含有量は3%以下とするのが好ましい。
【0041】
MoO、Nb、TiO、ZrO、CuO、MnO、MgO、CaO、SrO、BaOは、ガラスを安定化させる成分であり、その含有量は合量で0〜35%、好ましくは0〜25%である。これらの成分が合量で35%を超えると、ガラスが熱的に不安定になり、ガラスを安定に製造し難くなる。
【0042】
MoOは、必須成分ではないが、ガラス組成に少量添加すると、被封着物との濡れ性を改善できる成分である。その含有量は0〜5%、より好ましくは0.1〜3%である。MoOが5%より多いと、ガラス溶融時の粘度が高くなることに加えて、ガラスが失透しやすくなる。
【0043】
Nb、TiOおよびZrOは、ガラスの安定性を向上させる成分であるとともに、ガラスの耐候性を向上させる成分である。これらの成分の含有量は何れも0〜15%、好ましくは0〜10%である。これらの成分が15%より多くなると、ガラスを溶融しにくくなるとともに、ガラスが不安定になりやすい。
【0044】
CuOの含有量は0〜10%、特に0〜5%が好ましい。CuOが10%を超えるとガラスが熱的に不安定になりやすい。
【0045】
MnOの含有量は0〜15%、特に0〜8%が好ましい。MnOが15%を超えると、ガラスが熱的に不安定になりやすい。なお、MnOの導入原料として、一酸化マンガン、二酸化マンガンの双方が使用可能であるが、一酸化マンガンを導入原料として使用すると、ガラスの熱的安定性が向上するため、好ましい。
【0046】
R’Oは、アルカリ土類酸化物であり、網目修飾酸化物である。これらの成分は必須成分ではないが、これらの含有量は合量で0〜15%、特に0〜5%であることが好ましい。R’Oが15%を超えるとガラスが熱的に不安定になりやすい。特に、R’Oの内、MgOやBaOは、ガラスを安定化させることに加えて、低温化させる効果が高く、好ましい。
【0047】
Inは、ガラスの耐候性を向上させる成分であり、その含有量は0〜10%、好ましくは0〜5%である。しかし、Inは貴金属酸化物であるため、Inが10%より多いと、ガラスの原料コストの上昇を招き、その用途に制限が課させることになる。
【0048】
ランタノイド酸化物は、網目修飾酸化物であり、本発明において必須成分ではないが、ランタノイド酸化物をガラス成分中に合量で0.1%以上含有させることで、ガラスの耐候性が向上する。一方、ランタノイド酸化物が15%を超えると、封着温度が高くなりやすい。したがって、耐候性と封着温度のバランスを考慮すると、ランタノイド化合物の含有量は、合量で0〜15%、好ましくは0.5〜15%、より好ましくは1〜15%である。ランタノイド酸化物としては、La、CeO、Nd等が使用可能である。なお、ランタノイド酸化物に加えて、他の希土類酸化物、例えば、Yを添加すると、ガラスの耐候性を更に向上させることができる。ランタノイド酸化物を除く希土類酸化物の含有量は0〜5%であることが好ましい。
【0049】
Taは、耐候性を向上させる効果があり、その含有量は0〜10%が好ましい。Taが10%を超えると、ガラスの軟化点が高くなりすぎる。
【0050】
TeOは、軟化点を低下させる効果がある成分であり、その含有量は0〜15%が好ましい。TeOが15%を超えると、ガラスの熱的安定化が損なわれる。
【0051】
は、平面表示装置等に含まれる蛍光体の蛍光特性に悪影響を与える可能性がある成分であるが、ガラス低温化や脱泡に効果がある成分である。その含有量は0〜10%とするのが好ましく、0〜5%とするのがより好ましく、0〜3%とするのが更に好ましい。Fが10%を超えると蛍光体の蛍光特性に悪影響を与える可能性が高くなる。
【0052】
本発明の封着用ガラス組成物は、実質的にPbOを含有しないことが好ましい。ここで、「実質的にPbOを含有しない」とは、ガラス組成中に含まれるPbO含有量が1000ppm以下の場合を指す。封着用ガラス組成物において、PbOを含有しない構成とすれば、近年の環境的要請を的確に満たすことができる。
【0053】
また、本発明の封着用ガラス組成物は、本発明の効果を損なわない限り、上記成分に加えて、更に他の成分を10%まで添加することができる。
【0054】
上記組成範囲において、各成分の好ましい範囲を任意に組み合わせて、好ましい組成範囲を選択することは当然に可能であるが、その中にあって、封着用ガラス組成物として、より好ましい組成範囲は、下記酸化物換算のモル%表示で、SnO 30〜80%、P 10〜25%(但し、25%は含まない)、B 0.1〜10%(但し、10%は含まない)、ZnO 0〜20%、SiO 0〜10%、Al 0〜10%、WO 0〜20%、RO(RはLi、Na、K、Csを指す) 0〜20%、MoO 0〜5%、Nb 0〜15%、TiO 0〜15%、ZrO 0〜15%、CuO 0〜10%、MnO 0〜15%、R’O(R’はMg、Ca、Sr、Baを指す) 0〜15%含有するガラス組成物が挙げられる。ガラス組成物の組成範囲を上記に規制すれば、ガラスの耐水性を大幅に改善できるとともに、ガラスの熱的安定性を大幅に改善することができる。なお、上記ガラス組成は、大気酸素雰囲気よりも、低酸素雰囲気での封着に好適であるが、ガラスの熱的安定性が大幅に向上しているため、大気雰囲気でも封着することができる。
【0055】
本発明に係る錫リン酸系ガラスは、酸化物、水酸化物、硝酸塩、リン酸塩等の種々の原料をガラス原料として用いることができるが、水分含有量が少ない原料を用いると、溶融中のガラス融液の吹きこぼれ、焼成中のガラスの発泡等を抑制できるため、好ましい。さらに、ガラスバッチ中に、Al、Si等の金属、カーボン等の還元剤を添加するのが好ましい。これらをガラスバッチ中に添加すると、ガラス中の水分を除去できるだけでなく、溶融雰囲気を還元雰囲気にすることができ、溶融中にSnOがSnOに酸化される反応を抑制し、その結果、錫リン酸系ガラスを安定に溶融できるとともに、その後に供される焼成工程でも安定に使用することができる。
【0056】
以上の組成を有する封着用ガラス組成物は、約250〜400℃のガラス転移点、約360〜440℃の軟化点を有し、約400〜600℃の温度範囲で良好な流動性を示す。また、30〜250℃の温度範囲において約80〜150×10−7/℃の熱膨張係数を有する。このような特性を有する本発明の封着用ガラス組成物は、熱膨張係数が適合する材料に対しては単独で封着材料として使用できる。
【0057】
本発明の封着用ガラス組成物は、ボールミル、ジェットミル等で粉末状に加工し、これを封着材料として使用することができる。また、封着用ガラス組成物をガラス粉末とすれば、耐火性フィラー粉末等と混合し、機械的強度および熱膨張係数を調整することが容易になるとともに、ビークル等と混合し、ペースト材料またはシート材料とすることも容易になる。
【0058】
熱膨張係数が適合しない材料、例えばアルミナ(70×10−7/℃)、高歪点ガラス(85×10−7/℃)やソーダ板ガラス(90×10−7/℃)を封着する場合には、低膨張材料である耐火性フィラー粉末を加えて複合化することにより、適切に使用できる。複合体(コンポジット)の熱膨張係数は、被封着物に対して10〜30×10−7/℃程度低く設計することが重要である。一般的に、封着材料は、被封着物よりも弱いので、封着層を構成する封着材料部分に残留する応力はコンプレッション(圧縮)側とするのが望ましい。このようにすれば、封着界面の破壊に起因して、気密リークや封着層の剥離等が生じる事態を防止することができる。
【0059】
本発明の封着材料において、ガラス粉末を50〜100体積%、耐火性フィラー粉末を0〜50体積%含有することが好ましく、特に、FED、PDP、VFD、CRTの封着の場合、ガラス粉末を60〜80体積%、耐火性フィラー粉末を20〜40体積%含有することが好ましい。また、FED、PDP、VFD、CRTの封着の場合、熱膨張係数が60〜90×10−7/℃程度となるように調整するのが好ましい。耐火性フィラー粉末が50体積%より多いと、相対的にガラス粉末の割合が低くなり過ぎ、所望の流動性が得にくくなる。なお、ガラス粉末および耐火性フィラー粉末の粒度は、レーザー回折式粒度分布測定装置(株式会社島津製作所製SALD−2000J)において平均粒子径D50で1.0〜15.0μmが好ましい。平均粒子径D50が1.0μmより小さいと、耐火性フィラーの低膨張化の効果が得られにくくなり、平均粒子径D50が15μmを超えると封着材料の流動性を阻害したり、平面表示装置等の気密信頼性が得られにくくなる。
【0060】
また、封着用ガラス組成物を所定形状、例えばボール状、ロッド状、板状に成形し、これを封着材料として使用することもできる。
【0061】
本発明の封着材料は、減圧雰囲気で焼成したときに、焼成体の表面に光沢があり、且つ失透が認められないことが好ましい。減圧雰囲気で封着する場合、大気雰囲気の場合に比して、封着材料が発泡しやすいが、本発明の封着材料は、ガラス粉末のガラス組成を所定範囲に規制しているため、本雰囲気で良好に焼成することができる。その結果、PDPの二次焼成工程と真空排気工程を同時に行っても、封着層が失透することもなく、更にPDPの気密性を損なうような発泡も抑制でき、PDPの製造効率の向上、コスト低下に寄与することができる。減圧雰囲気は、大気圧が低下すればするほど、封着材料に失透、泡が生じやすくなるため、大気圧が低いほど、本発明の利点を的確に享受することができる。具体的には、減圧雰囲気として、大気圧が1.0×10−1Torr以下が好ましく、1.0×10−3Torr以下がより好ましく、1.0×10−5Torr以下が更に好ましい。
【0062】
本発明の封着材料は、中性雰囲気または還元性雰囲気で焼成したときに、焼成体の表面に光沢があり、且つ失透が認められないことが好ましい。本発明の封着用ガラス組成物は、還元性雰囲気による封着であっても流動性および濡れ性を損なうことがないばかりでなく、むしろ還元性雰囲気で封着すると、酸素が一定量存在する大気雰囲気で封着する場合に比して流動性および濡れ性が向上する。これは、ガラス組成の主成分として含有している錫が四価(SnO)で存在するよりも二価(SnO)で存在する方がガラスとして熱的に安定であることによる。すなわち、還元性雰囲気で封着する場合、SnOがSnOに酸化され難く、SnOの存在比率が多くなり、結果としてガラスの熱的安定性が損なわれることなく、維持される。また、N雰囲気等の中性雰囲気であっても、SnOがSnOに酸化され難いことに変わりはなく、SnOの存在比率が多くなり、結果としてガラスの熱的安定性が維持される。さらに、本発明の封着材料は、ガラス粉末のガラス組成を所定範囲に規制しているため、ガラスの熱的安定性が良好であるとともに、低温封着性を有しているため、本雰囲気で良好に焼成することができる。
【0063】
耐火性フィラー粉末としては種々の材料が使用でき、例えばコーディエライト、ジルコン(珪酸ジルコニウム)、酸化錫、酸化ニオブ、リン酸ジルコニウム、ウイレマイト、ムライト等が挙げられる。また、[AB(MO]の基本構造を有する耐火性フィラーも使用可能である。ここで、AはLi、Na、K、Mg、Ca、Sr、Ba、Zn、Cu、Ni、Mn等の元素が適合する。BはZr、Ti、Sn、Nb、Al、Sc、Y等の元素が適合する。MはP、Si、W、Mo等の元素が適合する。
【0064】
これらの耐火性フィラーの中で、酸化錫、コーディエライト、酸化ニオブ、Na0.5Nb0.5Zr1.5(PO、KZr(PO、Ca0.25Nb0.5Zr1.5(PO、NbZr(PO、ZrWO(PO、K0.5Nb0.5Zr1.5(PO、Ca0.25Nb0.5Zr1.5(POが良く適合する。特に、Na0.5Nb0.5Zr1.5(PO、KZr(PO、Ca0.25Nb0.5Zr1.5(PO、ZrWO(POは、低膨張化の効果が大きく、少量の含有量で熱膨張係数を低くすることができる。また、必要に応じて、耐火性白色顔料(例えばTiO)、耐火性黒色顔料(例えばFe−Mn系、Fe−Co−Cr系、Fe−Mn−Al系の顔料)を添加することもできる。
【0065】
本発明の封着材料は、実質的にPbOを含有しないことが好ましい。封着材料において、PbOの含有しない構成とすれば、近年の環境的要請を的確に満たすことができる。
【0066】
本発明の封着材料は、被封着物が金属(例えば、ステンレス、コバール等)、つまり金属の封着に使用することが好ましい。既述の通り、本発明の封着材料は、低酸素雰囲気で良好に使用できるため、封着工程で金属を酸化させずに良好に封着することができる。
【0067】
本発明の封着材料は、所定形状に焼結した封着タブレットに加工し、使用することもできる。封着タブレットとすれば、光部品等の所望の部分を的確に封着することができるとともに、封着ペーストをディスペンサーまたはスクリーン印刷機で塗布する必要がなく、製造工程数を少なくすることができ、製品コストの低廉化に寄与することができる。封着タブレットは、以下のように、複数回の熱工程を別途独立に経て、製造される。まず、ガラス粉末に溶剤や樹脂バインダーを添加し、スラリーを形成する。その後、このスラリーをスプレードライヤー等の造粒装置に投入し、ガラス粉末の顆粒を作製する。その際、ガラス粉末の顆粒は、溶剤が揮発する程度の温度(100〜200℃程度)で熱処理される。さらに、作製されたガラス粉末の顆粒は、所定の寸法に設計された金型に投入され、例えば、リング状に乾式プレス成形され、プレス体が作製される。次に、ベルト炉等の焼成炉にて、このプレス体に残存する樹脂バインダーを分解揮発させるとともに、ガラス粉末の軟化点程度の温度で焼結され、封着タブレットが作製される。また、焼成炉における焼成は、複数回行われる場合があり、焼成を複数回行うと、ガラスタブレットの焼結強度が向上し、ガラスタブレットの欠損、破壊等を防止することができる。本発明の封着タブレットにおいて、タブレットの形状は、特に限定されない。例えば、リング状、板状、円柱状、額縁状、管状等の形状が使用可能である。なお、溶剤、樹脂バインダーは、後述のものが使用可能である。
【0068】
本発明の封着材料は、ビークルと混合し、封着ペーストとして使用するのが好ましい。封着材料を封着ペーストに加工すれば、ディスペンサー、スクリーン印刷機等の塗布機で封着パターンを精度良く形成することができる。ビークルは、溶剤、樹脂バインダー、界面活性剤、顔料、増粘剤、可塑剤等の成分を含有する材料である。
【0069】
本発明に係るガラス粉末は、SnOを主成分とする錫リン酸系ガラスである。一般的に、錫リン酸系ガラスは、低融点であることに加えて、焼成時にビークルに含まれる樹脂バインダーと反応し、具体的にはSnOが酸化し、SnOとなることによって、流動性が失われる。したがって、本発明に係るビークルは、低温で揮発する溶剤、樹脂バインダーを使用するとともに、錫リン酸系ガラスを変質させない溶剤、樹脂バインダーを使用する必要性が高い。
【0070】
溶剤は、沸点が低く、焼成後の残渣が少なく、錫リン酸系ガラスを変質させないものが好ましい。すなわち、溶剤は、沸点が300℃以下のものを用いることが好ましい。具体的にはトルエン、N,N’−ジメチルホルムアミド(DMF)、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(DMI)、炭酸ジメチル、ブチルカルビトールアセテート(BCA)、酢酸イソアミル、プロピレンカーボネート、N−メチル−2−ピロリドンアセトニトリル、ジメチルスルホキシド、アセトン、メチルエチルケトン等が好適に使用できる。また、溶剤として、高級アルコールを使用することが好ましい。高級アルコールは、溶剤自身が粘性を有しているために、ビークルに樹脂バインダーを添加しなくても、封着ペーストとすることができる。ビークルが樹脂バインダーを含有していない場合、SnOが酸化し、SnOが形成される事態を抑制でき、封着時にガラスが変質しにくくなる。代表的な高級アルコールとしては、C2n+1OH(n=8〜20)で表されるイソへキシルアルコールからイソアイコシルアルコールを用いることができる。特に、溶剤の粘性の観点から見れば、イソデシルアルコール(n=10)以上の分子量を有する高級アルコールが、封着材料と混合した場合に適度な粘性を確保しやすく、好ましい。また、焼成後の残渣量の観点から見れば、イソへキサデシルアルコール(n=16)以下の分子量を持つものが好ましい。よって、高級アルコールは、トータルバランスからイソトリデシルアルコールが最も好ましい。さらに、ペンタンジオールとその誘導体も溶剤として使用できる。具体的にはジエチルペンタンジオール(C20)が、粘度特性に優れている。
【0071】
樹脂バインダーは、分解温度が低いことに加えて、焼成後の残渣が少なく、錫リン酸系ガラスを変質させないものが好ましい。ニトロセルロース、ポリエチレングリコール誘導体、ポリエチレンカーボネートは、分解温度が低いことに加えて、焼成後の残渣が少なく、錫リン酸系ガラスを変質させないため、樹脂バインダーとして、好適である。
【0072】
ポリエチレンカーボネートは、低温分解性、粘度特性に優れている。ポリエチレンカーボネートは、N,N’−ジメチルホルムアミド(DMF)、炭酸ジメチル、プロピレンカーボネート、N−メチル−2−ピロリドン、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、アセトン、メチルエチルケトン等に溶解する。特に炭酸ジメチル、プロピレンカーボネート、N−メチル−2−ピロリドンは、短時間で乾燥せず、塗布作業性やレベリング性に優れるために好ましい。ポリエチレンカーボネートをDMFに溶解させて使用する場合は、ポリエチレングリコール誘導体と比較して高濃度に溶解させる必要があり、その最適な濃度は10〜30重量%である。また炭酸ジメチルに溶解させる場合の最適な濃度は5〜10重量%である。プロピレンカーボネート、N−メチル−2−ピロリドンを使用する場合は10〜30重量%である。
【0073】
ポリエチレングリコール誘導体は、HOCHCHO{(CHCHO)NCO[X]−CO−N}なる構造を有し、Xは疎水性の直鎖基である。上記骨格構造を有するポリエチレングリコール誘導体は少量で優れた粘度特性を発現し、かつ低温分解性の特性を有する。特に、分子量10万〜50万のポリエチレングリコール誘導体は低温分解性が良好である。工業的に利用する場合、ポリエチレングリコール誘導体がコスト的にも安価で入手しやすいので適している。ポリエチレングリコール誘導体は、N,N’−ジメチルホルムアミド(DMF)、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(DMI)等に良好に溶解する。これらの溶媒は、室温において短時間で乾燥しないため、好ましい。ポリエチレングリコール誘導体をDMF、DMIに溶解させる場合、最適な濃度は0.5〜5重量%である。なお、DMFよりもDMIを用いた場合、揮発性が低く抑えられ、比較的作業時間がかかる場合に好適である。
【0074】
また、ニトロセルロースは、低温分解性を有しており、酢酸イソアミルと混合し、ビークルとして使用することができる。
【0075】
なお、いずれの場合も、樹脂バインダーが多すぎると、具体的には、樹脂バインダーが35重量%以上であると、粘性が高くなりすぎて、ディスペンサー等で塗布する時に所定のエアー圧力では押し出せなかったり、焼成後の残渣が多くなりすぎて焼成時の変質の原因になり得るので留意すべきである。
【0076】
ビークルと封着材料は、三本ロールミル等の混練機を使用し、混練することができる。
【0077】
本発明の封着用ガラス組成物は、導電性粉末のバインダーとしても使用することができる。この場合、本発明の封着用ガラス組成物からなるガラス粉末10〜60重量%と金属粉末40〜90重量%と耐火性フィラー粉末0〜20重量%を含有する導電性材料とすることが好ましい。金属粉末が90重量%より多いと、相対的にガラス粉末の割合が低くなりすぎて、必要な流動性が得にくくなり、40重量%より少ないと導電性が確保できないからである。また、耐火性フィラー粉末が20重量%より多いと、相対的にガラス粉末の割合が低くなりすぎて必要な封着性が得にくくなるからである。ここで、金属粉末としてはAg、Pd、Al、Ni、Cu、Auまたはこれらの混合物等の粉末が挙げられる。また、耐火性フィラー粉末としては、上記の耐火性フィラーと同様のものが使用できる。さらに、必要に応じて耐火性白色顔料(例えばTiO)、耐火性黒色顔料(例えばFe−Mn系、Fe−Co−Cr系、Fe−Mn−Al系の顔料)を添加することもできる。この導電性粉末を用いて導体パターンを形成するためには、導電性粉末材料に適宜上述のビークルを加えて、封着ペーストにすることが好ましい。このようにして得られた導電性ペーストは真空中で400〜900℃、5分〜1時間程度の加熱焼成をすることにより、導電パターンを形成することができる。
【0078】
本発明のPDPまたはFEDの製造方法は、上記の封着材料を用いた封着工程を有するPDPまたはFEDの製造方法であって、封着工程の一部または全部が減圧雰囲気で実行される。封着工程を減圧雰囲気にすると、上述の通り、二次焼成工程と真空排気工程を同時に行うことができ、製品コストの低廉化に資することになる。また、本発明の封着材料は、低温で封着可能であることに加えて、熱的安定性も良好であるため、封着材料の特性に起因するトラブルを抑止することもできる。なお、VFDおよびCRTは、PDPおよびFEDと同様または類似の製造工程を有しており、上記の製造方法を転用する実益がある。
【0079】
本発明の光部品または電子部品の製造方法は、上記の封着材料を用いた封着工程を有する光部品または電子部品の製造方法であって、封着工程の全部または一部が中性雰囲気または還元性雰囲気で実行される。封着工程を中性雰囲気または還元性雰囲気にすると、光部品に使用する金属部材等が酸化されないとともに、電子部品等の素子が劣化し難くなり、その結果、光部品の製造コストの低下、電子部品の信頼性の向上を図ることができる。また、本発明の封着材料は、低温で封着可能であることに加えて、熱的安定性も良好であるため、封着材料の熱特性に起因するトラブルを抑止することができる。
【0080】
光部品に関し、光学用キャップ部品を例に挙げ、具体的に説明する。図1に示した光学用キャップ部品1は、円筒形状の側壁部5と、この側壁部5の先端に設けられ且つその中心部にレンズ保持孔を有する端壁部6とから構成された金属製シェル2と、この金属製シェル2のレンズ保持孔に封着材料3で固着された光透過性ガラス部材(球レンズ部材)4とから構成されている。光学用キャップ部品において、光透過性ガラス部材と金属製シェルは封着材料により封着される。封着工程は、一般的に光学用キャップ部品の製品特性を維持する目的のため、低温で行われるのが慣例である。具体的には、封着温度は、光透過性ガラス部材の軟化点以下および金属製シェルのキュリー点以下とされ、通常550℃以下の温度とされる。したがって、本発明の封着材料を使用すると、還元性雰囲気または中性雰囲気でも良好に低温封着できるとともに、金属製シェルの酸化を抑制することができることから、特殊なメッキ処理を行う必要がなく、光学キャップ部品のコストを下げることができる。
【実施例】
【0081】
以下、本発明の封着用ガラス組成物および封着材料を実施例に基づいて詳細に説明する。
【0082】
表1〜3は、本発明の封着用ガラス組成物の実施例(試料a〜n)、表4は、比較例(試料p、q)を示している。
【0083】
【表1】

【0084】
【表2】

【0085】
【表3】

【0086】
【表4】

【0087】
各ガラス試料は次のようにして調製した。まず表1〜4のガラス組成を有するようにバッチ原料を調合し、電気炉内に流量3L/分のNガスを流した上で、流量1L/分のNガスでガラス融液内をバブリングしながら、アルミナ坩堝を用いて、電気炉でN雰囲気中900℃2時間溶融し、その後、電気炉内を900℃に保持した状態で50Torrに減圧し、減圧状態を1時間維持することによりガラス融液内に存在するガス成分を除去した。
【0088】
SnOのバッチ原料として一酸化錫を使用した。Pのバッチ原料として正リン酸(オルトリン酸)を使用せずに、強リン酸(105重量%リン酸)を使用した。その理由は、強リン酸は、正リン酸に比べて水分含有量が少なく、これに付随してガラスバッチの水分含有量を少なくすることができ、溶融時にガラス融液の吹きこぼれが発生しにくくなるからである。その他の成分の導入原料は、試薬グレードの酸化物を使用した。
【0089】
次に、溶融ガラスを水冷ローラー間に通して薄板状に成形し、ボールミルにて粉砕後、目開き105μmの篩を通過させて、レーザー回折式粒度分布測定装置(株式会社島津製作所製SALD−2000J)において平均粒径約10μmのガラス粉末を得た。
【0090】
ガラス転移点および熱膨張係数は、溶融ガラスを20×5mmφに成形した後、押し棒式の熱膨張計(TMA)(リガク株式会社製)により測定した。
【0091】
軟化点は、測定時に窒素ガスを100cc/分の流量を流しながら、マクロ型示差熱分析(DTA)装置(リガク株式会社製)により測定した。
【0092】
焼成後の表面状態(N中)は、周知のフローボタンテストを行い評価した。まず各試料の真比重に相当する重量の粉末を金型によりφ2cmのボタン状に乾式プレスし、ボタン状の粉末成形体を得た。次にこの成形体をソーダガラス基板の上に乗せた後、N中で、焼成温度450℃まで10℃/分の速度で昇温して10分間保持した。その後、この焼成体表面に光沢があり、且つ実体顕微鏡で観察し、結晶が認められないものを「○」とした。この焼成体表面に光沢がなく、または実体顕微鏡で観察し、結晶が認められたものを「×」として評価した。また、この焼成体の直径をデジタルノギスで測定し、流動性(N中)を評価した。
【0093】
焼成後の表面状態(減圧中)は、周知のフローボタンテストを行い評価した。まず各試料の真比重に相当する重量の粉末を金型によりφ2cmのボタン状に乾式プレスし、ボタン状の粉末成形体を得た。次にこの成形体を表中の各種基板の上に乗せた後、1.0×10−1Torrの減圧中で、焼成温度470℃まで10℃/分の速度で昇温して10分間保持した。その後、この焼成体表面に光沢があり、且つ実体顕微鏡で観察し、結晶が認められないものを「○」とした。この焼成体表面に光沢がなく、または実体顕微鏡で観察し、結晶が認められたものを「×」として評価した。また、この焼成体の直径をデジタルノギスで測定し、流動性(減圧中)を評価した。
【0094】
耐水性は、焼成後の表面状態(N中)の評価で作製したボタン状の試料を使用して、評価し、各試料を85℃湿度85%の恒温恒湿槽内に1000時間保持した後、ボタン表面に白色異物が発生していないものを「○」、白色異物が発生していないが、リン酸成分等の染み出しが認められたものを「△」、白色異物が発生し、リン酸成分等の染み出しが認められたものを「×」とした。
【0095】
その結果、実施例の試料a〜nは、熱膨張係数が106〜118×10−7/℃、ガラス転移点が302〜355℃であり、封着材料として良好な特性を有していた。また、実施例の試料a〜nは、焼成後の表面状態も良好であった。一方、比較例の試料p、qは、焼成後の表面状態(減圧中)が不良であり、減圧雰囲気では封着材料としての機能を発揮できないと考えられる。また、比較例の試料p、qは、耐水性が不良であり、平面表示装置等の長期信頼性を確保することができないと考えられる。
【0096】
表5、6は、本発明の封着材料の実施例(試料No.1〜8)を示している。
【0097】
【表5】

【0098】
【表6】

【0099】
表中に記載のガラス粉末に表中に記載の耐火性フィラー粉末を混合して、被封着物である基板の熱膨張係数と整合させた。表中に記載されたNZPはNbZr(PO、ZWPはZrWO(PO、KZPはKZr(PO、KNbZPはNa0.5Nb0.5Zr1.5(POの略称である。
【0100】
次に、各種フィラー粉末の作製方法を述べる。
【0101】
酸化ニオブ(Nb)フィラー粉末および二酸化錫(SnO)フィラー粉末は、同様の方法で作製した。まず原料粉末に焼結助剤として酸化亜鉛を3wt%添加し混合した後、アルミナルツボ中、1400℃で16時間焼成した。続いて焼結塊を取り出し、アルミナボールミルにて粉砕した後、金属製の325メッシュの篩を通し、平均粒径12μmの酸化ニオブ(Nb)および二酸化錫(SnO)のフィラー粉末を得た。
【0102】
ZrWO(POフィラー粉末の作製方法を述べる。原料としてリン酸ジルコニウム:ZrPを1mol相当の265.2g、水酸化ジルコニウム:Zr(OH)を1mol相当の159.2g、酸化タングステン:WOを1mol相当の231.8gを混合し、結晶化助剤として酸化マグネシウムを総量の3wt%に相当する19.7g添加してアルミナボールミルで1時間混合した。次いでこの混合粉末をアルミナルツボ中、1400℃で15時間焼成を行い、ZrWO(POを合成した。冷却後、坩堝からZrWO(PO焼結物を取り出し、アルミナボールミルにて粉砕、分級し、金属製の325メッシュの篩を通し、平均粒径が15μmであるZrWO(POフィラー粉末を得た。
【0103】
NbZr(POフィラー粉末は、次のようにして作製した。まずリン酸ニオブ:NbPOを1mol相当量、リン酸ジルコニウム:ZrP1mol相当量の混合粉末に対し、分子量全体に対して2wt%の酸化マグネシウムを添加し、原料として用いた。次にこれら3種類の粉末を混合した後、アルミナルツボ中で、1400℃15時間の焼成を行った。冷却後、焼結したNbZr(POをルツボから取り出し、アルミナボールミルにて粉砕した後、金属製の325メッシュの篩により分級した。このようにして平均粒径14μmのNbZr(POフィラー粉末を得た。同様の方法にて、平均粒径13μmのKZr(POフィラー粉末、Na0.5Nb0.5Zr1.5(POフィラー粉末を得た。
【0104】
焼成後の表面状態(N中)は、以下の手法により評価した。まず各試料の真比重に相当する重量の粉末を金型によりφ2cmのボタン状に乾式プレスし、ボタン状の粉末成形体を得た。次にこの成形体を表中のソーダガラス基板の上に載置した後、N中で、480℃焼成温度まで10℃/分の速度で昇温して、焼成温度で10分間保持した上で10℃/分の速度で室温まで降温した。その後、この焼成体表面に光沢があり、且つ実体顕微鏡で観察し、結晶が認められないものを「○」とした。この焼成体表面に光沢がなく、および/または実体顕微鏡で観察し、結晶が認められたものを「×」として評価した。また、この焼成体の直径をデジタルノギスで測定し、流動性(N中)を評価した。
【0105】
焼成後の表面状態(減圧中)は、以下の手法により評価した。まず各試料の真比重に相当する重量の粉末を金型によりφ2cmのボタン状に乾式プレスし、ボタン状の粉末成形体を得た。次にこの成形体を表中のソーダガラス基板の上に載置した後、1.0×10−1Torrの減圧中で、490℃焼成温度まで10℃/分の速度で昇温して、焼成温度で10分間保持した上で10℃/分の速度で室温まで降温した。その後、この焼成体表面に光沢があり、且つ実体顕微鏡で観察し、結晶が認められないものを「○」とした。この焼成体表面に光沢がなく、または実体顕微鏡で観察し、結晶が認められたものを「×」として評価した。また、この焼成体の直径をデジタルノギスで測定し、流動性(減圧中)を評価した。
【0106】
封着性(N中)は、焼成後の表面状態(N中)の評価後の焼成体を用いて、評価した。基板にクラックがなく、コンクリート板の上方1mから落下させたときに、ボタン状の焼成体が基板から剥離しなかったものを「○」とし、基板にクラックがあり、或いはコンクリート板の上方1mから落下したときボタン状の焼成体が基板から剥離したものを「×」とした。
【0107】
封着性(減圧中)は、焼成後の表面状態(減圧中)の評価後の焼成体を用いて、評価した。基板にクラックがなく、コンクリート板の上方1mから落下したときに、ボタン状の焼成体と基板が剥離しなかったものを「○」とし、基板にクラックがあり、或いはコンクリート板の上方1mから落下したときボタン状の焼成体と基板が剥離したものを「×」とした。
【0108】
その結果、実施例の試料No.1〜8は、熱膨張係数が68.9〜77×10−7/℃であり、流動径(N中)が22.8〜24.2mm、流動径(減圧中)が20.0〜21.7mmであり、封着材料として良好な特性を有していた。また、封着性、焼成後の表面状態も良好であった。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明の封着用ガラス組成物および封着材料は、PDP、各種電子放出素子を有する各種形式のFED、VFD等の平面表示装置の封着、レンズキャップ、LDキャップ等の光部品の封着およびICパッケージ、水晶振動子や弾性表面波素子等の圧電振動子等の電子部品(電子部品収納容器を含む)の封着に好適である。
【0110】
その他にも、本発明の封着用ガラス組成物および封着材料は、CRT、無機エレクトロルミネッセンスディスプレイ等の表示装置に使用することもできる。また、平面蛍光ランプ(FFL)等のランプの封着にも使用可能である。さらに、光ファイバ、球レンズ等を構成部材とする光部品の封着にも使用可能である。
【0111】
さらに、本発明の封着用ガラス組成物および封着材料は、有機エレクトロルミネッセンスディスプレイに使用することもできる。具体的には、本発明の封着材料を封着ペースト、封着タブレット、フリットバー等に加工し、これらを介して、ガラス基板同士を固定した後、封着部位にレーザービームを照射することで、ガラス基板同士を封着する。レーザービームは、エキシマレーザー、YAGレーザー等が使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0112】
【図1】光学用キャップ部品の構成を示す説明図である。
【符号の説明】
【0113】
1 光学用キャップ部材
2 金属製シェル
3 封着材料
4 光透過性ガラス部材(球レンズ部材)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス組成として、下記酸化物換算のモル%表示で、SnO 30〜80%、P 10〜25%(但し、25%は含まない)、B 0〜20%、ZnO 0〜20%、SiO 0〜10%、Al 0〜10%、WO 0〜20%、RO(RはLi、Na、K、Csを指す) 0〜20%含有し、且つ低酸素雰囲気における封着に用いることを特徴とする封着用ガラス組成物。
【請求項2】
更に、ガラス組成として、下記酸化物換算のモル%表示で、MoO、Nb、TiO、ZrO、CuO、MnO、MgO、CaO、SrO、BaOを合量で0〜35%含有することを特徴とする請求項1に記載の封着用ガラス組成物。
【請求項3】
更に、ガラス組成として、下記酸化物換算のモル%表示でMoO 0〜5%、Nb 0〜15%、TiO 0〜15%、ZrO 0〜15%、CuO 0〜10%、MnO 0〜15%、R’O(R’はMg、Ca、Sr、Baを指す) 0〜15%含有することを特徴とする請求項1に記載の封着用ガラス組成物。
【請求項4】
ガラス組成として、下記酸化物換算のモル%表示で、SnO 30〜80%、P 10〜25%(但し、25%は含まない)、B 0.1〜10%(但し、10%は含まない)、ZnO 0〜20%、SiO 0〜10%、Al 0〜10%、WO 0〜20%、RO(RはLi、Na、K、Csを指す) 0〜20%、MoO 0〜5%、Nb 0〜15%、TiO 0〜15%、ZrO 0〜15%、CuO 0〜10%、MnO 0〜15%、R’O(R’はMg、Ca、Sr、Baを指す) 0〜15%含有することを特徴とする封着用ガラス組成物。
【請求項5】
更に、ガラス組成として、下記酸化物換算のモル%表示で、Fを0〜10%含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の封着用ガラス組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の封着用ガラス組成物からなるガラス粉末50〜100体積%と、耐火性フィラー粉末0〜50体積%とを含有することを特徴とする封着材料。
【請求項7】
減圧雰囲気で焼成したときに、焼成体の表面に光沢があり、且つ失透が認められないことを特徴とする請求項6に記載の封着材料。
【請求項8】
中性雰囲気または還元性雰囲気で焼成したときに、焼成体の表面に光沢があり、且つ失透が認められないことを特徴とする請求項6に記載の封着材料。
【請求項9】
耐火性フィラーが、酸化錫、酸化ニオブ、リン酸ジルコニウム、コーディエライト、Na0.5Nb0.5Zr1.5(PO、KZr(PO、Ca0.25Nb0.5Zr1.5(PO、NbZr(PO、K0.5Nb0.5Zr1.5(PO、ZrWO(POの群から選択される一種または二種以上を含有することを特徴とする請求項6〜8のいずれかに記載の封着材料。
【請求項10】
プラズマディスプレイパネル、フィールドエミッションディスプレイ、蛍光表示管、CRT、電子部品、光部品のいずれかの封着に使用することを特徴とする請求項6〜9のいずれかに記載の封着材料。
【請求項11】
封着材料を所定形状に焼結させた封着タブレットにおいて、封着材料が請求項6〜10のいずれかに記載の封着材料であることを特徴とする封着タブレット。
【請求項12】
封着材料がビークルに分散された封着ペーストにおいて、封着材料が請求項6〜10のいずれかに記載の封着材料であることを特徴とする封着ペースト。
【請求項13】
ビークルが、トルエン、N,N’−ジメチルホルムアミド、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(DMI)、炭酸ジメチル、ブチルカルビトールアセテート、酢酸イソアミル、プロピレンカーボネート、N−メチル−2−ピロリドンアセトニトリル、ジメチルスルホキシド、アセトン、メチルエチルケトン、イソドデシルアルコール、イソトリデシルアルコール、ペンタンジオール、ペンタンジオール誘導体、C2n+1OH(n=8〜20)で表される高級アルコールの群から選択される一種または二種以上を含有することを特徴とする請求項12に記載の封着ペースト。
【請求項14】
ビークルが、ニトロセルロース、ポリエチレングリコール誘導体、ポリエチレンカーボネートの群から選択される一種または二種以上を含有することを特徴とする請求項12または13に記載の封着ペースト。
【請求項15】
請求項6〜10のいずれかに記載の封着材料を用いた封着工程を有するプラズマディスプレイパネルまたはフィールドエミッションディスプレイの製造方法であって、
封着工程の一部または全部が減圧雰囲気で実行されることを特徴とするプラズマディスプレイパネルまたはフィールドエミッションディスプレイの製造方法。
【請求項16】
請求項6〜10のいずれかに記載の封着材料を用いた封着工程を有する光部品または電子部品の製造方法であって、
封着工程の一部または全部が中性雰囲気または還元性雰囲気で実行されることを特徴とする光部品または電子部品の製造方法。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2013−49628(P2013−49628A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−260517(P2012−260517)
【出願日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【分割の表示】特願2007−134961(P2007−134961)の分割
【原出願日】平成19年5月22日(2007.5.22)
【出願人】(000232243)日本電気硝子株式会社 (1,447)
【Fターム(参考)】