説明

導電性コーティング組成物

【課題】 耐環境性等の耐環境性に優れたものであり、濃縮することが可能で、なおかつITO等の導電性物質に代わりうるものである導電性コーティング組成物及びこれを用いた透明導電性フィルムを提供する。
【解決手段】 導電性高分子と、無機微粒子と、を主たる成分とする導電性コーティング組成物であって、前記無機微粒子が、その周囲をドーパント機能を有する官能基で修飾された非水溶性物質であること、を特徴とする導電性コーティング組成物とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は導電性を有するコーティング可能な組成物に関する発明であって、具体的には、例えば従来透明導電性フィルムに用いられていたインジウム−スズ酸化物(ITO)の代替品として利用可能である導電性コーティング組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶表示装置やエレクトロルミネッセンスディスプレイ、太陽電池やタッチパネルなどが広く普及しているが、これらにはいわゆる透明電極と称される積層体が利用されている。
【0003】
この透明電極に用いられるものとしては、いわゆる透明導電性フィルムと称される積層体が広く使われているが、この透明導電性フィルムにおける導電性を供する物質として現在ではITOが広く利用されている。
【0004】
より具体的には、導電成分であるITOをポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムのような透明高分子樹脂フィルムの表面に真空蒸着法などのいわゆるドライコーティングと称される手法により積層することにより得られる。
【0005】
しかしITOは爆発的に需要が増大している一方で生産量が少量であって、いわゆるレアメタルであるので将来的な資源枯渇が問題となっている。さらにITOを前述したような手法でPETフィルム等へ積層しようとすると、蒸着膜を得るには成膜に高温が必要であり、積層対象となる基材フィルムの選択肢が少なくなる、これを積層するための真空蒸着装置が高価な装置であるため得られる蒸着フィルムも必然的に高価なものとなる、という問題も指摘されている。
【0006】
そこでこのITOに代わりうる物質の研究開発が各方面で進められているが、その中には導電性樹脂を塗布することによってITOの代替としようと試みるものもある。
【0007】
例えば特許文献1に記載されたような発明においては、導電性を有する高分子溶液とこれを用いた導電性塗膜が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−146913号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
この特許文献1に記載された導電性高分子溶液は、π共役系導電性高分子と、ドーパントと、アミド化合物と、不飽和二重結合を2つ以上有している多官能アクリルと、溶媒と、を含有するものである。そしてドーパントとしてポリアニオンを、アミド化合物としてN−ヒドロキシアクリル(メタ)アクリルアミド及び/又はN−アルコキシアルキル(メタ)アクリルアミドを、それぞれ用いることが好ましい、とされている。
【0010】
この発明において、ドーパントとして用いられているポリアニオンの一例として例えばポリスチレンスルホン酸(PSS)が挙げられており、これと導電性高分子とを組み合わせ導電性高分子溶液が得られる、とされている。
【0011】
しかしこのPSSは従来水溶性に富んだものであるので、このPSSを導電性高分子と組み合わせて得られる導電性高分子溶液が、例えば水蒸気などの高温高湿度の環境下にさらされた場合にはPSSが容易に溶融してしまうため、PSSを導電性高分子と組み合わせたことにより得られる効果、即ち良好な導電性が消失してしまうことが考えられる。(尚、以下本明細書において水蒸気などの高温高湿度の環境における耐性のことを「耐環境性」と称する。)
【0012】
一方、先述したような導電性フィルムの利用環境における従来のITOによる導電性フィルムにあっては耐環境性が重要な課題となっていることからもわかるように、ITOの代替品として導電性フィルム等に用いようとするのであれば、当然代替品である導電性高分子溶液にも塗布後の耐環境性等の性質が求められることは自明であるものと思われるが、この特許文献1に記載された導電性高分子溶液では係る要望に十分に応えることが出来ないものであると思われる。
【0013】
また他方、透明導電性フィルムの導電回路を印刷により積層・形成することも昨今検討されているものであるところ粘度の調整をすることが重要な事項となるが、粘度を調整するためには固形分濃度の調整が必要である。そして特許文献1に記載の導電性高分子溶液を導電性コーティングインクとして用いようとしてこの導電性高分子溶液を濃縮しようとしても必要な程度にまで濃縮出来ず、又は固形部が2%〜3%程度になるくらいまで濃縮を進めると導電性高分子がゲル化してしまい、つまり固体状となってしまい、結果として所望するインクを得ることが出来ず、よってこの導電性高分子溶液は上述した状況で用いるには好ましいものとは言えなかった。
【0014】
さらに、導電性高分子樹脂等に有機高分子系ドーパントを使うことも通常行われているが、この場合における導電性高分子組成物を導電性コーティングインクとし、これを基材表面に塗布することにより透明導電膜を形成した場合、有機高分子系ドーパントであるポリマーが透明導電膜の表面に析出しがちになってしまう。
【0015】
これは何も有機高分子系であるから、という理由ではないのであるが、いずれにせよ導電性コーティングインクの組成においてドーパントポリマーの部分が多いものになってしまうと、上述のようにして得られる透明導電膜の表面における抵抗値が高くなってしまう。これは、ドーパントポリマー自体はただ単にドーピングするだけの材料であって、即ち導電する素材はあくまでも導電性高分子であるので、結果として透明導電膜全体の導電性は良く且つ抵抗値は低いが、透明導電膜の表面は導電性が低く、抵抗値は高くなってしまう。
【0016】
そしてこれを例えばタッチパネルのようなものに用いるならば、その使用時において導電面が接触した時に押す圧力が大きくなってしまい、結果として接触抵抗が高い透明導電膜となり、実用に供するには問題であった。
【0017】
そこで本発明はこのような問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、耐環境性に優れたものであり、濃縮することが可能で、またこれを用いて得られる導電成膜の表面における接触抵抗が低いものとなり、なおかつITO等の導電性物質に代わりうるものである導電性コーティング組成物及びこれを用いた透明導電性フィルムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決するために、本願発明の請求項1に記載の発明は、導電性高分子と、無機微粒子と、を主たる成分とする導電性コーティング組成物であって、前記無機微粒子が、その周囲をドーパント機能を有する官能基で修飾された非水溶性物質であること、を特徴とする。
【0019】
本願発明の請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の導電性コーティング組成物であって、前記ドーパント機能を有する官能基が、アニオン性基であること、を特徴とする。
【0020】
本願発明の請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の導電性コーティング組成物であって、前記アニオン性基が、スルホ基、エステル基、リン酸基、カルボキシル基、のいずれかもしくは複数であること、を特徴とする。
【0021】
本願発明の請求項4に記載の発明は、請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の導電性コーティング組成物であって、前記導電性高分子が、π共役系導電性高分子樹脂であること、を特徴とする。
【0022】
本願発明の請求項5に記載の発明は、請求項4に記載の導電性コーティング組成物であって、前記π共役系導電性高分子樹脂がポリチオフェン系樹脂、ポリアニリン系樹脂、又はポリピロール系樹脂のいずれかもしくは複数であること、を特徴とする。
【0023】
本願発明の請求項6に記載の発明は、請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の導電性コーティング組成物であって、前記導電性コーティング組成物中に、アミド結合を有する水溶性化合物、水酸基を有する水溶性化合物、水溶性のスルホキシド、及び水溶性のスルホン酸からなる群より選択される化合物をさらに含んでなること、を特徴とする。
【0024】
本願発明の請求項7に記載の発明は、請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の導電性コーティング組成物であって、前記導電性コーティング組成物中に、該導電性コーティング組成物の成膜性及び基材との密着性を向上させる目的で、これに水溶性もしくは水分散性のバインダー樹脂を含有してなること、又は/及び該導電性コーティング組成物の基材に対する濡れ性を向上させる目的で、これに少量の界面活性剤を含有してなること、又は/及び該導電性コーティング組成物の基材に対する濡れ性の向上及び塗膜の乾燥性を向上させる目的で、これに水溶性の溶媒を含有してなること、を特徴とする。
【0025】
本願発明の請求項8に記載の導電性フィルムに関する発明は、請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の導電性コーティング組成物を用いてなること、を特徴とする。
【0026】
本願発明の請求項9に記載の導電性コーティングインクに関する発明は、請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の導電性コーティング組成物を用いてなること、を特徴とする。
【発明の効果】
【0027】
以上のように、本願発明に係る導電性コーティング組成物であれば、例えばPEDOT等のようなπ共役系導電性高分子に、非水溶性であるドーパントとして、例えばスルホン化されたシリカ微粒子を用いているため、係る導電性コーティング組成物をITOの代替として用いた導電性フィルムを高湿度の環境下にさらしても導電性コーティング組成物に含有されるスルホン化されたシリカ微粒子が非水溶性であるので、当初の導電性能を維持出来る。さらに係る組成物は従来のITO等のような、高価で複雑な真空蒸着装置を用いることなく単純な塗布工程のみで利用することが出来るので、これを導電性フィルムの製造に適用すれば安価な導電性フィルムを容易に得ることが可能となる。
【0028】
さらに本願発明に係る導電性コーティング組成物であれば、濃縮することで溶媒たる水を除去することが可能であり、故に溶媒たる水を有機溶媒に置換することが容易に可能である。即ちこの性質を利用して、本願発明に係る導電性コーティング組成物を用いた導電性コーティングインクとなすことが出来る。そしてこの導電性コーティングインクを用いて透明導電膜を形成するならば、又は本願発明に係る導電性フィルムを用いるならば、膜全体の導電性も良好であり、膜表面の導電性も接触抵抗の低い良好なものすることが容易に可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
以下、本願発明の実施の形態について説明する。尚、ここで示す実施の形態はあくまでも一例であって、必ずもこの実施の形態に限定されるものではない。
【0030】
(実施の形態1)
本願発明に係る導電性コーティング組成物について第1の実施の形態として説明する。
本実施の形態に係る導電性コーティング組成物は、導電性高分子と、ドーパントと、を主たる成分とするものであって、ドーパントは非水溶性物質である。
【0031】
以下順次説明をする。
まず導電性高分子であるが、これは一般的には文字通り電気を通す高分子(ポリマー)のことを指すものである。通常のポリマーは絶縁材料であるが、導電性高分子は一般的には二重結合と単結合とが交互に並んだ構造、即ちπ共役が発達した主鎖を持つことに特徴がある。本実施の形態で用いる導電性高分子としてπ共役系導電性高分子樹脂を用いることとする。
【0032】
さらにこのπ共役系導電性高分子としては、ポリアセチレン、ポリパラフェニレン、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリン、ポリアセンなどの様々な樹脂、さらに述べるとポリチオフェン系樹脂、ポリアニリン系樹脂、又はポリピロール系樹脂のいずれかもしくは複数とすることが考えられるが、本実施の形態ではポリチオフェン系樹脂であるPEDOT(ポリエチレンジオキシチオフェン)を用いることとする。大気環境において高分子自体が分解せず、最も安定した化合物である、という理由でPEDOTは好ましいと言える。
【0033】
しかし実際のところ、上記の物質は導電経路は有しているものの、自由に動ける電荷移動体(キャリア)が存在しないのでそれ自身では導電性は発揮されない。
【0034】
そこで、例えばシリコン等の無機半導体のように、導電性高分子にキャリアをドー
ピングすることによって、初めて導電性が発現するのである。
【0035】
このドーピングは、ヨウ素などの電子受容体(アクセプタ)やアルカリ金属などの電子供与体(ドナー)などの適当な物質(化学種)を導電性高分子に添加することで行われ、この添加する物質をドーパントと称する。そしてドーパントを与えられた導電性高分子は内部を自由に動くキャリアを生じることとなり、その結果高分子樹脂でありながら金属に匹敵する導電性を得ることが出来るようになるのである。
【0036】
本実施の形態において、先述の通り導電性高分子はPEDOTとしたが、このPEDOTを最も効果的に利用するために、即ち効果的に導電性を引き出すための最適なドーパントの一種として、PSSが知られている。
【0037】
しかしこのPSSは水溶性であり、本実施の形態においてはこの水溶性が問題となってしまう。
【0038】
即ち、本実施の形態に係る導電性コーティング組成物は後述のように、例えば従来ITOにより得られていた導電性フィルムにおけるITOの代替品として想定しているものだからである。つまり、ITOを用いた導電性フィルムは通常耐環境性等を求められるのが常であり、そのような導電性フィルムにおいてITOの代替品として本実施の形態に係る導電性コーティング組成物を用いるのであれば、当然これを用いた導電性フィルムでも耐環境性を求められることとなり、そのためには本実施の形態に係る導電性コーティング組成物は耐環境性を備えていることが強く望まれるのである。
【0039】
しかしこのPSSは前述の通り水溶性であるため、仮にこれを用いた導電性コーティング組成物とした場合、この導電性コーティング組成物が水蒸気等の環境にさらされると導電性コーティング組成物を構成するPSSが水分に反応して溶出してしまい、即ち導電性コーティング組成物からPSSが抜け落ちることとなる。
【0040】
そうすると、前述した通り、主たる成分のPEDOTが導電性を呈するとされていても、PSS、即ちドーパントが存在しない状態となってしまうとPEDOTが導電性を発揮することは出来なくなってしまう。即ち導電性コーティング組成物であるはずの物質が、水蒸気等の環境にさらされることで導電性を消失する可能性が非常に高い、ということになるのである。即ち耐環境性が備えられていない、と言える。
【0041】
そこで本願発明に係る発明者はPEDOTの導電性を最適に引き出すためにはドーパント骨格が非水溶性であることが必要であるという結論に至り、これを解決するために無機微粒子の周囲をドーパント機能を有する官能基で修飾されたものを本実施の形態におけるドーパントとして利用することを見いだしたのである。
【0042】
この無機微粒子の周囲をドーパント機能を有する官能基で修飾されたものに関し、以下説明する。(以下、単に「ドーパント微粒子」とも称する。)
【0043】
まずドーパント微粒子における表面官能基としては、プロトン供与性基を有する官能基でなければならない。プロトン供与性基を有する官能基は、ドーパント機能を有する。例えば本実施の形態においてアニオン性基などは好適なドーパント機能を有すると言える。アニオン性基は、π共役系導電性高分子に対するドーパントとして機能し、π共役系導電性高分子の導電性を向上させる。
【0044】
また本実施の形態において望ましいアニオン性基としては、例えばスルホ基、エステル基、リン酸基、カルボキシル基、等であり、これらのいずれかもしくは複数を用いることが考えられるが、本実施の形態ではスルホ基を用いることとする。
【0045】
以上説明した、ドーパント微粒子に用いる官能基であるスルホ基を無機微粒子の周囲に修飾する。
【0046】
無機微粒子を用いる理由は次の通りである。
無機微粒子は有機微粒子と異なり、非常に強固で、水に対しても非常に安定した物質である。さらには、本実施の形態に係る導電性コーティング組成物を用いる一例である透明導電性フィルムにおいて通常積層されるハードコート層においても無機微粒子が使われることがあり、係るハードコート層中の無機微粒子の存在と相まって、本実施の形態に係る導電性コーティング組成物を用いた場合、導電性コーティング組成物による塗膜中に無機微粒子が存在することで係る塗膜の硬度が大幅に向上し、その結果強固な膜を作ることが出来る。ちなみに、無機微粒子に置換して従来公知の有機微粒子を用いた場合、係る塗膜の硬度は無機微粒子を用いた場合ほどには良好なものとはならない。尚、本実施の形態における無機微粒子の平均的な粒径は動的光散乱測定法によるもので10nm〜500nmであるものを指すが、本実施の形態において好ましい平均粒径は10nm〜100nmであるものとする。これは粒径が大きすぎると光の散乱が大きくなり、透過率が低下するためである。
【0047】
さらに本実施の形態において、この無機微粒子としてはシリカ微粒子を用いることとする。限定はしない。ジルコニアやチタニア微粒子も可能。その理由は次の通りである。シリカ微粒子の表面には水酸基(OH基)が多い。OH基が多いため、修飾用官能基であるスルホ基を多く修飾することが可能となる。故に導電性向上につながるドーパントの数が多くなり、その結果導電性を高めることが容易に可能となるからである。
【0048】
シリカ微粒子をスルホ基で修飾する場合、特段その手法を制限するものではないが、例えば次のような手法によることが考えられる。
【0049】
まずシリカ微粒子と、メルカプトプロピルトリメトキシシラン(シランカップリング剤)と、水と、塩酸(酸)と、を加えて、メルカプトプロピルトリメトキシシランを加水分解し、シリカ微粒子の表面にあるOH基と脱水縮合させる。この状態では末端基がチオール基となるので、これに対して過酸化水素を加え、チオール基をスルホ基にするのである。
【0050】
さらに周囲を官能基で修飾する理由につき説明を加える。
従来、導電性コーティング組成物において導電性を効果的に発現させるためにドーパントを用いるものであり、係るドーパントとして有機微粒子を用いるが、本願発明においてこれを無機微粒子とするのは上述した通りである。
【0051】
そしてこの場合においても、やはり先述したように、本実施の形態に係るドーパント微粒子を用いた本実施の形態に係る導電性コーティング組成物を用いて透明導電膜を形成すると、ドーパントのポリマーが透明導電膜の表面に析出する。
【0052】
しかし本実施の形態に係るドーパント微粒子であれば、これが表面に析出したとしても、まずドーパントポリマーの周囲は官能基で修飾されていることより、またドーパントポリマーを修飾している官能基は無機微粒子に附着するので、結果として、必ず無機微粒子の表面は導電性高分子になり、故に透明導電膜の表面は導電性高分子の膜となるのである。
【0053】
よって、自然と透明導電膜全体として導電性は良く、抵抗値も低く、同時に透明導電
膜の表面も導電性が良く、抵抗値も低いものとなるのである。
【0054】
以上の通り、本実施の形態に係るドーパント微粒子を用いることで、例えばこれを用いた導電性コーティング組成物による透明導電膜であれば、周囲を特定官能基で修飾された無機微粒子を使うことで、導電膜表面を導電性高分子にし、接触抵抗を低くすることが可能となる。
【0055】
以上説明したように、本実施の形態におけるドーパント微粒子たるスルホン酸修飾シリカ微粒子を得る。尚、以下の説明においてドーパント微粒子はシリカ微粒子の周囲をスルホ基で修飾したものを指すこととするが、必ずしもこの組み合わせに限定されるものではないことを断っておく。
【0056】
このように本実施の形態では、以上説明したPEDOTとドーパント微粒子とを主たる成分として導電性コーティング組成物を得るが、その具体的な製法は次の通りである。
【0057】
まずPEDOTの前駆体モノマーであるエチレンジオキシチオフェン(EDOT)と、ドーパントである前述したスルホ基修飾シリカ微粒子と、溶媒としての水と、酸化剤としての第三硫酸鉄とペルオキソ二硫酸ナトリウムと、を混合し、またpH調整のために塩酸を加えて、18℃で23時間反応させる。この時の比率は次の通りである。
EDOT 1 に対し
スルホ基修飾シリカ微粒子 : 2モル当量
第三硫酸鉄 : 0.03モル当量
ペルオキソ二硫酸ナトリウム : 0.9モル当量
塩酸 : 3モル当量
水 : 1700モル当量
23時間経過後、余分な残留金属イオンを取り除くために陽イオン交換樹脂と陰イオン交換樹脂を加えて2時間撹拌させる。
【0058】
このようにして得られる本実施の形態に係る導電性コーティング用組成物は、上記PEDOTとドーパント微粒子との複合体を主とする水分散体である。
【0059】
そしてこれに加えて、アミド結合を有する水溶性化合物、水酸基を有する水溶性化合物、水溶性のスルホキシド、及び水溶性のスルホンからなる群より選択される化合物を含む。これらは、塗膜の導電性を改良するために含有される。
【0060】
本実施の形態に係る導電性コーティング用組成物に含有されるアミド結合を有する水溶性化合物としては、例えばピロリドン系化合物(例えば、N−メチル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、N−ビニル−2−ピロリドン)、アミド基含有化合物(例えば、N−メチルホルムアミド、N ,N−ジメチルホルムアミド、ホルムアミド、γ−ブチロラクトンなど)など、が考えられるがこれらに限定されるものではない。また上記の中でも、N−メチル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、N−ビニル−2−ピロリドン、N−メチルホルムアミド、ホルムアミド、及びN ,N−ジメチルホルムアミド、のいずれかが好ましく、最も好ましい化合物は、N−メチルホルムアミドである。これらのアミド化合物は単独で用いても良いし、2つ以上組み合わせて用いても良い。
【0061】
本実施の形態に係る導電性コーティング用組成物に含有される水酸基を有する水溶性化合物としては。例えば、グリセロール、1,3−ブタンジオール、エチレングリコール、ジエチレングリコールモノエチルエーテルなどが好適な多価アルコールとして挙げられる。これらは単独で用いても良いし、2つ以上組み合わせて用いても良い。
【0062】
本実施の形態に係る導電性コーティング用組成物に含有される水溶性のスルホキシドとしては、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシドなどが挙げられる。
【0063】
本実施の形態に係る導電性コーティング用組成物に含有される水溶性のスルホンとしては、ジエチルスルホン、テトラメチレンスルホンなどが挙げられる。
【0064】
また本実施の形態に係る導電性コーティング組成物の成膜性及び基材との密着性を向上させる目的で、これに水溶性もしくは水分散性のバインダー樹脂を含有しても良い。
【0065】
このような水溶性もしくは水分散性のバインダー樹脂としては、例えばポリエステル、ポリ(メタ)アクリレート、ポリウレタン、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリアミド、ポリイミド、のような高分子物質。又は、スチレン、塩化ビニリデン、塩化ビニル、及びアルキル(メタ)アクリレートから選択される共重合成分を有する共重合体など、の化合物が挙げられるが、これらに限定されない。
【0066】
また本実施の形態に係る導電性コーティング組成物の基材に対する濡れ性を向上させる目的で、これに少量の界面活性剤を含有しても良い。
【0067】
このような界面活性剤としては、好ましくは、非イオン性界面活性剤(例えば、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸アルキロールアミドなど)、フッ素系界面活性剤(例えば、フルオロアルキルカルボン酸、パーフルオロアルキルベンゼンスルホン酸、パーフルオロアルキル4級アンモニウム、パーフルオロアルキルポリオキシエチレンエタノールなど)などが挙げられる。
【0068】
また本実施の形態に係る導電性コーティング組成物の基材に対する濡れ性の向上及び塗膜の乾燥性を向上させる目的で、これに水溶性の溶媒を含有しても良い。
【0069】
このような溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、2−プロパノール、n−プロピルアルコール、イソブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、アセトン、メチルエチルケトン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、これらの混合溶媒など、が好適な溶媒として挙げられるが、これらに限定されない。
【0070】
ここで注目すべきは、本実施の形態におけるPEDOTとスルホ基修飾シリカ微粒子とを主たる成分とした導電性コーティング組成物の形状であり、それは粒子を形成している、ということである。
【0071】
ちなみに、上記と同様の手法で、しかしPSSを用いた場合、得られる物質はゲル状のものであり、特に濃縮するとゲル化し固化してしまうのであるが、そのような状態の物質をコーティング塗剤用の原材料として用いることは出来ないものである。つまりそのような物質を何かの溶媒に溶融させて塗剤としようとしてもゲル化して固まってしまっているので薄めて使う、ということが出来ないのである。
【0072】
もう少し具体的に説明を加える。
通常の直鎖のPSSのドーパントを用いて導電性高分子(PEDOT)と合わせて合成した導電性コーティングインク組成物では、固形分率がおよそ1.3%程度にしか過ぎない。これを濃縮しようとしてもあまり濃縮出来ない。またPSSの分子量によって多少の差異は存在するが、およそ固形部が2〜3%ぐらいになるまで強引に濃縮してしまうと、PSSを用いた導電性コーティング組成物はゲル化し固体状になってしまう。そして固形状となってしまった導電性コーティング組成物は、例えばこれを何らかの溶媒を用いて塗布しようとしても固体状のままであるので良好に塗布出来ず、実用に供するのは困難であると言わざるを得ない。
【0073】
しかし本実施の形態における導電性コーティング組成物であれば、得られる組成物がその段階で完全な粒子を形成しているため、必要に応じて必要な濃度としてこれを薄めて使う、ということが可能となり、即ち容易に塗剤として利用することが出来る、という利点を生じるのである。
【0074】
つまり、本実施の形態に係る導電性コーティング組成物であれば、これをいかに濃縮してもゲル化しないのである。例えばこれを5%まで濃縮することも容易に可能であり、これは前述した従来の導電性コーティング組成物の場合と比べても約2倍の濃縮度である。
【0075】
濃縮が可能であり、なおかつ濃縮しても導電性コーティング組成物が固体状にならない、という利点を生かして、次のようなことも可能となる。
【0076】
本実施の形態に係る導電性コーティング組成物を濃縮することによって、まず最初に本実施の形態に係る導電性コーティング組成物の溶媒である水を除去することが出来る。水を除去することで、当初溶媒であった水を有機溶媒に置換することが可能となる。有機溶媒とすることで例えば以下の利点を得られる。まず、従来の導電性コーティング組成物であれば溶媒は水となっていたので、これを実際にコーティングに用いた場合には乾燥などの点で問題となるが、上述のようにして水を有機溶媒に置換することで、乾燥などの点での問題を解消出来る。乾燥などの点での問題を解消出来ることにより、有機溶媒に置換したものは導電性コーティングインクとして利用可能となり、非常に有益なものを得ることが出来ると言える。ここではこの導電性コーティングインクに関してこれ以上の詳述は省略するが、要するに従来溶媒として用いざるを得なかった水を、本実施の形態に係る導電性コーティング組成物であればこれを有機溶媒に容易に置換することが可能となり、また有機溶媒に置換することで従来は不可能であった利用方法が可能となることを述べておく。
【0077】
さらに導電性コーティング組成物につき説明を続ける。
本実施の形態に係る導電性コーティング組成物は、すでに述べているように例えばITOの代替品として従来の透明導電性フィルムに用いられることが考えられる。即ち、本実施の形態に係る導電性コーティング組成物にはある程度の透過率が必要とされる場合がある。例えば太陽電池の部材として用いられる透明導電性フィルムや、その他透明電極として用いられる場合、におけるITOの代替品として、という場合である。
【0078】
この透過率の目安としては、ITOを用いた場合であって、高度・高級なものを求められる場合であれば透過率は92%程度であることが望ましいとされているが、一般的には85%程度のものも広く用いられており、この値を一つの目安と考えることも可能である。しかし本実施の形態に係る導電性コーティング組成物においては必ずしも非常に高水準な透過率が必須なのではなく、それよりも耐環境性に優れた、より具体的には水蒸気等にさらされてもドーパントの消失による導電性の低下を防ぐことが本実施の形態に係る導電性コーティング組成物においては重要であり、またそのような性能を求められる環境に用いることを想定していることを述べておく。
【0079】
以上の説明の通り、ドーパント微粒子であるスルホ基修飾シリカ微粒子水溶液中にエチレンジオキシチオフェン、水、塩酸、1%第三硫酸鉄水溶液、ペルオキソ二硫酸ナトリウム水溶液を加え、撹拌させる。得られた反応混合物に、陽イオン交換樹脂及び陰イオン交換樹脂を加えて撹拌した後、イオン交換樹脂をろ別して、脱塩されたPEDOTとスルホ基修飾シリカ微粒子の複合体の水分散体を得る。そして得られた水分散体に、ポリエステル水分散樹脂、エチレングリコール、陰イオン界面活性剤を加えて、導電性コーティング組成物を得る。
【0080】
以上は本実施の形態に係る導電性コーティング組成物を得るための手法の一例であるが、必ずしもこの手法に限定されるものではないことを断っておく。
【0081】
このようにして得られる本実施の形態に係る導電性コーティング組成物は、例えば次のようにしてITOの代替品として利用され、例えば次のように透明導電性フィルムを得ることが出来る。
【0082】
まず本実施の形態に係る導電性コーティング組成物を塗布する相手となる基材としては、例えば、プラスチックシート、プラスチックフィルム、不織布、ガラス板などが挙げられる。プラスチックシート、プラスチックフィルムの原材料であるプラスチックとしては、ポリエステル、ポリスチレン、ポリイミド、ポリアミド、ポリスルホン、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、これらのブレンドならびにこれらの化合物を構成するモノマーを含有する共重合体、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ABS樹脂などが挙げられる。ここではポリエステルフィルムを用いることとする。
【0083】
このポリエステルフィルムの表面に、本実施の形態に係る導電性コーティング組成物を塗布する。適切な塗布方法は特に限定されないが、例えば、グラビアコーティング、ロールコーティング、バーコーティングなどのコーティング方法、スクリーン印刷、グラビア印刷、フレキソ印刷、オフセット印刷、インクジェット印刷などの印刷方法、スプレーコーティング法、ディップコーティング法、などが考えられ、ここではグラビアコーティング法を用いることとする。
【0084】
コーティングが終わると、コーティング層を乾燥することにより、基材表面に導電層が形成される。尚、塗布液の乾燥の条件は、20℃〜250℃で3秒から1週間である。好ましくは70℃〜130℃で5秒から60秒、である。本実施の形態では、100℃で30秒乾燥することとする。
【0085】
このように、本実施の形態に係る導電性コーティング組成物であれば、従来ITOを用いて導電性フィルム等を得ていたものを、高価で複雑な、また基材フィルムにも制限を生じてしまうような真空蒸着法を用いることなく、安価で容易なウェットコーティング法により、ほぼ同等の導電性フィルムを得ることが出来るようになるのである。
【0086】
また以上説明した本実施の形態に係る導電性コーティング組成物において、ここでは特段詳述しないが、帯電防止塗料に使えるPEDOTは無論直鎖のPSSを用いており、これは水に対しての耐性が低いものである。即ちこれであれば帯電防止塗料としても環境に左右されることなく使える。
【0087】
さらに本実施の形態に係る導電性コーティング組成物において、やはりここでは特段詳述しないが、水を有機溶媒に置換することが可能であることについてはすでに述べた通りであることより、従来のものであれば有機溶媒に置換出来ない水系PEDOT/PSSを用いていることよりアクリルやウレタン、エポキシ樹脂などと混合させることが出来ないものであったところ、本実施の形態に係る導電性コーティング組成物であって有機溶媒に置換した組成物であるならば、これを樹脂に練りこむことが可能で、それ故に半永久的に使える帯電防止インクを得ることが可能となる。
【0088】
尚、以上の説明においてPEDOT及びスルホ基修飾シリカ微粒子を主たる成分として利用する場合について説明したが、本願発明において導電性高分子はPEDOTに、またドーパント微粒子としてスルホ基修飾シリカ微粒子に、それぞれ制限するものではないこと、即ち導電性高分子と非水溶性ドーパントと、を組み合わせて用いるものであればそれで良いこと、をここで述べておく。
【産業上の利用可能性】
【0089】
以上説明した導電性コーティング組成物であれば、従来ITO等の金属を用いて得ていた導電性フィルムを構成するITO等による導電性層をこの導電性コーティング組成物を塗布することにより得られる層に置換しても、ほぼ同等の性能を有し、さらに耐環境性をも備えた導電性フィルムを得ることが出来るようになる。また導電性フィルム以外であっても、従来導電性層としてITO等を用いていた物品において、ITO等の代替品として利用することが可能となる。それらの物品であれば、ITOの金属等の場合に比して容易に導電性を付与出来るようになり、作業性の容易化、それにともなう製造コストの抑制、等好適なものとすることが出来るようになる。また溶媒を水から有機物に置換することが簡単に出来るので、この性質を用いて本願発明に係る導電性コーティング組成物による導電性コーティングインクを得ることが容易に出来る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性高分子と、
無機微粒子と、
を主たる成分とする導電性コーティング組成物であって、
前記無機微粒子が、その周囲をドーパント機能を有する官能基で修飾された非水溶性物質であること、
を特徴とする、導電性コーティング組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の導電性コーティング組成物であって、
前記ドーパント機能を有する官能基が、アニオン性基であること、
を特徴とする、導電性コーティング組成物
【請求項3】
請求項2に記載の導電性コーティング組成物であって、
前記アニオン性基が、スルホ基、エステル基、リン酸基、カルボキシル基、のいずれかもしくは複数であること、
を特徴とする、導電性コーティング組成物。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の導電性コーティング組成物であって、
前記導電性高分子が、π共役系導電性高分子樹脂であること、
を特徴とする、導電性コーティング組成物。
【請求項5】
請求項4に記載の導電性コーティング組成物であって、
前記π共役系導電性高分子樹脂がポリチオフェン系樹脂、ポリアニリン系樹脂、又はポリピロール系樹脂のいずれかもしくは複数であること、
を特徴とする、導電性コーティング組成物。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載の導電性コーティング組成物であって、
前記導電性コーティング組成物中に、
アミド結合を有する水溶性化合物、水酸基を有する水溶性化合物、水溶性のスルホキシド、及び水溶性のスルホン酸からなる群より選択される化合物をさらに含んでなること、
を特徴とする、導電性コーティング組成物。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載の導電性コーティング組成物であって、
前記導電性コーティング組成物中に、
該導電性コーティング組成物の成膜性及び基材との密着性を向上させる目的で、これに水溶性もしくは水分散性のバインダー樹脂を含有してなること、
又は/及び該導電性コーティング組成物の基材に対する濡れ性を向上させる目的で、これに少量の界面活性剤を含有してなること、
又は/及び該導電性コーティング組成物の基材に対する濡れ性の向上及び塗膜の乾燥性を向上させる目的で、これに水溶性の溶媒を含有してなること、
を特徴とする、導電性コーティング組成物。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の導電性コーティング組成物を用いてなること、
を特徴とする、導電性フィルム。
【請求項9】
請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の導電性コーティング組成物を用いてなること、
を特徴とする、導電性コーティングインク。

【公開番号】特開2011−228222(P2011−228222A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−99353(P2010−99353)
【出願日】平成22年4月23日(2010.4.23)
【出願人】(000235783)尾池工業株式会社 (97)
【出願人】(508114454)地方独立行政法人 大阪市立工業研究所 (60)
【Fターム(参考)】