説明

導電性熱可塑性樹脂組成物

【課題】導電性に優れ、成形品部位、あるいは成形条件による導電性のばらつきが少なく、且つ高温多湿条件下に放置した後もソリの少ない成形品を得ることの出来る熱可塑性樹脂組成物を提供する。
【解決手段】ゴム質重合体(a)とこれと共重合可能な一種または二種以上の単量体(b1)をグラフト共重合して得られるグラフト共重合体(A)、及び一種またはニ種以上の単量体(b2)を共重合して得られる共重合体(B)からなるゴム強化熱可塑性樹脂(C)87〜95重量%、及びポリアミドエラストマー(D)5〜13重量%を混練して得られる樹脂組成物100重量部に対して、炭素繊維(E)5〜15重量部を含有してなり、かつポリアミドエラストマー(D)がポリアミド成分及びビスフェノール類のエチレンオキサイド付加物からなる共重合体であることを特徴とする導電性熱可塑性樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は導電性に優れ、成形品部位あるいは成形条件による導電性のばらつきが少なく、且つ高温多湿条件下に放置した後もソリの少ない成形品を得ることの出来る熱可塑性樹脂組成物及びその成形品に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に熱可塑性樹脂組成物は電気絶縁性に優れていることから、電気・電子部品分野において広く用いられている。しかし、それ故に摩擦等により静電気が成形品に蓄電しやすく、埃付着等による汚染が問題となる場合があった。さらに、半導体等の電子デバイスの生産現場、あるいは輸送現場では、蓄電した静電気の放電による部品の損傷や機能低下が問題となる場合があった。このため、熱可塑性樹脂組成物に導電性を付与し、帯電を防止したり、静電気を早期に除去することが求められていた。
一般的に熱可塑性樹脂に導電性を付与する方法としては、ポリエーテルエステルアミドをはじめとするポリアミドエラストマー等の高分子型帯電防止剤を配合する方法が公知である(例えば、特許文献1参照)。しかしながら、この方法で付与される導電性能では、用途によっては充分ではなく、また高い導電性を得るためにポリアミドエラストマーを多量に配合した場合には、成形後に金型から成形品を取り出す際、ソリと呼ばれる変形が生じやすく、これを解消するために金型設計に制約を受けたり、冷却時間を延長して成形サイクルを延長せざるを得ない場合があった。
【0003】
一方、炭素繊維、金属繊維等の導電性繊維を配合する方法も広く用いられているが、この方法は、導電性と機械的強度のバランスに優れるという長所はあるものの、得られた成形品の測定部位による導電性のばらつきが非常に大きいという問題があった。
この問題を解決するために、導電性繊維とポリエーテルエステルアミド等の高分子型帯電防止剤を組み合わせて使用する方法が提案されている(例えば、特許文献2〜6参照)。しかし、これらの方法では、成形条件あるいは導電性の測定部位等で導電性の値が大きくばらついたり、成形品の寸法安定性に問題がある場合があった。寸法安定性においては、特に大型の成形品を得る場合にはソリが発生しやすいという問題があり、これを解消するために金型設計や成形サイクルに制約を受けるものであった。また成形直後にはソリが許容範囲内であったとしても、この成形品を高温多湿条件下に放置した場合、ソリが発生してしまうこともあった。
【特許文献1】特開平11−148072号公報
【特許文献2】特開2002−234984号公報
【特許文献3】特開2002−317098号公報
【特許文献4】特開2003−3036号公報
【特許文献5】特開2003−238764号公報
【特許文献6】特開2003−313428号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の通り、ポリアミドエラストマーと導電性繊維とを組み合わせて導電性をコントロールする方法は既にいくつか検討されている。しかしながら、導電性に優れ、成形条件、測定部位の違いによるばらつきが少なく、高温多湿条件下に成形品を放置した後もソリの発生しにくい材料を得ることは困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者等は、上述の問題を解決するために鋭意検討した結果、特定の構造を有するポリアミドエラストマーと導電性繊維を特定の比率で配合することにより、上述した課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。
即ち本発明は、
[1]ゴム質重合体(a)とこれと共重合可能な一種または二種以上の単量体(b1)をグラフト共重合して得られるグラフト共重合体(A)、及び一種または二種以上の単量体(b2)を共重合して得られる共重合体(B)からなるゴム強化熱可塑性樹脂(C)87〜95重量%、及びポリアミドエラストマー(D)5〜13重量%を混練して得られる樹脂組成物100重量部に対して、炭素繊維(E)5〜15重量部を含有してなり、かつポリアミドエラストマー(D)がポリアミド成分及びビスフェノール類のエチレンオキサイド付加物からなる共重合体であることを特徴とする導電性熱可塑性樹脂組成物、
[2]上記1に記載の熱可塑性樹脂組成物を成形してなる成形品、
である。
【発明の効果】
【0006】
本発明により、導電性に優れ、成形条件、あるいは測定部位による導電性のばらつきが少なく、高温多湿条件下に成形品を放置した後もソリの発生しにくい成形品を得ることが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
本発明におけるグラフト共重合体(A)に用いられるゴム質重合体(a)としては、ポリブタジエン、ブタジエン−スチレン共重合体、ブタジエン−アクリロニトリル共重合体、ブタジエン−アクリル共重合体、スチレン−ブタジエン−スチレンブロック共重合体、ポリイソプレン、スチレン−イソプレン共重合体等の共役ジエン系ゴム及びこれらの水素添加物、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル等のアクリル系ゴム、エチレン−α−オレフィン−ポリエン共重合体、エチレン−α−オレフィン共重合体、シリコーンゴム、シリコーン−アクリルゴム等が挙げられ、これらは単独または二種以上を組み合わせて使用することが出来る。この中で特に好ましいのは、ポリブタジエン、ポリイソプレン、ブタジエン−スチレン共重合体、ブタジエン−アクリロニトリル共重合体、ブタジエン−アクリル共重合体、アクリル系ゴム、エチレン−α−オレフィン−ポリエン共重合体、エチレン−α−オレフィン共重合体、シリコーンゴム、シリコーン−アクリルゴムである。
【0008】
単量体(b1)としては、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、エチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、ビニルナフタレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレン、モノブロモスチレン、ジブロモスチレン等の芳香族ビニル化合物、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのシアン化ビニル化合物、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル等の炭素数1〜4のアルキル基を有するアクリル酸アルキルエステルや同様な置換体のメタクリル酸アルキルエステル、アクリル酸、メタクリル酸等のアクリル酸類、N−フェニルマレイミド、N−メチルマレイミド等のN−置換マレイミド系単量体、グリシジルメタクリレート等のグリシジル基含有単量体、無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸等の酸無水物単量体、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、3−ヒドロキシー1−プロペン、4−ヒドロキシ−1−ブテン、4−ヒドロキシ−2−ブテン、3−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロペン等の水酸基含有単量体等が挙げられ、これらは単独、または二種以上を組み合わせて使用することが出来る。
【0009】
この中で機械的特性、熱的特性、成形性等のバランスを考慮した場合、特に好ましいのは、スチレン、α−メチルスチレン、アクリロニトリル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル、N−フェニルマレイミド、グリシジルメタクリレートである。
本発明において、グラフト共重合体(A)におけるゴム質重合体(a)の重量平均粒子径は耐衝撃性等の機械的強度、成形加工性、成形品外観のバランスから、0.1〜1.2μm、好ましくは0.15〜0.8μm、より好ましくは0.15〜0.6μm、さらに好ましくは0.2〜0.4μmである。
【0010】
また、グラフト共重合体(A)におけるグラフト率は、10〜150重量%、好ましくは20〜110重量%、より好ましくは25〜60重量%である。グラフト率をこの範囲にすることで、耐衝撃性に優れ、成形加工性の良好な組成物を得ることが出来る。尚、グラフト率とは、ゴム質重合体にグラフト共重合した単量体の、ゴム質重合体に対する重量割合として定義される。その測定法は、重合反応により生成した重合体をアセトンに溶解し、遠心分離器によりアセトン可溶分と不溶分とに分離する。この時、アセトンに溶解する成分は重合反応した共重合体のうちグラフト反応しなかった成分(非グラフト成分)であり、アセトン不溶分はゴム質重合体、及びゴム質重合体にグラフト反応した成分(グラフト成分)である。アセトン不溶分の重量からゴム質重合体の重量を差し引いた値がグラフト成分の重量として定義されるので、これらの値からグラフト率を求めることが出来る。
【0011】
共重合体(B)における単量体(b2)としては、上記単量体(b1)と同様のものを用いることが出来る。この中で、好ましいのはスチレン、α−メチルスチレン、アクリロニトリル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸メチル、N−フェニルマレイミドである。さらに、グリシジル基、水酸基、カルボキシル基を官能基として含有する単量体、酸無水物単量体を含有すると、ポリアミドエラストマー(D)との相溶性が向上し、得られた成形品の測定部位、あるいは成形条件による導電性のばらつきをさらに抑制することができる。これらの中で特に好ましいのは、グリシジルメタクリレート、無水マレイン酸、無水イタコン酸、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、3−ヒドロキシ−1−プロペンである。また、その含有量は、酸無水物の場合、0.01〜1.0重量%、好ましくは0.1〜0.8重量%、より好ましくは0.2〜0.7重量%、さらに好ましくは0.3〜0.7重%であり、グリシジル基、水酸基、カルボキシル基を官能基として含有する単量体の場合には、0.02〜2.0重量%、好ましくは0.2〜1.5重量%である。
【0012】
グラフト共重合体(A)および共重合体(B)は乳化重合、懸濁重合、溶液重合等、公知の方法によって製造することが出来る。
グラフト共重合体(A)及び共重合体(B)からなるゴム強化熱可塑性樹脂(C)において、ゴム質重合体の含有量は5〜60重量%、好ましくは8〜50重量%、さらに好ましくは10〜40重量%である。5重量%以上であると耐衝撃強度は十分ものとなり、60重量%を以下で成形性に優れたものとなる。
ゴム強化熱可塑性樹脂(C)におけるゴム質重合体にグラフトしていない成分の還元比粘度は、0.1〜1.0、好ましくは0.2〜0.8、さらに好ましくは0.25〜0.75である。これが0.1以上であると、耐衝撃性などの機械的強度に優れ、1.5以下で成形性に優れたものとなる。尚、グラフトしていない成分の還元比粘度は、まず、ゴム強化熱可塑性樹脂をアセトンに溶解し、これを遠心分離機によりアセトン可溶分、及びアセトン不溶分に分離する。このアセトン可溶分0.50gを2−ブタノン100mlにて溶解した溶液を、30℃にてCannon−Fenske型毛細管中の流出時間を測定することにより得られる。
【0013】
本発明におけるポリアミドエラストマー(D)はポリアミド成分及びビスフェノール類のエチレンオキサイド付加物からなる共重合体である。
ポリアミド成分としては特に制限は無く、例えばエチレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、2,3,4もしくは2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、1,3もしくは1,4−ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、ビス(p−アミノシクロヘキシル)メタン、m−キシリレンジアミン、p−キシリレンジアミンなどの脂肪族、脂環族、または芳香族ジアミンと、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸などの脂肪族、脂環族、芳香族ジカルボン酸とから導かれるポリアミド、カプロラクタム、ラウリルラクタムなどのラクタム類の開環重合によって得られるポリアミド、ω−アミノカプロン酸、ω−アミノエナント酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸等のアミノカルボン酸等から導かれるポリアミド、これらの共重合ポリアミド、さらにはこれらの混合ポリアミド等が挙げられる。この中で、好ましいポリアミド成分としては、ナイロン6、及びナイロン66である。
【0014】
このポリアミド成分の分子量は特に制限されないが、好ましくは数平均分子量500〜10,000、さらに好ましくは500〜5,000のものが本発明の目的を達成する上で好ましく使用される。
ビスフェノール類のエチレンオキサイド付加物としては、例えばビスフェノールA(2,2−ビス(4ヒドロキシフェニル)プロパン)、ビスフェノールF(ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン)、ビスフェノールS(ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン)、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン等のビスフェノール類のエチレンオキサイド付加物が挙げられるが、これらのうち好ましいのはビスフェノールA、及びビスフェノールSのエチレンオキサイド付加物である。
【0015】
ビスフェノール類のエチレンオキサイド付加物の分子量は特に制限されないが、数平均分子量500〜3,000、好ましくは1,000〜3,000、さらに好ましくは1,300〜3,000が本発明の目的を達成する上で好ましく使用される。
ポリアミドエラストマー(D)におけるポリアミド成分と、ビスフェノール類のエチレンオキサイド付加物の割合は、好ましくは90〜10/10〜90重量%、さらに好ましくは80〜20/20〜80重量%である。ビスフェノール類のエチレンオキサイド付加物成分が90重量%を以下では、得られた成形品の外観、剛性、耐衝撃性、及び高温多湿条件下での低ソリ性に優れたものとなり、10重量%以上では導電性に優れたものとなる。
【0016】
ポリアミドエラストマー(D)の分子量は特に限定されないが、還元比粘度(m−クレゾール中、0.5g/100ml、25℃)は、1.0〜3.0、好ましくは1.5〜2.5である。
ポリアミドエラストマー(D)は、公知の重合法、公知の触媒を用いて製造することが出来、例えば加熱溶融重合法が挙げられる。具体的には、例えばポリアミド成分を重合した後、ジカルボン酸化合物を添加し、ポリアミド成分の両末端をカルボキシル化し、ビスフェノール類のエチレンオキサイド付加物を添加重合し、ポリアミドエラストマーを得る方法、ポリアミド生成成分と過剰のジカルボン酸化合物、及びビスフェノール類のエチレンオキサイド付加物を規定量一括重合し、ポリアミドエラストマーを得る方法等が挙げられる。
【0017】
本発明の熱可塑性樹脂組成物の導電性能を更に向上させるために、アルカリ金属及び/またはアルカリ土類金属の塩をポリアミドエラストマー(D)の製造時に添加することが出来る。添加方法は該エラストマーの重合前、重合中あるいは重合後のエラストマーの分離・回収前に一括または分割して添加することが出来る。該金属塩としては、酢酸リチウム、酢酸ナトリウム、酢酸カリウム、シュウ酸リチウム、シュウ酸ナトリウム、シュウ酸カリウム等の有機酸塩、フッ化リチウム、フッ化ナトリウム、フッ化カリウム、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウム、塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、臭化リチウム、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化マグネシウム、臭化カルシウム、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化マグネシウム、ヨウ化カルシウム等のハライドがあげられる。
【0018】
また過塩素酸リチウム、過塩素酸ナトリウム、過塩素酸カリウム、過塩素酸マグネシウム、過塩素酸カルシウム等の過塩素酸塩、フルオロスルホン酸リチウム、フルオロスルホン酸ナトリウム、フルオロスルホン酸カリウム、フルオロスルホン酸マグネシウム、フルオロスルホン酸カルシウム等のフルオロスルホン酸塩、メタンスルホン酸リチウム、メタンスルホン酸ナトリウム、メタンスルホン酸カリウム、メタンスルホン酸マグネシウム、メタンスルホン酸カルシウム等のメタンスルホン酸塩、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム、トリフルオロメタンスルホン酸ナトリウム、トリフルオロメタンスルホン酸カリウム、トリフルオロメタンスルホン酸マグネシウム、トリフルオロメタンスルホン酸カルシウム、ペンタフルオロエタンスルホン酸リチウム、ペンタフルオロエタンスルホン酸ナトリウム、ペンタフルオロエタンスルホン酸カリウム、ペンタフルオロエタンスルホン酸マグネシウム、ペンタフルオロエタンスルホン酸カルシウム、ノナフルオロブタンスルホン酸リチウム、ノナフルオロブタンスルホン酸ナトリウム、ノナフルオロブタンスルホン酸カリウム、ノナフルオロブタンスルホン酸マグネシウム、ノナフルオロブタンスルホン酸カルシウム、ウンデカフルオロペンタンスルホン酸リチウム、ウンデカフルオロペンタンスルホン酸ナトリウム、ウンデカフルオロペンタンスルホン酸カリウム、ウンデカフルオロペンタンスルホン酸マグネシウム、ウンデカフルオロペンタンスルホン酸カルシウム、トリデカフルオロヘキサンスルホン酸リチウム、トリデカフルオロヘキサンスルホン酸ナトリウム、トリデカフルオロヘキサンスルホン酸カリウム、トリデカフルオロヘキサンスルホン酸マグネシウム、トリデカフルオロヘキサンスルホン酸カルシウム等のフルオロアルカンスルホン酸塩、硫酸カリウム、硫酸ナトリウム等の硫酸塩、リン酸カリウム、リン酸ナトリウム等のリン酸塩、チオシアン酸カリウム、チオシアン酸ナトリウム等のチオシアン酸塩等が挙げられる。
【0019】
これらの中で好ましいのは、アルカリ金属塩、さらに好ましいのはアルカリ金属のハライド(特に塩化リチウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム)、酢酸塩(特に酢酸カリウム、酢酸ナトリウム)、シュウ酸塩(シュウ酸ナトリウム、シュウ酸カリウム)、硫酸塩(硫酸カリウム、硫酸ナトリウム)、過塩素酸塩(特に過塩素酸リチウム、過塩素酸ナトリウム、過塩素酸カリウム)、フルオロアルカンスルホン酸塩(特にトリフルオロメタンスルホン酸リチウム、トリフルオロメタンスルホン酸ナトリウム、トリフルオロメタンスルホン酸カリウム)である。
該金属化合物の含有量は、ポリアミドエラストマー(D)の3重量%以下、好ましくは2重量%以下である。これが3重量%以下で成形品の外観は良好である。
【0020】
本発明のゴム強化熱可塑性樹脂(C)及びポリアミドエラストマー(D)を混練して得られる樹脂組成物中におけるポリアミドエラストマー(D)の含有量は5〜13重量%、好ましくは7〜12重量%、さらに好ましくは9〜12重量%である。これがこの範囲にあれば、導電性に優れ、成形条件、あるいは測定部位による導電性のばらつきの幅が少なく、高温高湿度環境下に放置した後も反り難い成形品を得ることが出来る。
本発明における炭素繊維(E)としては、特に制限は無く公知の炭素繊維を使用することが出来るが、例えばPAN系、ピッチ系、セルロース系、及び金属コートを施した炭素繊維等が挙げられる。その中でも、導電性と機械的強度のバランスから、PAN系炭素繊維が好ましい。
【0021】
炭素繊維(E)の直径は、導電性と取り扱いの容易さのバランスを考慮すると、3〜20μm、好ましくは5〜15μm、さらに好ましくは5〜10μmである。
また、炭素繊維(E)には、これを配合した樹脂組成物の力学的特性の向上、あるいは導電性の向上の目的で、カップリング剤やサイジング剤等の表面処理剤による処理を施してあっても良い。かかる表面処理剤としては、例えばシラン系、チタネート系等のカップリング剤、エポキシ系、ウレタン系、エーテル系、エステル系、アミド系、アクリル系、ポリビニルアルコール系のサイジング剤等が挙げられ、これらは単独または二種以上を組み合わせて使用することが出来る。
【0022】
本発明において、ゴム強化熱可塑性樹脂(C)及びポリアミドエラストマー(D)を混練して得られる樹脂組成物100重量部に対して、炭素繊維(E)の配合量は、5〜15重量部、好ましくは5〜12重量部、さらに好ましくは5〜10重量部である。これが5重量部以上であると、得られた成形品の導電性、及び低ソリ性に優れており、15重量部以下で、成形加工性が良く、炭素繊維が成形品中に均一に分散しやすくなるため、成形品の測定部位による導電性のばらつきが小さくなる。
導電性熱可塑性樹脂組成物ペレットを製造する方法としては、例えば炭素繊維以外の樹脂成分を二軸押出機のホッパーから供給し、炭素繊維をサイドフィーダーから供給して溶融混練する方法、連続炭素繊維を樹脂成分にて充たされた押出機のクロスヘッドダイを通過させた後、冷却・カットする方法が挙げられるが、このうち成形品外観と導電性のバランスから前者の方法が好ましい。
【0023】
炭素繊維をサイドフィーダーから供給して溶融混練する方法の場合、高い導電性を発現する目的で炭素繊維長を保持する必要がある。そのため、炭素繊維を供給するサイドフィーダーの位置は押出機のヘッド先端から1/2以内が好ましく、さらにサイドフィーダー以降の押出機スクリュ−による練りは弱い方が好ましい。
本発明における成形法としては、射出成形、射出圧縮成形、ブロー成形、押出成形、真空成形、圧縮成形等の公知の方法が挙げられるが、この中では生産性に優れる射出成形が好ましい。
【0024】
成形品中における炭素繊維(E)の数平均繊維長は、0.05〜0.70mm、好ましくは0.10〜0.65mm、より好ましくは0.15〜0.65mm、さらに好ましくは0.15〜0.60mmである。これが0.05mm以上であると導電性及び成形品の低ソリ性に優れたものとなり、0.70mm以下で成形品部位による導電性のばらつきの小さいものとなる。成形品中の炭素繊維長を制御する方法としては、混練工程においては、混練温度、押出機への炭素繊維の供給位置、スクリュー形状、及びL/D等が挙げられ、成形工程においては、成形機シリンダーにおけるスクリュー形状、及びL/D、ノズル形状、ノズル径、金型においてはスプルー、ランナー、ゲート形状、及びその径、成形条件においては、成形温度、金型温度、背圧、金型への充填速度等が挙げられる。
成形品中の炭素繊維長は、以下の方法で求めることが出来る。成形品から切り出した試験片を475℃にて電気炉にて加熱処理を施し、熱可塑性樹脂成分を燃焼させて炭素繊維を取り出す。これにクロロホルムを加えて炭素繊維を液中に充分分散させた後、スポイドにてスライドグラス上に数滴落とし、クロロホルムを乾燥させる。その後、これを10〜15倍の倍率で光学顕微鏡にて写真を撮影し、500本以上の炭素繊維から数平均繊維長を求める。
【0025】
本発明において、その目的に応じて公知の添加剤、例えば、炭素繊維以外の導電性フィラー(例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック等のカーボンブラック、ナノチューブカーボン、黒鉛等の炭素系フィラー、銅、鉄、ニッケル、金、銀、チタン、アルミニウム、及びステンレス、真鍮等の前述した金属を主成分とする合金等の金属系フィラー、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化スズ、酸化インジウム等の金属酸化物系フィラー、ガラス表面に上記金属メッキ処理を施した複合系フィラー等)、可塑剤、滑剤(例えば、高級脂肪酸、及びその金属塩、高級脂肪酸アミド類等)、熱安定化剤、酸化防止剤(例えば、フェノール系、フォスファイト系、チオジプロピオン酸エステル型のチオエーテル等)、耐候剤(例えば、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、サリシレート系、シアノアクリレート系、シュウ酸誘導体、ヒンダードアミン系等)、着色剤、顔料、染料、難燃剤(例えば、臭素化化合物、リン酸エステル、縮合リン酸エステル、赤燐等)、難燃助剤(例えば、三酸化アンチモン、五酸化アンチモン等)、ポリアミドエラストマー以外の帯電防止剤(例えば、四級アンモニウム塩系、ピリジン誘導体、脂肪族スルホン酸塩、芳香族スルホン酸塩、硫酸エステル塩、多価アルコール部分エステル、アルキルジエタノールアミン、アルキルジエタノールアミド、ポリアルキレングリコール誘導体、ベタイン系、イミダゾリン誘導体等)、抗菌剤、抗カビ剤、摺動性改良剤(例えば、低分子量ポリエチレン等の炭化水素系、高級アルコール、多価アルコール、ポリグリコール、ポリグリセロール、高級脂肪酸、高級脂肪酸金属塩、脂肪酸アミド、脂肪酸と脂肪族アルコールとのエステル、脂肪酸と多価アルコールとのフル、あるいは部分エステル、脂肪酸とポリグリコールとのフル、あるいは部分エステル、シリコーン系、フッ素樹脂系等)等をその目的に合わせて任意の割合で配合することが出来る。
【実施例】
【0026】
以下に実施例を示し、本発明を具体的に説明する。また、実施例における評価は以下の方法に従って行った。
(1)ノッチ付シャルピー衝撃強さ
ISO179に準じて、試験片を作成、評価した。
(2)曲げ弾性率
ISO178に準じて、試験片を作成、評価した。
(3)測定部位による導電性のばらつきの評価
導電性熱可塑性樹脂組成物ペレットを80℃にて3時間乾燥させた後、射出成形機(東芝機械(株)製、IS130FB)を用いて下記成形条件にて射出成形を行い、図1に示す10枚の平板を得た。このうちの7枚を23℃、湿度50%の条件下にて48時間調整した後、テスター(シムコジャパン(株)製、トゥルースタット表面抵抗計ST−3型ワークサーフェイステスター、測定電圧15V以下、測定面積:50mm(電極長)×50mm(電極間))にて、テスターの電極が成形時の樹脂の流れ方向に垂直になる方向に置き、図2に示す通り、ゲート部、及びゲートエンド部各部位の導電性をそれぞれ評価した。このうち、最大値と最小値を除いた5枚の平均値を求めた。
尚、導電性が上記テスターの測定限界である10Ω未満であった場合には、低抵抗率計(三菱化学(株)製、ロレスターEP MCP−T360、四端子四探針プローブ:ASPプローブ(MCP−TP03P)使用)を用いて同位置の評価を行った。
また、導電性のばらつきは各条件による抵抗値の比(例えば(240℃にて射出成形した時のゲート部の抵抗値)/(260℃にて射出成形した時のゲート部の抵抗値))で表した。
【0027】
[成形条件]
スクリュー径:45mm
シリンダー温度:240℃
金型温度:40℃
背圧:9.8MPa
射出速度:30%
スクリュー回転数:100rpm
射出時間:15秒
冷却時間:20秒
ゲート形状:フィルムゲート(図1参照)
測定位置:図2参照
【0028】
(4)成形温度による導電性のばらつきの評価
成形時のシリンダー温度を260℃とした以外は(3)と同様に成形及び評価を行った。尚、この時の測定部位はゲート部のみとした。
(5)成形品のソリの評価
(3)で得た平板のうち、3枚を40℃、湿度90%の恒温恒湿槽中で120時間調整した後、室温に取り出して1時間放置した。この平板を水平部に置き、ゲート側を固定してゲートエンド部の浮き上がりを測定し、各平板の平均値を求めた。
【0029】
[参考例1]グラフト共重合体(A)の製造
ポリブタジエンゴムラテックス(日機装(株)社製マイクロトラック粒度分析計「nanotrac150」にて測定した体積平均粒子径=0.25μm、固形分量=49重量%)100重量部に、脱イオン水41重量部を加え、気相部を窒素置換した後、脱イオン水25重量部にナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.15重量部、硫酸第一鉄0.001重量部、エチレンジアミンテトラ酢酸2ナトリウム塩0.04重量部を溶解してなる水溶液を加えて、55℃に昇温した。続いて、1.5時間かけて70℃まで昇温しながら、アクリロニトリル15重量部、スチレンを35重量部、ターシャリードデシルメルカプタン0.6重量部、クメンハイドロパーオキシド0.09重量部よりなる単量体混合液、及び脱イオン水15重量部にナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.13重量部を溶解してなる水溶液を4時間にわたり添加した。添加終了後1時間、反応槽を70℃に制御しながら重合反応を完結させた。
このようにして得られたABSラテックスに、シリコーン樹脂製消泡剤、及びフェノール系酸化防止剤エマルジョンを添加した後、硫酸アルミニウム水溶液を加えて凝固させ、さらに、十分な脱水、水洗を行った後、乾燥させてグラフト共重合体(A)を得た。この時、グラフト率は50重量%であり、非グラフト成分の還元比粘度(0.5g/100ml、2−ブタノン溶液中、30℃測定)は0.24であった。
【0030】
[参考例2]共重合体(B−1)の製造
特許1960531号公報実施例1に記載の方法にて、アクリロニトリル、及びスチレンを、溶媒としてセカンダリーブチルアルコールを用い、重合反応器に上記混合液を連続的に添加し、重合系の温度を140から160℃にコントロールして重合反応を行った。その後、未反応のモノマーを真空下にて除去し、アクリロニトリル−スチレン共重合体の固形粉末を得た。該共重合体の組成は、フーリエ変換赤外分光光度計(FR−IR)(日本分光(株)製)を用いた組成分析の結果、アクリロニトリルは30重量%、スチレンが70重量%であった。また、還元比粘度(0.5g/100ml、2−ブタノン溶液中、30℃測定)は0.55であった。
【0031】
[参考例3]共重合体(B−2)の製造
単量体の種類を変えて参考例2と同様に共重合体(B−2)を製造した。該共重合体の組成は、FT−IRによる組成分析の結果、アクリロニトリル25重量%、スチレン65重量%、無水マレイン酸10重量%であった。また、還元比粘度(0.5g/100ml、2−ブタノン溶液中、30℃測定)は0.46であった。
【0032】
[参考例4]共重合体(B−3)の製造
単量体の種類を変えて参考例2と同様に共重合体(B−3)を製造した。該共重合体の組成は、FT−IRによる組成分析の結果、スチレン63重量%、アクリロニトリル27重量%、2−ヒドロキシエチルアクリレート10重量%であった。また、還元比粘度(0.5g/100ml、2−ブタノン溶液中、30℃測定)は0.45であった。
【0033】
[参考例5]ポリアミドエラストマー(D−1)の製造
3Lのステンレス製セパラブルフラスコに、ε−カプロラクタム83.5重量部、テレフタル酸16.5重量部、フェノール系酸化防止剤0.3重量部、及び水7重量部を仕込み、窒素置換後、220℃で加圧密閉下6時間加熱撹拌して、両末端にカルボキシル基を有する酸価112のポリアミドオリゴマー96重量部を得た。次に数平均分子量1,800のビスフェノールAエチレンオキサイド付加物192重量部、酢酸ジルコニル0.5重量部を加え、260℃、2mmHg以下の減圧下の条件で4時間重合し、粘稠なポリマーを得た。このポリマーをバット上にシート状で取り出し、ペレタイズしてポリアミドエラストマー(D−1)のペレットを得た。このものの還元比粘度(0.5g/100ml、m−クレゾール中、25℃測定)は2.00であった。
【0034】
[参考例6]ポリアミドエラストマー(D−2)の製造
3Lのステンレス製セパラブルフラスコに、ε−カプロラクタム113重量部、アジピン酸15重量部、フェノール系酸化防止剤0.3重量部、及び水7重量部を仕込み、窒素置換後、220℃で加圧密閉下6時間加熱撹拌して、両末端にカルボキシル基を有する酸価112のポリアミドオリゴマー115重量部を得た。次に数平均分子量2,000のポリオキシエチレングリコール205重量部、酢酸ジルコニル0.5重量部を加え、260℃、2mmHg以下の減圧下の条件で4時間重合し、粘稠なポリマーを得た。このポリマーをバット上にシート状で取り出し、ペレタイズしてポリアミドエラストマー(D−2)のペレットを得た。このものの還元比粘度(0.5g/100ml、m−クレゾール中、25℃測定)は1.90であった。
【0035】
[実施例1]
充分に乾燥し、水分の除去を行ったグラフト共重合体(A)30重量部、共重合体(B−1)63重量部、ポリアミドエラストマー(D−1)7重量部を混合した後、二軸押出機(東芝機械(株)製、TEM−48BS、L/D=46)のホッパーに投入した。炭素繊維(E)(三菱レイヨン社製、カーボンチョップドファイバーTR066−CBE、平均繊維径:7μm、平均繊維長:6.0mm、原糸引張強度:450MPa、原糸引張弾性率:24GPa)を樹脂組成物100重量部に対して7重量部をダイヘッドより1/3の位置から供給しながらシリンダー温度250℃にて溶融混練し、導電性熱可塑性樹脂組成物のペレットを得、各特性の評価を行った。評価結果を表1に示す。尚、導電性の評価に用いた240℃にて成形した平板中の数平均炭素繊維長は0.29mmであった。
【0036】
[実施例2]
グラフト共重合体(A)30重量部、共重合体(B−1)62.5重量部、ポリアミドエラストマー(D−1)7重量部、及びドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.5重量部を混合した以外は、実施例1と同様にペレットを作成し、評価を行った。評価結果は表2に示す。
【0037】
[実施例3〜7、比較例1〜6]
表1の混合比に従い、実施例1と同様にペレットの作成、及び評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0038】
【表1】

【0039】
【表2】

【0040】
実施例1〜7は、特定の構造を持つポリアミドエラストマーと炭素繊維とを特定の比率で配合することにより、導電性、及び高温多湿条件下に放置後の低ソリ性に優れ、且つ成形品の部位、及び成形条件による導電性のばらつきを抑えた例である。
比較例1〜4は、ポリアミドエラストマー、あるいは炭素繊維の量が範囲外であるため、成形品の測定部位、成形条件による導電性のばらつきが大きいか、または高温多湿条件下に放置した後のソリが大きいものとなっている。比較例5、及び6はポリアミドエラストマーの構造が異なり、ゴム強化熱可塑性樹脂との相溶性が劣る、あるいは吸水性が大きい等の理由により、成形品の測定部位、あるいは成形条件による導電性のばらつきが大きく、また成形品のソリも大きい。
本発明による導電性熱可塑性樹脂組成物は、成形品部位、成形条件による導電性のばらつきが少なく、成形品を高温多湿条件下に放置した後もソリの少ない成形品を得ることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】平板のゲート形状
【図2】導電性の測定位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム質重合体(a)とこれと共重合可能な一種または二種以上の単量体(b1)をグラフト共重合して得られるグラフト共重合体(A)、及び一種または二種以上の単量体(b2)を共重合して得られる共重合体(B)からなるゴム強化熱可塑性樹脂(C)87〜95重量%、及びポリアミドエラストマー(D)5〜13重量%を混練して得られる樹脂組成物100重量部に対して、炭素繊維(E)5〜15重量部を含有してなり、かつポリアミドエラストマー(D)がポリアミド成分及びビスフェノール類のエチレンオキサイド付加物からなる共重合体であることを特徴とする導電性熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物を成形してなる成形品。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−28331(P2006−28331A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−208856(P2004−208856)
【出願日】平成16年7月15日(2004.7.15)
【出願人】(303046314)旭化成ケミカルズ株式会社 (2,513)
【Fターム(参考)】