説明

導電性粒子およびその用途

【課題】安定で優れた導電性を有し、電子機器部材について高品質の導電層を形成することができる導電性粒子とその用途を提供する。
【解決手段】樹脂粒子100質量部に対して5〜30質量部のカーボンナノファイバーによって樹脂粒子表面が網目状に被覆されることによって導電層が形成されていることを特徴とする導電性粒子、好ましくは、硝酸濃度が10〜30wt%の硝酸と硫酸の混酸を用い、100℃以上で表面処理されることによって酸素含有量が8〜20wt%に制御されているカーボンナノファイバーを用いて導電層が形成されている導電性粒子、およびその用途を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子機器部材などの導電層形成材として好適な導電性粒子に関し、より詳しくは、安定で優れた導電性を有し、電子機器部材について高品質の導電層を形成することができる導電性粒子とその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真分野における電気抵抗の制御方法として、カーボンブラック等の電子導電剤や第四級アンモニウム塩等のイオン導電剤をマトリックスポリマー中に分散することが知られており、近年では導電材料としてカーボンナノチューブを用いた電気抵抗の制御方法が提案されている。
【0003】
しかし、従来は電子写真方式の複写機、プリンター、ファクシミリ等の画像形成装置において、カーボンナノチューブの分散性が劣り、電気抵抗のばらつきが大きいという問題があった。これらの問題を解決するために、特許第4196780号公報(特許文献1)には、固形ポリマーが溶解可能な溶媒中にカーボンナノチューブを予備分散させることによってカーボンナノチューブの凝集物(塊)をほぐした後、固形ポリマーを加えてカーボンナノチューブと混練することによって、固形ポリマー中でのカーボンナノチューブの分散性に優れ、電気抵抗のばらつきが小さい電子写真機器用導電性組成物を調製できることが記載されている。しかし、この組成物は電気抵抗のばらつきが0.7〜0.8桁ほどであるため高精度化できないなどの問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許4196780号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、従来の上記問題を解決したものであり、安定で優れた導電性を有し、電子機器部材について高品質の導電層を形成することができる導電性粒子とその用途を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、以下の構成によって上記課題を解決した導電性粒子が提供される。
〔1〕樹脂粒子100質量部に対して5〜30質量部のカーボンナノファイバーによって樹脂粒子表面が網目状に被覆されることによって導電層が形成されていることを特徴とする導電性粒子。
〔2〕表面が酸化処理されており、該酸化処理による酸素含有量が8〜20wt%に制御されているカーボンナノファイバーを用いて導電層が形成されている上記[1]に記載する導電性粒子。
〔3〕硝酸濃度が10〜30wt%の硝酸と硫酸の混酸を用い、100℃以上で表面処理されたカーボンナノファイバーを用いて導電層が形成されている上記[1]または上記[2]に記載する導電性粒子。
〔4〕平均繊維径1nm〜100nmおよびアスペクト比5以上であって、表面が酸化処理されているカーボンナノファイバーを用いて導電層が形成されている上記[1]〜上記[3]の何れかに記載する導電性粒子。
〔5〕樹脂粒子がPMMA、アクリル樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブタジエン、又はこれらの共重合体、ベンゾグアナミン樹脂、フェノール樹脂、ポリアミド樹脂、ナイロン、フッ素系樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ系樹脂、ポリエステル樹脂からなる群より選ばれた少なくとも1種の球状粒子である上記[1]〜上記[4]の何れかに記載された導電性粒子。
【0007】
さらに、本発明によれば、上記導電性粒子を用いた以下の用途が提供される。
〔6〕上記[1]〜上記[5]の何れかに記載する導電性粒子が極性溶媒および水から選ばれた一種以上の分散媒に分散させてなる導電層形成用分散液。
〔7〕上記[6]に記載する導電層形成用分散液に結着剤を添加した導電層形成用塗料。
〔8〕上記[6]に記載する分散液または上記[7]に記載する塗料によって形成された導電層を有する電子機器用部材。
〔9〕上記[1]〜上記[4]の何れかに記載する導電性粒子を含む電子写真機器用現像剤担持体。
〔10〕上記[8]に記載する部材が現像ロール、帯電ロール、転写ロール、除電ロール、クリーニングロール、現像ブレード、帯電ブレード、クリーニングブレード、または転写ベルトである電子写真機器用部材。
【発明の効果】
【0008】
本発明の導電性粒子は、カーボンナノファイバーによって粒子表面が網目状に被覆されているので粒子表面に導電層が均一に形成されており、優れた導電性を有する導電層を形成することができる。
【0009】
本発明の導電性粒子に用いられるカーボンナノファイバーは表面の酸化処理によって親水性を有するので水などの極性溶媒に分散させたときに分散性が良く、また酸化処理による酸素含有量を8〜20wt%に制御したので高い導電性を維持しており、安定で優れた導電性を有する導電層を形成することができる。
【0010】
従って、本発明の導電性粒子が分散した分散液ないし塗料によって導電層を形成することによって、電気抵抗のばらつきが非常に少ない電子機器用部材を得ることができる。
【0011】
例えば、本発明の導電性粒子を用いて導電層を形成した電子写真機器用の現像剤担持体によれば、高品質の画像を得ることができる。また、本発明の導電性粒子は現像ロール、帯電ロール、転写ロール、除電ロール、クリーニングロール、現像ブレード、帯電ブレード、クリーニングブレード、または転写ベルトなどの電子写真機器用部材について、導電層形成材として好適であり、本発明の導電性粒子を用いることによって、高品質の電子機器用部材を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施形態に基いて具体的に説明する。
本発明の導電性粒子は、樹脂粒子100質量部に対して5〜30質量部のカーボンナノファイバーによって樹脂粒子表面が網目状に被覆されることによって導電層が形成されていることを特徴とする導電性粒子である。
【0013】
導電性粒子のカーボンナノファイバーの含有量は、樹脂粒子100質量部に対して5〜30質量部が適当であり、8〜25質量部が好ましい。この含有量が5質量部より少ないと導電性を高める効果が乏しく、30質量部より多いとカーボンナノファイバーの密着性が劣るようになるので好ましくない。
【0014】
樹脂粒子表面の導電層を形成するカーボンナノファイバーは、ファイバー表面が酸化処理されており、該酸化処理による酸素含有量が8〜20wt%に制御されているものが好ましい。ファイバー表面が酸化処理されることによって親水性を有し、かつ酸素含有量が8〜20wt%に制御されていることによって高い導電性を維持することができる。酸素含有量が8wt%より少ないと親水性が十分ではなく、極性溶媒に分散させたときに分散性に劣りヘーズが高くなる。一方、酸素含有量が20wt%より多いと、導電性が低下する傾向がある。
【0015】
カーボンナノファイバーの表面酸化処理において、酸素含有量を8〜20wt%に制御した酸化処理を行うには、例えば、硝酸濃度が10〜30wt%の硝酸と硫酸の混酸を用い、100℃以上で表面処理すればよい。
【0016】
硝酸と硫酸の混酸において、硝酸の濃度比が30wt%より高いと酸化処理が過度になり、カーボンナノファイバーの酸素含有量が20wt%を超えるようになる。一方、硝酸の濃度比が10wt%より低いと酸化処理が不十分になり、カーボンナノファイバーの酸素含有量は8wt%より少なくなる。
【0017】
酸化処理は、硝酸と硫酸の混酸中にカーボンナノファイバーを浸漬し、100℃以上の温度下で反応させればよい。液温は100℃〜200℃が良く、100℃〜160℃がより好ましい。100℃未満の液温では酸化が不十分になり親水性が低くなるので、樹脂粒子表面に網目状に被覆させたときに被覆の均一性および密着性が劣る。一方、液温が200℃を超えると酸化処理が過度になる。
【0018】
上記酸化処理において、硝酸と硫酸の混酸とカーボンナノファイバーとの量比は、カーボンナノファイバー1重量部に対して混酸1〜100重量部の範囲が適当である。
【0019】
混酸の硝酸濃度比および処理条件を上記のように調整した酸化処理を行うことによって、カーボンナノファイバー表面にカルボキシル基などが導入され、酸素含有量を8〜20wt%に制御したカーボンナノファイバーを得ることができる。この酸素は、XPS分析するとC−O結合のピーク定量値が2〜5%であり、C−O結合を有する基によって導入されている。このカーボンナノファイバーは適度な親水性を有し、アルコールなどの極性溶媒に分散させたときに分散性に優れた分散液が得られる。
【0020】
本発明の導電性粒子に用いるカーボンナノファイバーは、繊維径1〜100nm、アスペクト比5以上で、X線回折測定によるグラファイト層の[002]面の間隔が0.35nm以下であるものが好ましい。繊維径とアスペクト比が上記範囲のカーボンナノファイバーは、溶媒に分散させたときに相互に十分な接触点を形成することができるので、高い導電性を有する導電性塗膜を得ることができる。また、X線回折測定によるグラファイト層の[002]面の積層間隔が上記範囲内であるカーボンナノファイバーは結晶性が高いため、電気抵抗が小さく、従って高導電性の材料を得ることができる。さらに、カーボンナノファイバーの圧密体の体積抵抗値が1.0Ω・cm以下であると、良好な導電性を発揮することができる。
【0021】
上記カーボンナノファイバーは、一酸化炭素を主な原料ガスとした気相成長法によって製造することができる。この気相成長法によって製造されたカーボンナノファイバーは、トルエン着色透過率が概ね95%以上であり、分散性の観点から好ましい。
【0022】
酸化処理したカーボンナノファイバーを溶媒に分散させ、この分散液に樹脂粒子を結着剤と共に加えて攪拌することによって、樹脂粒子の表面にカーボンナノファイバーが均一に網目状に付着した導電性粒子スラリーを調製することができる。
【0023】
本発明の導電性粒子に用いる樹脂粒子は、例えば、PMMA、アクリル樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブタジエン、又はこれらの共重合体、ベンゾグアナミン樹脂、フェノール樹脂、ポリアミド樹脂、ナイロン、フッ素系樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ系樹脂、ポリエステル樹脂からなる群より選ばれた少なくとも1種の樹脂からなる粒子を用いることができる。
さらに、上記樹脂粒子は球状粒子が好ましい。
【0024】
本発明は、上記導電性粒子を溶剤(分散媒)に分散させた導電層形成用の分散液を含む。分散媒としては極性溶媒が好ましく、例えばN-メチルピロリドン、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、水などを用いることができる。
【0025】
さらに、本発明は上記分散液に結着剤を添加してなる塗料を含む。また、本発明の導電性粒子を含む組成物は、電子機器用部材に必要な物質を添加した塗料、スラリー、ペーストなどの形態で利用することができる。
【0026】
本発明の導電性粒子を含む分散液、または塗料によって、各種の電子機器用部材について導電性に優れた導電層を形成することができる。
【0027】
例えば、電子写真機器用の部材ないし材料として、本発明の導電性粒子を用いることによって高品質の現像剤担持体を得ることができる。また、本発明の導電性粒子を用いることによって、現像ロール、帯電ロール、転写ロール、除電ロール、クリーニングロール、現像ブレード、帯電ブレード、クリーニングブレード、または転写ベルトについて高品質の電子写真機器用部材を得ることができる。
【実施例】
【0028】
本発明の実施例を比較例と共に以下に示す。なお、本発明の範囲は以下の実施例に限定されない。
〔実施例1:酸化処理〕
市販のカーボンナノファイバー(CNFと略記する。三菱マテリアル社製品、繊維径20nm、アスペクト比5以上)を用い、市販の濃硝酸(濃度60wt%)および濃硫酸(濃度95wt%)を用い、表1に示す条件にて表面酸化処理を行い、酸素含有量を制御した表面処理CNFを得た。酸化処理の結果を表1に示す。酸素含有量は不活性ガス搬送融解赤外線吸収法によって測定した。
【0029】
【表1】

【0030】
〔実施例2:分散液、塗料組成物〕
表1のCNFを乾燥して粉末化し、その粉末をエタノールに混合し、ビーズミルを使用してエタノール分散液を調製した。分散液のCNF含有量を表2に示す。
この分散液に乾燥塗膜固形分中のCNF含有量が4.5wt%になるようにアクリル樹脂溶液を混合して塗料組成物を調製した。この塗料組成物を、バーコーターを用いて、厚さ100μmのポリエステルフィルムの表面に、塗工量0.25g/m2になるように塗布し、80℃で3分間乾燥して塗膜を作製した。
【0031】
このCNF分散液のヘーズ、塗膜の表面抵抗率、および塗膜のヘーズ(%)を測定した。これらのヘーズはスガ試験機製ヘーズメーターを用いて測定した。分散液のヘーズ値は、CNF濃度が40ppmになるように分散媒を用いて希釈し、この希釈液を光路長3mmの石英セルに入れ、石英セルのヘーズ(0.3%)を含んで測定した。塗膜のヘーズは、ベースフィルムであるポリエステルフィルムのヘーズ(1.8%)を含んで測定した。塗膜の表面抵抗率(Ω/□)は三菱化学製ハイレスタUPを用いて二重リング電極法にて測定した。これらの結果を表2に示す。
【0032】
【表2】

【0033】
表2に示すように、酸素含有量が10wt%より少ないB1のCNFは溶媒での分散性が悪い。一方、酸素含有量が20wt%より多いB2のCNFは溶媒での分散性はよいが、塗膜の表面抵抗が高くなる。一方、A1〜A6のCNF(酸素含有量8〜20wt%)はCNF濃度40ppmに希釈した分散液のヘーズは0.6以下であり、またCNF含有量4.5wt%の塗膜のヘーズは2.2以下であって、CNFの分散性が良く、また表面抵抗(Ω/□)は5.6×106以下であり、高い導電性を有している。
【0034】
〔実施例3:導電性部材の製造〕
表1に示すCNFを乾燥し、ビーズミルを使用して粉末にし、このCNF粉末が5wt%濃度のN−メチルピロリドン分散液を調製した。
ポリアミド樹脂粒子を樹脂粒子とし、この樹脂粒子100質量部に対してCNFを表3に示す質量部となるように、上記N−メチルピロリドン分散液に上記樹脂粒子を添加し、混合攪拌して樹脂粒子表面に網目状被覆導電層を形成した。この組成物に塗料用マトリックスポリマーとしてポリアミドイミドを樹脂成分100部に対してCNFが0.5部となるように加えて導電層形成用塗料を調製し、この塗料を用いて単層構造の転写ベルト(厚み0.2mm)を作製した。電気特性の評価結果を表3に示す。電気抵抗はJIS K 6911に準じて電圧10Vの抵抗を10点測定し、その平均を電気抵抗平均値とし、10点のばらつきを桁で示した。
【0035】
表3に示すように、本発明の実施例に係る試料(A1〜A6)は何れも優れた導電性を有し、電気抵抗のばらつきが0.5桁以下と小さいため、電子写真機器に適用した場合に高精度化が可能である。
一方、比較例C1はCNF量が少なく、また比較例C2はCNF量が過剰であるため、何れも電気抵抗および電気抵抗のばらつきが何れも大きい。比較例C3は表面処理が不十分なCNFを用いているので電気抵抗および電気抵抗のばらつきが何れも大きい。
【0036】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂粒子100質量部に対して5〜30質量部のカーボンナノファイバーによって樹脂粒子表面が網目状に被覆されることによって導電層が形成されていることを特徴とする導電性粒子。
【請求項2】
表面が酸化処理されており、該酸化処理による酸素含有量が8〜20wt%に制御されているカーボンナノファイバーを用いて導電層が形成されている請求項1に記載する導電性粒子。
【請求項3】
硝酸濃度が10〜30wt%の硝酸と硫酸の混酸を用い、100℃以上で表面処理されたカーボンナノファイバーを用いて導電層が形成されている請求項1または請求項2に記載する導電性粒子。
【請求項4】
平均繊維径1nm〜100nmおよびアスペクト比5以上であって、表面が酸化処理されているカーボンナノファイバーを用いて導電層が形成されている請求項1〜請求項3の何れかに記載する導電性粒子。
【請求項5】
樹脂粒子がPMMA、アクリル樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブタジエン、又はこれらの共重合体、ベンゾグアナミン樹脂、フェノール樹脂、ポリアミド樹脂、ナイロン、フッ素系樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ系樹脂、ポリエステル樹脂からなる群より選ばれた少なくとも1種の球状粒子である請求項1〜請求項4の何れかに記載された導電性粒子。
【請求項6】
請求項1〜請求項5の何れかに記載する導電性粒子が極性溶媒および水から選ばれた一種以上の分散媒に分散させてなる導電層形成用分散液。
【請求項7】
請求項6に記載する導電層形成用分散液に結着剤を添加した導電層形成用塗料。
【請求項8】
請求項6に記載する分散液または請求項7に記載する塗料によって形成された導電層を有する電子機器用部材。
【請求項9】
請求項1〜請求項4の何れかに記載する導電性粒子を含む電子写真機器用現像剤担持体。
【請求項10】
請求項8に記載する部材が現像ロール、帯電ロール、転写ロール、除電ロール、クリーニングロール、現像ブレード、帯電ブレード、クリーニングブレード、または転写ベルトである電子写真機器用部材。

【公開番号】特開2013−77427(P2013−77427A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−216217(P2011−216217)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【出願人】(597065282)三菱マテリアル電子化成株式会社 (151)
【Fターム(参考)】