説明

導電性複合繊維

【課題】風合いを損なわずに人工皮革に使用でき、淡色に染めても斑にならず、制電特性も充分付与できる導電性複合繊維を提供する。
【解決手段】海島繊維であって、島成分は、その直径が9μm以下で、芯鞘構造をしており、該芯部Aは導電性皮膜を有する酸化チタンを含有する繊維形成性樹脂であり、該鞘部Bは導電性粒子を含まない繊維形成性樹脂であり、該複数の島成分を海成分Cにて取り囲んでおり、海成分Cがアルカリ易溶樹脂よりなる導電性複合繊維。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は導電性複合繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ガソリンスタンドなどで使用する作業服は、静電気の発生を抑えるために制電加工が施されたり、制電耐久性を持たせるために導電糸が使用されたりすることは公知である。例えば、特許文献1には28デシテックス/2フィラメントの導電性ポリエステル繊維を84デシテックス/36フィラメントのポリエステルセミダル繊維と引き揃えて撚りをかけた糸を、織物の経糸に2.54cm間隔で配列して制電性能を持たせた制電性作業服が提案されている。
【0003】
しかしながら、作業着などの意匠性を重要視するものについては、導電性カーボンブラック(以下、CBと記す)含有の導電糸を使うと黒色である為、淡色の染色においては斑となって見えるので、何らかの方法で白色にすることが望まれる。例えば、特許文献2には、CB含有の導電層の周りを無機粒子含有樹脂で覆い、CBの色を隠蔽し、その周りに繊維形成性ポリマーを配置し、淡色での染色斑を解消することが記載されている。
一方、極細繊維使いの人工皮革などはその繊維の細さにより、静電気を帯び易く、一般に制電加工が施されている。制電耐久性を持たせる為には、特許文献1記載の導電性繊維を使用すればよいが、極細繊維の中に、太い繊維を混用することになり、その手触り、風合いに影響して、人工皮革の特性も失わせてしまうばかりか、CB含有の為繊維が黒く、染色性能も満足出来ないものとなる。
【0004】
染色性能を満足すべく特許文献2の導電繊維を使用しても糸が太い為に、人工皮革の特性を失わせてしまう。
【0005】
また、特許文献3には極細導電性繊維の製造方法が記載されている。この極細導電性繊維は導電性を発現させるために島成分の芯鞘の芯層にCBを含有している為、黒色となっている。この極細導電性繊維を使用すると、人工皮革の特性は損なわないが、上記に記載した如く、染斑、特に淡色において、斑となってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−176896号公報
【特許文献2】特開平5−263318号公報
【特許文献3】特開昭57−143525号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、上記問題を解決し、風合いを損なわずに人工皮革に使用でき、淡色に染めても斑にならず、制電特性も充分付与できる導電性複合繊維を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、鋭意検討した結果、本発明にたどり着いた。すなわち、上記本発明の目的は、海島繊維であって、島成分は、その直径が9μm以下で、芯鞘構造をしており、該芯部は導電性皮膜を有する酸化チタンを含有する繊維形成性樹脂であり、該鞘部は導電性粒子を含まない繊維形成性樹脂であり、該複数の島成分を海成分にて取り囲んでおり、海成分がアルカリ易溶樹脂よりなることを特徴とする導電性複合繊維によって達成される。
【0009】
また、本発明の導電性複合繊維において、芯部を構成する繊維形成性樹脂がポリオレフィン系樹脂であることが好適である。
【0010】
また、本発明の導電性複合繊維において、電気抵抗値が1.0×1010Ω/cm未満であることが好適である。
【0011】
また、本発明の導電性複合繊維において、芯部に含有される導電性皮膜を有する酸化チタンが10〜85質量%であることが好適である。
【0012】
また、本発明の導電性複合繊維において、島成分の芯鞘の体積比率が1:20〜3:1であることが好適である。
【0013】
また、本発明の導電性複合繊維において、海成分と島成分の体積比率が1:9〜5:5であることが好適である。
【0014】
また、本発明の導電性複合繊維において、島成分の芯部の直径が2μm以上であることが好適である。
【発明の効果】
【0015】
本発明の導電性複合繊維は、アルカリ減量をし、極細の白色系芯鞘導電性繊維とすることにより、人工皮革に混用した際、風合いを損なわずに、淡色に染色しても染め斑とならず、また、制電性能を発揮することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の導電性複合繊維の一実施態様を示す説明図である。
【図2】図1記載の複合繊維の海成分を減量除去した後の芯鞘型極細導電性繊維を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0018】
本発明は、アルカリ減量をすることにより極細導電性繊維となる複合繊維である。
【0019】
本発明の導電性複合繊維は海島構造をとっており、その海成分が島成分を取り囲んでおり、島成分は芯鞘構造をしている。海成分はアルカリ易溶樹脂である。
【0020】
海成分と島成分の体積比率は1:9〜5:5が好ましく、2:8〜3:5が更に好ましい。
【0021】
極細導電性芯鞘繊維となる島成分は極細繊維使いの人工皮革に用いる為に、9μm以下、望ましくは8μm以下の直径である。島成分の直径が9μmより大きいと、人工皮革用極細繊維に混用し、人工皮革とした場合、その繊維の太さにより、手触り、風合いを悪くしてしまう。
【0022】
芯鞘型導電性繊維となる、島成分の芯部は導電性皮膜を有する酸化チタンを、望ましくは10〜85質量%、より望ましくは20〜80質量%、更に望ましくは30〜80質量%含有している。
【0023】
芯部に含有される導電性皮膜を有する酸化チタンの量が10質量%より少ないと、導電性能に劣り、人工皮革に混用してもその制電性能を下げる。
【0024】
導電性皮膜を有する酸化チタンが85質量%を超えると、樹脂の流動性を低下させ、紡糸時の押出機や口金の流路を閉塞させ製糸が出来なくなる。閉塞しないような加熱温度とすると樹脂の劣化となり、製糸状況を悪くする。
【0025】
導電性皮膜としては、金属酸化物の中には安定で導電性を有するものがあり、例えば、酸化銅、酸化銀、酸化亜鉛、酸化カドミウム、酸化錫、酸化マンガンなどが挙げられる。特に、これら金属酸化物を主成分とし、それに少量の第2成分を添加することにより、導電性を著しく高く(例えば、10Ω・cm程度以下)することが出来、本発明の目的に好適である。上記第2成分としては、例えば、異種金属の酸化物又は同種・異種金属が挙げられる。具体的には、例えば、酸化銅/銅、酸化亜鉛/酸化アルミニウム、酸化錫/酸化アンチモン、酸化亜鉛/亜鉛/酸化アルミニウム/アルミニウム、酸化錫/錫/酸化アンチモン/アンチモン又はそれらの酸化物の一部が還元されたものを含有するものなどが好適である。第2成分の混入法や混入量は多様であるが、導電性向上に有効且つ安定であれば上記以外のものでもよい。
【0026】
導電性金属酸化物皮膜を有する酸化チタンは、粉末状での比抵抗が10Ω・cm程度(オーダー)以下が好ましく、10Ω・cm程度以下がより好ましく、10Ω・cm程度以下が最も好ましい。
導電性皮膜を有する酸化チタンを樹脂に含有せしめる方法は特に限定されないが、一般的に2軸の混練機で混練する方法等が知られている。
導電性皮膜を有する酸化チタン含有の繊維形成性樹脂は、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリオレフィン系樹脂などが挙げられるが、中でもポリオレフィン系樹脂が望ましい。
【0027】
芯部に含有される導電性皮膜を有する酸化チタンは、通常、その平均粒径が0.45μm程度である為、芯部の直径は2μm以上であることが望ましい。
【0028】
島成分の鞘部は導電性粒子を含まない繊維形成性樹脂である。繊維形成性樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレートまたはこれら樹脂に第3成分を共重合したポリエステル系樹脂、6ナイロン、6,6ナイロンなどのポリアミド系樹脂などが挙げられる。
【0029】
繊維形成性樹脂には酸化チタンなどの艶消し剤を含有していてもよい。
島成分の芯鞘の体積比率は1:20〜3:1が好ましく、2:1〜1:10が更に好ましい。
【0030】
海成分はアルカリ易溶樹脂とする。芯鞘である島成分と海成分とからなる海島繊維とした後に、海成分をアルカリ処理にて溶解し、極細導電性繊維とする。海成分がアルカリ易溶樹脂でなければ、海成分を溶解してマイクロファイバー化することが出来ない。
アルカリ易溶樹脂としては、アルカリ易溶ポリエステル等が挙げられ、例えば、1〜5mol%の金属スルホネート基含有イソフタル酸と平均含有量が1000〜10000のポリアルキレングリコール7〜13質量%とを共重合したコポリエステルが挙げられる。
【0031】
共重合の際使用する金属スルホネート基含有イソフタル酸成分は、例えば、5−金属スルホイソフタル酸ジメチル(以下、SIPMと記す)又はSIPMのジメチル基をエチレングリコールでエステル化させた化合物(以下、SIPEと記す)などが挙げられる。
SIPM又はSIPE中の金属は、ナトリウム、カリウム、リチウムなどが用いられるが、最も好ましいのはナトリウムである。
金属スルホネート基含有イソフタル酸の共重合率は、ポリマーの酸成分中1〜5モル%とするのが好ましい。この範囲であれば、アルカリ水に対する溶解性に優れ、且つ溶融紡糸工程での操業性にも優れている。
【0032】
アルカリ易溶ポリエステルの一方の構成成分である、ポリアルキレングリコールとしては、一般式 HO(C2nO)mH(但し、n、mは正の整数)で表されるもので、n=2のポリエチレングリコール(以下、PEGと記す)が汎用的で最も好ましい。
アルカリ易溶ポリエステルに用いるポリアルキレングリコールの分子量は、1000〜10000が好ましい。この範囲であれば、溶融紡糸時の加水分解が起こらず操業性が良い。
ポリアルキレングリコールの共重合量は、ポリマーに対して7〜13質量%とするのが好ましい。この範囲であれば、アルカリ水に対する溶解性に優れており、且つポリマーの耐熱性も良い。
【0033】
導電性皮膜を有する酸化チタン含有繊維形成性樹脂(以下、樹脂Aと記す)、導電性皮膜を有する酸化チタンを含まない繊維形成性樹脂(以下、樹脂Bと記す)、アルカリ易溶樹脂(以下、樹脂Cと記す)を各々個別に押出機にて210〜300℃にて溶融して、樹脂Aを芯部、樹脂Bを鞘部、樹脂Cを海成分となるような口金にて会合し、φ0.2〜0.5の孔より吐出させて、フィラメントとする。得られたフィラメントをエアーにて冷却し、油剤をつけて500〜1200mにて巻き取り、未延伸糸を得る。
【0034】
単糸における島の数は、複数以上任意に行えるが、3〜70が好ましく、5〜50が更に好ましい。
【0035】
得られた未延伸糸を、Tg以上の熱をかけ2〜4倍延伸し、80〜120℃のプレートヒーターで熱セットし延伸糸を得る。
【0036】
延伸糸を複数引きそろえて、例えば5mmにカットし、1〜7質量%のアルカリ溶液にてアルカリ易溶樹脂を溶解することにより、極細導電性繊維が得られる。
【0037】
得られた極細導電性短繊維を、例えば、直径3μm、繊維長5mmのポリエステル系極細短繊維綿に1〜40質量%、好ましくは3〜20質量%混ぜ込み、不織布とし、人工スエード調の加工を行う。
【0038】
得られる人工スエード調の不織布は、風合いも良く、静電気も起こらず、埃も付きにくく、染色しても染色斑とならないものとなる。
【実施例】
【0039】
以下に実施例を挙げて、本発明を具体的に説明する。
【0040】
電気抵抗:導電糸10cmでの抵抗値を測定し、1cm当たりの抵抗値にて表す。
【0041】
制電性能:84デシテックス/24フィラメントの筒編みの7mmピッチに導電性複合繊維を編み込み、海成分を完全にアルカリ溶液により溶解除去したものをJIS L−1094摩擦帯電減衰測定法で評価し、その直後の帯電圧を示す。
【0042】
風合い:導電性複合繊維のカット減量品を10質量%、人工皮革用綿(ポリエチレンテレフタレート繊維、繊維径3μm)に混ぜ込み、人工皮革まで加工し、手触りを評価した。評価結果は以下の通りとする。
○:導電性繊維の混在が分からない。×:導電性繊維の混在がはっきり分かる。
【0043】
染色性:導電性複合繊維のカット減量品を10質量%、人工皮革用綿(ポリエチレンテレフタレート繊維、繊維径3μm)に混ぜ込み、人工皮革まで加工し、Kayalon Polyester Light Red B−S 0.5%owfと助剤により染色をして評価した。評価結果は以下の通りとする。
○:染め斑が分からない。×:染め斑が分かる。
【0044】
(実施例1)
ポリエチレンを用い、2軸混練機を使用して、アンチモンドープの酸化錫をコーテイングした酸化チタン75質量%を含有せしめ、海島繊維の島成分の芯部に使用する導電性樹脂とした(樹脂A)。ポリエチレンテレフタレート(樹脂B)を島成分の鞘部に使用する樹脂とした。海島繊維の海成分として、2.3mol%の金属スルホネート基含有イソフタル酸と平均含有量が6000のポリアルキレングリコール10質量%とを共重合したアルカリ易溶ポリエステル(樹脂C)を用いた。
樹脂A、樹脂B、樹脂Cを各々個別の押出機で220℃〜295℃の熱をかけて溶融した。溶融した樹脂を芯部に樹脂A、鞘部に樹脂B、海成分に樹脂Cとなる37島の口金を通して、芯鞘比率は1:1、海島の比率は3:7となる吐出量にて押出、口金の丸孔より吐出してフィラメントとした。吐出されたフィラメントを室温でのエアーにて冷却し、油剤をつけて800mにて巻き取り660デシテックス/24フィラメントの未延伸糸を得た。
巻き取られた未延伸糸を120℃の熱をかけ、3.0倍に延伸して、90℃の熱でセットし、220デシテックス/24フィラメントの延伸糸を得た。
【0045】
得られた延伸糸を複数引きそろえて、5mmにカットし、25質量%のアルカリ溶液にて樹脂Cを溶解することにより、極細導電性繊維を得た。
得られた延伸糸の電気抵抗値並びに筒編み減量品の摩擦帯電圧及び減量後の芯鞘糸の直径を表1に記載する。
【0046】
(実施例2)
芯鞘比率を2:3とする以外は実施例1と同様にして延伸糸を得た。得られた延伸糸の電気抵抗値並びに筒編み減量品の摩擦帯電圧及び減量後の芯鞘糸の直径を表1に記載する。
【0047】
(実施例3)
海島繊維の島の直径が9μmとなるように8島の口金を使用し、延伸糸285デシテックス/24フィラメントとした以外は実施例1と同様にて延伸糸を得た。
結果を表1に記載する。
【0048】
(比較例1)
芯部に、導電性皮膜を有する酸化チタンを含有せしめない以外は実施例1と同様にて延伸糸を得た。
結果を表1に記載する。
【0049】
(比較例2)
芯部に、導電性皮膜を有する酸化チタンの代わりに導電性カーボンブラック(CB)を25質量%含有せしめた以外は実施例1と同様にて延伸糸を得た。
結果を表1に記載する。
【0050】
(比較例3)
海成分をポリエチレンテレフタレートとした以外は実施例1と同様にて延伸糸を得た。結果を表1に記載する。
【0051】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、スエード調人工皮革に利用し、摩擦帯電圧を軽減し、しかも染色斑とならず、人工皮革の特性を損なわないものである。
【符号の説明】
【0053】
A:CB含有の樹脂からなる芯部
B:鞘部
C:海成分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
海島繊維であって、島成分は、その直径が9μm以下で、芯鞘構造をしており、該芯部は導電性皮膜を有する酸化チタンを含有する繊維形成性樹脂であり、該鞘部は導電性粒子を含まない繊維形成性樹脂であり、該複数の島成分を海成分にて取り囲んでおり、海成分がアルカリ易溶樹脂よりなることを特徴とする導電性複合繊維。
【請求項2】
芯部を構成する繊維形成性樹脂がポリオレフィン系樹脂である請求項1記載の導電性複合繊維。
【請求項3】
電気抵抗値が1.0×1010Ω/cm未満である請求項1記載の導電性複合繊維。
【請求項4】
芯部に含有される導電性皮膜を有する酸化チタンが10〜85質量%である請求項1記載の導電性複合繊維。
【請求項5】
島成分の芯鞘の体積比率が1:20〜3:1である請求項1記載の導電性複合繊維。
【請求項6】
海成分と島成分の体積比率が1:9〜5:5である請求項1記載の導電性複合繊維。
【請求項7】
島成分の芯部の直径が2μm以上である請求項1記載の導電性複合繊維。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−236530(P2011−236530A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−110405(P2010−110405)
【出願日】平成22年5月12日(2010.5.12)
【出願人】(305037123)KBセーレン株式会社 (97)
【Fターム(参考)】