説明

導電性高分子被覆金属材料

【課題】 金属が腐食し易い環境で使用された場合においても、長期間に渡り良好な電気伝導性を保持しつつ、金属基体材料の溶解や錆発生が抑制され、耐食安定性に優れた被覆金属材料を提供すること。
【解決手段】 金属材料の基体表面にドーパント化合物を含む導電性高分子が形成された被覆金属材料において、前記導電性高分子に含まれるドーパント化合物が少なくとも1つ以上のスルホン酸基を有し、分子量が240以上である化合物であることを特徴とする被覆金属材料。該化合物がベンゼン縮合環及び/または2つ以上の芳香環を有する化合物、電気化学的に可逆である酸化還元活性を示す化合物、キノン構造を有する化合物であるとより好ましい。前記導電性高分子膜が電解重合法により形成されたものはより好適である。
【選択図面】 なし

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属基体上に防食膜かつ導電膜として機能する導電性高分子被膜が形成された被覆金属材料に関するものであり、特に酸性雰囲気下やハロゲン化物溶液中など金属が腐食し易い環境下で、長期に渡って優れた耐食性及び導電性を発揮する被覆金属材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属材料の防食方法として、有機材料または無機材料により表面を被覆する方法、金属が腐食し易い環境下においてチオアセトアミドなどの腐食抑制剤を浴液中に添加する方法および電気化学的に腐食電流を抑える電気防食法などが知られている。
近年、帯電防止能を有する有機合成プラント用構造材料、有機電解合成等に用いる電極材料、ターミナルや圧着端子などに代表される給電用端子用途向け等に、耐食性と導電性とを併せ持つ材料が求められている。これら耐食性と導電性とを併せ持つ材料として、ハステロイ合金や貴金属合金などに代表される耐食性合金、アモルファスカーボン材料が知られているが、前記耐食性合金は非常に高価であり、前記アモルファスカーボン材料は加工が複雑で生産性に劣るという欠点がある。
【0003】
これに対し、ステンレス鋼など安価な金属基体へ貴金属めっきした材料やクロメート処理した材料に代表される表面被覆金属材料が知られている。これら被覆金属材料は基体金属自体が比較的安価であり、加工性にも優れるため生産性良く製造できる。しかし、被覆膜のピンホールやクラックに起因して局部電池反応が発生し、長期信頼性に欠けるという問題がある。また、貴金属めっき浴やクロメート処理溶液には有害なシアン化合物や6価クロムイオンが含まれており、環境負荷が高いなどの問題がある。
【0004】
これらの問題に対して、特許文献1に、金属基体上に、上側の層をより卑なNi層となるよう、酸化還元電位が異なるNiめっき層を2層設け、さらにAuめっきを最上層に形成することによって、ピンホールに起因する孔食を防止し、金属材料の耐食性を向上する方法が開示されている。また、特許文献2に、6価クロム代替技術として、3価クロム化合物とチタンなどの化合物を用いた化成処理を行うことで、環境負荷を低減する技術が開示されている。
【0005】
しかしながら、該特許文献1の方法では、金めっき層と酸化還元電位が高いNiめっき層によって、卑なNiめっき層の自己犠牲で金属基体を保護するために、酸化還元電位が低いNiめっき層は腐食が進行し続ける。該Niめっき層の消失によってその効果も消えるため、長期信頼性が不十分である。また、該特許文献2の方法では、6価クロムから形成される非常に安定な無機高分子に比べて、3価クロムから形成される無機高分子は分子量が小さく、熱安定性に劣る。そのため、チタンなどの第2成分を加えているが、それらはクロムの無機高分子に比べると、無機高分子から熱的に安定な酸化物の形態へと変化し易く、その時にクラックなどを生じて腐食環境から基体を保護する効果が低下するという問題点を抱えている。
【0006】
【特許文献1】特開2001−234361号公報
【特許文献2】特開2000−234177号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、前記課題に鑑み、安価で生産性の良い金属基体上に、高価あるいは環境負荷の高い材料を使用することなく、良好な導電能、防食能を発揮する被膜が簡便な方法で形成された被覆金属材料を提供することであり、酸性雰囲気下やハロゲン化物溶液中など金属が腐食し易い環境で使用された場合においても、長期間に渡り良好な電気伝導性を保持しつつ、金属基体材料の溶解や錆発生が抑制され、耐食安定性に優れた被覆金属材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、金属基体上に、導電能、防食能を発揮する被膜として導電性高分子膜を形成した被覆金属材料について鋭意検討を進めた結果、金属表面上に形成する導電性高分子被覆膜中に特定のドーパント化合物を含有させることによって、金属基体表面に絶縁性の金属酸化物の生成が抑制され、金属基体が持つ良好な電気伝導性を保持でき、かつ被覆金属材料の耐久性を向上できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、以下(1)から(5)に記載の被覆金属材料である。
(1)金属材料からなる基体の表面上に、少なくともドーパント化合物を含む導電性高分子被覆膜が形成された被覆金属材料において、該導電性高分子被覆膜に含まれるドーパント化合物が少なくとも1つ以上のスルホン酸基を有し、分子量が240以上の化合物であることを特徴とする被覆金属材料。
【0010】
(2)前記被覆金属材料の導電性高分子被覆膜に含まれるドーパント化合物が、ベンゼン縮合環及び/又は少なくとも2つ以上の芳香環を有する化合物であることを特徴とする(1)に記載の被覆金属材料。
【0011】
(3)前記被覆金属材料の導電性高分子被覆膜に含まれるドーパント化合物が、電気化学的に可逆である酸化還元活性を示す化合物であることを特徴とする(1)または(2)に記載の被覆金属材料。
【0012】
(4)前記被覆金属材料の導電性高分子被覆膜に含まれるドーパント化合物が、キノン構造を有する化合物であることを特徴とする(3)に記載の被覆金属材料。
【0013】
(5)前記被覆金属材料の導電性高分子被覆膜が、少なくとも電解重合法によって形成されたものを含むことを特徴とする(1)から(4)のいずれか一つに記載の被覆金属材料。
【発明の効果】
【0014】
被覆金属材料の導電性高分子被覆膜に含まれるドーパント化合物を前記特定の化合物とすることで、該導電性被覆膜が腐食性液体から基体を保護するバリアー膜として有効に働く。また、該ドーパント化合物として電気化学的に可逆である酸化還元活性を示す化合物を用いることで、被覆金属材料の電極電位を環境下に合わせて制御することができ、金属防食効果が飛躍的に向上する。また、腐食環境下においても金属基体の酸化被膜成長を抑制しながら基体の防食ができるため、金属材料が持つ良好な電気伝導性を長期にわたり保つことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明は、金属材料からなる基体の表面上に少なくともドーパント化合物を含む導電性高分子被覆膜が形成された被覆金属材料において、該被覆膜に含まれるドーパント化合物が少なくとも1つ以上のスルホン酸基を有し、分子量が240以上の化合物であることを特徴とする被覆金属材料である。本発明の被覆金属材料が使用される、金属が腐食されやすい環境としては、塩酸水溶液中や硫酸水溶液中などの酸性雰囲気だけではなく、次亜塩素酸ナトリウム水溶液のように酸化性雰囲気の溶液中等も想定される。そのような環境下では、導電性高分子被覆膜中に存在させるドーパントとして従来知られている安息香酸イオンや蓚酸イオンなどカルボン酸基を有するドーパントイオンでは、該ドーパントが容易に酸化され二酸化炭素を発生するために、導電性高分子の電気伝導性が失われてしまう。また、その他ヒドロキシ基を有するアニオンはアクセプター性が低いために、導電性高分子のホールを作り出す能力が低く、電気伝導性が発現しにくいために不向きである。そのため、高い電気伝導度を発現させることができ、耐酸化性に強いスルホン酸基を有するドーパントアニオンを用いることが好適である。化合物中のスルホン酸基の数は、特に限定されない。
【0016】
また、該ドーパント化合物の分子量が240未満である場合、分子量が小さい、すなわち分子が小さいために溶液中では容易に脱ドーピングが生じ、また大気中においても脱ドーピングが生じ易く、導電性高分子の電気伝導性が失われてしまうため、分子量は240以上であることが好適である。そのように1つ以上のスルホン酸基を有し、分子量が240以上のドーパント化合物としては具体的に、フェロセンスルホン酸ナトリウムやリグニンスルホン酸ナトリウムなどのアニオン成分を例示することができる。このようなドーパントを含有する導電性高分子被覆膜は、腐食環境と基体とを遮断するバリアー効果が大きく好適である。
【0017】
ベンゼン縮合環及び/又は2つ以上の芳香環を有するドーパントは、導電性高分子の高分子鎖と複雑に絡み合うことができ、より緻密な構造を生み出し、バリアー効果をより増大することができる。また、複雑に絡み合うことによって、脱ドーピングし難くなる効果も併せ持ち、好適である。
【0018】
このようなドーパントとしては、アントラセンスルホン酸、ジフェニルアミンスルホン酸、ジフェニルアミンスルホン酸のアルカリ金属塩またはアンモニウム塩のアニオン成分、色素であるアシッドブラック1、アシッドブルー1、アシッドブルー3、アシッドブルー9、アシッドブルー20、アシッドブルー74、アシッドブルー83、アシッドブルー92、アシッドブルー119、アシッドブルー147、アシッドA、アシッドブリリアントグリーンJ、アシッドブラウンM、アシッドキャプターH、アシッドキャプター9M、アシッドシアニン6B、アシッドファーストイエローG、アシッドファクシン、アシッドグリーン1、アシッドグリーン3、アシッドグリーン5、アシッドグリーン9、アシッドグリーン16、アシッドグリーン50、アシッドグリーンB、アシッドグリーンGG、アシッドライトイエロー2G、アシッドオレンジ5、アシッドオレンジ6、アシッドオレンジ7、アシッドオレンジ17、アシッドオレンジ20、アシッドレッド、アシッドレッド1、アシッドレッド2、アシッドレッド9、アシッドレッド13、アシッドレッド18、アシッドレッド18、アシッドレッド26、アシッドレッド27、アシッドレッド29、アシッドレッド52、アシッドレッド60、アシッドレッド87、アシッドレッド88、アシッドレッド91、アシッドレッド92、アシッドレッド94、アシッドレッド112、アシッドレッド265、アシッドバイオレッド6B、アシッドバイオレッド34、アシッドバイオレッド43、アシッドバイオレッド49、アシッドイエロー3、アシッドイエロー23、アシッドレッド36、アシッドイエロー73、アシッドイエロー186、サルフォナゾIII、モルダント29、サンクロマインブルーブラックR、サンクロマインブルーブラックMB、サンクロマインブルーブラックMD、サンセットイエローFCF、アルファマインレッドR、アルファマインレッドRベース、アルセナゾI、アルセナゾIIIおよびそれらの誘導体などのアニオン成分があげられる。
【0019】
また、少なくとも1つ以上のスルホン酸基を有し、電気化学的に可逆である酸化還元活性を示すドーパント化合物を含む導電性高分子被膜は、腐食性液体と基体とのバリアー性を持たせることができる機能を有しているだけではなく、腐食環境下に曝された場合、該ドーパントがその環境下に合わせて酸化還元反応を行い、導電性高分子被覆金属材料の電極電位を電気化学的に制御するため、特に基体の防食効果が顕著になる。
【0020】
前述の電気化学的に可逆である酸化還元活性を示す化合物とは、電気化学的に可逆な酸化還元反応を示すことのできる化合物、すなわち陽極では酸化され、陰極では還元されて元の状態に戻ることができる化合物を指す。例えば、ナフトキノンスルホン酸は、陽極では酸化され、キノン構造部位がヒドロキシ基になるが、陰極においては該ヒドロキシ基部位が還元されてキノン構造へと戻る。この反応は、サイクリックボルタンメトリ法で確認することができ、酸化反応時の反応ピークと還元反応時の反応ピークがほぼ同じ電位で現れる。
【0021】
電気化学的に可逆である酸化還元活性を有する少なくとも1つ以上のスルホン酸基を含む化合物としては、具体的に、フェロセンスルホン酸、ハイドロキノンスルホン酸、アントキノンスルホン酸、ナフトキノンスルホン酸、アザキサントンスルホン酸、ベンズアントラキノンスルホン酸、ベンズアンスロンスルホン酸、フェニルアゾベンゼンスルホン酸、ベンゾキノンスルホン酸およびそれらの誘導体等のアルカリ金属塩またはアンモニウム塩のアニオン成分、アントラキノン アイリンR、アントラキノン バイオレッドRN‐3RNのアニオン成分があげられるが、耐酸化性や脱ドーピングのしにくさからフェロセンスルホン酸、アントラキノンスルホン酸、ナフトキノンスルホン酸、アザキサントンスルホン酸、ベンズアントラキノンスルホン酸、ベンズアンスロンスルホン酸、フェニルアゾベンゼンスルホン酸およびその誘導体のアルカリ金属塩またはアンモニウム塩のアニオン成分、色素であるアントラキノン アイリンR、アントラキノン バイオレッドRN‐3RNのアニオン成分を用いるのがより好ましい。
【0022】
それらの中でもキノン構造とスルホン酸基とを有するドーパントは、電気化学活性が高く、かつ酸化還元電位が高い。そのため、該ドーパントを含む導電性高分子膜の酸化還元電位は最も貴へとシフトし、基体を保護する効果を最も高くすることが可能であるため、該ドーパントを用いるのが最も好適である。このようなドーパントの具体例として、アントラキノンスルホン酸やナフトキノンスルホン酸等が挙げられる。
【0023】
前記ドーパントは被覆膜中に単独で含有させても良いし、複数存在するように含有させても良い。
【0024】
金属表面に形成する導電性高分子の単量体としては、ピロール、チオフェン、アルキルチオフェン、アルキレンジオキシチオフェン、アニリン、フェニレン、アセチレン、フラン、フェニレンビニレン、アセン、アズレンおよびこれらの誘導体、またはこれらを2つ以上組み合わせたものなど、重合した際にπ共役系導電性高分子を与えるものがあげられるが、特に、耐食性および電気伝導度に優れるピロール、アルキルチオフェン、アルキレンジオキシチオフェン、アニリンおよびそれらの誘導体を用いるのが好ましい。
【0025】
導電性高分子の合成法には、主に化学重合法、電解重合法があるが、目的とする導電性高分子の種類やその形態によって適切な方法を選択する必要がある。
【0026】
モノマー及び支持電解質を含む電解液中、基体を電極として電解する電解重合法により、基体表面に導電性高分子膜を形成することができる。例えば、ポリピロールの被膜を形成する場合には、単量体であるピロールと支持電解質であるフェロセンスルホン酸ナトリウムやナフトキノンスルホン酸カリウム等を溶液中に溶解させ、基体を陽極として電解することにより、陽極基体上に支持電解質のアニオンをドーパントとして含み、緻密で高電気伝導度のポリピロール膜を得ることができる。
【0027】
ところで、金属基体を陽極として電解重合を行うと、電解初期には高抵抗の酸化皮膜層の生成が副反応として起こり、導電性高分子/金属界面での抵抗が大きくなり、基体被覆後の材料としての体積抵抗率が大きく増大し、金属材料がもつ良好な電気伝導性が失われることがある。また、その結果、導電性高分子がアイランド状に成長して均一な厚みに電解重合ができないことがある。通常、金属表面には自然酸化被膜層が形成されているため、電解重合法を用いる場合には、自然酸化被膜を除去後、酸化被膜層の生成を抑制しながら導電性高分子層の形成を行うことが好ましい。
【0028】
前述の電気化学的に可逆である酸化還元活性を示す化合物を支持電解質として用いた場合、酸化被膜層の生成を抑制しながら導電性高分子層を電解重合法によって形成できる。該支持電解質のアニオン成分からなるドーパントは、酸化還元活性を有するために電解重合中において電極表面で酸化還元サイクルを繰り返すことができるので、陽極においては該ドーパントの酸化反応も起こり、電解重合時の副反応である金属の酸化被膜生成反応は減少する。また、酸化反応が起こる前には還元剤としての作用もあるので、基体電極近傍では基体表面に酸化被膜生成を抑制する効果も持ち合わせている。上述したような効果により、電解重合初期に起こる絶縁性の金属酸化被膜で金属表面が被覆される前に導電性高分子で被覆することが可能となり、金属が持つ良好な電気伝導性が保持されることになる。
【0029】
電解重合において、酸化還元活性を有しない化合物を支持電解質として用いる場合には、塩型ではなく酸型として用いることができる。該支持電解質を用いて中性領域で電解重合すると初期段階において酸化皮膜を形成する恐れがある。しかし、該支持電解質を酸型とすることで電解重合液は酸性となり、電解重合初期には、陽極である基体のエッチング反応が進行し、酸化被膜生成が抑制されて電気伝導性の良好な界面を形成し、耐食性の高い導電性高分子膜を被覆できる。塩型から酸型にする方法としては、従来周知の方法が利用でき、例えば、イオン交換樹脂法や逆浸透膜法などを用いることができる。塩型から酸型にすることが困難な場合には、酸型に交換可能な酸型支持電解質を一部混ぜて使用してもよい。また、酸化還元活性を有する支持電解質においても酸型に交換して使用することができる。
【0030】
化学重合法においては、基体の表面上で、目的とする導電性高分子の単量体と酸化剤溶液を接触させることで、該基体表面に導電性高分子膜を形成することができる。例えばポリ−3,4−エチレンジオキシチオフェン被膜を形成する場合には、基体酸化被膜の除去後の表面上に単量体である3,4−エチレンジオキシチオフェンとドーパントであるフェロセンスルホン酸イオンやナフトキノンスルホン酸イオンを含むエタノール−水混合溶液を塗布後、酸化剤溶液である塩化鉄(III)水溶液を噴霧することによって、ポリ−3,4−エチレンジオキシチオフェン被膜を得ることができる。
【0031】
また、化学重合もしくは電解重合によって得られた重合物が可溶性の場合、該重合物を乾燥後、トルエンや塩化メチレン等適切な有機溶媒に溶解させ塗布液とし、該塗布液を金属基体上層に塗布、乾燥することによって導電性高分子膜を形成する溶液法を用いることができる。例えばポリ−3−ヘキシルチオフェンの被膜を形成する場合には、3−ヘキシルチオフェン、酸化剤であるペルオキソ二硫酸アンモニウム、ドーパントである2,7−フェロセンスルホン酸ナトリウムをエタノール−水混合溶液中で溶解、攪拌しながら重合反応を進め、得られたポリ−3−ヘキシルチオフェンを乾燥後にトルエンに溶解させることで塗布液を得、該塗布液を基体表面上に塗布後乾燥させることでポリ−3−ヘキシルチオフェン膜を得ることができる。
【0032】
可溶性導電性高分子溶液の塗布法としては、従来周知の方法が利用できる。例えば、スクリーン印刷法、ディップコート法、ロールコート法、噴霧法、カーテンフローコート法、バーコート法、ドクターブレード法等、刷毛塗布法などがあり、簡便で生産性が高いディップコート法、刷毛塗布法が好ましい。
【0033】
ところで、化学重合法で得られる導電性高分子膜は、電解重合法で得られる導電性高分子膜に比べて分子量が小さく構造の規則性も低いために電気的物性に劣る場合がある。その場合には、化学重合法で得られる導電性高分子被覆膜を形成した後、該被覆膜を電極として電解重合法により導電性高分子膜を形成することが好ましい。その結果、緻密で規則性の高い電気伝導度を有する導電性高分子膜が最上層に形成され、耐食性に優れ、導電性が良好となる被膜が基体上層に形成されることになる。
【0034】
金属基体としては、ステンレス鋼、鉄、アルミニウム、マグネシウム、チタン、ニッケル、コバルト、銅、亜鉛、錫およびこれらの合金が挙げられるが、生産性や耐食性の観点からステンレス鋼、ニッケル、チタン、コバルト、銅およびこれらの合金を用いるのが好ましい。
【0035】
金属基体材料の自然酸化皮膜層を除去する方法としては、従来周知の方法が利用でき、例えば、湿式エッチング法、電解エッチング法、電解研磨法、機械的研磨法、逆スパッタリング法、ブラスト法、置換めっき法などがあるが、安価な湿式エッチング法や機械的研磨法が好適である
【0036】
導電性高分子膜の形成に関し、複雑な形状の基体に導電性高分子膜を形成したい場合には、あらかじめ基体にプレス加工等の曲げ加工、切削加工、エッチング加工等の機械加工後に、導電性高分子の形成工程を行えば良い。例えば、上記のように加工後の基体を電極として電解重合を行えば、加工によって基体表面が凹凸状態にあっても、均一に導電性高分子膜を形成することが可能となり、安定した性能を得ることができる。
【0037】
形成する導電性高分子の厚みは、0.001μmから100μmが適当であるが、経済的観点から、0.001μmから50μmがより好ましく、0.001μmから30μmが最も好ましい。0.001μm以下の場合、本発明の被覆膜の効果は得られにくい。
【0038】
以下、本発明である被覆金属材料の製造方法の一例を、薄板電極を製造する場合を例に説明する。まず板状の金属材料からなる基体を用意する。この基体に対して、導電性高分子と基体との界面抵抗を小さくするために、基体の表面にある自然酸化皮膜を除去する。この操作により、界面抵抗は低減し、電極の体積抵抗率も小さくすることが可能となるうえに、基体との密着性も向上させる効果がある。
【0039】
次に、基体に導電性高分子被覆膜を電解重合法により形成する。電解重合法は、例えばポリピロール膜を形成する場合には、単量体であるピロールと支持電解質を適切な溶媒中に溶解させ、該基体を陽極として電解することにより、該基体の金属表面上に支持電解質のアニオン成分がドーパントとして含有された導電性高分子膜が得られる。上記の工程により薄板電極が製造される。前述したように、電解重合の前に、化学重合法や溶液法によって基体表面上に導電性高分子膜を予め形成し、該化学重合導電性高分子膜上に電解重合被覆膜を形成しても良い。
【0040】
以上説明したように、本発明によれば、安価で生産性の高い金属基体を用い、導電性高分子膜を形成することにより、導電性と耐食性に優れた被覆金属材料を提供することができる。特に最上層に電解重合法にてポリピロールやポリアニリンなどの導電性高分子膜を形成した場合には、その効果を最も発揮させることができる。
【0041】
また、本発明により製造された被覆金属材料は、構造材料等の通常の耐食性材料としてのみならず、帯電防止用材料や電気分解用などの陽極や触媒用電極、給電用ターミナルや集電板など電気伝導性をも要求される用途に用いることができる。
【実施例】
【0042】
以下、本発明を実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明は実施例によりなんら限定されるものではない。
【0043】
(実施例1)
金属基体としてSUS304を用いた。SUS304は大きさが20×30mm、厚さが0.2mmの圧延材である。本基体の自然酸化膜を除去するために、10重量%蓚酸水溶液に10分間浸漬後、エタノールで洗浄し、窒素ガスにて十分に乾燥させた。
【0044】
公知文献であるK.Yamamoto,POLYMERS FOR ADVANCED TECHNOLOGIES,11,710−715,(2000)に記載されている方法でフェロセンスルホン酸を作製した。フェロセン60gを400mLのジオキサンに加えた。それを氷浴中で攪拌しながら硫酸(31g)を含むジオキサン120mlをゆっくりと滴下し、12時間攪拌放置した。その溶液を蒸留し、得られたスラリー物質に水500mLを加え、ろ過して未反応物を取り除いた。得られた濾液を蒸留して、さらに不純物を取り除き、フェロセンスルホン酸溶液を得た。これを水−メタノール混合溶液中で再結晶を行い、黄色のフェロセンスルホン酸結晶を得た。(収率9.8%)
【0045】
次に、電解重合法によって導電性高分子膜を形成した。溶媒を純水として、単量体としてピロール0.45mol/L、支持電解質としてフェロセンスルホン酸0.20mol/L、NaOH水溶液でpH6.5に調整された電解液を用いて、基体を陽極、Niを陰極、電解重合時間は1時間、電流密度を5mA/cmとして電解重合を行い、ポリピロール膜を形成し、薄板を10枚作製した。
【0046】
(実施例2)
金属基体としてSUS304を用いた。SUS304は大きさが20×30mm、厚さが0.2mmの冷間圧延材である。本基体の自然酸化膜を除去するために、5重量%フッ酸水溶液に5分間浸漬後、エタノールで洗浄し、窒素ガスにて十分に乾燥させた。
【0047】
次に、溶液法によって導電性高分子膜を形成した。pHが7に調整されたエタノール−水混合溶媒中に、3−ヘキシルチオフェン0.4mol/L、酸化剤およびドーパントとして作用する2−アントラセンスルホン酸鉄(III)0.20mol/Lを氷浴温度下で6時間攪拌した。その溶液をろ過後、得られた粉末に対して減圧乾燥を行って完全に溶媒を除去し、その粉末をトルエンに溶解させて塗布溶液を得た。
【0048】
酸化被膜を除去した基体に、噴霧法によって均一に溶液を塗布後、70℃の乾燥機中でトルエンを除去する工程を繰り返し、厚み15μmのポリ−3−ヘキシルチオフェン膜を形成し、薄板を10枚作製した。
【0049】
(実施例3)
金属基体としてSUS304を用いた。SUS304は大きさが20×30mm、厚さが0.2mmの冷間圧延材である。本基体の自然酸化膜を除去するために、5重量%フッ酸水溶液に5分間浸漬後、エタノールで洗浄し、窒素ガスにて十分に乾燥させた。
【0050】
次に、溶液法によって導電性高分子膜を形成した。pHが7に調整されたエタノール−水混合溶媒中に、3−オクチルチオフェン0.4mol/L、酸化剤として塩化鉄(III)0.20mol/L、ドーパントとしてアシッドブラック0.2mol/Lを氷浴温度下で6時間攪拌した。その溶液をろ過後、得られた粉末に対して減圧乾燥を行って完全に溶媒を除去し、その粉末をトルエン溶液に溶解させて塗布溶液を得た。
【0051】
酸化被膜を除去した基体に、噴霧法によって均一に溶液を塗布後、70℃の乾燥機中でトルエンを除去し、厚み0.1μmのポリ−3−オクチルチオフェン膜を形成した。
【0052】
続いて、先に形成したポリ−3−オクチルチオフェン膜を電極として電解重合法によって導電性高分子膜を形成する。溶媒を純水として、単量体としてピロール0.45mol/L、支持電解質としてアシッドブラック0.20mol/Lを含む電解液を用いて、3−オクチルチオフェン膜を陽極、Niを陰極、電解重合時間は1時間、電流密度を5mA/cmとして電解重合を行い、ポリピロール膜を形成し、薄板を10枚作製した。
【0053】
(実施例4)
金属基体としてSUS316Lを用いた。SUS316Lは大きさが20×30mm、厚さが0.2mmの圧延材である。本基体の自然酸化膜を除去するために、10重量%蓚酸水溶液に60分間浸漬後、エタノールで洗浄し、窒素ガスにて十分に乾燥させた。
【0054】
次に、電解重合法によって導電性高分子膜を形成した。溶媒を純水として、単量体としてo−トルイジン0.45mol/L、支持電解質として1,4−ナフトキノン−2−スルホン酸0.20mol/Lを含む電解液を用いて、基体を陽極、Ptを陰極、電解重合時間は1時間、電流密度を5mA/cmとして電解重合を行い、ポリ−o−トルイジン膜を形成し、薄板を10枚作製した。
【0055】
(実施例5)
金属基体としてTiを用いた。Tiは大きさが20×30mm、厚さが0.1mmの冷間圧延材である。アセトン中で超音波洗浄によって脱脂後、エタノールで洗浄し、窒素ガスにて十分に乾燥させた。
【0056】
アシッドレッド112水溶液(1.0mol/L)を陽イオン交換カラムに通して、Na型から酸型のアシッド112水溶液を得た。
【0057】
次に、電解重合法によって導電性高分子膜を形成した。溶媒を純水として、単量体としてピロール0.45mol/L、支持電解質としてアシッドレッド112(0.20mol/L)を含む電解液を用いて、基体を陽極、Ptを陰極、電解重合時間は1時間、電流密度を5mA/cmとして電解重合を行い、ポリピロール膜を形成し、薄板を10枚作製した。
【0058】
(実施例6)
金属基体としてAl合金を用いた。Al合金は大きさが20×30mm、厚さが0.6mmの冷間圧延材である。本基体の自然酸化膜を除去するために、10重量%塩酸水溶液に60分間浸漬後、エタノールで洗浄し、窒素ガスにて十分に乾燥させた。
【0059】
1,2−ナフトキノン−4−スルホン酸カリウム水溶液(1.0mol/L)を陽イオン交換カラムに通して、K型からH型の1,2−ナフトキノン−4−スルホン酸水溶液を得た。
【0060】
次に、電解重合法によって導電性高分子膜を形成した。溶媒を純水とし、単量体としてアニリン0.30mol/L、支持電解質として1,2−ナフトキノン−4−スルホン酸0.60mol/Lを含む電解液を用いて、基体を陽極、SUS304を陰極、銀/塩化銀(飽和KCl)を参照電極、電極電解重合時間は1時間、電解電圧を0.4V(vs銀/塩化銀参照電極)として定電位電解重合を行い、ポリアニリン膜を形成し、薄板を10枚作製した。
【0061】
(実施例7)
金属基体としてSUS304を用いた。SUS304は大きさが20×30mm、厚さが0.2mmの冷間圧延材である。本基体の自然酸化膜を除去するために、10重量%フッ酸水溶液に5分間浸漬後、エタノールで洗浄し、窒素ガスにて十分に乾燥させた。
【0062】
基体酸化被膜の除去後の基体表面上に単量体である3,4−エチレンジオキシチオフェンとドーパントを含む酸化剤溶液である2−アントラキノンスルホン酸鉄(III)水溶液を噴霧し、50℃で10分間乾燥する工程を繰り返し、厚みが26μmであるポリ−3,4−エチレンジオキシチオフェン膜を形成し、薄板を10枚作製した。
【0063】
(比較例1)
実施例1において支持電解質をp−トルエンスルホン酸とした以外は、同様に実施して薄板10枚を作製した。
【0064】
(比較例2)
実施例2におけるドーパントを塩化鉄(III)とした以外は、同様に実施して薄板10枚作製した。
【0065】
(比較例3)
実施例3における支持電解質を蓚酸ナトリウムとした以外は、同様に実施して薄板10枚作製した。
【0066】
(比較例4)
実施例4における支持電解質を過塩素酸とした以外は、同様に実施して薄板10枚作製した。
【0067】
(比較例5)
実施例5における支持電解質を安息香酸とした以外は、同様に実施して薄板10枚作製した。
【0068】
(比較例6)
実施例6における支持電解質を蟻酸カリウムとした以外は、同様に実施して薄板10枚作製した。
【0069】
(比較例7)
実施例7におけるドーパントを含む酸化剤溶液をp−トルエンスルホン酸鉄(III)とした以外は、同様に実施して薄板10枚作製した。
【0070】
(比較例8)
特開2001−234361号公報に準じて、金属基体としてSUS304板(20×30mm、厚さが0.2mm)を用いた。本基体をアルカリ脱脂液にて脱脂、続いて10重量%蓚酸にて酸洗後、めっき基体として供した。まず、硫酸ニッケル6水和物1.00mol/L、塩化ニッケル6水和物0.25mol/L、ホウ酸0.65mol/Lとする塩化ニッケルを多く含むワット浴を用いて、電流密度100mA/cm、浴温度50℃にて硫黄含有率の低い第1Niめっき層を形成した。続いて、硫酸ニッケル6水和物1.2mol/L、塩化ニッケル6水和物0.19mol/L、ホウ酸0.65mol/L、1,5−ナフタリンジスルホン酸ナトリウム2.33×10−2mol/L、チオ尿素1.31×10−3mol/Lとするワット浴を用いて、電流密度100mA/cm、浴温度50℃にて、第2Niめっき層を形成した。次に、市販のシアン金めっき浴を用いて、電流密度100mA/cm、浴温度30℃にて、金めっき層を形成し、薄板を10枚作製した。
【0071】
(比較例9)
特開2000−234177号公報に準じて、炭素鋼(20×30mm、厚さが0.2mm)に市販の酸性亜鉛めっき液を用いて電気亜鉛めっき(8μm)を施し、水洗した後、67.5%濃硝酸2ml/Lを含有する酸溶液に室温で5秒間浸漬して活性化処理を行った。その後、水洗してから、化成処理液に40℃で60秒間浸漬して化成処理を施した。化成処理液組成として、硝酸クロム・9水和物:45g/L、62.5%硫酸:10g/L、硫酸チタン5g/L(溶媒は純水)の組成を用いた。処理中、化成処理液はエアー攪拌により攪拌した。その後、水洗し、70℃の温風により15分間乾燥し、薄板を10枚作製した。
【0072】
(被覆金属材料の評価)
このようにして作製した本発明にかかる被覆金属材料と比較例の材料に対して、塩水噴霧試験(JIS−Z2371に準ず)を90日間行い、外観検査法により耐食性能を比較した結果を表1に示す。また導電特性を調べるために、塩水噴霧試験後の試験片に対して、4端子測定法により体積抵抗率を比較した結果を表2に示す。
【0073】
表1の結果によれば、本発明にかかる実施例1から7の各材料は、塩水噴霧試験2160時間後においても全く変化することなく、優れた耐食性を有することが認められた。これに対し、同様に塩水噴霧試験を行った比較例1〜9で作製した材料は、基体の腐食によって導電性高分子膜やめっき層の剥離が確認された。
【0074】
表2の結果によれば、本発明にかかる実施例1から7の各材料は、塩水噴霧試験2160時間後においても良好な体積抵抗を保持し、優れた導電特性を有することが認められた。これに対し、同様に塩水噴霧試験を行った比較例1〜7および9で作製した材料は、基体の腐食がかなり進行し、体積抵抗率は1.000×1010以上となり用いた測定装置では正確に測定できず、導電特性は消失していた。比較例8で作製した材料においては、金めっき層の剥離によって体積抵抗率は高くなり、集電特性には劣ることが認められた。
【0075】
【表1】

【0076】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材料からなる基体の表面上に、少なくともドーパント化合物を含む導電性高分子被覆膜が形成された被覆金属材料において、該導電性高分子被覆膜に含まれるドーパント化合物が少なくとも1つ以上のスルホン酸基を有し、分子量が240以上の化合物であることを特徴とする被覆金属材料。
【請求項2】
前記被覆金属材料の導電性高分子被覆膜に含まれるドーパント化合物が、ベンゼン縮合環及び/又は少なくとも2つ以上の芳香環を有する化合物であることを特徴とする請求項第1項に記載の被覆金属材料。
【請求項3】
前記被覆金属材料の導電性高分子被覆膜に含まれるドーパント化合物が、電気化学的に可逆である酸化還元活性を示す化合物であることを特徴とする請求項第1項または請求項第2項に記載の被覆金属材料。
【請求項4】
前記被覆金属材料の導電性高分子被覆膜に含まれるドーパント化合物が、キノン構造を有する化合物であることを特徴とする請求項第3項に記載の被覆金属材料。
【請求項5】
前記被覆金属材料の導電性高分子被覆膜が、少なくとも電解重合法によって形成されたものを含むことを特徴とする請求項第1項から請求項第4項のいずれか一項に記載の被覆金属材料。

【公開番号】特開2007−69376(P2007−69376A)
【公開日】平成19年3月22日(2007.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−256417(P2005−256417)
【出願日】平成17年9月5日(2005.9.5)
【出願人】(000228349)日本カーリット株式会社 (269)
【Fターム(参考)】