説明

導電膜用塗料の製造方法および透明導電性フィルム

【課題】優れた高温耐久性および耐湿性を有する透明導電性フィルムおよびその透明導電性フィルムを作製するための導電膜用塗料を提供する。
【解決手段】本発明の導電膜用塗料の製造方法は、アミンを使用してポリエチレンジオキシチオフェン水溶液のpHを6〜8に調整するpH調整工程、ならびに、pH調整工程によってpHが調整された前記ポリエチレンジオキシチオフェン水溶液、ポリエステル樹脂、シランカップリング剤およびエンハンサーを混合する混合工程を含む。また、本発明の透明導電性フィルムは、80℃、240時間の条件で高温耐久試験を行った場合の抵抗値(Ω/□)の変化率が10%以下であり、湿度90%、60℃、240時間の条件で耐湿試験を行った場合の抵抗値(Ω/□)の変化率が10%以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエチレンジオキシチオフェンを含有する導電膜用塗料の製造方法およびその導電膜用塗料から作製された透明導電性フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイ、太陽電池、タッチパネルなどの透明電極などに透明導電膜が使用されている。透明導電膜として、一般に、インジウム−スズの複合酸化物(ITO)膜が使用されている。ITO膜は、真空蒸着法やスパッタリング法などのドライプロセスで形成しなければならないので、ITO膜の製造コストは高くなる。また、ITO膜は脆く、曲げによるクラックが生じやすい。さらに、ITO膜に使用されるインジウムは希少金属であり、今後、原料価格の上昇が予想される。
【0003】
ITO膜に代わる透明導電膜として、ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)を含有する透明導電性フィルムが検討されている(たとえば、特許文献1、2参照)。PEDOT透明導電性フィルムは、グラビアコーティングなどの樹脂フィルムの塗膜技術を使用して透明導電膜を形成できるので、製造コストが低くなる。また、PEDOT透明導電性フィルムは可撓性を有し、曲げによるクラックも生じにくい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2007−531233号公報
【特許文献2】特開2006−253024号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
信頼性の高い透明導電性フィルムを得るために、透明導電性フィルムは優れた高温耐久性および耐湿性を有していることが望ましい。本発明は、優れた高温耐久性および耐湿性を有する、ポリエチレンジオキシチオフェンを含有する透明導電性フィルムおよびその透明導電性フィルムを作製するための導電膜用塗料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、前記課題を解決するため、以下の構成を採用した。
すなわち、本発明の導電膜用塗料の製造方法は、アミンを使用してポリエチレンジオキシチオフェン水溶液のpHを6〜8に調整するpH調整工程、ならびに、pH調整工程によってpHが調整されたポリエチレンジオキシチオフェン水溶液、ポリエステル樹脂、シランカップリング剤およびエンハンサーを混合する混合工程を含む。また、本発明の透明導電性フィルムは、上記製造方法によって製造された導電膜用塗料から作製され、80℃、240時間の条件で高温耐久試験を行った場合の抵抗値(Ω/□)の変化率が10%以下である。本発明の他の透明導電性フィルムは、上記製造方法によって製造された導電膜用塗料から作製され、湿度90%、60℃、240時間の条件で耐湿試験を行った場合の抵抗値(Ω/□)の変化率が10%以下である。
【発明の効果】
【0007】
優れた高温耐久性および耐湿性を有する透明導電性フィルムおよびその透明導電性フィルムを作製するための導電膜用塗料を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明者は、鋭意検討した結果、アミンを使用してポリエチレンジオキシチオフェン水溶液のpHを6〜8に調整し、pHが調整されたポリエチレンジオキシチオフェン水溶液、ポリエステル樹脂、シランカップリング剤およびエンハンサーを混合することによって製造した導電膜用塗料を使用して、優れた高温耐久性および耐湿性を有する透明導電性フィルムを得られることを見出し、本発明に想到した。以下、本発明の詳細について説明するが、本発明は下記の実施形態に限定されるものではない。
【0009】
ポリエチレンジオキシチオフェン水溶液
ポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)水溶液は、PEDOTがコロイド分散している水溶液である。PEDOT水溶液には、PEDOTをコロイド分散させるために分散剤(たとえば、ポリスチレンスルホン酸(PSS))が添加されている。PEDOT水溶液中のPEDOTの固形分濃度は、通常、0.05〜10重量%であるが、この固形分濃度に限定されない。PEDOTに対するPSSの含有量は、通常、PEDOTのモノマー単位1モルに対して0.1〜10モルであり、PSSの重合度は、通常、モノマー単位で10〜100000個の範囲内であるが、これらに限定されない。PEDOT水溶液には、たとえば、H.C.Starck社製のCLEVIOS(登録商標)PH1000、CLEVIOS(登録商標)PH500、CLEVIOS(登録商標)P HC V4などがある。
【0010】
アミン
アミンは、PEDOT水溶液を後述のエンハンサーなどと混合する前に、PEDOT水溶液のpHを調整するために使用される。アミンの代わりに、NH3水溶液、水酸化ナトリウム水溶液および水酸化カルシウム水溶液などの他の塩基性水溶液を用いてPEDOT水溶液のpHを調整することができるが、透明導電性フィルムの高温耐久性および耐湿性はあまり向上しない。透明導電性フィルムの高温耐久性および耐湿性を向上させるという観点からアミン、塗料安定性からとくに第3級アミンが好ましい。PEDOT水溶液のpHの調整に好ましい第3級アミンには、たとえば、2−ジメチルアミノエタノール、2−ジエチルアミノエタノール、トリエチルアミンなどがある。2種または3種以上の第3級アミンを組み合わせたものを用いて、PEDOT水溶液のpHを調整してもよい。透明導電性フィルムの高温耐久性および耐湿性を向上させるという観点から、PEDOT水溶液のpHを調整するために使用される第3級アミンには、2−ジメチルアミノエタノールおよび2−ジエチルアミノエタノールがとくに好ましい。これらのとくに好ましい第3級アミンの中の1種または2種のアミンを組み合わせたものをPEDOT水溶液のpHを調整するために使用してもよい。
【0011】
PEDOT水溶液pHの調整
PEDOT水溶液のpHは、一般に2程度と低いので、アミン、とくに第3級アミンを添加してPEDOT水溶液のpHを調整することが好ましい。透明導電性フィルムの高温耐久性および耐湿性を向上させるという観点から、PEDOT水溶液のpHは、4〜9に調整されるのが好ましい。塗料安定性から、さらに好ましいPDOT水溶液のpHの範囲は6〜8である。アミンの添加量は、PEDOT水溶液のpHに基づいて、適宜選択することができる。また、pHメーターを使用してPEDOT水溶液のpHを測定しながら第3級アミンを添加し、PEDOT水溶液が所定のpHになったら第3級アミンの添加を止めるようにしてもよい。
【0012】
エンハンサー
エンハンサーは、透明導電性フィルムの抵抗率を下げるための添加物である。エンハンサーは、プロトン型溶剤、スルホキシド系溶剤、アミン系溶剤および糖類のうちの少なくとも1つである。エンハンサーは、通常、PEDOT水溶液100gに対して、5〜50%添加されるが、エンハンサーの添加量はこれに限定されない。
【0013】
プロトン型溶剤
上記エンハンサーのプロトン型溶剤は、水を除いたプロトン性溶媒である。プロトン型溶剤には、炭素数が1〜5の1価アルコール、多価アルコール、ポリオールもしくはこれらの中の混合物などがある。
【0014】
上記プロトン型溶剤の、炭素数が1乃至5の1価アルコールには、メチルアルコール、エチルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコール、シクロペンタノールもしくはこれらの中の混合物などがある。
【0015】
上記プロトン型溶剤の、多価アルコールもしくはポリオールには、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、メチルペンタンジオール、ヘキサンジオール、トリメチロールプロパン、グリセリン、エチルヘキサンジオール、ヘキサントリオール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシプロピレントリオール、ポリテトラメチレングリコール、ソルビトール、ペンタエリスリトールもしくはこれらの中の混合物などがある。
【0016】
スルホキシド系溶剤
上記エンハンサーのスルホキシド系溶媒には、メチルスルホキシド、ジメチルスルホキシド(DMSO)、スルホラン、ジフェニルスルホンもしくはこれらの混合物などがある。
【0017】
アミン系溶剤
上記エンハンサーのアミン系溶剤には、ホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、アセトアミド、N−メチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチルプロピオンアミド、ピロリドン、N−メチル2ピロリドン、カプロラクタム、テトラメチルウレアもしくはこれらの中の混合物などがある。
【0018】
糖類
上記エンハンサーの糖類には、グルコース、フルクトースなどの単糖類、マルトース、ラクトースなどの二糖類、セルロース、トレハロースなどの多糖類もしくはこれらの中の混合物などがある。
【0019】
透明導電性フィルムの高温耐久性および耐湿性を向上させるという観点からは、エンハンサーには、プロトン型溶剤を用いるのが好ましく、プロトン型溶剤の中でも多価アルコールもしくはポリオールを用いるのがさらに好ましく、多価アルコールもしくはポリオールの中でもエチレングリコールを用いるのがさらに好ましい。
【0020】
ポリエステル樹脂
pHを調整したPEDOT水溶液にポリエステル樹脂を混合することによって、透明導電性フィルムの高温耐久性および耐湿性をさらに向上させることができる。PEDOT100重量部に対してポリエステル樹脂を100〜250重量部添加することが好ましい。また、PEDOT水溶液と混合するポリエステル樹脂は、PEDOT水溶液と均一に混合できるようにするために、水溶性ポリエステル樹脂であることが好ましい。ここで、水溶性ポリエステル樹脂とは、水をベースとする溶媒に溶解または分散するポリエステル樹脂である。
【0021】
水溶性ポリエステル樹脂は、主にジカルボン酸成分およびグリコール成分を重縮合反応させて作製される。
【0022】
水溶性ポリエステル樹脂に用いられるジカルボン酸成分には、たとえば、芳香族ジカルボン酸および脂肪族ジカルボン酸がある。水溶性ポリエステル樹脂に用いられる芳香族ジカルボン酸には、たとえば、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ジフェン酸、ナフタル酸、1,2−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸及び2,6−ナフタレンジカルボン酸などがある。水溶性ポリエステル樹脂に用いられる脂肪族ジカルボン酸には、たとえば、直鎖、分岐及び脂環式のシュウ酸、マロン酸、コハク酸、マレイン酸、イタコン酸、グルタール酸、アジピン酸、ピメリン酸、2,2−ジメチルグルタール酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸、1,3−シクロペンタンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、ジグリコール酸、チオジプロピオン酸などがある。
【0023】
また、本発明の水性難燃性ポリエステル樹脂の製造に用いられるグリコール成分には、たとえばエチレングリコールおよびジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ペンタエチレングリコール、ヘキサエチレングリコール、ヘプタエチレングリコール、オクタエチレングリコールなどのポリエチレングリコール、ならびにプロピレングリコールおよびジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラプロピレングリコールなどのポリプロピレングリコール、ならびに1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオール、2−エチル−2−イソブチル−1,3−プロパンジオール、2,2,4−トリメチル−1,6−ヘキサンジオール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、2,2,4,4−テトラメチル−1,3−シクロブタンジオール、4,4’−ジヒドロキシビフェノール、4,4’−メチレンジフェノール、4,4’−イソプロピリデンジフェノール、1,5−ジヒドロキシナフタリン、2,5−ジヒドロキシナフタリン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)、ビスフェノールSなどがある。
【0024】
シランカップリング剤
pHを調整したPEDOT水溶液にシランカップリング剤を混合することによって、透明導電性フィルムの高温耐久性および耐湿性をさらに向上させることができる。使用されるシランカップリング剤には、たとえば、オクチルトリクロロシラン、オクタデシルトリクロロシラン、フェニルトリクロロシラン、オクチルトリエトキシシランなどのシランカップリング剤がある。シランカップリング剤の添加量は、とくに制限されるものではないが、導電性膜形成用組成物の固形分の合計を100重量部としたときに、通常、0.001〜10重量部が好ましい。
【0025】
混合
塗料の分散に通常使用される公知の分散機を使用して、pHが調整されたPEDOT水溶液、ポリエステル樹脂、シランカップリング剤およびエンハンサーの混合を行う。pHが調整されたPEDOT水溶液、ポリエステル樹脂などを均一に混合することができれば、分散機はとくに限定されない。上記分散機としては、たとえば、ビーズミル、ロールミル、ニーダー、ハイブリッドミキサーなどを使用できる。真空脱泡などの脱泡をしながら、もしくは脱泡した後、pHが調整されたPEDOT水溶液、ポリエステル樹脂などを混合するようにしてもよい。pHが調整されたPEDOT水溶液、ポリエステル樹脂などの混合物の粘度を低下させるために、水を添加してから混合してもよい。
【0026】
溶剤
pHを調整したPEDOT水溶液、ポリエステル樹脂などを混合するとき溶剤を添加してもよい。溶剤を添加する場合、ポリエステル樹脂を溶剤に溶かしてから、またはポリエステル樹脂を溶剤中にコロイド分散されてから、ポリエステル樹脂を溶かした、もしくはコロイド分散させた溶剤を添加することが好ましい。これにより、PEDOCおよびポリエステル樹脂を均一に混合することができる。溶剤は、ポリエステル樹脂を溶かすか、またはコロイド分散させ、さらにPEDOTをコロイド分散させることが好ましい。このような溶剤には、たとえば、水、アルコール類またはこれらの混合溶媒などを使用することができる。水とアルコール類との混合溶媒としては、たとえば、水、メチルアルコールおよびイソプロピルアルコールの混合溶媒などがある。水とアルコール類との混合溶媒中の水およびアルコール類の割合は、適宜選択することができる。たとえば、水、メチルアルコールおよびイソプロピルアルコールの混合溶媒の重量比は1:1:1または2:1:1でもよい。また、溶剤に溶かしたもしくは溶剤中にコロイド分散したポリエステル樹脂を用いる場合、ポリエステル樹脂が溶剤の中で均一に溶解もしくは分散するようにするために、上記シランカップリング剤を添加してポリエステル樹脂と溶剤とを混合するようにしてもよい。
【0027】
添加剤
pHが調整されたPEDOT水溶液、ポリエステル樹脂などを混合するとき、表面活性剤、硬化剤、レベリング剤、たれ止め剤、可塑剤、乳化剤、分散剤、表面張力調整剤、硬化触媒、紫外線吸収剤、消泡剤などの添加剤を添加してもよい。たとえば、上記ポリエステル樹脂に加水分解を起こさせるために、メチルシリケート加水分解液(たとえば、コルコート(株)製のHAS10など)を添加してもよい。溶剤に溶かしたまたは溶剤中にコロイド分散したポリエステル樹脂を用いる場合、メチルシリケート加水分解液がポリエステル樹脂および溶剤の中で均一に混合するようにするために、メチルシリケート加水分解液を混合した溶剤でポリエステル樹脂を溶かすかまたはコロイド分散させるようにしてもよい。また、溶剤に溶かしたまたは溶剤中にコロイド分散したポリエステル樹脂を用いる場合、ポリエステル樹脂が溶剤の中で均一に溶解もしくは分散するようにするために、界面活性剤を添加して、ポリエステル樹脂と溶剤とを混合するようにしてもよい。
【0028】
塗布の方法
本発明の一実施形態の導電膜用塗料を基材に塗布した後に乾燥させると透明導電性フィルムが形成される。使用可能な基材としては、たとえば、プラスチック、ガラス、金属、セラミックスなどがある。導電膜用塗料の塗布の方法としては、公知の各種方法を用いることができる。たとえば、スピンコート法、グラビアロールコーター法、ブレードコーター法、スプレーコーター法、ディップコート法、バーコーター法、ダイコーター法、ワイヤーバー法などを採用することができる。導電膜用塗料を基材に塗布した後に光硬化、熱硬化などさせて透明導電性フィルムを形成するようにしてもよい。塗布された導電膜用塗料は、ドライヤー、オーブンなどで乾燥される。
【0029】
以上のようにして作製された本発明の一実施態様の透明導電性フィルムは、優れた高温耐久性および耐湿性を有する。たとえば、乾燥雰囲気、80℃、240時間の高温耐久試験で抵抗値(Ω/□)の変化率は10%以下であり、湿度90%、60℃、240時間の耐湿試験で抵抗値(Ω/□)の変化率は10%以下である。
【実施例】
【0030】
以下、実施例を参照して、本発明をさらに詳細に説明する。なお、下記の実施例は本発明を限定するものではない。
【0031】
実施例1
PEDOT水溶液のpHの調整
pHメーター(堀場製作所製、pH METER F-21)を使用して、pHを測定しながら、PEDOT水溶液(PEDOT/PSS)(H.C.Starck社製、CLEVIOS(登録商標)PH1000)40.00gに、2−ジメチルアミノエタノール水溶液(1mol/L aq)を少しずつ添加し、所望のpH(3、4、5、6、7、8、9)になったときに添加を止めた。pHを3に調整したPEDOT水溶液をPEDOT水溶液Aとし、pHを4に調整したPEDOT水溶液をPEDOT水溶液Bとし、pHを5に調整したPEDOT水溶液をPEDOT水溶液Cとし、pHを6に調整したPEDOT水溶液をPEDOT水溶液Dとし、pHを7に調整したPEDOT水溶液をPEDOT水溶液Eとし、pHを8に調整したPEDOT水溶液をPEDOT水溶液Fとし、pHを9に調整したPEDOT水溶液をPEDOT水溶液Gとする。たとえば、pHを7に調整したPEDOT水溶液では、1.05gの2−ジメチルアミノエタノール水溶液(1mol/L aq)を添加した。2−ジメチルアミノエタノール水溶液とPEDOT水溶液との混合には、ハイブリッドミキサー(キーエンス(株)製、HM−500)を使用した。なお、2−ジメチルアミノエタノール水溶液(1mol/L aq)は、1.78gの2ジメチルアミノエタノール((CH32NCH2CH2OH)と18.22gの蒸留水とを混合して作製した。
【0032】
比較例として、NH3水溶液でpHを調整したPEDOT水溶液を作製した。NH3水溶液でpHを4に調整したPEDOT水溶液をPEDOT水溶液Hとし、NH3水溶液でpHを7に調整したPEDOT水溶液をPEDOT水溶液Iとする。
【0033】
溶剤の作製
15.00gの蒸留水、15.00gのメチルアルコールおよび15.00gのイソプロピルアルコールを、上記のハイブリッドミキサーを使用して混合して混合溶媒を作製した。4.4gの上記混合溶媒と、0.37gのメチルシリケート加水分解液(コルコート(株)製のHAS10)とを、上記のハイブリッドミキサーを使用して混合して混合溶媒Aを作製した。また、1.00gのシランカップリング剤(東レ・ダウコーニング社、信越シリコーン社などから販売されている通常のシランカップリング剤)と、99.00gの蒸留水とを上記のハイブリッドミキサーを使用して混合してシランカップリング剤水溶液Bを作製した。そして、4.80gの混合溶媒Aと、0.16gの水溶性ポリエステル樹脂(互応化学工業社製のプラスコートZ−690)と、0.05gのシランカップリング剤水溶液Bとを上記のハイブリッドミキサーを使用して混合して混合溶剤Cを作製し、上記のハイブリッドミキサーを使用して混合溶剤Cを2分間混合し、さらに1分間混合して、ポリエステル樹脂、シランカップリング剤および添加剤を含有した溶剤を作製した。
【0034】
導電膜用塗料の作製
5.90gのpHを調整したPEDOT水溶液と、ポリエステル樹脂、シランカップリング剤および添加剤を含有した上記の溶剤、5.04gとを、上記ハイブリッドミキサーを使用して、2分間混合し、さらに1分間混合し、導電膜用塗料を作製した。導電膜用塗料の固形分は1.09重量%であった。PEDOT水溶液A〜Iを使用して作製した導電膜用塗料を、それぞれ導電膜用塗料A〜Iとする。
【0035】
【表1】

【0036】
評価用透明導電性フィルムの作製
OSG社製、ワイヤーバー#12(300Ω/□で転写効率80%)を使用してハンドにて、導電膜用塗料A〜Gを、ハードコートPET基板(ダイセルバリューコーティング社製のハードコートPET)に約22μmの厚みで塗布した。そして、導電膜用塗料A〜Iを塗布した基板をTABAI社製パーフェクトオーブンにて130℃で3分間乾燥して、評価用透明導電性フィルムを基板上に作製した。導電膜用塗料A〜Iで作製した透明導電性フィルムをそれぞれ透明導電性フィルムA〜Iとする。
【0037】
透明導電性フィルムの表面抵抗値の測定
ロレスターHP装置(三菱化学(株)製、)、MCP−T350(ダイヤインスツルメンツ社製)、ロレスターMP(ダイヤインスツルメンツ社製)を使用して四端針法で、基板上に形成した透明導電性フィルムの表面抵抗値(Ω/□)を測定した。
【0038】
高温耐久試験
透明導電性フィルムについて、80℃、240時間の条件で高温耐久試験を行い、高温耐久試験前の抵抗値(Ω/□)に対する高温耐久試験後の抵抗値(Ω/□)の変化率を調べた。TABAI社製パーフェクトオーブンを使用して高温耐久試験を行った。変化率は、高温耐久試験後の抵抗値(Ω/□)から高温耐久試験前の抵抗値(Ω/□)を引き算したものを高温耐久試験前の抵抗値(Ω/□)で割り算することによって算出した。
【0039】
耐湿試験
透明導電性フィルムについて、湿度90%、60℃、240時間の条件で耐湿試験を行い、耐湿試験前の抵抗値(Ω/□)に対する耐湿試験後の抵抗値(Ω/□)の変化率を調べた。エスペック社製恒温恒湿器PL−2KPを使用して耐湿試験を行った。変化率は、耐湿試験後の抵抗値(Ω/□)から耐湿試験前の抵抗値(Ω/□)を引き算したものを耐湿試験前の抵抗値(Ω/□)で割り算することによって算出した。
【0040】
高温試験
透明導電性フィルムについて、乾燥雰囲気、150℃、30分間の条件で高温試験を行い、高温試験前の抵抗値(Ω/□)に対する高温試験後の抵抗値(Ω/□)の変化率を調べた。TABAI社製パーフェクトオーブンを使用して高温試験を行った。変化率は、高温試験後の抵抗値(Ω/□)から高温試験前の抵抗値(Ω/□)を引き算したものを高温試験前の抵抗値(Ω/□)で割り算することによって算出した。
【0041】
試験結果
高温耐久試験の結果を表2に示す。
【表2】

【0042】
耐湿試験の結果を表3に示す。
【表3】

【0043】
高温試験の結果を表4に示す。
【表4】

【0044】
以上の結果より、2−ジメチルアミノエタノール水溶液を用いてPEDOT水溶液のpHを調整することにより、NH3水溶液でPEDOT水溶液のpHを調整した透明導電性フィルムと比較して、高温耐久性および耐湿性の優れた透明導電性フィルムを得られることがわかった。耐高温性については、NH3水溶液でPEDOT水溶液のpHを調整した透明導電性フィルムに匹敵するものが得られた。
【0045】
実施例2
実施例1では、2−ジメチルアミノエタノール水溶液を用いてPEDOT水溶液のpHを調整した。実施例2では、他のアミンを用いてPEDOT水溶液のpHを調整して透明導電性フィルムを作製した。
【0046】
PEDOT水溶液のpHの調整
pHメーター((株)堀場製作所製 pH METER F-21)を使用して、pHを測定しながら、PEDOT水溶液(PEDOT/PSS)(H.C.Starck社製、CLEVIOS(登録商標)PH1000)40.00gに、エチルアミン水溶液、アミノエタノール水溶液、2−(メチルアミノ)エタノール水溶液、2−ジエチルアミノエタノール水溶液および2−ジメチルアミノエタノール水溶液をそれぞれ少しずつ添加し、pHが7になったときに添加を止めた。エチルアミン水溶液を用いてpHを7に調整したPEDOT水溶液をPEDOT水溶液Jとし、アミノエタノール水溶液を用いてpHを7に調整したPEDOT水溶液をPEDOT水溶液Kとし、2−(メチルアミノ)エタノール水溶液を用いてpHを7に調整したPEDOT水溶液をPEDOT水溶液Lとし、2−ジエチルアミノエタノール水溶液を用いてpHを7に調整したPEDOT水溶液をPEDOT水溶液Mとし、2−ジメチルアミノエタノール水溶液を用いてpHを7に調整したPEDOT水溶液をPEDOT水溶液Nとする。なお、エチルアミンおよびアミノエタノールは第1級アミンであり、2−(メチルアミノ)エタノールは第2級アミンであり、2−ジエチルアミノエタノールおよび2−ジメチルアミノエタノールは第3級アミンである。2−ジエチルアミノエタノールの代わりに上記のアミンを用いた以外、PEDOT水溶液のpHの調整方法は、実施例1と同じであった。
【0047】
溶剤の作製
実施例1と同じ方法で溶剤を作製したので、溶剤の作製の説明は省略する。
【0048】
導電膜用塗料の作製
実施例1の導電膜用塗料と同じ方法で、導電膜用塗料を作製した。PEDOT水溶液J〜Nを使用して作製した導電膜用塗料を、それぞれ導電膜用塗料J〜Nとする。
【0049】
【表5】

【0050】
評価用透明導電性フィルムの作製
実施例1と同じ方法で、評価用透明導電性フィルムを基板上に作製した。導電膜用塗料J〜Nで作製した透明導電性フィルムをそれぞれ透明導電性フィルムJ〜Nとする。
【0051】
透明導電性フィルムの表面抵抗値の測定
実施例1と同じ方法で、基板上に形成した透明導電性フィルムの表面抵抗値(Ω/□)を測定した。
【0052】
高温耐久試験、耐湿試験および高温試験
実施例1と同じ条件で高温耐久試験、耐湿試験および高温試験を行い、試験前の抵抗値(Ω/□)に対する試験後の抵抗値(Ω/□)の変化率を調べた。
【0053】
試験結果
高温耐久試験の結果を表6に示す。
【表6】

【0054】
耐湿試験の結果を表7に示す。
【表7】

【0055】
高温試験の結果を表8に示す。
【表8】

【0056】
以上の結果より、2−ジメチルアミノエタノール以外の第3級アミンを使用しても、高温耐久性および耐湿性の優れた透明導電性フィルムを得られることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明は、タッチパネル、液晶ディスプレイ、太陽電池などに信頼性の高い透明電極を形成できる点で産業上の利用可能性は大きい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アミンを使用してポリエチレンジオキシチオフェン水溶液のpHを6〜8に調整するpH調整工程、ならびに、
前記pH調整工程によってpHが調整された前記ポリエチレンジオキシチオフェン水溶液、ポリエステル樹脂、シランカップリング剤およびエンハンサーを混合する混合工程を含む導電膜用塗料の製造方法。
【請求項2】
前記pH調整工程において使用されるアミンが、2−ジメチルアミノエタノールおよび2−ジエチルアミノエタノールからなる群から選択される1種または2種のアミンである請求項1に記載の導電膜用塗料の製造方法。
【請求項3】
前記ポリエステル樹脂が、水溶性ポリエステル樹脂である請求項1または2に記載の導電膜用塗料の製造方法。
【請求項4】
前記混合工程は、溶剤に溶かされた、または溶剤中にコロイド分散した前記ポリエステル樹脂を混合する請求項1〜3のいずれか1項に記載の導電膜用塗料の製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項の製造方法によって製造された導電膜用塗料から作製され、
80℃、240時間の条件で高温耐久試験を行った場合の抵抗値(Ω/□)の変化率が10%以下である透明導電性フィルム。
【請求項6】
請求項1乃至4のいずれか1項の製造方法によって製造された導電膜用塗料から作製され、
湿度90%、60℃、240時間の条件で耐湿試験を行った場合の抵抗値(Ω/□)の変化率が10%以下である透明導電性フィルム。

【公開番号】特開2012−99265(P2012−99265A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−244117(P2010−244117)
【出願日】平成22年10月29日(2010.10.29)
【出願人】(000000181)岩崎通信機株式会社 (133)
【Fターム(参考)】