説明

小麦粉およびその製造方法

【課題】スペックの発生を防止または軽減し、かつ製品の外観や加工特性を損なわない小麦粉を提供すること。
【解決手段】本発明は、小麦粉の製造方法を提供し、この方法は、小麦の製粉工程において、脱脂米糠抽出物および焙煎米糠抽出物からなる群から選択される少なくとも1種の抽出物を小麦に添加することを特徴とする。1つの実施態様では、挽砕前に、さらなる実施態様では、調質工程で、抽出物が添加される。本発明はまた、当該方法で製造された小麦粉もまた提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小麦粉およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
小麦粉などの穀粉および水を混合して製造される食品またはその生地(具体的には、うどん、中華麺、生パスタなどの麺;餃子皮、シュウマイ皮、中華饅頭皮などの皮もの;パイ、ピザ、パンなどの生地)を保管しておくと、スペックまたは「ホシ」と呼ばれる黒い点が多数発生し、この斑点は、時間の経過とともに、数や大きさを増しかつ黒色化してくる。このため、カビと間違えられ、外観が悪くなることで商品価値が著しく低下する問題がある。
【0003】
この現象は、小麦粉に微量に含まれるふすまによるものと考えられるが、現在の製粉技術では、このふすまを小麦粉の製造過程で完全に取り除くことは難しい。
【0004】
特許文献1は、コウジ酸、システイン、グルタチオン、アスコルビン酸、ジチオスレイトール、フィチン酸、EDTA、イソニコチン酸ヒドラジド、パラアミノサリチル酸、ペプチドなどのチロシナーゼ阻害剤を、小麦粉製造の挽砕前に、好ましくは調質工程に添加して、得られる小麦粉のスペックが抑制されることを記載している。
【0005】
ところで、玄米の精白(すなわち精米)時に得られる米糠の有効利用もまた研究されている。米油(または「米糠油」とも呼ばれる)を除去した米糠(本明細書中で「脱脂米糠」ともいう)を焙煎したもの(本明細書中で「焙煎米糠」ともいう)からの抽出物(本明細書中で「焙煎米糠抽出物」ともいう)の有効性について報告されている。焙煎米糠抽出物は、畜肉および魚肉の嫌味臭(非特許文献1)、ならびにトリメチルアミン(魚臭)、アンモニア、ジアリルジサルファイド(ニンニク臭)、およびメチルメルカプタン(玉ねぎの腐った臭い)に起因する嫌味臭(非特許文献2)を緩和または抑制することが公知である。特許文献2では、焙煎米糠抽出物の消臭効果を利用した口腔用組成物が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平7−222560号公報
【特許文献2】特開2006−22053号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】「既存添加物と天然香料、食品素材 天然物便覧」 第15版、第318頁、株式会社 食品と科学社、2003年11月30日発行
【非特許文献2】奥野製薬工業株式会社 食品研究部 技術資料、2003年4月1日公開
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、スペックの発生を防止または軽減し、かつ製品の外観や加工特性を損なわない小麦粉を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、小麦粉の製造方法を提供し、この方法は、小麦の製粉工程において、脱脂米糠抽出物および焙煎米糠抽出物からなる群から選択される少なくとも1種の抽出物を小麦に添加することを特徴とする。
【0010】
1つの実施態様では、上記抽出物が、小麦を挽砕する前の工程で添加される。
【0011】
さらなる実施態様では、上記小麦を挽砕する前の工程が、調質工程である。
【0012】
本発明はさらに、上記方法で製造された小麦粉もまた提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、スペックの発生を防止または軽減し、かつ製品の外観や加工特性を損なわない小麦粉が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(脱脂米糠抽出物および焙煎米糠抽出物)
焙煎米糠抽出物は、食品添加剤として公知であり、既存添加物として認められている(非特許文献1)。非特許文献1には、焙煎米糠抽出物の基原は、イネ科イネの米糠を脱脂し、焙煎したものを、熱時水で抽出後、温時エタノールでタンパク質を除去したものであり、成分としてマルトールを含む旨が記載されている。以下の実施例で使用した焙煎米糠抽出物は、非特許文献1に定義される焙煎米糠抽出物の一例であり得るが、本発明において用いられる焙煎米糠抽出物の製法は、得られる産物がスペックの発生を抑制する作用を有する限り、以下に説明するように限定はない。「ばい煎コメヌカ抽出物」(添加物表示)として入手可能な食品添加物(例えば市販物)もまた、本発明に用いられ得る。脱脂米糠抽出物は、米糠の脱脂後に焙煎を行うこと以外は、焙煎米糠抽出物と同様に調製される。
【0015】
「脱脂米糠」は、米糠から米油を除去することにより得られる。したがって、米糠からの米油抽出後の残渣であり得る。米糠としては、精米時に廃棄される皮および胚芽部を利用できる。米糠は、市販によっても入手可能である。米糠からの米油の抽出による脱脂米糠の製造は、当業者が通常用いる任意の方法が用いられ得、そのような方法としては、圧搾抽出および溶剤抽出(例えば、ヘキサンを用いる)が公知である。脱脂米糠もまた、市販により入手可能である。「焙煎米糠」とは、脱脂米糠を焙煎したものである。米糠の「焙煎」とは、容器に入れられた米糠に水分を加えずに、該容器の外部から高い温度に加熱する処理をいう。焙煎は、例えば、温度120〜210℃、より好ましくは、130〜190℃、より好ましくは約170℃にて、20〜90分間、より好ましくは、30〜60分間、より好ましくは約40分間で行われ得るが、特にこれらの条件に限定されない。
【0016】
脱脂米糠抽出物は、脱脂米糠を、水または有機溶剤、あるいは水および有機溶剤の組み合わせにて抽出したもの、そして焙煎米糠抽出物は、焙煎米糠を、水または有機溶剤、あるいは水および有機溶剤の組み合わせにて抽出したものである。水としては、水道水、蒸留水、純水などが用いられ得る。抽出有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、1,3−ブチレングリコールなどのアルコールが挙げられる。水および有機溶剤の組み合わせによる抽出は、水と有機溶剤(有機溶剤を高濃度(約50v/v%以上)で含む水溶液であってもよい)とで別個に順次抽出する(例えば、水による抽出後に有機溶剤による抽出を行う)、または水と有機溶剤との混合溶剤(すなわち、有機溶剤の水溶液)によって抽出するかのいずれであってもよい。
【0017】
脱脂米糠抽出物および焙煎米糠抽出物の調製方法の例について、以下に説明するが、これらの方法に限定されない。なお、本明細書を通して、材料に関して特に説明がなければ、当業者が通常入手可能であり用いられる材料、処理または操作に関して特に説明がなければ、当業者が通常用いる手法または装置によって行われ得る。
【0018】
一例としては、脱脂米糠または焙煎米糠を熱水による抽出に供した後、濾過により糠を取り除き得る。採取した抽出物を濃縮し、粉末化し(例えばスプレードライにて)、次いでアルコール(好ましくは、エタノール)による抽出に供し、得られた抽出物を濾過および濃縮に供することにより、最終抽出物を得る。熱水抽出は、例えば、温度80℃以上100℃未満、より好ましくは90℃〜99℃、より好ましくは約98℃の温度、および、例えば、5分間以上、好ましくは、90分間以上、より好ましくは、120分間以上の時間での条件を用い得る。アルコール抽出には、その取り扱い面を考慮して、高濃度のアルコール水溶液を抽出溶剤として用い得、例えば、50〜99.5v/v%、好ましくは70〜95v/v%、より好ましくは約90v/v%のアルコール水溶液を用い得る。アルコール抽出は、用いるアルコール抽出溶剤の沸点を考慮して行われ得るが、例えば、温度50〜78℃、より好ましくは60〜70℃、より好ましくは約65℃の温度、および、例えば、60分間以上、好ましくは、90分間以上、より好ましくは、120分間以上の時間での条件を用い得る。
【0019】
調製方法の別の例として、脱脂米糠または焙煎米糠に、アルコールおよび水を含有する溶液を加えて抽出を行い、得られた抽出物を濾過および濃縮に供し得る。この抽出溶液は、好ましくはエタノール水溶液である。水溶媒に対するアルコール濃度は、好ましくは、30〜70v/v%、より好ましくは、40〜60v/v%、より好ましくは約50v/v%である。抽出条件は、用いる抽出溶剤の沸点を考慮して行われ得るが、一般には、例えば、温度60℃〜80℃、より好ましくは65℃〜75℃、より好ましくは約70℃の温度、および、例えば、5分間以上、好ましくは、90分間以上、より好ましくは約120分間以上の時間であり得る。
【0020】
好ましくは、脱脂米糠またはその脱脂米糠を約170℃にて、約40分間焙煎した焙煎米糠を、熱水(約98℃)にて約120分間以上抽出し、得られた抽出物を濃縮し、スプレードライにて粉末化し、それに約90v/v%のエタノール水溶液を加えて、約65℃で約120分間以上抽出を行い、得られた抽出物を濃縮することにより得られる脱脂米糠抽出物または焙煎米糠抽出物が用いられ得る。あるいは、脱脂米糠または焙煎脱脂米糠に約50v/v%のエタノール水溶液を加えて、約70℃にて約120分間以上抽出後、濾過および濃縮して得られる脱脂米糠抽出物または焙煎米糠抽出物も好ましく用いられ得る。
【0021】
脱脂米糠抽出物および焙煎米糠抽出物は、粉末、顆粒、液、乳化液、ペーストなどの任意の形態で利用できる。例えば、上述のような手順に基づいて生成された最終生成物をそのまま用いても、または粉末形態を溶媒(例えば、水、アルコールなど)に溶解または懸濁または乳化して添加してもよい。上述のような手順に基づいて生成された最終の液状生成物を、スプレードライまたは凍結乾燥などで粉末にまで乾燥し、粉末形態を製造し得る。例えば、液状の脱脂米糠抽出物または焙煎米糠抽出物を粉末基材であるデキストリンと共に水に溶解し、スプレードライにて粉末化し得る。さらに当業者が通常用いる方法にて顆粒化してもよい。
【0022】
(小麦粉の製造および用途)
本発明においては、脱脂米糠抽出物および焙煎米糠抽出物が、小麦粉の製造の際に添加され得る。脱脂米糠抽出物または焙煎米糠抽出物のいずれか一方、あるいはその両方が添加され得る。小麦粉の製造方法は、小麦の製粉工程を包含する。
【0023】
小麦粉の製造または小麦の製粉の工程は、当業者が通常用いる任意の工程を含み得る。一般的には、小麦に混ざっている雑物を取り除く精選工程;小麦に水を加えて外皮をふやかして粉砕しやすくする調質工程;小麦を粉砕する挽砕工程;および粉砕した小麦を小麦粉とフスマとに篩い分ける篩い分け(シフター)工程を含み得る。さらに、粉砕した小麦の胚乳部(セモリナ)を振動篩および風力にて純化するピュリファイアー工程、胚乳部(セモリナ)を粉砕する工程;および粉砕した胚乳部(セモリナ)をフスマと篩い分ける篩い分け(シフター)工程を含み得る。この後さらに、小麦粉あるいは胚乳部(セモリナ)に対して、ピュリファイアー工程、粉砕工程、およびシフター工程が繰り返され得る。粉砕(挽砕を含む)には、ロールを使用する方法、臼を使用する方法などが挙げられ得るがいずれでもよい。小麦粉の製造または小麦の製粉は、小麦の搬入から小麦粉製品の包装までの一連の工程であり得、より複雑化した工程でもあり得る。
【0024】
本発明によれば、脱脂米糠抽出物および/または焙煎米糠抽出物が、小麦の挽砕前に、水と共に添加され得る。添加は、好ましくは、小麦への水の添加を伴う調質工程で行われ得る。調質工程での添加とは、以下に説明するような調質前、調質中、および/または調質後(但し挽砕前)の脱脂米糠抽出物および/または焙煎米糠抽出物の添加を含み得る。脱脂米糠抽出物および/または焙煎米糠抽出物は、予め調製した水懸濁液もしくは水溶液を用いて調質することで小麦に添加するか、あるいは調質前、調質中、および/または調質後に水と共に添加してもよい。例えば、脱脂米糠抽出物および/または焙煎米糠抽出物の懸濁もしくは溶解した溶液にて加水を行うことにより小麦と脱脂米糠抽出物および/または焙煎米糠抽出物とが均一に混ぜられるように充分撹拌することで、脱脂米糠抽出物および/または焙煎米糠抽出物が小麦に添加され得る。あるいは、脱脂米糠抽出物および/または焙煎米糠抽出物を例えば粉末、顆粒などの状態でまたは懸濁もしくは溶解した溶液の状態で、水と共に、小麦に加えた後に調質を行う、小麦に加えながら調質を行う、および/または調質後の小麦に加えることにより、小麦と脱脂米糠抽出物および/または焙煎米糠抽出物とが均一に混ざるように充分撹拌することで、脱脂米糠抽出物および/または焙煎米糠抽出物が小麦に添加され得る。
【0025】
脱脂米糠抽出物および焙煎米糠抽出物の添加量は、それらのスペック抑制能、および必要に応じて生地または最終製品の色が考慮され得る。焙煎米糠抽出物の添加量は、原料小麦の種類に依存し得るが、一般に、原料小麦の質量に対して50ppm〜15000ppmであり得、好ましくは500ppm以上、より好ましくは1000ppm以上、さらに好ましくは5000ppm以上であり得、そして好ましくは15000ppm以下、より好ましくは10000ppm以下、さらに好ましくは8000ppm以下であり得るが、これに限定されない。脱脂米糠抽出物の添加量は、原料小麦の種類に依存し得るが、一般に、原料小麦の質量に対して50ppm〜15000ppmであり得、好ましくは500ppm以上、より好ましくは1000ppm以上、さらに好ましくは5000ppm以上であり得、そして好ましくは15000ppm以下、より好ましくは10000ppm以下、さらに好ましくは8000ppm以下であり得るが、これに限定されない。上記数値範囲内、あるいはスペック抑制能、および必要に応じて生地または最終製品の色を考慮した任意の範囲内で、脱脂米糠抽出物および焙煎米糠抽出物を混合して添加してもよい。
【0026】
なお、通常製粉工程においては、特にpHの調整は行わないが、必要に応じて、脱脂米糠抽出物および/または焙煎米糠抽出物を添加する際の懸濁または溶解した溶液などのpHを4〜7付近(好ましくはpH5〜6)に調整してもよい。
【0027】
製粉に用いられる小麦の種類は問わない。粒の硬さによって硬質小麦、中間質小麦、および軟質小麦に分類され得るが、いずれも用いられ得る。硬質小麦とは、タンパク質を多く含んだ小麦で、粒が硬く、「強力粉」または「準強力粉」に加工され得る。通常、パン、パイ、ピザ、中華麺、餃子皮などの製造に用いられ得る。なお、デュラム小麦とは、硬質小麦の一種で、通常、マカロニ、スパゲティの製造に用いられ得る。中間質小麦とは、タンパク質の含有量は中ぐらいであり、ほどほどの硬さであり、「中力粉」に加工され得る。通常、乾麺、ゆで麺、そうめん、うどんなどの製造に用いられ得る。軟質小麦は、タンパク質の含有量が少なく、粒は軟らかく、「薄力粉」に加工され得る。通常、ケーキおよびビスケットのような菓子類などの製造に用いられ得る。強力粉、準強力粉、中力粉、および薄力粉からの加工製品を上に例示したがこれに限定されず、また、加工製品の原料となる小麦粉の種類は任意に選択され得る。
【0028】
上記のようにして製造された小麦粉もまた本発明の範囲内である。本発明の小麦粉は、小麦粉を原料とする食品に関して、通常の小麦粉と同様に用いられ得る。
【0029】
例えば、本発明の小麦粉は、小麦粉二次加工製品(小麦粉食品)の製造に用いられ得る。小麦粉二次加工製品としては、麺類(例えば、中華麺、うどん、生パスタなど)、皮もの(例えば、餃子皮、シュウマイ皮、中華饅頭皮)、パイ、ピザ、パン、菓子類などが挙げられる。本発明は、このような食品の生地の製造に好適に利用され得る。小麦粉二次加工製品には、必要に応じて、副原料として、例えば、食塩、かん粉、蛋白類、澱粉類、有機酸(塩)類、重合リン酸塩類、乳化剤、増粘安定剤、保湿剤、保存剤、食用色素、卵製品、糖類、油脂類、乳製品、イースト、イーストフード、ベーキングパウダーなども添加し得る。これらの原料は、混捏時に添加されても、あるいは、特に粉末などの固体形態の場合は混捏前に予め原料中に配合されてもよい。これらの副原料の添加量は、当業者に周知の量が採用され得る。二次加工製品およびそのような食品の生地は、当業者が通常用いる方法および手段(装置など)を用いて製造され得る。
【0030】
本発明の小麦粉は、糖類、塩、澱粉類、乳化剤、酵素剤などの副原料を必要に応じて配合することにより、粉製品を調製することもできる。例えば、ベーカリーミックス、菓子ミックス、天ぷら粉、から揚げ粉、お好み焼き粉、たこ焼き粉などの小麦粉ミックス製品が挙げられる。
【0031】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【実施例】
【0032】
(実施例1:小麦粉の製造)
(1−1.脱脂米糠抽出物および焙煎米糠抽出物の調製)
脱脂米糠抽出物および焙煎米糠抽出物は、以下のように調製した。精米時に得られた米糠から米油を当業者が通常用いる手順に従ってヘキサンで抽出し、脱脂米糠を得た。さらに、その脱脂米糠を約170℃にて40分間焙煎し、焙煎米糠を得た。脱脂米糠または焙煎米糠を98℃の熱水にて120分間抽出した後、濾過により抽出残渣を取り除いた。採取した抽出物を濃縮し、次いでスプレードライにて粉末化し、それに90v/v%エタノールを加え、65℃にて2時間抽出を行い、それを濾過および濃縮した。このようにして脱脂米糠および焙煎米糠のそれぞれから得られた生成物を、脱脂米糠抽出物および焙煎米糠抽出物とした。
【0033】
(1−2.小麦の製粉)
水75gに脱脂米糠抽出物または焙煎米糠抽出物を各0.05g(小麦に対して50ppm)、0.5g(500ppm)、1g(1000ppm)、5g(5000ppm)、8g(8000ppm)、10g(10000ppm)、または15g(15000ppm)混合し、各濃度の脱脂米糠抽出物または焙煎コメヌカ抽出物の水溶液を得た。次いで、脱脂米糠抽出物または焙煎米糠抽出物の水溶液を小麦(オーストラリアン・スタンダード・ホワイト(ASW))1kgに加え、24時間調質した。調質後の小麦を卓上型水冷石臼粉砕機(ミクロパウダーKGW-GO15:槇野産業株式会社製)にて挽砕し、篩(100mesh)にてフスマと小麦粉とに分けた。この得られた小麦粉を以後の実施例に使用した。
【0034】
(実施例2:うどんの製造)
実施例1で作製した小麦粉に、下記の配合になるように原料を加えてミキサーにて8分間混合し、そぼろ状にした。原料の配合は以下の通りである:小麦粉100質量部、水35質量部、食塩2質量部、および75v/v%エタノール2質量部。これを製麺ロールで圧延し、厚さ3mmの麺帯を作製した。
【0035】
麺帯をビニール袋に入れ、10℃にて7日間保管した。いずれの試験麺帯でもスペックの発生分布に特に偏りが見られなかったので、麺帯中の任意の領域3cm2あたりに発生したスペックの数を目視にて計数した。
【0036】
各麺帯のスペック数の結果を以下の表1に示す。
【0037】
【表1】

【0038】
脱脂米糠抽出物または焙煎米糠抽出物の添加により、麺帯のスペックの発生を抑制した。うどんとするための加工特性および外観については、無添加品と比較して特に変化はなかった。
【0039】
(実施例3:餃子皮の製造)
実施例1で作製した小麦粉に、下記の配合になるように原料を加えてミキサーにて8分間混合し、そぼろ状にした。原料の配合は以下の通りである:小麦粉100質量部、水34質量部、食塩1質量部、および75v/v%エタノール2質量部。麺帯の作製およびスペック発生の評価については、実施例2と同様に行った。
【0040】
各麺帯のスペック数の結果を以下の表2に示す。
【0041】
【表2】

【0042】
脱脂米糠抽出物または焙煎米糠抽出物の添加により、麺帯のスペックの発生を抑制した。餃子皮とするための加工特性および外観については、無添加品と比較して特に変化はなかった。
【0043】
(実施例4:中華麺の製造)
実施例1で作製した小麦粉に、下記の配合になるように原料を加えてミキサーにて8分間混合し、そぼろ状にした。原料の配合は以下の通りである:小麦粉100質量部、水32質量部、かん粉(炭酸カリウム65w/w%および炭酸ナトリウム35w/w%)1質量部、食塩1質量部、および75v/v%エタノール2質量部。麺帯の作製およびスペック発生の評価については、実施例2と同様に行った。
【0044】
各麺帯のスペック数の結果を以下の表3に示す。
【0045】
【表3】

【0046】
脱脂米糠抽出物または焙煎米糠抽出物の添加により、麺帯のスペックの発生を抑制した。中華麺とするための加工特性および外観については、無添加品と比較して特に変化はなかった。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明によれば、小麦粉二次加工製品または生地におけるスペックの発生が好都合に防止され得、かつ該生地および製品の外観、物性などの製品特性が損なわれることがない。また、焙煎米糠抽出物および脱脂米糠抽出物とも食品への添加物として好適に利用され得る物質であり、安全性が高い。さらに、これらは、小麦の製粉の際に添加することにより、より少量でスペックの発生を抑制し得る。本発明によれば、商品価値の高い小麦粉二次加工製品または生地が得られる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
小麦の製粉工程において、脱脂米糠抽出物および焙煎米糠抽出物からなる群から選択される少なくとも1種の抽出物を小麦に添加することを特徴とする、小麦粉の製造方法。
【請求項2】
前記抽出物が、小麦を挽砕する前の工程で添加される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記小麦を挽砕する前の工程が、調質工程である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の方法で製造された小麦粉。

【公開番号】特開2011−36168(P2011−36168A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−185767(P2009−185767)
【出願日】平成21年8月10日(2009.8.10)
【出願人】(591021028)奥野製薬工業株式会社 (132)
【Fターム(参考)】