説明

巻上ウインチの冷却装置

【課題】冷却専用の油圧源を不要にしてコストの低減化を図り得る巻上ウインチの冷却装置を提供する。
【解決手段】巻上ウインチは、油圧ポンプ3から吐出された圧油により駆動される油圧モータ4と、この油圧モータの回転を減速してウインチドラム2に伝達する減速機5と、この減速機の動力伝達を遮断又は接続状態に切り換えるための湿式クラッチ6とを備える。上記油圧ポンプ又は油圧モータから油をタンク13に戻す戻し油路12を、上記湿式クラッチのケース33内を油路の一部とするように設けるとともに、上記湿式クラッチのケース内に、上記油圧モータによって回転駆動されるインペラ53を配置し、このインペラの回転によりケース内に導入した油で湿式クラッチの発熱部を冷却する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動式クレーンに装備される巻上ウインチの冷却装置に関し、特に、動力伝達を遮断又は接続状態に切り換えるための湿式クラッチを備えるものに係わる。
【背景技術】
【0002】
従来、移動式クレーンに装備される巻上ウインチとして、例えば特許文献1に開示されているように、油圧ポンプから吐出された圧油により駆動される油圧モータと、この油圧モータの回転を減速してウインチドラムに伝達する減速機としての遊星歯車機構と、この遊星歯車機構のキャリア軸に連結された湿式クラッチ(クラッチ・ブレーキともいう)とを備え、通常の巻上・巻下時には湿式クラッチを接続状態にして遊星歯車機構のキャリア軸を固定し,油圧モータの回転を遊星歯車機構を介してウインチドラムに伝達する一方、フリーフォール時には湿式クラッチを遮断状態にして遊星歯車機構のキャリア軸をフリーにし、ウインチドラムのフリー回転を実現するようにしたものは知られている。
【0003】
そして、この種の巻上ウインチにおいては、フリーフォール時の作業の安全性を確保するために、オペレータがブレーキペダルを操作するとその操作量に応じて湿式クラッチが接続状態になり、ウインチドラムの回転に制動力を付与するようになっている。この場合、湿式クラッチは、インナディスクとアウタディスクとが擦れ合いつつ相対回転することから発熱を生じる。このため、上述の特許文献1にも開示するように湿式クラッチの発熱部であるインナディスクとアウタディスクとの接触部などに対し、油圧源からの圧油を冷却油として供給することで冷却を行っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−226487号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、上記従来のものでは、湿式クラッチの発熱部を冷却するための専用の油圧源を必要とするため、その分コストが高くつくという問題があった。
【0006】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、特に、フリーフォール時にウインチドラム駆動用の油圧モータが利用されていないことに着目し、この油圧モータを利用して湿式クラッチの発熱部に対し冷却油を供給することにより、冷却専用の油圧源を不要にしてコストの低減化を図り得る巻上ウインチの冷却装置を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、請求項1に係る発明は、油圧ポンプから吐出された圧油により駆動される油圧モータと、この油圧モータの回転を減速してウインチドラムに伝達する減速機と、この減速機の動力伝達を遮断又は接続状態に切り換えるための湿式クラッチとを備えた巻上ウインチにおいて、上記油圧ポンプ又は油圧モータから油をタンクに戻す戻し油路を、上記湿式クラッチのケース内を油路の一部とするように設けるとともに、上記湿式クラッチのケース内に、上記油圧モータによって回転駆動されるインペラを配置し、このインペラの回転によりケース内に導入した油で湿式クラッチの発熱部を冷却するように構成する。
【0008】
この構成では、湿式クラッチのケース内に配置されたインペラが油圧モータによって回転駆動されることにより、油圧ポンプ又は油圧モータからタンクに戻される油が戻し油路を通して湿式クラッチのケース内に導入され、湿式クラッチの発熱部に対し冷却油として供給されることになり、発熱部の冷却が行われる。しかも、上記油圧モータは、本来ウインチドラムを駆動するためのものであり、冷却専用のものではないので、その分コストを低減することができる。
【0009】
請求項2に係る発明は、請求項1記載の巻上ウインチの冷却装置において、上記減速機を、油圧モータの回転軸に沿って並列に配置された2つの遊星歯車機構により構成し、かつ上記インペラの回転軸を、油圧モータの回転軸と同一線上に設ける構成にする。この構成では、油圧モータの回転軸に沿って並列に配置された2つの遊星歯車機構によって減速機が構成され、この油圧モータの回転軸と同一線上にインペラの回転軸が設けられているため、動力伝達が油圧モータの回転軸線上に集約して行われることになり、その分装置のコンパクト化が図られることになる。
【0010】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2記載の巻上ウインチの冷却装置において、上記油圧モータを可変容量形のものにするとともに、フリーフォール時を検出するフリーフォール時検出手段と、上記湿式クラッチの発熱部の温度を検出する温度検出手段と、上記両検出手段からの信号を受け、フリーフォール時に湿式クラッチの発熱部の温度に応じて上記油圧モータの容量を変更する制御手段とを設ける構成にする。この構成では、フリーフォール時には、その時点をフリーフォール時検出手段によって検出するとともに、湿式クラッチの発熱部の温度を温度検出手段によって検出し,この両検出手段からの信号を受ける制御手段によって、油圧モータの容量ひいては油圧モータから戻し油路を通して湿式クラッチのケース内ないし発熱部に導入される油量が、発熱部の温度に応じて変更されることになり、発熱部の冷却を効率良く行うことができる。
【発明の効果】
【0011】
以上のように、本発明における巻上ウインチの冷却装置によれば、湿式クラッチのケース内に配置されたインペラを油圧モータによって回転駆動し、油圧ポンプ又は油圧モータからタンクに戻される油を戻し油路を通して湿式クラッチのケース内に導入して発熱部に供給することにより、発熱部の冷却を行うことができる上、冷却専用の油圧源を必要としないので,その分コストの低減化を図ることができる。
【0012】
特に、請求項2に係る発明では、油圧モータの回転軸に沿って並列に配置された2つの遊星歯車機構によって減速機が構成され、この油圧モータの回転軸と同一線上にインペラの回転軸が設けられているため、構成要素の集約化により装置のコンパクト化を図ることができるという効果をも奏するものである。
【0013】
また、請求項3に係る発明では、フリーフォール時に油圧モータの容量ひいては油圧モータから戻し油路を通して湿式クラッチのケース内ないし発熱部に導入される油量が、発熱部の温度に応じて変更されるため、発熱部の冷却を効率良く行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は本発明の実施形態に係る巻上ウインチの油圧回路図である。
【図2】図2は図1のX区画の拡大図である。
【図3】図3はコントローラの制御内容を示すフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態である実施形態を図面に基づいて説明する。
【0016】
図1は本発明の一実施形態に係る巻上ウインチの油圧回路を示す。この巻上ウインチは、ワイヤ1を巻き取るウインチドラム2と、原動機(図示せず)により駆動される油圧ポンプ3と、この油圧ポンプ3から吐出された圧油により駆動される油圧モータ4と、この油圧モータ4の回転を減速して上記ウインチドラム2に伝達する減速機5と、この減速機5の動力伝達を遮断又は接続状態に切り換えるための湿式クラッチ6とを備えている。
【0017】
上記油圧ポンプ3から吐出された圧油は、方向切換弁11を介して油圧モータ4に供給される。方向切換弁11は、油圧モータ4を巻上方向に回転させるための巻上位置であるイ位置と、油圧ポンプ3からの圧油を戻し油路12を介してタンク13に戻す中立位置であるロ位置と、油圧モータ4を巻下方向に回転させるための巻下位置であるハ位置とに切換可能なものであり、この方向切換弁11の両端の圧力室は、それぞれパイロット油路14,15を介してリモコンバルブ16に接続されている。リモコンバルブ16には操作レバー17が連結されており、この操作レバー17の操作によりリモコンバルブ16を介して方向切換弁11の位置切換が行われるようになっている。
【0018】
上記減速機5は、図2に拡大詳示するように、油圧モータ4の回転軸4aに沿って並列に配置された2つの遊星歯車機構21,26、つまり油圧モータ4寄りの第1の遊星歯車機構21と湿式クラッチ6寄りの第2の遊星歯車機構26とからなる。第1の遊星歯車機構21は、油圧モータ4の回転軸4a上に相対回転自在に設けられたサンギヤ22と、ウインチドラム2に固定されたリングギヤ23と、このリングギヤ23及びサンギヤ22に共に噛合しかつキャリア24を介してギヤケースなどに固定された複数(例えば3つ)のプラネタリギヤ25,25,…とを有している。また、第2の遊星歯車機構26は、油圧モータ4の回転軸4aと回転一体に設けられたサンギヤ27と、このサンギヤ27と噛合しかつキャリア28を介して上記第1の遊星歯車機構21のサンギヤ22と一体に公転するように設けられた複数のプラネタリギヤ29,29,…と、この各プラネタリギヤ29と噛合するリングギヤ30とを有している。このリングギヤ30は、油圧モータ4の回転軸4aと同一線上に延びる後述のインペラシャフト55の外周に相対回転自在に設けられた連結シャフト31の一端に回転一体に連結されており、この連結シャフト31の他端は、湿式クラッチ6のケース33の側壁部33aを貫通してケース33内にまで挿入されている。
【0019】
上記湿式クラッチ6は、中心部がそれぞれ連結シャフト31に回転一体にかつ軸方向に摺動可能にスプライン結合された複数枚のインナディスク34(図では1枚のみ示す)と、このインナディスク34の周縁部と軸方向に沿って交互に配置されかつケース33に軸方向に移動可能に支持された複数枚のアウタディスク35(図では1枚のみ示す)と、このアウタディスク35及びインナディスク34をケース33の側壁部33aとの間に押圧するピストン36とを有している。そして、ピストン36が両ディスク34,35をケース33の側壁部33aとの間に押圧する押圧方向に移動したときには、上記減速機5の第2の遊星歯車機構26のリングギヤ30を連結シャフト31を介して固定状態にすることにより、減速機5において、油圧モータ4の回転を第2の遊星歯車機構26のサンギヤ27、プラネタリギヤ25、第1の遊星歯車機構21のサンギヤ22、プラネタリギヤ25及びリングギヤ23を順次介してウインチドラム2に伝達する動力伝達の接続状態に切り換える一方、ピストン36が反押圧方向に移動したときには、減速機5の上記動力伝達を遮断状態に切り換えるようになっている。
【0020】
上記湿式クラッチ6は、更に、上記ピストン36を押圧方向に移動させるように常時付勢するバネ37と、ピストン36をそれぞれ押圧方向及び反押圧方向に移動させるためにピストン36とケース33との間に形成された第1及び第2の制御室38,39とを有している。第2の制御室39には、油圧源41の圧油が常に供給される一方、第1の制御室38には、油圧源41の圧油が電磁式の2位置切換弁42を介して供給されるとともに、油圧源43の圧油がブレーキバルブ44及び上記2位置切換弁42を介して供給されるようになっている。
【0021】
上記ブレーキバルブ44は、油圧源43の圧油を減圧して2次圧として油路45に供給するものであり、その2次圧は、ブレーキペダル46の非操作時には最小でタンク47内の圧力つまりタンク圧であり、ブレーキペダル46の操作時にはその踏み込み量の増加に伴い増加するようになっている。
【0022】
そして、本発明の特徴点として、上記戻し油路12は、タンク13に戻る途中で分岐しかつ一端が湿式クラッチ6のケース33内に連通された分岐油路12aと、湿式クラッチ6のケース33に設けた排油孔51からケース33内の油をタンク13に戻す油路12bとを有し、湿式クラッチ6のケース33内を油路の一部とするように設けられている。
【0023】
一方、上記湿式クラッチ6のピストン36にはその中心線上に沿って延びる空洞部52が形成されているとともに、この空洞部52内には上記油圧モータ4により回転駆動されるインペラ53が配置されている。また、ピストン36の一端は、ケース33外にまで延出されているとともに、その一端面に設けた給油孔54には上記分岐油路12aの一端が接続されている。そして、上記インペラ53の回転により、分岐油路12aから空洞部52内ひいてはケース33内に油を導入し、その油を湿式クラッチ6の発熱部であるインナディスク34とアウタディスク35の接触部などに供給して冷却し、その後排油孔51から油路12bを通して排出するようになっている。
【0024】
上記インペラ53は、油圧モータ4の回転軸4aと同一軸線上に配置されかつ回転軸としてのインペラシャフト55を介して一体的に回転するように連結されている。上記油圧モータ4は、可変容量形のものであり、その容量調整部4bは、制御手段としてのコントローラ61により制御される。また、上記油圧源41の圧油は、フリーフォール時操作レバー17の操作位置に拘わらず油圧モータ4を巻下方向に回転させるために、コントローラ61により共に制御される2つの2位置切換弁42,62、高圧選択弁63及びパイロット油路14などを介して方向切換弁11の一方の圧力室に供給されるようになっている。
【0025】
上記コントローラ61には、オペレータがフリーフォールモードを選択するときのモード切換スイッチ(フリーフォールスイッチともいう)65の信号、操作レバー17の操作位置を検出する位置センサ66の検出信号及び上記湿式スイッチ6の発熱部であるインナディスク34とアウタディスク35の接触部又はその周辺の温度を検出する温度検出手段としての温度センサ67の検出信号がそれぞれ入力されるようになっている。コントローラ61の制御は、図3に示すフローチャートに従って行われる。
【0026】
すなわち、図3において、ステップS1で各種信号を読み取った後、ステップS2でモード切換スイッチ65がオンであるか否かを判定するとともに、ステップS3で位置センサ66の信号に基づいて操作レバー17が中立位置であるか否かを判定する。フリーフォール運転は、モード切換スイッチ65がオンでかつ操作レバー17が中立位置のときになされることから、ステップS2,S3によりフリーフォール運転ないしフリーフォール時か否かを判定している。また、この判定に信号が利用されるモード切換スイッチ65及び位置センサ66は、フリーフォール時を検出するフリーフォール時検出手段を構成している。
【0027】
そして、上記ステップS2,S3の判定が共にYESのフリーフォール時には、ステップS4で2位置切換弁42をイ位置に、2位置切換弁62をロ位置にそれぞれ切り換える。続いて、ステップS5で温度センサ67の信号に基づいて現時点の湿式クラッチ6の発熱部の温度を判定し、この温度に応じて、油圧モータ4の容量を変更するように油圧モータ4の容量調整部4bを制御する。すなわち、油圧モータ4の最小容量と最大容量との間では、温度の増加に比例して油圧モータ4の容量を増加させる。しかる後、リターンする。
【0028】
一方、上記ステップS2,S3のいずれかの判定がNOのとき、例えば通常の巻上・巻下時には、ステップS6で2位置切換弁42をロ位置に、2位置切換弁62をイ位置にそれぞれ切り換えるとともに、ステップS7で油圧モータ4の容量を負荷圧に応じて制御する容量制御を行い、リターンする。
【0029】
次に、上記巻上ウインチの動作を説明するに、通常の巻上・巻下時には、コントローラ61の制御によって、2位置切換弁42はロ位置に、2位置切換弁62はイ位置にそれぞれ切り換えられる(図3のS6参照)。また、ブレーキペダル46は操作されない。
【0030】
この状態では、湿式クラッチ6の2つの制御室38,39に、油圧源41の圧油が共に供給されるため、湿式クラッチ6のピストン36は、バネ37の付勢力によってインナディスク34及びアウタディスク35をケース33の側壁部33aとの間に押圧する押圧方向に移動して、減速機5の第2の遊星歯車機構26のリングギヤ30を固定状態にし、減速機5の動力伝達を接続状態にする。このときオペレータが操作レバー17を巻上又は巻下に操作すると、その操作によりリモコンバルブ16を介して方向切換弁11が中立のロ位置から巻上のイ位置又は巻下のハ位置に切り換わり、油圧モータ4が油圧ポンプ3から吐出された圧油により駆動される。この油圧モータ4の回転は、減速機5を介してウインチドラム2に伝達されることにより、ウインチドラム2が回転してワイヤ1の巻上又は巻下が行われる。
【0031】
一方、オペレータが操作レバー17を中立位置に戻しかつモード切換スイッチ65をオンにしてフリーフォール運転を行うフリーフォール時には、コントローラ61の制御によって、2位置切換弁42はイ位置に、2位置切換弁62はロ位置にそれぞれ切り換えられる(図3のS4参照)。
【0032】
この状態では、湿式クラッチ6の2つの制御室38,39のうち、第2の制御室39に油圧源41の圧油が供給される。第1の制御室38は、2位置切換弁42及び油路45などを介してブレーキバルブ44に連通する。このとき、ブレーキペダル46が操作されていないと上記制御室38内はタンク圧になるため、湿式クラッチ6のピストン36は反押圧方向に移動して、減速機5の第2の遊星歯車機構26のリングギヤ30を回転フリー状態にし、減速機5の動力伝達を遮断状態にする。これにより、ウインチドラム2がフリー回転し、フリーフォール運転が実現される。
【0033】
一方、オペレータがブレーキペダル46を操作するとブレーキバルブ44の2次圧が油路45及び2位置切換弁42などを介して湿式クラッチ6の第1の制御室38に導かれるため、湿式クラッチ6のピストン36が押圧方向に移動して、インナディスク34とアウタディスク35とが接触し合うことになり、ウインチドラム2の回転に対し制動力が作用する。その際、インナディスク34とアウタディスク35の接触により発熱が生じる。
【0034】
また、フリーフォール時には、油圧源41の圧油が2位置切換弁42,62、高圧選択弁63及びパイロット油路14などを介して方向切換弁11の一方の圧力室に供給され、方向切換弁11が巻下のハ位置に切り換えられる。これにより、油圧モータ4が油圧ポンプ3から吐出された圧油により駆動されるため、この油圧モータ4の回転軸4aとインペラシャフト55を介して連結されかつ湿式クラッチ6のケース33内に配置したインペラ53が油圧モータ4の回転軸4aと一体に回転する。このインペラ53の回転に伴い吸い込み力が作用することから、油圧モータ4からタンク13に戻される油が戻し油路12の分岐油路12aを通して湿式クラッチ6のケース33内に導入され、湿式クラッチ6の発熱部であるインナディスク34とアウタディスク35の接触部などに冷却油として供給される。ケース33内に導入した油は、両ディスク34,35の接触部を通過した後、油路12bを通してタンク13に戻される。
【0035】
このように、フリーフォール時には、オペレータがブレーキペダル46を操作すると湿式クラッチ6のインナディスク34とアウタディスク35の接触により発熱が生じるが、湿式クラッチ6のケース33内に配置したインペラ53が油圧モータ4と一体に回転し、油圧モータ4からタンク13に戻される油が戻し油路12を通して湿式クラッチ6のケース33内に導入されて上記両ディスク34,35の接触部などの発熱部に供給されるため、発熱部の冷却を行うことができる。しかも、上記油圧モータ4は、本来ウインチドラム2を駆動するためのものであり、冷却専用のものではないので、その分コストを低減することができる。
【0036】
特に、上記実施形態の場合、フリーフォール時の油圧モータ4の容量は、コントローラ61の制御によって、上記両ディスク34,35の接触部又はその周辺の温度に応じて変更される(図3のS5参照)ため、油圧モータ4から戻し油路12を通して湿式クラッチ6のケース33内ないし発熱部に導入される油量も発熱部の温度に応じて調整されることになり、発熱部の冷却を効率良く行うことができる。
【0037】
また、フリーフォール時以外に、通常の巻上・巻下時にも上記インペラ53は油圧モータ4の回転に伴い回転し、油圧モータ4からタンク13に戻される油が戻し油路12を通して湿式クラッチ6のケース33内に導入されて発熱部に供給されるため、発熱部の冷却を十分に行うことができる。
【0038】
さらに、上記減速機5が油圧モータ4の回転軸4aに沿って並列に配置された2つの遊星歯車機構21,26により構成され、この油圧モータ4の回転軸4aと同一線上にインペラシャフト55が設けられているため、減速機5の動力伝達及びインペラ53への動力伝達が油圧モータ4の回転軸4aの軸線上に集約して行われることになり、その分装置のコンパクト化を図ることができる。
【0039】
尚、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく,その他種々の形態を包含するものである。例えば上記実施形態では、油圧モータ4の回転を減速してウインチドラム2に伝達する減速機5として、2つの遊星歯車機構21,26により構成してなるものを用いた場合について述べたが、本発明は、この場合に限らず、1つ又は3つの遊星歯車機構からなる減速機、あるいはギヤ又はベルトを用いてなるその他種々の形式の減速機を用いた場合にも同様に適用することができる。
【0040】
また、上記実施形態では、湿式クラッチ6のケース33内にインペラ53を配置するに当たり、ピストン36の中心線上に空洞部52を形成し、この空洞部52内にインペラ53を配置するように構成したが,本発明は、ケース33内に空隙がある場合、その空隙にインペラ5を配置するように構成しても良い。
【符号の説明】
【0041】
2 ウインチドラム
3 油圧ポンプ
4 油圧モータ
4a 回転軸
4b 容量調整部
5 減速機
6 湿式クラッチ
12 戻し油路
12a 分岐油路
12b 油路
13 タンク
21,26 遊星歯車機構
33 ケース
34 インナディスク(発熱部)
35 アウタディスク(発熱部)
36 ピストン
52 空洞部
53 インペラ
55 インペラシャフト(回転軸)
61 コントローラ(制御手段)
65 モード切換スイッチ(フリーフォール時検出手段)
66 位置センサ(フリーフォール時検出手段)
67 温度センサ(温度検出手段)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
油圧ポンプから吐出された圧油により駆動される油圧モータと、この油圧モータの回転を減速してウインチドラムに伝達する減速機と、この減速機の動力伝達を遮断又は接続状態に切り換えるための湿式クラッチとを備えた巻上ウインチにおいて、
上記油圧ポンプ又は油圧モータから油をタンクに戻す戻し油路は、上記湿式クラッチのケース内を油路の一部とするように設けられており、上記湿式クラッチのケース内には上記油圧モータによって回転駆動されるインペラが配置され、このインペラの回転によりケース内に導入した油で湿式クラッチの発熱部を冷却するように構成されていることを特徴とする巻上ウインチの冷却装置。
【請求項2】
上記減速機は、油圧モータの回転軸に沿って並列に配置された2つの遊星歯車機構からなり、上記インペラの回転軸は、油圧モータの回転軸と同一線上に設けられている請求項1記載の巻上ウインチの冷却装置。
【請求項3】
上記油圧モータは可変容量形のものであり、フリーフォール時を検出するフリーフォール時検出手段と、上記湿式クラッチの発熱部の温度を検出する温度検出手段と、上記両検出手段からの信号を受け、フリーフォール時に湿式クラッチの発熱部の温度に応じて上記油圧モータの容量を変更する制御手段とを設けた請求項1又は2記載の巻上ウインチの冷却装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−12141(P2012−12141A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−148508(P2010−148508)
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【出願人】(304020362)コベルコクレーン株式会社 (296)