説明

常温流通菓子用含水チョコレート

【課題】水中油型の「ガナッシュ」や「生チョコレート」でありながら、包あん用途に用いることができる焼成耐熱保形性を有し、さらに長期常温流通が可能となる低水分活性値を有する、耐熱保形性と長期の常温保存性を両立させた含水チョコレートを提供すること。
【解決手段】チョコレート生地50重量%以上、水分10重量%以上、クリーム10重量%以上及び液糖を含有する水中油型乳化物であって、チョコレート生地中に単糖を5重量%以上、熱凝固性タンパク質及び/又はα化澱粉を含有する水分活性値が0.7未満であることを特徴とする包あん後加熱工程を経る菓子に用いられる常温流通菓子用含水チョコレート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、常温流通菓子用含水チョコレートに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、チョコレート生地とクリームや洋酒などの含水可食物をブレンドした「ガナッシュ」と呼ばれる含水チョコレートは、口溶けがよく、水分が多いため食感がやわらかく、トリュフなどのセンターに用いられてきた。
【0003】
そこで、この口溶けがよく、やわらかい食感の「ガナッシュ」や「生チョコレート」などの含水チョコレートをトリュフのセンター用途にとどまらず、パンやケーキ、焼き菓子などのセンターに包あんする試みも行われてきた。
【0004】
しかしながら、水分が多く、やわらかい含水チョコレートをパンやケーキ、焼き菓子などのセンターに包あんし焼成すると、耐熱保形性を有さないため、センターの含水チョコレートが沸騰し流れ出してしまうという問題が生じる。
【0005】
さらに、含水チョコレートをクッキーなどの焼き菓子に包あんし、常温流通させるためには、焼成後、常温での長期にわたる保存性が要求されるが、従来の含水チョコレートは水分が多く、日持ちの面で使用することができない。
【0006】
例えば、特許文献1では、長期常温流通が可能な水中油型の含水チョコレートの製造法が提案されているが、この方法で得られる含水チョコレートは、焼成に対する耐熱保形性は有さない。
また、特許文献2には、焼き菓子センター用含水チョコレートとして、不溶性食物繊維を含有する、油中水型エマルションである含水チョコレートが提案されているが、油中水型の含水チョコレートのため、口溶け、食感の面で水中油型の含水チョコレートに及ぶものではない。
【0007】
さらに、日本では、チョコレート生地とクリームや洋酒などの含水可食物をブレンドしたチョコレートは「生チョコレート」と呼ばれ、「チョコレート公正競争規約」(全国チョコレート業公正取引協議会制定・公正取引委員会認定)の独自規格として規定されている。
従い、「生チョコレート」と呼ばれるためには、規定された水分、クリーム含量を満たす必要があり、配合組成がおのずと制約されてしまう。
【0008】
そのため、これまで常温流通が可能な「生チョコレート」は油中水型の含水チョコレートがほとんどであり、口溶け、食感の面で、水中油型の含水チョコレートに及ぶものは無かった。
【0009】
さらに、クッキーなどに包あんし焼成される用途に要求される、センターから流れ出すことのない良好な耐熱保形性と常温流通菓子としての長期の保存性を両立させたものは、これまでになかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2001−275570号公報
【特許文献2】特開2010−88374号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、水中油型の「ガナッシュ」や「生チョコレート」でありながら、包あん用途に用いることができる焼成耐熱保形性を有し、さらに長期常温流通が可能となる低水分活性値を有する、耐熱保形性と長期の常温保存性を両立させた含水チョコレートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、チョコレート生地50重量%以上、水分10重量%以上、クリーム10重量%以上含有する水中油型乳化物であって、単糖を5重量%以上含有することで、水分活性値を0.7未満に抑えることができるという知見を得、本発明の常温流通菓子用含水チョコレートを完成させるに至った。
【0013】
すなわち、本発明は、
(1)チョコレート生地50重量%以上、水分10重量%以上、クリーム10重量%以上及び液糖を含有する水中油型乳化物であって、チョコレート生地中に単糖を5重量%以上、熱凝固性タンパク質及び/又はα化澱粉を含有する水分活性値が0.7未満であることを特徴とする包あん後加熱工程を経る菓子に用いられる常温流通菓子用含水チョコレート、
(2)カカオ分及び/又は乳固形分を35重量%以上、ココアバター18重量%以上含有するチョコーレート生地を60重量%以上含有する請求項1記載の包あん後加熱工程を経る菓子に用いられる常温流通菓子用含水チョコレート、
(3)水相成分に複数の液糖を使用する請求項1又は2いずれか1項に記載の包あん後加熱工程を経る菓子に用いられる常温流通菓子用含水チョコレートである。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、水中油型の「ガナッシュ」や「生チョコレート」でありながら、包あん用途に用いることができる焼成耐熱保形性を有し、さらに長期常温流通が可能となる低い水分活性値を維持することができ、耐熱保形性と長期の常温保存性を両立させた含水チョコレートを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0016】
本発明の常温流通菓子用含水チョコレートはチョコレート生地50重量%以上含有する水中油型乳化物であるが、本発明においてチョコレート生地とは、カカオマス、ココアバター、ココアケーキ又はココアパウダーから選ばれる原料や、その他必要により糖類、乳製品、他の食用油脂、香料等を含有するものであって、これら原料が混合、微細化、精錬などの工程を経て製造されるものである。
上記原料において、油脂としてはココアバター、ココアバター代用脂などを単独あるいは混合して使用でき、ココアバター代用脂としてはテンパリング型、ノンテンパリング型のいずれも使用することができる。
【0017】
本発明の常温流通菓子用含水チョコレートはチョコレート生地を50重量%以上含有するが、より濃厚なチョコレート風味を付与するためには、チョコレート生地を60重量%以上含有することが好ましい。
【0018】
上記チョコレート生地は単糖を5重量%以上含有することを特徴とし、単糖としては、ブドウ糖、果糖、ペントース、キシロース等を使用できるが、これらのなかでも、ブドウ糖を使用することが好ましい。
チョコレート生地中の単糖が5重量%未満では、水中油型乳化物の水分活性値を低く抑えることが困難となる。
【0019】
また、上記チョコレート生地は熱凝固性タンパク質及び/又はα化澱粉を含有することを特徴とするが、熱凝固性タンパク質としては、大豆蛋白、小麦蛋白、卵白、乳蛋白等を使用することができ、α化澱粉としては、α化コーンスターチ、アルファ化馬鈴薯澱粉、アルファ化タピオカ澱粉等を使用することができる。
熱凝固性タンパク質及び/又はα化澱粉はチョコレート生地中0.5〜5重量%含有することが好ましく、良好な耐熱保形性を付与させることが可能となる。
【0020】
さらに、上記チョコレート生地はカカオ分及び/又は乳固形分を35重量%以上、ココアバター18重量%以上含有することが好ましいが、カカオ分とはカカオニブ、カカオマス、ココアケーキ及びココアパウダーの水分を除いた合計量であり、乳固形分としては全脂粉乳や脱脂粉乳などを含有することができる。
【0021】
本発明の常温流通菓子用含水チョコレートは水分10重量%以上、クリーム10重量%以上含有する水中油型乳化物であるが、含水チョコレート中に水性成分としては、クリーム、液糖、洋酒、牛乳、豆乳、果汁、水などを使用することができ、水分が10重量%未満では水中油型乳化物を得ることは難しく、また10重量%を大幅に超えると、水分活性値を低く抑えることが困難となるため、水分15重量%以下であることが好ましい。
また、液糖としては、果糖ブドウ糖液糖、ラクトース(乳糖)、マルトース(麦芽糖)、マルチトール、ソルビトール、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、キシロオリゴ糖、イソマルトオリゴ糖、ニゲロオリゴ糖、ゲンチオオリゴ糖、大豆オリゴ糖、ラクトスクロース、ハチミツ、各種澱粉類およびその部分加水分解物である水飴などのシロップ類などを使用することができるが、複数の液糖を使用することが好ましく、より安定して水分活性値を低く抑えることが可能となる。
【0022】
本発明の常温流通菓子用含水チョコレートは、上記のような原料を使用することで水分活性値が0.7未満に抑えられているという特徴を有し、水分活性値が0.7未満であることにより、常温での長期保存性という常温流通菓子に求められる要求をクリアすることが可能となる。
【0023】
さらに、本発明の常温流通菓子用含水チョコレートは、上記のような原料の他に、乳化剤等を使用してもよく、安定した品質の水中油型乳化物を得るために、HLBが7以上のショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステルなどを使用することが好ましい。
【0024】
本発明の常温流通菓子用含水チョコレートの製造方法は、従来の含水チョコレートの製造方法に従い製造することができ、例えばチョコレート生地と水性成分とを混合した後30〜70℃に加温する、あるいはどちらか一方又は両方を30〜70℃に加熱融解後混合しすることで水中油型乳化物を得ることができる。
その際、緩やかな攪拌方式、強力な剪断力を加えることのできる攪拌方式、あるいは均質化処理を行ってもよい。また、乳化工程あるいは均質化処理の前後で殺菌又は滅菌し、その後冷却することで含水チョコレートを得ることができる。
【0025】
上記のように得られた本発明の常温流通用含水チョコレートは、焼成耐熱保形性と常温流通可能な低水分活性値に抑えられているので、クッキーやパイ、ドーナツ、まんじゅうなどに包あん後、加熱工程を経る菓子に使用しても、焼成加熱により、中身が噴出すことなく、良好な耐熱保形性を維持することができる。
【0026】
包あんする方法としては特に限定されず常法に従い包あんすることができる。少量の場合、手作業でも構わないが、流通菓子のような大量生産の場合は包あん機を用いて連続生産されるのが普通である。菓子生地と含水チョコレートの重量比についても特に限定されないが、含水チョコレートが菓子生地からはみ出さないように包あんする必要がある。はみ出さないように包あんする為には菓子生地に対し重量で2倍量以下にするのが好ましい。また、含水チョコレートが菓子生地に対して少なすぎる場合、含水チョコレートの風味が弱くなったりする為、菓子生地に対して重量で0.1倍以上にするのが好ましい。
【0027】
本発明の含水チョコレートを菓子生地に包あんした後、焼成する方法としては特に限定されず、常法に従いオーブンなどで焼成することができる。また、菓子生地がイーストを含む場合は常法に従い焼成前に発酵工程を取ることも随意である。また、菓子生地が冷凍用である場合、常法に従い冷凍、解凍工程を取ることも随意である。
【0028】
以下、本発明について実施例を示し、より詳細に説明する。なお、例中の%及び部はいずれも重量基準を意味する。
【0029】
(チョコレート生地の調製)
常法に従い、含水チョコレート用チョコレート生地を調製した。
各チョコレート生地の配合を表1に示す。
【0030】
表1

【0031】
(含水チョコレートの調製)
表2に記載された配合で、チョコレート生地及び水性成分を混合容器に入れ、63〜65℃で30分加熱混合し、水中油型含水チョコレートを製造した。
【0032】
表2

【0033】
(水分活性値の測定)
得られた各含水チョコレートは、以下の機器を用い、以下の条件で測定した。
測定機器:AQUA LAB Model Series3 TE
測定条件:20±1.5℃にて測定
校正用標準液:DECAGON 水分活性測定装置標準液(AW0.760)で校正
【0034】
ショートニング40部、砂糖30部、全卵10部、水10部、重曹0.3部、薄力粉100部の比率にて常法によりクッキー生地を調製した。
上記含水チョコレートを、包あん機を用いてクッキー生地で包あんし、200℃で8分間焼成し、常温流通菓子を得た。得られた包あんクッキーの製造工程での、包あん適性、焼き残りについて評価(○:良、×:不適)した。
【0035】
実施例1〜5、比較例1〜5の結果を表3に示す。
【0036】
表3


【特許請求の範囲】
【請求項1】
チョコレート生地50重量%以上、水分10重量%以上、クリーム10重量%以上及び液糖を含有する水中油型乳化物であって、チョコレート生地中に単糖を5重量%以上、熱凝固性タンパク質及び/又はα化澱粉を含有する水分活性値が0.7未満であることを特徴とする包あん後加熱工程を経る菓子に用いられる常温流通菓子用含水チョコレート。
【請求項2】
カカオ分及び/又は乳固形分を35重量%以上、ココアバター18重量%以上含有するチョコーレート生地を60重量%以上含有する請求項1記載の包あん後加熱工程を経る菓子に用いられる常温流通菓子用含水チョコレート。
【請求項3】
水相成分に複数の液糖を使用する請求項1又は2いずれか1項に記載の包あん後加熱工程を経る菓子に用いられる常温流通菓子用含水チョコレート。

【公開番号】特開2012−191918(P2012−191918A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−60276(P2011−60276)
【出願日】平成23年3月18日(2011.3.18)
【出願人】(000236768)不二製油株式会社 (386)
【Fターム(参考)】