説明

干潟の嵩上げ方法

【課題】
浚渫土砂等を有効に利用することができるとともに、沈下した干潟の嵩上げ修復を効率よく、しかも既に生じている生物環境を破壊することなく行うことができる干潟の嵩上げ方法の提供。
【解決手段】
粘性土層4内を攪乱手段14により攪乱し、粘性土層4内に粘性土よりも軟弱化させた土砂からなる攪乱処理層51を形成した後、攪乱処理層51内に注入管32を挿入し、注入管32を通して攪乱処理層51内にスラリー状の粘性土を圧入して嵩上げ層52を造成し、干潟の表層部を押し上げる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水底の軟弱な地盤上に浚渫土等の粘性土が堆積した粘性土層を有する干潟を修復や拡張等するための干潟の嵩上げ方法に関する。
【背景技術】
【0002】
港湾施設では、その建設や維持にあたって水底の浚渫作業が行われ、従来、このような浚渫作業により生じた浚渫土は、新たな埋立地に投入されて埋立土として利用されていた。
【0003】
しかし、近年では、浚渫土を処分するための埋立地を新規に建設することが困難になっており、浚渫土の土捨場が慢性的に不足している。
【0004】
一方、近年、環境への意識の高まりにより水辺環境の保全が注目されており、海浜区域における人工干潟の開発がなされている。
【0005】
人工干潟は、その造成や維持に際し、上述の如き浚渫土を有効利用できる点で注目され、各地で造成が計画され、実施されつつある。
【0006】
従来の人工干潟は、図13(a)に示すように、護岸1の沖側の水底に潜堤2を築造し、この潜堤2と護岸1との間の水底地盤3上に浚渫土を投入して護岸側が順次高くなる緩やかな傾斜の粘性土層4を造成し、その上に厚さが1m程度の覆砂層5を造成し、その覆砂層5の表面が潮の干満によって水没したり露出したりする潮間帯となるように造成している。
【0007】
このような人工干潟は、軟弱な水底地盤上に造成される場合が多く、また浚渫土を使用した粘性土層4も軟弱である場合が多く、それらの上に覆砂層5を載荷させるために、図13(b)に示すように経時的に圧密沈下が生じ、人工干潟が常時水没した状態の部分が多くなって、干潟面積が減少するという問題がある。
【0008】
このような地盤沈下による干潟の減少を修復するため、従来では、図13(c)に示すように沈下した部分の覆砂層5の上に砂撒きによる嵩上げ層6を造成する方法がとられている。
【0009】
また、地盤沈下による干潟の減少を修復する方法には、人工干潟を造成する際に、粘性土層と覆砂層との間に予め袋状のシートを敷設しておき、地盤沈下が生じた際に、袋状シート内に浚渫土等の中詰材を注入して干潟全体の嵩上げをする方法も知られている(例えば、特許文献1)。
【0010】
更に地盤沈下による干潟の減少を修復する方法として、図14に示すように、粘性土層4内にトレミー管等からなる注入管6を挿入し、この注入管6を通して浚渫土をスラリー化した粘性土7を粘性土層4内に圧入し、それにより圧入された粘性土7上の土砂を押し上げることにより干潟を嵩上げする方法も開発されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2005−281999号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、上述の如き砂撒きによる嵩上げ層を造成する方法では、沈下した人工干潟の既存の覆砂層表面に砂を盛り上げて人工干潟をもとの高さに回復させるものであるため、嵩上げ層を形成するための大量の良質な砂を必要とし、また、浅瀬に対する薄層の覆砂作業は多くの労力を必要とするため、砂の購入費用や工費等が嵩むという問題がある。
【0013】
更に、大量の砂撒きにより覆砂層の厚みが増し、その重量も増大するため圧密沈下が促進されるという問題がある。
【0014】
更にまた、新たな砂を既存の覆砂層の上に敷設すると、古い覆砂層に生息している生物を死滅させることとなり、干潟に生じている生物環境を破壊するという問題があった。
【0015】
一方、上述の如き袋状シート内に中詰材を注入して干潟全体の嵩上げをする方法では、人工干潟を造成する際に袋状シートが敷設されていない既存の干潟には適用できないという問題がある。
【0016】
また、干潟を修復するまでに袋状シートが経年劣化するおそれがあり、干潟修復に際し、袋状シート内に浚渫土砂等の注入をすると袋状シートが破断してしまいその機能を果たさず、好適に干潟の修復がなされないという問題があった。
【0017】
更にまた、この方法による修復は、干潟造成時に袋状シートを設置した位置や袋状シートの大きさにより制限されるため、実際に修復したい箇所を修復できなかったり、所望する嵩上げができなかったりするおそれがあった。
【0018】
また、上述の注入管により粘性土層内に粘性土を圧入する方法においては、圧入された粘性土が、周囲の粘性土を押しのけつつ球体状に膨張し干潟の表層部を局所的に隆起させるため、修復後の表層面高さを所定の高さに調整することが困難であり、また、複数箇所で圧入作業を行った場合表層面が凹凸状に形成されてしまうという問題があった。
【0019】
本発明は、このような従来の問題に鑑み、浚渫土砂等を有効に利用することができるとともに、沈下した干潟の嵩上げ修復や嵩上げによる干潟の拡張を効率よく、しかも既に生じている生物環境を破壊することなく行うことができる干潟の嵩上げ方法の提供を目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上述の如き従来の問題を解決し、所期の目的を達成するための請求項1に記載の発明の特徴は、水底地盤上に浚渫土等の粘性土が堆積した粘性土層内に注入管を挿入し、該注入管を通して粘性土を圧入して嵩上げ部を形成することにより該嵩上げ部上の粘性土を押し上げる干潟の嵩上げ方法において、前記粘性土層内の任意の深さにおいて前記粘性土を攪乱手段により撹乱して層状の攪乱処理部を形成し、しかる後、該攪乱処理部内に前記注入管を挿入し、該注入管より前記攪乱処理部内にスラリー状の粘性土を圧入して前記嵩上げ部を形成することにある。
【0021】
請求項2に記載の発明の特徴は、請求項1の構成に加え、一の前記攪乱処理部の周囲に該攪乱処理部と互いに隣接した配置に複数の攪乱処理部を形成し、前記中心の攪乱処理部内に前記注入管を挿入し、該注入管よりスラリー状の粘性土を圧入することにより前記中心の攪乱処理部を通して前記周囲の攪乱処理部にスラリー状の粘性土を圧入して前記嵩上げ部を造成することにある。
【0022】
請求項3に記載の発明の特徴は、請求項1又は2の構成に加え、複数の前記嵩上げ部を互いに隣接した配置に形成することにより嵩上げ層を造成することにある。
【0023】
請求項4に記載の発明の特徴は、請求項1、2又は3の構成に加え、前記注入管は、管径方向外側に向けて吐出口が形成されていることにある。
【0024】
請求項5に記載の発明の特徴は、請求項1〜3又は4の構成に加え、前記干潟の表層面上側に載荷板を配置し、該載荷板により前記表層面を下向きに加圧しつつ前記粘性土の圧入を行うことにある。
【0025】
請求項6に記載の発明の特徴は、請求項1〜4又は5の構成に加え、前記注入管は、外周部に土砂逆流防止手段を備え、前記注入管外周に沿った前記粘性土の逆流を防止するようにしたことにある。
【0026】
請求項7に記載の発明の特徴は、請求項6の構成に加え、前記土砂逆流防止手段は、前記注入管の外周側にゴム等の弾性部材をもって中空円環状に形成されたチューブを備え、前記注入管を粘性土層内に挿入した後、前記チューブ内部に流体を注入し管径方向外向きに膨張させることにある。
【0027】
請求項8に記載の発明の特徴は、請求項1〜6又は7の構成に加え、前記攪乱手段は、前記粘性土層に挿入される管状の攪乱ロッドと、該攪乱ロッドを回転動作させるモータ等の動力源とを備え、前記攪乱ロッドは、管径方向外側に向けた噴射ノズルを有し、前記攪乱ロッドを回転させつつ前記噴射ノズルより高圧水を噴射することにより周囲の粘性土を攪乱することにある。
【0028】
請求項9に記載の発明の特徴は、請求項1〜7又は8の構成に加え、前記攪乱手段及び前記注入管の位置を検知するGPS計測機等の位置検知手段を使用し、該位置検知手段による位置情報に基づき前記攪乱手段及び前記注入管の位置を制御することにある。
【発明の効果】
【0029】
本発明に係る干潟の嵩上げ方法は、上述したように、水底地盤上に浚渫土等の粘性土が堆積した粘性土層内に注入管を挿入し、該注入管を通して粘性土を圧入して嵩上げ部を形成することにより該嵩上げ部上の粘性土を押し上げる干潟の嵩上げ方法において、前記粘性土層内の任意の深さにおいて前記粘性土を攪乱手段により撹乱して層状の攪乱処理部を形成し、しかる後、該攪乱処理部内に前記注入管を挿入し、該注入管より前記攪乱処理部内にスラリー状の粘性土を圧入して前記嵩上げ部を造成することにより、浚渫土を有効に利用することができ、また、表層の覆砂層等を乱すことなく施工でき、更に、任意の箇所の修復が可能で既存の干潟にも対応することができる。また、干潟の表層面を滑らかな形状に形成することができ、局所的な隆起を抑えることができる。
【0030】
また、本発明において、一の前記攪乱処理部の周囲に該攪乱処理部と互いに隣接した配置に複数の攪乱処理部を形成し、前記中心の攪乱処理部内に前記注入管を挿入し、該注入管よりスラリー状の粘性土を圧入することにより前記中心の攪乱処理部を通して前記周囲の攪乱処理部にスラリー状の粘性土を圧入し、前記嵩上げ部を造成することにより、粘性土の圧入作業を効率よく行うことができる。
【0031】
更に本発明において、複数の前記嵩上げ部を互いに隣接した配置に形成することにより嵩上げ層を造成することにより、粘性土の圧入作業を複数のエリアに分けて作業することができ、効率よく嵩上げ作業を行うことができる。
【0032】
また本発明において、前記注入管は、管径方向外側に向けて吐出口が形成されていることにより、粘性土が水平方向に移動し易くなるため、干潟の表層部が局所的に隆起し難く、滑らかな表層面を形成することができる。
【0033】
さらに本発明において、前記干潟の表層面上側に載荷板を配置し、該載荷板により前記表層面を下向きに加圧しつつ前記粘性土の圧入を行うことにより、干潟表層面の局所的な隆起を抑え、滑らかな表層面が得られるとともに、嵩上げ高さを制御することができる。
【0034】
また、本発明において、前記注入管は、外周部に土砂逆流防止手段を備え、前記注入管外周に沿った前記粘性土の逆流を防止するようにしたことにより、粘性土を効率よく攪乱処理層内に圧入することができる。
【0035】
更に本発明において、前記土砂逆流防止手段は、前記注入管の外周側にゴム等の弾性部材をもって中空円環状に形成されたチューブを備え、前記注入管を粘性土層内に挿入した後、前記チューブ内部に流体を注入し管径方向外向きに膨張させることにより、粘性土を乱すことなく注入管を効率よく挿入又は引抜くことができるとともに、好適に粘性土の逆流を防止することができる。
【0036】
また本発明において、前記攪乱手段は、前記粘性土層に挿入される管状の攪乱ロッドと、該攪乱ロッドを回転動作させるモータ等の動力源とを備え、前記攪乱ロッドは、管径方向外側に向けた噴射ノズルを有し、前記攪乱ロッドを回転させつつ前記噴射ノズルより高圧水を噴射することにより周囲の粘性土を攪乱することにより、好適に周囲の粘性土を軟弱な状態にすることができる。
【0037】
また、本発明において、前記攪乱手段及び前記注入管の位置を検知するGPS計測機等の位置検知手段を使用し、該位置検知手段による位置情報に基づき前記攪乱手段及び前記注入管の位置を制御することにより、効率よく且つ正確な施工を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明に係る干潟の嵩上げ方法に使用する攪乱作業用船の一例を示す側面図である。
【図2】同上の粘性土圧入作業用船の一例を示す側面図である。
【図3】(a)は図2中の注入管の先端部の一例を示す斜視図、(b)は同横断面図である。
【図4】(a)は図2中の土砂逆流防止手段を膨張させた状態を示す断面図、(b)は同収縮させた状態を示す断面図である。
【図5】(a)〜(c)は本発明に係る干潟の嵩上げ方法における攪乱作業の工程を示す側面図である。
【図6】同上の攪乱作業の状態を示す平面図である。
【図7】同上の攪乱処理層を形成した状態を示す縦断面図である。
【図8】(a)〜(c)は本発明に係る干潟の嵩上げ方法における土砂圧入作業の工程を示す側面図である。
【図9】同上の土砂圧入作業の状態を示す平面図である。
【図10】本発明方法により修復された干潟の状態を示す平面図である。
【図11】同上の縦断面図である。
【図12】本発明方法における効果を示すグラフである。
【図13】従来の人工干潟の一例を示し、(a)は造成時の縦断面図、(b)は沈下した状態を示す縦断面図、(c)は嵩上げ層による沈下修復がなされた状態を示す縦断面図である。
【図14】従来の干潟の嵩上げ方法の他の一例の概略を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
次に、本発明に係る干潟の嵩上げ方法に使用する装置に関し図1〜図4に示す実施例に基づいて説明する。尚、図中符号10は攪乱作業用船、符号11は粘性土圧入作業用船である。また、上述の従来例と同一の部分には同一符号を付して説明する。
【0040】
攪乱作業用船10は、図1に示すように、作業台船10a上に搭載されたクレーン12のジブ12aより繰り出された操作用ワイヤー13の先端部に攪乱手段14が吊り下げられており、この攪乱手段14により粘性土層4内の粘性土を攪乱、即ち加水しつつ攪拌することにより掻き乱し、それにより粘性土を軟化させるようになっている。
【0041】
また、ジブ12aの先端部には、GPS計測機等の位置検知手段15を備え、この位置検知手段15により攪乱手段14の位置を検知できるようになっている。
【0042】
攪乱手段14は、操作用ワイヤー13に吊られたロッド支持枠16と、ロッド支持枠16に回転可能に支持された管状の攪乱ロッド17と、攪乱ロッド17を回転動作させるモータ等の動力源18とを備えている。
【0043】
ロッド支持枠16は、操作用ワイヤー13の先端に吊り下げられた矩形状のスライド台19と、スライド台19を上下移動可能且つ回転不能に支持する角筒状の枠本体20とを備え、ワイヤー13を繰り出し・巻き取り動作することによりスライド台19が枠本体20に沿って上下動するようになっている。
【0044】
このスライド台19には、攪乱ロッド17が回転可能に支持されており、スライド台19を上下動させることにより、攪乱ロッド17が枠本体20に沿って上下動できるようになっている。
【0045】
攪乱ロッド17には、先端側外周部に管径方向外側に向けて噴射ノズル21を備え、作業台船10a上に搭載された高圧ジェットポンプ等の高圧流体供給手段22より供給された高圧水が噴射ノズル21より噴射されるようになっている。尚、図中符号23は高圧水を供給するためのホースである。
【0046】
また、スライド台19には、上下方向に向けた高さ測定板24を備え、この高さ測定板24の目盛数値と潮位とに基づきノズル21の挿入深さを求めることができるようになっている。
【0047】
このように構成された攪乱手段14では、操作用ワイヤー13を繰り出し枠本体20に沿ってスライド台19を降下させることにより攪乱ロッド17が自重により粘性土層4中に挿入され、その挿入位置において噴射ノズル21より高圧水を噴射しつつ動力源18により攪乱ロッド17を回転させることにより粘性土を撹乱、即ち、周囲の粘性土に水を加えて粘性土の含水比を増加させ且つ、高圧水噴射により粘性土を攪拌して粘性土層4内の粘性土を掻き乱し、それにより粘性土を軟弱化するようになっている。
【0048】
このとき、スライド台19が枠本体20に対し回転不能な状態にあるので、攪乱ロッド17は、スライド台19に反力をとって回転することができるようになっている。
【0049】
一方、粘性土圧入作業用船11は、図2に示すように、作業台船11a上に搭載されたクレーン30のジブ30aより繰り出された操作用ワイヤー31の先端に注入管32が吊り下げられ、土砂供給手段33より供給されたスラリー状の粘性土が注入管32より吐出されるようになっている。
【0050】
尚、ジブ30aの先端部には、上述したGPS計測機等の位置検知手段15と同様の位置検知手段が備えられている。
【0051】
注入管32は、トレミー管等をもって構成され、図3に示すように、下端部にスペーサー34,34...を介して先端キャップ35が固定され、先端キャップ35がスペーサー34,34...を介して開口部の管軸方向下側に間隔を隔てて配置されたことにより、管軸方向への粘性土の吐出が遮られ、吐出口36,36...が管径方向に向けて形成されている。
【0052】
この先端キャップ35は、粘性土層4内に注入管32を挿入する際、地盤から受ける抵抗を低減させるため、円錐状、角錐状等のように頂部を下に向けて尖らせた形状に形成することが好ましい。
【0053】
尚、注入管32には、上下方向に向けた高さ測定板37を備え、この高さ測定板37の目盛数値と潮位とに基づき注入管32の挿入深さhを求めることができるようになっている。
【0054】
また、この注入管32には、その外周部に載荷板38が図示しない固定具を介して着脱可能に支持されており、この載荷板38は、注入管32が粘性土層4内に所定の深さまで挿入された際に、干潟Aの表層面と接触するように配置され、表層面と接触した後は固定具を外して注入管32に対しスライド可能な状態とし、自重により表層面を下向きに押圧するようになっている。
【0055】
載荷板38は、円形状に形成され、注入管32の挿入深さhに対し0.8h以上の直径となるように形成されている。
【0056】
また、載荷板38は、粘性土のせん断強度より粘性土層4の限界支持力を評価した上で、載荷板38の自重により、この限界支持力に対して1/10〜1/2の範囲の荷重を干潟の表層面部に作用させるようになっている。
【0057】
一方、注入管32の載荷板38より下側の外周部には、土砂逆流防止手段39が設けられ、圧入した粘性土が注入管32の外周に沿って逆流するのを防止している。
【0058】
この土砂逆流防止手段39は、図4に示すように、ゴム等の弾性部材をもって中空円環状に形成されたチューブ40を備え、このチューブ40の円環内径部40aが注入管32の外周部に嵌め込まれている。
【0059】
このチューブ40は、内部に圧縮空気等の流体を供給することにより弾性的に膨らみ、流体を排出することにより収縮するようになっている。
【0060】
また、圧縮空気等の流体の供給及び排出は、空気注入管41を通して台船上に搭載された図示しないコンプレッサー等により行われるようになっている。
【0061】
また、このチューブ40の外側は、ゴム等の弾性素材からなる伸縮可能な保護カバー42により覆われ、保護カバー42は、その上下端部をリング状の固定部材43,43により注入管32の外周部に固定させている。
【0062】
このチューブ40及び保護カバー42は、通常時図4(b)の如く注入管32の外周面に沿った状態で収縮した状態にあり、チューブ40内部に圧縮空気等を供給することにより図4(a)に示す如くチューブ40が膨らみ、外側の保護カバー42を押し広げて注入管32の外周面より外向きに外径が注入管径の1.5倍以上となるまで張り出し、チューブ40の内部より空気を排出することにより収縮し、図4(b)の如き形状に復帰するようになっている。
【0063】
土砂供給手段33は、振動篩44と圧送ポンプ45とをもって構成され、土砂運搬船46よりバックホウ47等を使用して振動篩44に浚渫土48を投入し、この振動篩44により夾雑物を取り除くとともに水を加えてスラリー状の粘性土とし、これを圧送ポンプ45により注入管32に供給するようになっている。尚、符号49は粘性土を供給するためのホースである。
【0064】
次に、上述の如き装置を使用した本発明に係る干潟の嵩上げ方法を図5〜図9に示す例に関し説明する。
【0065】
干潟Aは、図12に示す従来例と同様に、水底地盤3上に浚渫土等の粘性土が堆積した粘性土層4を有し、この粘性土層4上に厚さ1m程度の覆砂層5が形成されている。
【0066】
この干潟Aを嵩上げするには、まず、図5(a)に示すように、攪乱作業用船10の喫水を確保できる高い潮位時に、攪乱作業用船10を修復対象の干潟A上に移動させ、位置検知手段15より得られる位置情報に基づき、クレーン12により攪乱手段14を吊り下ろしてロッド支持枠16を干潟Aの表層部に載置させる。
【0067】
次に、図5(b)に示すように、操作用ワイヤー13を繰り出してスライド台19を枠本体20に沿って降下させ、高さ測定板23の測定値及び潮位に基づき攪乱ロッド17を所定の深さまで粘性土層4内に挿入する。尚、攪乱ロッド17の挿入深さは、後述する注入管32の挿入深さに合わせて決定される。
【0068】
攪乱ロッド17を所定深さまで挿入した後、図5(c)に示すように、動力源18を動作させて攪乱ロッド17を回転させるとともに、高圧流体供給手段22より高圧水を噴射ノズル21に供給し、攪乱ロッド17の管径方向外側に向けて噴射させる。
【0069】
また、必要に応じて操作用ワイヤー13の繰り出し・巻き取り動作を行い、攪乱ロッド17を上下移動させつつ攪乱作業を行う。
【0070】
この撹乱作業により、粘性土が攪乱、即ち攪乱ロッド17の周りの粘性土が加水されるとともに攪拌されて掻き乱され、図5(c)及び図6中に一点鎖線に示すように、攪乱ロッド17の周りに周囲の粘性土に比べ地盤せん断強度が30%以下に軟弱化した土砂からなる上面視円形状の攪乱処理部50が形成される。
【0071】
このとき、噴射される水の量は、攪乱処理部50の含水比が元の粘性土層4における含水比の1.1倍〜1.5倍となるように調節する。
【0072】
攪乱処理部50を形成した後、操作用ワイヤー13を巻き取ってスライド台19を上昇させて攪乱ロッド17を引き抜き、位置検知手段15による位置情報に基づき、クレーン12により攪乱手段14を船幅方向に移動させ、既に形成した攪乱処理部50と隣接する配置となるように枠本体20を設置し、図5(a)〜(c)の作業を行う。
【0073】
上述の作業を繰り返し、複数の攪乱処理部50,50...を横方向に並べて形成した後、作業船10を移動させて同様の作業を行い、図6に示すように、互いに隣接した多数の攪乱処理部50,50...を形成する。
【0074】
このとき、隣り合う攪乱処理部50,50間は、隣接部が互いに一部重複する配置に形成して互いの内部間を連通した状態とし、これにより図7に示すように、多数の攪乱処理部50,50...を有する攪乱処理層51が上下を表層側粘性土層4aと地盤側粘性土層4bに挟まれた層状に形成される。
【0075】
次に、上述した攪乱作業により形成された攪乱処理層51を構成する攪乱処理部50内に注入管32を挿入し、注入管32を通して攪乱処理層51内にスラリー状の粘性土を圧入して嵩上げ層52を造成する。
【0076】
嵩上げ層52を造成するには、まず、図8(a)に示すように、位置検知手段15の情報に基づき粘性土圧入作業用船11を移動させ、所定の位置、即ち、周囲を他の攪乱処理部50b,50b...に囲まれた中心の攪乱処理部50aに位置を合わせ、その位置で操作ワイヤー31を繰り出し、注入管32を粘性土層4内に所定の挿入深さh、即ち注入管32の先端部が攪乱処理層51内に到達するとともに、注入管32に着脱可能に支持された載荷板38が干潟Aの表層面と接触するように挿入する。
【0077】
このとき、土砂逆流防止手段39を図4(b)に示した如く収縮させた状態にしておくことにより、注入管32は、地盤から受ける抵抗が少なく、スムースに挿入することができる。
【0078】
尚、注入管32の挿入深さhは、粘性土層4が全体に軟弱な場合であっても、圧入した粘性土が干潟Aの表層面より噴き出さないようにするため次式を満たすことが好ましい。
【0079】
【数1】

ここで、hは挿入深さ、Vは圧入される粘性土量、rは体積Vの球体の半径である。即ち、撹乱処理層51及び載荷板38の効果により圧入された粘性土が水平方向に流れやすいことを鑑み、最も粘性土が上下方向に広がる形状を球体と仮定し、所定量Vの粘性土が圧入されて形成された球体の半径rより挿入深さhを大きくとることにより、粘性土が干潟Aの表層面より噴き出さないようにできる。
【0080】
次に、注入管32の先端が攪乱処理層51内に到達したら、チューブ40内に圧縮空気を送り込んで膨張させ、図8(b)に示すように、注入管32の外周面と挿入孔54の内周面との間の隙間を閉鎖し、注入管32の外周面に沿って遡上する土砂の逆流を防止する。土砂逆流防止手段39により、土砂の逆流が遮断されたことにより攪乱処理層51内の圧力低下を防止し、効率よく粘性土の圧入がなされるようになっている。
【0081】
また、載荷板38を注入管32より取り外して注入管32の長さ方向にスライド可能な状態とし、載荷板38の自重により干潟Aの表層面に粘性土層4の限界支持力の1/10〜1/2の範囲の荷重を作用させた状態とする。
【0082】
この状態で、土砂供給手段33よりスラリー状の粘性土を注入管32に供給し、攪乱処理層51内に粘性土を圧入する。
【0083】
注入管32の管径方向、即ち水平方向に向けた吐出口36,36...より吐出された粘性土は、図8(c)及び図9に示すように、中心の攪乱処理部50a内の軟弱化した土砂を押しのけつつ周囲の攪乱処理部50b,50b...内に流入して注入管32を中心に平面視円形状に広がるとともに、上下方向において断面楕円状に膨張して嵩上げ部53が形成され、攪乱処理層51の上側にある粘性土及び覆砂層5を載荷板38の押圧力に抗して押し上げる。
【0084】
このとき、圧入された粘性土は、粘性土層4がその限界支持力に対して1/10〜1/2の範囲で載荷板38により下向きの押圧力を受けるとともに、攪乱処理層51内の土砂が周囲の粘性土に比べ地盤強度が低下していることから攪乱処理層51に沿って水平方向に流れ易く、注入管32を中心に放射状に広がり、干潟Aは、表層面の局所的な隆起を抑えられ、滑らかな状態で嵩上げがなされるようになっている。
【0085】
所定量の粘性土の圧入が終了したら、チューブ40内より空気を排出して土砂逆流防止手段39を収縮させ、注入管32を引き抜く。その際、注入管32を回転させながら引抜くことによりみずみちが形成されないようにすることが好ましい。また、注入管32を引き抜く際には、載荷板38を固定具等を介して注入管32の外周部に着脱可能に支持させ、注入管32と同時に載荷板38を撤去することが望ましい。
【0086】
次に、圧入作業用船11を移動させ、注入管32の挿入箇所を変えて上述の図7(a)〜図7(c)の作業を行い、図10、図11に示すように、複数の嵩上げ部53,53...を互いに隣接又は一部重複した配置に形成し、修復対象範囲全域において複数の嵩上げ部53,53...からなる嵩上げ層52を造成し干潟A全体を嵩上げすることにより修復が完了する。
【0087】
以上に述べたように、本発明に係る干潟の嵩上げ方法では、撹乱処理層51(攪乱処理部50)を設けたこと、及び載荷板38により干潟Aの表層面に下向きの押圧を加えつつ粘性土を圧入することによりなだらかに表層面が隆起するようになっている。表1に示す条件のもと攪乱処理層、及び載荷板の効果について解析したところ、図12(a)に示すように、撹乱処理層を設けた場合(Case2)では、図14に示す如き従来例(case1)に比べ、頂部の居所的な隆起が抑えられなだらかな表層面を形成し、載荷板38を併用することで(Case4)、それぞれ単独で用いた場合(Case2、Case3)に比べよりなだらかな表層面が得られるようになっている。
【0088】
また、図12(b)に示すように、挿入深さhが深いほど、即ち攪乱処理層51を干潟Aの表層面からより深い位置に形成するほど干潟の表層面は滑らかに隆起するようになっている(Case5)。
【表1】

【0089】
尚、上述の実施例では、人工干潟を修復する例について説明したが、天然干潟であって粘性土層を有するものに適用してもよい。
【0090】
また、上述の実施例では、攪乱作業時に噴射ノズル21より高圧水を噴射させる例について説明したが、粘性土の軟弱化する効果を高める為、高圧水に加え圧縮空気を同時に噴射させるようにしてもよい。
【0091】
更に、上述の実施例では、載荷板38を注入管32の外周部に着脱可能に支持させた例について説明したが、載荷板38を別個に用意しておいてもよい。
【0092】
また、土砂供給手段において、スラリー化した粘性土にセメント等からなる固化材を混合するようにしてもよい。このように粘性土に固化材を混合することで、圧入後に粘性土が固化することにより強固な嵩上げ層が形成され、嵩上げ後の圧密沈下を抑えることができる。
【符号の説明】
【0093】
A 干潟
3 水底地盤
4 粘性土層
5 覆砂層
10 攪乱作業用船
11 粘性土圧入作業用船
12 クレーン
13 操作用ワイヤー
14 攪乱手段
15 位置検知手段
16 ロッド支持枠
17 攪乱ロッド
18 動力源
19 スライド台
20 枠本体
21 噴射ノズル
22 高圧流体供給手段
23 ホース
24 高さ測定板
30 クレーン
31 操作用ワイヤー
32 注入管
33 土砂供給手段
34 スペーサー
35 先端キャップ
36 吐出口
37 高さ測定板
38 載荷板
39 土砂逆流防止部材
40 チューブ
41 空気注入管
42 保護カバー
43 固定部材
44 振動篩
45 圧送ポンプ
46 土砂運搬船
47 バックホウ
48 浚渫土
49 ホース
50 攪乱処理部
51 攪乱処理層
52 嵩上げ層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水底地盤上に浚渫土等の粘性土が堆積した粘性土層内に注入管を挿入し、該注入管を通して粘性土を圧入して嵩上げ部を形成することにより該嵩上げ部上の粘性土を押し上げる干潟の嵩上げ方法において、
前記粘性土層内の任意の深さにおいて前記粘性土を攪乱手段により撹乱して層状の攪乱処理部を形成し、しかる後、該攪乱処理部内に前記注入管を挿入し、該注入管より前記攪乱処理部内にスラリー状の粘性土を圧入して前記嵩上げ部を形成することを特徴としてなる干潟の嵩上げ方法。
【請求項2】
一の前記攪乱処理部の周囲に該攪乱処理部と互いに隣接した配置に複数の攪乱処理部を形成し、前記中心の攪乱処理部内に前記注入管を挿入し、該注入管よりスラリー状の粘性土を圧入することにより前記中心の攪乱処理部を通して前記周囲の攪乱処理部にスラリー状の粘性土を圧入して前記嵩上げ部を形成する請求項1に記載の干潟の嵩上げ方法。
【請求項3】
複数の前記嵩上げ部を互いに隣接した配置に形成することにより嵩上げ層を造成する請求項1又は2に記載の干潟の嵩上げ方法。
【請求項4】
前記注入管は、管径方向外側に向けて吐出口が形成されてなる請求項1、2又は3に記載の干潟の嵩上げ方法。
【請求項5】
前記干潟の表層面上側に載荷板を配置し、該載荷板により前記表層面を下向きに加圧しつつ前記粘性土の圧入を行う請求項1〜3又は4に記載の干潟の嵩上げ方法。
【請求項6】
前記注入管は、外周部に土砂逆流防止手段を備え、前記注入管外周に沿った前記粘性土の逆流を防止するようにした請求項1〜4又は5に記載の干潟の嵩上げ方法。
【請求項7】
前記土砂逆流防止手段は、前記注入管の外周側にゴム等の弾性部材をもって中空円環状に形成されたチューブを備え、前記注入管を粘性土層内に挿入した後、前記チューブ内部に流体を注入し管径方向外向きに膨張させる請求項6に記載の干潟の嵩上げ方法。
【請求項8】
前記攪乱手段は、前記粘性土層に挿入される管状の攪乱ロッドと、該攪乱ロッドを回転動作させるモータ等の動力源とを備え、前記攪乱ロッドは、管径方向外側に向けた噴射ノズルを有し、前記攪乱ロッドを回転させつつ前記噴射ノズルより高圧水を噴射することにより周囲の粘性土を攪乱する請求項1〜6又は7に記載の干潟の嵩上げ方法。
【請求項9】
前記攪乱手段及び前記注入管の位置を検知するGPS計測機等の位置検知手段を使用し、該位置検知手段による位置情報に基づき前記攪乱手段及び前記注入管の位置を制御する請求項1〜7又は8に記載の干潟の嵩上げ方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−219506(P2012−219506A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−86332(P2011−86332)
【出願日】平成23年4月8日(2011.4.8)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)独立行政法人鉄道建設・運輸施設整備支援機構、「平成22年度 港湾・航路の維持浚渫と長期的に両立する新たな干潟造成工法の開発委託」、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000166627)五洋建設株式会社 (364)
【出願人】(504136568)国立大学法人広島大学 (924)