説明

平滑筋弛緩剤

【課題】血流の滞りによる循環障害、血圧の上昇、前立腺肥大による排尿障害、膀胱の収縮による頻尿等に対して有用な平滑筋弛緩剤、及び当該平滑筋弛緩剤の効率的な製造方法を提供すること。
【解決手段】イソサミジンを有効成分として含有する平滑筋弛緩剤、当該平滑筋弛緩剤を含む食品又は飲料、当該平滑筋弛緩剤の製造方法、及び当該平滑筋弛緩剤の有効成分であるイソサミジンの製造方法を提供する。本発明の平滑筋弛緩剤は、血管機能の改善、及び平滑筋の収縮によって引き起こされる疾患の予防や治療に有用である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、イソサミジンを有効成分とする平滑筋弛緩剤、当該平滑筋弛緩剤の製造方法、及びイソサミジンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、高コレステロール・高カロリーの食生活への変化や、平均寿命の伸びによる高年齢層の増加に伴って、動脈硬化症、高脂血症、高血圧症、糖尿病といったいわゆる生活習慣病が急増しており、大きな社会問題となってきている。
【0003】
高血圧症は、ほとんどの場合自覚症状に乏しく、気づかないうちに進行して他の臓器にも悪影響を及ぼし、様々な合併症を併発することがある。合併症の主なものとしては、狭心症、心筋梗塞、脳梗塞、腎機能の低下、解離性大動脈瘤等が挙げられる。最近では睡眠時無呼吸症候群も合併する率が高いことが報告されている。合併症のなかには進行すると重篤で致命的なものもある。
【0004】
高血圧症の治療方法として、平滑筋弛緩剤による血管拡張が挙げられる。平滑筋は、血管、前立腺、膀胱、尿道、消化器官、子宮、気管支等の壁を構成する不随意筋で、各組織の機能に深く関与している。平滑筋弛緩作用を有する弛緩剤としては、クロルゾキサゾンや塩酸パパべリン等が知られている。平滑筋弛緩剤は、高血圧症以外にも、平滑筋の収縮によって引き起こされる疾患、例えば排尿障害、頻尿、切迫早産等の予防や治療に利用されている。
【0005】
一方、ボタンボウフウ(学名Peucedanum japonicum)は、長命草やサクナとも呼ばれるセリ科カワラボウフウ属に属する多年草で、海岸の岩場や草地に生え、茎は高さが30〜100cmで、花期の6〜9月になると小さい白色の花を多数つける。原産地である沖縄では、その生理活性について感冒、疲労回復、滋養強壮に効果があると言われ、昔から重宝されてきた。最近の研究では、ボタンボウフウの抽出物に動脈硬化の初期病変であるマクロファージの泡沫化を抑制する働きがあることが報告されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2006/08274号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、血流の滞りによる循環障害、血圧の上昇、前立腺肥大による排尿障害、膀胱の収縮による頻尿等に対して有用な平滑筋弛緩剤、及び当該平滑筋弛緩剤の効率的な製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明を概説すれば、本発明の第1の発明は、イソサミジンを有効成分として含有する平滑筋弛緩剤に関する。本発明の第一の発明の平滑筋弛緩剤としては、イソサミジンを含有するボタンボウフウ由来の含水アルコール抽出物又は無水アルコール抽出物を含有するものが例示される。また、第一の発明の平滑筋弛緩剤としては、血管拡張剤、膀胱平滑筋弛緩剤及び前立腺平滑筋弛緩剤が例示される。
【0009】
本発明の第2の発明は、本発明の第一の発明の平滑筋弛緩剤を含む食品又は飲料に関する。
【0010】
本発明の第3の発明は、(1)ボタンボウフウを水で洗浄する工程、及び(2)工程(1)で洗浄したボタンボウフウより、含水アルコール又は無水アルコールを抽出溶媒としてイソサミジンを抽出する工程を含む、本発明の第一の発明の平滑筋弛緩剤の製造方法に関する。本発明の第3の発明における含水アルコールのアルコール濃度としては、40容量%〜80容量%が例示され、含水アルコールとしては含水エタノールが例示される。
【0011】
本発明の第4の発明は、(1)ボタンボウフウを水で洗浄する工程、及び(2)工程(1)で洗浄したボタンボウフウより、含水アルコール又は無水アルコールを抽出溶媒としてイソサミジンを抽出する工程を含む、イソサミジンの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、イソサミジンを有効成分として含有する平滑筋弛緩剤、当該平滑筋弛緩剤の効率的な製造方法、及び当該平滑筋弛緩剤の有効成分であるイソサミジンの効率的な製造方法が提供される。本発明の平滑筋弛緩剤は、血管機能の改善、及び平滑筋の収縮によって引き起こされる疾患の予防や治療に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】イソサミジンの平滑筋弛緩作用を示す図である。
【図2】イソサミジンの膀胱収縮抑制作用を示す図である。
【図3】イソサミジンの前立腺収縮抑制作用を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[1]本発明の平滑筋弛緩剤
本発明の平滑筋弛緩剤は、イソサミジンを有効成分として含有する。本発明の発明者らは、ボタンボウフウに含まれるイソサミジンに平滑筋の弛緩作用があることを見出した。これにより、イソサミジンが平滑筋弛緩剤、血管弛緩剤、血管拡張剤、血流増加剤、血流改善剤、前立腺平滑筋弛緩剤、及び膀胱平滑筋弛緩剤として有用であることが明らかとなった。イソサミジンの構造式は下記(化1)で表わされ、CAS登録番号は[53023−18−0]である。
【0015】
【化1】

【0016】
本発明の平滑筋弛緩剤による平滑筋弛緩作用は、例えば後述の実施例1のように、フェニレフリン等の血管収縮剤で収縮させた血管に本発明の平滑筋弛緩剤を作用させ、それによって血管の収縮が抑制されるか否かを試験することにより確認できる。
【0017】
なお、上記の平滑筋弛緩作用の試験方法により、ポセイダノクマリンIII(CAS登録番号=[130464−57−2])の平滑筋弛緩作用を確認することができる。ポセイダノクマリンIIIを有効成分として含む平滑筋弛緩剤も、本発明の一態様である。ポセイダノクマリンIIIは、イソサミジンと同様の方法で、ボタンボウフウより抽出することが可能である。
【0018】
本発明の平滑筋弛緩剤は、血管平滑筋の弛緩作用を有するため、血管拡張剤として特に有用である。本発明の平滑筋弛緩剤は血管拡張剤として、血流の滞りによる循環障害や高血圧症の治療に有効である。また、本発明の平滑筋弛緩剤は、血流増加剤及び/又は血流改善剤として、冷え症の改善効果や育毛効果を発揮する。すなわち、イソサミジンを含有する冷え性の改善剤、及び/又は育毛剤も、本発明の一態様である。
【0019】
また、本発明の平滑筋弛緩剤は、前立腺平滑筋弛緩剤として前立腺肥大による排尿障害の予防又は治療に有用である。更には、本発明の平滑筋弛緩剤は、膀胱平滑筋弛緩剤として頻尿や尿失禁の治療や残尿感の改善に有用である。本発明の平滑筋弛緩剤は、平滑筋の収縮によって惹起されるその他の疾患、例えば、切迫早産、月経困難症、及び/又は気管支喘息の予防剤又は治療剤としても有用である。
【0020】
本発明の平滑筋弛緩剤に有効成分として含まれるイソサミジンは、本発明を特に限定するものではないが、例えばボタンボウフウ由来のものが例示され、好適には後述の「[3]本発明の平滑筋弛緩剤の製造方法」に記載の方法により得られたものが例示される。本発明の平滑筋弛緩剤に用いられるイソサミジンは、必ずしも単離されたものである必要はなく、例えば含水エタノール等の水性溶媒又は無水エタノール等の無水アルコールを抽出溶媒としてボタンボウフウから抽出された抽出液や、その濃縮乾固物をそのまま本発明の平滑筋弛緩剤としてもよい。
【0021】
また、本発明の平滑筋弛緩剤は、単離されたイソサミジンやイソサミジンを含有するボタンボウフウ由来の抽出物を薬学的に許容できる液状または固体状の担体と配合することにより製造することもでき、所望により溶剤、分散剤、乳化剤、緩衝剤、安定剤、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤等を加えて、錠剤、顆粒剤、散剤、粉末剤、カプセル剤等の固形剤、通常液剤、懸濁剤、乳剤等の液剤とすることができる。また、使用前に適当な担体の添加によって液状となし得る乾燥品や、その他、外用剤とすることもできる。
【0022】
上記の担体は、投与形態および製剤形態に応じて選択することができる。固体組成物からなる経口剤とする場合は、錠剤、丸剤、カプセル剤、散剤、細粒剤、顆粒剤等とすることができ、たとえば、デンプン、乳糖、白糖、マンニット、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩などの医薬用担体が利用される。また経口剤の調製にあたっては、更に結合剤、崩壊剤、界面活性剤、潤沢剤、流動性促進剤、矯味剤、着色剤、香料などを配合することもできる。たとえば、錠剤または丸剤とする場合は、所望によりショ糖、ゼラチン、ハイドロキシプロピルセルロースなどの糖衣または胃溶性もしくは腸溶性物質のフィルムで被覆してもよい。液体組成物からなる経口剤とする場合は、薬理学的に許容される乳濁剤、溶液剤、懸濁剤、シロップ剤などとすることができ、たとえば、精製水、エタノールなどが担体として利用される。また、さらに所望により湿潤剤、懸濁剤のような補助剤、甘味剤、風味剤、防腐剤などを添加してもよい。
【0023】
一方、非経口剤とする場合は、常法に従い本発明の前記有効成分を注射用蒸留水、生理食塩水、ブドウ糖水溶液、注射用植物油、ゴマ油、落花生油、大豆油、トウモロコシ油、プロピレングリコール、ポリエチレングリコールなどに溶解ないし懸濁させ、必要に応じ、殺菌剤、安定剤、等張化剤、無痛化剤などを加えることにより調製することができる。また、固体組成物を製造し、使用前に無菌水または無菌の注射用溶媒に溶解して使用することもできる。
【0024】
外用剤としては、経皮投与用または経粘膜(口腔内、鼻腔内)投与用の、固体、半固体状または液状の製剤が含まれる。また、坐剤なども含まれる。たとえば、乳剤、ローション剤などの乳濁剤、外用チンキ剤、経粘膜投与用液剤などの液状製剤、油性軟膏、親水性軟膏などの軟膏剤、フィルム剤、テープ剤、パップ剤などの経皮投与用または経粘膜投与用の貼付剤などとすることができる。
【0025】
本発明の平滑筋弛緩剤中のイソサミジンの含有量は特に限定されず、その官能と活性発現の観点から適宜選択できるが、例えば平滑筋弛緩剤中、好ましくは0.00001重量%以上、より好ましくは0.0001〜10重量%、更に好適には0.0006〜6重量%である。
【0026】
[2]本発明の食品又は飲料
本発明の食品又は飲料は、本発明の平滑筋弛緩剤を含有する。本発明の食品又は飲料の製造方法に特に限定はなく、例えば、配合、調理、加工等は一般の食品又は飲料のものに従えばよく、それらの製造法により製造することができ、得られた食品又は飲料に本発明の平滑筋弛緩剤が含有されていればよい。前記食品又は飲料の種類にも特に限定はなく、例えば、本発明の組成物が含有されてなる、穀物加工品、油脂加工品、大豆加工品、食肉加工品、水産製品、乳製品、野菜・果実加工品、菓子類、アルコール飲料、嗜好飲料、調味料、香辛料などの農産・林産加工品、畜産加工品、水産加工品などが挙げられる。
【0027】
本発明の平滑筋弛緩剤の有効成分であるイソサミジンは、その作用発現にとっての有効量の投与を生体に行っても毒性は認められない。それゆえ、本発明の平滑筋弛緩剤は、食品又は飲料の原料として好適である。
【0028】
本発明の食品または飲料は、血流の滞りによる循環障害や高血圧症の改善、あるいは排尿障害、頻尿、尿失禁、残尿感の改善に効果を示す。すなわち、本発明の食品又は飲料は、上記の症状の改善を目的とすることを付した機能性食品(特定保健用食品)として有用であり、例えば、「血圧が高めの方に適する」旨の表示を付した特定保健用食品として極めて有用である。
【0029】
本発明の食品又は飲料中のイソサミジンの含有量は特に限定されず、その官能と活性発現の観点から適宜選択できるが、例えば食品又は飲料中、好ましくは0.00001重量%以上、より好ましくは0.0001〜10重量%、更に好適には0.0006〜6重量%、更により好適には0.05〜5重量%である。
【0030】
本発明の食品又は飲料は、バリルチロシン、かつお節オリゴペプチド、ラクトトリペプチド、杜仲葉エキス、イソロイシルチロシン、わかめペプチド、γ−アミノ酪酸(GABA)、酢酸、海苔オリゴペプチド、ローヤルゼリーペプチド、燕龍茶フラボノイド、カゼインドデカペプチド、及びゴマペプチドからなる群より選択された少なくとも一種の健康食品素材をさらに含有していてもよい。また、アガリクス、明日葉、明日葉カルコン、アスタキサンチン、α−リポ酸、アガロオリゴ糖、イチョウ葉、ウコン、エラスチン、L−カルニチン、核酸、キトサン、共役リノール酸、グルコサミン、コエンザイムQ10、コラーゲン、コンドロイチン、植物ステロール、スピルリナ、セラミド、大豆イソフラボン、トゲドコロ、ナットウキナーゼ、ニンニク、ヒアルロン酸、ビルベリー、フコイダン、プロポリス、β−グルカン、マカ、松樹皮抽出物、メシマコブ、ドコサヘキサエン酸(DHA)、ルテイン、カシス、カプサイシン、しょうが、ヒハツ、ヘスペリジン、ノコギリヤシ抽出物、カボチャ種子抽出物、花粉抽出物及びリコピンからなる群より選択された少なくとも一種の機能性素材もさらに含有してもよい。すなわち、イソサミジンと上記群より選択された少なくとも一種の健康食品素材及び/又は機能性素材を含む食品又は飲料は、本発明の態様の一つである。
【0031】
[3]本発明の平滑筋弛緩剤の製造方法
本発明の平滑筋弛緩剤の製造方法は、(1)ボタンボウフウを水で洗浄する工程、及び(2)工程(1)で洗浄したボタンボウフウより、含水アルコールを抽出溶媒としてイソサミジンを抽出する工程を含む。本発明の発明者らは、上記の製造方法により、イソサミジンを高純度で含む抽出物を抽出できることを見出した。
【0032】
本発明に使用されるボタンボウフウとしては、特に本発明を限定するものではないが、ボタンボウフウの果実、種子、種皮、花、葉、茎、根、根茎及び/又は植物全体そのままを使用することができ、なかでもボタンボウフウの葉を好適に使用することができる。また、本発明を特に限定するものではないが、本発明に使用されるボタンボウフウの産地としては、屋久島や与那国島等が例示される。
【0033】
ボタンボウフウは、収穫したそのままでも本発明の平滑筋弛緩剤の製造方法の原料として使用できるが、好適には、例えば破砕物、粉砕物又はこれら混合物、更に好適にはこれらの乾燥粉末等の処理物が使用できる。本明細書において粉砕物、破砕物とは、例えば、植物体を裁断したものや、乾燥させた後に砕いたもののことを指し、一般には粒径の大きいものを破砕物と称し、粒径の小さいものを粉砕物と称す。また、本明細書において乾燥粉末とは、前記の粉砕物、破砕物よりもさらに粒径が小さな乾燥物のことを指す。下記実施例に使用されたボタンボウフウ乾燥粉末は、洗浄した生のボタンボウフウの葉を裁断し熱風乾燥後、粉砕するという操作で調製されたものである。
【0034】
上記の「(1)ボタンボウフウを水で洗浄する工程」には特に限定はなく、ボタンボウフウ又はその処理物を流水にさらす、水を満たした容器にボタンボウフウ又はその処理物を浸漬する、等の操作により実施することができる。洗浄に使用する水の使用量としては、本発明を特に限定するものでないが、例えばボタンボウフウ葉の乾燥粉末1gに対して1〜100mL、好ましくは5〜60mL、更に好ましくは10〜40mLが例示される。洗浄水の温度にも特に限定はないが、通常、4〜100℃の水が使用される。洗浄操作は、例えば、攪拌しながら又は静置して行えばよく、また、必要に応じて数回繰り返してもよい。
【0035】
上記の「(2)工程(1)で洗浄したボタンボウフウより、含水アルコール又は無水アルコールを抽出溶媒としてイソサミジンを抽出する工程」に使用される含水アルコールのアルコール濃度としては、例えば20〜90容量%、好ましくは40〜80容量%、より好ましくは60容量%が例示される。また、含水アルコールとしては含水エタノールが例示され、無水アルコールとしては無水エタノールが例示される。抽出は、公知の抽出方法によりバッチ式もしくは連続式で行うことができる。
【0036】
抽出溶媒として使用する含水アルコールの量は、例えば原料として使用するボタンボウフウ葉の乾燥粉末1gに対して、好ましくは10〜30mLの抽出溶媒を使用すれば良い。抽出温度としては4〜60℃の範囲が好適である。抽出時間は、通常、数秒〜数日間、好ましくは5分〜24時間の範囲となるように設定するのが好適である。抽出操作は、例えば、攪拌しながら又は静置して行えばよく、また、必要に応じて数回繰り返してもよい。
【0037】
上記の工程(1)及び(2)を実施する事により、乾燥重量1gあたり30〜60mgのイソサミジンを含む抽出液を得ることが可能である。
【0038】
本発明の平滑筋弛緩剤の製造方法は、さらにろ過、遠心分離、濃縮、限外ろ過、及び/又は分子ふるいに抽出物を供する工程を含んでもよい。これらの処理を行うことで、イソサミジンが濃縮された抽出物を調製することができる。
【0039】
例えば、上記の「(2)工程(1)で洗浄したボタンボウフウより、含水アルコールを抽出溶媒としてイソサミジンを抽出する工程」により抽出された抽出物を濃縮乾固する工程を実施することにより、乾固物1gあたり30〜60mgのイソサミジンを含む組成物を得ることが可能である。
【0040】
また、本発明の平滑筋弛緩剤の製造方法は、さらに分別沈殿、カラムクロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィー等の分画操作により抽出物を分画する工程を含んでもよい。分画操作によって、より高純度のイソサミジンを含む組成物を得ることができ、更には単離されたイソサミジンを得ることができる。すなわち、(1)ボタンボウフウを水で洗浄する工程、及び(2)工程(1)で洗浄したボタンボウフウより、含水アルコールを抽出溶媒としてイソサミジンを抽出する工程を含むイソサミジンの製造方法も、本発明の態様の一つである。
【0041】
なお、ポセイダノクマリンIIIについても、上記のイソサミジンの製造方法と同様の方法で製造することが可能である。すなわち、(1)ボタンボウフウを水で洗浄する工程、及び(2)工程(1)で洗浄したボタンボウフウより、含水アルコールを抽出溶媒としてポセイダノクマリンIIIを抽出する工程を含むポセイダノクマリンIIIの製造方法も、本発明の態様の一つである。
【実施例】
【0042】
以下、実施例を挙げて、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの記載に何ら限定されるものではない。なお、実施例における%は特に記載がなければすべて容量%を意味する。
【0043】
調製例 ボタンボウフウからのイソサミジンの調製
ボタンボウフウ乾燥粉末3kgに対して、60%エタノール水溶液10Lを添加し、攪拌しながら25℃で1時間抽出を行った。吸引ろ過で抽出液と残渣を分離した後、残渣について10Lの60%エタノールを使用した抽出を再度行い、これら計2回の抽出操作により得られた抽出液を混合した。得られた抽出液を濃縮乾固し、乾固物を60%エタノール水溶液1Lに溶解した。これに100%エタノール2Lを添加して混合後、静置し、上清と沈殿とを分離した。さらに、100%エタノール2Lを使用して沈殿からの上記と同様の抽出・分離操作を4回繰り返した。これら計5回の抽出・分離操作により得られた上清(抽出液)を合わせて濃縮乾固した後、乾固物を30%DMSO(ジメチルスルホキシド)1Lに溶解した。得られたDMSO溶液のうち、150mLを20%エタノール水溶液で平衡化したコスモシール(登録商標)140C18カラム(ナカライテスク社製)に添加し、20%エタノール水溶液2Lで溶出後、40%エタノール水溶液4.8Lで溶出した。40%エタノール水溶液により溶出した溶出液を濃縮乾固した後、乾固物を60%エタノール水溶液50mLに溶解した。次に、この溶液を表1に示す溶出条件のHPLCに供し、57〜62分の保持時間に溶出される画分を分取し濃縮乾固することで、1.31gのイソサミジンを得た。
【0044】
【表1】

【0045】
実施例1 イソサミジンの平滑筋弛緩作用
SD系雄ラット(6−8週齢)から胸部大動脈を摘出してらせん状に切開し、幅約3mm、長さ約2cmの血管標本を作製した。95%O−5%COを通気して37℃に保温したKrebs緩衝液中に血管標本を懸垂し、約0.5gの張力を負荷した。血管の収縮張力はトランスデューサーを介してレコーダーに記録した。緩衝液中に10−7Mフェニレフリンを添加して血管を収縮させ、さらに収縮反応が安定した後、調製例で調製したイソサミジンを終濃度1μMになるように緩衝液中に添加した。添加前の収縮張力に対して添加後に抑制された収縮張力の割合を算出し、平滑筋弛緩作用とした。同様の実験を、イソサミジンを終濃度で3μM、10μM、30μM、100μMとなるように添加した場合についてもそれぞれ実施した。結果を表2及び図1に示す。
【0046】
【表2】

【0047】
表2及び図1に示す通り、イソサミジンは強い平滑筋弛緩作用を示し、血管拡張剤として有用であることが明らかとなった。
【0048】
実施例2 イソサミジンを高純度で含む抽出物の製造方法
ボタンボウフウ乾燥粉末2gに対して、蒸留水40mLを添加し、攪拌しながら25℃で1時間洗浄を行った。遠心分離で抽出液と残渣を分離した後、残渣に対して同様の洗浄操作を計2回繰り返した。得られた水洗浄残渣に抽出溶媒として20%エタノール水溶液を40mL添加し、攪拌しながら25℃で1時間抽出を行った。遠心分離で抽出液と残渣を分離した後、残渣については抽出溶媒として20%エタノール水溶液を用いた上記と同様の抽出操作を2回繰り返した。計3回の抽出操作により得られた抽出液を混合し、これを濃縮乾固したものを、水洗浄残渣→20%エタノール抽出物とした。また、抽出溶媒として30%エタノール水溶液、40%エタノール水溶液、60%エタノール水溶液、80%エタノール水溶液、又は100%エタノールを20%エタノール水溶液の代わりに用いる以外は上記と同様の方法により、水洗浄残渣→30%エタノール抽出物、水洗浄残渣→40%エタノール抽出物、水洗浄残渣→60%エタノール抽出物、水洗浄残渣→80%エタノール抽出物、及び水洗浄残渣→100%エタノール抽出物をそれぞれ調製した。
【0049】
比較として、ボタンボウフウ乾燥粉末2gに対して、60%エタノール40mLを添加し、攪拌しながら25℃で1時間抽出を行った。遠心分離で抽出液と残渣を分離した後、残渣については抽出溶媒として20%エタノール水溶液を用いた同様の抽出操作を2回繰り返した。計3回の抽出操作により得られた抽出液を混合し、濃縮乾固した。
【0050】
得られた各種抽出物中のイソサミジン量をHPLCを用いて測定し、イソサミジン含有量を求めた。HPLCによる分析条件を表3に示す。また、比較として行った水洗浄を行っていないボタンボウフウ乾燥粉末からの60%エタノール抽出により得られたイソサミジン回収量を100とした時の各抽出物の回収率を算出した。
【0051】
【表3】

【0052】
結果を表4に示す。
【0053】
【表4】

【0054】
その結果、水洗浄を行ったボタンボウフウを20〜100%のエタノール溶液で抽出することで、60%エタノール抽出物と比較してイソサミジンの純度が5.4〜8.5倍高い抽出物を得られることが明らかとなった。また、水洗浄を行ったボタンボウフウを40〜80%のエタノール水溶液で抽出することにより、イソサミジンを高い回収率で得られ、かつイソサミジンの純度が高い抽出物を得られることが明らかとなった。
【0055】
実施例3 水洗浄ボタンボウフウの60%エタノール水溶液抽出物による平滑筋弛緩作用
実施例2で得た「水洗浄残渣→60%エタノール抽出物」と同様の方法で抽出物を調製し、これを1.6mLのDMSOに溶解した。この抽出液について、実施例1と同様の方法で平滑筋弛緩作用を試験した。なお、抽出液は、終濃度0.005%、0.015%、0.05%、0.15%、0.5%となるように、緩衝液中に添加し、その平滑筋弛緩作用を確認した。結果を表5に示す。
【0056】
【表5】

【0057】
表5に示す通り、水洗浄ボタンボウフウの60%エタノール水溶液抽出物に強い平滑筋弛緩作用が認められた。
【0058】
実施例4 イソサミジンの膀胱過収縮抑制作用
日本白色種雄ウサギ(17−29週齢)から膀胱を摘出して、幅約3mm、長さ約2cmの切片標本を作製した。95%O−5%COを通気して37℃に保温したKrebs緩衝液中に膀胱切片標本を懸垂し、約1.0gの張力を負荷した。膀胱切片の収縮張力はトランスデューサーを介してレコーダーに記録した。緩衝液中にイソサミジンを終濃度が30μM又は100μMとなるように添加した後、ここにアセチルコリンを終濃度が10−2Mとなるまで累積的に添加して濃度―反応曲線を作製した。なお、対照としてイソサミジン無添加の緩衝液を用いた試験についても実施した。結果を表6及び図2に示す。
【0059】
【表6】

【0060】
表6及び図2に示す通り、イソサミジンは用量依存的にアセチルコリンによる膀胱収縮を抑制し、反応曲線を高濃度側にシフトさせ、かつ、最大収縮を抑制した。
【0061】
実施例5 イソサミジンの前立腺収縮抑制作用
日本白色種雄ウサギ(17−29週齢)から前立腺を摘出して、幅約3mm、長さ約2cmの切片標本を作製した。95%O−5%COを通気して37℃に保温したKrebs緩衝液中に前立腺切片標本を懸垂し、約0.5gの張力を負荷した。前立腺切片の収縮張力はトランスデューサーを介してレコーダーに記録した。緩衝液中にイソサミジンを終濃度が30μM又は100μMとなるように添加した後、ここにフェニレフリンを終濃度が10−4Mとなるまで累積的に添加して濃度―反応曲線を作製した。なお、対照としてイソサミジン無添加の緩衝液を用いた試験についても実施した。結果を表7及び図3に示す。
【0062】
【表7】

【0063】
表7及び図3に示す通り、イソサミジンは用量依存的にフェニレフリンによる前立腺収縮を抑制し、反応曲線を高濃度側にシフトさせ、かつ、最大収縮を抑制した。
【産業上の利用可能性】
【0064】
本発明により、血管機能の改善、及び平滑筋の収縮によって引き起こされる疾患の予防や治療に有用な組成物、並びに該組成物の効率的な製造方法が提供される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イソサミジンを有効成分として含有する、平滑筋弛緩剤。
【請求項2】
イソサミジンを含有するボタンボウフウ由来の含水アルコール抽出物又は無水アルコール抽出物を含有する、請求項1に記載の平滑筋弛緩剤。
【請求項3】
ボタンボウフウ由来の含水アルコール抽出物を含有する、請求項2に記載の平滑筋弛緩剤。
【請求項4】
血管拡張剤である、請求項1〜3いずれか一項に記載の平滑筋弛緩剤。
【請求項5】
請求項1〜3いずれか一項に記載の平滑筋弛緩剤を含有する、食品又は飲料。
【請求項6】
請求項1に記載の平滑筋弛緩剤の製造方法であって、下記(1)〜(2)の工程を含む方法:
(1)ボタンボウフウを水で洗浄する工程;及び
(2)工程(1)で洗浄したボタンボウフウより、含水アルコール又は無水アルコールを抽出溶媒としてイソサミジンを抽出する工程。
【請求項7】
含水アルコールのアルコール濃度が、40容量%〜80容量%である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
含水アルコールが、含水エタノールである、請求項6に記載の方法。
【請求項9】
イソサミジンの製造方法であって、下記(1)〜(2)の工程を含む方法:
(1)ボタンボウフウを水で洗浄する工程;及び
(2)工程(1)で洗浄したボタンボウフウより、含水アルコール又は無水アルコールを抽出溶媒としてイソサミジンを抽出する工程。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−37829(P2011−37829A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−126227(P2010−126227)
【出願日】平成22年6月1日(2010.6.1)
【出願人】(302019245)タカラバイオ株式会社 (115)
【Fターム(参考)】