説明

廃棄物処分場の遮水構造

【課題】ピットの内面に複数枚の遮水シートが配置されて成り、稼働後はピット内の固定電極と遮水シート側の電極との間の電気的特性を測定して遮水シートの安全性を管理する廃棄物処分場の遮水構造であって、雨水などによる影響を受けることなく、遮水シートの破損の有無を確実に検出でき、また、海浜地に構築された場合でも、破損の有無を確実に検出できる廃棄物処分場の遮水構造を提供する。
【解決手段】廃棄物処分場の遮水構造は、ピット(7)の内面に沿って複数枚の遮水シート(1)が配置され、かつ、遮水シート(1)が緩衝材(2)を介して複数層に積層されて成る。ピット(7)の少なくとも内表面側の各遮水シート(1A)は、2つの合成樹脂シートの間に面状電極が封止状態で配置された積層構造を備えており、ピット(7)内に設置された少なくとも1つの固定電極(5)と各遮水シート(1A)の面状電極との間で電気的特性を測定可能に構成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃棄物処分場の遮水構造に関するものであり、詳しくは、ピットの内面に複数枚の遮水シートを配置して成り且つこれら遮水シートに破損検出用の面状電極が封入された廃棄物処分場の遮水構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
廃棄物を埋設処理する廃棄物処分場は、例えば地表にピットを構築し、その内面に沿って汚水漏れ防止用の遮水シートを多数配置して構成される。そして、稼働後は、遮水シートが万一にも破損した場合、遮水シートの破損個所を直ちに補修して汚水漏洩による環境汚染を防止するため、遮水シートの破損の有無を定期的に管理している。
【0003】
廃棄物処分場の遮水シートの破損を検出する方法としては、例えば、ピットの内面に遮水シートを被せ、遮水シートの一面側または両面側に面状電極(面電極)を設け、遮水シートの上面に沿って移動電極を移動させながら、移動電極と面状電極との間に通電し、通電状態の変化を測定することにより、遮水シートの破損の有無を検出する「堆積場におけるシート破損の検出方法」が提案されている。そして、斯かる検出方法では、遮水シートの敷設面積が広大で破損を迅速に検出し難いと言う問題に対処するため、面状電極をブロック化し且つこれらを互いに離間して配置し、破損検出に当たっては、各遮水シートに対応する面状電極毎に通電してシートの破損を検出する様にしている。上記の様な移動電極を使用した破損検出方法は、ピット内に多数の固定電極を設置して遮水シートの電極と同通状態を測定する従前の方法に比べ、固定電極の設置工数を軽減できると言う利点がある。
【特許文献1】特開平9−243581号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記の様な遮水シートの破損検出方法は、移動電極を使用して最も感度の高い部分を探すため、破損した遮水シートをある程度は特定できると考えられる。しかしながら、上記の廃棄物処分場の構造においては、ピット施工中に湧出る地下水、あるいは、施工中および施工後に滞留する雨水により、敷設した面状電極が濡れ、かつ、面状電極同士が電気的に短絡するため、短絡の程度によっては、実際、検出し難いと言う問題が生じる。しかも、移動電極を使用するため、設備が大掛かりとなり、稼働後の管理コストも増大すると言う問題がある。
【0005】
一方、廃棄物処分場は、昨今、立地条件が厳しく制限されることも多く、海辺や海上にピットを設けて周囲から区切り、当該ピット内に遮水シートを敷設して構築される傾向にある。その場合、上記の様な廃棄物処分場の構造は、遮水シート及び面状電極が完全に海水中に浸漬するため、たとえ移動電極を使用するにしても、遮水シートの破損の有無を全く検出困難な状況となる。
【0006】
本発明は、上記の実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、ピットの内面に沿って複数枚の遮水シートが配置されて成り、稼働後はピット内の固定電極と遮水シート側の電極との間の電気的特性を測定して遮水シートの安全性を管理する廃棄物処分場の遮水構造であって、雨水などによる影響を受けることなく、遮水シートの破損の有無を確実に検出でき、また、海浜地に構築された場合でも、破損の有無を確実に検出できる廃棄物処分場の遮水構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明においては、ピットの内側に配置される遮水シートとして、2つの合成樹脂シートの間に面状電極が封止状態で配置された積層構造のシートを使用し、各遮水シート毎に面状電極を独立させることにより、雨水、地下水、海水などによる面状電極同士の短絡を防止し、ピット内の固定電極と各遮水シートの面状電極との間の電気的特性の測定により、破損した遮水シートを直ちに検出可能にした。
【0008】
すなわち、本発明の要旨は、ピットの内面に沿って複数枚の遮水シートが配置され、かつ、前記遮水シートが緩衝材を介して複数層に積層されて成る廃棄物処分場の遮水構造であって、ピットの少なくとも内表面側の各遮水シートは、2つの合成樹脂シートの間に面状電極が封止状態で配置された積層構造を備え、そして、ピット内に設置された少なくとも1つの固定電極と前記各遮水シートの面状電極との間で電気的特性を測定可能に構成されていることを特徴とする廃棄物処分場の遮水構造に存する。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る廃棄物処分場の遮水構造によれば、ピット内表面側の各遮水シートにおいて面状電極が合成樹脂シートの間に封止状態で配置され、各遮水シート毎に面状電極が独立しており、雨水、地下水、海水などによる面状電極同士の短絡がないため、ピット内の固定電極と各遮水シートの面状電極との間で電気的特性を測定することにより、雨水などに影響を受けることなく、確実かつ直ちに遮水シートの破損の有無を検出することが出来る。特に、ピットが海浜地に構築された廃棄物処分場においても、面状電極が海水の影響を受けないため、確実かつ直ちに遮水シートの破損の有無を検出することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明に係る廃棄物処分場の遮水構造の一実施形態を図面に基づいて説明する。図1は、本発明に係る廃棄物処分場の遮水構造の一例を部分的に破断して示す斜視図である。図2は、本発明に適用される遮水シートの構造を模式的に破断して示す斜視図であり、図3は、隣接する遮水シート同士の接続部分を破断して示す斜視図である。なお、以下の説明においては、廃棄物処分場の遮水構造を「遮水構造」と略記する。
【0011】
本発明の遮水構造は、廃棄物を埋設処理するための廃棄物処分場に適用される構造であり、図1に示す様に、ピット(7)の内面に沿って複数枚の遮水シート(1)が配置され、かつ、遮水シート(1)が緩衝材(2)を介して複数層、例えば2層に積層されて成る。
【0012】
ピット(7)は、陸地において地表を例えば略逆四角錐台状に掘削して構築される。あるいは、海浜地(海辺または海上)において略逆四角錐台状の内部空間を形成する様に堤を設けて構築される。ピット(7)の敷地面積は、例えば5〜20万m程度である。本発明の遮水構造は、後述する遮水シート(1A)の特定の構成により、ピット(7)が陸地に構築された場合、海浜地に構築された場合の何れにも適用できる。
【0013】
遮水シート(1)は、ピット(7)の内面に沿って隙間なく配列される。また、遮水シート(1)は、ピット(7)の内面部において、内表面側(ピットの内部空間側)の遮水シート(1A)とピット面側(ピットの内周面に接する側)の遮水シート(1B)とにより2層に構成され、これにより、内表面側の遮水シート(1A)が破損した場合でも地盤への汚水の漏れを防止する様になされている。そして、内表面側の遮水シート(1A)とピット面側の遮水シート(1B)の間には、廃棄物の荷重によるこれら遮水シート(1A)、(1B)の破損を防止するために緩衝材(2)が介装される。
【0014】
本発明においては、後述の電気的特性の測定により、立地条件に拘わらず遮水シート(1)の破損の有無を正確に検出するため、少なくとも内表面側の各遮水シート(1A)は、各々、2つの合成樹脂シート(11)の間に面状電極(13)が封止状態で配置された積層構造を備えており(図2及び図3参照)、面状電極(13)は、各遮水シート(1A)毎にそれぞれ独立している。
【0015】
面状電極(13)としては、図2に示す様に、導電シート(13a)に補強シート(12a)を貼着して成るシート状の電極が好適に使用される。上記の導電シート(13a)としては、アルミニウム、銅などの金属箔から成るシートが挙げられる。導電シート(13a)の厚さは、通常は5〜150μm、好ましくは10〜50μmである。導電シート(13a)の厚さを上記の範囲に設定することにより、遮水シート(1A)の変形に対し、導電シート(13a)の亀裂、破断等が生じ難いので好ましい。特に、導電シート(13a)が金属箔の場合には、厚さを上記の範囲とすることにより、ピンホールの発生や剛性の低下などの経時変化が起り難く好ましい。なお、金属箔としては、圧延法などの常法で製造された箔が使用できる。
【0016】
面状電極(13)における上記の補強シート(12a)としては、合成樹脂を50〜100重量%含有する組成のシートが使用される。補強シート(12a)の厚さは、通常は5〜500μm、好ましくは10〜300μmに設定される。特に、補強シート(12a)の厚さを12〜100μmに設定した場合は、導電シート(13a)への追随性に優れ、また、遮水シート(1A)の変形に対しも、破断などが生じ難いので好ましい。
【0017】
上記の補強シート(12a)を構成する合成樹脂としては、ポリエステル系樹脂、ポリエチレン系樹脂およびポリプロピレン系樹脂などのポリオレフィン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂ならびにこれらの混合物が挙げられる。ポリエステル系樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート及びこれらの混合物などが挙げられる。
【0018】
ポリエチレン系樹脂としては、エチレンの単独重合体および/または、エチレンを主成分とする、エチレンとこれと共重合可能な他の単量体との共重合体(低密度ポリエチレン(LDPE)、線状低密度ポリエチレン(LLDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、メタロセン系触媒(シングルサイト触媒)を使用した気相法、液相法または溶液法によって得られたポリエチレン(メタロセン系ポリエチレン)等)、前記の単独重合体および共重合体の混合物、あるいは、前記の単独重合体および/または共重合体と他の重合体との混合物(ポリマーブレンド)等が挙げられる。
【0019】
メタロセン系ポリエチレンにおいて、エチレンと共重合する他の単量体としては、炭素原子数が3〜12のα−オレフィン、例えばプロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、4−メチル−1−ペンテン及び1−デセン等が挙げられる。これらのα−オレフィンは単独で使用してもよく、二つ以上を組み合わせて使用してもよい。α−オレフィンの混合割合は、5〜40重量%とすることが好ましい。
【0020】
ポリプロピレン系樹脂としては、プロピレンの単独重合体および/または共重合体、あるいは、前記の単独重合体および/または共重合体と他の重合体との混合物(ポリマーブレンド)等が挙げられる。上記の共重合体としてはプロピレンを主成分とする、プロピレンとエチレンまたは他のα−オレフィンとのランダム共重合体またはブロック共重合体あるいはグラフト共重合体などが挙げられる。また、上記のプロピレンと共重合可能なα−オレフィンとしては、炭素原子数が4〜12のものが好ましく、例えば、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、4−メチル−1−ペンテン、1−デセン等が挙げられる。これらのα−オレフィンは単独で使用してもよく、二つ以上を組み合わせて使用してもよい。
【0021】
ポリ塩化ビニル系樹脂としては、塩化ビニルの単独重合体の他、塩化ビニルとこれと共重合可能な他の単量体との共重合体およびこれらの混合物などが挙げられる。塩化ビニルと共重合可能な他の単量体としては、従来一般的に用いられているものを使用することが出来、特に限定されない。上記の他の単量体としては、例えば、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、ステアリン酸ビニル等のビニルエステル類、メチルビニルエ−テル、エチルビニルエ−テル、オクチルビニルエ−テル、ラウリルビニルエ−テル、セチルビニルエ−テル等のアルキルビニルエ−テル類、エチレン等のα−オレフィン類、アクリル酸、メタクリル酸などの一価不飽和酸およびこれらの一価不飽和酸のメチルエステル、エチルエステル等のアルキルエステル類、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等の二価不飽和酸およびこれらの二価不飽和酸のメチルエステル、エチルエステル等のアルキルエステル類、塩化ビニリデン等のビニリデン化合物、アクリロニトリル等の不飽和ニトリル等が挙げられる。これらの他の単量体は単独で使用してもよく、二つ以上を組み合わせて使用してもよい。また、これらの他の単量体は、塩化ビニルに対し、通常は30重量%以下、好ましくは20重量%以下の割合で使用されるが、特に制限はない。
【0022】
上記の様な補強シート(12a)を構成する合成樹脂の中、ポリエチレンテレフタレート又はポリエチレンが特に好ましく、補強シート(12a)中のこれら樹脂の含有量は、50〜100重量%が好ましい。更に、上記の補強シート(12a)には、紫外線吸収剤、酸化防止剤、着色顔料および無機化合物などの各種添加剤が配合されていてもよい。
【0023】
また、補強シート(12a)は、伸張率((伸張後の長さ−伸張前の長さ)÷伸張前の長さ×100(%))が50%以上であるのが好ましく、更に、フィルム状であることが好ましい。伸張率が50%以上に設計されていることにより、特に導電シート(13a)が金属箔の場合、現場施工時や施工後に遮水シート(1A)が受ける局部的な変形伸びに対し、金属箔が亀裂・破断し難く、また、面状電極(13)全体の伸張性が良好となり、遮水シート(1A)への追随性が向上する。これに対し、補強シート(12a)がフィルム状ではなく、例えば織布や不織布であった場合には、面状電極(13)に外力、特に剪断応力が加わった際、導電シート(13a)と補強シート(12a)との間で不均一な応力分布を形成し易く、局部的にズレや剥がれが起り、特に導電シート(13a)が金属箔の場合には、金属箔の亀裂、破断が発生し易いので好ましくない。
【0024】
導電シート(13a)と補強シート(12a)とは接着剤層によって接着される。接着剤層を構成する接着剤としては、コンタクト型接着剤や感圧型接着剤等のいわゆる粘着剤と呼ばれるもの以外の接着剤が好ましい。いわゆる粘着剤は、粘着剤特有の粘性を有し、外部よりの応力を局部的に緩和せしめ、導電シート(13a)と補強シート(12a)との界面に不均一な応力分布を形成する。この不均一な応力分布により、局部的な界面の剥離、特に導電シート(13a)が金属箔の場合は金属箔の浮きが発生し、亀裂、破断が起り易くなる。好ましい接着剤としては、例えば、熱、光、紫外線などのエネルギー線により化学反応を惹起して硬化する反応型接着剤、ホットメルト型接着剤などの感熱型接着剤が挙げられ、中でも、引張り応力やせん断応力に対する強度の制御幅が広く且つ制御が容易に出来る点から反応型接着剤が好ましい。
【0025】
上記の反応型接着剤としては、ウレタン樹脂系、アクリル樹脂系もしくはエポキシ樹脂系の熱硬化型接着剤、ウレタン樹脂系、アクリル樹脂系もしくはエポキシ樹脂系の紫外線硬化型接着剤、または、ウレタン樹脂系、アクリル樹脂系もしくはエポキシ樹脂系の電子線硬化型接着剤などが挙げられる。また、上記のホットメルト型接着剤としては、熱可塑性樹脂を溶剤に溶解したタイプのものや熱可塑性樹脂から成るフィルム状タイプのものが挙げられる。溶剤に溶解したタイプの接着剤としては、ポリエステル樹脂系、塩化ビニル−アクリル樹脂系および変性ポリエステル樹脂系の接着剤が挙げられる。フィルム状タイプの接着剤としては、変性ポリオレフィン樹脂系および変性ポリエステル樹脂系の接着剤が挙げられる。
【0026】
接着剤は、導電シート(13a)及び補強シート(12a)を構成する成分の種類に応じて適宜選択すればよいが、導電シート(13a)と補強シート(12a)との層間剥離強度(JIS K6854−2に規定される「はく離接着強さ試験方法」(180度はく離)によって測定して得られた値)が0.8N/cm以上となる様に選択するのが好ましい。なお、接着剤層における接着剤の含有量は、50〜100重量%であるのが好ましく、更に、接着剤層には、接着剤の他、接着性に影響のない範囲において、例えば導電シート(13a)が金属層の場合は金属との接着力向上のためのシランカップリング剤、チタネートカップリング剤などの添加剤が配合されてもよい。
【0027】
面状電極(13)は、導電シート(13a)の補強シート(12a)が接着されている面と反対の面に接着剤層を介して更に合成樹脂の第2の補強シート(12b)が接着されているのが好ましい。斯かる第2の補強シート(12b)を構成する合成樹脂としては、前述した補強シート(12a)において挙げたものが使用できる。また、第2の補強シート(12b)の合成樹脂の含有量は、50〜100重量%であるのが好ましく、特に、ポリエチレンテレフタレート又はポリエチレンを50〜100重量%含有するのが好ましい。第2の補強シート(12b)には、前述した補強シート(12a)において挙げた各種添加剤を配合することが出来る。前述の補強シート(12a)と第2の補強シート(12b)とは、組成が同一又は同様であるのが好ましい。
【0028】
第2の補強シート(12b)の厚さは、通常は5〜500μm、好ましくは10〜300μmに設定される。導電シート(13a)への追従性を高め、遮水シート(1A)の変形時における破断等を防止する観点からは、特に12〜100μmに設定されるのが好ましい。また、第2の補強シート(12b)は、前述の補強シート(12a)と同様に、伸張率が50%以上であるのが好ましく、更に、フィルム状であることが好ましい。
【0029】
面状電極(13)の製造方法としては、例えば、補強シート(12a)又は導電シート(13a)の何れか一方の表面に接着剤層を設けた後、接着剤層上に他方をラミネートし、接着剤の種類に適した方法により接着剤を固化する方法が挙げられる。また、第2の補強シート(12b)も同様にして設けられる。なお、接着剤層を設ける方法としては、接着剤が溶剤タイプの場合は、塗布、溶剤乾燥などに因る方法、接着剤がフィルム状タイプの場合は、熱ラミネート等に因る方法が挙げられる。
【0030】
導電シート(13a)と補強シート(12a)、(12b)とは、これらの界面で部分的に接着しているのではなく、界面全体が貼り合わされて一体化されていることにより、遮水シート(1A)の変形によって面状電極(13)に外力が加わった際も、面状電極(13)が全体として高い伸張率を示し、補強シート(12a)、(12b)が亀裂、破断することがない。なお、本発明においては、上記の面状電極(13)の構成材料に関し、「シート」の概念にはシート及びフィルムが含まれる。
【0031】
遮水シート(1A)は、図2に示す様に、2つの合成樹脂シート(11)の間に上記の面状電極(13)を封止状態に配置して構成される。合成樹脂シート(11)としては、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体及びこれらの混合物などから成るポリオレフィン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ニトリル−ブタジエンゴム(NBR)及びエチレン−プロピレン−ジエン(EPDM)ゴム等の合成ゴム等ならびにこれらの混合物が挙げられ、ヒートシールできるものが好ましい。
【0032】
ポリ塩化ビニル系樹脂としては、前述した面状電極(13)の補強シート(12a)の説明において挙げたものが使用できる。ポリエチレン系樹脂としては、前述した面状電極(13)の補強シート(12a)の説明において挙げたものが使用できるが、中でもメタロセン系ポリエチレンが好ましく、特に(a)エチレンと炭素原子数3〜12のα−オレフィンとの共重合体であって、(b)密度が0.86〜0.94g/cmであり、(c)メルトフローレート(MFR)が0.5〜5g/10分、(d)重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比(Mw/Mn)が1.5〜5であるエチレン−α−オレフィン共重合体が好ましい。
【0033】
また、ポリプロピレン系樹脂としては、前述した面状電極(13)の補強シート(12a)の説明において挙げたものが使用できる。ポリウレタン系樹脂には、ジイソシアネート化合物とヒドロキシル基を分子構造内に2基以上有するポリオール化合物の中から選ばれた1種以上とイソシアネート基と反応する官能基を含有する化合物との付加重合反応によって得られる熱可塑性ポリウレタン樹脂なども含まれる。
【0034】
ジイソシアネートとしては、芳香族、脂肪族、脂環式(水素添加物を包含する)のジイソシアネート化合物が用いられ、これらは例えば、トリレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート、3,3′−ジメチルビフェニル−4,4′−ジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等が挙げられる。また、ヒドロキシル基を2基以上有するポリオール化合物としては、例えば、ポリカーボネートグリコール(ジオール)、ポリエーテルグリコール、ポリエーテルエステルグリコール、ポリエステルグリコール等のポリエステルポリオール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリオレフィンポリオール、シリコンポリオール等が挙げられる。
【0035】
ポリウレタン系樹脂には、使用するポリオールの種類に応じてポリエステル系ポリウレタン樹脂、ポリエーテル系ポリウレタン樹脂、ポリカーボネート系ポリウレタン樹脂、ポリカプロラクトン系ポリウレタン樹脂などがあるが、耐水性を考慮すると、この中では、特に、ポリエーテル系ポリウレタン樹脂およびポリカーボネート系ポリウレタン樹脂などが好ましい。
【0036】
更に、合成樹脂シート(11)には、粘着付与剤、架橋剤やカーボンブラック、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、シリカ等の無機化合物、金属繊維、炭素繊維などの各種フィラーや酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、難燃化剤、着色剤などを必要に応じて配合してもよい。例えばカーボンブラックを0.1〜10重量%、好ましくは1〜5重量%配合した場合には耐候性が改良されるので好ましい。
【0037】
上記の遮水シート(1A)は、Tダイによる押出成形法またはカレンダー成形法などのシート製造に通常適用される方法により合成樹脂シート(11)を連続シートとして成形し、面状電極(13)を挟み込みながら2枚の合成樹脂シート(11)を貼り合わせることにより製造ことが出来る。その場合、面状電極(13)は、2枚の合成樹脂シート(11)の端部を接着または溶着することにより、遮水シート(1A)の内部に気密に封入される。遮水シート(1A)の厚さは、通常は0.5〜5mm、好ましくは1〜3mmである。遮水シート(1A)の幅は、通常は1〜8m、好ましくは3〜6mとされ、長さは、通常は20〜50m、好ましくは30mとされる。なお、連続シートとして製造された遮水シート(1A)は、施工時の取扱性を考慮し、ロールとして巻回される。
【0038】
また、図1に示す様に、各遮水シート(1A)の例えば長さ方向の一端には、面状電極(13)に電気的に接続された端子(3)が取り付けられる。なお、斯かる端子(3)は、その遮水シート(1A)の破損の有無を検査する際、後述するピット(7)内の固定電極(5)と共に利用される端子である。
【0039】
一方、外側の遮水シート(1B)も、上記の合成樹脂シート(11)と同様の材料によって構成される。遮水シート(1B)の厚さ、幅、長さは、遮水シート(1A)におけるのと略同様である。また、遮水シート(1B)も、遮水シート(1A)と同様に、2つの合成樹脂シートの間に面状電極が封止状態で配置された積層構造を備えていてもよい。遮水シート(1B)に面状電極が備えられていることにより、後述する方法により、遮水シート(1A)の場合と同様に、遮水シート(1B)の破損の有無も検出することが出来る。
【0040】
図1に示す様に、ピット(7)の内表面側の遮水シート(1A)とピット面側の遮水シート(1B)との間には、前述の緩衝材(2)が介装される。緩衝材(2)としては、衝撃吸収能力、施工性、コスト等を勘案して適宜の材料を使用できるが、通常は繊維質シートが使用される。本発明において、繊維質シートとは、無機あるいは有機の繊維状物質の集合体から成るシートを言い、繊維状物質には、例えば、アスペクト比の大きなフィラーや不織布なども含まれる。
【0041】
具体的には、緩衝材(2)を構成するシートの材料としては、セラミック繊維、ガラス繊維、炭素を含む原料から製造された炭素繊維、鉱物系繊維、有機ケイ素ポリマーから製造された有機ケイ素系繊維、金属から製造された金属繊維などが挙げられる。化学繊維としては、アクリル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリウレタン、ポリクラール、ナイロン、レーヨン、ビニロン、ビニリデン、ポリ塩化ビニル、アセテート、ポリエステル等の繊維が挙げられる。
【0042】
特に、成形性、取扱性、製造コストを考慮すると、緩衝材(2)の材料としては、不織布が好ましい。斯かる不織布としては、レーヨン、ナイロン、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、アクリル、ビニロン、キュプラ、芳香族ポリアミドなどの化学繊維系の不織布が挙げられる。そして、上記の様な化学繊維系の不織布は、単独の繊維から成るもの、2種以上の繊維を積層したものの何れでもよい。周知の通り、不織布は、湿式法、乾式法、スパンボンド法、メルトブロー法、ケミカルボンド法、サーマルボンド法、ニードルパンチ法などの製法によって製造される。上記の緩衝材(2)の常態厚さは、通常は5〜30mm、好ましくは8〜15mmである。なお、上記の様な繊維質シートから成る緩衝材(2)は、遮水シート(1A)と同様に、所定の幅のロールとして巻回されている。
【0043】
遮水シート(1)を施工する場合は、上記の様に所定幅のロールとして作製された遮水シート(1)(遮水シート(1A)及び(1B))を展開することにより、これをピット(7)の内面に沿って隙間なく配列する。具体的には、構築されたピット(7)の内面に沿って、先ず、ピット面側の遮水シート(1B)を敷設する。遮水シート(1B)を配列する場合、互いに隣接する遮水シート(1B)の縁部同士を僅かに重ね合わせ、これら縁部を接着または溶着する。通常は、熱風加熱装置を使用し、遮水シート(1B)のロールを展開しながら縁部を加熱溶着する。
【0044】
ピット(7)の全内面に遮水シート(1B)を敷設した後は、遮水シート(1B)の上面に緩衝材(2)を配置する。緩衝材(2)を配置する場合も、繊維質シートのロールを展開して遮水シート(1B)の上面に一様に配列する。次いで、図1に示す様に、緩衝材(2)の上面に遮水シート(1A)を敷設する。
【0045】
遮水シート(1A)を配列する場合も、遮水シート(1B)の場合と同様に、図3に示す様に、互いに隣接する遮水シート(1A)の縁部同士を僅かに重ね合わせ、これら縁部を接着または溶着する。施工性およびコストの観点から、好ましくは、熱風加熱装置を使用し、遮水シート(1A)のロールを展開しながら遮水シート(1A)の縁部同士を加熱溶着する。その際、各隣接する遮水シート(1A)の縁部は、各面状電極(13)の一部が僅かに互いに重なり合う状態に重ね合わせる。すなわち、各隣接する遮水シート(1A)は、平面視した場合に面状電極(13)の縁部が互いに重なり合う様に、これら遮水シート(1A)の縁部を重畳させて配置される。図3中の符号(C)は、遮水シート(1A)の縁部の重なり部分を示している。
【0046】
互いに隣接する遮水シート(1A)の縁部の重なり代(重なり部分(C)の幅)は、平面視して相互の面状電極(13)の重なり幅が10〜300mm程度、好ましくは50〜100mmとなる様な大きさに施工される。上記の面状電極(13)の重なり幅は、施工性向上および材料の有効利用の観点から決定される。なお、上記の各遮水シート(1A)は、これら遮水シート(1A)の端子(3)がピット(7)の外周側に位置する様に敷設される。
【0047】
上記の様に遮水シート(1A)を敷設した後は、場内、すなわち、ピット(7)内の遮水シート(1A)の上面側に少なくとも1つの固定電極(5)が設置される。勿論、固定電極(5)は複数設置されてもよい。そして、場外に設置された検査装置(6)と固定電極(5)とを防水被覆されたケーブルで接続し、また、検査装置(6)とピット(7)外周側の各遮水シート(1A)の端子(3)とを同様のケーブルで接続する。その場合、ピット(7)の外周部にターミナル(4)を配置し、検査装置(6)からターミナル(4)へ集合線を接続し、ターミナル(4)と各遮水シート(1A)を各々に個別ケーブルで接続するのが便利である。
【0048】
上記の検査装置(6)は、固定電極(5)と各遮水シート(1A)の面状電極(13)との間で電気的特性を測定する様に構成される。具体的には、検査装置(6)は、固定電極(5)又は面状電極(13)に一定の電流を流して固定電極(5)と面状電極(13)の間に流れる電流値を測定する測定回路、固定電極(5)又は面状電極(13)に一定の電圧を印加して固定電極(5)と面状電極(13)の間の抵抗値測定する測定回路、または、固定電極(5)と面状電極(13)との間の自然電位の差を測定する測定回路などを設けて構成され、面状電極(13)の絶縁不良を検出する様になされている。
【0049】
面状電極(13)の絶縁不良を検出する方法としては、各種の方法を採用できるが、回路構成が比較的簡単であることから、通常は上記の固定電極(5)と面状電極(13)を利用し、インピーダンス法、位相差法により検出する方法が好ましい。そして、検査装置(6)においては、対象の遮水シート(1A)が異常有りと判別された場合、すなわち、遮水シート(1A)の面状電極(13)の絶縁状態が不良になったと判別された場合、警告を表示し又は発報し、かつ、遮水シート(1A)を特定するための例えばアドレスを表示する様になされている。
【0050】
すなわち、本発明の遮水構造においては、上記の様に、遮水シート(1A)の内部に面状電極(13)を封止状態で配置し、各遮水シート(1A)の面状電極(13)をシート毎に電気的に独立させることにより、ピット(7)内の遮水シート(1A)の上面側に設置された少なくとも1つの固定電極(5)と各遮水シート(1A)の面状電極(13)との間で電気的特性を測定可能に構成されている。
【0051】
上記の様に構築された廃棄物処分場においては、稼働後は定期的に汚水の漏れの有無が検査される。換言すれば、ピット(7)の内面に敷設された遮水シート(1A)の破損の有無が検査される。その際、本発明の遮水構造では、前述の通り、ピット(7)内表面側の各遮水シート(1A)において面状電極(13)が合成樹脂シート(11)、(11)の間に封止状態で配置され、各遮水シート(1A)毎に面状電極(13)が電気的に独立しており、雨水、地下水、海水などによる面状電極(13)同士の短絡がない。従って、ピット(7)内の固定電極(5)と各面状電極(13)との間で電気的特性を測定することにより、雨水などに影響を受けることなく、遮水シート(1A)に破損が有るか否かを確実かつ直ちに検出することが出来る。
【0052】
特に、本発明の遮水構造は、各遮水シート(1A)の面状電極(13)が水による影響を全く受けないため、ピット(7)が陸地に構築された廃棄物処分場は勿論、ピット(7)が海浜地に構築された廃棄物処分場においても、確実かつ直ちに遮水シート(1A)の破損の有無を検出することが出来る。また、本発明の遮水構造は、各遮水シート(1A)の面状電極(13)をそれぞれ電気的に独立させており、少なくとも1つの固定電極(5)をピット(7)内に設置するだけで全ての遮水シート(1A)について破損の有無を検査できるため、設備コストを低減でき、施工費を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明に係る廃棄物処分場の遮水構造の一例を部分的に破断して示す斜視図である。
【図2】遮水シートの構造を模式的に破断して示す斜視図である。
【図3】隣接する遮水シート同士の接続部分を破断して示す斜視図である。
【符号の説明】
【0054】
1 :遮水シート
1A :内側の遮水シート
1B :外側の遮水シート
11 :合成樹脂シート
12 :保護層
12a:補強シート
12b:第2の補強シート
13 :面状電極
13a:導電シート
2 :緩衝材
3 :シート側端子
4 :ターミナル
5 :場内固定電極
6 :検査装置
7 :ピット
C :重なり部分

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピットの内面に沿って複数枚の遮水シートが配置され、かつ、前記遮水シートが緩衝材を介して複数層に積層されて成る廃棄物処分場の遮水構造であって、ピットの少なくとも内表面側の各遮水シートは、2つの合成樹脂シートの間に面状電極が封止状態で配置された積層構造を備え、そして、ピット内に設置された少なくとも1つの固定電極と前記各遮水シートの面状電極との間で電気的特性を測定可能に構成されていることを特徴とする廃棄物処分場の遮水構造。
【請求項2】
面状電極が、導電シートに補強シートを貼着して構成されている請求項1に記載の遮水構造。
【請求項3】
各隣接する内表面側の遮水シートは、平面視した場合に面状電極の縁部が互いに重なり合う様に、これら遮水シートの縁部を重畳させて配置されている請求項1又は2に記載の遮水構造。
【請求項4】
ピットが、海浜地に構築されたピットである請求項1〜3の何れかに記載の遮水構造。
【請求項5】
ピットが、陸地に構築されたピットである請求項1〜3の何れかに記載の遮水構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−175601(P2007−175601A)
【公開日】平成19年7月12日(2007.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−375845(P2005−375845)
【出願日】平成17年12月27日(2005.12.27)
【出願人】(000176774)三菱化学エムケーブイ株式会社 (29)
【Fターム(参考)】