説明

建材のカビ耐性判定方法

【課題】建材のカビ耐性を短時間で簡便に判定する方法を提供する。
【解決手段】建材の表面のpHを測定するpH測定ステップと、pH測定ステップで測定されたpHが所定値以上の場合に、建材のカビ耐性が高いと判定する判定ステップと、を含む、建材のカビ耐性判定方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建材のカビ耐性判定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の居住環境は密閉性が高まっている。このため、外気温とのわずかな温度差や、人間の生活等により発生する水蒸気によって容易に結露してカビが発生し、衛生面や快適性の面で問題となる場合がある。
【0003】
建材の防カビ試験を行う方法として、実物大の建築物や、恒温・恒湿チャンバー内に再現した、実際の建築物の環境に近い条件下で、建材表面にカビを接種して培養し、建材の防カビ試験を行うことが提案されている(例えば、非特許文献1を参照)。また、建材の試験片にカビを接種してシャーレ内の培地上で培養し、防カビ試験を行う方法が提案されている(例えば非特許文献2、3を参照)。
【0004】
一方、カビは、高いpHでは生育しにくいことが知られている。例えば、特許文献1には、pH値が少なくとも11.0以上で且その塩基置換容量(meq/100g)が80mg以上、及び粒径が2μm以下のアルミノ珪酸塩鉱物微粉体が0.1乃至10.0%重量割合で懸濁されてなるアルカリイオン水を、建物空間内に噴霧させ揮散滞留する揮散有機化合物並びに臭気ガスの分解消去、及び浮遊若しくは付着する細菌、黴の生理活性機能を阻害させたうえ、乾燥を施すことを特徴とする建物空間の浄化方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003−70889号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】斎藤文春、吉川利文、日本建築仕上学会機関誌FINEX、2(4)、70−77、1990.
【非特許文献2】財団法人 日本規格協会、JIS Z 2911 カビ抵抗性試験方法
【非特許文献3】大島明、松井勇、日本建築学会大会学術講演梗概集、材料・施工分冊、p.1173、1992年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、非特許文献1に記載の方法では、建材のカビ耐性を判定するのに手間がかかり、また数十日もの時間がかかる場合があった。また、非特許文献2の方法は、単体の建材の規格であること、試料を作製する必要があるため現場で判定できないこと、カビ胞子を扱うため実験設備が必要なこと、建材のカビ耐性を判定するのに日数がかかること等の問題点があった。そこで、本発明は、建材のカビ耐性を、建材が単体であるか複合材であるかにかかわらず、建材を切り出す必要がなく、もとの形状のままで、実験室ではなく現地でも短時間で簡便に判定する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、建材の表面のpHを測定するpH測定ステップと、pH測定ステップで測定されたpHが所定値以上の場合に、建材のカビ耐性が高いと判定する判定ステップと、を含む、建材のカビ耐性判定方法を提供する。
【0009】
上記本発明によれば、建材のカビ耐性を、建材が単体であるか複合材であるかにかかわらず、建材を切り出す必要がなく、もとの形状のままで、実験室ではなく現地でも短時間で簡便に判定することができる。
【0010】
上記の建材は複合材であってもよい。複合材とは、様々な種類及び材質の建材が、単体ではなく複層化された建材のことであり、一般的には下地材及び仕上材からなる。建築物の内装には複合材が用いられている場合が多い。後述するように、上記本発明によれば、単体の建材のみならず、このような複合材であっても、建材のカビ耐性を正しく判定することができる。
【0011】
上記の所定値はpH9であることが好ましい。後述するように、所定値がpH9であると、建材のカビ耐性をより正確に判定することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、建材のカビ耐性を、建材が単体であるか複合材であるかにかかわらず、建材を切り出す必要がなく、もとの形状のままで、実験室ではなく現地でも短時間で簡便に判定する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1(a)及び(b)は、一実施形態の治具の上面図(a)及び断面図(b)である。
【図2】図2(a)〜(d)は、電極法により測定されたpHの経時変化の代表例を示すグラフである。
【図3】図3(a)〜(d)は、実験例2の結果を示すグラフである。
【図4】図4(a)及び(b)は、実験例5の結果を示すグラフである。
【図5】図5は、実験例6の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、場合により図面を参照しながら、好適な実施形態を説明する。なお、図面の説明において同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。また、図面は理解を容易にするため一部を誇張して描いており、寸法比率は説明のものとは必ずしも一致しない。
【0015】
本発明は、建材の表面のpHを測定するpH測定ステップと、pH測定ステップで測定されたpHが所定値以上の場合に、建材のカビ耐性が高いと判定する判定ステップと、を含む。
【0016】
まず、pH測定ステップについて説明する。一実施形態において、建材表面のpHは、pH電極で測定する。pHは溶液中で定義される値であるのに対し、建材表面は通常乾燥している。そこで、図1に示すような治具を建材表面に固定し、治具の内部に所定量の水を滴下して建材表面を水に接触させ、その水のpHを建材表面のpHとみなして測定する。
【0017】
図1(a)及び(b)は、pH電極を用いて建材表面のpHを測定する場合に使用する治具の一実施形態である。図1(a)は治具の上面図を示す。図1(b)は使用中の治具の断面図を示す。治具100は、本体10及びOリング20からなる。本体10は、例えばアクリル製であり、中央部分には貫通穴が形成されている。治具100を建材200の表面に固定し、治具100の貫通穴の内部に水30を滴下する。水としては例えば蒸留水やイオン交換水が使用できる。水の量は0.5〜2mLが好ましく、1〜2mLがより好ましい。水の量が0.5mL未満では、pH電極を水に浸すことが困難な場合がある。また、建材表面から短時間で水が吸収されてしまい、pHの測定が困難になる場合がある。一方、水の量が多すぎると、建材表面のpHを正確に測定できなくなる場合がある。水の量は、pH測定が可能な範囲内で少ない方がよい。建材に接触させた水30中にpH電極を浸し、水のpHを建材表面のpHとみなして測定する。pH電極としては、少量の水でもpH測定が可能であることから、平面測定用複合ガラス電極(平面電極)が好適である。
【0018】
後述するように、発明者らは、上記の方法でpHを測定すると、測定開始からpHの値が安定するまでに時間差が存在することを見出した。ほとんどの建材において、水を滴下した直後にpH測定を開始してから約5分でpHの値が安定する。したがって、建材表面の測定値は、水を滴下した直後にpH測定を開始し、測定開始から5〜15分後の値をpHの測定値とすることが好ましい。しかしながら、例えばケイカル板等の吸水性の高い建材の場合には、治具の内部に滴下した水が建材に吸収され、測定開始から数分でpH測定ができなくなる場合がある。このような場合においては、測定できた最終の値を建材表面のpH値とすればよい。
【0019】
一実施形態において、建材表面のpHは、pH指示薬を建材表面に塗布し、指示薬の色の変化に基づいて測定する。
【0020】
pH指示薬としては、pH9付近で色が変化するものが好ましく、例えば、チモールブルー、フェノールフタレイン、チモールフタレイン、又はこれらのpH指示薬の2種以上の混合物を使用することができる。pH指示薬としては、テスターペンとして市販されている、pH指示薬が充填されたペンを使用してもよい。
【0021】
一実施形態において、建材表面のpHは次のようにして測定する。まず、試料の表面に蒸留水を滴下して表面を濡らした後、キムワイプ(商品名、日本製紙クレシア製)等のワイパーでふきとる。続いて、建材表面の濡れた部分にpH指示薬を塗布する。数十秒から1分後、色見本と照合し、指示薬の色をpH値に変換する。
【0022】
次に、判定ステップについて説明する。判定ステップにおいては、pH測定ステップで測定されたpHが所定値以上の場合に、建材のカビ耐性が高いと判定する。所定値は、pH9が好ましく、pH10がより好ましく、pH11が更に好ましい。建材表面のpHが9以上であれば、建材のカビ耐性が高いと判定することができる。
【実施例】
【0023】
以下、本発明の実施例を示して、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲での種々の変更が可能である。
【0024】
表1に示す試料1〜24の様々な建材について、以下の実験を行った。試料1〜16は複合材であり、試料17〜24は単体の建材であった。複合材の構成は表1に示す通りであり、例えば試料1は、石膏ボードを下地材とし、防カビ剤を含有しないクロスAを仕上材とする複合材であった。表1中、ケイカル板及びフレキシ板は、それぞれ、珪酸カルシウム板及びフレキシブル板の略語である。また、各下地材及び仕上剤の詳細を表2に示す。クロスA又はクロスBを下地材に接着する場合には、表2に示すクロス接着剤を使用した。
【0025】
【表1】

【0026】
【表2】

【0027】
(実験例1)
(pH電極を用いた建材表面のpH測定)
pH電極を用いて、試料1〜22の表面のpHを測定した。まず、試料の表面を圧縮空気で清掃した。続いて、試料の表面に、図1に示したものと同様のアクリル製の治具を固定した。厚みがほとんどないシート状の試料の場合には、試料の裏側にアクリル板をあてた。続いて、治具上部の隙間からマイクロピペットを用いて静かに蒸留水を1000μL滴下した。蒸留水を滴下後、直ちに蒸留水にpH電極を接触させ、蒸留水のpHを1分毎に15分後まで測定した。以下、この方法によるpHの測定方法を「電極法」という場合がある。試料23及び24については、アクリル板上に塗布して乾燥させた後、乾燥した塗膜のpHを試料1〜22と同様にして測定した。
【0028】
(pHの経時変化)
図2(a)〜(d)は、電極法により測定されたpHの経時変化の代表例を示すグラフである。図2(a)〜(d)は、それぞれ、建材として、(a)試料1、(b)試料12、(c)試料14及び(d)試料19を測定した場合の結果である。ほとんどの建材において5分程度でpHの値が安定した。測定開始から15分後のpHの測定値を試料の表面のpHとした。吸水しやすいケイカル板を含む試料は、15分後までpHを測定することができない場合があった。15分後までpHを測定できなかった試料については、測定できた最終値をpHの測定値とした。電極法によるpHの測定結果を実験例5で使用した。
【0029】
(実験例2)
(複合材の表面のpHにおける下地材の影響の検討)
複合材の表面のpHにおける下地材の影響を検討した。図3(a)〜(d)は、実験例1の結果をまとめたものであり、複合材の表面のpHにおける下地材の影響を示すグラフである。
【0030】
図3(a)〜(d)のそれぞれは、石膏ボード、耐水石膏、ケイカル板及びフレキシ板のみの試料、これらを下地材とし、その表面上に更にクロスA(図3(a))、クロスB(図3(b))、塗料A(図3(c))及び塗料B(図3(d))を仕上材として有する複合材の試料、並びにこれらの仕上材のみの試料のpHを測定した結果である。より具体的には、図3(a)のグラフは、左から順に、試料17、1、18、5、19、9、20、13及び21のpHの測定結果である。また、図3(b)のグラフは、左から順に、試料17、2、18、6、19、10、20、14及び22のpHの測定結果である。また、図3(c)のグラフは、左から順に、試料17、3、18、7、19、11、20、15及び23のpHの測定結果である。また、図3(d)のグラフは、左から順に、試料17、4、18、8、19、12、20、16及び24のpHの測定結果である。
【0031】
この結果、複合材の表面のpHには、仕上材だけでなく、下地材の影響があることが明らかとなった。したがって、建材のカビ耐性を正確に判定するためには、仕上材だけでなく、下地材の影響を考慮する必要があると考えられる。
【0032】
(実験例3)
(カビ抵抗性試験)
表1に示す試料1〜21について、カビ抵抗性を試験した。試験は、「ISO 846:1997、プラスチック製品、A法」(以下、「ISO A法」という場合がある。)にしたがって行った。具体的には、シャーレ中の無機寒天培地の上に試料1〜21を設置し、菌(アスペルギルス・ニガー、ペニシリウム・ピノフィラム、ケトミウム・グロボスム、トリコデルマ・ビレンス、クラドスポリウム・クラドスポリイデス、ペシロミセス・バリオッチ)の懸濁液(N−メリルタウリンを添加した無機塩水溶液、胞子濃度10CFU/mL)を試料及び培地上に合計0.1mLずつ注射器を用いて均等に滴下し、4週間又は場合により8週間培養し、試料上にカビがどの程度生えたかを、0〜3の4段階の判定値で判定した。判定値0が最もカビ抵抗性が高い。判定結果を実験例5で使用した。判定値の基準は次の通りであった。
0:菌糸の発育の発生なし。
1:顕微鏡下で菌糸の発育が確認された。
2:試料全面積の25%未満に菌糸の発育が認められた。
3:試料全面積の25%以上に菌糸の発育が認められた。
【0033】
(実験例4)
(pH指示薬を用いた建材表面のpH測定)
テスターペン(アストロpHテスターペンW−S、商品名、株式会社日研化学研究所)を用いて、試料1〜22の表面のpHを測定した。まず、試料の表面に蒸留水を数滴滴下し、表面を濡らした。続いて試料表面の水をワイパーでふきとり、表面の濡れた部分にテスターペンの試薬を塗布した。30〜60秒後、色見本と照合し、pHを測定した。以下、この方法によるpHの測定方法を「指示薬法」という場合がある。指示薬法による建材表面のpHの測定結果を実験例5で使用した。試料23及び24については、アクリル板上に塗布して乾燥させた後、乾燥した塗膜のpHを試料1〜22と同様にして測定した。
【0034】
(実験例5)
(電極法及び指示薬法による建材表面のpHの測定値の比較)
試料1〜21の建材表面の電極法及び指示薬法によるpHの測定値と、カビ抵抗性試験の結果を比較した。図4(a)及び(b)は、実験例5の結果を示すグラフである。電極法及び指示薬法のどちらの方法で測定された場合においても、建材が防カビ剤を含有するか否かにかかわらず、建材表面のpHが9以上であると建材のカビ抵抗性が高いことが示された。したがって、建材表面のpHが9以上であれば、建材のカビ耐性が高いと判定することができる。
【0035】
(実験例6)
(破砕法による建材のpHの測定)
フレキシ板(試料20)、フレキシ板及びクロスAの複合材(試料13)、フレキシ板及び塗料Aの複合材(試料15)、クロスA(試料21)及び塗料A(試料23)の各建材について、破砕法でpHを測定した。破砕法とは、建材を破砕して水に懸濁し、その水のpHをpH電極で測定する方法である。具体的には次のようにして測定した。まず、建材を粉砕機及び乳鉢で粉砕し、得られた試料1gをビーカーに入れた。次に、このビーカーに蒸留水100mLを加え、スターラーで静かに撹拌し、建材の懸濁液を得た。続いて、スターラーで撹拌しながらpH電極で懸濁液のpHを測定した。塗料Aについては、ポリテトラフルオロエチレン製の板上に塗布して乾燥させた後、乾燥した塗膜をはがして試料とした。
【0036】
図5は、実験例6の結果を示すグラフである。実験例2の、電極法による複合材の表面のpHの測定値とは異なり、破砕法による複合材のpHの測定値は、下地材とほぼ同じ値となった。これは、破砕法による複合材のpHの測定においては、下地材が試料の多くの体積を占めるためであると推測される。したがって、建材のカビ耐性を判定するためには、より正確に建材表面のpHを反映していると考えられる電極法や指示薬法が適していると考えられる。
【符号の説明】
【0037】
10…本体、20…Oリング、30…水、100…治具、200…建材。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
建材の表面のpHを測定するpH測定ステップと、
pH測定ステップで測定されたpHが所定値以上の場合に、建材のカビ耐性が高いと判定する判定ステップと、
を含む、建材のカビ耐性判定方法。
【請求項2】
前記建材は複合材である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記所定値はpH9である、請求項1又は2に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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