説明

建物

【課題】簡易な副架構を組み合わせることにより、主架構の構成を大きくあるいは全く変更することなく、様々な傾斜角度の斜線制限に対応できる建物を提供する。
【解決手段】柱2と隣り合う2本の柱2間に架け渡された床梁3とからなる主架構4と、主架構4の外側に設けられた副架構5とを有し、副架構5が、最上階床梁3aと等しい高さとなるように、2本の外通り柱2から持ち出された同一長さを有する一対の下部片持ち梁6と、屋上階床梁3bより低い高さとなるように、2本の外通り柱2から持ち出された下部片持ち梁6と同一長さを有する一対の上部片持ち梁7と、一対の下部片持ち梁6の先端に架け渡された下部鼻先梁8と、一対の上部片持ち梁7の先端に架け渡された上部鼻先梁9と、隣り合う2本の外通り柱2間に架け渡された屋上階床梁3bと、上部鼻先梁9との間に架け渡された複数の垂木部材10と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主架構に組み合わされた副架構を有する建物に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、定められた斜線制限を満たすために、建物の屋根の一部を斜線の傾斜角度に合わせて斜めに設計することがあった。その場合、架構として「ヘ」の字に屈曲した梁や柱を用いるのが一般的であった。しかし、このような架構では部材の構成が複雑になり高コストになるという問題があった。
また、建物の建設地毎に角度の異なる斜線制限に対応させるためには、その傾斜角度に応じて異なる部材を用意しなくてはならず、特に工業化住宅においては複雑なシステムを構成しなければならなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開平04−10602号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は上記のような事情に鑑みてなされたものであり、簡易な副架構を組み合わせることにより、主架構の構成を大きくあるいは全く変更することなく、様々な傾斜角度の斜線制限に対応できる建物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る建物は、柱と隣り合う2本の柱間に架け渡された床梁とからなる主架構と、該主架構の外側に設けられた副架構と、を有し、前記副架構が、最上階床梁と等しい高さとなるように、隣り合う2本の外通り柱から持ち出された、同一長さを有する一対の下部片持ち梁と、前記一対の下部片持ち梁と同一方向に、かつ屋上階床梁より低い高さとなるように、前記2本の外通り柱から持ち出された前記下部片持ち梁と同一長さを有する一対の上部片持ち梁と、前記一対の下部片持ち梁の先端に架け渡された下部鼻先梁と、前記一対の上部片持ち梁の先端に架け渡された上部鼻先梁と、前記隣り合う2本の外通り柱間に架け渡された屋上階床梁と、前記上部鼻先梁との間に架け渡された複数の垂木部材と、を有することを特徴とする。
【0006】
ここで、「屋上階」とは、建物の最上部の平坦な屋根部に限定されるものではなく、例えば、3階建て部分と2階建て部分とが混在する建物においては、2階建て部分の平坦な屋根部も含まれるものである。また、「最上階床梁」とは、屋上階床梁より1層下のレベルの床梁を意味するものであり、例えば、総3階建ての建物であれば、最上階である3階の床を支持する床梁が最上階床梁であり、3階を覆う屋根を支持する床梁が屋上階床梁である。また、「外通り柱」とは、主架構を構成する複数の柱のうち外周部に位置する柱を意味する。
【0007】
上記構成からなる建物では、主架構の構成を大きく変更することなく、副架構を主架構に付加することにより様々な傾斜角度の斜線制限に対応できる。そのため、部材構成が単純化され、コストを抑制することができる。
【0008】
本発明の一態様によれば、上記の建物は、前記上部片持ち梁の高さを多段階に設定しうるように前記外通り柱の側面に設けられた上部片持ち梁接合用のボルト孔群の中から選択されたボルト孔を介して、前記上部片持ち梁が接合されたことを特徴とする。
【0009】
上記構成によれば、主架構を構成する柱の側面に上部片持ち梁接合用のボルト孔群を新たに設けるだけで、副架構を付加することができる。
【0010】
本発明の他の態様によれば、上記の建物は、前記外通り柱に接合された上部片持ち梁取付部材をさらに有し、該上部片持ち梁取付部材の上端部は前記外通り柱の側面に設けられた屋上階床梁接合用のボルト孔のうちで接合に用いられていないボルト孔を用いて前記外通り柱に接合され、かつ該上部片持ち梁取付部材の下端部は前記下部片持ち梁に接合され、前記上部片持ち梁が、該上部片持ち梁取付部材に設けられた上部片持ち梁接合用のボルト孔を用いて該上部片持ち梁取付部材に接合されたことを特徴とする。
【0011】
上記構成によれば、上部片持ち梁取付部材を用いることで、主架構の構成部材を全く改変することなく副架構を付加することができる。
【0012】
本発明の他の態様によれば、上記の建物は、前記柱及び梁が鋼材からなり、前記垂木部材が木質系材料からなることを特徴とする。
【0013】
上記構成によれば、垂木部材が木質系材料からなるので、上部鼻先梁の高さに応じて垂木を現場加工して取付ることが容易にできる。従って、規格化された多品種の垂木部材を制定する必要がなく、部材構成を簡略化することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば簡易な副架構を組み合わせることにより、主架構の構成を変更することなく、様々な傾斜角度の斜線制限に対応できるため、部材構成が単純化されコストを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施形態に係る建物の主架構及び副架構の概略斜視図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る建物の垂直方向の断面図である。
【図3】本発明の他の実施形態に係る建物の垂直方向の断面図である。
【図4】本発明の他の実施形態に係る建物の水平方向の断面図である。
【符号の説明】
【0016】
1 建物
2 柱(外通り柱)
3 床梁
3a 最上階床梁
3b 屋上階床梁
4 主架構
5 副架構
6 下部片持ち梁
7 上部片持ち梁
8 下部鼻先梁
9 上部鼻先梁
10 垂木部材
11 ボルト
12 エンドプレート
13 取付金物
14 支柱
15 外壁パネル
16 断熱材
17 内壁
18 床パネル
19 床材
20 上部片持ち梁取付部材
21 上部金具
22 下部金具
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本発明に係る建物の実施形態を図1ないし図4に基づいて説明する。これらの実施形態は本発明の理解を助けるために記載するものであって、本発明を記載された実施形態に限定するものではない。
【0018】
本実施形態においては、鉄骨造の工業化住宅を例に挙げて説明を行う。鉄骨造の工業化住宅とは、すなわち、材質、断面寸法(柱であれば外形寸法、梁であれば背、幅、ウェブ厚等他の部材との接合に影響する寸法)、接合部形状、の基本構成が規格化され、予め工場等で製造成型された鉄骨部材の組み合わせによって架構が構成される住宅である。工業化住宅は、所定の平面モジュールを有する。
【0019】
図1は、本実施形態に係る建物1の主架構及び副架構の概略斜視図である。建物1は、総3階建てで、通し柱形式のラーメン構造の建物であり、図1に示すように、柱2と、隣り合う2本の柱2間に架け渡された床梁3(3a、3b)とからなる主架構4(2階床梁は図示せず)と、該主架構4の外側に設けられる副架構5とを有している。なお、図1における2本の柱2は外通り柱である。
【0020】
副架構5は、最上階床梁3aと等しい高さとなるように、隣り合う2本の外通り柱2から持ち出された同一長さを有する一対の下部片持ち梁6と、一対の下部片持ち梁6と同一方向に、かつ屋上階床梁3bより低い高さとなるように、2本の外通り柱2から持ち出された、下部片持ち梁6と同一長さを有する一対の上部片持ち梁7と、一対の下部片持ち梁6の先端に架け渡された下部鼻先梁8と、一対の上部片持ち梁7の先端に架け渡された上部鼻先梁9と、隣り合う2本の外通り柱2間に架け渡された屋上階床梁3bと、上部鼻先梁9との間に架け渡された複数の垂木部材10と、を有している。
【0021】
[主架構の構成]
本実施形態に係る主架構4は、平面モジュールの整数倍の間隔で設定された仮想の基準線(通り)の交点上に立設された複数の柱2と、各通り上で、隣接する柱2間に架け渡された複数の床梁3とにより構成され、柱2と床梁3とが剛接合されたラーメン構造の構造形式を有する。
【0022】
柱2は角形鋼管からなり、柱2の4つの側面には各階床梁3が接合される梁接合部を備え、夫々の接合部には床梁3をボルト接合するためのボルト孔が穿設されている。柱2の柱脚部にはベースプレートが溶接され、露出型固定柱脚工法にて基礎に接合されている。各階の階高は所定の値に固定されている。
【0023】
更に、柱2の外側の側面には、屋上階床梁3bの接合用のボルト孔よりも低い位置に、上部片持ち梁7の接合用のボルト孔(図示せず)が上下方向に複数穿設されている。
【0024】
各階の床梁3はH形鋼からなり、その両端部には柱2との接合用のボルト孔が穿設されたエンドプレートが溶接されている。該エンドプレートが柱2の側面の梁接合部に当接されて高力ボルト接合される。
床梁3は呼び長さ(床梁を架け渡す2本の通し柱間の芯−芯寸法)の異なる床梁群の中から選択されたものであり、床梁3の梁成、幅、ウェブ厚は、設置階や呼び長さにかかわらず全て共通である。また、主架構4の内部には、床梁3以外にも、床パネルを支持するために適宜小梁が架け渡される。
【0025】
次に、副架構5の構成について説明する。図2は、本実施形態に係る主架構4と副架構5とを含む建物1の垂直方向の断面図である。
【0026】
[副架構の構成]
本実施形態に係る副架構5においては、図2に示すように、上部片持ち梁7が、柱2の最上階(3階)の梁接合部にエンドプレート12を介して剛接合されている。下部片持ち梁6は建物の外側(室内空間ではない側)持ち出され、下部片持ち梁6の先端には下部鼻先梁8が架け渡されている。
【0027】
下部片持ち梁6及び下部鼻先梁8は主架構4の最上階床梁3aと同一断面を有するH型鋼からなり、その上端面(上フランジ)が最上階床梁3aの上端面と同一レベルとなるように設定されている。
【0028】
下部片持ち梁6と平面的に同じ位置、且つ屋上階床梁3bよりも低い位置には、上部片持ち梁7が配置され、柱2に剛接合されている。上部片持ち梁7の柱2との接合部の納まりは床梁3の納まりに準ずるものである。
【0029】
上部片持ち梁7の先端には上部鼻先梁9が架け渡されている。下部鼻先梁8と上部鼻先梁9は、夫々平面的に同一位置にある。また、上部片持ち梁7と上部鼻先梁9の上端面は同一レベルにあり、上部片持ち梁7及び上部鼻先梁9の断面形状は、屋上階床梁3bと同一である。
【0030】
上部片持ち梁7は、柱2の側面に上下方向に穿設された上部片持ち梁7の接合用のボルト孔群の中から選択されたボルト孔を用いてボルト接合されている。
【0031】
屋上階床梁3bと上部鼻先梁9との間には、複数の垂木部材10が所定の間隔及び所定の傾斜角度で架け渡されている。垂木部材10は木質系部材からなり、副架構5の出寸法や上部鼻先梁9の高さに応じた取付金物13を介して、あるいは主架構4の最上階床梁3aと副架構5の上部鼻先梁9とに架け渡されている。
【0032】
また、副架構における出隅部には、断面L字状の出隅部専用の外壁パネル取り付け用の支柱14が設けられている。主架構4及び副架構5の周囲にはALC(軽量気泡コンクリート)からなる外壁パネル15が設けられ、断熱材16や内壁17等が設置される。また、各梁にALCからなる床パネル18が架け渡され、床材19によって仕上げがなされる。
【0033】
上記構成からなる建物1では、主架構4の構成を大きく変更することなく、柱2の側面に上部片持ち梁接合用のボルト孔群を新たに設けるだけで、副架構5を主架構4に付加することができ、様々な傾斜角度の斜線制限に対応できる。そのため、部材構成が単純化され、コストを抑制することができる。
【0034】
また、副架構5を構成する上部片持ち梁11の接合は、柱2の側面に設けられた複数のボルト孔群の中から選択したボルト孔を用いてボルト接合すればよいため、副架構5を主架構4に対して容易に接合させることができる。
【0035】
また、垂木部材10を上部鼻先梁9の設置高さに応じて規格化された部材として制定することなく上部鼻先梁9の設置高さに応じて垂木を建築現場にて加工し取り付けることができ、特に、工業化住宅において部材の制定や管理の手間を削減することができる。
【0036】
次に、本発明の他の実施形態について図3、4を用いて説明する。この実施形態においては、柱2及び上部片持ち梁取付部材23以外の構成は上記実施形態と同様であるため、記載を省略する。
【0037】
この実施形態では、柱2の側面には上部片持ち梁7の接合用のボルト孔群は穿設されておらず、副架構5と絡まない部位の柱と同一のものが用いられているが、主架構4に副架構5を付加するために、柱2に沿って立設された上部片持ち梁取付部材23を有している。
【0038】
上部片持ち梁取付部材20の上端部及び下端部には、夫々アングル状の上部金具21及び下部金具22が取り付けられている。上部片持ち梁取付部材20の上端部は、上部金具21を介し、前記柱2の側面に設けられた梁接合用のボルト孔のうちで実際に床梁の接合に用いられていないボルト孔(図示せず)を用いて、柱2にボルト接合されている。一方、上部片持ち梁取付部材20の下端部は、下部金具22を介して下部片持ち梁6の上端部(上フランジ)にボルト接合されている。
【0039】
上部片持ち梁7は、上部片持ち梁取付部材20に設けられた上部片持ち梁7接合用のボルト孔を用いて、上部片持ち梁取付部材20に剛接合されている。
【0040】
上部片持ち梁取付部材20には、上部片持ち梁7接合用のボルト孔群が穿設されており、上部片持ち梁7は、このボルト群の中から選択されたボルト孔を用いて、所定の高さに接合される。
【0041】
上記構成によれば、上部片持ち梁取付部材20を介して副架構5の構成部材を接合するようにしたので、主架構4の構成部材を全く変更することなく、副架構5を主架構4に付加することができる。
【0042】
以上説明したように、本発明に係る建物においては、簡易な副架構を組み合わせることにより、主架構の構成を大きくあるいは全く変更することなく、様々な傾斜角度の斜線制限に対応させることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
柱と隣り合う2本の柱間に架け渡された床梁とからなる主架構と、該主架構の外側に設けられた副架構と、を有する建物であって、
前記副架構が、
最上階床梁と等しい高さとなるように、隣り合う2本の外通り柱から持ち出された同一長さを有する一対の下部片持ち梁と、
前記一対の下部片持ち梁と同一方向に、かつ屋上階床梁より低い高さとなるように、前記2本の外通り柱から持ち出された、前記下部片持ち梁と同一長さを有する一対の上部片持ち梁と、
前記一対の下部片持ち梁の先端に架け渡された下部鼻先梁と、
前記一対の上部片持ち梁の先端に架け渡された上部鼻先梁と、
前記隣り合う2本の外通り柱間に架け渡された屋上階床梁と、前記上部鼻先梁との間に架け渡された複数の垂木部材と、を有することを特徴とする建物。
【請求項2】
前記上部片持ち梁の高さを多段階に設定しうるように前記外通り柱の側面に設けられた上部片持ち梁接合用のボルト孔群の中から選択されたボルト孔を用いて、前記上部片持ち梁が接合されたことを特徴とする請求項1に記載の建物。
【請求項3】
前記外通り柱に接合された上部片持ち梁取付部材をさらに有し、
該上部片持ち梁取付部材の上端部が、前記外通り柱の側面に設けられた屋上階床梁接合用のボルト孔のうちで接合に用いられないボルト孔を用いて前記外通り柱に接合され、
該上部片持ち梁取付部材の下端部が、前記下部片持ち梁に接合され、
前記上部片持ち梁が、該上部片持ち梁取付部材に設けられた上部片持ち梁接合用のボルト孔を用いて該上部片持ち梁取付部材に接合されたことを特徴とする請求項1に記載の建物。
【請求項4】
前記柱及び梁が鋼材からなり、前記垂木部材が木質系材料からなることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の建物。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2013−91975(P2013−91975A)
【公開日】平成25年5月16日(2013.5.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−234640(P2011−234640)
【出願日】平成23年10月26日(2011.10.26)
【出願人】(303046244)旭化成ホームズ株式会社 (703)