説明

建造物雷電位上昇抑制装置

【課題】少数の部品からなる簡単な構成により雷サージ電流を減少させて建造物の対地電位を抑制し、また、接地電極の損傷を防止することができる低コストの建造物雷電位上昇抑制装置を提供する。
【解決手段】避雷針301が引き下げ導線302を介して接地極303に接続されてなる建造物201において、避雷針301と引き下げ導線302との間に配置された放電ギャップ305と、この放電ギャップ305から引き下げ導線302を介して接地極303に至る雷サージ電流の経路に配置された電流抑制用のコイル306と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建造物への落雷により当該建造物及び隣接建造物の対地電位が上昇するのを抑制する建造物雷電位上昇抑制装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
建造物への直撃雷や誘導雷、逆流雷に起因する過電流、過電圧により、各種の電気・電子機器、通信機器、医療機器等の損傷や誤作動を招くことが知られている。
特に、建造物の避雷針に落雷した場合には、当該建造物だけでなく、隣接する建造物の対地電位(接地電位)も上昇し、これによって各種機器に悪影響を及ぼすことが問題となっている。
【0003】
ここで、図6は、建造物への落雷時における対地電位上昇原理を説明するための図である。
図6において、100は大地、101は大地100の無限遠点に相当する仮想接地抵抗零点、201,202,203はビル等の建造物、301は建造物201の屋上に設置された避雷針、302は避雷針301に接続された引き下げ導線、303は引き下げ導線302に接続された接地極、304は接地極303から仮想接地抵抗零点101に至る仮想電流路である。また、TCは雷雲を示す。
【0004】
上記構成において、建造物201の避雷針301に落雷すると、雷サージ電流は引き下げ導線302を介して接地極303に流れ、更に、仮想電流路304を介して仮想接地抵抗零点101に流れる。いま、建造物201,202,203が仮想電流路304に沿って配置されているとすると、これらの建造物の対地電位は、仮想電流路304を流れる雷サージ電流と各建造物の接地抵抗との積に相当する電圧降下分だけ、大地100の零電位(仮想接地抵抗零点101の電位)に対して上昇した値となる。
すなわち、各建造物201,202,203の対地電位を模式的に示すと、図6に示すごとくV01>V02>V03となり、落雷した建造物201だけでなく、この建造物201に近い建造物ほど対地電位が上昇するため、建造物内での電磁誘導等によって各種の電気・電子機器、通信機器等に悪影響を与える。
【0005】
このため、落雷時における建造物の対地電位上昇を抑制するための技術が、従来から種々提供されている。
例えば、特許文献1には、建造物の直下に布設されたメッシュ状の接地網に複数の接地棒を接続し、これらの接地棒を地中に鉛直に埋設して雷サージ電流を三次元的に拡散させることが記載されている。
【0006】
また、特許文献2には、雷サージ電流を大地に流す接地電極を、鋼管と、その中心軸上に配置された導体と、これらの鋼管と導体との間に充填された導電性の充填材とによって構成することが記載されている。そして、雷サージ電流の低周波成分を前記導体に流すことにより、エネルギーの一部を主に抵抗損失として消費させ、また、高周波成分を前記鋼管及び充填材に流すことによって残りのエネルギーを抵抗損失、誘導損失等により消費させることが記載されており、上記作用により接地抵抗を低下させて対地電位の上昇を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−66205号公報「建物の接地方法」(段落[0013]〜[0016]、図1等)
【特許文献2】特開2008−166104号公報「接地電極、接地電極群及び雷サージ電圧の低減方法」(段落[0026]〜[0038]、図1〜図5等)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載された従来技術では、接地網に複数の接地棒を接続する必要があり、施工に多くの手間がかかると共に、多数の部材を必要としてコスト高になるという問題があった。
また、特許文献2に記載された従来技術では、雷サージ電流のエネルギーの多くを抵抗損失として消費させており、接地電極が損傷する等のおそれもあった。
【0009】
そこで、本発明の解決課題は、少数の部品からなる簡単な構成により雷サージ電流を減少させて建造物の対地電位を抑制し、また、接地電極の損傷を防止することができる低コストの建造物雷電位上昇抑制装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、請求項1に係る建造物雷電位上昇抑制装置は、避雷針が引き下げ導線を介して接地極に接続されてなる建造物において、
前記避雷針と前記引き下げ導線との間に配置された放電ギャップと、
前記放電ギャップから前記引き下げ導線を介して前記接地極に至る雷サージ電流の経路に配置された電流抑制用のコイルと、
を備えたものである。
【0011】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載した建造物雷電位上昇抑制装置において、前記コイルに並列に、アークホーンを接続したものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、少数の部品からなる簡単な構成により雷サージ電流を減少させて建造物の対地電位を抑制することができる。また、接地電極に流入する雷サージ電流を大幅に抑制できるため、接地電極が損傷するおそれもなく、全体として低コストかつ施工が容易な建造物雷電位上昇抑制装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態を示す構成図であり、図1(a)は第1実施形態、図1(b)は第2実施形態である。
【図2】本発明の第1実施形態の作用を説明する図である。
【図3】本発明の第2実施形態において、落雷時の建造物の対地電位を説明するための図である。
【図4】本発明の効果を確認するための試験装置の構成図である。
【図5】本発明の効果を確認するための雷サージ電流の波形図であり、図5(a)は本発明を模擬した図4の試験装置を用いた場合、図5(b)は本発明を用いない場合である。
【図6】建造物への落雷時における対地電位上昇原理を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図に沿って本発明の実施形態を説明する。
図1は、本発明の実施形態を示す構成図であり、図6と同一の構成要素には同一の参照符号を付してある。ここで、図1(a)は第1実施形態、図1(b)は第2実施形態を示している。
【0015】
まず、図1(a)の第1実施形態において、305は避雷針301と引き下げ導線302との間に配置された放電ギャップである。また、引き下げ導線302と接地極303との間には、電流抑制用のコイル(リアクトル)306が接続されている。なお、コイル306は放電ギャップ305と引き下げ導線302との間に配置しても良い。
【0016】
この実施形態の作用を、図2に基づいて説明する。
図2に示すように、雷雲TCと避雷針301の先端との間の空間は一種のコンデンサCを(その静電容量値もCとする。)を構成しており、放電ギャップ305も一種のコンデンサC(同じく静電容量値をCとする。)を構成している。すなわち、雷雲TCと引き下げ導線302との間にはコンデンサC,Cの直列回路が構成されており、コンデンサCの両端電圧Vは、雷雲TCとコンデンサCの一端(引き下げ導線302)との間の電圧Vに対して、数式1のような関係にある。
[数式1]
=C・V/(C+C
【0017】
つまり、放電ギャップ305は電圧Vを静電分圧しており、雷雲TCが避雷針301に接近するほど静電容量値Cは大きくなってコンデンサCの両端電圧Vは電圧Vに近付いていく。
そして、電圧Vが放電ギャップ305の動作電圧を超えると放電が開始され、放電ギャップ305の周囲に熱電子等が放出されて雷雲TCと避雷針301との間の放電が一層助長されて電路が形成されるので、雷サージ電流は、避雷針301→放電ギャップ305→引き下げ導線302→コイル306→接地極303の経路で流れる。
【0018】
このとき、コイル306には、周知のように数式2で示すエネルギーUが蓄積される。なお、数式2において、Lはコイル306のインダクタンス、Iは雷サージ電流を示す。
[数式2]
=(L・I)/2
【0019】
従って、雷サージ電流Iが持つエネルギーをコイル306によって吸収することが可能であり、結果的に、接地極303から大地100の仮想接地抵抗零点101(図6参照)に流れる雷サージ電流を減少させることができる。
【0020】
なお、落雷時には雷サージ電流Iのエネルギーによってコイル306が焼損するおそれがあるので、図1(b)の第2実施形態に示すように、コイル306に並列にアークホーン307を接続し、コイル306の両端に過大な電圧が印加されたときにアークホーン301を動作させてコイル306を保護することが望ましい。
【0021】
図3は、本発明の第2実施形態において、落雷時の建造物の対地電位を説明するための図であり、前述した従来技術の図6に対応している。
本発明によれば、雷サージ電流のエネルギーをコイル306が吸収することにより、接地極303から仮想電流路304を介して仮想接地抵抗零点101に流れる電流が減少するため、建造物201,202,303の対地電位V01,V02,V03を図6の従来技術よりも大幅に低減することができる。
これにより、建造物201,202,203内に設置された各種の電気・電子機器、通信機器等に対し、電磁誘導等による悪影響を防止することができる。
【0022】
なお、図1(a),(b)及び図3では、建造物雷電位上昇抑制装置を構成するコイル306及びアークホーン307を接地極303の近傍に配置してあるが、前述したようにこれらを放電ギャップ305と引き下げ導線302との間に配置することにより、落雷時における引き下げ導線302の電位を低下させることができ、引き下げ導線302から建造物に電磁誘導が及ぶのを防止することができる。
【0023】
次に、図4は、本発明の効果を確認するための試験装置の構成図であり、401は雷雲TCを模擬した高電圧直流電源、402は雷雲TCと避雷針301との間の前記コンデンサCに相当する放電ギャップ、403はディジタルオシロスコープ、404は放電ギャップ305とコイル306との直列回路に直列接続された金属皮膜抵抗、405は金属皮膜抵抗404の両端に接続された高圧プローブである。
ここで、放電ギャップ402の長さを5[mm]、放電ギャップ305の長さを0.5[mm]、金属皮膜抵抗404の抵抗値を1[Ω]とし、高電圧直流電源401から所定の大きさの直流高電圧を印加したときに金属皮膜抵抗404を流れる電流を雷サージ電流と見なして高圧プローブ405により電流−電圧変換し、数式3により雷サージ電流を求めた。
[数式3]
雷サージ電流=(高圧プローブ405による測定電圧)/1[Ω])×1000
【0024】
図5は、雷サージ電流の波形図であり、図5(a)は上述した図4の試験装置を用いた場合、図5(b)は本発明を用いない場合を示している。
図5(a)では、雷サージ電流のp−p値が約400[A]であるのに対し、図5(b)では雷サージ電流のp−p値が約6000[A]であり、本発明によって雷サージ電流を約93.3[%]抑制できることが明らかになった。
すなわち、本発明によれば、落雷した建造物及びその隣接建造物における対地電位の上昇を効果的に抑制することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0025】
本発明は、ビルディング、マンション等の建造物を始めとして、いわゆるメガソーラー発電設備や風力発電設備、送電鉄塔、通信鉄塔(これらも一種の建造物である)などにおいて、落雷時の当該設備及びその隣接設備の対地電位上昇を抑制する場合にも適用可能である。
【符号の説明】
【0026】
100:大地
101:仮想接地抵抗零点
201,202,203:建造物
301:避雷針
302:引き下げ導線
303:接地極
304:仮想電流路
305:放電ギャップ
306:コイル(リアクトル)
307:アークホーン
401:高電圧直流電源
402:放電ギャップ
403:ディジタルオシロスコープ
404:金属皮膜抵抗
405:高圧プローブ
TC:雷雲

【特許請求の範囲】
【請求項1】
避雷針が引き下げ導線を介して接地極に接続されてなる建造物において、
前記避雷針と前記引き下げ導線との間に配置された放電ギャップと、
前記放電ギャップから前記引き下げ導線を介して前記接地極に至る雷サージ電流の経路に配置された電流抑制用のコイルと、
を備えたことを特徴とする建造物雷電位上昇抑制装置。
【請求項2】
請求項1に記載した建造物雷電位上昇抑制装置において、
前記コイルに並列に、アークホーンを接続したことを特徴とする建造物雷電位上昇抑制装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−54841(P2013−54841A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−190553(P2011−190553)
【出願日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り (1)刊行物名:平成23年電気学会全国大会講演論文集[6]電力システム (2)発行者名:社団法人電気学会 (3)発行年月日:平成23年3月5日
【出願人】(000125369)学校法人東海大学 (352)
【出願人】(000145954)株式会社昭電 (22)
【Fターム(参考)】